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審決分類 審判 一部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  G06Q
管理番号 1196494
審判番号 無効2008-800158  
総通号数 114 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-06-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2008-08-20 
確定日 2009-04-27 
事件の表示 上記当事者間の特許第3547990号発明「生産管理システム、生産管理プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3547990号の請求項2に係る発明(以下、「本件特許発明」という。)についての出願は、平成10年4月10日に特許出願がなされ、平成16年4月23日にその発明について特許の設定登録がなされたものである。
これに対して、平成20年8月20日に請求人柴野良三より無効審判が請求され、同年12月26日付けで被請求人株式会社クラステクノロジーより答弁書が提出され、平成21年3月4日に口頭審理が行われ、同日付けで請求人より口頭審理陳述要領書及び口頭審理陳述要領書(2)、被請求人より口頭審理陳述要領書が提出されたものである。

2.特許請求の範囲の記載
本件特許に係る明細書の特許請求範囲の記載は、次のとおりのものである。
「【請求項1】
生産管理システムにおいて、
第1の業務に係るアプリケーションを実行する第1の業務管理システムと、
第2の業務に係るアプリケーションを実行する第2の業務管理システムと、
統合データベースと、
を備え、
前記統合データベースは、
前記第1の業務に係るアプリケーションと前記第2の業務に係るアプリケーションとで品目を表示するか否かの情報である品目表示情報と、前記品目毎の図面若しくは技術連絡書とその実体データの位置に関する情報である属性情報と、前記第1の業務に係るアプリケーションと前記第2の業務に係るアプリケーションとで前記図面若しくは技術連絡書を表示するか否かに関する情報である属性表示情報と、前記各品目が採用された日付である採用日付とその採用が終了した日付である採用終了日付が格納されるリリース情報とを有する品目マスタと、
前記品目マスタに格納されている各品目間の構成情報を格納する構成マスタと、
前記品目マスタに格納されている前記各品目の前記図面若しくは技術連絡書の実体データを格納する図面・技術連絡書マスタと、
ある時点での品目の構成を識別するための固有の識別子であるバージョン番号と当該バージョンの開始日付を格納するバージョン管理マスタとを有し、
第1の業務管理システムに関する情報と第2の業務管理システムに関する情報とを統合してデータを蓄え、前記第1の業務に係るアプリケーションと前記第2の業務に係るアプリケーションとで表示をする品目を異なるようにデータを保持することで、各業務間で内容が異なる情報の一元的な統合を可能にし、
前記第1の業務管理システム及び前記第2の業務管理システムは、それぞれ、
前記品目表示情報と前記属性情報と前記属性表示情報とに基づいて、前記統合データベースに統合され蓄えられているデータの中から各業務管理システムに係る業務に必要な品目のみと当該業務に必要な前記図面若しくは前記技術連絡書のみを抽出し、前記構成情報に基づいて、抽出された品目の品目間の構成と当該業務に必要な前記図面若しくは前記技術連絡書の情報を編集して、各業務に必要な品目の構成として各業務専用の画面構成により表示する手段と、
ユーザにより任意に指定された日付が、前記リリース情報の前記採用日付と前記採用終了日付の範囲に含まれている品目を、前記品目表示情報と前記リリース情報に基づいて前記統合データベースから抽出し、抽出された品目とその品目間の構成とを前記構成情報に基づいて編集して、前記ユーザにより任意に指定された日付における各業務に必要な品目の構成として各業務専用の前記画面構成により表示する世代管理エンジンと、
ユーザにより任意に指定されたバージョン番号の開始日付を前記バージョン管理マスタから求め、求めた当該バージョン番号の開始日付が前記リリース情報の前記採用日付と前記採用終了日付の範囲に含まれている品目を、前記品目表示情報と前記リリース情報に基づいて前記統合データベースから抽出し、抽出された品目とその品目間の構成とを前記構成情報に基づいて編集して、前記ユーザにより任意に指定されたバージョンにおける各業務に必要な品目の構成として各業務専用の前記画面構成により表示するバージョン管理検索エンジンとを備えること
を特徴とする生産管理システム。
【請求項2】
前記構成マスタは、当該品目の上位の品目に関する情報を格納することを特徴とする請求項1記載の生産管理システム。
【請求項3】(省略)
【請求項4】(省略)」

3.請求人の主張の概要
請求人の主張の概要は、次のとおりである。

3-1.審判請求書における主張の概要
3-1-1.無効審判請求の根拠
本件特許発明の発明特定事項のうち「構成マスタ」については、「構成マスタ」を適用した“当該品目の上位の品目”の確定方法について、発明の詳細な説明には、本件特許発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないから、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしておらず、本件特許は、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。

3-1-2.本件特許を無効とすべきである理由
(1)本件特許発明
本件特許発明は、部品表データベース(明細書の統合データベースの定義に品目マスタPN+構成マスタPSを持つ記述あり)の階層表示部品表構造を使い、種々の情報を、登録情報が関係する部位(当該品目という)を指示し、指示項目とその上位構造コード情報である、有意・多段・上位階層コードを得て統合データベースに登録し、関連属性情報を集め、製造企業の全部門を統合するデータベースを運用するようである(明細記述が曖昧で詳細不明だが、甲第1号証:特開平10-307863号公報に酷似する)。

(2)明細書等の記載要件違反の理由
本件特許発明に係る、当該品目と上位品目の取得は、構成マスタを使用する。
本件特許の請求項2では、“【請求項2】前記構成マスタは、当該品目の上位の品目に関する情報を格納することを特徴とする請求項1記載の生産管理システム。”と述べているが、構成マスタ(PS)は部品展開に使用するもので単純な2階層データの集合であり、たとえば、本件特許に係る図4の《ヘ/チ》は、これ自体で上位の品目に関する情報《ヘ》を持つ。
ここで、《ホ》の傘下に《ホ/チ》がある場合の共通部品《チ》を想定する。当該品目(詳細記述での定義・操作手段記述の無い不明用語)が《チ》の場合、《ヘ/チ》、《ホ/チ》の何れと判断するのか不明である。さらに、請求項2で記述する“当該品目の上位に関する情報を格納することを特徴とする”特徴の内容とは何か。本件特許に係る明細書の記述では関連説明が無い。特願平10-99570号包袋でも関連情報は無い。
この結果、本件特許発明は、詳細説明記述無しに成立していることになる。
本件特許は、【請求項2】に係る“当該品目+(全ての)上位の品目”の取得により、本件特許の統合データベースが生成する。この【請求項2】の先願技術は、甲第1号証:特開平10-307863号公報・第2頁第1欄第2行?第11行の【請求項1】である。

3-1-3.むすび
したがって、本件特許発明の「前記構成マスタは、当該品目の上位の品目に関する情報を格納することを特徴とする請求項1記載の生産管理システム」について、発明の当業者が実施できる程度に十分かつ明確に記載されているとは言えないので、本件特許の願書に添付した明細書は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たさないものであるため、本件特許は同法第123条第1項第4号の規定に該当し、無効とすべきである。

3-2.口頭審理陳述要領書における主張の概要
被請求人の審判事件答弁書の内容を、甲第2号証:“生産システム設計ハンドブック(昭和45年《1970年》5月版)”をも踏まえて検証した結果、本件特許発明における「構成マスタ」の従来技術との相違、実施方法・作用効果の技術開示説明記述が、本件特許に係る明細書の記述、包袋文書を含めて無い。

3-3.口頭審理陳述要領書(2)における主張の概要
(1)本件特許発明について、明細書に記述説明が見出せず、新規性進歩性欠如の具体的指摘は不可能である。
さらに、本件特許発明が使用する“【図4】構成マスタ112の例”は、市場の製品構成では見られない、共通部品の存在しない、謂わば架空の製品構成例である。この結果、何れの“当該品目”からでも最上位の製品“イ”に到達できるとの誤解を招く製品構成例が示されている。本件特許に係る明細書の記述の説明に供する【図5】?【図12】、【図13】は、この単純構成例で示されている。
請求人は、審判請求書で共通部品“チ”を設問し、本件【請求項2】の技術内容の正確な把握に努めたところ、被請求人の審判事件答弁書の応答により、“当該品目の上位の品目”が、一般的な構成マスタのデータテーブル表現であり、単一上位階層であることが確認できた。
請求人は、口頭審理陳述要領書で、被請求人の回答情報を基に、本件【請求項2】に関する新規性進歩性の欠如を指摘し、被請求人が主張する【請求項2】の内容が公知技術であると例証し、さらに、特許詳細記述で必要とされる“該構成マスタの従来技術との相違、実施方法・作用効果の技術開示説明記述が明細記述、包袋文書を含めて無い。”と主張した。

(2)請求人は請求人の口頭審理陳述要領書で、本件【請求項2】について、1970年の公知文献にも存在する構成マスタのデータ構造と指摘している。この構成マスタは、現在でも生産管理に適用されている。被請求人はこのデータ構造を、【請求項1】記載の生産管理システムに特許技術として適用しているのであるから、この適用技術の開示が不可欠である。
具体的には、【発明の詳細な説明】、【従来の技術と発明が解決しようとする課題】、【課題を解決するための手段】、【発明の実施の形態】、【発明の効果】等の関連記述を、本件特許の“明細記述、包袋文書”で提示しなくてはならない。

4.被請求人の主張の概要
被請求人の主張の概要は、次のとおりである。

4-1.審判事件答弁書における主張の概要
4-1-1.本件特許発明についての特許明細書の発明の詳細な説明における記載
本件特許発明の「構成マスタ」については、特許明細書の発明の詳細な説明の【発明の実施の形態】を説明する段落【0026】及び【0028】に以下の記載がある。
「【0026】
図2は、統合データベース110の構成を示した図である。この統合データベース110は、製品や部品の管理を行う品目マスタ111を有し、製品や部品の構成マスタ112、図面マスタ115、技術連絡書マスタ116その他品目マスタに格納される製品や部品における必要な情報を格納する事ができるようにしており、それら各マスタは品目マスタと関係付け(relation)がなされている。また、構成マスタ112は、製品や部品のバージョンを管理するバーション管理マスタ113及び図面世代管理マスタ114と関連付けがなされている。」、
「【0028】
図4は、構成マスタ112の例を示した図である。構成マスタ112は各品目がどのように構成されているかを管理しているマスタである。本実施形態では製品イを用いて説明する。この製品イは、部品ロ及びハからなり、部品ハは、部品ニ、部品ホ、部品ヘからなり、部品ヘは、部品ト、部品チからなる。この場合には、各部品の上位の部品もしくは製品との関係を構成マスタとして格納する。例えば、部品ロは製品イの部品であり、部品トは部品ヘの部品である、の如くである。このように、構成マスタ112は構成に関する情報を格納する。」

上記のとおり、特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0026】及び【0028】の記載によれば、本件特許発明の構成マスタは、構成に関する情報を格納し、各品目がどのように構成されているかを管理しているマスタであり、品目マスタ、バーション管理マスタ及び図面世代管理マスタと関連付けがなされているものである。そして、この記載に基づいて、請求項1には、「前記品目マスタに格納されている各品目間の構成情報を格納する構成マスタ」と記載されているのである。さらに、段落【0028】には、構成マスタの例が示されており、製品イが、部品ロ及びハからなり、部品ハが、部品ニ、部品ホ、部品ヘからなり、部品ヘが、部品ト、部品チからなる場合には、各部品の上位の部品もしくは製品との関係を、図4のように、各部品の上位の部品もしくは製品との関係情報として格納するものであることが記載されている。この記載に基づいて、本件特許発明では、「前記構成マスタは、当該品目の上位の品目に関する情報を格納することを特徴とする」と記載されているのである。

4-1-2.無効理由について
(ア)請求人が上記3-1-2.でいう「本件特許発明」とは、各マスタを含む統合データベースに言及していることから、本件特許の請求項2に係る発明(本件特許発明)を指しているのではなく、請求項1に係る発明を指しているものと考えられる。括弧書きで、「明細記述が曖昧で詳細不明」とは記載されているが、本件無効審判では、請求項2に係る発明のみが無効審判の対象であるから、請求項1に係る発明の「詳細不明」が無効理由を主張しているものとは解されない。
また、本件特許発明が甲第1号証に酷似する、及び本件【請求項2】の先願技術は甲第1号証の【請求項1】である旨の主張は、本件特許発明が実施可能要件を満たしているか否かとは関係のないものであり、その主張の意義が明確でない。

(イ)本件特許発明における「構成マスタ」は、「当該品目の上位の品目に関する情報を格納する」ものであるところ、明細書の発明の詳細な説明においては、構成マスタは、品目マスタに格納されている各品目の構成情報、すなわち、製品や部品の間の構成情報を格納するものであって、たとえば、製品イが、部品ロ及びハからなり、部品ハが、部品ニ、部品ホ、部品ヘからなり、部品ヘが、部品ト、部品チからなる場合には、各部品の上位の部品もしくは製品との関係を、図4のように、各部品の上位の部品もしくは製品との関係情報として格納するものであることが記載されている。この記載において、「各部品」が本件特許発明の「当該品目」に相当し、「上位の部品もしくは製品」が本件特許発明の「上位の品目」に相当することは明らかである。よって、明細書の発明の詳細な説明には、本件特許発明の「前記構成マスタは、当該品目の上位の品目に関する情報を格納すること」が記載されているといえるのである。
請求人が不明であると提示している、《ホ》の傘下に《ホ/チ》がある場合の共通部品《チ》を想定するため、たとえば、《ホ》が部品《チ》及び《リ》からなっている場合について、明細書の発明の詳細な説明の記載に即して検討する。
この場合、構成マスタには、ホ/チ、ホ/リの情報が追加されて格納されることになる。
すなわち、《ホ》の傘下に《ホ/チ》がある場合、構成マスタには、《ヘ》の傘下に《ヘ/チ》の情報を格納すると同時に、《ホ》の傘下に《ホ/チ》の情報をも格納するのであり、当該品目《チ》は、《ヘ/チ》及び《ホ/チ》と、2個の上位の品目を有すると判断されるのである。
このことは、当業者であれば、明細書の発明の詳細な説明の実施の形態を説明する段落【0028】及び図4の記載から極めて自然に理解できるところである。
乙第1号証「MRPシステム-コンピューター時代の新生産管理-」の129-149頁中の特に130頁の図5.1には、最終製品Xに請求人が提示している共通部品aが現れる場合について説明がなされている。このように、本件特許の出願前において、最終製品Xに共通部品aが存在する場合にもChristmass tree形式で表現すると部品の親子関係が一目でわかることから広く利用されていることが分かる。
本件特許発明は、このような周知の事項を踏まえてなされたものであり、「構成マスタは、当該品目の上位の品目に関する情報を格納することを特徴とする」ことは、明細書の発明の詳細な説明に記載されている。

(ウ)請求項2で記述する“当該品目の上位に関する情報を格納することを特徴とする”特徴の内容とは、当該品目の上位に関する情報を格納することを指すことは、請求項2自体の記載から明らかである。
すなわち、請求項1においては、「前記品目マスタに格納されている各品目間の構成情報を格納する構成マスタ」と、構成マスタは各品目間の構成情報を格納すると規定されていたのに対し、本件特許発明では、構成マスタは、「当該品目の上位の品目に関する情報を格納する」と、「各品目間の構成情報」を「当該品目の上位の品目に関する情報」と限定したのであり、この限定が本件特許発明の特徴となっているのである。
そして、請求項2の発明について記述するところの明細書の発明の詳細な説明の実施の形態の段落【0028】には、当該品目の上位の品目に関する情報を格納することについて、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていることは上記したとおりである。

4-1-3.結論
以上のとおり、請求人の主張する無効理由は理由がなく、本件特許発明について、明細書の発明の詳細な説明には、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているから、本件特許は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしている特許出願に対してなされたものである。
したがって、本件特許発明に係る特許は、特許法第123条第1項第4号の規定により無効とされるものではない。

4-2.口頭審理陳述要領書における主張の概要
(ア)審判請求書の記載は、請求項2の“当該品目の上位の品目に関する情報”とは、《ヘ/チ》と《ホ/チ》の共通部品《チ》がある場合、《ヘ/チ》、《ホ/チ》の何れと判断するのか不明であるから、実施可能でないとの主張と解されるところ、本件明細書の記載及び公知文献によれば、単一上位階層関係の全品目(ヘ/チ、ホ/チ)であることが理解できるのであれば、無効理由は存在しないと考えるのが相当である。

(イ)請求人の口頭審理陳述要領書の主張は、請求項2に請求項1に対して公知の構成要件を付加することは許されないことを前提として、本件明細書に、請求項2に規定した構成要件が従来技術と異なるものであることや、従来と異なる実施方法・作用効果が記載されていないから、実施可能でないと主張しているものと解さざるを得ない。

(ウ)本件に適用される、いわゆる実施可能要件とは、平成8年改正特許法第36条第4項の「前項第三号の発明の詳細な説明は、通商産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に、記載しなければならない。」というものであり、当業者(その発明の属する技術分野において研究開発のための通常の技術的手段を用い、通常の創作能力を発揮できる者)が、明細書及び図面に記載した事項と出願時の技術常識とに基づき、請求項に係る発明を実施することができる程度に、発明の詳細な説明を記載しなければならない旨を意味するものである。

(エ)乙第1号証や甲第2号証に記載された事項は、当業者であれば当然に有する出願時の技術常識に属するから、本件明細書の記載及び公知文献によれば、請求項2の“当該品目の上位に関する情報”とは、単一上位階層関係の全品目(ヘ/チ、ホ/チ)であることが理解できるのであれば、実施可能要件違反の無効理由は存在しない

(オ)請求項2が、請求項1に対して公知の構成要件を付加したものであるとしても、そのことと実施可能要件違反とは全く無関係な事項である。
請求人は、請求項2が、請求項1に対して公知の構成要件を付加したものであれば、請求項2に係る発明は、新規性進歩性の特許要件を欠くものであると認識しているとすれば、それは誤解と言わざるを得ない。
請求項1が新規性進歩性を有するものであれば、請求項1を引用して公知の構成要件を付加したものも、当然に新規性進歩性を有するからである。
また、そもそも請求人は、本件審判請求書において、新規性進歩性違反の無効理由は主張していないから、新規性進歩性は審理の対象となるものではない。

5.当審の判断
本件特許発明は、上記「2.特許請求の範囲」の請求項2に記載されたとおりのものであり、請求項1に記載された「生産管理システム」に係る発明の構成要件に加えて、請求項1の記載における「統合データベース」が有する各種マスタのうちの「品目マスタに格納されている各品目間の構成情報を格納する構成マスタ」を「当該品目の上位の品目に関する情報を格納する」という技術的特徴を有するものに限定したものである。
そこで、上記請求項1における「構成マスタ」を「当該品目の上位の品目に関する情報を格納する」ものに限定することが、本件特許に係る明細書の発明の詳細な説明において、当業者が本件特許発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているかどうかについて検討する。
発明の詳細な説明の段落【0026】及び【0028】には、上記4-1-1.に摘記されたとおりの記載がなされている。
上記記載によれば、段落【0026】には、図2に関連して、「統合データベース110」が「製品や部品の構成マスタ112」を含む各種マスタを有することが記載され、段落【0028】には、図4に関連して、「構成マスタ112」が「各品目がどのように構成されているかを管理しているマスタ」であることが記載され、具体的な「製品イ」を用いた実施形態として、「製品イは、部品ロ及びハからなり、部品ハは、部品ニ、部品ホ、部品ヘからなり、部品ヘは、部品ト、部品チからなる。」との記載がなされ、「この場合には、各部品の上位の部品もしくは製品との関係を構成マスタとして格納する。」との記載がなされている。
上記段落【0028】の記載において、「各品目がどのように構成されているか」ということが、請求項1にいう「各品目間の構成情報」を説明する記載となっており、具体的な実施形態に見られる「各部品の上位の部品もしくは製品との関係」が、請求項2にいう「当該品目の上位の品目に関する情報」を説明する記載となっている。
ここで、上記段落【0028】及び図4に記載されている製品構成例は、何れの“当該品目”も共通部品として用いられていないものであるが、これは、単なる例示にすぎず、生産管理システムの技術分野において、共通部品を有する製品構成例も、被請求人の提示する乙第1号証や請求人の提示する甲第2号証に見られるように、ごく一般的なものにすぎない。
そして、請求項1に記載された「生産管理システム」に係る発明が有する「構成マスタ」が格納する「各品目間の構成情報」は、各業務専用の画面構成を構築するために必要とされる情報であり、該画面構成を構築するための「各品目間の構成情報」を請求項2にいう「当該品目の上位の品目に関する情報」として種々の画面構成を構築することが、発明の詳細な説明の段落【0029】?【0045】及び図5?図13に記載されている。
上記発明の詳細な説明の段落【0029】?【0045】及び図5?図13に記載されている画面構成例は、「構成マスタ」が格納する「当該品目の上位の品目に関する情報」の“当該品目”が何れも共通部品として用いられない製品構成例に基づくものであるが、被請求人の提示する乙第1号証や請求人の提示する甲第2号証に見られるような共通部品を有する製品構成例であっても、「構成マスタ」に「当該品目の上位の品目に関する情報」が格納されていさえすれば、何ら新たな技術的要素を加えることなしに各業務専用の画面構成を構築することができることは、当業者にとって自明である。
すなわち、上記段落【0028】及び図4に記載されている製品構成例で、例えば、《ホ》の傘下に《ホ/チ》がある場合には、《チ》が共通部品となるが、そのような場合であっても、当該品目《チ》は《ヘ/チ》及び《ホ/チ》という2個の上位の品目を有するものであるという構成情報に基づいて、各業務専用の画面構成が構築されるだけであり、何ら新たな技術的要素が必要とされるわけではない。
以上のとおり、本件特許発明のように、「品目マスタに格納されている各品目間の構成情報を格納する構成マスタ」を「当該品目の上位の品目に関する情報を格納する」という技術的特徴を有するものとして、各業務専用の画面構成を構築することについては、上記段落【0028】及び図4、上記段落【0029】?【0045】及び図5?図13に、当業者が本件特許発明を実施できる程度に明確かつ十分な記載がなされているということができる。
したがって、本件特許発明について、明細書の発明の詳細な説明には、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているから、本件特許発明に係る特許が、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであるとすることはできない。

6.むすび
以上のとおりであるから、請求人が主張する理由によっては、本件特許発明に係る特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2009-03-13 
出願番号 特願平10-99570
審決分類 P 1 123・ 536- Y (G06Q)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 貝塚 涼金子 幸一  
特許庁審判長 長島 孝志
特許庁審判官 飯田 清司
菅原 浩二
登録日 2004-04-23 
登録番号 特許第3547990号(P3547990)
発明の名称 生産管理システム、生産管理プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体  
代理人 櫻井 義宏  
代理人 豊岡 静男  

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