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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1196690
審判番号 不服2007-9980  
総通号数 114 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-06-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-04-09 
確定日 2009-04-27 
事件の表示 平成 7年特許願第 86913号「光センサー、情報記録装置および情報記録方法」拒絶査定不服審判事件〔平成 8年11月 1日出願公開、特開平 8-288534〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成7年4月12日の出願であって、平成18年9月14日付けで手続補正がなされ、平成19年3月1日付けで拒絶査定がなされたところ、これに対し、同年4月9日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同年5月9日付けで手続補正がなされたものである(以下、この平成19年5月9日付け手続補正を「本件補正」という。)。

2 本件補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理由]
(1)本件補正の内容
ア 本件補正は、補正前の本願明細書の特許請求の範囲の請求項1を、
「【請求項1】 電極上に電荷発生層、電荷輸送層を有し、半導電性であり、光センサーへ情報露光した状態で電圧を印加するか、あるいは電圧を印加した状態で情報露光すると、情報露光に起因する電流以上に増幅された強度で電流を流し、また、情報露光を終了した後も電圧を印加し続けると導電性を持続し、引き続き電流を増幅状態で流し続ける作用を有する光センサーにおいて、電極の比抵抗が10^(6 )Ω・cm以下の導電率を有し、電荷輸送層が電荷発生層上に湿式塗布によって形成した後に相対湿度10?60%RH、温度10?50℃の条件でエージングを行って得られたものであって、電極と電荷発生層の間には、光キャリアがトラップされて生じたキャリア電荷により電極界面のエネルギー障壁が平坦化されて、光電流に加えて注入された電荷による電流を流す作用を有する界面を形成した、電圧印加時において、光センサーへ10^(5 )?10^(6 )V/cm の電界強度の印加時に、未露光部での通過電流密度が10^(-4)?10^(-7)A/cm^(2)であって、熱刺激電流測定により、40?150℃の範囲に明瞭なピークが観測されることを特徴とする光センサー。」
から
「【請求項1】 電極上に電荷発生層、電荷輸送層を有し、半導電性であり、光センサーへ情報露光した状態で電圧を印加するか、あるいは電圧を印加した状態で情報露光すると、情報露光に起因する電流以上に増幅された強度で電流を流し、また、情報露光を終了した後も電圧を印加し続けると導電性を持続し、引き続き電流を増幅状態で流し続ける作用を有する光センサーにおいて、光導電層を形成した電極がITOからなり、電極の比抵抗が10^(6)Ω・cm以下の導電率を有し、電荷輸送層が電荷発生層上に湿式塗布によって形成した後に相対湿度10?60%RH、温度10?50℃の条件でエージングを行って得られたものであって、電極と電荷発生層の間には、光キャリアがトラップされて生じたキャリア電荷により電極界面のエネルギー障壁が平坦化されて、光電流に加えて注入された電荷による電流を流す作用を有する界面を形成した、電圧印加時において、光センサーへ10^(5)?10^(6)V/cmの電界強度の印加時に、未露光部での通過電流密度が10^(-4)?10^(-7)A/cm^(2)であって、熱刺激電流測定により、40?150℃の範囲に明瞭なピークが観測されることを特徴とする光センサー。」
とする補正事項を含むものである(下線は当審が付した。)。

イ 上記請求項1に係る補正は、本件補正前の請求項1の発明特定事項である「電極」について、「光導電層を形成した電極がITOからなり」との限定を付加するものであるから、平成6年法律第116号改正附則第6条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下「平成6年改正前特許法」という。)第17条の2第3項第2号の特許請求の範囲の限縮を目的とするものである。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成6年改正前特許法第17条の2第4項において準用する同法第126条第3項に規定する要件を満たすか)について以下に検討する。

(2)引用例
原査定の拒絶の理由に引用され、本願出願前に頒布された刊行物である特開平6-265931号公報(以下「引用例」という。)には、図とともに以下の事項が記載されている

ア 「【請求項1】 電極層上に光導電層を積層してなる光センサーと、電極層上に電界または電荷により情報記録が可能な情報記録層を積層してなる情報記録媒体とが対向させて配置され、両電極間に電圧を印加した状態での情報露光により情報記録媒体への情報記録を可能とする情報記録システムであって、該光センサーにおける光導電層が情報記録媒体に付与される電界または電荷の増幅機能を有するものであることを特徴とする情報記録システム。
【請求項2】 光センサーの増幅機能が、電圧印加状態での情報露光に対応して発生する光電流以上の電流が流れるものであることを特徴とする請求項1記載の情報記録システム。
【請求項3】 電圧印加状態での情報露光時において、光センサーの露光部において発生する光電流が、経時的に増幅されるものであることを特徴とする請求項1記載の情報記録システム。
【請求項4】 光センサーの露光部においては、情報露光を遮断した後でも電圧印加を継続した状態で導電性を維持し、未露光部よりも大きな電流が継続して流れることを特徴とする請求項1記載の情報記録システム。
【請求項5】 電圧印加状態での情報露光時において、光センサーの露光部において発生する光電流が経時的に増幅されるものであると共に、情報露光を遮断した後でも電圧印加を継続した状態で導電性を維持し、未露光部よりも大きな電流が継続して流れることを特徴とする請求項1記載の情報記録システム。
【請求項6】 電圧印加状態での情報露光時において、光センサーの未露光部での通過電流が10^(-4)A/cm^(2) ?10^(-8)A/cm^(2 )であり、情報記録媒体の抵抗率が10^(10)Ω・cm?10^(13)Ω・cmである請求項1記載の情報記録システム。」

イ 「【0025】次に、積層型光センサーについて説明する。図2は積層型光センサーを説明するための断面図であり、図中13は電極層、14′は電荷発生層、14″は電荷輸送層、15は基板である。図に示すように、積層型光センサーは電極上に電荷発生層、電荷輸送層を順次積層して形成され、無機材料系光センサーと有機材料系光センサーとがある。・・・・」

ウ 「【0051】次に、単層型センサー、積層型センサーにおける電荷注入制御層について説明する。・・・・つまり、露光部において情報記録媒体に印加される電位(明電位)と未露光部において情報記録媒体に印加される電位(暗電位)との差(コントラスト電位)を情報記録媒体における液晶の動作領域において大きく取ることが必要であるからである。
【0052】そのため、例えば光センサーの未露光部の液晶層にかかる暗電位は液晶の動作開始電位程度に設定する必要がある。そのために光センサーバルクに10^(5 )V/cm?10^(6 )V/cmの電界が与えられた状態で10^(-4)?10^(-8)A/cm^(2 )の暗電流が生じる程度の導電性が要求され、好ましくは10^(-5)?10^(-7)A/cm^(2 )の範囲が好ましい。暗電流が10^(-8)A/cm^(2) 以下の光センサーでは液晶層が露光状態でも配向せず、また10^(-4)A/cm^(2 )以上の暗電流の光センサーでは未露光状態でも電圧印加と同時に電流が多く流れ、液晶が配向し露光したとしても露光による透過率の差が得られない。電荷注入制御層は、このような情報記録媒体の特性との関係で適宜設けられる。」

エ 「【0099】実施例2
(積層系光センサーの作製)充分洗浄した厚さ1.1mmのガラス基板上に、膜厚100nmのITO膜をスパッタリングにより成膜し電極を得た。その電極上に、・・・・
【0100】・・・・
【0101】・・・・電荷発生層を積層した。この電荷発生層上に、電荷輸送剤として・・・・
【0102】・・・・
【0103】・・・・ブタジエン誘導体((株)アナン製 T-405)50重量部とスチレン-ブタジエン共重合体樹脂(電気化学工業(株)製 クリアレン730L)10重量部とをクロロベンゼン68重量部、ジクロロメタン68重量部、1,1,2-トリクロロエタン136重量部とを混合溶解し塗布液とし、スピンナーにて350rpm、0.4秒でコーティングした後、80℃、2時間乾燥して電荷輸送層を積層し、電荷発生層と電荷輸送層とからなる膜厚20μmの光導電層を有する本発明における光センサーを得た。
【0104】(光センサーの電気特性)この光センサーを使用して実施例1と同様の方法によって、印加電圧を300Vの直流電圧を印加すると同時に、ガラス基板側から20ルックスの光(波長550nm)を1/30秒間露光した。電圧印加は0.15秒間継続し、その間の電流の時間変化をオシロコープにより測定した。また露光をしないで電圧印加のみを行い、同様にして電流測定した結果を同時に図16に示す。図から実施例1に記載の光センサーと同様の光増幅機能を有していることがわかる。」

オ 上記ア?エによれば、引用例には、次の発明が記載されていると認められる。
「電極上に電荷発生層、電荷輸送層を順次積層して形成された光センサーと、電極層上に電界または電荷により情報記録が可能な情報記録層を積層してなる情報記録媒体とが対向させて配置され、両電極間に電圧を印加した状態での情報露光により情報記録媒体への情報記録を可能とする情報記録システムに用いられる光センサーであって、
該光センサーにおける光導電層が情報記録媒体に付与される電界または電荷の増幅機能を有し、
光センサーの増幅機能が、電圧印加状態での情報露光に対応して発生する光電流以上の電流が流れるものであり、
光センサーの露光部においては、情報露光を遮断した後でも電圧印加を継続した状態で導電性を維持し、未露光部よりも大きな電流が継続して流れ、
ガラス基板上に、膜厚100nmのITO膜をスパッタリングにより成膜し電極を得、その電極上に、電荷発生層を積層し、この電荷発生層上に、電荷輸送剤としてブタジエン誘導体50重量部とスチレン-ブタジエン共重合体樹脂10重量部とをクロロベンゼン68重量部、ジクロロメタン68重量部、1,1,2-トリクロロエタン136重量部とを混合溶解し塗布液とし、スピンナーにて350rpm、0.4秒でコーティングした後、80℃、2時間乾燥して電荷輸送層を積層し、電荷発生層と電荷輸送層とからなる膜厚20μmの光導電層を有する上記光センサーを作製し、
光センサーバルクに10^(5 )V/cm?10^(6 )V/cmの電界が与えられた状態で10^(-4)?10^(-8)A/cm^(2 )の暗電流が生じる程度の導電性が要求され、好ましくは10^(-5)?10^(-7)A/cm^(2 )の範囲であり、電圧印加状態での情報露光時において、光センサーの未露光部での通過電流が10^(-4)A/cm^(2) ?10^(-8)A/cm^(2 )である光センサー。」(以下「引用発明」という。)

(3)対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「電極」、「電荷発生層」、「電荷輸送層」、「光センサー」、「電圧印加状態での情報露光」「増幅機能」、「情報露光に対応して発生する光電流」、「情報露光を遮断した後でも電圧印加を継続した状態で導電性を維持し、未露光部よりも大きな電流が継続して流れ」、「ITO」及び「『電荷発生層上』に『塗布液』を『スピンナーにて』『コーティングした後』、『乾燥して電荷輸送層を積層』」は、それぞれ、本願補正発明の「電極」、「電荷発生層」、「電荷輸送層」、「光センサー」、「電圧を印加した状態で情報露光」、「『増幅された強度で電流を流』」す」、「情報露光に起因する電流」、「情報露光を終了した後も電圧を印加し続けると導電性を持続し、引き続き電流を増幅状態で流し続ける作用」、「ITO」及び「電荷輸送層が電荷発生層上に湿式塗布によって形成」に相当する。

イ 引用発明における「光導電層」は、「電荷発生層と電荷輸送層とからな」り、また、引用発明は、「ITO膜」を製膜して得た「電極上」に上記「電荷発生層」及び「電荷輸送層」を積層するから、引用発明は、本願補正発明の「光導電層を形成した電極がITOからな」るとの事項を備える。

ウ 引用発明は、「光センサーバルクに10^(5 )V/cm?10^(6 )V/cmの電界が与えられた状態で10^(-4)?10^(-8)A/cm^(2 )の暗電流が生じる程度の導電性が要求され、好ましくは10^(-5)?10^(-7)A/cm^(2 )の範囲であり、電圧印加状態での情報露光時において、光センサーの未露光部での通過電流が10^(-4)A/cm^(2) ?10^(-8)A/cm^(2 )であ」るから、上記光センサーの未露光部での通過電流が10^(-4)A/cm^(2) ?10^(-8)A/cm^(2 )の中で好ましい範囲は、10^(-5)?10^(-7)A/cm^(2 )であると理解できる。したがって、引用発明は、本願補正発明の「電圧印加時において、光センサーへ10^(5)?10^(6)V/cmの電界強度の印加時に、未露光部での通過電流密度が10^(-4)?10^(-7)A/cm^(2)であ」るとの事項を備える。

エ 引用発明の光センサーは、「10^(5 )V/cm?10^(6 )V/cmの電界が与えられた状態で10^(-4)?10^(-8)A/cm^(2 )の暗電流が生じる程度の導電性が要求され」(上記ウ参照。)るから、その導電性は、10^(9)?10^(13)Ω・cm程度と理解できる。しかるところ、本願明細書には、「【0028】また、本発明の光センサーは、素子として半導電性であり、流れる電流密度から暗時の比抵抗が10^(9)?10^(13)Ω・cmであることが好ましい。」と記載されており、引用発明と本願補正発明の光センサーは同程度の導電性を備えているといえるから、引用発明の光センサーの導電性は、本願補正発明と同程度の「半導電性」であるといえる。

オ 以上アないしエより、本願補正発明と引用発明とは、
「電極上に電荷発生層、電荷輸送層を有し、半導電性であり、電圧を印加した状態で情報露光すると、情報露光に起因する電流以上に増幅された強度で電流を流し、また、情報露光を終了した後も電圧を印加し続けると導電性を持続し、引き続き電流を増幅状態で流し続ける作用を有する光センサーにおいて、光導電層を形成した電極がITOからなり、電荷輸送層が電荷発生層上に湿式塗布によって形成して得られたものであって、電圧印加時において、光センサーへ10^(5)?10^(6)V/cmの電界強度の印加時に、未露光部での通過電流密度が10^(-4)?10^(-7)A/cm^(2)である光センサー。」
の点で一致し、次の点で相違する。

[相違点1]
電極が、本願補正発明は「比抵抗が10^(6)Ω・cm以下の導電率を有」するものであるのに対し、引用発明は、比抵抗の値が明らかではない点。

[相違点2]
電荷輸送層が、電荷発生層上に湿式塗布によって形成した後に、本願補正発明は、相対湿度10?60%RH、温度10?50℃の条件でエージングを行って得られるのに対し、引用発明は、80℃、2時間乾燥して得られる点。

[相違点3]
本願補正発明が、「電極と電荷発生層の間には、光キャリアがトラップされて生じたキャリア電荷により電極界面のエネルギー障壁が平坦化されて、光電流に加えて注入された電荷による電流を流す作用を有する界面を形成した」ものであって、「熱刺激電流測定により、40?150℃の範囲に明瞭なピークが観測される」ものであるのに対し、引用発明は、そのようなものであるか否か不明である点。

(4)判断
(4-1)上記相違点1について検討する。
引用発明と本願補正発明の電極は、いずれもITOからなり、比抵抗が10^(6)Ω・cm以下の導電率を有するITOは一般的なものであるから、上記相違点1は実質的な相違点といえない。

(4-2)上記相違点2について検討する。
各種の製品を製造する過程において、エージングを行うことは、必要に応じて適宜なされる慣用手段であり、光導電層を塗布した後にエージングを行うことも、本願出願前に周知の事項である(例えば、特開平5-34956号公報(【0010】参照。)、特開平1-239563号公報(5頁右上欄5?12行参照。)から、引用発明において、電荷輸送層を「電荷発生層上に湿式塗布によって形成した後にエージングを行って得られるもの」とすることは、当業者が適宜なし得る程度のことである。そして、エージングを行う条件は、当業者が適宜設計的に定める事項というべきところ、本願明細書の記載をみても、本願補正発明において、エージングの条件を「相対湿度10?60%RH、温度10?50℃」とした点に、設計的事項の域を超えるほどの技術的意義があるものとは認められない。
したがって、上記相違点2に係る本願補正発明の構成となすことは、当業者が適宜なし得る程度のことである

(4-3)上記相違点3について検討する。
ア 引用発明における光センサーは、上記(2)オの本願補正発明との一致点に記載したとおり、(ITOからなる)電極上に電荷発生層を有し、半導電性であり、電圧を印加した状態で情報露光すると、情報露光に起因する電流以上に増幅された強度で電流を流し、また、情報露光を終了した後も電圧を印加し続けると導電性を持続し、引き続き電流を増幅状態で流し続ける作用を有するものである。

イ 他方、「情報露光に起因する電流以上に増幅された強度で電流を流」す作用、すなわち、「光電流に加えて注入された電荷による電流を流す作用」に関して、本願明細書には次の記載がある。
「【0044】
【作用】・・・・この特性の詳細な理由は不明であるが、情報光の照射に伴い発生する光キャリアの全てが電圧印加状態において光導電層の層幅方向に移動するわけでなく、光キャリアの一部が電極と電荷発生層の界面に存在するトラップサイトにトラップされ、電極界面のエネルギー障壁が平坦化される結果、バリアモジュレーション効果により光電流に加えて注入された電荷による電流は、電圧印加した状態では露光により発生する光電流に加えて、みかけの光電流を増幅させるものと考えられる。」

ウ また、「熱刺激電流測定」について、本願明細書には次の記載がある。
「【0030】
・・・・また、本発明の光センサーの電荷トラップサイトは定常状態において存在する特異なトラップサイトであり、この電荷トラップサイトには、光増幅を行う前にある程度の量の電荷がトラップされているために熱刺激電流測定による観測が可能である。また、上述の半導電性の電気特性も本来は電流を流しにくいはずであるが、トラップサイトが存在し、そこへキャリア電荷がある程度トラップされているために半導電性の電気特性を示すものと考えられる。
【0031】
この光増幅を行う前にとらえられた電荷が起因して、本発明の増幅作用を有する光センサーでは40?150℃の範囲内において、ベース電流以外に明確なピーク状の波形が観測され、一方、増幅作用を有さない試料では不明瞭である。これは、光センサーが有するトラップサイトに捕捉された電荷に起因するものと考えられ、熱刺激電流測定にピークが明確に観測できる程度の電荷を蓄積している光センサーでなければ増幅効果は期待できない。また、このピークの形状、ピークの値、温度範囲等は用いる材料によって異なる。」

エ 上記イ及びウの記載によれば、電極と電荷発生層の界面に存在するトラップサイトに捕捉された電荷は熱刺激電流による測定が可能であり、トラップサイトに電荷がある程度トラップされることにより半導電性の電気特性を示すとの考察のもと、増幅作用を有する光センサーでは40?150℃の範囲内において、ベース電流以外に明確なピーク状の波形が観測され、増幅作用を有さない試料では不明瞭であることから、熱刺激電流測定にピークが明確に観測できる程度の電荷を蓄積している光センサーでなければ増幅効果は期待できない、とする知見を踏まえて、本願補正発明は、「情報露光に起因する電流以上に増幅された強度で電流を流」すとの作用が生じる構成を、上記相違点3に係る構成として表現したものと解される。
そして、上記のように「増幅作用を有する光センサーでは40?150℃の範囲内において、ベース電流以外に明確なピーク状の波形が観測され、増幅作用を有さない試料では不明瞭である」のであれば、「増幅作用を有する光センサー」について熱刺激電流測定により観測すれば、「40?150℃の範囲内において、ベース電流以外に明確なピーク状の波形が観測され」るものと推認できる。

オ しかるところ、引用発明も、本願補正発明と同様に「情報露光に起因する電流以上に増幅された強度で電流を流」すとの作用が生じるものであり、その電気特性も、本願補正発明と同様に半導電性を示すものであるから、引用発明も、本願補正発明と同様に「40?150℃の範囲内において、ベース電流以外に明確なピーク状の波形が観測され」るものであると推認できる。
よって、上記相違点3は、実質的な相違点とはいえない。

したがって、本願補正発明は、引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)むすび
以上のとおり、本件補正は、平成6年改正前特許法第17条の2第4項において準用する同法第126条第3項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
(1)本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成18年9月14日付け手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし16に記載された事項によって特定されるものであるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」
という。)は、上記「2[理由](1)ア」に本件補正前の請求項1として記載したとおりのものである。

(2)引用例
引用例及びその記載事項は、前記「2[理由](2)」に記載したとおりである。

(3)対比・判断
本願発明は、上記「2[理由]」で検討した本願補正発明の「電極」について、「光導電層を形成した電極がITOからなり」との限定を省くものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、更に他の要件を付加したものに相当する本願補正発明が上記「2[理由](4)」で検討したとおり、引用発明及び上記周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明及び上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

そして、本願発明の効果は、引用発明及び上記周知技術から当業者が予測しうる程度のものである。

(4)むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例に記載の発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-02-20 
結審通知日 2009-02-27 
審決日 2009-03-10 
出願番号 特願平7-86913
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
P 1 8・ 575- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 加藤 万里子小原 博生  
特許庁審判長 稲積 義登
特許庁審判官 三橋 健二
吉野 公夫
発明の名称 光センサー、情報記録装置および情報記録方法  
代理人 蛭川 昌信  
代理人 青木 健二  
代理人 菅井 英雄  
代理人 米澤 明  
代理人 阿部 龍吉  
代理人 韮澤 弘  
代理人 内田 亘彦  

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