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審決分類 審判 査定不服 特29条の2 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1196417
審判番号 不服2008-4325  
総通号数 114 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-06-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-02-22 
確定日 2009-04-22 
事件の表示 特願2001-310240「光ピックアップ装置用光学系、カップリングレンズ及び光情報記録・再生装置」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 4月18日出願公開、特開2003-114382〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成13年10月5日に出願した特願2001-310240号であって、平成16年9月28日付けで手続補正がされ、平成19年11月5日付けで拒絶理由通知がされ、同年12月26日付けで手続補正がされ、これに対して、平成20年1月21日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年2月22日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

1.本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、特許請求の範囲に記載された次のとおりのものである。

「波長λの光束を出す光源と、前記光源からの光束を光情報記録媒体に結像させるための光学系と、前記光情報記録媒体への結像を行なう際のフォーカシング機構と、前記光情報記録媒体からの反射光を検知する光検出器と、を有する光ピックアップ装置に用いられる光学系において、
前記光学系は、対物レンズと、前記光源からの光束の広がり角を変換するプラスチックカップリングレンズと、から構成され、前記光源からの光束が前記光情報記録媒体に結像する際に前記対物レンズと前記カップリングレンズとを通過し、前記光情報記録媒体からの反射光を光検出器で検知する際にその反射光が前記カップリングレンズを通過せずに前記対物レンズを通過する構成であり、
前記対物レンズがプラスチックで形成されており、
前記カップリングレンズの少なくとも一面に輪帯状の回折構造が形成され、前記カップリングレンズは全体として正の屈折力を有することを特徴とする光ピックアップ装置用光学系。」

2.引用例
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願の日前の他の出願であって、その出願後に出願公開された特願2001-154482号(特開2002-352464号公報参照)の願書に最初に添付した明細書及び図面(以下、「先願明細書」という。)には、以下の技術事項が記載されている。

(a)「【請求項1】 半導体レーザ素子からの発散光を光分岐素子に通した後に、対物レンズにより記録媒体上に集光させ、記録媒体から反射した信号光を逆の経路を辿って光分岐素子により分岐後、記録情報信号を得る光ピックアップ装置において、
半導体レーザ素子から光分岐素子に至る光路の間にマイクロフレネルレンズを配置し、マイクロフレネルレンズによって半導体レーザ素子からの前記発散光の開口数が小さくなるように変換することを特徴とする光ピックアップ装置。
【請求項2】 前記マイクロフレネルレンズはブレーズ型の回折素子であることを特徴とする請求項1記載の光ピックアップ装置。
【請求項3】 前記マイクロフレネルレンズは同心円状の回折パターンを有し、前記回折パターンの輪帯半径をRm、輪帯の番号をm、半導体レーザ素子からの発散光の波長をλ、前記マイクロフレネルレンズの焦点距離をfとしたとき、Rmが次の関係式より求まることを特徴とする請求項2記載の光ピックアップ装置。
【数1】



(b)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、光磁気ディスクなどの情報記録媒体に対して半導体レーザ素子からの光を照射することにより情報記録媒体の記録面に情報を記録し、あるいは情報記録媒体の記録面に書き込まれた情報を再生する光ピックアップ装置に関する。」

(c)「【0030】図1は、本発明の第1の実施形態である光ピックアップ装置101の構成図である。図1に示される光ピックアップ装置101は、半導体レーザ素子1、透明基板20の上に設けられたMFL(マイクロフレネルレンズ)2、光分岐素子3、コリメートレンズ4、半導体レーザ素子1を納める半導体レーザ素子パッケージ5、対物レンズ6、ウォラストンプリズム8、凹レンズ9、光検出器10を備えて構成されている。半導体レーザ素子1は、波長λがλ=405±10nmの青紫色半導体レーザ素子である。MFL2は、同心円上輪帯からなる位相型の回折素子である。光分岐素子3は分岐面が誘電体膜で構成されており、半導体レーザ素子1からの発散光を対物レンズ6へと透過させ、また、光磁気ディスク7からの反射光を光検出器10の方向に分岐する。コリメートレンズ4および対物レンズ6は、凸型の屈折型レンズである。ウォラストンプリズム8は、光分岐素子3により分岐された光を偏光分離する。凹レンズ9は、ウォラストンプリズム8によって偏光分離された光を光検出器10に集光させるためのレンズである。光検出器10は、集光した光を光電変換によって電気信号にする。半導体レーザ素子1からの発散光の開口数(NA:Numerical Aperture)が小さくなるようにMFL2を用いてNA変換を行い、たとえばNA=0.20からNA=0.10に変換した後、半導体レーザ素子1からの発散光は光分岐素子3を介してコリメートレンズ4により平行光束化され、対物レンズ6に導かれた後に光磁気ディスク7に集光される。光磁気ディスク7からの反射光は入射光と逆の光路を辿って光分岐素子3で分岐され、ウォラストンプリズム8により偏光分離された後凹レンズ9を通り光検出器10に入射して光電変換される。このようにMFL2を用いて半導体レーザ素子1からの発散光をNA変換して光分岐素子3にNAの小さい光を入れることで、光分岐素子3の分岐面を構成する誘電体膜の持つ偏光間位相差の入射角度依存性の影響を小さくし、半導体レーザ素子1からMFL2に入る間に加えてMFL2から対物レンズ6に導かれる間にも光束の径を大きくすることが可能となるので、半導体レーザ素子1から対物レンズ6までの距離を短くすることができ、光ピックアップ装置101の小型化を図ることができる。
【0031】次に、図2を用いて本発明の第2の実施形態について説明する。図2は、本発明の第2の実施形態である光ピックアップ装置102の構成図である。図2に示される光ピックアップ装置102は、第1の実施形態における光ピックアップ装置101とほぼ同様の構成をしているが、半導体レーザ素子1からの光を光分岐素子3に通した後、コリメートレンズ4を使わずにそのまま対物レンズ6に導いている点が異なっている。すなわち、MFL2を用いて半導体レーザ素子1からの発散光のNA変換を行い、NA=0.20からNA=0.10にNAを小さくして光分岐素子3を通した後に直接対物レンズ6に導いて光磁気ディスク7に集光させる。反射光については上記第1の実施形態と同じ経路を辿る。以上のように、コリメートレンズ4を使わずに半導体レーザ素子1からの光を直接対物レンズ6に導く光学系は有限系と呼ばれており、コリメートレンズ4を使わない分コストの削減ができ、また光軸方向に光ピックアップ装置202を小型化できる。
【0032】本発明の光ピックアップ装置101,102に用いられるMFL2について図3を用いて説明する。図3は、各種MFL2の断面図である。MFL2としては古くから図3(a)ゾーンプレート型および図3(b)ステップ型などが知られているが、ゾーンプレート型およびステップ型は逆位相になる輪帯成分を遮光する、もしくは凹凸形状を形成して±πの位相差を与えるものである。しかし、ゾーンプレート型およびステップ型のMFLは回折効率が低く回折効率は最大40%である。実用化のためにはさらに回折効率を向上する必要があり、斜面を設けた図3(c)ブレーズ型とすることにより理論的に100%の回折効率を得ることができる。
【0033】上記ブレーズ型のMFL2の上面図および断面図を図4に示す。MFL2はホログラムレンズとも呼ばれ、同心円状の輪帯からなる位相型の回折素子であり、焦点に集光するm番目の輪帯により回折した光線と中心を通る基準光線とが波長の整数倍の光路差を持てば2つの光波は互いに強め合う。したがって、同心円上の回折パターンの輪帯半径をRm、MFL2の焦点距離をf、半導体レーザ素子1からの発散光の波長をλとしたとき、
【数3】

となり、上式よりRmを次のように求めることができる。
【0034】
【数4】



(d)「【0039】次に、上記MFL2の作成方法について図6および図7を参照しながら説明する。
【0040】具体的な作成方法として、ダイヤモンドバイト11を用いて金型に微細形状を切削加工した後に、射出成型、2p法およびプレスによる樹脂成形を行う方法ならびに光リソグラフィとドライエッチング技法とを用いてガラス上にバイナリ加工を施す方法が知られている。ダイヤモンドバイト11を用いた加工方法について図6を用いて説明する。図6は、ダイヤモンドバイト11を用いたときのMFL2の切削加工を示した断面図である。まず精密NC旋盤およびダイヤモンドバイト11を用いて無酸素銅などの切削用金属12上に切削加工を施し、金属原板をNi電鋳した後に成形用金型とする。次に微細形状を施した金型に射出成型、2p法およびプレスによる樹脂成形を行う。加工に用いるダイヤモンドバイト11の先端の曲率半径は、加工に耐え得る強度であれば可能な限り小さいほうが望ましい。また、成形に用いられる樹脂は短波長(青紫色)領域における光吸収係数が小さく、黄変などのない耐光性に優れている材料を用いることが望ましい。」

(e)図1の記載から、半導体レーザ素子1からの光束が光磁気ディスク7に結像する際に対物レンズ6とMFL(マイクロフレネルレンズ)2とを通過し、光磁気ディスク7からの反射光を光検出器10で検知する際にその反射光がMFL2を通過せずに対物レンズ6を通過することが見てとれる。

(f)上記(c)の記載、および、図1の記載から、MFL2が半導体レーザ素子1からの光束の広がり角を変換すること、および、MFL2が正の屈折力を有することが読み取れる。

上記先願明細書記載事項及び図面を総合勘案すると、先願明細書には、次の発明(以下「先願発明」という。)が記載されていると認められる。

「半導体レーザ素子1からの発散光を光分岐素子3に通した後に、対物レンズ6により光磁気ディスク7上に集光させ、光磁気ディスク7から反射した信号光を逆の経路を辿って光分岐素子3により分岐後、光検出器10により記録情報信号を得る光ピックアップ装置において、
半導体レーザ素子1から光分岐素子3に至る光路の間に、樹脂成形により作成された同心円状の回折パターンを有したブレーズ型の回折素子であるマイクロフレネルレンズ2を配置し、前記マイクロフレネルレンズ2が正の屈折力を有し、半導体レーザ素子1からの光束の広がり角を変換するレンズであり、
半導体レーザ素子1からの光束が光磁気ディスク7に集光する際にマイクロフレネルレンズ2と対物レンズ6とを通過し、光磁気ディスク7からの反射光を光検出器10で検知する際にその反射光がマイクロフレネルレンズ2を通過せずに対物レンズ6を通過する光ピックアップ装置。」

3.対比
本願発明を、先願発明と対比する。
先願発明の「半導体レーザ素子1」は、本願発明の「波長λの光束を出す光源」に相当する。
先願発明の「対物レンズ6」は、本願発明の「対物レンズ」に相当する。
先願発明の「光磁気ディスク7」は、本願発明の「光情報記録媒体」に相当する。
先願発明の「光検出器10」は、本願発明の「光検出器」に相当する。
先願発明の「マイクロフレネルレンズ2」は、樹脂成形により作成された、同心円状の回折パターンを有したブレーズ型の回折素子であって、正の屈折力を有し、半導体レーザ素子1からの光束の広がり角を変換するレンズであるから、本願発明の「少なくとも一面に輪帯状の回折構造が形成され、前記カップリングレンズは全体として正の屈折力を有する」「光源からの光束の広がり角を変換するプラスチックカップリングレンズ」に相当する。
先願発明の「半導体レーザ素子1からの光束が光磁気ディスク7に結像する際に対物レンズ6とマイクロフレネルレンズ2とを通過し、光磁気ディスク7からの反射光を光検出器10で検知する際にその反射光がマイクロフレネルレンズ2を通過せずに対物レンズ6を通過する」なる事項は、本願発明の「光源からの光束が光情報記録媒体に結像する際に対物レンズとカップリングレンズとを通過し、光情報記録媒体からの反射光を光検出器で検知する際にその反射光がカップリングレンズを通過せずに対物レンズを通過する構成」に相当する。
先願発明の「対物レンズ6」と「マイクロフレネルレンズ2」は、半導体レーザ素子1からの光束が光磁気ディスク7に集光する際にマイクロフレネルレンズ2と対物レンズ6とを通過するのであるから、本願発明の「光源からの光束を光情報記録媒体に結像させるための光ピックアップ装置用光学系」に相当する。

すると、本願発明と、先願発明とは、次の点で一致する。

「波長λの光束を出す光源と、前記光源からの光束を光情報記録媒体に結像させるための光学系と、前記光情報記録媒体からの反射光を検知する光検出器と、を有する光ピックアップ装置に用いられる光学系において、
前記光学系は、対物レンズと、前記光源からの光束の広がり角を変換するプラスチックカップリングレンズと、から構成され、前記光源からの光束が前記光情報記録媒体に結像する際に前記対物レンズと前記カップリングレンズとを通過し、前記光情報記録媒体からの反射光を光検出器で検知する際にその反射光が前記カップリングレンズを通過せずに前記対物レンズを通過する構成であり、
前記カップリングレンズの少なくとも一面に輪帯状の回折構造が形成され、前記カップリングレンズは全体として正の屈折力を有する光ピックアップ装置用光学系。」

一方で、本願発明と先願発明は、次の点で一応相違する。

(1)「光ピックアップ装置」が、本願発明においては、「光情報記録媒体への結像を行なう際のフォーカシング機構」を有するのに対して、先願発明においては、そのようなフォーカシング機構を有することが明確でない点。

(2)「対物レンズ」が、本願発明においては、「プラスチックで形成されて」いるのに対して、先願発明においては、プラスチックで形成されているかどうかが明確でない点。

4.判断
上記相違点(1)について検討する。
「光ピックアップ装置」が「光情報記録媒体への結像を行なう際のフォーカシング機構」を有することは当業者には周知であり(例えば特開2001-159731号公報(段落【0029】)、特開平7-98431号公報(段落【0072】)、特開平4-212730号公報(段落【0031】)、特開平9-306014号公報(段落【0006】)および特開平10-199023号公報(段落【0149】)を参照)、先願発明の光ピックアップ装置用光学系が光情報記録媒体への結像を行なう際のフォーカシング機構を有することは当業者においては自明の事項であり、この点は実質的な相違点とはいえない。

上記相違点(2)について検討する。
先願明細書においては、対物レンズ6の材料については何等特定されていないところ、「光ピックアップ装置用光学系」において対物レンズの材料としてプラスチックを用いることはこの分野では広く慣用されていることであり(例えば特開2000-35535号公報(段落【0009】)、上記特開平9-306014号公報(段落【0047】)、上記特開平10-199023号公報(段落【0159】?【0169】)および特開平10-106012号公報(段落【0004】)を参照)、先願発明の光ピックアップ装置用光学系の対物レンズの材料としてプラスチックを用いることが実質的に想定されているといえるから、この点については実質的な相違点とはいえない。

したがって、本願発明は、先願発明と実質同一である。

また、この出願の発明者が上記先願明細書に記載された発明の発明者と同一であるとも、本願の出願時に、その出願人が上記他の出願の出願人と同一であるとも認められない。

よって、本願発明は、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-02-13 
結審通知日 2009-02-16 
審決日 2009-03-10 
出願番号 特願2001-310240(P2001-310240)
審決分類 P 1 8・ 16- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 瀬川 勝久  
特許庁審判長 末政 清滋
特許庁審判官 安田 明央
吉野 公夫
発明の名称 光ピックアップ装置用光学系、カップリングレンズ及び光情報記録・再生装置  
代理人 田村 敬二郎  
代理人 小林 研一  

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