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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B22D |
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管理番号 | 1196641 |
審判番号 | 不服2007-3256 |
総通号数 | 114 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2009-06-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2007-01-31 |
確定日 | 2009-04-30 |
事件の表示 | 特願2002- 73419「鋼の連続鋳造方法および装置」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 9月30日出願公開、特開2003-275852〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
[1]手続の経緯 本願は、平成14年3月18日の出願であって、平成18年5月22日付け拒絶理由通知に対し、同年7月12日付けで意見書提出と手続補正がなされたが、同年12月26日付けで拒絶査定がなされたため、これを不服として、平成19年1月31日に審判請求がなされるとともに、同年2月28日付けで手続補正がなされたものである。 [2]平成19年2月28日付け手続補正について 【結論】 平成19年2月28日付けの手続補正を却下する。 【理由】 1.本件手続補正の内容 平成19年2月28日付けの手続補正により、特許請求の範囲の請求項2は、次のとおりに補正された。 「【請求項2】 鋼の連続鋳造装置において、鋳型とその直下の第1番目のサポートロールとの間に、複数の直線状のスプレーパターンを、その隣り合う2本のうちの一方を鋳造方向に移動させると他方と重複する部分が生じるように、形成するスプレーノズルにより鋳片表面に10N/cm^(2)以上の衝突圧で水噴流を衝突させる高圧水吹付け手段を有することを特徴とする鋼の連続鋳造装置。」 2.補正の適否について 上記請求項2についての補正は、補正前の請求項2に記載した発明の発明特定事項である「直線状のスプレーパターン」に関し、補正後の請求項2において、「複数の」ものであり、しかも、「その隣り合う2本のうちの一方を鋳造方向に移動させると他方と重複する部分が生じるように」形成されるものである旨を限定するものであるから、上記補正は、特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものに該当するといえる。 そこで、以下では、本件手続補正後の請求項2に係る発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかどうかを検討する。 3.本件手続補正後の本願発明 本件手続補正後の請求項2に係る発明(以下、「本願補正発明2」という。)は、平成19年2月28日付けで手続補正された明細書の特許請求の範囲の請求項2に記載された事項により特定されるとおりのものと認める(上記「1.本件手続補正の内容」参照)。 4.引用刊行物及びその記載事項 原査定の拒絶の理由に引用された本願出願前に頒布された刊行物である特開昭59-229268号公報(以下、「引用例」という。)には、以下の事項が記載されている。 〔a〕「特許請求の範囲 (1)連続鋳造鋳型に続く2次冷却装置配設区域内において、前記鋳型より連続的に引出される鋳片の巾方向の両面および、又は厚方向の両面に50Kg/cm^(2)以上の高圧水もしくは高圧気水を噴射し、デスケーリングすることを特徴とする連続鋳造鋳片のデスケーリング方法。」(1頁左下欄4?10行) 〔b〕「デスケーリング装置には、高圧水を噴射するノズル5が鋳片3の巾方向両面(図では上,下面)に対向して複数個、配設されている。」(2頁左下欄13?15行) 〔c〕「鋳片3とノズル5との離隔距離が200mm未満であれば高圧水の圧力を50Kg/cm^(2)以上とすることによりデスケーリング状況が著しく良好となること、又50Kg/cm^(2)以上であつて、その上デスケーリング装置の設置位置が鋳型1に近くメニスカスを出てからできるだけ短時間のうちにデスケーリングする場合にはその効果が極めて高くなることが判つた。効果が極めて高くなるのは、鋳型1を出た鋳片3の表面に付着しているパウダーがガイドロール2を通過する際に該ガイドロール2で鋳片表面に押付けられるが、通過するガイドロール2の数が少ない程該押付けが弱くパウダーの除去が容易であるためと考えられる。」(3頁左下欄11行?右下欄3行) 〔d〕「本発明によれば、2次冷却装置配設区域内、好ましくは2次冷却装置4配設区域内の鋳型1にできるだけ近い前部位置で、鋳型より連続的に引き出される鋳片3の巾方向の両面に50Kg/cm^(2)以上の高圧水もしくは高圧気水を噴射しデスケーリングするので、鋳片表面の付着物、特に前述のパウダーを完全に除去することができ、該鋳片を直接圧延した鋼板等の黒帯状汚れが皆無となつた。」(4頁左下欄7?14行) 5.引用例記載の発明 (ア)上記摘記事項〔a〕等に記載された連続鋳造鋳片のデスケーリング方法は、連続鋳造鋳型、2次冷却装置等を具備する連続鋳造装置を前提とするものということができ、また、上記摘記事項〔d〕によれば、該連続鋳造装置は、鋼板に圧延される鋼の鋳片を鋳造するものといえるから、引用例には、そのようなデスケーリング方法を実施する鋼の連続鋳造装置が記載されているといえる。 (イ)上記摘記事項〔b〕によれば、上記連続鋳造装置は、高圧水を噴射するノズルが鋳片の巾方向両面に対向して複数個配設されているデスケーリング装置を具備するものといえる。 (ウ)上記摘記事項〔d〕によれば、上記デスケーリング装置は、2次冷却装置配設区域内の鋳型にできるだけ近い前部位置に設けられるものといえる。 以上の(ア)?(ウ)の事項を考慮し、摘記事項〔a〕?〔d〕の記載を整理すると、引用例には、次の「鋼の連続鋳造装置」に係る発明(以下、「引用例発明」という。)が記載されているといえる。 「連続鋳造鋳型に続く2次冷却装置配設区域内において、前記鋳型より連続的に引出される鋳片の巾方向の両面及び/又は厚方向の両面に50Kg/cm^(2)以上の高圧水を噴射し、デスケーリングする連続鋳造鋳片のデスケーリング方法を実施する鋼の連続鋳造装置において、高圧水を噴射するノズルが鋳片の巾方向両面に対向して複数個配設されているデスケーリング装置を2次冷却装置配設区域内の鋳型にできるだけ近い前部位置に設けた鋼の連続鋳造装置」 6.対比・判断 (カ)本願補正発明2と引用例発明を対比すると、引用例発明における「ノズル」は、本願補正発明2における「スプレーノズル」に相当する。(以下、引用例発明の用語に代えて、それに相当する本願補正発明2の用語を使用することがある。) (キ)水等の液体を噴射するノズルは、その構造等に応じて所定のスプレーパターンを形成するものであるから、引用例発明の高圧水を噴射するノズルも所定の「スプレーパターン」を形成するものといえる。 (ク)引用例発明において、デスケーリング装置は、鋳片の巾方向の両面に50Kg/cm^(2)以上の高圧水を噴射し、デスケーリングするのであるから、鋳片表面に水噴流を衝突させる高圧水吹付け手段といえる。 以上の(カ)?(ク)の事項を勘案すると、両者は、 「鋼の連続鋳造装置において、複数のスプレーパターンを形成するスプレーノズルにより鋳片表面に水噴流を衝突させる高圧水吹付け手段を有する鋼の連続鋳造装置」である点で一致するが、次の点で相違する。 <相違点1> 本願補正発明2では、スプレーノズルにより鋳片表面に水噴流を衝突させる衝突圧が「10N/cm^(2)以上」であるのに対し、引用例発明では、50Kg/cm^(2)(490N/cm^(2))以上の高圧水を鋳片表面に噴射するものの、衝突圧については規定されていない点 <相違点2> 本願補正発明2では、スプレーパターンが「直線状」であるのに対し、引用例発明では、スプレーパターンについて規定されていない点 <相違点3> 本願補正発明2では、複数のスプレーパターンを「その隣り合う2本のうちの一方を鋳造方向に移動させると他方と重複する部分が生じるように」形成するのに対し、引用例発明では、そのような事項が規定されていない点 <相違点4> 鋳片表面に水噴流を衝突させる高圧水吹付け手段の位置が、本願補正発明2では、「鋳型とその直下の第1番目のサポートロールとの間」であるのに対し、引用例発明では、「2次冷却装置配設区域内の鋳型にできるだけ近い前部位置」であるものの、「鋳型とその直下の第1番目のサポートロールとの間」であるとは規定されていない点 以下、上記相違点について検討する。 <相違点1について> 下記周知例1の摘記事項(周1a)には、金属材料表面のデスケーリングにおいて、デスケーリング用冷媒が被デスケーリング面を叩く衝撃圧力を約0.15?1MPa(15?100N/cm^(2))とする旨が、同摘記事項(周1b)には、該金属材料は鋼を含み得る旨が、同摘記事項(周1c)には、確実にデスケーリングが行われる旨が、同摘記事項(周1d)には、該デスケーリング用冷媒は水である旨が記載されている。 下記周知例2の摘記事項(周2a)、(周2c)には、鋼材の低圧デスケーリングにおいて、噴出水の被デスケーリング面に対する衝撃力をデスケーリングに必要な4?30kg/cm^(2)(39?294N/cm^(2))とする旨が記載されている。 これらの記載からみて、鋼表面のデスケーリングにおいて、デスケーリングを確実に行うことを課題として、鋼表面に水噴流を衝突させる衝突圧を「10N/cm^(2)以上」の値とすることは、本願出願前において周知の事項といえる。 そして、引用例発明は、上記摘記事項〔d〕の記載等から見て、パウダーが完全に除去されるように確実にデスケーリングを行うことを課題としているといえるから、引用例発明において、確実にデスケーリングが行われるように、スプレーノズルにより鋳片表面に水噴流を衝突させる衝突圧を「10N/cm^(2)以上」の値とすることは、上記周知事項に基づいて当業者が容易に想到し得たものというべきである。 周知例1:特開平9-141323号公報 (周1a)「【特許請求の範囲】 【請求項1】 デスケーリング装置本体が、デスケーリング用冷媒を圧送するためのデスケーリング用冷媒配管と、このデスケーリング用冷媒配管に設けてあって上記デスケーリング用冷媒を被圧延材の表面に向けて噴射するための複数のデスケーリング用ノズルと、上記各デスケーリングノズルと被圧延材間の面間距離を一定の距離に近接保持する保持機構とを備えており、この保持機構は、デスケーリング用冷媒が上記被圧延材の表面に衝突する時に上記デスケーリング用冷媒が上記被圧延材の表面を叩く衝撃圧力が約0.15?1MPaとなるように上記面間距離を常に約50mm以下でかつ一定となるように保持する機能を備えていることを特徴とする被圧延材表面を清浄するためのデスケーリング装置。 【請求項2】 請求項1において、各デスケーリング用ノズルは、それぞれから噴射されるデスケーリング用冷媒の個々の衝突パターンの周縁部が隣同士で互いにオーバーラップするように配列されていることを特徴とする被圧延材表面を清浄するためのデスケーリング装置。 【請求項3】 請求項1において、各デスケーリング用ノズルは、被圧延材の進行方向に間隔を置いて複数列配列されており、一方の列のデスケーリング用ノズルの間の位置に他方の例のデスケーリング用ノズルが対応するように配置してデスケーリング用冷媒が近接した面内で切れ目が生じないようにしていることを特徴とする被圧延材表面を清浄するためのデスケーリング装置。」 (周1b)「【0001】 【発明の属する技術分野】この発明は、金属異形材などの被圧延材、特に電炉製鉄鋼異形材圧延工程において、加熱炉を出てから粗圧延機に入る前及び圧延ライン内のいずれかの場所で熱間金属材料の表面を清浄するためのデスケーリング装置・・・に関する。」 (周1c)「【0007】 【作用】この発明においては、面間距離を近接化して、この距離を保持機構によって一定距離に保持することにより、確実にデスケーリングが行われる。・・・」 (周1d)「【0010】そこで、デスケーリング装置を図1乃至図6に基づいて説明する。特に図1及び図6に示すようにデスケーリング装置本体Bは、フレキシブルなデスケーリング用冷媒給送ホース12(図示の例では給水ホース12)、デスケーリング用冷媒配管13、デスケーリング用ノズル14及び面間距離一定保持機構15を具備している。デスケーリング用冷媒配管13はフレーム1内に設けられており、その一端部13aがフレームの一側壁外へ突出され、突出端が連結部16を介してデスケーリング用冷媒給送ホース12と接続されている。このデスケーリング用冷媒給送ホースは、その他端側がデスケーリング用ポンプ(図示せず)に連通している。」 (周1e)図8,10には、複数のスプレーの衝突パターンP,P1,P2を、隣り合う2本のうちの一方を対象物Mの進行方向(矢印方向)に移動させると他方と重複する部分が生じるように形成されていることが示されている。 周知例2:特開昭59-76615号公報 (周2a)「特許請求の範囲 1. ノズルからの噴出水圧力が15?80kg/cm^(2)G、前記ノズルチップ先端面と被デスケーリング面との配置間距離を25?100mmに選定することによつて、噴出水の被デスケーリング面に対する衝撃力を4?30kg/cm^(2)としたことを特徴とする鋼材の低圧デスケーリング方法。」(1頁左下欄4?10行) (周2b)「スケールのない鋼管表面の熱伝達係数は高く・・・、一方スケールが付着した鋼管表面の熱伝達係数は著しく悪くなる。外部から強冷を受ける鋼管は肉厚方向の伝熱に比べて円周方向の伝熱が少ないため、同一鋼管表面においてスケールのない部分とスケールの付着した部分が混在すると、スケールのない部分は内面まで急冷される一方でスケールの付着した部分は、内面までゆつくりした冷却が行なわれる。」(2頁左上欄15行?右上欄3行) (周2c)「デスケーリングの時に必要な衝撃力は4?30kg/cm^(2)程度で十分である。」(2頁右下欄9?11行) <相違点2について> 水等を噴射するスプレーノズルにおいて、その吐出口をスリット状とし、そのスプレーパターンを直線状とすることは、下記周知例3の摘記事項(周3b)や下記周知例4の摘記事項(周4a)等の記載に見られるように、本願出願前において周知の事項であるし、また、どのようなスプレーパターンのスプレーノズルを採用するかは、対象物の表面形状やスプレーの目的等に応じて当業者が適宜決定する程度の事項にすぎない。 したがって、引用例発明において、スプレーパターンを「直線状」とすることは、上記周知事項に基づいて当業者が容易に想到し得たものというべきである。 なお、本願明細書によれば、「【0013】高衝突圧を得るためのノズル型式としては、例えば図2(A) に示すようなほぼ直線状のスプレーパターンを形成するデスケーリングタイプのものを用いる。・・・」とされているが、スプレーノズルによる衝突圧は、その吐出口の面積や吐出口と対象表面との距離等によっても変化するし、直線状のスプレーパターンであっても、直線部分の全ての位置で衝突圧が必ずしも均等になるわけではないから、スプレーパターンを直線状としたことによって、引用例の記載や上記周知事項から予測できないような格別に顕著な効果を奏するとは認められない。 周知例3:実願昭60-142474号(実開昭62-50812号)のマイクロフィルム (周3a)「第4図は、この従来の環状ディスケーラの要部を示すものである。・・・鋼管aを取り囲んで配置された環状ヘッダーbの内周には、ノズルcが形成されている。このノズルcは、環状ヘッダーbの中心軸線に対する傾斜角θ_(1)及び捩れ角θ_(2)をもって、環状ヘッダーbに設けられている。この場合の噴射による衝突位置をAで示している。このような環状ディスケーラで脱スケールをむらなく行うためには、噴射位置を第4図(c)に示すように傾斜させ、且つ噴射された高圧水の一部がラップするようにノズル傾斜角θ_(1)とノズル捩れ角θ_(2)を設定してラップ代Bを確保している。」(2頁5?18行) (周3b)「本考案は、・・・鋼管の外表面に指向する多数のノズルを鋼管の外周を取り囲むように設けたディスケーラにおいて、各ノズルのスリットを鋼管の軸線方向と直交する方向に沿って平行に形成するとともに、隣接するノズルの鋼管に対する角度を交互に異ならせて配列したことを特徴とする。 次いで、図面を使用して本考案の特徴を具体的に説明する。 第1図及び第2図に示された環状ヘッダーにおいては、ノズル1の捩れ角θ_(2)をほぼ零とし、また噴射による衝突位置を第2図で示されるように環状ヘッダー2の中心軸とほぼ平行になる如くノズル1を設けている。また、隣接するノズルの傾斜角をそれぞれα_(1),α_(2)と異ならせている。このようなノズル1の配置によって、ノズル1からの噴射される高圧水は、第2図に示されているように2列以上にわたった千鳥状の配列状態で、鋼管の外表面に衝突する。この結果、隣接する噴射位置Aが部分的にラップし、ラップ代Bが形成される。」(4頁5行?5頁5行) (周3c)第2図、第4図には、ラップ代Bは、隣接する2つのノズル噴射位置Aの一方を鋼管の軸方向に移動させたときに形成される、他方の噴射位置Aとの重複する部分である旨が示されている。 周知例4:実願昭56-58954号(実開昭57-169450号)のマイクロフィルム (周4a)「実用新案登録請求の範囲 1) 一本の流水管路上より数本の流水管を分岐させ該分岐した流水管の先端にそれぞれ噴射口を形成させ、上記噴射口がスリット状に細長く、内部より外部に向って扇形状に拡張されていて、それぞれの噴射口が互に平行に並設されて噴射口より噴射された流体の外側部の裾が互に触れ合うことなく所要間隔を置いて重なり合うように形成されて成るノズルの噴射口の構造。」(1頁3?11行) <相違点3について> 引用例発明は、上記摘記事項〔d〕の記載に見られるように、鋳片表面に高圧水を噴射して鋳片表面の付着物、パウダー等を完全に除去しようとするものであるから、引用例発明において、高圧水が衝突されない部分が生じてパウダー等が除去されない部分が生じないように、噴射した高圧水を鋳片表面に万遍なく衝突させることは、当業者であれば当然に考慮する程度の事項といえる。 そして、複数のスプレーノズルを用いて水噴流を対象物の表面に衝突させる際に、水の衝突が万遍なく行われて衝突されない部分(切れ目)が生じないように、複数のスプレーパターンを、隣り合う2本のうちの一方を対象物の移動方向に移動させると他方と重複する部分が生じるように形成することは、上記周知例1の摘記事項(周1a)の請求項2、3や摘記事項(周1d)の記載、上記周知例3の摘記事項(周3a)?(周3c)の記載、及び、上記周知例4の摘記事項(周4a)の記載に見られるように、本願出願前において周知の事項である。 してみれば、引用例発明において、複数のスプレーパターンを「その隣り合う2本のうちの一方を鋳造方向に移動させると他方と重複する部分が生じるように」形成することは、上記周知事項に基づいて当業者が容易に想到し得たものというべきである。 <相違点4について> 引用例発明では、高圧水吹付け手段(デスケーリング装置)の位置を「2次冷却装置配設区域内の鋳型にできるだけ近い前部位置」とするものであり、「鋳型とその直下の第1番目のサポートロールとの間」は、そのような鋳型にできるだけ近い前部位置に該当するといえる。 しかも、引用例の上記摘記事項〔c〕には、通過するガイドロールの数が少ないほど、パウダーの鋳片表面への押付けが弱く、パウダーの除去が容易である旨が記載されているから、ガイドロールを全く通過していないうちに鋳片表面のデスケーリングを行う方がデスケーリングが一層容易であることが理解できる。 してみれば、引用例発明において、デスケーリングの一層の容易化を課題として、ガイドロールを全く通過していないうちに鋳片表面のデスケーリングを行うべく、高圧水吹付け手段(デスケーリング装置)の位置を「鋳型とその直下の第1番目のサポートロールとの間」とすることは、上記摘記事項〔c〕等の記載に基づいて当業者が容易に想到し得たものというべきである。 そして、鋼表面のスケールの部分的残存が外部からの鋼の均一な冷却の障害となることも、上記周知例2の摘記事項(周2b)の記載に見られるように、本願出願前において周知の事項であることを併せ考慮すると、本願補正発明2は、上記引用例の記載や上記周知事項から予測できないような格別に顕著な効果を奏するとは認められない。 したがって、本願補正発明2は、引用例に記載された発明及び上記周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 7.補正の適否についてのむすび よって、上記補正を含む本件手続補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 [3]本願発明について 1.本願発明 平成19年2月28日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項2に係る発明(以下、「本願発明2」という。)は、平成18年7月12日付けで手続補正された明細書の特許請求の範囲の請求項2に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める。 「【請求項2】 鋼の連続鋳造装置において、鋳型とその直下の第1番目のサポートロールとの間に、直線状のスプレーパターンを形成するスプレーノズルにより鋳片表面に10N/cm^(2)以上の衝突圧で水噴流を衝突させる高圧水吹付け手段を有することを特徴とする鋼の連続鋳造装置。」 2.引用刊行物及びその記載事項 原査定の拒絶の理由に引用された刊行物とその記載事項は、上記[2]「4.引用刊行物及びその記載事項」に記載したとおりである。 3.対比・判断 本願発明2は、上記[2]で検討した本願補正発明2の発明特定事項の「直線状のスプレーパターン」について、「複数の」ものであり、しかも、「その隣り合う2本のうちの一方を鋳造方向に移動させると他方と重複する部分が生じるように」形成されるものである旨の限定事項を削除したものに相当する。 そうすると、本願発明2の発明特定事項を全て含み、さらに他の発明特定事項を付加したものに相当する本願補正発明2が、上記[2]「6.対比・判断」に記載したとおり、引用例に記載された発明及び上記周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明2についても、同様の理由により、引用例に記載された発明及び上記周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 4.むすび 以上のとおりであるから、本願発明2は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2009-02-25 |
結審通知日 | 2009-03-03 |
審決日 | 2009-03-18 |
出願番号 | 特願2002-73419(P2002-73419) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(B22D)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 馳平 憲一 |
特許庁審判長 |
徳永 英男 |
特許庁審判官 |
市川 裕司 鈴木 正紀 |
発明の名称 | 鋼の連続鋳造方法および装置 |
代理人 | 小林 英一 |