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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B23B |
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管理番号 | 1196055 |
審判番号 | 不服2007-21878 |
総通号数 | 114 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2009-06-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2007-08-08 |
確定日 | 2009-04-09 |
事件の表示 | 特願2002-235624「表面被覆切削工具」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 9月 9日出願公開、特開2003-251503〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1 手続の経緯及び本願発明 本件出願は、平成14年8月13日(優先権主張 平成13年12月26日)の出願であって、同19年7月5日付けで拒絶をすべき旨の査定がされ、同19年8月8日に本件審判の請求がされ、同19年8月10日に明細書について手続補正がされた。その後、当審において同20年11月17日付けで拒絶理由が通知され、その指定期間内の同21年1月8日に意見書の提出とともに明細書について手続補正がされたものである。 本件出願の請求項1ないし3に係る発明は、平成21年1月8日付けの手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものと認められる。 「【請求項1】 工具径が3.175mm以下のプリント回路基板用の表面被覆切削工具であって、 炭化タングステンとコバルトとを含み、コバルトの含有量が4質量%以上、12質量%以下である超硬合金基材と、 前記超硬合金基材の上に被覆され、チタン、クロム、バナジウム、シリコンおよびアルミニウムの群から選択される1種以上の元素と、炭素および窒素から選択される1種以上の元素との組合せからなる化合物薄膜と、を備え、 前記化合物薄膜の厚みは、0.05μm以上、1.5μm以下であり、 前記化合物薄膜には、圧縮の残留応力が0.1GPa以上、8GPa以下付与されている、表面被覆切削工具。」 2 引用刊行物 これに対して、当審で平成20年11月17日付けで通知した拒絶理由には、本件出願前に頒布された刊行物である下記の刊行物が引用されており、このうち、刊行物1、2、3及び5には、以下の技術的事項が記載されている。 [引用刊行物] 刊行物1:特開2000-336451号公報 刊行物2:特開平2-22454号公報 刊行物3:特開平8-92685号公報 刊行物4:特開2001-234328号公報 刊行物5:特開2000-308905号公報 (1)刊行物1 ア 段落【0001】 「【発明の属する技術分野】本発明は、粉末冶金により作製される超硬合金またはサーメットなどの焼結合金の組織構造と特性を改質した改質焼結合金、この改質焼結合金を母材とし、この母材上に硬質膜を被覆した被覆改質焼結合金およびその製造方法に関するものである。」 イ 段落【0023】?【0024】 「上述したような改質物質の含有した焼結合金を母材とし、この母材上に母材よりも高硬度な硬質膜を被覆した被覆改質焼結合金とすると、強度、靱性、耐折損性および耐衝撃性の優れた母材と、この母材上に被覆される硬質膜とのシナージ効果を高めることになることから好ましいことである。 このときの硬質膜は、具体的には、例えば炭化チタン、窒化チタン、炭窒化チタン、炭酸化チタン、窒酸化チタン、炭窒酸化チタン、酸化アルミニウム、チタンとアルミニウムを含む複合窒化物、チタンとアルミニウムを含む複合炭窒化物、チタンとアルミニウムを含む複合炭酸化物、チタンとアルミニウムを含む複合窒酸化物、チタンとアルミニウムを含む炭窒酸化物、ダイヤモンド、ダイヤモンドライクカーボンの中から選ばれた1種の単一層、2種以上の混合層、または該単一層と該混合層を含めた2種以上の積層からなる場合を代表例として挙げることができる。」 ウ 段落【0025】?【0026】 「この硬質膜の膜厚さは、用途、形状、膜質、膜の構成などにより選定する必要があり、工具として使用する場合には、0.1?20μm膜厚さでなることが耐摩耗性および耐剥離性から好ましいことである。また、工具のうち、耐折損性または耐衝撃性を重要視する、例えば回転切削工具、断続切削工具などに使用する場合には、硬質膜厚さは、0.1?8μmでなる場合が好ましく、さらに1?5μmからなる場合が好ましいことである。これらの硬質膜および母材を構成している硬質相は、化学量論組成または非化学量論組成からなる場合でもよく、特に硬質膜は、非化学量論組成でなる場合が多々ある。 これらの改質焼結合金および被覆改質焼結合金は、切削工具として使用されると効果が顕著に発揮されることから好ましく、切削工具の中でも回転切削工具、回転切削工具の中でもドリルやエンドミル、ドリルの中でも半導体のプリント基板に穴あけ加工する微細径のドリルとして使用されると一層その効果が発揮されることから、特に好ましいことである。これらの改質焼結合金および被覆改質焼結合金は、合金中に改質物質を含有させることが重要であり、その方法としては、大別すると気相法、液相法、固相法など種々の方法が考えられるが、以下の方法により作製すると、改質物質の濃度勾配および含有量などの調整が容易になることから好ましいことである。」 エ 段落【0031】 「次に、このようにして得た改質焼結合金の表面に硬質膜を被覆して被覆改質焼結合金を作製する場合は、改質焼結合金の表面を上述した焼結合金の表面と同様の表面状態である、例えば研磨加工、ラップ加工、電解処理、ショット処理,ブラスト処理などで加工や処理された改質焼結合金の表面、またはこれらの加工や処理後に再加熱された改質焼結合金の表面、さらには焼結後の状態でなる焼結肌面でなる表面を洗浄、乾燥などの処理後、従来から行われている化学蒸着法(以下、「CVD法」と記す)、物理蒸着法(以下、「PVD法」と記す)、プラズマCVD法などに代表される被覆方法により硬質膜を被覆し、被覆改質焼結合金とすることができる。」 オ 表1、表4には、コバルトの含有量が5重量%、8重量%、10重量%のものが記載されている。 これらの事項を技術常識を勘案しながら本願発明に照らして整理すると、刊行物1には次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。 「プリント回路基板用の表面被覆切削工具であって、炭化タングステンとコバルトとを含み、コバルトの含有量が4質量%以上、12質量%以下である超硬合金基材と、前記超硬合金基材の上に被覆され、チタンおよびアルミニウムから選択される1種以上の元素と、炭素および窒素から選択される1種以上の元素との組合せからなる化合物薄膜と、を備え、前記化合物薄膜の厚みは、0.1?8μmである、表面被覆切削工具。」 (2)刊行物2 ア 第2頁左上欄第12?17行 「〔産業上の利用分野〕 この発明は、被覆層の基体表面に対する付着強度が著しく高く、かつ被覆層自体も一段と高い硬さを有し、すぐれた耐摩耗性を示す表面被覆炭化タングステン(以下WCで示す)超超硬合金製切削工具の製造法に関するものである。」 イ 第2頁左上欄第18行?左下欄第5行 「〔従来の技術〕 従来、例えば特公昭59-43246号公報に記載されるように、 鋼や鋳鉄、AlやAl合金、さらにプリント基板などの穴明け加工や旋削加工などの切削に、ミニチュアドリルやドリル、さらにエンドミルやスローアウェイチップなどとして、 結合相形成成分としてのCo、Ni、およびFeのうちの1種以上:4?15%、 を含有し、さらに必要に応じて、 分散相形成成分としてのTi、Ta、Nb、およびWの炭化物、窒化物、および炭窒化物、並びにこれらの2種以上の固溶体(ただしWの窒化物と炭窒化物は除き、以下、これら全体を(TI,Ta,Nb,W)C・Nで示す)のうちの1種以上:0.5?30%、 を含有し、残りが同じく分散相形成成分としてのWCと不可避不純物からなる組成(以上重量%、以下%は重量%を示す)を有するWCC超超硬合金基体表面に、物理蒸着法や化学蒸着法を用いて、 周期律表の4a、5a、および6a族の金属の炭化物、窒化物、炭窒化物、炭酸化物、および炭窒酸化物、並びに酸化アルミニウムのうちの1種の単層または2種以上の複層からなる被覆層を0.5?20μmの平均層厚で形成してなる表面被覆WC基超硬合金製切削工具が広く実用に供されている。」 ウ 第2頁左下欄第18行?右下欄第18行 「そこで、本発明者等は、上述のような観点から、上記の従来表面被覆WC基超硬合金製切削工具に着目し、被覆層の基体表面に対する付着強度を向上せしめるべく研究を行なった結果、 被覆層を、炭化チタン、窒化チタン、炭窒化チタン、炭酸化チタン、窒酸化チタン、および炭窒酸化チタン(以下、それぞれTiC,TiN,T1CN、TiCO,TiNO,およびTiCNOで示し、これら全体を、TiC・N・Oで示す)のうちのいずれか1種からなる単層に限定すると共に、その厚さを平均層厚で0.1?1.5μmと相対的に薄くした状態で、これにイオン注入処理を施して、イオン注入成分を前記被覆層を通して上記基体表面部内まで滲透させてやると、前記被覆層の基体表面に対する付着強度が著しく向上するようになるばかりでなく、前記被覆層自体もイオン注入成分の存在によって一段と硬さが向上するようになり、苛酷な条件下での切削にも被覆層が剥離することがなくなり、すぐれた耐摩耗性を著しく長期に亘って発揮するという知見を得たのである。」 エ 第3頁右下欄第12?15行 「・・・直径:1mmを有する本発明表面被覆WC基超硬合金製ミニチュアドリル(以下本発明被覆超硬ミニチュアドリルという)をそれぞれ製造した。」 これらの事項を技術常識を勘案しながら本願発明に照らして整理すると、刊行物2には次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。 「工具径1mmのプリント回路基板用の表面被覆切削工具であって、炭化タングステンとコバルトとを含み、コバルトの含有量が4?15質量%である超硬合金基材と、前記超硬合金基材の上に被覆され、チタンと、炭素および窒素から選択される1種以上の元素との組合せからなる化合物薄膜と、を備え、前記化合物薄膜の厚みは、0.1?1.5μmであり、前記化合物薄膜にはイオン注入処理を施されている表面被覆切削工具。」 (3)刊行物3 ア 【特許請求の範囲】の請求項1?3 「【請求項1】 Co,NiまたはCoおよび/またはNiを主成分として含む固溶合金でなる結合相2?25重量%と、残りが周期律表の4a,5a,6a族金属の炭化物,窒化物,炭酸化物,窒酸化物およびこれらの相互固溶体から選ばれた少なくとも1種の硬質相と、不可避不純物とでなる焼結合金の基体の表面に単層または多層でなる被膜を被覆してなる被覆焼結合金であって、該被膜の表面にはクラックが存在しなく、該基体の表面から内部に向って50μmまでの基体表面部における該硬質相に30kgf/mm^(2)以上の圧縮応力が付与されていることを特徴とする高靭性被覆焼結合金。 【請求項2】 上記被膜は、膜厚が0.5?15.0μmでなることを特徴とする請求項1記載の高靭性被覆焼結合金。 【請求項3】 上記被膜は、Tiの炭化物,窒化物,炭窒化物,炭酸化物,窒酸化物,炭窒酸化物およびTiとAl,Zr,Hf,V,Nb,Ta,Cr,Mo,Wの中の1種以上との複合炭化物,複合窒化物,複合炭窒化物,複合炭酸化物,複合窒酸化物,複合炭窒酸化物,Alの酸化物の中から選ばれた1種の単層または2種以上の多層でなり、該被膜に50kgf/mm^(2)以上の圧縮応力が付与されていることを特徴とする請求項1または2記載の高靭性被覆焼結合金。」 イ 段落【0001】 「【産業上の利用分野】本発明は、耐衝撃性および耐欠損性に優れる被覆焼結合金に関し、具体的には、例えば旋削工具,フライス工具,ドリル,エンドミルに代表される切削工具、製缶工具等の切断刃,ノズルに代表される耐摩耗工具または各種の工具として最適な高靭性被覆焼結合金に関するものである。」 ウ 【表1】 本発明品1として被膜の厚さが0.5μm、被膜の残留応力が68kgf/mm^(2)(0.67GPa)、比較品1として被膜の厚さが0.5μm、被膜の残留応力が102kgf/mm^(2) (1.00GPa)であるものが記載されている。 これらの事項からみて、刊行物3には、次の事項が記載されているものと認められる。 「表面被覆切削工具において、炭化タングステンとコバルトとを含む超硬合金基材と、前記超硬合金基材の上に被覆され、チタンおよびアルミニウムの元素と窒素の元素との組合せからなる化合物薄膜と、を備え、前記化合物薄膜の厚みは、0.5μmあり、前記化合物薄膜には、圧縮の残留応力が0.67GPaないし1.00GPa付与されていること。」 (4)刊行物5 ア 段落【0001】 「【産業上の利用分野】本発明は乾式切削や高硬度鋼の高速切削など、切削温度が極めて高くなる切削において優れた耐摩耗性を発揮する被覆工具に関する。」 イ 段落【0011】 「【実施例】実施例に基づき本発明を説明する。 実施例1 市販の平均粒径0.2ミクロンから1.5ミクロンのWC粉末と同1ミクロンのCo粉末を用いCo含有量が7wt%になるようアトライターでアルコール中6時間調合、混合しφ10mmの本発明ボールエンドミルを製作した。これらエンドミルをTi(50)Al(50)のターゲットを用いアークイオンプレーティング法により、コーティング膜厚 2ミクロンの条件下でTiAlNをコーティングし表1に示す本発明エンドミル、比較エンドミルを製作した。」 ウ 【表1】 本発明例1?13の皮膜の残留圧縮応力として、0.80?1.27GPa、比較例14?26の皮膜の残留圧縮応力として、1.91?6.01GPaのものが記載されている。 これらの事項からみて、刊行物5には、次の事項が記載されているものと認められる。 「表面被覆切削工具において、炭化タングステンとコバルトとを含む超硬合金基材と、前記超硬合金基材の上に被覆され、チタンおよびアルミニウムの元素と窒素の元素との組合せからなる化合物薄膜と、を備え、前記化合物薄膜には圧縮の残留応力が0.80?1.27GPa付与されていること。」 3 刊行物1に基づく対比・判断 本願発明と引用発明1とを対比すると、両者の一致点と相違点は次のとおりと認められる。 [一致点] 「プリント回路基板用の表面被覆切削工具であって、 炭化タングステンとコバルトとを含み、コバルトの含有量が4質量%以上、12質量%以下である超硬合金基材と、 前記超硬合金基材の上に被覆され、チタンおよびアルミニウムの群から選択される1種以上の元素と、炭素および窒素から選択される1種以上の元素との組合せからなる化合物薄膜と、を備える、表面被覆切削工具。」である点。 [相違点1] 本願発明1では、工具径が3.175mm以下であるのに対し、引用発明1では、工具径がそのように特定されていない点。 [相違点2] 本願発明では、化合物薄膜の厚みは、0.05μm以上、1.5μm以下であり、前記化合物薄膜には、圧縮の残留応力が0.1GPa以上、8GPa以下付与されているのに対し、引用発明では、化合物薄膜の厚みは、0.1?8μmであり、また、残留応力については不明である点。 上記相違点について検討する。 [相違点1について] プリント回路基板用の表面被覆切削工具において、工具径が3.175mm以下のものは普通に知られており、刊行物1にも「半導体のプリント基板に穴あけ加工する微細径のドリルとして使用されると一層その効果が発揮される」(段落【0026】参照)と記載されており、引用発明における工具径として3.175mm以下のものにすることに格別の困難性はない。 [相違点2について] 刊行物1には、「この硬質膜の膜厚さは、用途、形状、膜質、膜の構成などにより選定する必要があり、工具として使用する場合には、0.1?20μm膜厚さでなることが耐摩耗性および耐剥離性から好ましいことである。また、工具のうち、耐折損性または耐衝撃性を重要視する、例えば回転切削工具、断続切削工具などに使用する場合には、硬質膜厚さは、0.1?8μmでなる場合が好ましく、さらに1?5μmからなる場合が好ましいことである。」(段落【0025】参照)と記載されており、化合物被膜の厚さをどの程度とするかは工具の用途、工具径等に応じて適宜選択すべき事項と認められるところ、0.05μm以上、1.5μm以下とすることに格別困難性は見出せない。 一方、刊行物3には、上記2(3)に示したとおり、「表面被覆切削工具において、炭化タングステンとコバルトとを含む超硬合金基材と、前記超硬合金基材の上に被覆され、チタンおよびアルミニウムの元素と窒素の元素との組合せからなる化合物薄膜と、を備え、前記化合物薄膜の厚みは、0.5μmあり、前記化合物薄膜には、圧縮の残留応力が0.67GPaないし1.00GPa付与されていること。」が記載され、刊行物5には、上記2(4)に示したとおり、「表面被覆切削工具において、炭化タングステンとコバルトとを含む超硬合金基材と、前記超硬合金基材の上に被覆され、チタンおよびアルミニウムの元素と窒素の元素との組合せからなる化合物薄膜と、を備え、前記化合物薄膜には圧縮の残留応力が0.80?1.27GPa付与されていること。」が記載されている。また、表面被覆切削工具において、耐摩耗性、耐欠損性等を向上させるために被膜に圧縮の残留応力を付与することは、従来周知の事項でもある(必要であれば、特開平7-41963号公報の第3頁第3欄第13?18行、特開平8-27562号公報の第3頁第4欄第31?41行等の記載を参照)。 そして、耐摩耗性、耐欠損性等の向上は引用発明1も有する課題であることは明らかであるから、引用発明1において刊行物3、5に記載の事項及び従来周知の事項を適用して上記相違点2に係る本願発明の特定事項とすることには格別困難性は見出せない。 本願発明の奏する作用効果についてみても、引用発明1、刊行物3,5に記載の事項及び従来周知の事項から当業者が十分予測しうる範囲内のものであって、格別顕著なものとはいえない。 したがって、本願発明は、引用発明1、刊行物3,5に記載の事項及び従来周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 4 刊行物2に基づく対比・判断 本願発明と引用発明2とを対比すると、引用発明2の「工具径が1mm」は、本願発明の「工具径が3.175mm以下」に含まれる。また、コバルトの含有量及び化合物薄膜の厚みについて、引用発明2の「4質量%以上、15質量%以下」、「0.1μm以上、1.5μm以下」は、本願発明の「4質量%以上、12質量%以下」、「0.05μm以上、1.5μm以下」と、それぞれ「4質量%以上、12質量%以下」、「0.1μm以上、1.5μm以下」の範囲で重複している。 したがって、両者の一致点と相違点は次のとおりと認められる。 [一致点] 「工具径が3.175mm以下のプリント回路基板用の表面被覆切削工具であって、 炭化タングステンとコバルトとを含み、コバルトの含有量が4質量%以上、12質量%以下である超硬合金基材と、 前記超硬合金基材の上に被覆され、チタンおよびアルミニウムの群から選択される1種以上の元素と、炭素および窒素から選択される1種以上の元素との組合せからなる化合物薄膜と、を備え、 前記化合物薄膜の厚みは、0.1μm以上、1.5μm以下である、表面被覆切削工具。」である点。 [相違点3] 化合物薄膜には、本願発明では、圧縮の残留応力が0.1GPa以上、8GPa以下付与されているのに対し、引用発明2では、イオン注入処理が施されており、圧縮の残留応力が付与されているか否かは明らかでない点。 上記相違点3について検討する。 刊行物3、5には、上記のように、それぞれ、「化合物薄膜には、圧縮の残留応力が0.67GPaないし1.00GPa付与されていること。」、「化合物薄膜には圧縮の残留応力が0.80?1.27GPa付与されていること。」が記載されている。また、表面被覆切削工具において、耐摩耗性、耐欠損性等を向上させるために被膜に圧縮の残留応力を付与することは、上述のように、従来周知の事項でもある。 さらに、本願発明は、薄膜にイオン注入処理が施されたものを排除するものではない。 そして、耐摩耗性、耐欠損性等の向上は引用発明2も有する課題であることは明らかであるから、引用発明2において刊行物3、5に記載の事項及び従来周知の事項を適用して上記相違点3に係る本願発明の特定事項とすることは当業者が容易になし得たことである。 本願発明の奏する作用効果についてみても、引用発明2、刊行物3,5に記載の事項及び従来周知の事項から当業者が十分予測しうる範囲内のものであって、格別顕著なものとはいえない。 したがって、本願発明は、引用発明2、刊行物3,5に記載の事項及び従来周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 なお、請求人は平成21年1月8日付け意見書において、概略、以下のように主張している。 (1)刊行物1について、表5に示された実施例の記載に重大な欠陥があり、文字通りに理解することはできない。また、本願発明のように、耐折損性を向上させるために化合物薄膜に所定の残留応力を付与することについて何らの記載も示唆もない。 (2)刊行物2について、薄い被覆層を設けるのは刊行物2に記載の発明がイオン注入を行なうことを特徴としているからであり、刊行物2には、それ以外に積極的に薄い被膜を設けることの有用性は開示されていない。 (3)刊行物3について、表2を見ると、同じ被膜厚さで、本発明品の試料1より残留応力がむしろ大きい比較品の試料1では折損に至るまでの平均衝撃回数が少なく、被膜における残留応力が小さい方が好ましいことを示唆しているので、被膜厚さとして0.5μm、残留応力として68kgf/mm2が開示されているとしても、この構成を引用文献1または2に記載の発明に適用して、本願発明のように薄膜化と共に所定の残留応力の付与することにより、耐折損性を向上させるという発明に想到することがあり得ない。また、ショットピーニング法やサンドブラスト法などにより衝撃力を付与する方法は、本願発明の対象である3.175mm以下の小径のルータカッターや小径のドリルなどのプリント回路基板用の切削工具に用いることはできない。 (4)刊行物5について、皮膜の残留応力を如何に小さくするかを課題としており、積極的に比較的大きな残留応力を化合物薄膜に付与することで耐折損性を向上させる本願発明とは正反対の発明である。 しかしながら、(1)については、刊行物1の表5には矛盾する記載が見られるが、段落【0025】には、「工具のうち、耐折損性または耐衝撃性を重要視する、例えば回転切削工具、断続切削工具などに使用する場合には、硬質膜厚さは、0.1?8μmでなる場合が好ましく」と記載されていることからも、耐折損性を考慮して被膜が形成されるものということができ、また、刊行物3、5には、表面被覆切削工具において化合物薄膜に所定範囲の圧縮の残留応力を付与することが記載されているとともに、表面被覆切削工具において、耐摩耗性、耐欠損性等を向上させるために被膜に圧縮の残留応力を付与することは従来周知の事項でもあるから、引用発明1において被膜に圧縮の残留応力を付与することは当業者が容易になし得たことである。 また、(2)について、上述のとおり、本願発明は、薄膜にイオン注入処理が施されたものを排除するものではなく、また、刊行物3、5には、表面被覆切削工具において化合物薄膜に所定範囲の圧縮の残留応力を付与することが記載されているとともに、耐摩耗性、耐欠損性等の向上のために被膜に圧縮の残留応力を付与することは従来周知の事項でもあるから、引用発明2における化合物薄膜に圧縮の残留応力を付与すること当業者が容易になし得た事項というべきである。 (3)について、表1によれば、比較品の試料1は「基体の表面から各深さにおける残留応力」が本発明品よりもかなり小さな値であり、比較品が折損に至るまでの平均衝撃回数が少ないのは、直ちに被膜の残留応力によるものということはできない。また、衝撃力を付与する方法以外にも圧縮残留応力を付与する方法は従来知られており、小径のプリント回路基板用の切削工具に対して被膜に圧縮残留応力を付与することができないとまではいえない。 (4)について、刊行物5には圧縮の残留応力が増大すると被膜の密着性が劣化することが記載されているが、被膜に適正な残留応力を付与すべきことは技術常識からも明らかであるともに、刊行物5には、少なくとも本願発明で特定される範囲の残留応力が付与されることが記載されている。してみると、引用発明1,2の被膜に圧縮の残留応力を付与することができないとすることはできない。 よって、請求人の上記主張は採用することができない。 5 むすび 以上のとおりであり、本件出願の請求項1に係る発明は、引用発明1又は2、刊行物3,5に記載の事項及び従来周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 したがって、本件出願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2009-02-02 |
結審通知日 | 2009-02-03 |
審決日 | 2009-02-20 |
出願番号 | 特願2002-235624(P2002-235624) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(B23B)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 中村 泰二郎 |
特許庁審判長 |
前田 幸雄 |
特許庁審判官 |
鈴木 孝幸 尾家 英樹 |
発明の名称 | 表面被覆切削工具 |
代理人 | 深見 久郎 |
代理人 | 堀井 豊 |
代理人 | 酒井 將行 |
代理人 | 野田 久登 |
代理人 | 仲村 義平 |
代理人 | 森田 俊雄 |
代理人 | 荒川 伸夫 |