• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B32B
管理番号 1196608
審判番号 不服2006-7241  
総通号数 114 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-06-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-04-14 
確定日 2009-04-30 
事件の表示 平成9年特許願第217804号「農業用多層フィルム」拒絶査定不服審判事件〔平成11年3月2日出願公開、特開平11-58646〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願(以下、「本願」という。)は、平成9年8月12日の特許出願であって、以降の手続の経緯は以下のとおりのものである。

平成17年12月13日付け 拒絶理由通知
平成18年2月20日 意見書・手続補正書
平成18年3月9日付け 拒絶査定
平成18年4月14日 審判請求書
平成18年7月14日 手続補正書(方式)
平成20年12月3日付け 拒絶理由通知書
平成21年2月9日 意見書・手続補正書

第2 本願発明について
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成21年2月9日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される下記のものである。
「表面層と裏面層、または表面層と中間層と裏面層とがこの順序で積層されてなる多層フィルムであって、
[I]上記表面層が、
エチレンと炭素原子数4?12のα-オレフィンとをシングルサイト触媒のメタロセン系触媒の存在下に共重合して得られ、密度が0.880?0.940g/cm^(3)であり、メルトフローレートが0.01?10g/10分の範囲にあるエチレン・α-オレフィン共重合体(A)と、
40重量%以下の量の高圧法低密度ポリエチレン(B-1)またはエチレン・酢酸ビニル共重合体(B-2)との混合物(AB)からなるかこの混合物(AB)を含んでなり、
該高圧法低密度ポリエチレン(B-1)のメルトフローレートが0.01?100g/10分で、密度が0.915?0.935g/cm^(3)であり、
該エチレン・酢酸ビニル共重合体(B-2)のメルトフローレートが0.1?500g/10分で、密度が0.915?0.980g/cm^(3)であり、
上記エチレン・α-オレフィン共重合体(A)または上記混合物(AB)は、
(i)GPCにおいて測定した分子量分布(Mw/Mn:Mw=重量平均分子量、Mn=数平均分子量)が1.5?3.5の範囲にあり、
(ii)23℃におけるn-デカン可溶部(W(重量%))と密度(d)とが、
W<80×exp(-100(d-0.88))+0.1で示される関係を満たし、
(iii)GPC-IRによる高分子量側の分岐数の平均値をB_(1)、低分子量側の分岐数の平均値をB_(2)とするとき、
B_(1)≧B_(2)であり、
[II]上記裏面層、または上記裏面層および中間層は、
それぞれ、酢酸ビニル含有量が2.0?35重量%のエチレン・酢酸ビニル共重合体(C)からなるかこの共重合体(C)を含んでなることを特徴とする農業用多層フィルム。」

第3 平成20年12月3日付け拒絶理由通知書における拒絶の理由の概要
本願発明についての平成20年12月3日付け拒絶理由通知書における拒絶の理由の概要は、「この出願の請求項1?3に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物1?4に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

1.特開平8-276542号公報
2.特開平8-90732号公報
3.特開昭63-115743号公報
4.特開平1-182037号公報」
というものである。

第4 各刊行物に記載された事項
1 刊行物1
本願の出願前の平成8年10月22日に頒布された刊行物である特開平8-276542号公報(平成20年12月3日付け拒絶理由通知書における「刊行物1」。以下、「刊行物1」という。)には、以下の事項が記載されている。

(1a)「[I]エチレンと炭素原子数4?12のα- オレフィンとを共重合したエチレン・α- オレフィン共重合体(A)100重量部と、
Mg、Ca、AlおよびSiの少なくとも1つの原子を含有する無機化合物(B)1?20重量部とを含有する組成物からなる外層、
[II]酢酸ビニル含有量が2.0?30重量%のエチレン・酢酸ビニル共重合体(C)100重量部と、
Mg、Ca、AlおよびSiの少なくとも1つの原子を含有する無機化合物(B)1?20重量部とを含有する組成物からなる中間層、および
[III] エチレンと炭素原子数4?12のα- オレフィンとを共重合したエチレン・α- オレフィン共重合体(A)からなる内層が積層されてなり、かつ、
該外層および内層を形成するエチレン・α- オレフィン共重合体(A)は、(i)メルトフローレートが0.01?10g/10分の範囲にあり、(ii)密度が0.880?0.940g/cm^(3) であり、(iii) GPCにおいて測定した分子量分布(Mw/Mn:Mw=重量平均分子量、Mn=数平均分子量)が1.5?3.5の範囲にあり、(iv)23℃におけるn-デカン可溶部(W(重量%))と密度(d)とが、
W<80×exp(-100(d-0.88))+0.1
で示される関係を満たし、(v)GPC-IRによる高分子量側の分岐数の平均値をB_(1) 、低分子量側の分岐数の平均値をB_(2) とするとき、
B_(1) ≧ B_(2)であることを特徴とする農業用多層フィルム。」(請求項1)

(1b)「前記外層[I]を形成する組成物が、前記エチレン・α- オレフィン共重合体(A)と、メルトフローレートが0.1?100g/10分、密度が0.915?0.935g/cm^(3) の高圧法低密度ポリエチレン(D)と、Mg、Ca、AlおよびSiの少なくとも1つの原子を含有する無機化合物(B)とを含有してなり、成分(A)と(D)との重量比[(A)/(D)]が99/1?60/40であり、成分(B)の含有量が成分(A)および(D)の合計量100重量部に対して、1?20重量部であることを特徴とする請求項1または2に記載の農業用多層フィルム。」(請求項3)

(1c)「本発明は、保温性に優れるだけでなく、上述した従来の農業用多層フィルムと比べ、さらに屋外で長期使用した際の塵埃が付着していない状態での透明性の経時的低下度が少なく、しかも防塵性と強靱性に優れた農業用多層フィルムを提供することを目的としている。」(段落【0013】)

(1d)「上記のようなエチレン・α- オレフィン共重合体(A)は、特開平6-9724号公報、特開平6-136195号公報、特開平6-136196号公報、特開平6-207057号公報等に記載されているメタロセン触媒成分を含む、いわゆるメタロセン系オレフィン重合用触媒の存在下に、エチレンと炭素原子数4?12のα- オレフィンとを、得られる共重合体の密度が0.940g/cm^(3)以下となるように共重合させることによって製造することができる。」(段落【0036】)

(1e)「多層フィルムの外層形成に際して必要に応じて用いられる高圧法低密度ポリエチレン(D)は、エチレン単独重合体またはエチレン・酢酸ビニル共重合体である。」(段落【0065】)

(1f)「本発明に係る農業用多層フィルムは、軽量であるので、展張作業性に優れている。」(段落【0109】)

(1g)「(4)初期の霞度
初期の霞度(HAZE(1); %)は、ASTM D 1003に記載されている積分球式測定装置ヘイズメーターを用いて測定した。」(段落【0112】)

(1h)「

」(段落【0132】)

2 刊行物2
本願の出願前の平成8年4月9日に頒布された刊行物である特開平8-90732号公報(平成20年12月3日付け拒絶理由通知書における「刊行物2」。以下、「刊行物2」という。)には、以下の事項が記載されている。

(2a)「3層構造のポリオレフィン系積層フィルムにおいて、(A)外層が低密度ポリエチレン、エチレン‐α‐オレフィン共重合体及びエチレン‐酢酸ビニル共重合体の中から選ばれた少なくとも1種から成り、全体に対する酢酸ビニル単位含有量が10重量%未満の樹脂、(B)中間層がエチレン‐酢酸ビニル共重合体を主材とし、全体に対する酢酸ビニル単位含有量が10?18重量%の樹脂成分に、…リチウムアルミニウム化合物、及び…ハイドロタルサイト類の中から選ばれた少なくとも1種1?20重量部を配合した樹脂組成物及び(C)内層がエチレン‐酢酸ビニル共重合体、又はエチレン‐酢酸ビニル共重合体と低密度ポリエチレン若しくはエチレン‐α‐オレフィン共重合体あるいはその両方との樹脂混合物から成り、全体に対する酢酸ビニル単位含有量が3重量%以上10重量%未満の樹脂からそれぞれ成り、かつ内層表面に熱可塑性樹脂バインダーと無機質コロイドゾルとから成る防曇性塗膜を設けたことを特徴とする農業用ポリオレフィン系樹脂フィルム。」(請求項1)

(2b)「本発明は、このような従来の農業用ポリオレフィン系樹脂フィルムのもつ欠点を克服し、透明性を低下させることなく、長期間にわたって防曇性を持続し、かつ優れた耐候性、防塵性、保温性を有し、ハウス栽培用、トンネル栽培用として好適な農業用ポリオレフィン系樹脂フィルムを提供することを目的としてなされたものである。」(段落【0004】)

(2c)「本発明の農業用フィルムにおいては、内層の樹脂の主材として、エチレン‐酢酸ビニル共重合体が用いられる。このエチレン‐酢酸ビニル共重合体は単独で用いてもよいし、ポリエチレン若しくはエチレン‐α‐オレフィン共重合体と混合して用いてもよいが、単独で用いる場合は、酢酸ビニル単位含有量が3重量%以上10重量%未満のものであることが必要である。また、前記樹脂と混合して用いる場合は、この単独使用のものの他、酢酸ビニル単位含有量が10?18重量%のエチレン‐酢酸ビニル共重合体を用いることができるが、この場合混合物中の酢酸ビニル単位含有量が3重量%以上10重量%未満になるように混合割合を調整することが必要である。内層中の樹脂成分全体に対する酢酸ビニル単位の含有量が3重量%未満では防曇性塗膜との密着性が不十分であるし、10重量%以上では防曇性塗膜を形成する際の作業性が低下する。」(段落【0017】)

(2d)「この内層において、エチレン‐酢酸ビニル共重合体との混合に用いられるポリエチレンとしては、高圧法低密度ポリエチレンや線状低密度ポリエチレンが好適であり、またエチレン‐α‐オレフィン共重合体としては、前記外層の樹脂の主材に例示したものと同じものを挙げることができる。」(段落【0018】)

(2e)「本発明の農業用フィルムにおいては、前記内層の表面に、熱可塑性樹脂バインダーと無機質コロイドゾルとから成る防曇性塗膜を設けることが必要である。」(段落【0020】)

(2f)「防曇性塗膜の他の成分として用いられる無機質コロイドゾルとしては、例えばコロイド状シリカ粒子やコロイド状アルミナ粒子などが挙げられる。」(段落【0022】)

(2g)「本発明の農業用ポリオレフィン系フィルムは、3層構造の積層フィルムの内層表面に防曇性塗膜を設けたものであって、透明性を低下させることなく、長期間にわたって防曇性を持続し、かつ優れた保温性、防塵性、耐候性を有し、ハウス栽培用やトンネル栽培用として好適に用いられる。」(段落【0033】)

3 刊行物3
本願の出願前の昭和63年5月20日に頒布された刊行物である特開昭63-115743号公報(平成20年12月3日付け拒絶理由通知書における「刊行物3」。以下、「刊行物3」という。)には、以下の事項が記載されている。

(3a)「(1)ハイドロタルサイトまたはその類縁化合物および防曇剤を含有する農業用多層フィルムにおいて、該多層フィルムが(A)2?40重量%のハイドロタルサイトまたはその類縁化合物を含有し且つ防曇剤の含有量が重量比でハイドロタルサイトまたはその類縁化合物に対し0.3以下であるエチレン-αオレフィン共重合樹脂層と、(B)0.1?2重量%の防曇剤を含有し且つハイドロタルサイトまたはその類縁化合物の含有量が重量比で防曇剤に対し3以下である酢酸ビニル含有量10?20重量%のエチレン-酢酸ビニル共重合体層と、を含有し且つ層(A)及び(B)が多層フィルムの表面に存在することを特徴とする農業用多層フィルム。
(2)層(A)が外層及び層(B)が内層として存在する特許請求の範囲第1項記載の農業用多層フィルム。」(特許請求の範囲)

(3b)「本発明は農業用多層フィルムに関するものであり、更に詳しくは、保温性、透明性、防曇性、作業性にすぐれた農業用多層フィルムに関するものである。」(第1頁右欄第4?7行)

(3c)「本発明において他の外層の一つの(B)層を構成するエチレン-酢酸ビニル共重合体は酢酸ビニル含量10?20重量%の共重合体である。…
使用されるエチレン-酢酸ビニル共重合樹脂の酢酸ビニル含有量は10?20重量%が好ましく、10%以下になると防曇性が悪くなるので好ましくない。一方20%以上になると防曇性、及び耐熱性が悪くなるので好ましくない。
この外層に添加する防曇剤はこの技術分野でよく知られた各種防曇剤を使用することが出来る。
例えば非イオン系、アニオン系、及びカチオン系の界面活性剤が使用される。これらに核当する化合物として、…などがあげられる。
中でも炭素数14?22の脂肪酸とソルビタン、ソルビトール、グリセリン、ポリグリセリン、プロピレングリコールなどの多価アルコールとのエステルあるいはそのアルキレンオキサイド付加物を主成分とする非イオン系界面活性剤等が好ましいものとして挙げられる。」(第3頁左下欄第17行?第4頁右上欄第10行)

(3d)「本発明の農業用多層フィルムは前記(A)、(B)両層を積層した2層フィルムとして使用することもできるが、中間層を設けた(A)/中間層/(B)層の3層以上の多層フィルムとして使用することも可能である。
中間層に使用する樹脂はこの分野で広く使用されている公知のポリエチレン、エチレン-α-オレフィン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリプロピレン等各種ポリオレフィン系樹脂を適宜選択使用することができる。」(第4頁左下欄第5?13行)

(3e)「(1)(A)層に用いる樹脂としては、強度、耐スクラッチ性、展張作業性等を考慮して、エチレン-α-オレフィン共重合体が最適である。」(明細書第5頁左上欄第14?16行)

(3f)「(4)(B)層に用いる樹脂としては防曇性能を考慮して、酢酸ビニル10?20重量%のエチレン-酢酸ビニル共重合体が最適である。」(明細書第5頁右上欄第14?16行)

4 刊行物4
本願の出願前の平成元年7月19日に頒布された刊行物である特開平1-182037号公報(平成20年12月3日付け拒絶理由通知書における「刊行物4」。以下、「刊行物4」という。)には、以下の事項が記載されている。

(4a)「積層フィルムの外層が線状エチレン-α-オレフィン共重合体を主成分とするポリエチレン系樹脂100重量部に対して無機化合物0.5?5重量部を含有してなるものであり、かつ、内層がエチレン-酢酸ビニル共重合体を主成分とするポリエチレン系樹脂100重量部に対して無機化合物1?10重量部及び防曇剤0.5?3重量部を含有してなるものであることを特徴とする強靭性、保温性、防曇性等の良好な農業用積層フィルム。」(請求項1)

(4b)「また、内層用EVAの酢酸ビニル含有量は5?20重量%の範囲内にあることが好ましい。5重量%より小さいと本積層フィルムの保温性が不十分である。20重量%より大きいと、内層の軟化点および融点が低くなり、積層フィルムのブロッキングおよびハウス、トンネル等のパイプ等との接触部分の耐熱性が不十分である。」(第4頁左上欄第7?13行)

(4c)「本発明における農業用二層フィルムは、以上詳述したように、外層に特定の線状エチレン-α-オレフィン共重合体を主成分とする樹脂を使用し、なおかつ内層にも特定のEVAを主成分とする樹脂を使用することにより、積層フィルムの引張強さ、引裂強さ、衝撃強さ等の強靭性が極めて良好になったものである。また、内層にはEVAを使用することにより保温性を改善するだけでなく、さらに内外両層に酸化硅素等の無機化合物を配合することにより、この農業用積層フィルムの保温性がより強化されたものとなった。」(第5頁右上欄第4?13行)

第5 当審の判断
1 刊行物1に記載された発明
刊行物1には、上記摘記事項(1a)に記載される「農業用多層フィルム」の発明が記載されているところ、上記摘記事項(1b)には、(1a)中の「外層」を形成する組成物として、「エチレン・α- オレフィン共重合体(A)」に「メルトフローレートが0.1?100g/10分、密度が0.915?0.935g/cm^(3) の高圧法低密度ポリエチレン(D)」を、「エチレン・α- オレフィン共重合体(A)」と「高圧法低密度ポリエチレン(D)」との「重量比[(A)/(D)]が99/1?60/40」の範囲で含有させることが記載されている。さらに、刊行物1の上記摘記事項(1e)には、「多層フィルムの外層形成に際して必要に応じて用いられる高圧法低密度ポリエチレン(D)は、エチレン単独重合体またはエチレン・酢酸ビニル共重合体である」ことが記載されており、「高圧法低密度ポリエチレン(D)」は、「エチレン単独重合体」又は「エチレン・酢酸ビニル共重合体」を意味するといえる。また、刊行物1の上記摘記事項(1d)には、(1a)中の「エチレン・α- オレフィン共重合体(A)」について「メタロセン系オレフィン重合触媒」の存在下で共重合させて得ることが記載されており、「メタロセン系オレフィン重合触媒」は「シングルサイト触媒」であると認められる。
そうすると、刊行物1には、

「[I]シングルサイト触媒のメタロセン系オレフィン重合触媒の存在下にエチレンと炭素原子数4?12のα- オレフィンとを共重合したエチレン・α- オレフィン共重合体(A)100重量部と、
Mg、Ca、AlおよびSiの少なくとも1つの原子を含有する無機化合物(B)1?20重量部と、
メルトフローレートが0.1?100g/10分、密度が0.915?0.935g/cm^(3) のエチレン単独重合体又はエチレン・酢酸ビニル共重合体である高圧法低密度ポリエチレン(D)を、「エチレン・α- オレフィン共重合体(A)」との重量比[(A)/(D)]が99/1?60/40となる量
とを含有する組成物からなる外層、
[II]酢酸ビニル含有量が2.0?30重量%のエチレン・酢酸ビニル共重合体(C)100重量部と、
Mg、Ca、AlおよびSiの少なくとも1つの原子を含有する無機化合物(B)1?20重量部とを含有する組成物からなる中間層、および
[III] エチレンと炭素原子数4?12のα- オレフィンとを共重合したエチレン・α- オレフィン共重合体(A)からなる内層が積層されてなり、かつ、
該外層および内層を形成するエチレン・α- オレフィン共重合体(A)は、(i)メルトフローレートが0.01?10g/10分の範囲にあり、(ii)密度が0.880?0.940g/cm^(3) であり、(iii) GPCにおいて測定した分子量分布(Mw/Mn:Mw=重量平均分子量、Mn=数平均分子量)が1.5?3.5の範囲にあり、(iv)23℃におけるn-デカン可溶部(W(重量%))と密度(d)とが、
W<80×exp(-100(d-0.88))+0.1
で示される関係を満たし、(v)GPC-IRによる高分子量側の分岐数の平均値をB_(1) 、低分子量側の分岐数の平均値をB_(2) とするとき、
B_(1) ≧ B_(2)であることを特徴とする農業用多層フィルム。」の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているといえる。

2 本願発明と引用発明との対比・判断
ア 対比
本願発明と引用発明1とを対比すると、引用発明1における「外層」、「内層」はそれぞれ本願発明における「表面層」、「裏面層」に相当する。引用発明1は「外層」、「中間層」、「内層」からなるものであるが、本願発明も「表面層と中間層と裏面層とがこの順序で積層されてなる」態様を含むものである。
引用発明1の「エチレン・α- オレフィン共重合体(A)」は「(ii)密度が0.880?0.940g/cm^(3) 」であり、「(i)メルトフローレートが0.01?10g/10分の範囲」のものであるから、本願発明の「密度が0.880?0.940g/cm^(3)であり、メルトフローレートが0.01?10g/10分の範囲にあるエチレン・α- オレフィン共重合体(A)」と同じものである。さらに、引用発明1の「エチレン・α- オレフィン共重合体(A)」は、「(iii) GPCにおいて測定した分子量分布(Mw/Mn:Mw=重量平均分子量、Mn=数平均分子量)が1.5?3.5の範囲にあり、(iv)23℃におけるn-デカン可溶部(W(重量%))と密度(d)とが、
W<80×exp(-100(d-0.88))+0.1
で示される関係を満たし、(v)GPC-IRによる高分子量側の分岐数の平均値をB_(1) 、低分子量側の分岐数の平均値をB_(2) とするとき、B_(1) ≧ B_(2)である」から、本願発明の「エチレン・α-オレフィン共重合体(A)…は、
(i)GPCにおいて測定した分子量分布(Mw/Mn:Mw=重量平均分子量、Mn=数平均分子量)が1.5?3.5の範囲にあり、
(ii)23℃におけるn-デカン可溶部(W(重量%))と密度(d)とが、
W<80×exp(-100(d-0.88))+0.1で示される関係を満たし、
(iii)GPC-IRによる高分子量側の分岐数の平均値をB_(1)、低分子量側の分岐数の平均値をB_(2)とするとき、 B_(1)≧B_(2)であ」るに相当するものである。
引用発明1の「高圧法低密度ポリエチレン(D)」は「メルトフローレートが0.1?100g/10分、密度が0.915?0.935g/cm^(3) 」の「エチレン単独重合体」又は「エチレン・酢酸ビニル共重合体」である。本願発明の「該高圧法低密度ポリエチレン(B-1)」は本願明細書の段落【0087】の「この高圧法低密度ポリエチレン(B-1)は、エチレン単独重合体である」の記載からみて「エチレン単独重合体」であるから、引用発明1の「メルトフローレートが0.1?100g/10分、密度が0.915?0.935g/cm^(3) 」の「エチレン単独重合体」は本願発明の「メルトフローレートが0.01?100g/10分で、密度が0.915?0.935g/cm^(3)」である「該高圧法低密度ポリエチレン(B-1)」と同じものである。また、引用発明1の「メルトフローレートが0.1?100g/10分、密度が0.915?0.935g/cm^(3) 」である「エチレン・酢酸ビニル共重合体」は、本願発明の「メルトフローレートが0.1?500g/10分で、密度が0.915?0.980g/cm^(3)」の「エチレン・酢酸ビニル共重合体(B-2)」に含まれるものである。
また、「エチレン単独重合体」又は「エチレン・酢酸ビニル共重合体」である「高圧法低密度ポリエチレン(D)」は、「エチレン・α- オレフィン共重合体(A)」との重量比[(A)/(D)]が99/1?60/40となる量で含むから、「外層」に対して「40重量%」以下で含まれるものであるといえる。
さらに、引用発明1の外層は、「エチレン・α- オレフィン共重合体(A)」と「高圧法低密度ポリエチレン(D)」を含有するものであるから、本願発明の「エチレン・α-オレフィン共重合体(A)と、…高圧法低密度ポリエチレン(B-1)またはエチレン・酢酸ビニル共重合体(B-2)との混合物(AB)からなるかこの混合物(AB)を含んでなり」に相当する。また、引用発明1の「酢酸ビニル含有量が2.0?30重量%のエチレン・酢酸ビニル共重合体(C)100重量部と、…を含有する組成物からなる中間層」は、本願発明の「中間層は、それぞれ、酢酸ビニル含有量が2.0?35重量%のエチレン・酢酸ビニル共重合体(C)からなるかこの共重合体(C)を含んでなる」に相当する。

したがって、両者は、
「表面層と中間層と裏面層とがこの順序で積層されてなる多層フィルムであって、
[I]上記表面層が、
エチレンと炭素原子数4?12のα- オレフィンとをシングルサイト触媒のメタロセン系触媒の存在下に共重合して得られ、密度が0.880?0.940g/cm^(3)であり、メルトフローレートが0.01?10g/10分の範囲にあるエチレン・α-オレフィン共重合体(A)と、
40重量%以下の量の高圧法低密度ポリエチレン(B-1)またはエチレン・酢酸ビニル共重合体(B-2)との混合物(AB)からなるかこの混合物(AB)を含んでなり、
該高圧法低密度ポリエチレン(B-1)のメルトフローレートが0.01?100g/10分で、密度が0.915?0.935g/cm^(3)であり、
該エチレン・酢酸ビニル共重合体(B-2)のメルトフローレートが0.1?500g/10分で、密度が0.915?0.980g/cm^(3)であり、
上記エチレン・α-オレフィン共重合体(A)または上記混合物(AB)は、
(i)GPCにおいて測定した分子量分布(Mw/Mn:Mw=重量平均分子量、Mn=数平均分子量)が1.5?3.5の範囲にあり、
(ii)23℃におけるn-デカン可溶部(W(重量%))と密度(d)とが、
W<80×exp(-100(d-0.88))+0.1で示される関係を満たし、
(iii)GPC-IRによる高分子量側の分岐数の平均値をB1、低分子量側の分岐数の平均値をB2とするとき、
B1≧B2であり、
[II]中間層は、
酢酸ビニル含有量が2.0?35重量%のエチレン・酢酸ビニル共重合体(C)からなるかこの共重合体(C)を含んでなることを特徴とする農業用多層フィルム。」
で一致し、以下の点で相違する。

相違点1:裏面層の材料について、本願発明では、「酢酸ビニル含有量が2.0?35重量%のエチレン・酢酸ビニル共重合体」からなるのに対し、引用発明1では、「エチレンと炭素原子数4?12のα- オレフィンとを共重合したエチレン・α- オレフィン共重合体」からなる点

相違点2:表面層及び中間層について、引用発明1では、「Mg、Ca、AlおよびSiの少なくとも1つの原子を含有する無機化合物(B)1?20重量部」含むものであるのに対し、本願発明では特定されていない点

イ 判断
(ア)相違点1について
刊行物2の上記摘記事項(2a)及び(2c)、刊行物3の上記摘記事項(3a)、刊行物4の上記摘記事項(4a)及び(4b)には、農業用フィルムとして、表面層にエチレン・α- オレフィン共重合体、裏面層に酢酸ビニル含有量が2.0?35重量%の範囲のエチレン・酢酸ビニル共重合体から構成されるものが記載されており、さらに、「裏面層」に「酢酸ビニル含有量が2.0?35重量%のエチレン・酢酸ビニル共重合体」を用いる目的として、刊行物3の上記摘記事項(3f)には防曇性を向上させることが、また、刊行物4の上記摘記事項(4c)には、強靱性を向上及び保温性を改善させることが記載されている。
農業用フィルムにおいて、防曇性、強靱性、保温性の向上又は改善は一般的な課題であるから、引用発明1において、防曇性、強靱性、保温性の向上又は改善を目的として、内層、すなわち裏面層の材料として、「エチレン・α- オレフィン共重合体」に代えて、「酢酸ビニル含有量が2.0?35重量%のエチレン・酢酸ビニル共重合体」を用いることは当業者が容易に想到し得たことといえる。

(イ)相違点2について
本願明細書の段落【0099】には、「本発明に係る農業用多層フィルムの外層、裏面層、必要により設けられる中間層の各層には、以下に記載するような保温剤…などの添加剤を、本発明の目的を損なわない範囲で配合することができる」と記載され、段落【0100】には、「保温剤としては、Mg、Ca、AlおよびSiの少なくとも1つの原子を含有する無機酸化物、無機水酸化物、ハイドロタルサイト類などの無機化合物が挙げられる」と記載されていることからすれば、本願発明においても、引用発明1と同様に、「Mg、Ca、AlおよびSiの少なくとも1つの原子を含有する無機化合物(B)」を含む態様を包含していると認められる。
そうすると、相違点2は、実質的な相違点とは認められない。

(ウ)本願発明の効果について
本願発明の効果について、本願明細書の段落【0186】の第3表には、「エルメンドルフ引裂強度」、「ダートインパクト強度」、「引張破断点強度」、「曇り度」及び「見掛けヤング率」を評価している。
この本願明細書中の実施例1?3と、引用発明1の物性として刊行物1の上記摘記事項(1h)の第3表の実施例1とを比較すると、「エルメンドルフ引裂強度」、「ダートインパクト強度」、「引張破断点強度」は同程度であるといえる。また、本願明細書の段落【0159】には、本願発明の「曇り度(ヘイズ)」は「ASTM D 1003に準拠して測定した」ことが記載されているが、刊行物1の上記摘記事項(1h)の第3表の「霞度(初期)HAZE(1)」も上記摘記事項(1g)の記載からみて「ASTM D 1003」に準拠して測定したものであり、本願発明の実施例1?3の「曇り度」と引用発明1の「霞度(初期)HAZE(1)」とを比較すると、同程度であると認められる。
刊行物1の実施例には「見掛けヤング率」の評価については記載されていないので、引用発明1に相当する「内層」として「エチレン・α- オレフィン共重合体」と「高圧法低密度ポリエチレン」の混合物を用いた本願明細書の段落【0186】の第3表の比較例1と実施例1?3とを比較すると、実施例1?3は比較例1に比べて「見掛けヤング率」が低い値となっている。
しかしながら、「見掛けヤング率」すなわち「柔軟性」について、一般に「エチレン・酢酸ビニル共重合体」は「エチレン・α- オレフィン共重合体」等に比べて剛性が低く柔軟性があることは公知の事項であるから、格別顕著な効果であるとは認められない。

ウ 請求人の主張について
請求人は、平成21年2月9日付け意見書において、「これら刊行物2?4は、本願発明と同様に農業用多層フィルムに関するものであるが、本願発明のように、フィルムのベタツキがなく非粘着性がよいという意味での「展張作業性」に優れる多層フィルムの提供をすることをその解決すべき課題(目的)などとはしていない点で目的、効果が相違しています。」([3](3-2)<発明の目的/効果について>(ロ))、「本願発明が、刊行物1に記載の発明と同一目的を有するからといって、これら刊行物2?4に記載の発明と比して発明の目的が展張作業性等の点で相違している以上、刊行物1と刊行物2?4とを組合わせること自体が当業者にとっては容易に想到し得ないことであり、また、これら刊行物1?4の何れにも本願発明は記載も示唆もされておらず、その効果も顕著なものである以上、本願発明は、これら引用文献の記載に基いて、当業者が容易に想到し得るものでないことは明らかです。」([3](3-2)<発明の構成について>(ロ))と主張している。
しかしながら、引用発明1は上記摘記事項(1f)の記載からみて「展張作業性」に優れたものであるし、上記イ(ア)で検討したように、刊行物2?4の目的が「展張作業性」の向上であるか否かにかかわらず、引用発明1において、防曇性、強靱性、保温性の向上又は改善を目的として、内層の材料として、「エチレン・α- オレフィン共重合体」に代えて、「酢酸ビニル含有量が2.0?35重量%のエチレン・酢酸ビニル共重合体」を用いることは当業者が容易に想到し得たことといえる。
また、本願発明の「展張作業性」の効果について、本願明細書の段落【0004】には「展張作業性」とは、フィルムのベタツキによる取扱い易さの良否を表わす」と記載されているものの、段落【0013】には「本願出願人は…特開平8-276542号公報(特願平7-82894号)において、…農業用多層フィルムを提案している。しかしながら、この農業用多層フィルムは、展張作業性に必要なフィルムの柔軟性の点では、さらなる改善の余地があった」(審決注:「特開平8-276542号公報(特願平7-82894号)」はこの審決中の「刊行物1」である)ことが、さらに、段落【0157】には「本発明に係る農業用多層フィルムは、ヤング率が小さく柔軟性があるので、ゴワゴワして嵩張ることがなく展張作業性に優れている」ことが記載されており、本願発明の「展張作業性」とは、引用発明1との関係では「柔軟性」が優れていることを意味していると認められる。
そして、上記イ(ウ)で検討したように、一般に「エチレン・酢酸ビニル共重合体」は「エチレン・α- オレフィン共重合体」等に比べて剛性が低く柔軟性があることは公知の事項である。
したがって、請求人の上記主張を採用することはできない。

3 まとめ
したがって、本願発明は、刊行物1?4に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、その余の請求項に係る発明については検討するまでもなく、本願は、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-02-27 
結審通知日 2009-03-03 
審決日 2009-03-16 
出願番号 特願平9-217804
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B32B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岩田 行剛  
特許庁審判長 西川 和子
特許庁審判官 杉江 渉
橋本 栄和
発明の名称 農業用多層フィルム  
代理人 鈴木 俊一郎  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ