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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C04B
管理番号 1196001
審判番号 不服2006-9821  
総通号数 114 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-06-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-05-15 
確定日 2009-04-09 
事件の表示 平成 8年特許願第232599号「気泡モルタル」拒絶査定不服審判事件〔平成10年 3月 3日出願公開、特開平10- 59786〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯・本願発明

本願は、平成8年8月14日の出願であって、平成18年1月10日に拒絶理由が発送され、それに対して、平成18年2月21日に意見書が提出され、平成18年4月18日に拒絶査定がされ、その後平成18年5月15日に拒絶査定不服審判請求がされ、平成18年6月9日に手続補正書が提出され、平成18年9月11日に前置報告がされ、平成20年10月21日に特許法第164条第3項の報告書を引用した審尋が発送され、平成20年12月18日に回答書が提出されたものである。
そして、上記平成18年6月9日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1は、特許請求の範囲について、請求項1、2を削除し、それに伴い、請求項3を請求項1に繰り上げるものであるから、特許法第17条の2第4項第1号に規定する請求項の削除に該当し、適法なものである。
したがって、本願発明は平成18年6月9日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】セメント及びフライアッシュを硬化材として、この硬化材100重量部を水40?100重量部に混合するとともに、硬化材100重量部に対して消泡防止剤0.5?5重量部を添加したスラリーと、
濃度0.5重量%以上の気泡剤の水溶液に微細な空気を入れた比重0.03以上の泡とを、体積比でスラリー/泡=80/20?30/70の範囲で混合してなることを特徴とする気泡モルタル。」(以下「本願発明」という。)

II.刊行物及びその記載事項
(1).原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開平8-169779号公報(以下、「刊行物1」という。)には、次の事項が記載されている。
(1-a)「フライアッシュとセメントとを、重量混合比で4:6?2:8の割合で混合した混合硬化材に水を添加して50重量%?70重量%の範囲内の水を含むスラリーとし、前記スラリーに所定量の発泡剤を混合・配合してなることを特徴とする気泡モルタル空洞充填材料。」(特許請求の範囲請求項1)

(1-b)「このフライアッシュは、気泡モルタルとして混合して使用するには特殊な気泡剤を使用しない限り、気泡剤の発泡性が低下してモルタル配合材料間に材料分離が起こるため、良好な裏込め・埋め戻し材料とならない場合が多かった。」(【0004】)

(1-c)「一方、本発明に係る気泡モルタル空洞充填材料として混合される水の量は、前記混合硬化材の種類に関わらず共通であり、即ち、混合硬化材に水を添加してスラリーとした時、このスラリー中の水の割合が50重量%?70重量%の範囲内であるように混合される。これは、水分量が50重量%より低い場合には、流動性が著しく悪化して均一な充填がされ難いためである。また、水分量が70重量%より多い場合には、硬化時に気泡モルタルと水との2層に分離するため、それぞれ好ましくないからである。
本発明に使用される発泡剤は特に限定されず、界面活性剤系やタンパク質系等の各種発泡剤が使用できる。また、発泡剤の使用量も、各発泡剤の種類によって発泡挙動が大きく異なるために特に限定されない。従って、発泡剤は各発泡剤の発泡挙動を把握したうえで要求空気量に応じて使用量を決定する事が望ましい。尚、発泡剤を水溶液として添加した場合、気泡モルタル空洞充填材料における水の混合割合を前記の値よりも多くすることになるが、発泡剤の使用量は僅かであり、気泡モルタルの安定性に及ぼす影響は少ない。また、発泡剤または発泡剤液は、適用に際して前記混合硬化材を含むスラリーと混練する所謂事前発泡方式をもって使用される。」(【0014】-【0015】)

(1-d)「【実施例】以下の実施例に基づき、本発明をより明確にすることができる。但し、以下に示す実施例は本発明の構成や効果をより具体的に示すためのものであり、本発明を制限するものでないことはいうまでもない。本実験例で使用した材料の一覧表を第1表に、また各種使用材料の粒径としてレーザー回折式粒径測定値を第2表に示す。尚、原粉フライアッシュとして、JISフライアッシュを使用した。
実験に使用した気泡モルタル空洞充填材料は、前記各材料を第3表に示す割合で調整したスラリーと、水道水で50倍希釈した一般の発泡剤(界面活性剤系)である(株)小野田社製OFA-2(商品名)を発泡装置によって発泡させ、比重0.04の泡としたものとを、比重が0.8となるように配合し、10分間ミキサーで混練して作成したものである。」(【0017】-【0018】)

(1-e)「本発明の気泡モルタル空洞充填材料は、硬化材としてセメントにフライアッシュを混合して使用しているにも係わらず、発泡剤に特別のものを使用せず一般の発泡剤を用いて発泡させても発泡性は低下しない。また、増粘剤を使用しなくても、材料分離が起きず、良好な気泡モルタルが得られる。」(【0027】)

(1-f)「

」(【0022】)

(1-g)
「また、補助硬化材は、補助硬化材を用いて製造した気泡モルタル空洞充填材を硬化して得られた試験体の7日後の一軸圧縮強度が、3kgf/cm^(2) 以上の強度を有することが望ましく、この値を満足するようにセメントとの混合比を調整して使用される。」(【0013】)

(2)原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開昭57-129857号公報(以下、「刊行物2」という。)には、次の事項が記載されている。
(2-a)「水硬性セメント物質及び骨材とを混合して得られるセメントペースト又はセメントモルタルと、予め起泡剤を用いて発泡させた泡とを混合するプレフォーム法による軽量気泡コンクリートの製造法において、上記泡として泡粘度の高い泡を用い、上記セメントペースト又はセメントモルタルの水/水硬性セメント物質の比を0.6以下とし、これに、そのセメント粉体に対して0.001?2重量%のアニオン系界面活性剤を混合した後、上記泡を上記セメントペースト又はセメントモルタルに対して空気量として50?300容量%導入することを特徴とする軽量気泡コンクリートの製造法。」(特許請求の範囲第1項)

(2-b)「また、本発明で用いられる泡は、起泡剤、特にタンパク質分解物、合成高分子多価金属塩及び各種起泡剤と水溶性増粘剤の混合物を発泡させて、泡密度が約0.03?0.15g/cm^(3)、好ましくは約0.04?0.08g/cm^(3)、泡粘度30000cps以上に調製された泡が用いられる。・・・。
本発明においては、泡を上記の如く調製することにより、安定な泡が得られ、前記の如くアニオン系界面活性剤を添加して調製したセメントペースト又はセメントモルタルと混合して得られるスラリーの流動調整能を改善し、消泡又は脱泡し難いものにすることができる。」(第3頁左上欄第13行-第3頁右上欄第7行)

(2-c)「また、上記セメントペースト又はセメントモルタルの調製に際して、本発明では、そのセメント粉体に対して、ポリオキシエチレンアルキル硫酸塩、高級アルコール硫酸塩等のアニオン系界面活性剤を0.001?2重量%、好ましくは0.01?0.5%加える。この添加時期は、セメントペースト又はセメントモルタルを泡と混合する前であれば制限されない。」(第3頁左上欄第2-9行)

(2-d)「本発明の軽量気泡コンクリートによれば、叙述の如く、セメントペースト又はセメントモルタルに一定量のアニオン系界面活性剤を添加した後に泡と混合し、且つ高粘性の安定な泡を用いることにより、流動調製能に優れ、混合時に消泡又は脱泡し難い、目的とする空気含有率を有する気泡コンクリートスラリーを得ることができる」(第4頁左上欄第5-12行)

III.刊行物発明・対比
刊行物1には、記載事項(1-a)の「フライアッシュとセメントとを、重量混合比で4:6?2:8の割合で混合した混合硬化材に水を添加して50重量%?70重量%の範囲内の水を含むスラリーとし、前記スラリーに所定量の発泡剤を混合・配合してなることを特徴とする気泡モルタル空洞充填材料。」の記載より、「フライアッシュとセメントとを混合した硬化材に水を添加して水を含むスラリーとし、前記スラリーに所定量の発泡剤を混合・配合してなる気泡モルタル」が記載されているといえる。そして前記気泡モルタルの「スラリー」において、記載事項(1-c)の「混合硬化材に水を添加してスラリーとした時、このスラリー中の水の割合が50重量%?70重量%の範囲内であるように混合される。」の記載より、スラリー中の水の割合が50重量%?70重量%の範囲内といえる。そして前記気泡モルタルの「スラリーに所定量の発泡剤を混合・配合してなる」とは、記載事項(1-d)の「スラリーと、水道水で50倍希釈した一般の発泡剤(界面活性剤系)である(株)小野田社製OFA-2(商品名)を発泡装置によって発泡させ、比重0.04の泡としたものとを、比重が0.8となるように配合し、10分間ミキサーで混練」の記載及び記載事項(1-c)の「発泡剤は各発泡剤の発泡挙動を把握したうえで要求空気量に応じて使用量を決定する事が望ましい。」の記載より、スラリーに、発泡剤水溶液を空気により発泡装置で発泡させ、比重0.04とした泡を配合し、混合するといえる。
そうすると、これら記載を本願発明の記載ぶりに則して整理すると、刊行物1には、「フライアッシュとセメントとを混合した硬化材に水を添加して水の割合が50重量%?70重量%の範囲内のスラリーとし、前記スラリーに水道水で50倍に希釈した発泡剤水溶液を空気により発泡装置で発泡させ、比重0.04とした泡を配合し、混合する気泡モルタル」の発明(以下、「刊行物1発明」という)が記載されていると認める。

そこで刊行物1発明と本願発明とを対比すると、刊行物1発明の「硬化材」は「フライアッシュ」と「セメント」を含むものであり、本願発明の「硬化材」は「セメント」及び「フライアッシュ」を含むものであるから、刊行物1発明の「硬化材」は、本願発明の「硬化材」に相当するといえる。
そして刊行物1発明の「スラリー」は、「硬化材」と「水」とを含むものであり、本願発明の「スラリー」も「硬化材」と「水」とを含むものであるから刊行物1発明の「スラリー」は、本願発明の「スラリー」に相当する。
そして刊行物1発明の「スラリー」は「硬化材に水を添加して水の割合が50重量%?70重量%の範囲内のスラリー」とするものであるから、「硬化材」100重量部がスラリーに含有されているとすると、水重量/スラリー重量(硬化材(100重量部)+水重量)=0.5?0.7なので、刊行物1発明の「スラリー」は硬化材100重量部に対して100重量部?233重量部の水を含むスラリーといえる。一方本願発明の「スラリー」は「硬化材」「100重量部」に対して「水40?100重量部」含有させるものといえ、「硬化材」と「水」との割合に関し、刊行物1発明の「スラリー」と本願発明の「スラリー」とは硬化材100重量部に対して水100重量含有する点で重複するものである。
そして刊行物1発明の「発泡剤」は記載事項(1-d)の「水道水で50倍希釈した一般の発泡剤(界面活性剤系)である(株)小野田社製OFA-2(商品名)」の記載より、「(株)小野田社製OFA-2(商品名)」を含むものといえる。一方本願発明の「気泡剤」は本願明細書【0010】の「表1」に「気泡剤」として「特殊界面活性剤、OFA-2(秩父小野田社製)」と記載され、刊行物1発明の「発泡剤」と本願発明の「気泡剤」は同じ物質であるから、刊行物1発明の「発泡剤」は、本願発明の「気泡剤」に相当する。
そして刊行物1発明の「泡」は、空気により発泡されるものである。一方本願発明の「泡」は本願明細書【0012】に「泡は、気泡剤を水で薄めた溶液に、ミキサーを通じてエアーコンプレッサーで空気を導入して作成した」の記載から空気を用いるものであり、刊行物1発明の「泡」と本願発明の「泡」とは空気を用いて発泡させる点で共通する。
そうすると、本願発明と刊行物1発明とは、「セメント及びフライアッシュを硬化材として、この硬化材100重量部を水100重量部に混合したスラリーと、気泡剤の水溶液に空気を入れた泡とを混合してなる気泡モルタル」の点で一致し、以下(ア)-(エ)の点で相違する。

(ア)本願発明はスラリーに「消泡防止剤0.5?5重量部」添加するのに対し、刊行物1発明は、消泡剤の添加をしていない点
(イ)本願発明は「濃度0.5重量%以上の気泡剤の水溶液」であるのに対し、刊行物1発明は「水道水で50倍に希釈した発泡剤水溶液」である点
(ウ)本願発明は「微細な」空気を入れた比重0.03以上の泡であるのに対して、刊行物1発明は比重0.04とした泡である点。
(エ)本願発明はスラリーと泡とを「体積比でスラリー/泡=80/20?30/70の範囲で混合」するのに対し、刊行物1発明ではかかる限定の明示のない点

4.当審の判断
(4-1)相違点(ア)について
先ず刊行物2の記載について検討すると、刊行物2には記載事項(2-a)の「水硬性セメント物質及び骨材とを混合して得られるセメントペースト又はセメントモルタルと、予め起泡剤を用いて発泡させた泡とを混合するプレフォーム法による軽量気泡コンクリートの製造法」の記載、及び記載事項(2-c)の「セメントペースト又はセメントモルタルの調製に際して、本発明では、そのセメント粉体に対して、ポリオキシエチレンアルキル硫酸塩、高級アルコール硫酸塩等のアニオン系界面活性剤を0.001?2重量%、好ましくは0.01?0.5%加える。この添加時期は、セメントペースト又はセメントモルタルを泡と混合する前であれば制限されない。」の記載から、刊行物2には「水硬性セメント物質及び骨材とを混合して得られるセメントペースト又はセメントモルタルと、予め起泡剤を用いて発泡させた泡とを混合するプレフォーム法による軽量気泡コンクリートの製造法として、セメントペースト又はセメントモルタルの調製に際して、セメント粉体に対して、ポリオキシエチレンアルキル硫酸塩、高級アルコール硫酸塩等のアニオン系界面活性剤を0.001?2重量%添加する方法」が記載されている。そして、刊行物2の記載事項(2-d)の「本発明の軽量気泡コンクリートによれば、叙述の如く、セメントペースト又はセメントモルタルに一定量のアニオン系界面活性剤を添加した後に泡と混合し、且つ高粘性の安定な泡を用いることにより、流動調製能に優れ、混合時に消泡又は脱泡し難い、目的とする空気含有率を有する気泡コンクリートスラリーをうることができる」の記載から刊行物2に記載された前記方法により、混合時の消泡、脱泡が起きにくいものとなるといえる。
次に、本願発明の「消泡防止剤」について検討すると、本願明細書【0008】の「消泡防止剤は、界面活性剤が効果があり、界面活性剤としては、たとえばコンクリート用のAE(空気連行)剤、AE減水剤、減水剤に使用されているリグニンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、オキシカルボン酸系を用いることができる」という記載から、本願発明の「消泡防止剤」は、界面活性剤であってコンクリート用AE剤として用いられるものを含むものと解される。一方、刊行物2発明のアニオン系界面活性剤として用いられるポリオキシエチレンアルキル硫酸塩は、AE剤として周知のものであることから(必要であれば特開平1-270548号公報第1頁右欄第5-11行。)、刊行物2で用いられるポリオキシエチレンアルキル硫酸塩は本願発明の「消泡防止剤」に含まれるものといえる。
そして、刊行物1発明においては、刊行物1の記載事項(1-b)の「このフライアッシュは、気泡モルタルとして混合して使用するには特殊な気泡剤を使用しない限り、気泡剤の発泡性が低下してモルタル配合材料間に材料分離が起こるため、良好な裏込め・埋め戻し材料とならない場合が多かった。」の記載から、フライアッシュを含有する気泡モルタルは気泡剤の発泡性が低下するという課題を有するものといえる。
してみれば、刊行物1発明において、発泡性を保つべく、すなわち消泡、脱泡といった課題を克服すべく、刊行物2に記載の「ポリオキシエチレンアルキル硫酸塩」等のアニオン界面活性剤をセメント粉末に対して0.001?2重量%添加する構成を採用し、セメントを含有する硬化材に、「ポリオキシエチレンアルキル硫酸塩」等のアニオン界面活性剤を消泡防止剤として添加することは当業者が容易に想到し得ることである。

(4-2)相違点(イ)について
刊行物2の記載事項(2-b)の「泡密度が約0.03?0.15g/cm^(3)、好ましくは0.04?0.08g/cm^(3)、泡粘度30000cps以上に調製された泡が用いられる。・・・。 本発明においては、泡を上記の如く調製することにより、安定な泡が得られ」の記載、及び記載事項(2-d)の「セメントペースト又はセメントモルタルに一定量のアニオン系界面活性剤を添加した後に泡と混合し、且つ高粘性の安定な泡を用いることにより、流動調製能に優れ、混合時に消泡又は脱泡し難い、目的とする空気含有率を有する気泡コンクリートスラリーを得ることができる」の記載より、前述の「(4-1)相違点(ア)」で述べたように刊行物2の方法は、泡密度約0.03?0.15g/cm^(3)、高粘性の安定な泡を用いることより消泡、脱泡し難い気泡コンクリートスラリーを得ることができるものといえる。
してみれば刊行物1発明において、高粘性の泡を得るべく発泡剤の濃度を調整することは当業者が適宜なし得る設計的事項である。

(4-3)相違点(ウ)について
本願発明において、「泡」は本願明細書【0012】の「泡は、気泡剤を水で薄めた溶液に、ミキサーを通じてエアーコンプレッサーで空気を導入して作成した」の記載より、溶液中に圧縮空気を導入して発泡させるものといえる。一方、記載事項(1-c)の「発泡剤は各発泡剤の発泡挙動を把握したうえで要求空気量に応じて使用量を決定する事が望ましい。」の記載より、刊行物1発明は周知の方法により空気を用いて発泡させるものといえる。
してみれば刊行物1発明と本願発明とは従来周知の方法を用いて発泡製造されるものといえるから、刊行物1発明の「泡」と本願発明の「泡」とが「微細な」の点で相違するものとはいえず、刊行物1発明の「比重0.04とした泡」は、本願発明の「微細な空気を入れた比重0.03以上の泡」に包含されるものである。

(4-4)相違点(エ)について
刊行物1の記載事項(1-d)の「実験に使用した気泡モルタル空洞充填材料は、前記各材料を第3表に示す割合で調整したスラリーと、・・・比重0.04の泡としたものとを、比重が0.8となるように配合」の記載より、気泡モルタル空洞充填剤量は泡とモルタルとを配合・混合し比重を調整するものであり、記載事項(1-g)の「気泡モルタル空洞充填材を硬化して得られた試験体の7日後の一軸圧縮強度が、3kgf/cm^(2) 以上の強度を有することが望ましく」の記載から、刊行物1発明は、強度が大きいことが好ましいといえる。そして、軽量気泡モルタルは、比重と強度は正比例関係にあるといえるから(要すれば特開平3-112876号公報第2頁左上欄第8-18行等参照)、刊行物1発明において、前記記載の強度を得るべく、比重を調整すること、すなわち泡と硬化材との割合を調整することは、当業者が適宜なし得る設計的事項である。

次に、本願発明の効果について検討する。
本願明細書【0004】の「気泡モルタル中にフライアッシュを混入しても、消泡することなく、所定の強度が得られるまで安定している気泡モルタルを提供することを目的とする。」の記載より、本願発明は安定した気泡モルタルを得ること、及び所定の強度を得ることを目的とするものと解される。一方、刊行物1発明においても記載事項(1-e)の「材料分離が起きず、良好な気泡モルタルが得られる。」の記載から安定した気泡モルタルが得られるものといえる。そして、記載事項(1-f)の「表3」の「実験No.」「6」は「7日材令後の一軸圧縮強度(kgf/cm^(2))」が「12.5」であり、0.12N/mm^(2)といえる。一方、本願発明の気泡モルタルは本願明細書「表3」の「No.」「10」は「一軸圧縮強度(N/mm^(2))」「0.10mm^(2)」であり同等の圧縮強度を有していることから強度の点でも格別なものとはいえない。
また、本願明細書【0019】には「【発明の効果】・・・気泡モルタルの材料として各種のフライアッシュを用いることができる。」と記載され、当該記載は審判請求書手続補正書第3頁下から14?16行の「粘度調製しない広範囲のフライアッシュを構成要素としながらも、前述の効果を奏することのできる気泡モルタルである」の記載から、前記「【発明の効果】」の記載は粒度調整のないフライアッシュを用い得るとの効果と解される。一方で本願発明はフライアッシュの粒度の発明特定事項もないことから、粒度調整したフライアッシュも含まれるものであるから、刊行物1発明に比して格別な効果を奏するものともいえない。

また、審判請求人は平成17年10月13日付け審判請求書補正書の第3頁下から第6行?第4頁第6行で以下の(a)、(b)の主張している。
(a)引用例3(「刊行物2」)ではフライアッシュを用いていないので、本願のフライアッシュを含むセメントでのフライアッシュによる消泡効果は解決課題としてあらわれず、引用例3(「刊行物2」)のアニオン系界面活性剤は、気泡の粘度を高めて、泡強度の高いスラリーとしたときの流動性調整剤として作用している。
(b)引用例2(「刊行物1」)には、軽量気泡コンクリートの製造においてセメントとフライアッシュを硬化剤として用いた場合には、フライアッシュの作用により消泡や脱泡が発生して安定な気泡が得られない解決課題が記載されているが、少なくとも、消泡防止剤によるフライアッシュ疎水性部分表面吸着によるマスキングの効果は、記載されていない。
そこで当該(a)(b)の主張について検討する。
(a)について
プレフォーム法によるの軽量気泡コンクリートの製造において、フライアッシュを用いることは周知の技術的事項であり(必要であれば特開平3-218988号公報実施例参照)、さらに刊行物2にはフライアッシュを用いることについて排除する記載もないので刊行物2はフライアッシュを含む気泡モルタルをも処理対象としうるといえる。
また、本願明細書【0008】の「消泡防止剤は、界面活性剤が効果があり、界面活性剤としては、たとえばコンクリート用のAE(空気連行)剤、AE減水剤、減水剤に使用されているリグニンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、オキシカルボン酸系を用いることができ」の記載から、本願発明の「消泡防止剤」は、成分として界面活性剤としてコンクリート用AE剤として用いられるものを含むものと解される。そして刊行物2発明のアニオン系界面活性剤として用いられるポリオキシエチレンアルキル硫酸塩は、AE剤として周知のものであることから(必要であれば特開平1-270548号公報第1頁右欄第5-11行)。刊行物2で用いられるポリオキシエチレンアルキル硫酸塩は本願発明の「消泡防止剤」に含まれるものといえる。してみれば成分として重複するものであり、本願発明の効果を奏するものといえるから、(a)の主張は採用できない。
(b)について
前記「(a)について」で述べたように、刊行物2発明のアニオン系界面活性剤は、成分として、本願発明の「消泡防止剤」に包含されるものであるから、刊行物1発明に刊行物2発明のアニオン系界面活性剤を用いる場合には請求人の主張する効果を奏するものと認められることから(b)の主張も採用できない。

5.むすび
したがって、本願発明は、刊行物1、2に記載された発明並びに周知慣用技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-02-04 
結審通知日 2009-02-10 
審決日 2009-02-23 
出願番号 特願平8-232599
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 真々田 忠博  
特許庁審判長 松本 貢
特許庁審判官 木村 孔一
大工原 大二
発明の名称 気泡モルタル  

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