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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G10L
管理番号 1196068
審判番号 不服2004-22459  
総通号数 114 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-06-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-11-01 
確定日 2009-04-07 
事件の表示 平成 8年特許願第247610号「合成フィルタの周波数応答に基づく知覚ノイズマスキング測定法」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年 6月10日出願公開、特開平 9-152895〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 本願発明
本願は、平成8年9月19日の出願(パリ条約による優先権主張 米国(US) 1995年9月19日)であって、本願の請求項1ないし10に係る発明は、本願明細書および図面の記載からみて、その請求項1ないし10にそれぞれ記載されたとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という)は、平成15年6月16日付けの手続補正書により補正された明細書および図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。
「音声情報を表わす信号を符号化する方法において、
該音声情報を表わす信号に関連した量子化された合成フィルタの係数のセットを発生するステップ、
該量子化されたフィルタ係数のセットに基づき、該音声情報を表わす信号に関連したノイズマスキング度の推定値を表わす第1の信号を発生するステップ、ここで該ノイズマスキング度は該音声情報を表わす信号によりマスクされているノイズの量を表わすものであり、
該第1の信号に基づいて該音声情報を表わす信号を量子化するステップ、及び
該量子化された信号に基づいて符号化信号を発生するステップとからなる方法。」

2 刊行物
これに対して、原審拒絶理由で引用された、本願の出願日前である平成7年9月12日に頒布された「特開平7-239700号公報」(以下、「刊行物1」という)は、「音声符号化装置」に関するものであって、その公報には次の事項が記載されている。
ア 「【0024】
【実施例】図1は、第1の発明による音声符号化装置の一実施例を示すブロック図である。ここでは、簡単のために、音源コードブックの探索において、マスキングしきい値にもとづいてコードブックのビット数を割り当てる例について示すが、適応コードブックや他のコードブックのビット割当に拡張することもできる。
【0025】図において、送信側では、入力端子100から音声信号を入力し、1フレーム分(例えば20ms)の音声信号をバッファメモリ110に格納する。
【0026】LPC分析回路130は、フレームの音声信号のスペクトル特性を表すパラメータとして、LSPパラメータを前記フレームの音声信号から周知のLPC分析を行いあらかじめ定められた次数Lだけ計算する。
【0027】次にLSP量子化回路140は、LSPパラメータを予め定められた量子化ビット数で量子化し、得た符号l_(k) をマルチプレクサ290へ出力するとともに、これを復号化してさらに線形予測係数a_(i) ′(i=1?P)に変換してインパルス応答計算回路170、合成フィルタ295へ出力する。
(中略)
【0029】マスキングしきい値計算回路205は、入力音声信号x(n)に対してN点のFET交換を行いスペクトルX(k)(k=0?N-1)を求め、さらにパワスペクトル|X(k)|^(2) を求め、これを臨界帯域フィルタあるいは聴覚モデルにより分析して、各臨界帯域毎のパワあるいはRMSを計算する。ここでパワを計算するには下式に従う。
【0030】
【数5】(中略)
【0031】ここで、bl_(i) 、bh_(i) は、それぞれi番目の臨界帯域の下限周波数、上限周波数を示す。Rは音声信号帯域に含まれる臨界帯域の個数である。臨界帯域については前記文献6等を参照できる。
【0032】次に、下式に従い、臨界帯域スペクトルに散布関数を畳み込む。
【0033】
【数6】(中略)
【0034】ここでsprd(j,i)は散布関数であり、具体的な値は前記文献4を参照できる。また、b_(max) は、角周波数πまでの間に含まれる臨界帯域の個数である。次に、下式に従い、マスキングしきい値スペクトルThi を計算する。
(中略)
【0040】次に、マスキングしきい値スペクトルT・i(i=1...b_(max) )に対して、周波数軸をバーク軸からヘルツ軸に変換したパワスペクトルP_(m) (f)を求め、これらを逆FFTすることにより、自己相関関数r(j)(j=0...N-1)を求める。次に、自己相関関数に対して、周知の線形予測分析を行うことにより、フィルタ係数b_(i) (i=1...P)を計算する。
【0041】聴覚重み付け回路220は、フィルタ係数b_(i) を用いて(14)式で定められる伝達特性を有するフィルタに通して聴覚重み付けを行い、重み付け信号x_(wm)(n)を得る。
【0042】
【数8】(中略)
【0043】ここで、γ_(1) 、γ_(2) は重み付け量を制御する定数であり、通常、0<γ_(2) <γ_(1)<1に選ぶ。
【0044】インパルス応答計算回路170では、(15)式の伝達特性を有するフィルタのインパルス応h_(wm)(n)をあらかじめ定められた長さまで求め、出力する。
(中略)
【0048】減算器190は、重み付け信号から合成フィルタ295の出力を減算して出力する。
【0049】適応コードブック210は、インパルス応答計算回路170から重み付けインパルス応答h_(w) (n)、減算器190から重み付け信号を入力し、長期相関にもとづくピッチ予測を行い、ピッチパラメータとして遅延Mとゲインβを計算する。以下の説明では適応コードブックの予測次数は1とするが、2次以上の高次とすることもできる。適応コードブックにおける遅延Mの計算は、前記文献1、2等を参照することができる。さらに、ゲインβを求め、下式により、適応コードベクトルx_(z) (n)を求めて、190の出力から減算する。
(中略)
【0051】ビット割当回路215は、マスキングしきい値計算回路205から、サブフレーム毎にマスキングしきい値スペクトルT_(i) またはT′_(i) またはT″_(i) を入力し、前記(2)式あるいは(3)式に従い、ビット割当を行う。ただし、フレーム全体でのビット数が下式のようにあらかじめ定められた値となるように、サブフレームの割当ビット数が下限ビット数、上限ビット数をこえないように、ビット数の調整を行う。
【0052】
【数10】(中略)
【0053】R_(min) <R_(j) <R_(max)ここで、R_(j) 、R_(T) 、R_(min) 、R_(max) はそれぞれ、j番目のサブフレームの割当ビット数、フレーム全体での合計ビット数、サブフレームの下限ビット数、サブフレームの上限ビット数を示す。また、Lはフレーム内でのサブフレームの個数である。以上の処理の結果、ビット割当情報をマルチプレクサ290へ出力する。
【0054】音源コードブック探索回路230は、ビット数の異なるコードブック(250_(1) から250_(N) )を有しており、サブフレーム毎の割当ビット数を入力し、ビット数に応じて、コードブック250_(1) から250_(N) を切り替える。そして、下式を最小化するように、音源コードベクトルを選択する。
(中略)
【0058】ゲインコードブック探索回路260は、選択された音源コードベクトルを用いて、ゲインコードブック270を用い、下式を最小化するようにゲインコードベクトルを探索し出力する。
(中略)
【0061】マルチプレクサ290は、LSP量子化回路140の出力、ビット割当回路215の出力、ゲインコードブック探索回路260の出力を組み合わせて出力する。」(4頁段落【0024】ないし6頁【0061】、図1)
イ 「【0077】なお、以上の実施例では、音源コードブックのビット数を適応的に割り当てる例について示したが、音源コードブックのみならず、LSPコードブック、適応コードブック、ゲインコードブックのいずれのビット割当にも、本発明は適用可能である。
【0078】また、ビット割当回路215、420におけるビット割当の方法としては、(2)式あるいは(3)式により一旦ビット数を割り当てた後に、実際に割り当てたビット数による音源コードブックを用いて量子化を行い、量子化雑音を測定し、下式を最大化するように、ビット割当を調整することもできる。」(7頁段落【0077】ないし【0078】)

してみると、刊行物1には以下の発明(以下、「刊行物1発明」という)が記載されている。
「LPC分析回路130が、フレームの音声信号のスペクトル特性を表すパラメータとして、LSPパラメータを前記フレームの音声信号から周知のLPC分析を行いあらかじめ定められた次数Lだけ計算し、次にLSP量子化回路140が、LSPパラメータを予め定められた量子化ビット数で量子化し、得た符号l_(k) をマルチプレクサ290へ出力し、
マルチプレクサ290が、LSP量子化回路140の出力、ビット割当回路215の出力、ゲインコードブック探索回路260の出力を組み合わせて出力する音声符号化方法」

3 本願発明と刊行物1発明との対比
本願発明と刊行物1発明を対比すると、
(1) 刊行物1発明は、LPC分析回路130が、フレームの音声信号のスペクトル特性を表すパラメータとして、LSPパラメータを前記フレームの音声信号から周知のLPC分析を行いあらかじめ定められた次数Lだけ計算し、次にLSP量子化回路140が、LSPパラメータを予め定められた量子化ビット数で量子化し、得た符号lk をマルチプレクサ290へ出力するから、刊行物1発明と本願発明とは、「音声情報を表わす信号に関連した量子化された合成フィルタの係数のセットを発生するステップ」からなる点で一致している。
刊行物1発明は、マルチプレクサ290が、LSP量子化回路140の出力、ビット割当回路215の出力、ゲインコードブック探索回路260の出力を組み合わせて出力する音声符号化についてのものであるから、刊行物1発明と本願発明とは、「音声情報を表わす信号を符号化する方法において、」「量子化された信号に基づいて符号化信号を発生するステップ」からなる方法に相当する構成を備えているといえる。
(2)したがって、両者は
「音声情報を表わす信号を符号化する方法において、
該音声情報を表わす信号に関連した量子化された合成フィルタの係数のセットを発生するステップ、
及び
該量子化された信号に基づいて符号化信号を発生するステップとからなる方法。」
である点で一致し、次の点で相違しているものと認められる。
ア 本願発明は、「量子化されたフィルタ係数のセットに基づき、音声情報を表わす信号に関連したノイズマスキング度の推定値を表わす第1の信号を発生するステップ」からなり、「ここで該ノイズマスキング度は該音声情報を表わす信号によりマスクされているノイズの量を表わすものであ」り、「該第1の信号に基づいて該音声情報を表わす信号を量子化するステップ」からなるのに対し、刊行物1発明は、マスキングしきい値スペクトルを得それにより聴覚重み付けを行うものである点

4 相違点アについての検討
刊行物1発明は、マスキングしきい値計算回路205が、入力音声信号に対してN点のFET交換を行いスペクトルを求め、さらにパワスペクトル を求め、これを臨界帯域フィルタあるいは聴覚モデルにより分析して、各臨界帯域毎のパワあるいはRMSを計算しており、次に、臨界帯域スペクトルに散布関数を畳み込み、次に、マスキングしきい値スペクトル を計算し、次に、マスキングしきい値スペクトルに対して、周波数軸をバーク軸からヘルツ軸に変換したパワスペクトルを求め、これらを逆FFTすることにより、自己相関関数を求め、次に、自己相関関数に対して、周知の線形予測分析を行うことにより、フィルタ係数を計算しており、上記2アによれば、刊行物1のものは、聴覚重み付け回路220は、フィルタ係数 を用いてマスキングしきい値スペクトルで定められる伝達特性を有するフィルタに通して聴覚重み付けを行い、重み付け信号を得るものである。
すると、マスキングしきい値は、音声情報を表わす信号によりマスクされるノイズのしきい値といえ、やはりノイズのマスキングを行うための信号であるから、本願発明のノイズの量を表すノイズマスキング度と格別の相違があるともいえない。
また、量子化されたフィルタ係数のセットに基づき、上記信号を発生するとしても、符号化された信号を発生するに止まるものであるところの本願発明において、上記フィルタ係数のセットが量子化されているかそうでないかは、格別の意味があるものといえず、適宜なしうる程度のことといえる。
そして、上記2イによれば、刊行物1のものは、ビット割当回路215、420におけるビット割当の方法としては、一旦ビット数を割り当てた後に、実際に割り当てたビット数による音源コードブックを用いて量子化を行うこともできるものである。
してみれば、「該量子化されたフィルタ係数のセットに基づき、音声情報を表わす信号に関連したノイズマスキング度の推定値を表わす第1の信号を発生するステップ」からなり、「ここで該ノイズマスキング度は該音声情報を表わす信号によりマスクされているノイズの量を表わすものであ」り、「該第1の信号に基づいて該音声情報を表わす信号を量子化するステップ」からなるようにすることは当業者が容易に推考しえた程度のことといえ、また、上記相違点に基づく本願発明の効果に格別顕著なものがあるともいえない。
なお、請求人は回答書において以下の如く主張している。
「『量子化された合成フィルタの係数のセットに基づいて生成された』第1の信号を用いて、知覚閾値とビット割当てを決定している。この相違点は、効率に大きな差をもたらす。その理由はビット割当て情報が本発明では送信される必要がないからである。代りに、ビット割当て情報は他の目的で送信されてきた合成フィルタ係数を用いて受信機サイドで導出される。」
しかしながら、請求項1に記載された発明は、ビット割当て情報を出力する点を排除しておらず、また、符号化信号を送信する点を具備しておらず単に符号化信号を発生するに止まる発明であるから、第1の信号が量子化された合成フィルタの係数のセットに基づいて生成されたとしても、請求項1に記載された発明が上記効果を奏するものと解することはできない。請求人の主張は請求項1の記載に基づくものとはいえず、採用できない。

5 むすび
したがって、本願発明は、刊行物1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-10-28 
結審通知日 2008-10-29 
審決日 2008-11-26 
出願番号 特願平8-247610
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G10L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 渡邊 聡  
特許庁審判長 原 光明
特許庁審判官 廣川 浩
板橋 通孝
発明の名称 合成フィルタの周波数応答に基づく知覚ノイズマスキング測定法  
代理人 本宮 照久  
代理人 朝日 伸光  
代理人 臼井 伸一  
代理人 加藤 伸晃  
代理人 岡部 正夫  
代理人 越智 隆夫  
代理人 産形 和央  
代理人 岡部 讓  

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