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この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
不服200517708 審決 特許
不服200710119 審決 特許
不服200417222 審決 特許
無効2008800115 審決 特許
不服200422929 審決 特許

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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1196679
審判番号 不服2005-1517  
総通号数 114 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-06-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-01-27 
確定日 2009-04-27 
事件の表示 平成10年特許願第 92858号「ニキビ改善用皮膚外用剤」拒絶査定不服審判事件〔平成11年10月 5日出願公開、特開平11-269034〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯、本願発明
本願は、平成10年3月20日の出願であって、その請求項1?6に係る発明は、平成17年2月28日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち請求項4に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。

「【請求項4】ニキビ改善・予防剤の製造のためのL-アルギニンおよびその塩類の中から選ばれる1種または2種以上の使用。」

2.引用例
これに対し、原査定の拒絶の理由に引用された本願出願前の刊行物である、特開平8-53337号公報(以下、「引用例」という。)には、次のような技術事項が記載されている。なお、下線は当審で付したものである。
(i)「【請求項1】プロテアーゼ阻害剤の一種または二種以上とリパーゼ阻害剤の一種または二種以上とを有効成分とする皮脂抑制剤。」(特許請求の範囲の請求項1、2頁1欄2?4行)
(ii)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は皮脂抑制剤に関する。詳しくは、プロテアーゼ阻害剤の一種または二種以上とリパーゼ阻害剤の一種または二種以上とを有効成分として含有する皮脂抑制剤…に関するもので、皮脂の分泌過剰によっておこるにきび等の脂漏性疾患で温和な効果を示す皮膚疾患治療剤である。又、頭皮に使用して脂漏性のフケを有効に予防することができる。」(段落【0001】、2頁1欄12?21行)
(iii)「【0005】本発明におけるプロテアーゼ阻害剤とは、前記プロテアーゼまたは蛋白分解酵素の加水分解作用を、可逆的もしくは不可逆的に阻害し得る全ての化学物質を意味する。以下に主な物質を挙げる。
【0006】(1)動物または植物由来の化合物
・・・(中略)・・・
【0007】(2)微生物由来の化合物
・・・(中略)・・・
【0009】(3)ベンザミジンおよびその誘導体
・・・(中略)・・・
【0010】(4)アセタミドおよびその誘導体
・・・(中略)・・・
【0011】(5)グアニジンおよびその誘導体
・・・(中略)・・・
【0012】(6)ω-アミノ酸類
・・・(中略)・・・
【0015】(7)トラネキサム酸およびその塩類または誘導体
・・・(中略)・・・
【0030】(8)グアニジノ安息香酸およびその誘導体
・・・(中略)・・・
【0031】(9)リジンおよびその誘導体
・・・(中略)・・・
【0034】(10)アルギニンおよびその誘導体
好ましくは下記一般式化11で表わされる化合物等がある。
【0035】
【化11】

」(段落【0005】?【0035】、2頁2欄16行?5頁14行)
(iv)「【0037】又、本発明におけるリパーゼ阻害剤とは、グリセロールエステルを加水分解して脂肪酸を遊離する酵素であるリパーゼの作用を可逆的もしくは不可逆的に阻害し得る全ての物質を意味する。主な物質としては、イブプロフェンピコノール、テトラサイクリン塩酸塩、ミノサイクリン、ドキシテトラサイクリン、クリンダマイシン、エリスロマイシン、リンコマイシン、ナジクロキサシン、クロラムフェニコール、および金属塩などがあり、さらに、シャクヤク、オオレン、オオバク、ボタンピ、ゲンノショウコ、茶、クジン、シボタンツル、オドリコソウ、サルビア、西洋ネズ、ハマメリス、バーチなどの生薬又はその溶媒抽出エキスなどを挙げることができる。」(段落【0037】、5頁7欄17?29行)
(v)「【0039】本発明においてプロテアーゼ阻害剤の皮脂抑制剤組成物への配合量は、組成物全量中0.0001?10%(重量%。以下同じ)が好ましく・・・」(段落【0039】、5頁7欄39?41行)
(vi)「【0041】…本発明の皮脂抑制剤には、上記した化合物の他にビタミンA酸およびその誘導体、サリチル酸、亜鉛及びその化合物、乳酸等の薬剤や角質溶解剤、性状によっても異なるが、油分、界面活性剤、水、エタノール、ヒアルロン酸等の保湿剤、増粘剤、香料、色素等が本発明の効果を損なわない範囲で適宜配合することができる。本発明の皮脂抑制剤の性状は、クリーム、ローション、軟膏等、外皮に適用できるものであればいずれでも良い。」(段落【0041】、5頁8欄27?35行)
(vii)「【0042】
【実施例】次に臨床試験例をあげて本発明の効果を更に詳細に説明する。
(使用薬剤)表1の処方に基づいたローションタイプの皮脂抑制剤を使用した。配合量は重量%である。
【0043】(使用対象及び観察期間)15?30歳までの尋常性座瘡患者男女計120名(1群20名)に4週間使用させた。使用の際は、被験者の前額部を左右に分け、一方に実施例1?5のいずれかをもう一方に比較例1の処方のローションを朝晩4週間にわたり塗布した。
【0044】(皮脂の測定)使用前と4週間使用後の総皮脂量をガラスカップ法で皮脂を採取して重量法[Ohokawa H.,et al., Anal Biochem, 95.351 358(1979) ]にて測定した。皮脂減少率は次式の相対比で求めた。
使用前の総皮脂量-4週間後の総皮脂量
皮脂減少率=────────────────────×100
使用前の総皮脂量
【0045】(官能評価)塗布終了後アンケート調査を実施し、ローション塗布前に比べてあぶらっぽさを感じなくなった人が20人中15人以上の場合をA、20人中10?14人の場合をB、20人中5?9人の場合をC、20人中5人未満の場合をDとして判定した。表1に結果を示した。
【0046】【表1】
──────────────────────────────────
実施例 実施例 比較例 比較例 比較例 比較例
1 2 1 2 3 4
──────────────────────────────────
トラネキサム酸 1.0 1.0 1.0 - - -
シャクヤクエキス 1.0 1.0 - 1.0 - -
塩化ベンザルコニウム - 0.05 - - 0.05 -
グリセリン 4.0 4.0 4.0 4.0 4.0 4.0
1,3-ブチレングリコール 4.0 4.0 4.0 4.0 4.0 4.0
エタノール 7.0 7.0 7.0 7.0 7.0 7.0
ポリオキシエチレン
オレイルアルコール 0.5 0.5 0.5 0.5 0.5 0.5
メチルパラベン 0.05 0.05 0.05 0.05 0.05 0.05
クエン酸 0.01 0.01 0.01 0.01 0.01 0.01
クエン酸ソーダ 0.1 0.1 0.1 0.1 0.1 0.1
香 料 0.05 0.05 0.05 0.05 0.05 0.05
精製水 残余 残余 残余 残余 残余 残余
──────────────────────────────────
平均皮脂減少率(%) 14.6 15.1 5.2 5.0 1.1 0.2
官能評価 A A B B C D
──────────────────────────────────
この結果、トラネキサム酸とシャクヤクエキスを配合した実施例1のローション、およびトラネキサム酸とシャクヤクエキスと塩化ベンザルコニウムを配合した実施例2のローションは、各比較例のローションに比べて有効であることが示された。」(段落【0042】?【0046】、5頁8欄37行?6頁10欄29行)

3.対比、判断
引用例の上記「2.」の摘示の記載を検討すると、
(a)引用例には、プロテアーゼ阻害剤の一種または二種以上とリパーゼ阻害剤の一種または二種以上とを有効成分として配合した皮脂抑制剤に関するもので、皮脂の分泌過剰によっておこるにきび等の脂漏性疾患で温和な効果を示す皮膚疾患治療剤が記載されていること(摘示事項(i),(ii)参照)、
(b)引用例の実施例で「尋常性座瘡」の患者を対象としている(摘示事項(vii)参照)ところ、本願明細書に「ニキビはおもに思春期に発現する皮膚疾患で、その正式な名称を尋常性座瘡といい」(段落【0002】)と説明されているように、「尋常性座瘡」と「ニキビ」は同じ疾患であると認められること、
(c)プロテアーゼ阻害剤として、トラネキサム酸の他にアルギニンおよびその誘導体などが明示されていること(摘示事項(iii)参照)、
(d)各種成分(例えばプロテアーゼ阻害剤など)を配合して治療剤を調製することは、治療剤の製造のために各種成分(例えばプロテアーゼ阻害剤など)の使用に相当することが明らかであること(なお、本願発明でも、「処方に基づきニキビ改善用皮膚外用剤を常法により製造した」(本願明細書段落【0025】参照)などの説明にとどまり、本願発明の「使用」も前記使用と格別異なるものではない。)、
からみて、次の発明(以下、「引用例発明」という。)が記載されていると認められる。
「ニキビ等の皮膚疾患治療剤の製造のための、アルギニンおよびその誘導体などのプロテアーゼ阻害剤の使用。」

そこで、本願発明と引用例発明を対比する。
引用例発明の「ニキビ等の皮膚疾患治療剤」は、本願発明の「ニキビ改善・予防剤」に一致する。そして、引用例発明の「アルギニンおよびその誘導体などのプロテアーゼ阻害剤」は、本願発明の「L-アルギニンおよびその塩類の中から選ばれる1種または2種以上」に対応し、いずれも薬剤の範疇で一致する。
してみると、両発明は、
「ニキビ改善・予防剤の製造のための薬剤の使用。」
で一致し、以下の相違点1で相違する。
<相違点>
1.薬剤に関し、本願発明では、「L-アルギニンおよびその塩類の中から選ばれる1種または2種以上」であると特定しているのに対し、引用例発明では、「アルギニンおよびその誘導体などのプロテアーゼ阻害剤」と特定している点

そこで、この相違点1について検討する。
引用例において、アルギニンは、それを使用した実施例は示されていないものの、尋常性座瘡患者(即ち、ニキビ患者)に対しての実施例や比較例のあるトラネキサム酸(摘示事項(vii)の表1参照)と同列にプロテアーゼ阻害剤として明示されたものである(摘示事項(iii)参照)から、アルギニンはトラネキサム酸と同様な作用効果を奏するものと期待されるものである。
ところで、引用例には、アルギニンが「L-アルギニン」であることは明示されていないけれども、アルギニンとして「L-アルギニン」を用いることは、通常のことにすぎないと認められる(例えば、「化粧品原料辞典」平成3年11月29日発行、代表者:関根茂、編集者:蔵多淑子外4名、日光ケミカルズ株式会社外2社、第22?23頁の「L-アルギニン」の項参照),原審に移用された特開平5-331066号公報(【0019】(表3)など)、特開平5-43416号公報(実施例1など)、特開平1-110610号公報(実施例6など)参照)。
してみると、ニキビ改善・予防剤の製造ための薬剤として、「L-アルギニン」を用いることは、当業者が容易に想到し得たことであり、それにより格別予想外の作用効果を奏しているとも認められない。

ところで、審判請求理由(平成17年4月28日付けの手続補正書(方式)参照)において、審判請求人は、本願発明がアルギニン(塩)を有効成分として単独で使用するものであり、他の成分を併用することを排除するものであるのに対し、引用例発明は「プロテアーゼ阻害剤」と「リパーゼ阻害剤」の併用したものである点で異なる旨を主張する。
しかし、本願発明は、その発明特定事項からみて、アルギニン(塩)を有効成分として単独で使用することが特定されているものではない。更に、本願明細書を検討しても、「本発明のニキビ予防・改善のための皮膚外用剤は、上記の必須成分に加えて、必要に応じ、本発明の効果を損なわない範囲で、通常化粧品、医薬部外品、医薬品等の皮膚外用剤に用いられる各種成分、例えば水性成分、油性成分、粉末成分、アルコール類、保湿剤、増粘剤、紫外線吸収剤、美白剤、防腐剤、酸化防止剤、界面活性剤、香料、色剤、各種皮膚栄養剤等を適宜配合することができる。」(段落【0023】)と記載され、実施例4でL-アルギニン 1.0重量%、及びトラネキサム酸 0.2重量%を配合したクリーム、実施例7でL-アルギニン塩酸塩 8.0重量%、及びトラネキサム酸 1.0重量%を配合した乳液、及び実施例11でL-アルギニングルタミン酸塩 0.5重量%、及び亜鉛華すなわち酸化亜鉛 7.0重量%を配合したパックの処方例が記載されていて、各種成分を配合できること、及びニキビの予防・改善に有効である他の配合成分(トラネキサム酸、及び亜鉛華)をL-アルギニン及びその塩類とともに配合した処方例が記載されているのであるから、アルギニン(塩)を有効成分として単独で使用することが特定されているものではないとの前記判断を左右できるものではない。
仮に、単独で治療効果を奏することを新たに発見したとの本願明細書の記載(段落【0021】参照)を勘案し、ニキビ改善・予防の作用効果を奏する薬剤として「L-アルギニンおよびその塩類」のみを使用することを更に特定したとしても、引用例において、その尋常性座瘡患者(即ちニキビ患者)を対象とした平均皮脂減少率や官能評価を判定したデータを検討すると、プロテアーゼ阻害剤としてトラネキサム酸を単独で用いた比較例1や、リパーゼ阻害剤としてシャクヤクエキスを単独で用いた比較例2では、それらいずれも用いない場合に比べ平均皮脂減少率や官能評価が向上していることが示されている(摘示(vii)参照)から、リパーゼ阻害剤を併用した場合に比べその作用効果が劣るもののプロテアーゼ阻害剤(トラネキサム酸と同様にアルギニンでも)単独でもニキビ治療剤として有用であると解することができるので、引用例発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものであるとの判断が覆るわけではない。
したがって、前記審判請求人の主張は、失当であり、採用できない。

よって、本願発明は、引用例発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものである。

4.むすび
以上のとおり、本願請求項4に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
それ故、他の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-03-02 
結審通知日 2009-03-03 
審決日 2009-03-16 
出願番号 特願平10-92858
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大宅 郁治  
特許庁審判長 川上 美秀
特許庁審判官 弘實 謙二
谷口 博
発明の名称 ニキビ改善用皮膚外用剤  
代理人 長谷川 洋子  

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