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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41M
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 B41M
管理番号 1196038
審判番号 不服2007-10554  
総通号数 114 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-06-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-04-12 
確定日 2009-04-10 
事件の表示 特願2003- 73993「インクジェット記録シート及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成16年10月 7日出願公開、特開2004-276522〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
1.手続の経緯・本件発明
本願は、平成15年3月18日の出願であって、平成19年3月6日付けで拒絶査定がされ、これに対して同年4月12日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。
本願の発明は、平成19年1月29日付けで補正された特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載されたものと認められるところ、その請求項1に記載された発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「支持体上の少なくとも一方の面に光沢発現層を設けてなり、該光沢発現層が湿潤状態にある間に加熱された鏡面ロールに圧接して鏡面光沢仕上げてなるインクジェット記録シートにおいて、該光沢発現層がカチオン性分散剤を含む分散剤によって分散処理された離型剤を含有することを特徴とするインクジェット記録シート。」

2.引用された刊行物記載の発明
(刊行物1について)
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された特開2002-337447号公報(以下、「刊行物1」という。)には、次の事項が記載されている。(下線は、当審にて付与した。)
(1-a)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、インクジェット記録用キャスト塗工紙に関し、特に白紙部の光沢および表面強度に優れ、インクジェット記録適性に優れたインクジェット記録用キャスト塗工紙およびその製造方法に関する。」
(1-b)「【0003】一般に、表面光沢の高い用紙としては、表面に板状顔料を塗工し、さらに必要に応じてキャレンダー処理を施した高光沢を有する塗工紙、あるいは湿潤塗工層を鏡面を有する加熱ドラム面に圧着、乾燥することにより、その鏡面を写し取ることによって得られる、いわゆるキャスト塗工紙が知られている。・・・・」
(1-c)「【0020】ここで、最外側インクジェット記録層の接着剤量を、内側インクジェット吸収層より多くすると、表面強度とインク吸収性のバランスに優れたものが得られ易く好ましい。インクジェット用インクの着色剤は、通常アニオン性であるため、最外側インクジェット記録層および内側インクジェット吸収層中には、インク中の着色剤成分を定着させる目的で、カチオン性化合物を配合するのが好ましい。配合の方法は、前記顔料に混合すれば良いが、顔料は一般にアニオン性であり、混合の際に凝集が起こる場合がある。例えば、一般的に市販されている非晶質シリカ(数ミクロンの二次粒子径を有する)を機械的手段により強い力を与えて微細粒子に粉砕する際、粉砕処理前の非晶質シリカにカチオン性化合物を一緒に混合分散後、機械的手段により分散・粉砕するか、あるいは微細化したシリカ分散体に混合し、一旦増粘・凝集させた後、再度機械分散・粉砕する方法等をとることにより、必要な粒子径に調整することができる。
【0021】カチオン性化合物としては、カチオン性樹脂や低分子カチオン性化合物(例えば、カチオン性界面活性剤等)が例示できる。印字濃度向上ためには、カチオン性樹脂が好ましく、水溶性樹脂あるいはエマルジョンとして使用できる。更に、カチオン性樹脂を架橋等の手段により不溶化し、粒子状の形態としたカチオン性有機顔料としても使用できる。このようなカチオン性有機顔料は、カチオン性樹脂を重合する際、多官能性モノマーを共重合し架橋樹脂とする、あるいは反応性の官能基(水酸基、カルボキシル基、アミノ基、アセトアセチル基等)を有するカチオン性樹脂に必要に応じ架橋剤を添加し、熱、放射線等の手段により架橋樹脂としたものである。カチオン性化合物、特にカチオン性樹脂は接着剤としての役割を果たす場合もある。
【0022】カチオン性樹脂として下記が例示できる。1)ポリエチレンポリアミンやポリプロピレンポリアミンなどのポリアルキレンポリアミン類またはその誘導体、2)第2級アミノ基や第3級アミノ基や第4級アンモニウム基を有するアクリル樹脂、3)ポリビニルアミン、ポリビニルアミジン類、4)ジシアンジアミド-ホルマリン重縮合物に代表されるジシアン系カチオン性化合物、5)ジシアンジアミド-ジエチレントリアミン重縮合物に代表されるポリアミン系カチオン性化合物、6)エピクロルヒドリン-ジメチルアミン付加重合物、7)ジメチルジアリルアンモニウムクロライド-S0_(2)共重合物、8)ジアリルアミン塩-S0_(2)共重合物、9)ジメチルジアリルアンモニウムクロライド重合物、10)アリルアミン塩の重合物、11)ジアルキルアミノエチル(メタ)アクリレート4級塩重合物、12)アクリルアミド-ジアリルアミン塩共重合物等のカチオン性化合物。
【0023】カチオン性化合物は、印字画像の耐水性を向上させる効果も有する。最外側インクジェット記録層および/または内側インクジェット吸収層に配合するカチオン性化合物は、顔料100重量部に対し、1?100重量部、より好ましくは5?50重量部の範囲で使用できる。配合量が少ない場合は、印字濃度向上の効果が少なく、多い場合は、印字濃度が低下したり、画像のニジミが発生するおそれがある。カチオン性化合物は、最外側インクジェット記録層に配合する方が所望の効果が得られる場合が多いが、インク量が多い場合や最外側インクジェット記録層の塗工量が少ない場合は、内側インクジェット吸収層にも配合するのが望ましい。」
(1-d)「【0025】最外側インクジェット記録層は、キャスト方式により形成されたキャスト塗工層である。キャスト方式とは、塗工層を、平滑性を有す鏡面ドラム(鏡面仕上げした金属、プラスチック、ガラス等のドラム)、鏡面仕上げした金属板、プラスチックシートやフィルム、ガラス板等上で乾燥し、平滑面を塗工層上に写し取ることにより、平滑で光沢のある塗工層表面を得る方法である。塗工方法としては、最外側インクジェット記録層用塗工液を、内側インクジェット吸収層上に塗工して、前記塗工層が湿潤状態にある間に、加熱された鏡面ドラムに圧接、乾燥して仕上げる方法(ウェットキャスト法)、あるいは一旦乾燥後再湿潤した後加熱された鏡面ドラムに圧接、乾燥して仕上げる方法(リウェットキャスト法)等が例示できる。また、ウエットキャスト方式のうちでも、最外側インクジェット記録層が、鏡面ドラムに圧接される直前に、圧接ロール(プレスロール)側の内側インクジェット吸収層とドラム間に最外側インクジェット記録層用塗工液を付与して直ちに圧接する方式が、塗工液の浸透が極力抑えられ、少ない塗工量で良好な光沢、印字品位が得られ易く、特に好ましい。」
(1-e)「【0028】最外側インクジェット記録層用塗工液には、白色度、粘度、流動性等を調節するために、一般の印刷用塗工紙やインクジェット用紙に使用されている顔料、消泡剤、着色剤、蛍光増白剤、帯電防止剤、防腐剤及び分散剤、増粘剤等の各種助剤が適宜添加される。また、最外側インクジェット記録層用塗工液には、鏡面ドラム等からの離型性を付与する目的で、離型剤を添加するのが好ましい。
【0029】離型剤としては、ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド等の高級脂肪酸アミド、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス等のポリオレフィンワックス類、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸アンモニウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、オレイン酸ナトリウム、オレイン酸カリウム、オレイン酸アンモニウム等の高級脂肪酸アルカリ塩類、レシチン、シリコーンオイル、シリコーンワックス等のシリコーン化合物、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素化合物が挙げられる。 離型剤の配合量は、顔料100重量部に対し0.1?50重量部、好ましくは0.3?30重量部、より好ましくは0.5?20重量部の範囲で調節される。配合量が少ないと、離型性改善の効果が得られにくく、逆に多いと光沢が低下したり、インクのハジキや記録濃度の低下が生じる場合がある。」
(1-f)「【0036】下塗り層中には、インクジェット記録用インク中の着色剤(染料または着色顔料)成分を定着する目的で、カチオン性化合物を配合しても良い。ただし、後述する様に、インク中の着色剤は、可能な限り表面に近い部分に定着させた方が、印字(記録)濃度が高くなるために好ましく、このためには、下塗り層中よりも、最外側インクジェット記録層および内側インクジェット吸収層中、とりわけ最外側インクジェット記録層中に、カチオン性化合物を多く配合するのが好ましい。更に好ましくは、最外側インクジェット記録層中にのみカチオン性化合物を配合し、下塗り層および内側インクジェット吸収層中には、カチオン性化合物が実質的に存在しないのが良い。ただし、必要によりカチオン性界面活性剤等を助剤的に微量添加しても良い。最外側インクジェット記録層中にのみカチオン性化合物を配合した場合は、光沢性が良い。尚、カチオン性化合物配合の効果は、着色剤がアニオン性である場合、特に有効である。」
(1-g)「【0044】(最外側インクジェット記録層用塗料1-3)平均二次粒子径4.3μmの無定形シリカ(商品名:ファインシールX-45、平均一次粒子径15nm、トクヤマ製)の水分散液を圧力式ホモジナイザー(商品名:超高圧式ホモジナイザーGM-1型、SMT製)にて加圧条件500kg/cm^(2)で粉砕処理を繰り返し、平均二次粒子径50nmのシリカ分散液を得た。このシリカを顔料として100部、染料固着剤としてカチオン性化合物(商品名:PAS-J-81、日東紡製)10部、カチオン性化合物(商品名:ユニセンスCP-91、センカ製)10部、接着剤としてカチオン性ポリウレタン樹脂(商品名:F-8564D、第一工業製薬製)80部、離型剤としてポリエチレンワックスエマルション(商品名:ペルトールN-856、近代化学工業製)10部を水と共に混合・分散し、固形分濃度10%の塗料1-3を得た。
【0045】(用紙の作製)坪量100g/m^(2)の上質紙の片面に、エアナイフコーターを用いて乾燥重量15g/m^(2)となるように塗料1-1を塗工、乾燥した。この表面に、エアナイフコーターを用いて乾燥重量7g/m^(2)となるように塗料1-2を塗工、乾燥した。この表面に塗料1-3を塗工すると同時に、塗料が湿潤状態にある間に表面温度を100℃としたクロム鍍金鏡面ドラム表面に圧接、乾燥し、剥離して、インクジェット記録用キャスト塗工紙を得た。このとき、塗料1-3の乾燥重量は、3g/m^(2)であった。」

したがって、上記の事項を総合すると、刊行物には、以下の発明が開示されていると認められる。(以下、「刊行物1発明」という。)
「上質紙の片面に、少なくとも、最外側インクジェット記録層を有し、該最外側インクジェット記録層は、鏡面を有する加熱ドラム面に圧着、乾燥するキャスト方式により形成されたキャスト塗工層であって、離型剤と、カチオン性化合物とを含有する、インクジェット記録用キャスト塗工紙」

(刊行物2について)
また、原査定の拒絶の理由に引用された特開2001-10220号公報(以下、「刊行物2」という。)には、次の事項が記載されている。(下線は、当審にて付与した。)
(2-a)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、光沢に優れ、インクジェット記録適性に優れたインクジェット記録用紙に関する。
【0002】
【従来の技術】 インクジェットプリンタによる記録は、騒音が少なく、高速記録が可能であり、かつ、多色化が容易なために多方面で利用されている。インクジェット記録用紙としては、インク吸収性に富むように工夫された上質紙や、表面に多孔性顔料を塗工した塗工紙等が適用されている。ところで、これらの用紙はすべて表面光沢の低い、いわゆるマット調のインクジェット記録用紙が主体であるため、表面光沢の高い、優れた外観を持つインクジェット記録用紙が要望されている。 一般に、表面光沢の高い用紙としては、表面に板状顔料を塗工し、さらに必要に応じてキャレンダー処理を施した高光沢を有する塗工紙、あるいは湿潤塗工層を鏡面を有する加熱ドラム面に圧着、乾燥することにより、その鏡面を写し取ることによって得られる、いわゆるキャスト塗工紙が知られている。・・・・」
(2-b)「【0024】インクジェット用インクの着色剤は通常アニオン性であるため、インク定着層、好ましくは表層(上層のインク定着層)には、インク中の着色剤成分を定着させる目的で、カチオン性化合物を配合するのが好ましい。・・・・」
(2-c)「【0025】 カチオン性化合物としては、カチオン性樹脂や低分子カチオン性化合物(例えばカチオン性界面活性剤等)が例示できる。印字濃度向上の効果の点ではカチオン性樹脂が好ましく、水溶性樹脂あるいはエマルジョンとして使用できる。・・・・」
(2-d)「【0030】各インク定着層用塗工組成物中には白色度、粘度、流動性等を調節するために、一般の印刷用塗工紙やインクジェット用紙に使用されている顔料、消泡剤、着色剤、蛍光増白剤、帯電防止剤、防腐剤及び分散剤、増粘剤等の各種助剤が適宜添加される。また、キャスト塗工層用塗工組成物中にはキャストドラム等からの離型性を付与する目的で、離型剤を添加するのが好ましい。離型剤としては、ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド等の高級脂肪酸アミド、ポリエチレンワックス、酸化ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス等のポリオレフィンワックス類、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、オレイン酸カリウム、オレイン酸アンモミウム等の高級脂肪酸アルカリ塩類、レシチン、シリコーンオイル、シリコーンワックス等のシリコーン化合物、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素化合物が挙げられる。
・・・・」
(2-e)「【0035】実施例1
紙基材上に、下記下塗り層用塗工液を、乾燥重量で15g/m^(2)になるように、エアーナイフコーターで塗工、乾燥した。次に、エアナイフコーター、乾燥装置、ロールコーターを有するキャスト塗工装置を用い、先ず上記の下塗り層上に下記インク定着層下層用塗工液を、乾燥重量で3g/m^(2)になるように、エアーナイフコーターで塗工して、乾燥装置で乾燥した。続いて、インク定着層表層(キャスト塗工層)用塗工液を、上記のインク定着層下層用上に、ロールコーターで塗工し、直ちに、表面温度が100℃の鏡面ドラムに圧接し、乾燥後、離型させ、光沢タイプのインクジェット記録用紙を得た。このときのキャスト塗工層の塗工量は固形分重量で、2g/m^(2)であった。
[下塗り層用塗工液](固形分濃度20%、部は固形分重量部を示す。)
合成非晶質シリカ(ファインシールX-60;トクヤマ製、平均二次粒子径6.0μm、一次粒子径15nm)80部、ゼオライト(トヨビルダー;トーソー製、平均粒子径1.5μm)20部、シリル変性ポリビニルアルコール(R1130;クラレ製)20部、ガラス転移点75℃のスチレン-2メチルヘキシルアクリレート共重合体と粒子径30nmのコロイダルシリカとの複合体エマルジョン(共重合体とコロイダルシリカは重量比で40:60、エマルジョンの粒子径は80nm)40部、蛍光染料(WhitexBPSH;住友化学製)2部。
【0036】[インク定着層下層用塗工液](固形分濃度13%、部は固形分重量部を示す)シリカ微細粒子A100部、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド-アクリルアミド共重合体(カチオン性化合物:日東紡績社製、商品名;PAS-J-81) 10部、カチオン性水性ポリエーテルポリウレタン樹脂(F-8564D;第一工業製薬製)30部
[キャスト塗工層用塗工液(インク定着層上層用塗工液)](固形分濃度10%、部は固形分重量部を示す)シリカ微細粒子A100部、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド-アクリルアミド共重合体(カチオン性化合物:日東紡績社製、商品名;PAS-J-81) 25部、カチオン性水性ポリエステルポリウレタン樹脂(F-8570D;第一工業製薬製、Tg=12℃)60部、離型剤(ステアリン酸アミド)2部。」

したがって、上記の事項を総合すると、刊行物2には、刊行物1とほぼ同様の以下の発明が開示されていると認められる。(以下、「刊行物2発明」という。)
「紙基材の片面に、少なくとも、インク定着層上層を有し、該インク定着層上層は、鏡面を有する加熱ドラム面に圧着、乾燥するキャスト方式により形成されたキャスト塗工層であって、離型剤と、カチオン性化合物とを含有する、インクジェット記録用紙」

3.対比
本願発明と刊行物1発明又は刊行物2発明と対比する。(以下、「刊行物1発明」と、「刊行物2発明」とをまとめて、「刊行物発明」という。)
まず、刊行物発明における「上質紙(紙基材)の片面」は、本願発明における「支持体上の少なくとも一方の面」に相当する。
そして、刊行物発明における「最外側インクジェット記録層(インク定着層上層)」、「鏡面を有する加熱ドラム面に圧着、乾燥するキャスト方式により形成された」、「インクジェット記録用キャスト塗工紙(インクジェット記録用紙)」は、それぞれ、本願発明における「光沢発現層」、「該光沢発現層が湿潤状態にある間に加熱された鏡面ロールに圧接して鏡面光沢仕上げてなる」、「インクジェット記録シート」に相当する。
また、本願発明における「カチオン性分散剤を含む分散剤によって分散処理された離型剤を含有する」構成と、刊行物発明における「離型剤と、カチオン性化合物とを含有する」構成とは、「カチオン性化合物と、離型剤とを含有する」構成で、共通する。

したがって、両者は、
「支持体上の少なくとも一方の面に光沢発現層を設けてなり、該光沢発現層が湿潤状態にある間に加熱された鏡面ロールに圧接して鏡面光沢仕上げてなるインクジェット記録シートにおいて、該光沢発現層がカチオン性化合物と、離型剤とを含有する、インクジェット記録シート。」
の点で一致し、下記の点で相違する。

相違点:本願発明は、「離型剤」が「カチオン性分散剤を含む分散剤によって分散処理された離型剤」であるのに対して、刊行物発明には、「カチオン性化合物」を離型剤の分散剤として用いる点について記載がない点。

4.当審の判断
(相違点について)
上記相違点について、検討する。
まず、刊行物発明における「カチオン性化合物」は、刊行物1又は2の記載を参照すれば、例えば、「カチオン性化合物としては、カチオン性樹脂や低分子カチオン性化合物(例えば、カチオン性界面活性剤等)が例示できる。」(上記摘記事項(1-c)参照)との記載もあり、実施例で使用される「カチオン性化合物」は「カチオン性界面活性剤」であるから、刊行物1又は2に記載された実施例において、「カチオン性化合物」が、「インク中の着色剤成分を定着させ」、「印字画像の耐水性を向上させ」、「光沢性が良い」との目的・効果に加えて、「カチオン性分散剤」としても機能することは明らかである。
また、請求人自身も、平成19年1月29日付け意見書において、「本願発明の参考例1に相当するものが、引用文献1?4であり、すべてカチオン分散剤剤と離型剤を混合して塗液に使用するものであり、本願発明のカチオン性分散剤を含む分散剤によって分散処理された離型剤の記載がないばかりか、示唆すらありません。」(下線は、当審にて付与した。「カチオン分散剤剤」は「カチオン分散剤」の誤記と認める。)と記載しているとおり、「カチオン性化合物」が「カチオン性分散剤」であることを認めている。
したがって、刊行物発明における「カチオン性化合物」は、本願発明における「カチオン性分散剤」と差異がない。
次に、本願発明の「カチオン性分散剤を含む分散剤によって分散処理された離型剤」の点については、刊行物発明においても、光沢発現層塗工液は「混合・分散」(上記摘記事項(1-g)参照)されており、かつ、離型剤がその効能を発揮するために分散されるべきことは当然の事項であるから、刊行物発明における「離型剤」が「分散処理された離型剤」であることは明らかである。
そして、分散剤の存在下において分散処理が促進されることも自明の事項であるから、「カチオン性分散剤を含む分散剤によって分散処理された離型剤」とする構成は、「分散処理」が「カチオン性分散剤を含む分散剤」によってなされたと単に明記しているに過ぎず、作製された光沢発現層自体には差異は見出せない。
そうすると、「カチオン性分散剤」と「分散処理された離型剤」とを含有する構成と、「カチオン性分散剤を含む分散剤によって分散処理された離型剤」を含有する構成とは、表現上の差異でしかない。
よって、上記相違点は、実質的な相違点ではない。

(補足的判断)
仮に、上記相違点について、製造工程上の差異があり、「カチオン性分散剤を含む分散剤によって分散処理された離型剤」とは、予め「カチオン性分散剤を含む分散剤によって分散処理」された後に、光沢発現層塗工液に混合されるものを意味するとしても、下記に示すとおり、刊行物1又は2に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(製造工程上の差異に基づく相違点に関して)
凝集を起こしやすい粒子を均一に分散させるために、当該粒子と分散剤とで分散液を作製した後に、他のバインダー樹脂等と混合し塗工液を作製することは、インクジェット記録紙の分野においても通常採用される周知技術であるから、離型剤の分散処理を行った後に、光沢発現層塗工液に混合する程度のことは、当業者が適宜為し得たことである。

(本願発明が奏する効果について)
請求人は、請求の理由において、
「本願発明の目的は、水性インクによる印字において、インク吸収性、印字濃度が優れ、特に、かすれおよびムラのない、印画紙ライクな高い表面光沢感を有するインクジェット記録シートを提供することである([0009]段)。本願発明の特徴は、特許請求の範囲に記載された、支持体上の少なくとも一方の面に光沢発現層を設けてなり、該光沢発現層が湿潤状態にある間に加熱された鏡面ロールに圧接して鏡面光沢仕上げてなるインクジェット記録シートにおいて、該光沢発現層がカチオン性分散剤を含む分散剤によって分散処理された離型剤を含有するインクジェット記録シートである([0010]段)。本発明によれば、水性インクによる印字において、インク吸収性、印字濃度が優れ、特に、かすれおよびムラのない、印画紙ライクな高い表面光沢感を有するインクジェット記録シートを得ることが可能となる([0072]段)。
例えば、カチオン性分散剤を含む分散剤によって分散処理された離型剤を使用した実施例1?7は、カチオン性分散剤ではない分散剤によって分散処理された離型剤を使用した比較例1?3(比較例1、2はアニオン性分散剤で離型剤を分散して添加したもの、比較例3は、ノニオン性分散剤で離型剤を分散して添加したものである)と比較すると、光沢、かすれ、ムラ、インク吸収性、印字濃度のすべて点で特性が優れていることがわかります([0070]段の[表1]、[0071]段)。また、参考例1は、引用文献1?3に相当するカチオン性分散剤と離型剤を含有しただけでのものであり、実施例と比較すると光沢に劣るものであることがわかります。
このような構成上の特徴や優れた効果については、各引用文献は全く示唆するものではなく、本願発明は充分に登録要件を満たしているものと思料致します。」(下線は、当審にて付与した。)と記載し、
「引用文献1?3に相当する参考例1は、実施例と比較すると光沢に劣るものであり、本願発明は光沢度が優れる」旨、主張する。
そこで、本願明細書の表1を参照すると、参考例1の光沢度は73%であるのに対して、実施例1の光沢度は75%であるから、光沢度が格別優れるわけではなく、また、かすれ・ムラの評価では、参考例1がAで、実施例1はBとなっており、参考例1が優れている。
したがって、請求人が主張する本願発明の「水性インクによる印字において、インク吸収性、印字濃度が優れ、特に、かすれおよびムラのない、印画紙ライクな高い表面光沢感を有する」との効果も、格別のものとはいえない。

(まとめ)
上記相違点は、実質的な相違点ではないから、刊行物1又は2に記載の発明と同一である。
仮に、製造工程上の差異に基づく、実質的な相違点があったとしても、当該相違点に係る構成の変更は、刊行物1又は2に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に為し得たことである。

5.むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物1又は2に記載の発明であるか、刊行物1又は2に記載の発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、又は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願のその他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-02-06 
結審通知日 2009-02-10 
審決日 2009-02-24 
出願番号 特願2003-73993(P2003-73993)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (B41M)
P 1 8・ 121- Z (B41M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 神尾 寧  
特許庁審判長 赤木 啓二
特許庁審判官 淺野 美奈
伏見 隆夫
発明の名称 インクジェット記録シート及びその製造方法  

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