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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01B
管理番号 1196285
審判番号 不服2007-5679  
総通号数 114 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-06-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-02-22 
確定日 2009-04-24 
事件の表示 特願2001-330628「超音波距離計測装置」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 5月 8日出願公開、特開2003-130627〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成13年10月29日の出願であって、平成19年1月16日付けで拒絶査定(送達:同年1月23日)がなされ、これに対して、同年2月22日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同日付けで手続補正がなされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1に係る発明は、平成19年2月22日付けの手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1に記載された「音速より早く」は「音速より速く」と認められるから、次のとおりのものと認める。(以下「本願発明」という。)

「【請求項1】 超音波振動子を底面部に装着した計測ノズルと、該計測ノズルの端部に接続され、液体の音速より速く、固有音響インピーダンスを大きくすることにより、前記超音波振動子からの超音波を途中の壁面で全反射して減衰することがないチューブと、前記計測ノズルの底面部近傍に設けた給液口とからなり、前記給液口から供給された液体を前記チューブの放出口から対象物に放出することにより、前記超音波振動子から放射されたパルス状の超音波を前記液体を介して前記対象物に照射し、前記対象物からの反射超音波を前記超音波振動子で受信して、前記超音波が照射されて受信されるまでの時間から前記対象物と前記超音波振動子との距離を効率よく、正確な計測が可能となることを特徴とする超音波距離計測装置。」

第3 引用刊行物に記載された発明
1 引用刊行物1
原査定の理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平6-11564号公報(以下「引用刊行物1」という。)には、「超音波距離測定装置」の発明に関して、以下の事項が記載されている。

(1-a)「【0001】【産業上の利用分野】本発明は、超音波距離測定装置に係り、とくに、超音波送受信器から発振された超音波が超音波送受信器に受信されるまでの通路構造の改良に関する。」

(1-b)「【0005】【発明の目的】本発明は、かかる従来例の不都合を改善し、とくに、被測定対象物に対してスポット状に超音波を発振させることができるとともに、反射した超音波を効率よく超音波送受信器で受信することができるようにして、高分解能で信頼性のある超音波距離測定装置を提供することを、その目的とするものである。」

(1-c)「【0009】図1には、本実施例に係る超音波距離測定装置の全体構成が示されている。この図において、超音波距離測定装置は、被測定対象物1に超音波を発振し、反射した超音波を受信する超音波送受信器2と、この超音波送受信器2を三次元的に移動させる移動手段3と、この移動手段3に所定の駆動信号を出力するステージコントローラ4と、前記超音波送受信器2における超音波発振時と超音波受信時とに基づいて超音波受信時の遅れ時間を測定する超音波エコー時間測定器6と、前記ステージコントローラ4および超音波エコー時間測定器6に所定の制御信号を出力するコントローラ7と、前記超音波送受信器2に加圧液体を供給する液体加圧手段としての加圧ポンプ8とを含み構成されている。
【0010】前記超音波送受信器2は、図2に示されるように、ハウジング10と、このハウジング10内に装備された超音波送受信子11と、前記ハウジング10の先端側に取り付けられたノズル12とを備えている。ハウジング10の一部には液体流入口13が形成されており、前記加圧ポンプ8から供給される水などの加圧液体は、液体流入口13よりハウジング10内に供給された後、ノズル12より噴出されて液体噴出路Lを形成するようになっている。」

(1-d)「【0014】コントローラ4の制御信号に基づいて移動手段3を所定動作させ、超音波送受信器2を被測定対象物1に相対配置する。この状態で、超音波送受信器2のノズル12から加圧流体を噴出させて液体噴出路Lを形成しつつ超音波が発振される。発振された超音波は、ノズル12からスポット状の液体噴出路L中を通って被測定対象物1により反射し、再び液体噴出路L中を通って超音波送受信器2にて受信される。超音波発振時と受信時までの遅れ時間である超音波戻り時間は、前記エコー時間測定器6によって測定され、この測定結果に基づいてコントローラ4にて距離測定がなされるようになっている。」

(1-e)「【0015】前記液体噴出路Lは超音波をトラップする管のように作用し、かつ、スポット状の噴出ができるように設定されるため、図5に示されるように、被測定対象物1が相当に傾斜していても、超音波が戻ってこれを受信することができるようになっている。
【0016】なお、超音波は、媒質の異なる面で反射、透過するが、図5に示されるように、媒質Iを水、媒質IIを空気とし、音響インピーダンスをZ、媒質をP、媒質中の音速をCとしてそれぞれ定義すると、Z=P・Cで、反射率Rは、数1の計算で、99%以上となる。また、θi=θr=0度である場合、反射率Rは数2で示され、Z1/Z2 >> 1である場合、反射率Rは数3の関係で示される。
【0017】
【数1】(P_(2)C_(2)Cosθ_(1)-P_(1)C_(1)Cosθ_(1))/(P_(2)C_(2)Cosθ_(1)+P_(1)C_(1)Cosθ_(1))
= (Z_(2)Cosθ_(1)-Z_(1)Cosθ_(1))/(Z_(2)Cosθ_(1)+Z_(1)Cosθ_(1))

【0018】
【数2】R=(1-Z_(1)/Z_(2))/(1+Z_(1)/Z_(2))

【0019】
【数3】|R|≒1 」

(1-f)「【0020】【発明の効果】本発明は、以上のように構成され、かつ、作用するので、これによると、液体噴出路はあたかも超音波をトラップする管のように作用し、しかもノズルで絞っている構成としたから、その断面積は極めて小さく、スポット的な距離測定ができ、また、被測定対象物が、超音波送受信器に対して相当に傾いていても、効率よくトラップされて戻ってくるので、高精度測定が可能となる。また、ノズルの径を変化させることによって、被測定対象物に対する分解能も可変にできるので、凹凸が激しい面でも平均的な値を測定することができるという、従来にない優れた効果を奏する超音波距離測定装置を提供できるという効果がある。」

(1-g)図面の図2には、超音波送受信子11がハウジング10内の底面部に装備されている様子が描かれている。

(1-h)図面の図4には、送受信波の「(送信)」の信号形状が、パルス状に描かれている。

したがって、上記摘記事項(1-a)ないし(1-h)、及び図面に基づけば、引用刊行物1には、
「超音波送受信素子11をハウジング10内の底面部に装備し、ノズル12がハウジング10の先端部に取り付けられた超音波送受信器2と、前記超音波送受信器2のハウジング10の一部に形成された液体流入口13とからなり、
前記液体流入口13から供給された水などの加圧液体を前記ノズル12より被測定対象物に噴出することにより、
前記超音波送受信素子11から発振されたパルス状の超音波を前記水などの加圧液体を介して前記被測定対象物に送信し、
前記被測定対象物からの戻りパルスを前記超音波送受信素子11で受信して、
超音波発振時と受信時までの遅れ時間である超音波戻り時間から前記被測定対象物と前記超音波送受信素子11との距離測定がなされることを特徴とする超音波距離測定装置。」(以下、「引用発明1」という。)が記載されている。

2 引用刊行物2
原査定の理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平4-176542号公報(以下「引用刊行物2」という。)には、「流体伝播AE検出装置」の発明に関して、以下の事項が記載されている。

(2-a)「(産業上の利用分野)本発明はアコースティックエミッション(以下AEと呼ぶ)が液体中を超高速で伝播することを利用して、AEを発生させる工具または被削体に液体Lをかけ続けて摩耗・損傷状態を検出するための方法及び装置に関する。」(第1頁右下欄下から第3?8行)

(2-b)「(課題を解決するための手段)AE発生体に連続的に液体を注ぎ、その液体中を超高速で伝播するAE縦波を、前記液体の流れの中間に装置したAE波形検出センサーで感知する方法である。
そしてその方法を実施するために、液体Lを導くパイプ1と、AE発生体5に向けて液体Lを注ぐノズル3との間に、両者を連通し、その連通液体面にAE縦波感知部2aを臨ませて成るAEセンサー2を設け、前記ノズル3からAE発生体5に向け切れ目なく注がれる液体L中を伝播するAE縦波を感知するようにしたものである。
また前記ノズル3をフレキシブルパイプノズル4としたものである。」(第2頁左上欄第14行?同頁右上欄第4行)
(2-c)「ノズル3をフレキシブルパイプ4とすればAEセンサー2を接近させにくい部分であってもノズル口を可能な限りAE発生体5に近ずけて設けることができる。」(第2頁右上欄第16?19行)

(2-d)「本発明を図の実施例で説明すると、第1図においてビニールパイプ1先端にノズル3を設け、このノズル3の基端とビニールパイプ1先端との中間にAEセンサー2の感知部2aを液体Lに接触させて設ける。
AEセンサー4で感知したAE縦波を電気信号に変換し、この電気信号をコード2cにて分析装置に送る。
このノズル3は自在に曲げたままにできるフレキシブルパイプ4(第2図に示す)とすれば、液体Lを注ぎにくい狭い部位においても自在に使用できる。」(第2頁左下欄第1?12行)

したがって、上記摘記事項(2-a)ないし(2-d)、及び図面に基づけば、引用刊行物2には、
「液体Lを導くパイプ1と、AE発生体5に向けて液体Lを注ぐノズル3との間に、両者を連通し、その連通液体面にAE縦波感知部2aを臨ませて成るAEセンサー2を設け、前記ノズル3からAE発生体5に向け切れ目なく注がれる液体L中を伝播するAE縦波を感知するようにした、AEを発生させる工具または被削体に液体Lをかけ続けて摩耗・損傷状態を検出する装置において、
ノズル口を可能な限りAE発生体5に近づけて設け、液体Lを注ぎにくい狭い部位においても自在に使用できるように、
ノズル3をフレキシブルパイプ4とすること。」(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認める。

第4 対比
本願発明と引用発明1とを対比する。

引用発明1の、(ア)「超音波送受信素子11」、(イ)「ハウジング10内の底面部に装備」、(ウ)「ノズル12がハウジング10の先端部に取り付けられた超音波送受信器2」、(エ)「前記超音波送受信器のハウジング10の一部に形成された液体流入口13」、(オ)「前記液体流入口13から供給された水などの加圧液体」、(カ)「被測定対象物」、(キ)「噴出する」、(ク)「前記超音波振動子から放射されたパルス状の超音波」、(ケ)「前記水などの加圧液体を介して」、(コ)「被測定対象物に送信」、(サ)「戻りパルス」、(シ)「超音波発振時と受信時までの遅れ時間である超音波戻り時間」、(ス)「超音波距離測定装置」は、
本願発明の、(あ)「超音波振動子」、(い)「底面部に装着」、(う)「計測ノズル」、(え)「前記計測ノズルの底面部近傍に設けた給液口」、(お)「前記給液口から供給された液体」、(か)「対象物」、(き)「放出する」、(く)「前記超音波振動子から放射されたパルス状の超音波」、(け)「前記液体を介して」、(こ)「対象物に照射」、(さ)「反射超音波」、(し)「前記超音波が照射されて受信されるまでの時間」、(す)「超音波距離計測装置」にそれぞれ相当する。

引用発明1の「ノズル12」が、液体を噴出するための放出口を有するものであることは明らかであるから、
引用発明1の「前記液体流入口13から供給された水などの加圧液体を前記ノズル12より被測定対象物に噴出すること」と、
本願発明の「前記給液口から供給された液体を前記チューブの放出口から対象物に放出すること」とは、
上記相当関係も考慮すると、「前記給液口から供給された液体を放出口から対象物に放出すること」の点で共通する。

そうしてみると、本願発明と引用発明1とは次の一致点で一致し、次の相違点で相違する。
[一致点]
「超音波振動子を底面部に装着した計測ノズルと、
前記計測ノズルの底面部近傍に設けた給液口とを含み、
前記給液口から供給された液体を放出口から対象物に放出することにより、前記超音波振動子から放射されたパルス状の超音波を前記液体を介して前記対象物に照射し、前記対象物からの反射超音波を前記超音波振動子で受信して、前記超音波が照射されて受信されるまでの時間から前記対象物と前記超音波振動子との距離を効率よく、正確な計測が可能となることを特徴とする超音波距離計測装置。」

[相違点]
本願発明は、計測ノズルの端部に接続され、液体の音速より速く、固有音響インピーダンスを大きくすることにより、前記超音波振動子からの超音波を途中の壁面で全反射して減衰することがないチューブを備え、また、放出口が、チューブの放出口であるのに対して、
引用発明1は、ノズル12(計測ノズル)の端部に接続されるチューブを備えておらず、また、放出口が、上記ノズル12の放出口である点。

第5 当審の判断
上記相違点について検討する。

上述のとおり、引用発明2は「液体Lを導くパイプ1と、AE発生体5に向けて液体Lを注ぐノズル3との間に、両者を連通し、その連通液体面にAE縦波感知部2aを臨ませて成るAEセンサー2を設け、前記ノズル3からAE発生体5に向け切れ目なく注がれる液体L中を伝播するAE縦波を感知するようにした、AEを発生させる工具または被削体に液体Lをかけ続けて摩耗・損傷状態を検出する装置において、
ノズル口を可能な限りAE発生体5に近づけて設け、液体Lを注ぎにくい狭い部位においても自在に使用できるように、
ノズル3をフレキシブルパイプ4とすること。」である。

上記引用発明2と本願発明とを比較すると、引用発明2の「液体Lを導くパイプ1と、AE発生体5に向けて液体Lを注ぐノズル3との間」は、本願発明の「計測ノズル」と「計測ノズルの端部」との間に相当している。
また、引用発明2の「AE発生体5」、「液体L」、「ノズル口」、「フレキシブルパイプ4」は、本願発明の「対象物」、「液体」、「放出口」、「チューブ」にそれぞれ相当する。
さらに、引用発明2の「AE縦波」は、本願発明の「超音波」と音響波の点で共通し、引用発明2の「AEセンサー2」と本願発明の「超音波振動子」は、対象物からの音響波を受信する検出器の点で共通している。

そして、引用発明1と引用発明2とは、対象物から伝播してくる音響波を検出する測定装置の技術分野に属し、音響波の検出器を底面部に装着した計測ノズルと、前記計測ノズルの底面部近傍に設けた給液口とからなり、前記給液口から供給された液体を放出口から対象物に放出することによる液体を音響波の伝播路として利用する点において技術的に共通する。測定装置をより自在に使用できるようにするという技術課題は一般的なものであって、引用発明1においても明らかである。
したがって、引用発明1に引用発明2を適用して、引用発明1のノズル12の端部に、前記超音波振動子からの超音波が伝播する液体が流れるチューブを接続することは当業者が容易に想到できたことである。
そしてその際に、超音波が伝播する媒質の音速よりもその媒質の周囲を覆う媒質の音速を速いものを選択すると効率よく超音波が伝播すること〔例えば、原審の拒絶査定において引用された刊行物である特開平6-221842号(段落【0009】のコアを音の伝搬速度が遅い材料によって形成し、クラッドを音の伝搬速度が速い材料によって形成することで、音波がコアに集中した状態で伝搬していく旨、記載されている。)、特開平8-229037号公報(段落【0018】に音響インピーダンスが十分に異なる場合に音響エネルギは、被覆で反射し、導波管アセンブリ内に閉じこめられる旨記載されている。)を参照のこと。〕、及び、周囲を覆う媒質の固有インピーダンスを大きいものを選択すると両媒質の界面における反射率が100%近くなること〔例えば、引用刊行物1(段落【0015】?【0020】に、音響インピーダンス異なる媒質の音響インピーダンスをZ1、Z2として、Z1/Z2>>1である場合に特定条件の反射率が99%以上となる旨が記載されている。)、特開平8-206115号公報(段落【0019】に、被覆材料は、被覆内の音響縦波の速度がコア材料内の音響縦波の速度より大きいように選定する旨の記載がある。)を参照のこと。〕はいずれも周知技術であって、これらの周知技術は、超音波が伝播する媒質とその周囲を覆う媒質との界面での全反射によって、減衰ができるだけ無いようにするものであることが明らかである。
よって、上記のように引用発明1に引用発明2を適用して引用発明1のノズル12の端部に、前記超音波振動子からの超音波が伝播する液体が流れるチューブを接続する際に、上記周知技術を採用してチューブの材料を選択して、該チューブを液体の音速より速く、固有音響インピーダンスを大きくすることにより、前記超音波振動子からの超音波を途中の壁面で全反射して減衰することがないチューブとすることは当業者にとって困難ではない。

そして、本願発明の効果は、引用刊行物1及び引用刊行物2の記載、並びに周知技術から当業者が予測し得る範囲内のものである。

よって、本願発明は、引用刊行物1及び引用刊行物2の記載、並びに周知技術に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用刊行物1及び引用刊行物2の記載、並びに周知技術に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-02-10 
結審通知日 2009-02-17 
審決日 2009-03-02 
出願番号 特願2001-330628(P2001-330628)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G01B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大和田 有軌  
特許庁審判長 江塚 政弘
特許庁審判官 山川 雅也
山下 雅人
発明の名称 超音波距離計測装置  
代理人 鈴木 和夫  

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