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審決分類 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 A23L
審判 査定不服 特174条1項 特許、登録しない。 A23L
管理番号 1196621
審判番号 不服2006-17492  
総通号数 114 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-06-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-08-10 
確定日 2009-04-30 
事件の表示 平成 9年特許願第147715号「納豆用マスタード」拒絶査定不服審判事件〔平成10年12月22日出願公開、特開平10-337163〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成9年6月5日の出願であって、平成17年6月30日付けの拒絶理由通知に対して、平成17年9月5日付けで意見書及び手続補正書が提出され、平成18年2月6日付けの2回目の拒絶理由に対して、請求人からの応答はなく、平成18年7月5日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成18年8月10日に拒絶査定に対する審判請求がなされ、平成18年9月11日付けで審判請求書の手続補正書が提出されるとともに手続補正がなされたものである。

第2 平成18年9月11日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成18年9月11日付けの手続補正を却下する。
[理由]
1.補正の内容
平成18年9月11日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、補正前の特許請求の範囲の請求項2を削除し、
同請求項1である、
「配糖体シナルビンを含有するが、酵素ミロシナーゼを含有していないか、あるいは酵素ミロシナーゼが失活しており、納豆に配合してもアンモニア臭、メルカプタン臭、吉草酸を包含する異臭を発生せず、辛味を有し、納豆を美味しく食することができることを特徴とする納豆用マスタード。」を
「配糖体シナルビンを含有するが、酵素ミロシナーゼが失活しており、納豆に配合してもアンモニア臭、メルカプタン臭、吉草酸を包含する異臭を発生しないことを特徴とする納豆用マスタード。」に、
同請求項3である、
「配糖体シナルビンと活性を有する酵素ミロシナーゼを含有するマスタードを加熱処理により酵素ミロシナーゼを失活させたマスタードであって、納豆に配合してもアンモニア臭、メルカプタン臭、吉草酸を包含する異臭を発生せず、辛味を有し、納豆を美味しく食することができることを特徴とする納豆用マスタード。」を、
新たな請求項2として、
「配糖体シナルビンと活性を有する酵素ミロシナーゼを含有するマスタードを加熱処理により酵素ミロシナーゼを失活させたマスタードであって、納豆に配合してもアンモニア臭、メルカプタン臭、吉草酸を包含する異臭を発生しないことを特徴とする納豆用マスタード。」に、
同請求項4である、
「配糖体シナルビンと活性を有する酵素ミロシナーゼを含有するマスタードを加熱処理することにより、酵素ミロシナーゼを失活させ、納豆に配合してもアンモニア臭、メルカプタン臭、吉草酸を包含する異臭を発生せず、辛味を有し、納豆を美味しく食することができマスタードを製造することを特徴とする納豆用マスタードの製法。」を、
新たな請求項3として、
「配糖体シナルビンと活性を有する酵素ミロシナーゼを含有するマスタードを加熱処理することにより、酵素ミロシナーゼを失活させ、納豆に配合してもアンモニア臭、メルカプタン臭、吉草酸を包含する異臭を発生しないようにすることを特徴とする納豆用マスタードの製法。」に補正することを含むものである。

2.補正の適否
補正前の請求項1、3及び4における「異臭を発生せず、辛味を有し」は、これらの請求項に係る発明を特定する事項であるところ、これから「辛味を有し」を削除し、「異臭を発生しない」と補正することは、請求項1、3及び4に係る発明特定事項を限定したものではなく、補正前の請求項1、3及び4に係る発明を実質的に拡張するものである。
したがって、上記補正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当せず、また、請求項の削除、誤記の訂正或いは、明りょうでない記載の釈明を目的とするものでもない。
よって、上記補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項の規定に違反するので、その余のことを検討するまでもなく、本件補正は、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願補正発明についての検討
本件補正は、上述したように、却下されるべきものであるが、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。また、本件補正後の明細書を、「本願補正明細書」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものでないことについても、以下に示す。

(1)本願補正発明
「配糖体シナルビンを含有するが、酵素ミロシナーゼが失活しており、納豆に配合してもアンモニア臭、メルカプタン臭、吉草酸を包含する異臭を発生しないことを特徴とする納豆用マスタード。」

(2)刊行物に記載された事項
本願出願前に頒布された刊行物A?Eは以下のとおりであり、これらの刊行物には、以下の事項が記載されている。ここで、刊行物B?Eは、周知事項を示すために挙げたものである。
刊行物A:特開平1-168255号公報
(原査定で引用された「引用文献3」に同じ。)
刊行物B:化学大辞典編集委員会編、「化学大辞典4 縮刷版」、
共立出版株式会社、1993年6月1日縮刷版第34刷、
378頁右欄、「シナルビン」の項
刊行物C:化学大辞典編集委員会編、「化学大辞典5 縮刷版」、
共立出版株式会社、1993年6月1日縮刷版第34刷、
806頁左欄、「チオグルコシダーゼ」の項
刊行物D:特開昭63-116665号公報
(原査定で引用された「引用文献2」に同じ。)
刊行物E:河野友美著、「調味料 新・食品事典7」、真珠書院、
1991年4月20日、269?270頁、
「マスタード」の項

刊行物A:
(A1)「加熱処理したからし粉とアリル辛子油とを併用してなることを特徴とするアリル辛子油含有調味料組成物。」(特許請求の範囲の項)
(A2)「本発明は、保存経時に異臭が発生することが防止された保存安定性のよいアリル辛子油含有調味料組成物に関する。」(1頁左下欄10?12行)
(A3)「しかし、このようにアリル辛子油とからし粉とが共存すると、からし粉中の酵素の作用により、アリル辛子油の分解が促進され、室温下に数日保存する程度で硫化水素が発生し、異臭を生じさせる問題がある。
このため、アリル辛子油とからし粉とを含有する調味料の保存安定性を向上させ、異臭の発生を抑制することが望まれる。」(1頁左下欄18行?右下欄6行)
(A4)「本発明者らは、上記要望に応えるため鋭意検討を行なった結果、予め加熱処理したからし粉を使用することにより、これをアリル辛子油と共存させてもアリル辛子油の分解が可及的に抑制され、長期間異臭(硫化水素)を発生させることなく安定に保存し得ることを知見し、本発明をなすに至ったものである。
従って、本発明は、加熱処理したからし粉とアリル辛子油とを含有する保存安定性に優れた調味料組成物を提供する。」(1頁右下欄8?17行)
(A5)「本発明に係るアリル辛子油含有調味料組成物は、上述したように予め加熱処理したからし粉を使用するものであるが、からし粉としては、例えばイエローマスタード、ブラウンマスタード、ホワイトマスタード、オリエンタルマスタード(和がらし)等が挙げられ、これらは単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。」(1頁右下欄19行?2頁左上欄5行)
(A6)「これらのからし粉を熱処理する条件としては、60?200℃、1?120分の条件を採用することができるが、処理されたからし粉を水と等重量づつ混合し、充分に練り込んだ後、10?15分放置したときに官能により辛さが感じられない程度に酵素活性が低下するよう加熱処理することが好ましい。なお、加熱処理方法としては加圧下(通常0.5?5kg/cm^(2))に加熱処理する方法、水と練合したものを加熱処理する方法などを採用することができる。」(2頁左上欄6?15行)
(A7)「本発明に係るアリル辛子油含有調味料組成物は、加熱処理したからし粉を用いたので、保存経時によりアリル辛子油が分解して硫化水素を発生するような不都合が可及的に防止され、例えば加熱処理したからし粉にデキストリン等を担体としたアリル辛子油パウダーを配合することにより、風味的に問題のない保存安定性に優れた粉末からし様調味料とすることができる。また、ペースト状チューブ入りからし調味料(練りがらし)においても、従来はからし粉を水練りすることによりアリル辛子油を発現させて製造したり、アリル辛子油を添加して製造したりするため、からし粉中の酵素がアリル辛子油に作用して硫化水素が発生したが、本発明においてはかかる問題のない優れた保存安定性を有するペースト状チューブ入りからし調味料とすることができる。」(2頁右上欄17行?左下欄12行)

刊行物B:
(B1)「シナルビン・・・
C_(30)H_(42)N_(2)O_(15)S_(2)・5H_(2)O=825.カラシ油配糖体の一つ。存在 シロガラシ・・・の種子.
性質 淡黄白色針状晶(水-エタノールから再結晶).融点83?84°.100°に加熱すると結晶水を失う.無水物は融点139°,[α]_(D)-8°.水に可溶:エタノールに難溶:エーテルに不溶.アルカリで黄色,硝酸で赤色を呈する.酵素ミロシン(・・)によって次のように加水分解される.(式略)
シナルビンカラシ油は水蒸気蒸留で留出しない.刺激は揮発カラシ油(・・)よりも弱い.」

刊行物C:
(C1)「チオグルコシダーゼ・・・
チオグルコシド結合の加水分解を接触する酵素.アブラナ科,特にカラシ属の植物に存在し,同科植物の種子にあるシニグリンなどのカラシ油配糖体(天然チオグルコシド)にのみ作用する.合成チオグルコシド類に作用する酵素は知られていない.最適pHは7付近.カラシ油配糖体(無味,無臭)を分解し,香辛味の発現にあずかる.なお,この酵素はシニグラーゼ(・・),ミロシンあるいはミロシナーゼ(・・)ともよばれるが,前者はシニグリンのチオグルコシド結合を分解する作用に,後二者はチオグルコシダーゼ,ミロスルファターゼ両作用を示す粗酵素標品に対する呼称である.」

刊行物D:
(D1)「従来より粒状、粗砕状あるいは粉末状芥子に食酢、食塩などの調味料を混和して調味付けしたマスタード製品、即ち調味マスタードが食生活において広く用いられているが、近年の食生活の多様化に伴いこれらマスタードの最も顕著な呈味である辛味をなくし芥子の旨味や風味だけを残した調味マスタードも市販され、料理用の一調味料として好ましく用いられるようになってきた。」(1頁左欄下から3行?右欄5行)

刊行物E:
(E1)「マスタード(mustard) 洋ガラシともいう。アブラナ科のカラシナ類の種子を原料とする辛い香辛料である。マスタードは、大きく分けるとホワイトマスタード(イエローマスタードということもある)とブラックマスタードがある。・・・
主成分はアリルカラシ油で、種子中では単独でなく、ブラックマスタードではブドウ糖と結合してシニグリン、ホワイトマスタードではシナルビンという配糖体となって含まれている。これには辛味がなく、わずかに苦味がある程度である。これに水が加わると、マスタード中に含まれているミロシナーゼという酵素が働いてブドウ糖を切り離し、アリルカラシ油を遊離するため辛味がでる。」(269頁下欄13行?270頁上欄11行)

(3)「マスタード」について
本願補正発明は「マスタード」に関するものであるので、「マスタード」とはどのようなものであるのかについて、検討する。
刊行物Eより、マスタードとは、洋ガラシともいわれ、アブラナ科のカラシナ類の種子を原料とする辛い香辛料であること、ホワイトマスタード(イエローマスタードということもある)とブラックマスタードがあること、主成分はアリルカラシ油であるが、種子中では、ブラックマスタードではブドウ糖と結合してシニグリン、ホワイトマスタードではシナルビンという配糖体となって含まれていること、これらの配糖体には辛味はなく、わずかに苦味がある程度であること、水が加わると、マスタード中に含まれているミロシナーゼという酵素が働いてブドウ糖を切り離し、アリルカラシ油を遊離するため辛味がでること、が、わかる(摘示E1)。
また、刊行物Dより、刊行物Dが書かれたとき、すなわち昭和61年には、調味マスタードとして、辛味をなくし芥子の旨味や風味だけを残したマスタードも市販されていること、がわかる(摘示D1)。
これらのことから、「マスタードは洋ガラシといわれるものの、配糖体には辛味はなく、この配糖体に水が加わると、ミロシナーゼ酵素の働きで、糖の部分を切り離し、アリルカラシ油が遊離され、辛味がでる」、といえる。
また、このことは、本願補正明細書の段落【0011】に、「ホワイトマスタードの主成分は、配糖体シナルビン(Sinalbin)、酵素ミロシナーゼ(Myrosinase)、アルカロイド(Sinapin)、脂肪油(Erucic-、Arachic-、Rapinic-、Linoleic-、Palmitic-、Linolic-、Lignoceric-acidのグリセリド)などであり、シナルビンは酵素ミロシナーゼにより加水分解されて辛味を有するp-ヒドロキシ-ベンジル-イソチオシアネート、シナピンサルフェートなどに分解することが知られている。」と記載されている内容とも大筋で一致している。
そこで、本願補正発明のマスタードについてみるに、本願補正発明は、配糖体シナルビンを含有するが、酵素ミロシナーゼが失活しているものであるから、配糖体シナルビンが加水分解を受けることができず、したがって、辛味はでていない、といえる。

(4)刊行物Aに記載された発明
刊行物Aには、摘示(A1)に記載されるように、加熱処理したからし粉とアリル辛子油とを併用してなる調味料組成物について記載されるところ、上記摘示(A5)には、「カラシ粉」として「ホワイトマスタード」が例示されているから、刊行物Aには、
「加熱処理したホワイトマスタードとアリル辛子油とを併用してなる調味料組成物」
の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

(5)対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。
「ホワイトマスタード」は「シロガラシ」のことであり、シロガラシには、配糖体である「シナルビン」と酵素である「ミロシナーゼ(=ミロシン)」が含まれることは周知の事項であるから(必要ならば、刊行物B、刊行物C、刊行物E等を参照のこと。)、両者は、
「配合体シナルビンを含有し、酵素ミロシナーゼも含有するマスタード調味料」
で一致し、
(ア)「酵素ミロシナーゼ」が、本願補正発明では失活しているのに対し、引用発明では、それが明らかでない点、
(イ)「異臭」について、本願補正発明では「納豆に配合してもアンモニア臭、メルカプタン臭、吉草酸を包含する異臭を発生しない」のに対し、引用発明ではそれが明らかでない点、
(ウ)他の調味料成分として、本願補正発明では特定していないのに対し、引用発明ではアリル辛子油を併用している点、
(エ)マスタード調味料が、本願補正発明では「納豆用」と限定されているのに対し、引用発明ではそうでない点、
で一応相違している。

(6)判断
相違点(ア)について
引用発明は、加熱処理されたものであるところ、刊行物Aには、
「これらのからし粉を熱処理する条件としては、60?200℃、1?120分の条件を採用することができるが、処理されたからし粉を水と等重量づつ混合し、充分に練り込んだ後、10?15分放置したときに官能により辛さが感じられない程度に酵素活性が低下するよう加熱処理することが好ましい。」(摘示(A6))が記載され、この「酵素活性が低下するよう加熱処理する」ということは、加熱処理により、酵素が失活された状態であることは明らかであり、加えて、本願補正明細書には、
「(実施例11?15)マスタードDを加熱処理(95℃、20分)したマスタードCを用いた以外は実施例1?10と同様にして異臭発生の有無を調べた。加熱処理後のマスタードCの配糖体シナルビンの有無および酵素ミロシナーゼの活性の有無を予め高速液体クロマトグラフィーを用いて分析、確認した。結果を表1に示す。」(段落【0015】)との記載があり、この記載によると、本願補正発明においても、酵素を失活するのに加熱処理を行っており、しかも、「95℃、20分」と、引用発明の加熱温度と時間で重複するものである。そうすると、引用発明においても、酵素ミロシナーゼが失活しているといえるから、相違点(ア)は、両発明の実質的な相違点とはならない。

相違点(イ)について
刊行物Aには、
「予め加熱処理したからし粉を使用することにより、これをアリル辛子油と共存させてもアリル辛子油の分解が可及的に抑制され、長期間異臭(硫化水素)を発生させることなく安定に保存し得ることを知見し」(摘示(A4))との記載があり、この記載によると、加熱処理したからし粉、すなわち、酵素ミロシナーゼが失活したマスタードを他の食材に適用すると、異臭、例えば、硫化水素を発生させないことが理解できる。そうすると、同じSH基を有するメルカプタンを発生させないと解され、しかも、本願補正発明において、異臭の原因成分として、アンモニア臭、メルカプタン臭、吉草酸であることを確認しているわけではなく、「異臭の発生しない」というに留まり、したがって、相違点(イ)は、両発明の実質的な相違点とはならない。

相違点(ウ)について
マスタードには、辛味を呈する香辛料として、また、その旨味や風味だけを残した調味料としての2つの利用法があることは、上記「(3)」にも示したとおり、周知に属する事項である(必要ならば、刊行物D、刊行物Eを参照のこと。)。
そうしてみると、引用発明における「加熱処理したマスタード」は、辛味を有さないで旨味や風味だけを残した調味料としての利用も当然に存在するから、刊行物Aには、この利用の場合も記載されているに等しいといえる。
一方、香辛料を併用して調味料組成物とすることは普通に行われるものであるところ、本願補正発明においても、他の香辛料との併用を排除しておらず、かつ、他の香辛料と併用しないことの格別な技術的意義も見出せないから、本願補正発明においても、例えばカラシ成分等の他の香辛料と併用する場合を包含するものと解される。
したがって、いずれにしても、相違点(ウ)は、両発明の実質的な相違点とはならない。

相違点(エ)について
マスタード調味料は、種々の食品、例えば納豆に調味料・香辛料として用いられることは周知のことである。刊行物Aには、納豆について明確な言及はなされていないが、引用発明に係るマスタード調味料は、当然に納豆に使用することも前提のひとつとしていると解される。
そうすると、引用発明に係るマスタード調味料も納豆用であることを排除するものではなく、一方、本願補正発明において、納豆用と特定したことに格別な技術的意義は見出せないから、結局、相違点(エ)は、両発明の実質的な相違点とはならない。

以上のとおりであって、相違点(ア)?(エ)はいずれも実質的に相違していないから、本願補正発明は、刊行物Aに記載された発明である。

(7)請求人の主張
請求人は、平成18年9月11日付けで提出された審判請求書の手続補正書において、
「本願発明においては、後から辛味成分を添加しません。
そして、平成17年9月5日付けで提出した意見書に添付した実験成績証明書(本書に添付しました)に示しましたように、出願人が「本願発明の納豆用マスタード」が辛味を有するかどうかを確認する実験を行った結果、「本願発明の納豆用マスタード」は、辛味成分を有し、辛味を有することが確認されました。
本願発明の納豆用マスタードが辛味を有するのは、同実験成績証明書に述べましたように辛味を有するマスタードDを水不存在下で加熱処理すると、酵素ミロシナーゼは失活しますが、含まれる辛味成分は、気化消滅したり、加水分解されたりせず、また、流失したり、流出することなくマスタード中に含有されるためと考えられます。」(「【本願発明が特許されるべき理由】(1)本願発明について」の項)と主張しているので、これを検討する。

後からの辛味成分の添加について
上記「(6) 相違点(ウ)について」で示したとおりであり、マスタードの利用法は、辛味を呈する香辛料の場合のみであるかのような請求人の主張は失当である。

実験成績証明書について
「実験成績証明書」の「実験の目的」の項には、
「本願発明の実施例1?15で使用したマスタードA、マスタードB、および、配糖体シナルビンと活性を有する酵素ミロシナーゼを含有するマスタードDを水の不存在下で加熱処理(95℃、20分)して得られたマスタードCについて辛味があるかどうかを試験し、また辛味成分の有無を高速液体クロマトグラフィーを用いて分析、確認した。」との記載があり、この記載によると、「実験成績証明書」においては、加熱処理は、「水の不存在下」で実施されている。
一方、本願補正明細書には、「加熱処理」という一行記載以外の具体的な記載としては、段落【0015】に、
「(実施例11?15)マスタードDを加熱処理(95℃、20分)したマスタードCを用いた以外は実施例1?10と同様にして異臭発生の有無を調べた。加熱処理後のマスタードCの配糖体シナルビンの有無および酵素ミロシナーゼの活性の有無を予め高速液体クロマトグラフィーを用いて分析、確認した。結果を表1に示す。」という記載があるだけであって、この記載からは、加熱処理が「水の存在下」で実施されたのか、或いは、「水の不存在下」で実施されたのか不明である。そうすると、水の不存在下で加熱処理を実施した「実験成績証明書」は、本願補正発明を正確に反映したものであるとはいえない。したがって、この「実験成績証明書」は、採用することができない。
さらに、本願補正明細書の段落【0011】には、「酵素ミロシナーゼにより加水分解されて辛味を有するp-ヒドロキシ-ベンジル-イソチオシアネート、シナピンサルフェートなどに分解することが知られている。」と記載され、また刊行物Eの「シナルビンという配糖体となって含まれている。これには辛味がなく、わずかに苦味がある程度である。これに水が加わると、マスタード中に含まれているミロシナーゼという酵素が働いてブドウ糖を切り離し、アリルカラシ油を遊離するため辛味がでる。」なる記載(摘示E1)からすると、辛味は加水分解により発現するものであるところ、上記請求人の主張中の「酵素ミロシナーゼは失活しますが、含まれる辛味成分は、気化消滅したり、加水分解されたりせず」、しかも辛味を有するというのは、合理的な説明とはいえず、採用できない。

(8)まとめ
以上のとおり、本願補正発明は、その出願前日本国内において頒布された刊行物Aに記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

第3 本願発明について
1.本願発明
平成18年9月11日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願発明は、平成17年9月5日付けの手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。(以下、請求項1?4に記載の発明をまとめて「本願発明」という。)は、下記のとおりである。

【請求項1】配糖体シナルビンを含有するが、酵素ミロシナーゼを含有していないか、あるいは酵素ミロシナーゼが失活しており、納豆に配合してもアンモニア臭、メルカプタン臭、吉草酸を包含する異臭を発生せず、辛味を有し、納豆を美味しく食することができることを特徴とする納豆用マスタード。
【請求項2】配糖体シナルビンを含有しないが、活性を有する酵素ミロシナーゼを含有しており、納豆に配合してもアンモニア臭、メルカプタン臭、吉草酸を包含する異臭を発生せず、辛味を有し、納豆を美味しく食することができることを特徴とする納豆用マスタード。
【請求項3】配糖体シナルビンと活性を有する酵素ミロシナーゼを含有するマスタードを加熱処理により酵素ミロシナーゼを失活させたマスタードであって、納豆に配合してもアンモニア臭、メルカプタン臭、吉草酸を包含する異臭を発生せず、辛味を有し、納豆を美味しく食することができることを特徴とする納豆用マスタード。
【請求項4】配糖体シナルビンと活性を有する酵素ミロシナーゼを含有するマスタードを加熱処理することにより、酵素ミロシナーゼを失活させ、納豆に配合してもアンモニア臭、メルカプタン臭、吉草酸を包含する異臭を発生せず、辛味を有し、納豆を美味しく食することができマスタードを製造することを特徴とする納豆用マスタードの製法。

2.原査定の理由
拒絶査定における拒絶理由(2回目の拒絶理由である平成18年2月6日付けの「理由1」)の概要は、平成17年9月5日付けでした手続補正は、願書に最初に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない、という理由を含むものである。

3.判断
平成17年9月5日付けの手続補正によって、請求項1?4、【0006】、【0007】、【0008】において「辛味を有し」ていることが追加された。
そこで、本願の願書に最初に添付した明細書(以下、「当初明細書」という。)の記載を検討する。
当初明細書の段落【0001】?【0004】には、発明の属する技術分野、従来の技術、発明が解決しようとする課題について記載され、同【0005】?【0008】には、課題を解決するための手段について記載され、さらに、同【0009】?【0013】には、発明の実施の形態について記載されているが、辛味については、何ら説明されていない。続く、同【0014】?【0020】には、実施例が記載され、同【0021】には、発明の効果について記載されているが、ここでも、異臭についての記載はあるものの、ここでも、辛味については、何ら説明されていない。
そして、当初明細書の段落【0011】の「シナルビンは酵素ミロシナーゼにより加水分解されて辛味を有するp-ヒドロキシ-ベンジル-イソチオシアネート、シナピンサルフェートなどに分解することが知られている。」なる説明、及び、上記「第2 3.(3)」に示したように、辛味を有しないマスタードがあることからすると、請求項1に記載された「配糖体シナルビンを含有するが、酵素ミロシナーゼを含有していないか、あるいは酵素ミロシナーゼが失活しており」というマスタードは、辛味は有していないと解するのが自然である。
そうしてみると、「辛味を有し」を追加する補正は、願書に最初に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであるとはいえない。

4.むすび
以上のとおり、平成17年9月5日付けの手続補正は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていないから、その余のことを検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-02-27 
結審通知日 2009-03-03 
審決日 2009-03-16 
出願番号 特願平9-147715
審決分類 P 1 8・ 572- Z (A23L)
P 1 8・ 55- Z (A23L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小柳 正之伏見 邦彦  
特許庁審判長 西川 和子
特許庁審判官 鈴木 紀子
杉江 渉
発明の名称 納豆用マスタード  
代理人 秋元 輝雄  
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