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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 H05K
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H05K
管理番号 1196216
審判番号 不服2007-7963  
総通号数 114 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-06-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-03-19 
確定日 2009-04-23 
事件の表示 平成9年特許願第253076号「回路基板」拒絶査定不服審判事件〔平成11年4月9日出願公開、特開平11-97807〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯
本願は、平成9年9月18日に出願したものであって、平成19年3月5日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年3月19日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同日付で手続補正がなされたものである。

II.平成19年3月19日付の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成19年3月19日付の手続補正を却下する。

[理由]
1.補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、次のとおりとなった。

「【請求項1】 セラミックス基板の一方の面に金属回路、他方の面に金属放熱板が設けられてなるものであって、金属回路及び/又は金属放熱板が異なる3種以上の金属が層状に重なったクラッド箔であることを特徴とする耐ヒートサイクル性に優れた回路基板。」
(以下、「本願補正発明1」という。)

上記補正は、補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である回路基板の構成を、「耐ヒートサイクル性に優れた」回路基板の構成に限定するものであって、特許法第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本願補正発明1が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か(特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第4項の規定に適合するか否か)について以下に検討する。

2.引用文献とその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開昭63-38244号公報(以下、「引用文献」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。

引用文献:特開昭63-38244号公報
(1a)
「<従来の技術>
パワーIC、ハイブリッドICでは、素子組込み用の基板として耐熱性、熱放散性および機械的強度に優れているセラミック基板が多用されている。・・・第4図はこのようなセラミック基板の一例を示すもので、セラミック基板4の表面には部分的に導体層として働く銅層1を、裏面には全面放熱層としての銅層1を設ける。
このセラミック基板4の従来の製造法は、・・・Cu層1を100μ?300μ施・・・すものである。」(第1頁右下欄15行?第2頁左上欄20行)
(1b)
「本発明の第3の態様は、アルミナ基板上に銅層を形成するために用いられるクラッド材であって、Cu層上にSn層さらにその上にAl-Si合金層が冷間圧接により一体化されている・・・クラッド材を提供する。
本発明の第4の態様は、アルミナ基板上に銅層を形成するために用いられるクラッド材であって、Cu層上にNi層さらにその上にAl-Si合金層が冷間圧接により一体化されている・・・クラッド材を提供する。」(3頁左上欄2?11行)
(1c)
「第2図は本発明の第3の態様のCu/Sn/Al-Si合金用クラッド材を示す断面図である。
Cu層1上にはSn層6を介してAl-Si合金層5を接合する。
・・・
Cu層1とSn層6とAl-Si合金層5との厚さは1:0.1:1?10:1:1とすることが好ましい。
Cu層1とAl-Si合金層5との間にSn層6を介することにより、セラミックと銅との接合性が良いばかりでなく、銅とAl-Si合金との間の金属的接着も良好となる。
・・・
第3図は本発明の第4の態様のCu/Ni/Al-Si合金クラッド材を示す断面図である。
Cu層1上にはNi層2を介してAl-Si合金層5を接合する。
・・・
Cu層1とNi層2とAl-Si合金層5との厚さは1:0.1:1?10:1:1が好ましい。
Cu層1とAl-Si合金層5との間にNi層2を介することにより、セラミックと銅との接合性ばかりでなく、銅とAl-Si合金との間の金属的接着も良好となる。」(3頁右下欄3行?4頁左上欄16行)
(1d)
「本発明の製造方法は、以上の本発明の・・・第3、第4の態様のいずれかのクラッド材をあらかじめ用意し、このクラッド材のAl-Si合金側をアルミナ等のセラミック基板側に配置し、・・・接合し、アルミナ基板上に銅層を導体層あるいは放熱層等として有する半導体装置用セラミック基板を得るものである。」(4頁右上欄1?9行)
(1e)
「本発明クラッド材は、あらかじめCu材とインサート金属同士が強力に接合されているうえに、Al-Si合金とセラミックとの極めて良い接合性が利用できるので、このクラッド材を用いて半導体装置用セラミック基板を製造すれば、セラミック板と銅材との接合の信頼性が大幅に向上する。」(4頁右上欄18行?左下欄4行)

3.対比・判断
3-1.引用文献に記載された発明
(ア)引用文献の摘記事項(1b)には、本発明の第3、第4の態様のクラッド材として、Cu層上にSn層またはNi層、さらにその上にAl-Si合金層が一体化されているクラッド材が記載され、摘記事項(1d)には、上記第3、第4の態様のいずれかのクラッド材をセラミック基板に配置し、接合して、アルミナ基板上に銅層を導体層あるいは放熱層等として有する半導体装置用セラミック基板を得る製造方法が記載されている。
引用文献の上記記載によれば、Cu層上にSn層またはNi層、さらにその上にAl-Si合金層が一体化されているクラッド材をセラミック基板に配置し、接合して、アルミナ基板上に銅層を導体層あるいは放熱層等として有する半導体装置用セラミック基板を得る製造方法が記載されているといえるから、そのような方法によって製造された、半導体装置用セラミック基板も記載されているといえる。
(イ)摘記事項(1a)によれば、パワーIC等の素子組込み用のセラミック基板には、該セラミック基板の表面に導体層が、裏面には放熱層が設けられるのであるから、摘記事項(1d)において、クラッド材をセラミック基板に配置し、接合してアルミナ基板上に形成される銅層は、導体層あるいは放熱層であることが理解できる。
(ウ)摘記事項(1a)によれば、パワーIC等の素子組込み用のセラミック基板に設けられる銅層の厚さは、100?300μm程度であるところ、摘記事項(1c)には、Cu層と、Sn層またはNi層と、Al-Si合金層との厚さが1:0.1:1?10:1:1であることが記載されている。
(エ)摘記事項(e)には、上記のクラッド材を用いて半導体装置用セラミック基板を製造すれば、セラミック板と銅材との接合の信頼性が大幅に向上することが記載されている。

上記(ア)?(エ)を考慮して、摘記事項(1a)?(1e)の記載を総合すると、引用文献には、次の発明(以下、「引用文献発明」という。)が記載されていると認められる。

「セラミック基板の表面に導体層が、裏面には放熱層が設けられるものであって、上記導体層あるいは放熱層は、Cu層上にSn層またはNi層、さらにその上にAl-Si合金層が一体化されているクラッド材をセラミック基板に配置し、接合して形成され、Cu層の厚さが100?300μm程度であり、Cu層と、Sn層またはNi層と、Al-Si合金層との厚さが1:0.1:1?10:1:1である、セラミック板と銅材との接合の信頼性が大幅に向上したセラミック基板。」

3-2.本願補正発明1と引用文献発明との対比
(オ)本願補正発明1と引用文献発明を対比すると、引用文献発明における「導体層」は、本願補正発明1における「金属回路」に相当し、以下同様に、「放熱層」は「金属放熱板」に、「表面」は「一方の面」に、「裏面」は「他方の面」に相当する。
(カ)クラッド「箔」について、本願明細書の【0013】段落には、クラッド箔の厚みについて、「クラッド箔を構成するそれぞれの金属の厚みは、金属aが30?200μm、金属bが100?500μm、金属cが5?30μmであることが好ましい。」と記載されているところ、引用文献発明のクラッド材も、Cu層と、Sn層またはNi層と、Al-Si合金層との合計の厚さが上記と同等であるから、クラッド「箔」であるといえる。
(キ)また、引用文献発明のクラッド材は、Cu層と、Sn層またはNi層と、Al-Si合金層という、「異なる3種の金属が層状に重なった」ものである。
そして、当該クラッド材をセラミック基板に配置し、接合すると、Al-Si合金層はろう材として作用した後に、Cu層及びSn層またはNi層と積層した状態で残存するものといえるから、「異なる3種の金属が層状に重なったクラッド箔」となるものと認められる。

してみると、両者は、
「セラミックス基板の一方の面に金属回路、他方の面に金属放熱板が設けられてなるものであって、金属回路及び/又は金属放熱板が異なる3種の金属が層状に重なったクラッド箔である回路基板。」
で一致するが、次の点で相違する。

相違点:本願補正発明1は、耐ヒートサイクル性に優れているのに対して、引用文献発明では、この点が記載されていない点。

3-3.相違点についての検討
引用文献発明は、摘記事項(1a)、(1e)によれば、パワーIC等の素子組込み用のセラミック基板において、セラミック基板と銅材との接合の信頼性が大幅に向上したものであるところ、パワーICがヒートサイクルの環境下で用いられることは、周知の事項であり、さらに、ヒートサイクルの環境下における、セラミック基板と銅材との熱膨張係数の違いに起因した熱応力への対応も、当業者が当然考慮すべき周知の課題である。
一方、本願補正発明1においては、「耐ヒートサイクル性に優れた」との特定がなされているが、セラミック基板の材質、3種以上の金属の材質、厚さ及び接合方法等、その具体的な構成が特定されておらず、或いは、耐ヒートサイクル性そのものの具体的な程度、または、何に比べて優れているのか等について特定されていないことからすれば、「優れた」との文言のみでは、単に、ヒートサイクルの環境下において使用される部材が要求される機械的性質を有しているとの事実を挙げているにすぎない。
してみると、引用文献発明も、パワーIC等に用いるものであること及びセラミック基板と銅材との接合の信頼性が大幅に向上したものであることから、「接合の信頼性」を「大幅に向上」させるに際して、耐ヒートサイクル性をも考慮し、「優れた」ものとすることは、その実施化にあたって考慮されるべき事項であり、当業者ならば容易に想到し得るものである。

そして、本願補正発明1の奏する効果も、引用文献の記載から予測できないような、格別に顕著なものとは認められない。

したがって、本願補正発明1は、引用文献に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.審判請求人の主張について
審判請求人は、引用文献に記載された発明は、2種の金属からなるクラッド箔に予め接合ろう材を一体化したものであるから、本願補正発明1とは課題、構成、及び機能・作用が異なる旨主張するが、本願の請求項1には、クラッド箔について「異なる3種以上の金属が層状に重なったクラッド箔」と記載するのみであって、各金属層の材質・機能・作用等について限定していないのであるから、引用文献発明のように特定の金属層がろう材からなるクラッド箔を除外するものとは認められない。
そして、上記3-2.(キ)で検討したように、引用文献発明におけるクラッド材をセラミック基板に配置し、接合したものも、「異なる3種の金属が層状に重なったクラッド箔」といえるのであるから、本願補正発明1と引用文献発明とが、この点で相違するものとはいえない。

5.本件手続補正についてのむすび
以上のとおりであるから、本願補正発明1は、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

III.本願発明について
1.本願発明
平成19年3月19日付手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、願書に最初に添付した明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める。

「【請求項1】 セラミックス基板の一方の面に金属回路、他方の面に金属放熱板が設けられてなるものであって、金属回路及び/又は金属放熱板が異なる3種以上の金属が層状に重なったクラッド箔であることを特徴とする回路基板。」

2.引用文献とその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献(特開昭63-38244号公報)には、上記II.2.に摘記した事項が記載されている。

3.対比・判断
3-1.引用文献に記載された発明
引用文献には、上記II.3-1.で認定した引用文献発明が記載されている。

3-2.本願発明1と引用文献発明との対比
本願発明1は、本願補正発明1の回路基板の構成における「耐ヒートサイクル性に優れた」という限定を解除するものであるから、本願発明1と引用文献発明とを対比すると、前記II.3-2.で検討した相違点は存在しない。

よって、本願発明1は、引用文献に記載された発明である。

4.むすび
以上のとおり、本願発明1は、引用文献に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に掲げる発明に該当し、特許を受けることができない。
また、上記のとおり本願発明1が特許を受けることができないため、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-02-17 
結審通知日 2009-02-24 
審決日 2009-03-10 
出願番号 特願平9-253076
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H05K)
P 1 8・ 113- Z (H05K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 森林 克郎  
特許庁審判長 藤原 敬士
特許庁審判官 市川 裕司
國方 康伸
発明の名称 回路基板  

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