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審決分類 審判 査定不服 発明同一 特許、登録しない。 A63F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A63F
管理番号 1196023
審判番号 不服2006-26283  
総通号数 114 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-06-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-11-22 
確定日 2009-04-09 
事件の表示 特願2001- 4636「遊技機」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 7月23日出願公開、特開2002-204854〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯・本願発明の認定
本願は平成13年1月12日の出願であって、平成18年10月25日付けで拒絶の査定がされたため、これを不服として同年11月22日付けで本件審判請求がされたものである。
本願の請求項2に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成18年7月24日付けで補正された明細書の特許請求の範囲【請求項2】に記載された事項によって特定される次のとおりのものと認める。
「複数の図柄列の可変表示および当該可変表示の停止を行い、当該可変表示を停止した際の前記図柄列の表示図柄に応じて一遊技の結果を決定するとともに、その決定結果として遊技者に有利な特別遊技と、再遊技と、はずれとのうちの少なくとも二つを含む遊技機において、
当選判定用乱数を発生する乱数発生器と、
前記乱数発生器から発生される前記当選判定用乱数の値及び当選役の数値範囲の対応関係が記述された複数の当選判定用テーブルと、
当選判定用乱数及び前記複数の当選判定用テーブルを用いて当選役を特定する内部抽選手段と
を有し、
前記当選判定用テーブルには、通常テーブル及びリプレーテーブルが含まれ、
前記内部抽選手段は、
通常遊技においては、前記通常テーブルを用いた抽選を行い、
特別遊技への開始後、当該特別遊技が終了すると、当該特別遊技に続けて行う所定回数の遊技について、前記リプレーテーブルを用いた抽選を行い、
前記通常テーブルは複数の当選役およびはずれについて数値範囲が規定され、前記リプレーテーブルは前記通常テーブルのはずれについての数値範囲の一部を再遊技についての数値範囲に置換して再遊技への当選確率を高くしたものである
ことを特徴とする遊技機。」

第2 当審の判断
1.引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された特開平9-164238号公報(以下「引用例」という。)には、以下のア?ケの記載が図示とともにある。
ア.「一般遊技の入賞確率を記憶した確率テーブルと、一般遊技によるゲーム結果により、遊技者に有利な特別遊技を行わせる特別遊技手段とを備えたスロットマシンにおいて、
前記確率テーブルは、低確率テーブルと、前記低確率テーブルより入賞確率が高い高確率テーブルとを備え、
特別遊技終了後、次回の一般遊技において使用する確率テーブルを抽選により決定する確率テーブル抽選手段を備えたことを特徴とするスロットマシン。」(【請求項1】)
イ.「高確率テーブル(62)は、例えばいわゆる小役の全部の入賞確率を高くしたものでも良いし、或いは小役の一部の入賞確率を高くしたものでも良い。」(段落【0008】)
ウ.「上記遊技制御手段10の入力側には、図示しないが、3個の回転ドラムの回転を開始させるスタートスイッチ20と、各回転ドラムを個別に停止可能な3個のストップスイッチ30?32が接続されている。」(段落【0016】)
エ.「遊技制御手段10は、図1に示すように、次の7個の構成を備えている。第1に、乱数抽選手段50は、スタートスイッチ20からのスタート信号に基づいて、乱数を抽選するものである。」(段落【0017】)
オ.「第2に、確率テーブル60であり、この確率テーブル60には、抽選された乱数の当たりの領域や、図柄の組み合わせ、払い出すメダル数等が記憶され、具体的にはROM中に記憶されている。なお、確率テーブル60には、抽選された乱数の当たりの領域が少なくとも記憶されていれば良く、図柄の組み合わせ、払い出すメダル数等は別のテーブルに記憶しておいても良い。」(段落【0018】)
カ.小役1は、図示しないが、3個のリールの有効ラインに、例えば「スター」の図柄が3個揃った場合」(段落【0020】)
キ.「高確率テーブル62では、図3に示すように、3つのいわゆる小役の入賞確率を10倍にし、いわゆる小役の入賞確率を高確率としている。」(段落【0021】)
ク.「いわゆるビックボーナスやリプレイの入賞確率は、変化がないが、ビックボーナスやリプレイの入賞確率も同時に変動させても良い。」(段落【0023】)
ケ.「本第2実施例の特徴は、図3に示した第1実施例のように、小役1?3の全ての入賞確率を10倍にアップすることなく、その一部、例えば小役1の入賞確率のみを10倍にアップした点である。」(段落【0032】)

2.引用例記載の発明の認定
引用例の記載キ,クによれば、「高確率テーブル」は「低確率テーブル」と比較して、小役及びリプレイの入賞確率を高確率としたものでもよい。
したがって、引用例には次のような発明が記載されていると認めることができる。
「3個の回転ドラムの回転を開始させるスタートスイッチと、スタートスイッチからのスタート信号に基づいて乱数を抽選する乱数抽選手段と、一般遊技の入賞確率を記憶した確率テーブルと、一般遊技によるゲーム結果により、遊技者に有利な特別遊技を行わせる特別遊技手段とを備えたスロットマシンにおいて、
前記確率テーブルは、低確率テーブルと、前記低確率テーブルより小役及びリプレイの入賞確率が高い高確率テーブルとを備え、
特別遊技終了後、次回の一般遊技において使用する確率テーブルを抽選により決定する確率テーブル抽選手段を備えたスロットマシン。」(以下「引用発明」という。)

3.本願発明と引用発明の一致点及び相違点の認定
引用発明の「3個の回転ドラム」に複数の図柄が描かれていることは記載カから明らかである。回転ドラムが回転することは本願発明の「可変表示」に相当し、記載カの「3個揃った」とは、回転ドラムが停止した際の状態であるから、「複数の図柄列の可変表示および当該可変表示の停止を行い、当該可変表示を停止した際の前記図柄列の表示図柄に応じて一遊技の結果を決定する」ことは本願発明と引用発明の一致点である。
本願発明と引用発明の「特別遊技」に相違はなく、引用発明の「リプレイ」は本願発明の「再遊技」に相当する(そのほか、引用発明でも「はずれ」に相当する「一遊技の結果」が存することは自明である。)から、「その決定結果として遊技者に有利な特別遊技と、再遊技と、はずれとのうちの少なくとも二つを含む遊技機」である(「スロットマシン」が「遊技機」であることはいうまでもない。)ことも、本願発明と引用発明の一致点である。
引用発明は「乱数抽選手段」を備えるから、その前提として本願発明の「乱数発生器」を備え、その乱数が「当選判定用乱数」であることは自明である。
引用発明の「確率テーブル」、「低確率テーブル」及び「高確率テーブル」は、本願発明の「当選判定用テーブル」、「通常テーブル」及び「リプレーテーブル」にそれぞれ相当し(「リプレーテーブル」が「通常テーブル」よりも「再遊技への当選確率を高くした」ことは一致点である。)、引用例に直接記載はないものの、「当選判定用テーブル」が「前記乱数発生器から発生される前記当選判定用乱数の値及び当選役の数値範囲の対応関係が記述された」テーブルであることは技術常識に属する(例えば、原査定の拒絶の理由に引用された特開平11-151345号公報に「乱数発生部15から取得した乱数値RNDが、通常ゲームの当選絵柄テーブルTBL_(ST)(図4参照)中の数値範囲(L_(iJ)?H_(iJ))と比較され、いずれかの数値範囲中に含まれる場合には、その絵柄についての当選であると決定される。」(段落【0010】)と記載されている。)。
引用発明が「当選判定用乱数及び前記複数の当選判定用テーブルを用いて当選役を特定する内部抽選手段」を有することも自明である。
したがって、本願発明と引用発明の一致点及び相違点は次のとおりである。
〈一致点〉
「複数の図柄列の可変表示および当該可変表示の停止を行い、当該可変表示を停止した際の前記図柄列の表示図柄に応じて一遊技の結果を決定するとともに、その決定結果として遊技者に有利な特別遊技と、再遊技と、はずれとのうちの少なくとも二つを含む遊技機において、
当選判定用乱数を発生する乱数発生器と、
前記乱数発生器から発生される前記当選判定用乱数の値及び当選役の数値範囲の対応関係が記述された複数の当選判定用テーブルと、
当選判定用乱数及び前記複数の当選判定用テーブルを用いて当選役を特定する内部抽選手段と
を有し、
前記当選判定用テーブルには、通常テーブル及びリプレーテーブルが含まれ、
前記通常テーブルは複数の当選役およびはずれについて数値範囲が規定され、前記リプレーテーブルは前記通常テーブルよりも再遊技への当選確率を高くしたものである遊技機。」
〈相違点1〉通常テーブルとリプレーテーブルの使い分けにつき、本願発明が「通常遊技においては、前記通常テーブルを用いた抽選を行い、特別遊技への開始後、当該特別遊技が終了すると、当該特別遊技に続けて行う所定回数の遊技について、前記リプレーテーブルを用いた抽選を行い、」としているのに対し、引用発明では、特別遊技終了後、次回の一般遊技において使用する確率テーブルを抽選により決定する点。
〈相違点2〉リプレーテーブルにつき、本願発明が「前記通常テーブルのはずれについての数値範囲の一部を再遊技についての数値範囲に置換」したものと限定しているのに対し、引用発明が同構成なのかどうか不明な点。

4.相違点の判断及び本願発明の進歩性の判断
(1)相違点1について
引用発明において、高確率テーブルを使用する一般遊技が低確率テーブルを使用する一般遊技よりも遊技者にとって有利であることは明らかである。
また、スロットマシンにおいて、特別遊技終了後の所定回数の遊技を遊技者に有利なものとすること(多くの場合、抽選により有利にするかどうかを決定するが、請求項2を引用する請求項4に「特別遊技の開始から終了までの間に当該内部抽選手段とは別に設けられたサブ抽選手段が行うサブ抽選の結果に応じて、前記特別遊技に続けて行う所定回数の遊技について、再遊技への当選確率を高くした前記リプレーテーブルを用いて抽選を行うか又は前記通常テーブルを用いて抽選を行うかを決定」とあるから、本願発明は抽選により有利にするかどうかを決定することを排除していない。)は、例えば、チャレンジタイム、アシストタイムにみられるように周知である。
そうである以上、引用発明における遊技者に有利な一般遊技であるところの高確率テーブルを使用する一般遊技を、上記周知技術に倣い、特別遊技終了後の所定回数に限ることは当業者にとって容易であり、その場合、一般遊技のうち高確率テーブルを使用しない(低確率テーブルを使用する)一般遊技が、本願発明の「通常遊技」に相当する。
以上のとおりであるから、相違点1に係る本願発明の構成を採用することは当業者にとって想到容易である。

(2)相違点2についてその1
本願発明は「前記通常テーブルのはずれについての数値範囲の一部を再遊技についての数値範囲に置換して再遊技への当選確率を高くした」との限定はあるものの、再遊技以外の当選役については特段限定していないから、引用発明でいうところの「小役」についても当選確率を高くしたものを含んでいる。請求人は「「通常テーブル」による場合と「リプレーテーブル」による場合とでは、再遊技を除く各当選役に当選したか否かを判定する処理には影響を及ぼさずに、再遊技に当選したか否かを判定する処理が変わることとなります。」(審判請求書5頁5?8行)と主張するが、請求項2には再遊技を除く各当選役についての限定はないから、本願発明の要旨に基づく主張ではない。
ところで、当選判定用テーブルは乱数発生器から発生される前記当選判定用乱数の値及び当選役の数値範囲の対応関係を記述したものであるから、当選確率を高くすることは、その当選役の数値範囲を広くすることと等価である。そのことは、前掲特開平11-151345号公報に「小当たり状態となる数値範囲(L_(k) ?H_(k) )は、詳細には、狭い数値範囲、つまり当たり難い数値範囲(L_(kL)?H_(kL))と、広い数値範囲、つまり当たり易い数値範囲(L_(kH)?H_(kH))とで構成」(段落【0011】)と記載されていることによっても裏付けられる。
他方、引用発明の「高確率テーブル」は「小役及びリプレイの入賞確率が高い」のであるが、その他の当選役の当選確率を低くすることは予定しておらず、はずれの確率は当然低くなる。すなわち、すべての当選役の当選確率は、「低確率テーブル」と同じかそれを上回る。また、多くのスロットマシンにおいては、一般遊技中は「はずれについての数値範囲」が最も広い。
そうであれば、リプレイを含む当選役の当選確率を高くする、すなわち、該当選役の数値範囲を広くするために、唯一数値範囲を狭くできる「はずれ」についての数値範囲の一部を、高くすべき当選役(リプレイを含む)の数値範囲に置換することに困難性があるなどとは到底認めることができない。
したがって、相違点2に係る本願発明の構成を採用することは当業者にとって想到容易である。

(3)相違点2についてその2
引用発明は、「小役及びリプレイの入賞確率が高い高確率テーブルとを備え」たスロットマシンであり、格別「リプレイの入賞確率が高」くすることに主眼をおいた発明ではない。
しかし、どの入賞確率を高くするかは設計事項というべきであり、「リプレイの入賞確率が高」くすることに主眼をおき、リプレイ以外の入賞確率を低確率テーブルと同じにすることは設計事項というべきであって、現実にそのようにしたスロットマシンは本件出願前に存在する。実際、本件出願前に頒布された「パチスロ必勝ガイド」2000年8月号91?93頁にはパチスロ機「ニュートラッド1」の紹介記事が掲載されており、93頁左上部には「エキストラゲームの小役出現率は右上の表にあるとおり。リプレイ出現率は1.5分の1に跳ね上がっているが、その他の小役出現率は通常時と変わらない。」との記載がある。同記載からは、小役以外の当選役(いわゆる「ボーナス」)の当選確率はわからないが、エキストラゲームが50ゲームであること、91頁中央部の「ボーナス確率&機械割表」及び93頁の「エキストラゲーム中の連チャン率(理論値)」からみて、ボーナス当選確率も通常時と同じと認めることができる。すなわち、「ニュートラッド1」のエキストラゲームは、リプレイ当選確率だけが高くなったゲームである。
リプレイ当選確率だけを高くするのであれば、リプレイ以外の当選役の数値範囲には全く手をつける必要がないのだから、数値範囲を狭くすべき「はずれについての数値範囲」の一部を、唯一数値範囲を広くすべき「再遊技についての数値範囲」に置換することは、誰もが思いつくことである。それ以外の、数値範囲の変更を試みることがむしろ不自然である。
以上のことからみても、相違点2に係る本願発明の構成を採用することは当業者にとって想到容易である。

(4)本願発明の進歩性の判断
相違点1,2に係る本願発明の構成を採用することは当業者にとって想到容易であり、これら構成を採用したことによる格別の作用効果を認めることもできない。
したがって、本願発明は引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

5.先願明細書の記載事項
本件出願の日前の特許出願である特願平11-320810号(以下「先願」という。特開2001-137430号として本件出願後に出願公開された。)の願書に最初に添付された明細書又は図面(以下、これらを総称して「先願明細書」という。)には、以下のア?キの記載が図示とともにある。
ア.「複数の役がそれぞれ所定の当選確率を有するように定められた確率テーブルを用いて、役の抽選を行う役抽選手段を備えるスロットマシンにおいて、
前記確率テーブルは、
第1確率テーブルと、
再遊技の権利を遊技者に与える再遊技役の当選確率が、いずれの役にも当選しない確率以上の値を有し、かつ、傾斜値が前記第1確率テーブルより高く設定された第2確率テーブルとを備え、
所定の条件が満たされた場合は前記第2確率テーブルを使用するとともに、特定条件が満たされないことを条件に少なくとも複数回の遊技で継続して使用することを特徴とするスロットマシン。」(【請求項1】)
イ.「請求項1又は請求項2に記載のスロットマシンにおいて、
前記役抽選手段で特別役が当選するとともに、有効ライン上に停止した図柄の組合せが予め定められた特別役の図柄の組合せと一致することを条件に、通常遊技から特別遊技に移行させる特別遊技移行手段と、
特別遊技の終了後の通常遊技において、前記第1確率テーブル又は前記第2確率テーブルのいずれを前記役抽選手段で使用するかを抽選により決定する確率テーブル抽選手段とを備えることを特徴とするスロットマシン。」(【請求項3】)
ウ.「請求項3に記載のスロットマシンにおいて、
前記確率テーブル抽選手段で前記第2確率テーブルが選択されたときは、特別遊技の終了後の所定回数の通常遊技で継続して前記第2確率テーブルを使用することを特徴とするスロットマシン。」(【請求項4】)
エ.「ゲーム制御手段60は、以下の役抽選手段61等を備える。なお、本実施形態で示すものに限定されるものではない。
(役抽選手段)役抽選手段61は、役(ビックボーナスやレギュラーボーナス等の特別役、小役又はリプレイ)の抽選を行うものである。役抽選手段61は、例えば、役抽選用の乱数発生手段(ハード乱数等)と、この乱数発生手段が発生する乱数を抽出する乱数抽出手段と、乱数抽出手段が抽出した乱数値に基づいて、役の当選の有無及び当選役を判定する判定手段とを備えている。」(段落【0024】)
オ.「(第1確率テーブル、第2確率テーブル)確率テーブル62は、本実施形態では第1確率テーブル62aと、第2確率テーブル62bとの2種類設けられている。これらの確率テーブル62は、抽出された乱数の当選領域等を記憶したものである。乱数の当選領域は、乱数値がとる全領域のうち、特別役(ビックボーナス等)当選領域、小役当選領域、リプレイ当選領域、及び非当選領域等、予め所定の割合に設定されている。」(段落【0026】)
カ.「図2(a)及び(b)に示すように、第1確率テーブル62a及び第2確率テーブル62bにおいて、役は、ビックボーナス、レギュラーボーナス、3種類の小役(小役1?小役3)及びリプレイとを備え、それぞれ各役の当選確率が定められている。図中(a)の第1確率テーブル62aでは、例えばビックボーナスの当選確率は1/275.4、小役1の当選確率は1/284.9、リプレイの当選確率は1/7.3、等のように定められている。なお、確率1/1(100%)から、これらの全ての役の当選確率を合計したものを引いた確率が、いずれの役にも当選しない非当選確率である。第1確率テーブル62aの非当選確率は、約73%である。」(段落【0028】)
キ.「図中(b)に示す第2確率テーブル62bは、第1確率テーブル62aと比較して、リプレイの当選確率のみが異なる。第2確率テーブル62bでは、リプレイの当選確率は1/1.6(62.5%)であり、第1確率テーブル62aのリプレイの当選確率より大幅に高く設定されている。これにより、第2確率テーブル62bでは、いずれの役にも当選しない非当選確率は、約24%である。すなわち、リプレイの当選確率は、非当選確率よりも高く設定されている。」(段落【0029】)

6.先願明細書記載の発明の認定
先願明細書には「リプレイ」との用語と「再遊技」との用語が混用されているが、これらが同義であることは明らかなので、「再遊技」との用語に統一する。
記載ア?キを含む先願明細書の全記載及び図示によれば、先願明細書には次のような発明が記載されていると認めることができる。
「役抽選用の乱数発生手段と、この乱数発生手段が発生する乱数を抽出する乱数抽出手段と、乱数抽出手段が抽出した乱数値に基づき、複数の役がそれぞれ所定の当選確率を有するように定められた確率テーブルを用いて、役の抽選を行う役抽選手段と、
前記役抽選手段で特別役が当選するとともに、有効ライン上に停止した図柄の組合せが予め定められた特別役の図柄の組合せと一致することを条件に、通常遊技から特別遊技に移行させる特別遊技移行手段とを備えるスロットマシンにおいて、
前記確率テーブルは抽出された乱数の当選領域等を記憶したものであって、乱数値がとる全領域のうち、特別役当選領域、小役当選領域、再遊技役当選領域、及び非当選領域等、予め所定の割合に設定されており、第1確率テーブルと、再遊技の権利を遊技者に与える再遊技役の当選確率をいずれの役にも当選しない確率以上の値を有し、第1確率テーブルの当選確率より大幅に高く設定するとともに、特別役及び小役の当選確率を、前記第1確率テーブルと等しく設定した第2確率テーブルとを備え、
特別遊技の終了後の通常遊技において、前記第1確率テーブル又は前記第2確率テーブルのいずれを前記役抽選手段で使用するかを抽選により決定する確率テーブル抽選手段をさらに備え、
前記確率テーブル抽選手段で前記第2確率テーブルが選択されたときは、特別遊技の終了後の所定回数の通常遊技で継続して前記第2確率テーブルを使用するスロットマシン。」(以下「先願発明」という。)

7.本願発明と引用発明の一致点及び相違点の認定
先願発明は「スロットマシン」であり、「有効ライン上に停止した図柄の組合せ」とあることから、「複数の図柄列の可変表示および当該可変表示の停止を行い、当該可変表示を停止した際の前記図柄列の表示図柄に応じて一遊技の結果を決定する」遊技機である。
引用発明と本願発明の「特別遊技」は同じ意味であり、「その決定結果として遊技者に有利な特別遊技と、再遊技と、はずれとのうちの少なくとも二つを含む遊技機」であることは本願発明と先願発明の一致点である。
先願発明の「役抽選用の乱数発生手段」及び「乱数の当選領域」は、本願発明の「当選判定用乱数を発生する乱数発生器」及び「当選役の数値範囲」にそれぞれ相当するから、先願発明の「確率テーブル」と本願発明の「当選判定用テーブル」に相違はない。当然、先願発明は「当選判定用乱数及び前記複数の当選判定用テーブルを用いて当選役を特定する内部抽選手段」を有する。
先願発明の「第2確率テーブル」は、再遊技役の当選確率を第1確率テーブルの当選確率より大幅に高く設定したものであるから、本願発明の「リプレーテーブル」に相当し、先願発明の「第1確率テーブル」が本願発明の「通常テーブル」に相当する。さらに先願発明の「第1確率テーブル」が「複数の当選役およびはずれについて数値範囲が規定され」たものであることは明らかである。
先願発明における、「特別遊技の終了後の所定回数」を除く通常遊技が本願発明の「通常遊技」に相当し、「通常遊技においては、前記通常テーブルを用いた抽選を行」うことは本願発明と先願発明の一致点である。
本願発明の「特別遊技への開始後、当該特別遊技が終了すると、当該特別遊技に続けて行う所定回数の遊技について、前記リプレーテーブルを用いた抽選を行い、」との構成については、4(1)で述べたように、サブ抽選により特別遊技終了後にリプレーテーブルを用いた抽選を行うことを排除していないところ、先願発明は「特別遊技の終了後の通常遊技において、前記第1確率テーブル又は前記第2確率テーブルのいずれを前記役抽選手段で使用するかを抽選により決定する確率テーブル抽選手段をさらに備え、前記確率テーブル抽選手段で前記第2確率テーブルが選択されたときは、特別遊技の終了後の所定回数の通常遊技で継続して前記第2確率テーブルを使用する」のであるから、上記構成は本願発明と先願発明の一致点である。
そして、「前記リプレーテーブルは前記通常テーブルのはずれについての数値範囲の一部を再遊技についての数値範囲に置換し」たかどうかは別として、リプレーテーブルは通常テーブルよりも再遊技への当選確率を高くしたことも本願発明と先願発明の一致点である。
したがって、本願発明と先願発明は、
「複数の図柄列の可変表示および当該可変表示の停止を行い、当該可変表示を停止した際の前記図柄列の表示図柄に応じて一遊技の結果を決定するとともに、その決定結果として遊技者に有利な特別遊技と、再遊技と、はずれとのうちの少なくとも二つを含む遊技機において、
当選判定用乱数を発生する乱数発生器と、
前記乱数発生器から発生される前記当選判定用乱数の値及び当選役の数値範囲の対応関係が記述された複数の当選判定用テーブルと、
当選判定用乱数及び前記複数の当選判定用テーブルを用いて当選役を特定する内部抽選手段と
を有し、
前記当選判定用テーブルには、通常テーブル及びリプレーテーブルが含まれ、
前記内部抽選手段は、
通常遊技においては、前記通常テーブルを用いた抽選を行い、
特別遊技への開始後、当該特別遊技が終了すると、当該特別遊技に続けて行う所定回数の遊技について、前記リプレーテーブルを用いた抽選を行い、
前記通常テーブルは複数の当選役およびはずれについて数値範囲が規定され、前記リプレーテーブルは前記通常テーブルより再遊技への当選確率を高くしたものである遊技機。」である点で一致し、次の点で一応相違する。
〈相違点〉本願発明のリプレーテーブルは通常テーブルのはずれについての数値範囲の一部を再遊技についての数値範囲に置換したものであるのに対し、先願発明がかかる構成になっているかどうか不明な点。

8.相違点の判断及び本願発明と先願発明の同一性の判断
先願発明の第1確率テーブルと第2確率テーブルを比較すると、再遊技役の当選確率は異なり、それ以外の当選役の当選確率は同一であるから、いずれの当選役にも当選しない確率(非当選領域により定まる)も異なる。
すなわち、第2確率テーブルの特別役当選領域及び小役当選領域は第1確率テーブルのそれらと同じであり、第2確率テーブルの再遊技役当選領域は第1確率テーブルのそれより広く、第2確率テーブルの非当選領域は第1確率テーブルのそれより狭い。
そのような2つの確率テーブル作成に当たっては、同一である特別役当選領域及び小役当選領域は共通のものとし、第1確率テーブルの非当選領域(本願発明の「通常テーブルのはずれについての数値範囲」に相当)の一部を再遊技役当選領域(本願発明の「再遊技についての数値範囲」に相当)に置換したものを第2確率テーブルとすることが最も自然である。2つの確率テーブルの関係をそれ以外とすることは極めて不自然であり、そのような不自然な関係を採用する何らかの合理的理由が必要と解されるが、そのような理由は見あたらない。
すなわち、先願明細書に明記はないものの、先願発明も相違点に係る本願発明の構成を採用していると解するのが自然であり、採用しない可能性があるとしても、せいぜい設計事項の範囲内であって、実質的相違点といえるほどのものではない。
したがって、本願発明は先願発明と同一であり、しかも、本願発明の発明者が先願発明をした者と同一ではなく、また本件出願の時において、本件出願人が先願の出願人と同一でもないので、特許法29条の2の規定により特許を受けることができない。

第3 むすび
本願発明が特許を受けることができないから、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶を免れない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-01-28 
結審通知日 2009-02-03 
審決日 2009-02-16 
出願番号 特願2001-4636(P2001-4636)
審決分類 P 1 8・ 161- Z (A63F)
P 1 8・ 121- Z (A63F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鉄 豊郎  
特許庁審判長 津田 俊明
特許庁審判官 ▲吉▼川 康史
小原 博生
発明の名称 遊技機  
代理人 船橋 國則  

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