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審判番号(事件番号) データベース 権利
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不服200722790 審決 特許
不服20078928 審決 特許
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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12N
管理番号 1196071
審判番号 不服2005-22843  
総通号数 114 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-06-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-11-28 
確定日 2009-04-07 
事件の表示 平成 7年特許願第232356号「組換えメルサシジンおよびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成 8年 4月16日出願公開、特開平 8- 98695〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯・本願発明
本願は,平成7年9月11日(パリ条約による優先権主張1994年9月12日,ドイツ)の出願であって,平成17年8月18日付けで拒絶の査定がなされ,平成17年11月28日に拒絶査定不服の審判が請求されたものである。
本願の請求項1及び2に係る発明は,平成17年7月29日付けの手続補正書によって補正された明細書の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定される以下のとおりのものと認められる(以下,「本願発明1」及び「本願発明2」という)。
「【請求項1】 配列番号4のアミノ酸1番目から68番目までに示すアミノ酸配列から成るプレメルサシジン。
【請求項2】 請求項1のプレメルサシジンをコードするDNA。」

2 引用例の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された,本願の優先日前である1991年9月に頒布されたAngewandte Chemie International Edition in English, September 1991, Vol.30, No.9, p 1051-1068(以下「引用例」という。)には,次の事項が記載されている。

(a)「ランチビオティックは,鎖内スルフィド架橋を含んだ,ポリサイクリックなペプチド抗生物質である。…ランチビオティックは,リボソーム合成により生産され,不活性な前駆体タンパク質(プレランチビオティック)からスタートする。後者が,翻訳後に,酵素による修飾を通じて,活性なペプチド抗生物質に変換される。修飾酵素は,セリンおよびスレオニン残基を脱水素化し,生じたα,β不飽和二重結合に対して,システインチオール基を立体特異的に付加することによって,いくつかのスルフィド架橋を形成する。それに続いてリーダーペプチドがタンパク加水分解的に切断されることにより,生物学的に活性なランチビオティックが形成される。」(第1051頁 要旨部分 1行目?14行目)
(b)「これらのプレランチビオティックは,リーダー配列と,翻訳後に酵素的修飾を受けるプロランチビオティックとから,成っている。」(第1051頁右欄12行目?14行目)
(c)「メルサシジンの立体配座や生合成については何もわかっていないが,最近2D-1H-NMRを用いて,メルサシジンが解明された。」(第1058頁右欄1行目?3行目)
(d)図10にはメルサシジンの構造式が示され,次のような説明が付されている。「図10 NMRの研究による,テトラサイクリックなランチビオティックであるメルサシジンとアクタガルジンの,提案された構造式」(第1058頁 図10)
(e)「プロエピデルミンのペンタペプチド配列Lys-Phe-Ile-Cys-Thrに由来する混合DNAプローブを用いて,エピデルミンの構造遺伝子を探索した。…エピデルミンの構造遺伝子epiAが…。Sangerのダイデオキシ法によりepiAの配列決定をして,52アミノ酸からなるエピデルミンのオープンリーディングフレームを特定した。…結果として,構造遺伝子を配列決定することにより,私たちが解明したランチビオティックの化学構造が詳細に確認されたことを,強調しておかねばならない。」(第1063頁 左欄3行目?右欄4行目)
(f)図18には,プロメルサシジンのアミノ酸配列(図の(f))が示され,次のような説明が付されている。「(f)および(g)のプロランチビオティックの配列は,そのDNAに基づいては,まだ,確かめられていない。」(第1068頁 図18,同説明文2行目)

以上によれば,引用例には,(1)メルサシジンの実験的に決定された化学構造式及び(2)メルサシジンの化学構造式から推定されたプロメルサジンのアミノ酸配列,が記載されていると認めることができる。

3 本願発明との対比
本願発明2は「プレメルサシジンをコードするDNA」についてのものであるところ,引用例には,プロメルサシジンの推定アミノ酸配列が記載されている。したがって,両者はメルサシジンに関するものである点で一致し,前者は,そのプレ体をコードするDNAであるのに対し,後者はそのプロ体のアミノ酸配列であるという点で,相違する。

4 当審の判断
ア 上記相違点について判断する。
ペプチドの推定されているアミノ酸配列に基づいて,その配列に対応するプローブ又はプライマーを設計して,該プローブ等を用いてそのペプチドをコードする遺伝子をクローニングし,その塩基配列を確認する事は,周知技術であって,当業者が通常行うことである。引用例にも,ランチビオティックの一種であるエピデルミンについて,推定されたアミノ酸配列をもとに塩基配列を決定したことが記載されている。
プレメルサシジンが,そのリーダー配列が切断されてプロメルサシジンとなること,すなわち,そのアミノ酸配列の一部にプロメルサシジンの配列を含むことは当業者に周知であったから,引用例に記載されたプロ体のアミノ酸配列に基づいて,プロメルサシジンをコードするDNAに対応するプローブを作成して,成熟メルサシジン産生株のゲノム断片からプレメルサシジンをコードする遺伝子をスクリーニングにより取得し,DNAの塩基配列を決定することは,当業者が容易に成し得たことである。

イ この点について,請求人は,審判請求書において以下のように反論するが,以下述べるように理由がない。

(ア)請求人は,ランチビオティックは,多数の修飾アミノ酸残基を有しており,修飾ペプチドから元のアミノ酸配列の推定をする際に誤りが生じやすいこと及び,推定されていたプロメルサシジンのアミノ酸配列は,そのようなメルサシジン分子の性質上,誤りを含んでいる可能性が高かったことから,一般的なクローニング方法を定法に従って実行したのみでは,本願のプレメルサシジンをクローニングできなかった旨主張する。
しかしながら,その推定は,実験的に決定された成熟プロメルサシジンの構造を出発点にしたものであり,全20残基のアミノ酸のうち修飾されているのは6残基のみであるから,他のランチビオティクスと比較して修飾残基の数が多いとまでは言えず,誤りが生ずる可能性はそれほど大きいものとは言えない。事実,他のランチビオティックについては,請求人も認めるように,多くのプレペプチドをコードする遺伝子のクローニングの成功例が知られており,推定されたプロ体の配列は正しかったことが認められる。しかも,本件によって得られたDNAがコードしていたタンパク質は,推定配列と同一のものであったというのだから,結果として,本願発明のDNAは,一般的なクローニング方法を定法にしたがって実行したことによって得られたものにすぎず,この点に関して,スクリーニングに特別な困難があったと認めることはできない。

(イ)また,請求人は,メルサシジンと共通の性質を有するランチビオティクスであるアクタガルジンの構造式が,後に誤りであることが判明していまだにクローニングされていないことをもって,メルサシジンにおいてもクローニングが困難であったことを主張する。
しかし,両者に共通するいかなる性質がどのような理由でクローニングにおける困難さをもたらしたのかが,請求人の主張によっても定かではなく,明細書その他の証拠によっても,具体的に認定することができないので,そのような共通の性質のためにクローニングに特別な困難があったとはいえない。

(ウ)次に,請求人は,成熟メルサシジンは細菌破壊活性を持つのでクローニングの際に宿主細胞に有害作用をもたらすおそれがあったから,クローニングに際して格別の困難が生ずる蓋然性が高かった旨主張していると認められる。
しかし,毒性のないプレまたはプロメルサシジンが成熟して毒性を発揮するには適切な修飾を受ける必要があることは周知であったから,宿主としてそのような修飾酵素を持たない細胞を用いれば,そのような蓋然性は低くなるものと認められる。そして,最も一般的なクローニング用宿主であり,本願明細書に記載された実施例1でもクローニングに用いられている大腸菌は,グラム陰性菌であり,成熟メルサシジンを生産するグラム陽性菌のようなプレメルサシジンが成熟体となるために必要な酵素を有する可能性は低いと考えられる。すなわち,プレメルサシジンを発現させてクローニングさせても,大腸菌において毒性のある成熟体に修飾される可能性は低い。しかも,明細書や意見書を見ても,本件におけるクローニングの際に,実際にそのような格別の困難が生じ,何らかの解決手段を講じたとの事実は現れていない。

(エ)また,その他格別の事情が生じ,それを解決する必要にせまられたとの事実は認めることができない。請求人は,プローブとしてのゲスマー設計やハイブリダイゼーションの条件決定等,クローニングには特殊な工夫を要したと主張するが,これらはクローニングを行う際に通常行う範囲の工夫であって,特殊な困難が生じたために該工夫をする必要に迫られたものとは認められない。

ウ 以上によれば,プロメルサシジンの推定アミノ酸配列を出発点に,プレメルサシジンをコードする遺伝子のDNAを決定することを,何ら阻害する要因はなかったことになる。そして,本願発明が,引用例からは予期できない顕著な効果が奏されるものとはいえない。

5 むすび
したがって,本願の請求項2に係る発明は,引用例の記載及び本願優先日前の周知技術に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるので,その余の請求項について検討するまでもなく,本願は,特許法29条2項の規定により,特許を受けることができない。
よって,結論の通り審決する。
 
審理終結日 2008-10-28 
結審通知日 2008-11-04 
審決日 2008-11-17 
出願番号 特願平7-232356
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中村 花野子  
特許庁審判長 鵜飼 健
特許庁審判官 鈴木 恵理子
種村 慈樹
発明の名称 組換えメルサシジンおよびその製造方法  
代理人 高木 千嘉  

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