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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G11B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G11B
管理番号 1196413
審判番号 不服2006-21751  
総通号数 114 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-06-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-09-28 
確定日 2009-04-22 
事件の表示 特願2000- 90813「光ピックアップ装置」拒絶査定不服審判事件〔平成13年10月 5日出願公開、特開2001-273650〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯
本件審判の請求に係る特許願(以下「本願」という。)は、平成12年3月29日に出願されたものであって、平成17年8月4日付けで手続補正がなされたものの平成18年8月24日付けで拒絶すべきものである旨の査定がなされ、これに対して、平成18年9月28日付けで拒絶査定不服審判が請求され、平成18年10月25日付けで手続補正がなされたものである。
その後、当審より平成20年8月12日付けで前置報告を利用した審尋をしたところ平成20年10月14日付けで回答書が提出されたものである。


II.平成18年10月25日付け手続補正についての却下の決定

〔補正却下の決定の結論〕
平成18年10月25日付け手続補正を却下する。

〔理由〕
1.平成18年10月25日付け手続補正(以下「本件補正」という。)の内容
本件補正は明細書の特許請求の範囲についてするもので、
-本件補正前-
「【請求項1】 ホログラフィを利用して情報が記録される光情報記録媒体に対する情報の記録と光情報記録媒体からの情報の再生の少なくとも一方を行うピックアップ本体と、
前記ピックアップ本体と光情報記録媒体との間の相対的位置関係のずれを補正するために、前記ピックアップ本体の位置を調整する位置調整手段とを備え、
前記ピックアップ本体は、情報を担持した情報光及び記録用参照光を共に生成する空間光変調器を有し、情報光と記録用参照光との干渉による干渉パターンによって光情報記録媒体に情報が記録されるように、前記情報光および前記記録用参照光を光情報記録媒体に対して同一面側より照射する記録光学系とを有することを特徴とする光ピックアップ装置。
【請求項2】 前記位置調整手段は、光情報記録媒体の面に垂直な方向、光情報記録媒体の面に平行な方向、又は光情報記録媒体の面に対するピックアップ本体の傾きが変化する方向にピックアップ本体の位置を変化させることを特徴とする請求項1記載の光ピックアップ装置。
【請求項3】 前記記録光学系は、情報光の光軸と記録用参照光の光軸が同一線上に配置されるように情報光および記録用参照光の照射を行うことを特徴とする請求項1又は2記載の光ピックアップ装置。
【請求項4】 前記ピックアップ本体は、前記空間光変調器及び検出手段が形成された半導体基板を有することを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項記載の光ピックアップ装置。
【請求項5】 前記ピックアップ本体は、
再生用参照光を生成する再生用参照光生成手段と、
再生用参照光を光情報記録媒体に対して照射し、光情報記録媒体より発生される再生光を、光情報記録媒体に対して再生用参照光を照射する側と同じ面側より収集する再生光学系と、
前記再生光学系によって収集された再生光を検出する検出手段と
を有することを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項記載の光ピックアップ装置。
【請求項6】 前記再生光学系は、再生用参照光の光軸と再生光の光軸が同一線上に配置されるように再生用参照光の照射と再生光の収集とを行うことを特徴とする請求項5記載の光ピックアップ装置。
【請求項7】 前記検出手段は光の空間的な変調パターンを検出することを特徴とする請求項4乃至6の何れか1項記載の光ピックアップ装置。
【請求項8】 前記ピックアップ本体は、移動する前記光情報記録媒体に対して前記情報光および前記記録用参照光を照射することを特徴とする請求項1乃至7の何れか1項記載の光ピックアップ装置。
【請求項9】 前記位置調整手段は、前記光情報記録媒体に予め記録された傾き検出用の情報を再生して得られた情報を基にして、前記ピックアップ本体と光情報記録媒体との間の相対的な傾きを補正することを特徴とする請求項1乃至8の何れか1項記載の光ピックアップ装置。」

とあったところ、

-本件補正後-
「【請求項1】 ホログラフィを利用して情報が記録される光情報記録媒体に対する情報の記録と光情報記録媒体からの情報の再生の少なくとも一方を行うピックアップ本体と、
前記ピックアップ本体と前記光情報記録媒体との間の相対的位置関係のずれを補正するために、前記ピックアップ本体の位置を調整する位置調整手段とを備え、
前記ピックアップ本体は、情報を担持した情報光及び記録用参照光を共に生成する空間光変調器を有し、情報光と記録用参照光との干渉による干渉パターンによって前記光情報記録媒体に情報が記録されるように、前記情報光および前記記録用参照光を光情報記録媒体に対して同一面側より照射する記録光学系とを有し、
前記位置調整手段は、前記光情報記録媒体に予め記録された傾き検出用の情報を再生して得られた情報を基にして、前記ピックアップ本体と光情報記録媒体との間の相対的な傾きを補正することを特徴とする光ピックアップ装置。
【請求項2】 前記位置調整手段は、前記光情報記録媒体の面に対するピックアップ本体の傾きが変化する方向に前記ピックアップ本体の位置を変化させることを特徴とする請求項1記載の光ピックアップ装置。
【請求項3】 前記記録光学系は、前記情報光の光軸と前記記録用参照光の光軸が同一線上に配置されるように前記情報光および前記記録用参照光の照射を行うことを特徴とする請求項1又は2記載の光ピックアップ装置。
【請求項4】 前記ピックアップ本体は、前記空間光変調器及び検出手段が形成された半導体基板を有することを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項記載の光ピックアップ装置。
【請求項5】 前記ピックアップ本体は、
再生用参照光を生成する再生用参照光生成手段と、
再生用参照光を光情報記録媒体に対して照射し、前記光情報記録媒体より発生される再生光を、前記光情報記録媒体に対して前記再生用参照光を照射する側と同じ面側より収集する再生光学系と、
前記再生光学系によって収集された前記再生光を検出する検出手段と
を有することを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項記載の光ピックアップ装置。
【請求項6】 前記再生光学系は、前記再生用参照光の光軸と前記再生光の光軸が同一線上に配置されるように前記再生用参照光の照射と前記再生光の収集とを行うことを特徴とする請求項5記載の光ピックアップ装置。
【請求項7】 前記検出手段は光の空間的な変調パターンを検出することを特徴とする請求項4乃至6の何れか1項記載の光ピックアップ装置。
【請求項8】 前記ピックアップ本体は、移動する前記光情報記録媒体に対して前記情報光および前記記録用参照光を照射することを特徴とする請求項1乃至7の何れか1項記載の光ピックアップ装置。
【請求項9】 前記位置調整手段は、前記光情報記録媒体の面に垂直な方向、又は前記光情報記録媒体の面に平行な方向に前記ピックアップ本体の位置をさらに変化させることを特徴とする請求項2記載の光ピックアップ装置。」
とするものである。

2.補正の目的及び適否
(1)補正の目的
本件補正は、本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「位置調整手段」について、本件補正前の請求項9にあった「位置調整手段は、光情報記録媒体に予め記録された傾き検出用の情報を再生して得られた情報を基にして、ピックアップ本体と光情報記録媒体との間の相対的な傾きを補正」を付加して、具体的に限定するものであり、また、本件補正前の請求項2に選択肢記載としてあった、位置調整手段について、「光情報記録媒体の面に垂直な方向、光情報記録媒体の面に平行な方向」は本件補正後の請求項9に、『又は』の文言を付して明確にして、及び『さらに変化させる』なる限定を付して展開するとともに、同じく「光情報記録媒体の面に対するピックアップ本体の傾きが変化する方向」は本件補正後の請求項2に残すものである。
結局、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するものと認める。

(2)補正の適否
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について、以下に検討する。
(2-1)本件補正後の請求項1に係る発明(以下「補正後発明」という。)は、上記1.-本件補正-【請求項1】に記載されたとおりのものである。

(2-2)刊行物及びその記載
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物は、特開平10-302293号公報(平成10年11月13日公開、以下「刊行物」という。)であり、ホログラフィを利用して光情報記録媒体に情報を記録する光情報記録装置および方法、ホログラフィを利用して光情報記録媒体から情報を再生する光情報再生装置および方法、ならびにこれら光情報記録装置および方法または光情報再生装置および方法で利用される光情報記録媒体について、以下の記載がある。
(i)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 ホログラフィを利用して情報が記録される情報記録層を備えた光情報記録媒体に対して情報を記録するための光情報記録装置であって、
前記光情報記録媒体に照射される光束を出射する光源と、
この光源から出射された光束の少なくとも一部を空間的に変調して、互いに相補的なパターンを有する2つの光束を生成する空間変調手段と、
前記情報記録層に、前記空間変調手段によって生成された2つの光束の干渉による干渉パターンによって情報が記録されるように、前記空間変調手段によって生成された2つの光束を前記情報記録層に対して照射する記録光学系とを備えたことを特徴とする光情報記録装置。
【請求項2】 前記記録光学系は、前記2つの光束が情報記録層の厚み方向について互いに異なる位置で収束するように、前記2つの光束を前記情報記録層に対して同一面側より照射することを特徴とする請求項1記載の光情報記録装置。
【請求項3】 前記空間変調手段は、記録する情報に従って偏光方向の違いによって空間的に変調された光を発生することによって、互いに偏光方向の異なる2つの光束を生成し、
前記記録光学系は、偏光方向によって収束位置を異ならせることによって、前記2つの光束を分離する分離手段と、この分離手段によって分離された2つの光束のうちの一方が収束しながら前記情報記録層を通過し、他方が一旦収束した後発散しながら前記情報記録層を通過するように、前記2つの光束を集光して前記情報記録層に照射する集光手段と、この集光手段によって照射される前記2つの光束が前記情報記録層において重なり合う領域において前記2つの光束の偏光方向が一致するように、光束の断面を2分割した各部分毎に、互いに異なる方向に前記2つの光束の偏光方向を変える旋光手段とを有することを特徴とする請求項2記載の光情報記録装置。
【請求項4】?【請求項12】・・・(省略)・・・。」

(ii)「【0019】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。図1は、本発明の一実施の形態に係る光情報記録装置および光情報再生装置としての光情報記録再生装置におけるピックアップと本発明の一実施の形態に係る光情報記録媒体の構成を示す説明図、図2は本実施の形態に係る光情報記録再生装置の全体構成を示すブロック図である。」

(iii)「【0021】次に、本実施の形態に係る光情報記録再生装置の構成について説明する。この光情報記録再生装置10は、図2に示したように、光情報記録媒体1が取り付けられるスピンドル81と、このスピンドル81を回転させるスピンドルモータ82と、光情報記録媒体1の回転数を所定の値に保つようにスピンドルモータ82を制御するスピンドルサーボ回路83とを備えている。光情報記録再生装置10は、更に、光情報記録媒体1に対して情報光と記録用参照光とを照射して情報を記録すると共に、光情報記録媒体1に対して再生用参照光を照射し、再生光を検出して、光情報記録媒体1に記録されている情報を再生するためのピックアップ11と、このピックアップ11を光情報記録媒体1の半径方向に移動可能とする駆動装置84とを備えている。
【0022】光情報記録再生装置10は、更に、ピックアップ11の出力信号よりフォーカスエラー信号FE,トラッキングエラー信号TEおよび再生信号RFを検出するための検出回路85と、この検出回路85によって検出されるフォーカスエラー信号FEに基づいて、ピックアップ11内のアクチュエータを駆動して対物レンズを光情報記録媒体1の厚み方向に移動させてフォーカスサーボを行うフォーカスサーボ回路86と、検出回路85によって検出されるトラッキングエラー信号TEに基づいてピックアップ11内のアクチュエータを駆動して対物レンズを光情報記録媒体1の半径方向に移動させてトラッキングサーボを行うトラッキングサーボ回路87と、トラッキングエラー信号TEおよび後述するコントローラからの指令に基づいて駆動装置84を制御してピックアップ11を光情報記録媒体1の半径方向に移動させるスライドサーボを行うスライドサーボ回路88とを備えている。
【0023】光情報記録再生装置10は、更に、ピックアップ11内の後述する2つのCCDアレイの出力データをデコードして、光情報記録媒体1のデータエリア7に記録されたデータを再生したり、検出回路85からの再生信号RFより基本クロックを再生したりアドレスを判別したりする信号処理回路89と、光情報記録再生装置10の全体を制御するコントローラ90とを備えている。コントローラ90は、信号処理回路89より出力される基本クロックやアドレス情報を入力すると共に、ピックアップ11,スピンドルサーボ回路83およびスライドサーボ回路88等を制御するようになっている。スピンドルサーボ回路83は、信号処理回路89より出力される基本クロックを入力するようになっている。
【0024】図1に示したように、ピックアップ11は、スピンドル81に光情報記録媒体1が固定されたときに、光情報記録媒体1の透明基板2側に対向する対物レンズ12と、この対物レンズ12を光情報記録媒体1の厚み方向および半径方向に移動可能なアクチュエータ13と、対物レンズ12における光情報記録媒体1の反対側に、対物レンズ12側から順に配設された2分割旋光板14,S偏光ホログラム15,空間光変調器16,P偏光ホログラム28,偏光ビームスプリッタ17およびCCDアレイ18とを備えている。 ピックアップ11は、更に、偏光ビームスプリッタ17の側方に配設されたレーザカプラ20と、このレーザカプラ20と偏光ビームスプリッタ17との間に、レーザカプラ20側より順に配設されたコリメータレンズ19およびビームスプリッタ92と、ビームスプリッタ92の側方に配設されたCCDアレイ93とを備えている。S偏光ホログラム15は、本発明における分離手段に対応する。ビームスプリッタ92は、入射光の光量の半分を透過し半分を反射する光学素子である。CCDアレイ18,93の各出力信号は、図2における信号処理回路83に入力されるようになっている。」

(iv)「【0025】レーザカプラ20は、S偏光のレーザ光を出射し、このレーザ光は、コリメータレンズ19によって平行光束とされ、ビームスプリッタ92に入射し、その光量の半分がビームスプリッタ92を透過して、偏光ビームスプリッタ17に入射し、この偏光ビームスプリッタ17で反射されて、P偏光ホログラム28,空間光変調器16,S偏光ホログラム15および2分割旋光板14を順に通過した後、対物レンズ12によって集光されて、光情報記録媒体1に照射されるようになっている。また、光情報記録媒体1からの戻り光は、対物レンズ12,2分割旋光板14,S偏光ホログラム15,空間光変調器16およびP偏光ホログラム28を順に通過した後、偏光ビームスプリッタ17に入射し、そのうちのP偏光の光は偏光ビームスプリッタ17を透過してCCDアレイ18に入射し、S偏光の光は偏光ビームスプリッタ17で反射されてビームスプリッタ92に入射し、その光量の半分がビームスプリッタ92で反射されてCCDアレイ93に入射するようになっている。なお、S偏光とは偏光方向が入射面(図1の紙面)に垂直な直線偏光であり、P偏光とは偏光方向が入射面に平行な直線偏光である。
【0026】2分割旋光板14は、図1において光軸の左側部分に配置された旋光板14Lと、図1において光軸の右側部分に配置された旋光板14Rとを有している。旋光板14L,14Rは、それぞれ例えば2枚の透明電極基板間に液晶を封入して構成されている。 旋光板14Lは、2枚の透明電極基板間に電圧を印加しない(以下、オフにすると言う。)と偏光方向を+45°回転させ、2枚の透明電極基板間に電圧を印加する(以下、オンにすると言う。)と偏光方向を回転させないようになっている。一方、旋光板14Rは、オフにすると偏光方向を-45°回転させ、オンにすると偏光方向を回転させないようになっている。
【0027】S偏光ホログラム15は、S偏光に対してのみ、光を収束させるレンズ機能を有している。そして、空間光変調器16側より平行光束のP偏光がS偏光ホログラム15に入射した場合には、このP偏光は平行光束のままS偏光ホログラム15を通過し、対物レンズ12によって集光されて光情報記録媒体1に照射され、収束しながらホログラム層3を通過してホログラム層3と保護層4との境界面上で最も小径となるように収束するようになっている。一方、空間光変調器16側より平行光束のS偏光がS偏光ホログラム15に入射した場合には、このS偏光はS偏光ホログラム15によって若干収束された後、対物レンズ12によって集光されて光情報記録媒体1に照射され、ホログラム層3と保護層4との境界面よりも手前側で一旦最も小径となるように収束した後、発散しながらホログラム層3を通過するようになっている。一方、P偏光ホログラム28は、P偏光に対してのみ、光を収束させるレンズ機能を有している。
【0028】空間光変調器16は、格子状に配列された多数の画素を有し、各画素毎に出射光の偏光方向を選択することによって、偏光方向の違いによって光を空間的に変調することができるようになっている。空間光変調器16は、具体的には、例えば、液晶の旋光性を利用した液晶表示素子において偏光板を除いたものと同等の構成である。ここでは、空間光変調器16は、各画素毎に、オフにすると偏光方向を+90°回転させ、オンにすると偏光方向を回転させないようになっている。空間光変調器16における液晶としては、例えば、応答速度の速い(μ秒のオーダ)強誘電液晶を用いることができる。これにより、高速な記録が可能となり、例えば、1ページ分の情報を数μ以下で記録することが可能となる。」

(v)「【0035】次に、本実施の形態に係る光情報記録再生装置および光情報記録媒体の作用について、サーボ時、記録時、再生時に分けて、順に説明する。なお、サーボ時、記録時、再生時のいずれのときも、光情報記録媒体1は規定の回転数を保つように制御されてスピンドルモータ82によって回転される。
【0036】まず、サーボ時の作用について説明する。図6はサーボ時におけるピックアップ11の状態を示す説明図、図8はサーボ時における光の状態を示す説明図である。これらの図に示したように、サーボ時には、空間光変調器16の全画素がオフにされ、2分割旋光板14の各旋光板14L,14Rはオンにされる。レーザカプラ20の出射光の出力は、再生用の低出力に設定される。なお、コントローラ90は、再生信号RFより再生された基本クロックに基づいて、対物レンズ12の出射光がアドレス・サーボエリア6を通過するタイミングを予測し、対物レンズ12の出射光がアドレス・サーボエリア6を通過する間、上記の設定とする。
【0037】レーザカプラ20から出射されたS偏光のレーザ光は、コリメータレンズ19によって平行光束とされ、ビームスプリッタ92に入射し、その光量の半分がビームスプリッタ92を透過して、偏光ビームスプリッタ17に入射し、この偏光ビームスプリッタ17で反射され、何ら影響を受けずにP偏光ホログラム28を通過し、空間光変調器16に入射する。ここで、空間光変調器16の全画素がオフにされているので、空間光変調器16を通過した後の光は、偏光方向が+90°回転されてP偏光となる。なお、図8において符号51で示した記号はS偏光を表し、符号52で示した記号はP偏光を表している。空間光変調器16を通過した後のP偏光の光は、何ら影響を受けずにS偏光ホログラム15を通過し、2分割旋光板14に入射する。ここで、2分割旋光板14の旋光板14L,14Rは共にオンにされているので、光は何ら影響を受けずに2分割旋光板14を通過する。2分割旋光板14を通過した光は、対物レンズ12によって集光されて、光情報記録媒体1におけるホログラム層3と保護層4の境界面上で最も小径となるように収束するように、情報記録媒体1に照射される。この光は、情報記録媒体1の反射膜5で反射され、その際、アドレス・サーボエリア6におけるエンボスピットによって変調されて、対物レンズ12側に戻ってくる。この戻り光は、対物レンズ12で平行光束とされ、何ら影響を受けずに2分割旋光板14およびS偏光ホログラム15を通過し、空間光変調器16に入射し、ここで、偏光方向が回転されて再びS偏光とされ、何ら影響を受けずにP偏光ホログラム28を通過し、偏光ビームスプリッタ17で反射されて、ビームスプリッタ92に入射し、その光量の半分がビームスプリッタ92を透過して、レーザカプラ20に入射し、フォトディテクタ25,26によって検出される。そして、このフォトディテクタ25,26の出力に基づいて、図5に示した検出回路85によって、フォーカスエラー信号FE,トラッキングエラー信号TEおよび再生信号RFが生成され、これらの信号に基づいて、フォーカスサーボおよびトラッキングサーボが行われると共に、基本クロックの再生およびアドレスの判別が行われる。
【0038】なお、上記のサーボ時における設定では、ピックアップ11の構成は、CD(コンパクト・ディスク)やDVD(デジタル・ビデオ・ディスク)やHS(ハイパー・ストレージ・ディスク)等の通常の光ディスクに対する記録,再生用のピックアップの構成と同様になる。従って、本実施の形態における光情報記録再生装置10では、通常の光ディスク装置との互換性を持たせるように構成することも可能である。
【0039】ここで、後の説明で使用するA偏光およびB偏光を以下のように定義する。 すなわち、図7に示したように、A偏光はS偏光を-45°またはP偏光を+45°偏光方向を回転させた直線偏光とし、B偏光はS偏光を+45°またはP偏光を-45°偏光方向を回転させた直線偏光とする。A偏光とB偏光は、互いに偏光方向が直交している。」

(vi)「【0040】次に、記録時の作用について説明する。図9は記録時におけるピックアップ11の状態を示す説明図、図10および図11は記録時における光の状態を示す説明図である。これらの図に示したように、記録時には、空間光変調器16は、記録する情報に応じて各画素毎にオフとオンを選択する。本実施の形態では、2画素で1ビットの情報を表現する。この場合、必ず、1ビットの情報に対応する2画素のうちの一方をオン、他方をオフとする。また、2分割旋光板14の旋光板14L,14Rは共にオフにされる。レーザカプラ20の出射光の出力は、パルス的に記録用の高出力にされる。なお、コントローラ90は、再生信号RFより再生された基本クロックに基づいて、対物レンズ12の出射光がデータエリア7を通過するタイミングを予測し、対物レンズ12の出射光がデータエリア7を通過する間、上記の設定とする。対物レンズ12の出射光がデータエリア7を通過する間は、フォーカスサーボおよびトラッキングサーボは行われず、対物レンズ12は固定されている。
【0041】レーザカプラ20から出射されたS偏光のレーザ光は、コリメータレンズ19によって平行光束とされ、ビームスプリッタ92に入射し、その光量の半分がビームスプリッタ92を透過して、偏光ビームスプリッタ17に入射し、この偏光ビームスプリッタ17で反射され、何ら影響を受けずにP偏光ホログラム28を通過し、空間光変調器16に入射する。ここで、空間光変調器16のうちオンにされている画素を通過した光は偏光方向が回転されずにS偏光のままとなり、オフにされている画素を通過した光は偏光方向が+90°回転されてP偏光となる。空間光変調器16を通過した後の光はS偏光ホログラム15に入射する。ここで、S偏光ホログラム15はS偏光のみを収束させるので、空間光変調器16からの光のうちのP偏光成分は平行光束のままS偏光ホログラム15を通過し、対物レンズ12によって集光されて光情報記録媒体1に照射され、収束しながらホログラム層3を通過してホログラム層3と保護層4との境界面上で最も小径となるように収束する。一方、空間光変調器16からの光のうちのS偏光成分はS偏光ホログラム15によって若干収束された後、対物レンズ12によって集光されて光情報記録媒体1に照射され、ホログラム層3と保護層4との境界面よりも手前側で一旦最も小径となるように収束した後、発散しながらホログラム層3を通過する。本実施の形態では、ホログラム層3と保護層4との境界面上で最も小径となるように収束する光と、ホログラム層3と保護層4との境界面よりも手前側で最も小径となるように収束する光は、互いに相補的なパターンを有する光束であり、この2つの光束の干渉による干渉パターンによってホログラム層3に情報が記録されるようになっている。従って、2つの光束は、一方を情報光とすると他方が記録用参照光となる関係にあり、いずれも情報光と成り得るし、記録用参照光とも成り得る。【0042】S偏光ホログラム15からの光束のうち、光軸の左側部分は2分割旋光板14の旋光板14Lによって、偏光方向が+45°回転され、光軸の右側部分は2分割旋光板14の旋光板14Rによって、偏光方向が-45°回転される。ここで、便宜上、空間光変調器16のオフの画素を通過し旋光板14Lを通過した光束を参照光OFF-Lと記し、同様に、空間光変調器16のオンの画素を通過し旋光板14Lを通過した光束を情報光ON-L、空間光変調器16のオフの画素を通過し旋光板14Rを通過した光束を参照光OFF-R、空間光変調器16のオンの画素を通過し旋光板14Rを通過した光束を情報光ON-Rと記す。なお、この標記方法は、あくまで、説明を簡単にするためのものであり、空間光変調器16のオフの画素を通過し旋光板14L,14Rを通過した光束を情報光とし、空間光変調器16のオンの画素を通過し旋光板14L,14Rを通過した光束を参照光と呼んでも何ら差し支えない。
【0043】図10に示したように、参照光OFF-Lは旋光板14Lを通過してA偏光の光となり、情報光ON-Rは旋光板14Rを通過してA偏光の光となる。なお、図10において符号53で示した記号はA偏光を表している。また、図11に示したように、参照光OFF-Rは旋光板14Rを通過してB偏光の光となり、情報光ON-Lは旋光板14Lを通過してB偏光の光となる。なお、図11において符号54で示した記号はB偏光を表している。本実施の形態では、上記の4種類の光束を用いて、ホログラム層3に情報を記録する。この情報の記録方法について、図10および図11を参照して詳しく説明する。
【0044】図10は、参照光OFF-Lと情報光ON-Rとの干渉の様子を示したものである。この図に示したように、光軸の左側の領域において、参照光OFF-Lは収束しながらホログラム層3を通過し、情報光ON-Rは発散しながらホログラム層3を通過し、これらの光は共にA偏光であるため干渉する。そして、レーザカプラ20の出射光の出力が高出力になったときに、参照光OFF-Lと情報光ON-Rとの干渉パターンがホログラム層3内に体積的に記録される。なお、光軸の左側の領域では、参照光OFF-Rが反射膜5で反射した光も通過するが、この参照光OFF-RはB偏光であり、A偏光とは偏光方向が直交するため、A偏光の参照光OFF-Lおよび情報光ON-Rとは干渉しない。
【0045】図11は、参照光OFF-Rと情報光ON-Lとの干渉の様子を示したものである。この図に示したように、光軸の右側の領域において、参照光OFF-Rは収束しながらホログラム層3を通過し、情報光ON-Lは発散しながらホログラム層3を通過し、これらの光は共にB偏光であるため干渉する。そして、レーザカプラ20の出射光の出力が高出力になったときに、参照光OFF-Rと情報光ON-Lとの干渉パターンがホログラム層3内に体積的に記録される。なお、光軸の右側の領域では、参照光OFF-Lが反射膜5で反射した光も通過するが、この参照光OFF-LはA偏光であり、B偏光とは偏光方向が直交するため、B偏光の参照光OFF-Rおよび情報光ON-Lとは干渉しない。
【0046】このように、本実施の形態では、光軸の左側の領域と右側の領域とで、干渉させる光の偏光方向を直交させているので、余分な干渉縞の発生を防止して、SN比の低下を防止することができる。
【0047】なお、本実施の形態では、記録用参照光も、空間光変調器16によって空間的に変調された光であるため、ホログラム層3の一断面を見ると、画素単位の情報光の中には、画素単位の記録用参照光が存在しないために干渉縞が生じない情報光もあるが、このような情報光でも、ホログラム層3内において必ず画素単位の記録用参照光が存在する部分を通過して干渉縞を発生させるので、問題は生じない。なお、空間光変調器16では、2画素で1ビットの情報を表現し、1ビットの情報に対応する2画素のうちの一方をオン、他方をオフとしている。従って、情報の内容にかかわらず記録用参照光の光量は略一定となる。図12は、ホログラム層3内において画素単位の記録用参照光55と画素単位の情報光56とが体積的に干渉する様子を概念的に表したものである。この図では、簡単のために、画素単位の記録用参照光55と画素単位の情報光56とが交互に配置された例を示している。この例では、画素単位の記録用参照光55は互いに異なる角度θ_(1),θ_(3),…,θ_(n-3),θ_(n-1)を有する収束光であり、画素単位の情報光56は互いに異なる角度θ_(2),θ_(4),…,θ_(n-2),θ_(n)を有する発散光である。この図から分かるように、各画素単位の情報光56は、ホログラム層3内において必ず、いずれかの画素単位の記録用参照光55と交差して干渉縞を発生させる。
【0048】また、本実施の形態では、情報光と記録用参照光は、共に、ホログラム層3の同一の面側より他方の面側に進行するので、ホログラム層3には、透過型(フレネル型)のホログラムが形成される。透過型のホログラムでは、ホログラム層3の一方の面側より再生用参照光を照射すると、ホログラム層3の他方の面側に再生光が出射される。」

(vii)「【0049】次に、再生時の作用について説明する。図13は再生時におけるピックアップ11の状態を示す説明図、図14ないし図17は再生時における光の状態を示す説明図である。これらの図に示したように、再生時には、空間光変調器16の全画素がオンにされ、2分割旋光板14の各旋光板14L,14Rはオフにされる。レーザカプラ20の出射光の出力は、再生用の低出力に設定される。なお、コントローラ90は、再生信号RFより再生された基本クロックに基づいて、対物レンズ12の出射光がデータエリア7を通過するタイミングを予測し、対物レンズ12の出射光がデータエリア7を通過する間、上記の設定とする。対物レンズ12の出射光がデータエリア7を通過する間は、フォーカスサーボおよびトラッキングサーボは行われず、対物レンズ12は固定されている。」

以上の記載を、光情報記録再生装置の記録時のピックアップの動作に着目して整理すると、刊行物には、結局、以下のとおりの発明が記載されているものと認める。
「ホログラフィを利用して情報が記録される情報記録層を備えた光情報記録媒体に対して情報を記録又は情報を再生するための光情報記録再生装置であって、
光情報記録媒体に対して情報光と記録用参照光とを照射して情報を記録すると共に、光情報記録媒体に対して再生用参照光を照射し、再生光を検出して、光情報記録媒体に記録されている情報を再生するためのピックアップと、
このピックアップを光情報記録媒体の半径方向に移動可能とする駆動装置とを備え、
ピックアップは、
情報記録層に、空間光変調器によって生成された2つの光束の干渉による干渉パターンによって情報が記録されるように、空間光変調器によって生成された2つの光束を情報記録層に対して、同一面側より照射する記録光学系とを備えるものであって、
光情報記録媒体の透明基板側に対向する対物レンズと、
この対物レンズを、フォーカスサーボおよびトラッキングサーボにより光情報記録媒体の厚み方向および半径方向に移動させるアクチュエータと、
対物レンズにおける光情報記録媒体の反対側に、対物レンズ側から順に配設された2分割旋光板,S偏光ホログラム,空間光変調器,P偏光ホログラム,偏光ビームスプリッタおよびCCDアレイとを備え、
更に、
偏光ビームスプリッタの側方に配設されたレーザカプラと、
このレーザカプラと偏光ビームスプリッタとの間に、レーザカプラ側より順に配設されたコリメータレンズおよびビームスプリッタと、ビームスプリッタの側方に配設されたCCDアレイとを備え、
空間光変調器は、
格子状に配列された多数の画素を有し、各画素毎に出射光の偏光方向を選択することによって、偏光方向の違いによって光を空間的に変調することができるようになっていて、
記録時に空間光変調器は、記録する情報に応じて各画素毎にオフとオンを選択して、各画素毎に、オフにすると偏光方向を+90°回転させ、オンにすると偏光方向を回転させないようになっており、
記録時にパルス的に記録用の高出力にされるレーザカプラから出射された光束の少なくとも一部を空間的に変調して、互いに相補的なパターンを有する2つの光束を生成するものであり、
生成された2つの光束は、情報記録層に対して、2つの光束を情報記録層に対して同一面側より照射され、この2つの光束の干渉による干渉パターンによってホログラム層に情報が記録されるようになっていて、2つの光束は、一方を情報光とすると他方が記録用参照光となる関係にあり、いずれも情報光と成り得るし、記録用参照光とも成り得るものである
光情報記録再生装置。」

(2-3)対比・判断
〔対比〕
補正後発明と刊行物記載の発明とを対比する。
a.両発明とも、「ホログラフィを利用して」、光による「情報の記録」又は記録された「情報の再生」を行う情報記録再生装置の、特に「ピックアップ」に関するものである点で共通するものである。
b.位置調整手段について
補正後発明において、位置調整手段は、
「前記ピックアップ本体と前記光情報記録媒体との間の相対的位置関係のずれを補正するために、前記ピックアップ本体の位置を調整する位置調整手段」
とするとともに、
「前記位置調整手段は、前記光情報記録媒体に予め記録された傾き検出用の情報を再生して得られた情報を基にして、前記ピックアップ本体と光情報記録媒体との間の相対的な傾きを補正する」としており、補正後発明では、ピックアップ本体と光記録媒体との間の相対的な傾きを補正するようにされている。
光ピックアップにより、光情報記録媒体に光を照射して情報を記録又は再生する光情報記録再生装置において、光ピックアップ、特に、対物レンズと光記録媒体との間の位置制御は、光記録媒体の記録面と垂直方向のフォーカスサーボ制御と、光記録媒体の記録面と平行な方向のトラッキングサーボ制御を用いて行うことは、ごく普通のことである。
本願明細書等でも、
本実施の形態における光情報記録媒体の構成について、
「【0017】・・・(前略)・・・。情報記録層3と保護層4との境界面には、半径方向に線状に延びる複数の位置決め領域としてのアドレス・サーボエリア6が所定の角度間隔で設けられ、隣り合うアドレス・サーボエリア6間の扇形の区間がデータエリア7になっている。アドレス・サーボエリア6には、サンプルドサーボ方式によってフォーカスサーボおよびトラッキングサーボを行うための情報とアドレス情報とが、予めエンボスピット等によって記録されている。なお、フォーカスサーボは、反射膜5の反射面を用いて行うことができる。トラッキングサーボを行うための情報としては、例えばウォブルピットを用いることができる。・・・(後略)・・・。」、
「【0034】次に、図3を参照して、光ピックアップ装置11において、ピックアップ本体12と光情報記録媒体1との間の相対的位置関係のずれを補正するために、ピックアップ本体12の位置を調整する位置調整装置について説明する。図3は位置調整装置の平面図である。
【0035】なお、図3において、左右方向がトラック方向になっている。位置調整装置は、以下のような構成になっている。ピックアップ本体12におけるトラック方向に直交する方向の両端部には弾性アーム固定部140a,140bが設けられている。この弾性アーム固定部140a,140bには、それぞれ、ゴム、板ばね、コイルスプリング、ワイヤ等の弾性部材で形成された弾性アーム149の一端が固定されている。各弾性アーム149の他端は、光情報記録再生装置における固定壁150に固定されている。
【0036】ピックアップ本体12におけるトラック方向の一方の端部には、フォーカスサーボおよび傾き調整用のコイル151,152と、トラックキングサーボ用のコイル155,156が取り付けられている。同様に、ピックアップ本体12におけるトラック方向の他方の端部には、フォーカスサーボおよび傾き調整用のコイル153,154と、トラックキングサーボ用のコイル157,158が取り付けられている。
【0037】位置調整装置は、それぞれコイル151,152,153,154を貫通するように設けられた磁石161,162,163,164と、コイル155,156に対向する位置に配置された磁石165と、コイル157,158に対向する位置に配置された磁石166とを備えている。
【0038】この位置調整装置は、光情報記録媒体1の面に垂直な方向(図3における紙面に垂直な方向)、光情報記録媒体1の面に平行な方向(図3における上下方向)、および光情報記録媒体1の面に対するピックアップ本体12の傾きが変化する方向に、ピックアップ本体12の位置を変化させることができる。
【0039】位置調整装置におけるコイル151?154は、図2におけるフォーカスサーボ回路86および傾き補正回路93によって駆動されるようになっている。また、コイル155?158は、図2におけるトラッキングサーボ回路87によって駆動されるようになっている。」、
「【0069】次に、図3を参照して、本実施の形態に係る光ピックアップ装置11における位置調整装置の作用について説明する。位置調整装置におけるコイル151?154は、図2におけるフォーカスサーボ回路86および傾き補正回路93によって駆動される。また、コイル155?158は、図2におけるトラッキングサーボ回路87によって駆動される。
【0070】フォーカスサーボ回路86は、フォーカスエラー信号FEに基づいて、コイル151?154の位置が光情報記録媒体1の面に垂直な方向(図3における紙面に垂直な方向)に同じ量だけ変化するように、コイル151?154を駆動する。これにより、ピックアップ本体12の位置が光情報記録媒体1の面に垂直な方向に変化して、フォーカスサーボが行われる。
【0071】トラッキングサーボ回路87は、トラッキングエラー信号TEに基づいて、コイル155?158が同じ方向に変位するように、コイル155?158を駆動する。これにより、ピックアップ本体12の位置が光情報記録媒体1のトラックに直交する方向に変化して、トラッキングサーボが行われる。
【0072】傾き補正回路93は、傾き検出回路92の検出結果に基づいて、コイル151?154のうちの少なくとも一つのコイルの変位量が他のコイルの変位量と異なるように、コイル151?154を駆動する。これにより、光情報記録媒体1の面に対するピックアップ本体12の傾きが変化して、光情報記録媒体1とピックアップ本体12との相対的な傾きが補正される。」
等の記載がある。

即ち、補正後発明においても、
「前記位置調整手段は、前記光情報記録媒体に予め記録された傾き検出用の情報を再生して得られた情報を基にして、前記ピックアップ本体と光情報記録媒体との間の相対的な傾きを補正する」とされてはいるが、
「前記ピックアップ本体と前記光情報記録媒体との間の相対的位置関係のずれを補正するために、前記ピックアップ本体の位置を調整する位置調整手段」には、少なくとも、いわゆる、フォーカスサーボ制御による位置調整、トラッキングサーボ制御による位置調整が含まれることは明らかである。そして、位置調整の対象がピックアップ本体の全体か、ピックアップ内の対物レンズか、又、調整方向が傾き方向も対象としているか否かはともかく、刊行物記載の発明における、
「対物レンズを、フォーカスサーボおよびトラッキングサーボにより光情報記録媒体の厚み方向および半径方向に移動させるアクチュエータ」
が、補正後発明における「ピックアップと光情報記録媒体との間の位置関係のずれを補正する位置調整手段」に相当するものと認める。

c.記録光学系、特に、空間光変調器について
補正後発明において、空間光変調器は「情報を担持した情報光及び記録用参照光を共に生成する空間光変調器」としている。
本願明細書等でも、
「【0027】空間光変調器18は、格子状に配列された多数の画素を有し、各画素毎に、入射光の偏光方向に対して出射光の偏光方向を90°回転させるか否かを選択できるようになっている。この空間光変調器18としては、例えば、液晶の旋光性を利用した反射型液晶素子において入出射側の偏光板を除いたものを用いることができる。空間光変調器18は、情報光生成手段、記録用参照光生成手段および再生用参照光生成手段を構成する。」、
「【0061】記録時において、情報記録媒体1に照射される光は、強度が空間的に変調された光となっている。本実施の形態では、この変調された光は情報光と記録用参照光の機能を併せ持っている。すなわち、変調された光は、情報記録媒体1に照射されると、情報記録層3を通過し、反射膜5で反射されて、再度、情報記録層3を通過する。このとき、始めに情報記録層3を通過する光と反射膜5で反射されてから情報記録層3を通過する光とが干渉して、3次元的な干渉パターンを形成する。従って、この2つの光のうちの一方が情報光となり、他方が記録用参照光となる。」
等の記載がある。
即ち、空間光変調器で生成され、情報記録媒体に照射される光は、強度が空間的に変調された光となり、情報光と記録用参照光の機能を併せもっていて、干渉して、3次元的な干渉パターンを形成する2つの光のうちの一方が情報光となり、他方が記録用参照光となるものである。

刊行物記載の発明においても、
記録時に、空間光変調器で生成され、干渉による干渉パターンによってホログラム層に情報を記録する2つの光束は、「一方を情報光とすると他方が記録用参照光となる関係にあり、いずれも情報光と成り得るし、記録用参照光とも成り得るものである」
としており、両発明で、空間光変調器で、情報を担持した情報光及び記録用参照光を共に生成する点で差異はなく、空間光変調器で生成された情報光および記録用参照光の2つの光束を光情報記録媒体に対して、同一面側より照射する記録光学系を有している点でも、差異はない。

結局、補正後発明と刊行物記載の発明との一致点及び相違点は、以下のとおりである。
[一致点]
「ホログラフィを利用して情報が記録される光情報記録媒体に対する情報の記録と光情報記録媒体からの情報の再生の少なくとも一方を行うピックアップ本体と、
前記ピックアップ本体と前記光情報記録媒体との間の相対的位置関係のずれを補正するために、前記ピックアップ本体の位置を調整する位置調整手段とを備え、
前記ピックアップ本体は、情報を担持した情報光及び記録用参照光を共に生成する空間光変調器を有し、情報光と記録用参照光との干渉による干渉パターンによって前記光情報記録媒体に情報が記録されるように、前記情報光および前記記録用参照光を光情報記録媒体に対して同一面側より照射する記録光学系とを有し、
光ピックアップ装置。」

[相違点]
位置調整手段について、補正後発明が、
ア.位置調整のために「ピックアップ本体の位置」を調整するとしているのに対して、刊行物記載の発明では、ピックアップの対物レンズ部分の位置を調整している点。

イ. 前記位置調整手段は、「前記光情報記録媒体に予め記録された傾き検出用の情報を再生して得られた情報を基にして、前記ピックアップ本体と光情報記録媒体との間の相対的な傾きを補正する」としているのに対して、刊行物記載の発明では、位置調整手段が傾き補正についての要件を有していない点。

〔判断〕
-相違点アについて-
光情報記録再生装置において、光源、対物レンズ等の光学素子、光検出素子等を備えたピックアップを全体として、固定部材に対して揺動可能に支持し、光情報記録媒体との間で、位置を調整し得るようにすることは、周知のピックアップ構成(例:特開平4-206046号公報(平成4年7月28日公開、特に、第4頁左下欄下段、第3図、第5図等参照)、特開平5-12705号公報(平成5年1月22日公開、特に、【0011】?【0016】【図1】?【図3】等参照)、特開平9-153226号公報(特に、【0011】以下、【図1】【図2】等参照))であり、いずれも、小型、軽量のピックアップを得ようとするものである。
ピックアップの小型化、軽量化は、記録再生原理に拘わらず、光情報記録再生装置において、ごく普通に考慮されるべき技術課題であり、当業者であれば、刊行物記載の発明において、上記周知のピックアップ構成を採用することは、必要に応じて、適宜になし得る範囲内のことと認める。

-相違点イについて-
光ピックアップにより光情報記録媒体、特に、高密度記録媒体に光を照射して情報を記録又は再生する光情報記録装置において、光ピックアップから照射される光が、光情報記録媒体の情報記録面に対して、直角になるように、光情報記録媒体の記録面と光ピックアップの相対的な傾きを補正する位置調整手段を設けることは、例えば、特開平4-229423号公報(平成4年8月18日公開、【特許請求の範囲】【0009】?【0010】【0012】等参照)、特開平11-16216号公報(平成11年1月22日公開、【請求項27】【請求項29】【請求項31】【0064】?【0068】【0100】【0104】等参照)、特開平11-312339号公報(平成11年11月9日公開、【特許請求の範囲】【0003】【0015】?【0016】等参照)の記載にもみられるように、周知のことである。
いずれの公報記載のものも、光情報記録媒体に予め記録されたクロックピット、チルト(検出)パターン等の傾き検出用の情報を再生して、傾き量を得、光ディスクの傾きを補正する傾き補正手段である。相違点イ.で補正後発明が採用した傾き補正のための位置調整手段自体は、周知のものであるといえる。

次に、刊行物記載の発明における位置調整手段への上記周知の傾き補正手段の採用、付加が容易になし得るか否かについて検討する。
刊行物記載の発明の光情報記録再生装置と、上記各周知例記載の光ピックアップ、光ディスク装置等とは、記録手法及び再生手法において、その原理が異なってはいるものの、刊行物記載の発明の光情報記録再生装置においても、ピックアップ(対物レンズ)と光情報記録媒体との間の位置関係について、フォーカスサーボおよびトラッキングサーボによる位置決め手段を必要とする点では、周知例記載のものと同様であり、差異はない。
又、刊行物記載の発明の光情報記録再生装置において、光ピックアップからの光の光情報記録媒体の記録面への照射角度、即ち、光ピックアップ及び出射される光と光情報記録媒体との相対的な角度(傾き)が変化することにより生じる記録及び再生動作、記録信号、再生信号等の劣化も、劣化の程度の大小、劣化の原因はともかく、上記周知例記載の光ピックアップ、光ディスク装置と同様であることも、当業者であれば当然に想定し得ることである。
更に、補正後発明において、位置調整手段に周知の傾き補正手段を採用するに際して、記録手法及び再生手法が原理的に異なることに対応し、又、記録及び再生動作、記録信号、再生信号等の劣化の程度が極めて大きいことに対応して、格別に工夫を要した点は認められない。

位置調整の対象をピックアップ本体とすることに、その工夫があるとしても、位置調整の対象をピックアップ本体とすることは、前記したとおり、周知のことである。とすると、補正後発明は、刊行物記載の発明において、位置調整手段の機能として、上記周知の傾き補正手段を、単に、採用し、付加したものに相当するものということができ、当業者であれば、格別の困難性もなく、容易になし得る範囲内のものと認められる。

結局、補正後の請求項1に係る発明は、刊行物に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

そして、上記各相違点についての判断を総合しても、補正後の請求項1に係る発明の奏する効果は刊行物に記載された発明及び周知技術から当業者が十分に予測可能なものであって格別のものとはいえない。

3.補正についてのむすび
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

なお、請求人は、審判請求理由及び平成20年8月12日付けで、当審で通知した審尋に対しての平成20年10月14日付け回答書で、特に、本願発明1について、
・「ピックアップ本体の位置を調整するものである。」
・「光情報記録媒体に予め記録された傾き検出用の情報を再生して得られた情報を基にして、ピックアップ本体と光情報記録媒体との間の相対的な傾きを補正するものである。」
・「情報光及び記録用参照光を共に生成する空間光変調器を採用している。」
として、縷々主張しているが、上記したとおり、いずれも、周知例、又は、刊行物に記載されたものであり、その採用・組み合わせに格別の困難性はなく、当業者が容易になし得る範囲内のことであることも、上記したとおりであり、請求人の主張は採用できない。


III.本願について
1.本願発明
平成18年10月25日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願請求項1乃至9に係る各発明は、平成17年8月4日付けの手続補正によって補正された明細書及び図面からみて、その請求項1乃至9に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明は、上記II.〔理由〕1.-本件補正前-の請求項1に記載されたとおりのもの(以下「本願発明」という。)と認める。

2.刊行物及びその記載
上記II.2. (2-2)に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明と刊行物記載の発明とを対比する。
本願発明は、前記II.2. (2-3)対比・判断で、検討した補正後発明に対して、
位置調整手段についての、発明を特定するために必要な事項である
「前記位置調整手段は、前記光情報記録媒体に予め記録された傾き検出用の情報を再生して得られた情報を基にして、前記ピックアップ本体と光情報記録媒体との間の相対的な傾きを補正する」を除いた上位の発明に相当するものである。
そうすると、本願発明の構成要件を全て含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する補正後発明が、上記「II.〔理由〕2.(2)補正の適否」に記載したとおり、刊行物記載の発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、刊行物に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおりであるから、本願請求項1に係る発明については、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-02-18 
結審通知日 2009-02-24 
審決日 2009-03-10 
出願番号 特願2000-90813(P2000-90813)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G11B)
P 1 8・ 575- Z (G11B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 五貫 昭一  
特許庁審判長 江畠 博
特許庁審判官 山田 洋一
小松 正
発明の名称 光ピックアップ装置  
代理人 畑中 芳実  
代理人 伊藤 高英  
代理人 大倉 奈緒子  
代理人 鈴木 健之  
代理人 中尾 俊輔  
代理人 玉利 房枝  
代理人 磯田 志郎  

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