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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B 審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 G02B |
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管理番号 | 1196061 |
審判番号 | 不服2007-30438 |
総通号数 | 114 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2009-06-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2007-11-08 |
確定日 | 2009-04-09 |
事件の表示 | 特願2002-551633「フィールドフラットナー」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 6月27日国際公開、WO02/50596〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成12年(2000年)12月19日を国際出願日とする出願(特願2002-551633号)であって、平成19年10月4日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成19年11月8日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、平成19年12月7日付けで手続補正がなされたものである。なお、平成19年12月7日付けの手続補正は、この手続補正の際に提出された手続補正書に対する平成19年12月17日付けの手続補正指令に対応して提出された平成19年12月25付けの手続補正書により方式上の瑕疵が治癒されたものである。 その後、当審において平成20年11月14日付けで審尋を行い、平成21年1月19日付けで回答書が提出された。 第2 平成19年12月7日付けの手続補正についての補正の却下の決定について [補正の却下の決定の結論] 平成19年12月7日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。 [理由]新規事項の追加違反 1 本件補正について 特許請求の範囲の請求項1は、本件補正により、国際出願日における明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載の、 「光学系により結像される彎曲した像面を平坦化する機能を有するフィールドフラットナーであって、フィールドフラットナーを構成する材料の屈折率が2以上であり、光軸を含み光軸方向に切断されたフィールドフラットナーの断面形状が光軸から周縁に向けて階段形状を成すように形成され、この階段形状における光軸方向に面を成す段差部の軸方向高さが使用光線の波長の2倍以上であることを特徴とするフィールドフラットナー。」が、 「光学系により結像される彎曲した像面を平坦化する機能を有するフィールドフラットナーであって、フィールドフラットナーを構成する材料の屈折率が2以上であり、光軸を含み光軸方向に切断されたフィールドフラットナーの断面形状が光軸から周縁に向けて階段形状を成すように形成され、この階段形状における光軸方向に面を成す段差部の軸方向高さが回折現象の発生を回避する高さであって、かつ使用光線の波長の2倍以上の高さであることを特徴とするフィールドフラットナー。」と補正された。 この補正は、請求項1に係る発明において、階段形状における光軸方向に面を成す段差部の軸方向高さについて、「使用光線の波長の2倍以上」とされていたものを、「回折現象の発生を回避する高さであって、かつ使用光線の波長の2倍以上の高さ」であると特定するものである。 2 新規事項の追加について 本件補正後の請求項1の上記の「回折現象の発生を回避する高さであって、かつ使用光線の波長の2倍以上の高さ」は、 ・回折によるパターンができる高さを避けること、 ・使用光線の波長の2倍以上とすること の2つの条件を満たすことを意味しているものと解釈することができる。 この点、本件補正により請求項1に追加された「回折現象の発生を回避する高さ」について、平成21年1月19日付けで提出された回答書には、次のように記載されている。 「審判官殿は、請求項1の記載「段差部の軸方向高さが回折現象の発生を回避する高さであって、かつ使用光線の波長の2倍以上の高さであること」と、明細書の発明の詳細な説明の記載「なお、段差部2bの高さdが使用する光線の波長と同程度である場合には回折現象が起こるため、迷光が発生し光量損失が起こる。このため、高さdは使用する光線の波長に対して十分大きく、例えば使用する光線の少なくとも2倍以上とする必要がある。」とは整合していないものと認めています。 しかしながら、明細書の発明の詳細な説明の当該記載は、段差部の高さを「使用光線の波長の2倍以上の高さ」とすることにより、完全ではありませんが回折成分の発生を抑制することができることを意味しているにすぎません。 即ち、段差部の高さが「使用光線の波長の2倍以上の高さ」であれば、回折成分の発生を抑制することができますが、段差部の高さが2倍以上の高さの範囲内であっても、回折成分がパターンを作って回折作用が強くなることを回避することはできません。 一方、使用光線の波長の2倍以上の範囲内において段差部の高さを「回折現象の発生を回避する高さ」とすることにより、回折成分が強いパターンを作るのを抑制することができます。この効果は、明細書の発明の詳細な説明の段落[0020]の記載「屈折率nの媒質を長さl伝搬した後では、空気中のみを伝搬するときよりも焦点位置が(1/n_(0)-1/n)×l後方に移動する。」に示されています。もし回折によるパターンができる場合、即ち段差部の高さを2πmに合わせた場合には、回折によるパターンが大きくなってしまい、回折現象の発生を効果的に抑制することができません。 従って、上記の請求項1の記載は、段差部の高さを「使用光線の2倍以上の高さ」とすることによって回折成分の発生を抑制することと、段差部の高さを「回折現象の発生を回避する高さ」とすることによって回折成分のパターンの形成を抑制することとを組み合わせることにより、回折現象の発生を効果的に抑制することを意味しています。 」 上記の回答書の記載によれば、本件補正によって追加された「回折現象の発生を回避する高さ」は、(使用光線の波長の2倍以上の高さであっても、)使用光線波長の整数倍(2πm)の高さを避けた高さであることを意味することが明らかである。すなわち、本件補正により補正された請求項1の「回折現象の発生を回避する高さであって、かつ使用光線の波長の2倍以上の高さである」は、「使用光線の波長の2倍以上の高さであっても、使用光線波長の整数倍(2πm)の高さを避ける」ことを意味しているといえる。 これに対して、国際出願日における明細書及び図面には、階段形状における光軸方向に面を成す段差部の軸方向高さについて、使用光線波長の整数倍(2πm)の高さを避けた高さであること直接明示する記載は認められない。なお、回折現象を避けることに関しては、上記明細書に「段差部2bの高さdが使用する光線の波長と同程度である場合には回析現象(当審注;「回折現象」の誤りと思われる)が起こるため、迷光が発生し光量損失が起こる。このため、高さdは使用する光線の波長に対して十分大きく、例えば使用する光線の少なくとも2倍以上とする必要がある。」という記載が認められるが、これは、段差部の高さを例えば使用する光線の少なくとも2倍以上とすることにより、使用する光線の波長程度(2πm;m=1)の高さを避けることを意味しているものであり、使用する光線の波長の2以上の整数倍(2πm;m=2,3,・・・)の高さを避けることまで記載しているものとはいえない。 したがって、本件補正は、国際出願日における明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものとはいえない。 したがって、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであるから、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定によって却下されるべきものである。 第3 本願発明について 1 本願発明 平成19年12月7日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、国際出願日における明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるものである。(「第2 平成19年12月7日付けの手続補正についての補正の却下の決定について」の「1 本件補正について」の記載参照。) 2 引用例 (1)原査定の拒絶の理由に引用され、本願の国際出願日前に頒布された刊行物である特開平7-56083号公報(以下、「引用例1」という。)には、図面の記載とともに、以下の事項が記載されている。(下記の「(2)引用例1に記載された発明の認定」において直接引用した記載に下線を付した。) 「【0005】 【課題を解決するための手段】本発明は、フィールドカーバチャ及び球面収差を補正することが可能なレンズに関し、特に、所望のフィールド補正を実現する等倍かつ非平面のバルク光学素子に関する。 【0006】本発明に係る実施例によれば、通過する波形に所定の位相差を導入するように機能する階段状のプロファイルを有する等倍率のレンズが形成される。この等倍率のレンズは、入力波面列を複数個の環状波面部分に再配置するために用いられる。前記階段状のプロファイルによって制御され位相差を含んだ複数個の波面部分からなる合成波形は、光学画像システムの所定の収差を補償する所定のカーバチャを示すように配置される。 【0007】画像システムを通過して伝播する光軸外光束に生じたフィールドカーバチャ(ρ)を補償するレンズも形成され得る。所謂”フィールドフラットナー”レンズの階段状のプロファイルは、システムのカーバチャの反対の符号を有するフィールドカーバチャ(ρ)を実現してそれによって固有のフィールドカーバチャを打ち消すような円状カーバチャRを近似するように設計される。特に、本発明に係るレンズの各々の段差は、平面レンズ表面に平行な第一面と前記平面レンズ表面に垂直な高さSの段差よりなり、前記光学システムに対してこのレンズによる倍率が本質的に導入されないようになっている。本発明に係るフィールドカーバチャ修正のための実施例に従って、各々の段差は実質的に同一の高さSの段差よりなる。ここでSは入射光信号の波長の関数であり、通過する信号に対して2πの位相差を与えるように決定される。段差の大きさSに関連して段差の総数NはレンズのカーバチャRを決定する。特に、段差の大きさが減少するにつれて段差数Nが増加し、レンズのカーバチャの近似が改善される。」 「【0010】図1は本発明に係る、システムに固有のフィールドカーバチャを実質的に打ち消すために必要とされるフィールドカーバチャを導入することが可能な等倍率非平面フィールドカーバチャ補正レンズ10の側面図である。図に示されているように、レンズ10は平面表面12と、階段状プロファイルを有する平凸構造を形成するように平面表面12に関して形成された一連の階段状の領域14よりなる。各々の領域14は、面12に対して平行な面16と面12に対して垂直な段差18とを有しており、この平行/垂直配置がレンズ10がシステムに対して付加的な倍率を与えないことを保証している。段差の高さSは、通過する波面に対して2πm(m=1,2,3,...)の位相差を与えるように選択されており、このフィールドカーバチャ補正レンズ10は各々の段差が実質的に同一の高さSよりなるように設計されている。以下で詳細に説明されるように、例えば球面収差を補正する場合のように、素子の断面形状に関して段差の高さSが変化しているような応用例も存在する。しかしながら図1に示されているようなフィールドカーバチャのみを補正することが要求されている場合には、段差の高さSは実質的に一定となる。また、図6に図示するように、レンズ10は、平凹レンズでもよい。」 【図1】ないし【図3】及び【図5】の記載から、レンズの階段状のプロファイルが、光軸を含み光軸方向に切断されたフィールドフラットナーの断面形状が光軸から周縁に向けて階段形状を成すように形成されていることが見て取れる。 (2)引用例1に記載された発明の認定 上記記載から、引用例1には、フィールドフラットナーに関し、 「フィールドカーバチャ及び球面収差を補正することが可能なレンズであって、 通過する波形に所定の位相差を導入するように機能する階段状のプロファイルを有する等倍率のレンズが形成され、 レンズの階段状のプロファイルが、光軸を含み光軸方向に切断されたフィールドフラットナーの断面形状が光軸から周縁に向けて階段形状を成すように形成されており、 レンズの階段状のプロファイルは、システムのカーバチャの反対の符号を有するフィールドカーバチャ(ρ)を実現してそれによって固有のフィールドカーバチャを打ち消すような円状カーバチャRを近似するように設計され、 レンズの各々の段差は、平面レンズ表面に平行な第一面と前記平面レンズ表面に垂直な高さSの段差よりなり、 段差の高さSは、通過する波面に対して2πm(m=1,2,3,...)の位相差を与えるように選択されているフィールドフラットナー。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。 3 当審の判断 (1)対比 ここで、本願発明と引用発明とを対比する。 引用発明の「フィールドカーバチャ及び球面収差を補正することが可能なレンズ」であること及び「レンズの階段状のプロファイルは、システムのカーバチャの反対の符号を有するフィールドカーバチャ(ρ)を実現してそれによって固有のフィールドカーバチャを打ち消すような円状カーバチャRを近似するように設計され」ることが、本願発明の「光学系により結像される彎曲した像面を平坦化する機能を有するフィールドフラットナー」であることに相当する。 引用発明の「通過する波形に所定の位相差を導入するように機能する階段状のプロファイルを有する等倍率のレンズが形成され、レンズの階段状のプロファイルが、光軸を含み光軸方向に切断されたフィールドフラットナーの断面形状が光軸から周縁に向けて階段形状を成すように形成されて」いることが、本願発明の「光軸を含み光軸方向に切断されたフィールドフラットナーの断面形状が光軸から周縁に向けて階段形状を成すように形成され」る点に相当する。 引用発明の「段差の高さSは、通過する波面に対して2πm(m=1,2,3,...)の位相差を与えるように選択されている」点は、上記においてm=2,3,・・・を選択することを含むものであるから、段差高さが使用光線の波長の2倍以上である場合を含むものであることは明らかである。したがって、引用発明の「段差の高さSは、通過する波面に対して2πm(m=1,2,3,...)の位相差を与えるように選択されている」ことは、上記においてm=2,3,・・・を選択することを勘案すれば、本願発明の「この階段形状における光軸方向に面を成す段差部の軸方向高さが使用光線の波長の2倍以上であること」を包含している。 (2)一致点 したがって、引用発明と本願発明とは、 「光学系により結像される彎曲した像面を平坦化する機能を有するフィールドフラットナーであって、光軸を含み光軸方向に切断されたフィールドフラットナーの断面形状が光軸から周縁に向けて階段形状を成すように形成され、この階段形状における光軸方向に面を成す段差部の軸方向高さが使用光線の波長の2倍以上であることを特徴とするフィールドフラットナー。」の発明である点で一致し、次の点で相違する。 (3)相違点 本願発明が、「フィールドフラットナーを構成する材料の屈折率が2以上」であるのに対して、引用発明においては、そのような限定がなされていない点。 (4)相違点についての検討 上記相違点について検討する。 屈折率が2以上の材料としては、ゲルマニウム、シリコン、カルコゲナイトガラスなどがあり(本願明細書の【発明の詳細な説明】の「実施の形態1.」の記載参照)、これらの材料は、収差補正や像面補正に用いられるレンズの材料として周知の材料であるといえる。そして、引用発明においても、フィールドフラットナーの材料として上記周知の材料を採用することに格別の困難性は認められない。 また、一般に、光線が屈折率nの媒質を長さl伝搬した後では、空気中(屈折率n_(0))のみを伝搬するときよりも焦点位置が(1/n_(0)-1/n)×l後方に移動するのであるから(本願明細書の【発明の詳細な説明】の「実施の形態1.」の記載参照)、屈折率を大きくすることにより、光線が通過する媒質の長さ(フィールドフラットナーの厚さ)を短く(薄く)することができることは明らかである。そして、屈折率の下限を2としたことに臨界的意義も認められないから、フィールドフラットナーの厚さを薄くするために、「フィールドフラットナーを構成する材料の屈折率が2以上」とすることに格別の困難性は認められない。 よって、引用発明において上記相違点1に係る本願発明の発明特定事項を得ることは当業者が容易に想到し得た事項である。 そして、本願発明によってもたらされる効果は、上記引用発明及び上記周知技術から当業者が予測し得る程度のものである。 (5)まとめ したがって、本願発明は、引用例1に記載された発明及び上記の周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 第4 むすび 以上のとおり、本願発明は、引用例1に記載された発明及び上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2009-02-05 |
結審通知日 | 2009-02-10 |
審決日 | 2009-02-24 |
出願番号 | 特願2002-551633(P2002-551633) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(G02B)
P 1 8・ 561- Z (G02B) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 瀬川 勝久 |
特許庁審判長 |
末政 清滋 |
特許庁審判官 |
森林 克郎 武田 悟 |
発明の名称 | フィールドフラットナー |
代理人 | 曾我 道治 |
代理人 | 古川 秀利 |
代理人 | 鈴木 憲七 |
代理人 | 梶並 順 |
代理人 | 上田 俊一 |
代理人 | 大宅 一宏 |