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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F02D
管理番号 1196590
審判番号 不服2008-4359  
総通号数 114 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-06-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-02-22 
確定日 2009-04-20 
事件の表示 平成11年特許願第549905号「内燃機関の機関ノッキングを抑圧する装置」拒絶査定不服審判事件〔平成11年10月14日国際公開、WO99/51875、平成14年 1月 8日国内公表、特表2002-500730〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯、本願発明
本件出願は、1999年3月31日(パリ条約による優先権主張外国庁受理1998年4月3日、ドイツ)を国際出願日とする出願であって、平成11年12月1日付けで特許法第184条の4の規定による翻訳文が提出され、平成19年2月23日付けで拒絶の理由が通知され、これに対し平成19年5月30日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、平成19年11月26日付けで拒絶の査定がなされ、これに対して平成20年2月22日付けで拒絶査定に対する審判の請求がなされたものである。

したがって、本件出願の請求項1?4に係る発明は、平成19年5月30日付け手続補正書により補正された明細書及び出願当初の図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。

「1.各動作パラメータを検出する手段と、
検出されたパラメータに基づいて噴射および点火のための制御量を求める制御ユニットと、
少なくとも1つのノッキングセンサと、
点火のための制御量を補正する装置と
を有しており、
点火のための制御量はノッキングが検出された際にノッキング抑圧のためにノッキング限界から離れるように調整され、続いて所定数のノッキングのない燃焼が生じた後に段階的に再び制御ユニットによって求められた制御量へ戻されるように補正される、
内燃機関の機関ノッキングを抑圧する装置において、
内燃機関に所定の熱的な条件が存在する場合にのみノッキング制御がアクティブに切り換えられ、
内燃機関の実際の熱的条件を評価するために燃焼室へのガス入力温度(evmod)が検出される、
ことを特徴とする内燃機関の機関ノッキングを抑圧する装置。」

2.引用文献記載の発明
原査定の拒絶の理由において引用された、本願優先日前に頒布された刊行物である特開平3-279655号公報(以下、「引用文献」という。)には、例えば、次の事項が記載されている。

(ア)「〈産業上の利用分野〉
本発明は、ノッキングを検出しつつ点火時期を進遅角補正することにより、ノッキングレベルを適正値にコントロールするノッキング制御装置に関する。」(公報第1ページ右下欄第1行?5行)

(イ)「一実施例の構成を示す第2図において、内燃機関1には、エアクリーナ2,吸気ダクト3,スロットルチャンバ4及び吸気マニホールド5を介して空気が吸入される。」(公報第3ページ左上欄第3?6行)

(ウ)「燃料噴射量の制御は、マイクロコンピュータ内蔵のコントロールユニット9において、エアフローメータ6により検出される吸入空気流量Qと、ディストリビュータ13に内蔵されたクランク角センサ10からの信号に基づき算出される機関回転速度Nとから基本燃料噴射量T_(P)を演算し、この基本燃料噴射量T_(P)を冷却水温度等に基づいて補正することにより最終的な燃料噴射量T_(I)を演算し、この燃料噴射量T_(I)に相当するパルス幅の駆動パルス信号を機関回転に同期して燃料噴射弁8に出力することにより、機関1に対して要求量の燃料が噴射供給されるようになっている。」(公報第3ページ左上欄第19行?右上欄第10行)

(エ)「また、機関1の各気筒には夫々点火栓11が設けられていて、これらには、点火コイル12にて発生する電圧がディストリビュータ13を介して常時印加され、これにより、火花点火して混合気を着火燃焼させる。ここで、点火コイル12は、付設されたパワートランジスタ12aを介して高電圧の発生時期が制御されるようになっている。したがって点火時期(点火進角値)ADVの制御は、前記パワートランジスタ12aのOFF時期をコントロールユニット9からの点火時期制御で制御することにより行う。」(公報第3ページ右上欄第11行?左下欄第1行)

(オ)「コントロールユニット9は、前記基本燃料噴射量T_(P)と機関回転速度Nとにより区分される複数の運転領域毎にROMに記憶してあるマップから、当該運転条件に対応する基本点火時期ADV_(0)を検索して求めると共に、所定のノッキング検出運転領域においては、圧電素子によりノッキングを検出するノッキング検出手段としてのノッキングセンサ14からの検出信号に基づいてノッキングの有無を判別して進遅角補正を行い、最終的な点火時期ADVを設定し、該設定点火時期ADVに基づいてパワートランジスタ12aに点火制御信号を出力する。」(公報第3ページ左下欄第2?12行)

(カ)「ここで、コントロールユニット9によって行われる点火時期ADVのノッキング検出に基づく進遅角制御を、第3図のフローチャートに示すプログラムに従って説明する。」(公報第3ページ左下欄第18行?右下欄第1行)

(キ)「ステップ(図ではSと記す)1では、ノッキングセンサ14からの機関振動信号kn/s,水温センサ16からの水温信号Tw,吸気温度センサ17からの吸気温度信号Ta,湿度センサ18からの湿度信号H_(2)Oクランク角センサ10からの機関回転速度信号N,スロットルセンサ15からのスロットル弁開度信号TVO,エアフローメータ6からの吸入空気流量信号Qが入力される。」(公報第3ページ右下欄第6?13行)

(ク)「ステップ2では、ノッキングを発生し易いノッキング検出を要求される領域であるかを判定する。
ノッキング検出要求領域でないと判定された場合はステップ3へ進み、進遅角補正量xを0に設定した後ステップ9へ進み、機関回転速度Nと負荷(例えば基本燃料噴射量T_(P))から基本点火時期ADV_(0)を設定する。
また、ステップ2でノッキング検出要求領域であると判定された場合にはステップ4へ進み、ノッキングセンサ14の検出信号ksiを過去の加重平均値と適当な重み付けで次式により加重平均演算してBGLを求める。」(公報第3ページ右下欄第14行?第4ページ左上欄第5行)

(ケ)「この結果、kn/s>BGL+SLの場合はステップ7へ進んで進遅角補正量xを遅角補正量(-β)を設定し、kn/s≦BGL+SLの場合はステップ8へ進み、進遅角補正量xを進角補正量αに設定した後、夫々ステップ9へ進み、前述したようにして基本点火時期ADV_(0)を検索する。尚、このステップ9の機能が基本点火時期設定手段に相当する。」(公報第4ページ右上欄第13?19行)

(コ)「〈発明の効果〉
以上説明したように本発明によれば、機関運転状態や環境条件の変化に影響されずノッキングの発生を高精度に判定して点火時期制御を行うため、常にノッキングレベルを最適値に制御することができる。」(公報第4ページ左下欄第17行?右下欄第2行)

(サ)上記(ア)、(イ)、(オ)、(コ)及び図面の記載から、引用文献に記載された装置は、「内燃機関1」の「ノッキングレベルを適正値にコントロールする装置」であることが分かる。

(シ)上記(ウ)、(キ)及び図面の記載から、「エアフローメータ6」及び「クランク角センサ10」等の検出手段により、「吸入空気流量Q」及び「機関機転速度N」等が検出されることが分かる。

(ス)上記(ウ)、(エ)、(オ)及び図面の記載から、「コントロールユニット9」は、「吸入空気流量Q」及び「機関機転速度N」等から、「燃料噴射」や「点火時期」の制御量を求めることが分かる。

(セ)上記(オ)、(ケ)及び図面の記載から、「ノッキングセンサ14」からの検出信号に基づいて、「点火時期」の「進遅角補正」を行う手段を有することが分かる。

(ソ)上記(カ)、(ク)、(ケ)及び図面の記載から、「ノッキングセンサ14」からの機関振動始動kn/sの検出に基づく、「点火時期」の進遅角の補正量(「α」,「-β」)により設定される「進遅角補正」は、「ノッキング検出要求領域」であると判定された場合に行われることが分かる。

以上のことから、引用文献には以下の発明が記載されているといえる。
「吸入空気流量、機関回転速度等を検出するエアフローメータ6、クランク角センサ10等と、検出された吸入空気流量、機関回転速度等に基づいて燃料噴射や点火時期の制御量を求めるコントロールユニット9と、ノッキングセンサ14と、点火時期の進遅角補正を行う手段とを有する内燃機関1のノッキングレベルを適正値にコントロールする装置において、
ノッキング検出要求領域であると判定された場合にのみ進遅角補正が行われる内燃機関1のノッキングレベルを適正値にコントロールする装置。」(以下、「引用文献記載の発明」という。)

3.対比
本願発明と引用文献記載の発明を対比すると、引用文献記載の発明における「吸入空気流量、機関回転速度等を検出するエアフローメータ6、クランク角センサ10等」、「吸入空気流量、機関回転速度等」、「燃料噴射や点火時期の制御量を求めるコントロールユニット9」及び「点火時期の進遅角補正を行う手段」は、それらの意図する技術内容及び機能等からみて、本願発明における「各動作パラメータを検出する手段」、「パラメータ」、「噴射および点火のための制御量を求める制御ユニット」及び「点火のための制御量を補正する装置」にそれぞれ相当する。
引用文献記載の発明は、「ノッキングセンサ14」を有していることから、引用文献記載の発明における「ノッキングセンサ14」は、本願発明における「少なくとも1つのノッキングセンサ」に相当する。
また、引用文献記載の発明における、「点火時期」の進遅角の補正量(「α」,「-β」)により設定される「進遅角補正」は、ノッキングレベルをコントロールするものであるから、本願発明における「ノッキング制御」に相当し、引用文献記載の発明における、「ノッキング検出要求領域と判定された場合にのみ進遅角補正が行われる」は、「ある条件が存在する場合にのみノッキング制御がアクティブに切り換えられる」という限りにおいて本願発明の「所定の条件が存在する場合にのみノッキング制御がアクティブに切り換えられる」に相当する。
したがって、本願発明と引用文献記載の発明は、
「各動作パラメータを検出する手段と、
パラメータに基づいて噴射および点火のための制御量を求める制御ユニットと、
少なくとも1つのノッキングセンサと、
点火のための制御量を補正する装置とを有する
内燃機関の機関ノッキングを抑圧する装置において、
ある条件が存在する場合にのみノッキング制御がアクティブに切り換えられる
内燃機関の機関ノッキングを抑圧する装置。」
という発明で一致し、次の(1)及び(2)の点で相違している。

(1)点火のための制御量を補正する装置に関し、本願発明においては、点火のための制御量が、ノッキングが検出された際にノッキング抑圧のためにノッキング限界から離れるように調整され、続いて所定数のノッキングのない燃焼が生じた後に段階的に再び制御ユニットによって求められた制御量へ戻されるように補正されるのに対して、引用文献記載の発明においては、点火のための制御量の調整方法が具体的でない点(以下、「相違点1」という。)。

(2)本願発明においては、内燃機関に所定の熱的な条件が存在する場合にのみノッキング制御がアクティブに切り換えられ、内燃機関の実際の熱的条件を評価するために燃焼室へのガス入力温度(evmod)が検出されるのに対して、引用文献記載の発明においては、ノッキング制御がアクティブに切り換えられる条件が不明であり、内燃機関の実際の熱的条件を評価するために燃焼室へのガス入力温度(evmod)を検出しているかどうか明らかでない点(以下、「相違点2」という。)。

4.判断
上記相違点1及び2について検討する。
(1)相違点1について
ノッキングが検出された際の点火のための制御量をノッキング抑圧のためにノッキング限界から離れるように調整し、続いて所定数のノッキングのない燃焼が生じた後に段階的に求められた制御量へ戻すように補正することは周知の技術(以下、「周知技術1」という。例えば、特開平2-211382号公報、特公昭57-12027号公報を参照されたい。)である。
してみれば、引用文献記載の発明の点火のための制御量の調整に、上記周知技術1を適用して、相違点1に係る本願発明のような構成とすることは当業者にとり容易である。

(2)相違点2について
吸気の温度、燃焼温度等の内燃機関の熱的条件がノッキングの発生と関連することは、内燃機関におけるノッキング制御の技術分野において周知のことであり、また、内燃機関の制御において吸入ガス温度や気筒内ガス温度を検出することも周知の技術(以下、「周知技術2」という。例えば、特開平6-33819号公報、特開平7-332149号公報を参照されたい。)である。これらのことと、引用文献には、吸気温度、水温といった熱的条件を検出することが記載されていることを考慮すれば、引用文献記載の発明のノッキング制御をアクティブに切り換えられる条件として所定の熱的条件を採用し、また、実際の熱的条件を評価するために燃焼室へのガス入力温度を用いるようにして、相違点2に係る本願発明のような構成とすることは当業者にとり容易である。

そして、本願発明を全体として検討しても、引用文献記載の発明並びに上記周知技術1及び2から当業者が予測できる以上の格別の効果を奏するとも認められない。

したがって、本願発明は、引用文献記載の発明並びに上記周知技術1及び2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-11-17 
結審通知日 2008-11-21 
審決日 2008-12-08 
出願番号 特願平11-549905
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F02D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐々木 正章  
特許庁審判長 早野 公惠
特許庁審判官 中川 隆司
森藤 淳志
発明の名称 内燃機関の機関ノッキングを抑圧する装置  
代理人 矢野 敏雄  
代理人 杉本 博司  
代理人 二宮 浩康  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  

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