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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B63B |
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管理番号 | 1196703 |
審判番号 | 不服2005-18771 |
総通号数 | 114 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2009-06-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2005-09-29 |
確定日 | 2009-05-01 |
事件の表示 | 特願2000-279208号「船舶の動揺低減装置」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 3月27日出願公開、特開2002- 87381号〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1手続の経緯 本願は、平成12年9月14日の出願であって、平成17年8月4日付で拒絶査定がなされ、これに対し、平成17年9月29日に審判請求がなされた後、当審において平成20年7月17日付けで拒絶理由通知がなされ、それに対する意見書が平成20年8月4日付けで提出されたものである。 2本願発明 本願発明は、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりの次のものと認める。 「船体のピッチング、ローリングおよびヨーイングの複合した動揺を抑制するための複数のフィンを備える船舶の動揺低減装置において、外形の縦断面形状が流線形をなす第一胴体と、水中で船舶の進行方向と横向きの水平方向に揚力を発生するための第一フィン、ならびに、上下方向に揚力を発生するための第二フィンと第三フィンとを各フィンの支持機構を介して一体化し、一体化した装置を船首船底部に取り付け、各フィンの迎角変更機能を持たせることにより、ピッチング、ローリング及びヨーイングの複合した動揺を低減するための揚力の発生を可能にし、かつ、装置全体を船体がその中に収まることが可能な最小の直方体の外側に突出しない大きさにすることを特徴とする船舶の動揺低減装置。」(以下「本願発明」という。) 3当審での平成20年7月17日付け拒絶の理由に引用した文献等の開示事項 [刊行物1]実願平2-401936号(実開平4-91598号)のマイクロフィルム (以下「引用例1」という。) 引用例1には、船首バルブにフィンを設けた船首構造に関して、 【要約】【効果】にあるように「90°回動させることによりフィン3を立てることができるので、鉛直方向の揚力を発生せず・・・邪魔にならなくなる。又立てたフィンを傾斜させることにより舵の補助にすることができる」船首構造が記載され、【0009】【0010】には、 「【0009】 【実施例】 図1は本考案を適用した実施例の船首構造の説明図であり、同図(a)は側面を示し同図(b)は正面を示す。 【0010】 断面が船首尾方向の軸Yを中心とする円形である船首バルブ1は、船体2に対して軸Yを中心として回動可能に取り付けられている。そして「船首バルブ1には、船の幅方向(図1(b)のX方向)にフィン3が延設されている。」図1では、船首バルブ1が第1位置にあり、従ってフィン3は翼面が水平方向に向いていて、船の縦揺れを抑制することができる状態にある。なおフィン3を、流入する水流の方向に合わせて傾斜させ、ピッチを船幅X方向に変化させた形状にすることも可能である。翼面が水平に近い方向とはこのような方向を含む。符号4は船首バルブ1を回動させる回動手段としてのバルブ駆動モータである。又符号5は、フィン3の翼面を船首尾方向から傾斜させる傾斜手段としてのフィン駆動モータである。」と記載されている。 上記の「船首バルブ1には、船の幅方向(図1(b)のX方向)にフィン3が延設されている。」の記載と【図1】【図2】からみて、 (イ)「船首バルブ1と、フィン3とをフィンの支持機構を介して一体化し、一体化した装置を船首に取り付けられている」ことが記載されているものと認められる。 (ロ)上記の「符号5は、フィン3の翼面を船首尾方向から傾斜させる傾斜手段としてのフィン駆動モータである。」の記載により、フィン3が「上下方向に揚力を発生するための」ものであり、また、「フィンの迎角変更機能」を有することが明らかである。 (ハ)上記の「フィン3は翼面が水平方向に向いていて、船の縦揺れを抑制する」と「揚力」に関する【要約】【効果】の記載からフィン3は「ピッチングを低減するための揚力の発生を可能にする」ことが明らかである。 上記(イ)?(ハ)の事項と【図1】【図2】を総合すると、引用例1には、 「船の縦揺れを抑制するためのフィンを備える船の縦揺れを抑制する装置において、船首バルブ1と、上下方向に揚力を発生するためのフィン3とをフィンの支持機構を介して一体化し、一体化した装置を船首に取り付け、フィンの迎角変更機能を持たせることにより、ピッチングを低減するための揚力の発生を可能にすることを特徴とする船の縦揺れを抑制する装置。」の発明(以下「引用発明」という。)が示されている。 なお、【0013】には、 「図3は、船首バルブ1を第2位置に回動させた状態でフィン駆動モータ5を作動させて、フィン3を微小角度傾斜させた状態を示す。船の走行中にこのような操作をすれば、フィン3が舵としての効果を発揮し、図示しない船の舵の補助としてフィン3を使用することができる。追波時に舵の利きの悪い場合等には特に有効になる。」と記載され、フィンを制御用のものとして使用している。 [刊行物2]実願平1-77921号(実開平3-16595号)のマイクロフィルム(以下「引用例2」という。) 引用例2には、複合支持型超高速船に関する考案が記載され、 [実用新案登録請求の範囲]には、 「上部船体と下部船体とからなる船体を有し、該下部船体の浮力と該下部船体に付設された水中翼の揚力の両方で航走中の船体を支持する複合支持型の船舶において、前記下部船体の頭部にヨーコントロール用の可動翼を具備してなる複合支持型超高速船。」と記載され、「水中で船舶の進行方向と横向きの水平方向に揚力を発生するためのフィン」が示されている。 また、第3図の制御装置13は、水中翼4をも制御するものであるから、当然「ローリングおよびヨーイングの複合した動揺を抑制する」ものである。 [刊行物3]特開平6?107277号公報(以下「引用例3」という。) 引用例3には、水中翼船の制御に関する発明が記載され、 【図1】の「ラダーフラップ2a,2b」は、補助翼であり、「水中翼2,3」は「水中で船舶の進行方向と横向きの水平方向に揚力を発生するためのフィン」であり、「翼フラップ3a,3b」とによって、【図2】の様に「ローリングおよびヨーイングの複合した動揺を抑制する」ものである。 [刊行物4]特開昭61?71295号公報(以下「引用例4」という。) 引用例4には、フィン付高速艇に関する発明が記載されており、第1図及び第2図を見ると、「フィン5’」は、「船首船底部に取り付けられ、装置全体を船体がその中に収まることが可能な最小の直方体の外側に突出しない大きさにする」構成が示されている。 4そこで、本願発明と引用発明とを対比すると、 引用発明の「船の縦揺れ」は「船体のピッチング」のことであり、該「船の縦揺れを抑制する」装置は「船舶の動揺低減装置」ということができる。 「船首バルブ1」は、本願発明の「第一胴体」に相当する。 「フィン3」は「第二フィンと第三フィン」に相当する。 両者は、 「船体のピッチングを抑制するための複数のフィンを備える船舶の動揺低減装置において、第一胴体と、上下方向に揚力を発生するための第二フィンと第三フィンとを各フィンの支持機構を介して一体化し、一体化した装置を船首に取り付け、各フィンの迎角変更機能を持たせることにより、ピッチングを低減するための揚力の発生を可能にすることを特徴とする船舶の動揺低減装置」で一致し、 相違点a:本願発明では「ローリングおよびヨーイングの動揺を抑制する」ため「第一のフィンを備え、水中で船舶の進行方向と横向きの水平方向に揚力を発生するためのフィン」を設けているのに対し、引用発明には、ローリングおよびヨーイングの動揺を抑制し、水中で船舶の進行方向と横向きの水平方向に揚力を発生するためのフィンに関する構成がない点。 相違点b:本願発明の「第一胴体」は、「外形の縦断面形状が流線形をなす」のに対し、引用発明の「船首バルブ1」の縦断面形状が流線形になっていない点、 相違点c:本願発明では、「装置を船首船底部に取り付け」「装置全体を船体がその中に収まることが可能な最小の直方体の外側に突出しない大きさにしているのに対し、引用発明には、そのような構成になっていない点で相違する。 5次いで、上記相違点について検討すると、 相違点aに関しては、 「ローリングおよびヨーイングの動揺を抑制するため、水中で船舶の進行方向と横向きの水平方向に揚力を発生するためのフィン」を設けることは引用例2及び3に示されたように周知技術であるから、引用発明における「ピッチングを低減するための揚力の発生を可能にする船舶の動揺低減装置」に、周知技術である「ローリングおよびヨーイングの動揺を抑制するための水中で船舶の進行方向と横向きの水平方向に揚力を発生するフィン」を施して、本願発明のように「ピッチング、ローリングおよびヨーイングの複合した動揺を抑制する複数のフィン」として構成することは当業者なら容易に想到し得る程度の事項と認められる。 相違点bに関しては、流線形は、船舶の水中での部材の通常の形状であるから、該相違点は単に船舶分野での常套手段を用いたに過ぎない。 相違点cに関しては、上記引用例4には「フィンを船首船底部に取り付け、装置全体を船体がその中に収まることが可能な最小の直方体の外側に突出しない大きさにする」構成が示されており、フィンの抵抗を少なくすることは当該分野では技術常識であることを考慮すると、引用発明において、上記の構成を施して、本願発明のごとく、「装置全体を船体がその中に収まることが可能な最小の直方体の外側に突出しない大きさにする」程度のことは、当業者であれば容易に想到し得る程度のことと認められる。 なお、請求人は、「刊行物2,3,4のフィンは、制御用のものであり、本願発明の動揺低減装置とは本質的に求める機能が異なる」旨、主張している。 しかしながら、引用例1の【0013】に示されているように、多くのフィンは、制御用のものであると共に動揺低減の機能を有する。 本願発明も、「能動的な動揺低減」と称し(当初明細書【0033】)迎角を時間変化させる例(本願図4,図5)を有しているが、これは制御そのものであって、引用文献2,3,4のフィンの機能と異なるものとはいえないから、上記請求人の主張は当を得ないものである。 そして、本願発明の作用効果について検討しても、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に予測できる程度のものであって、格別なものとはいえない。 このことから、本願発明は、引用発明と周知技術に常套手段を勘案することにより、当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。 6以上のとおりであるから、本願発明は、引用発明と周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるので、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2009-01-15 |
結審通知日 | 2009-02-10 |
審決日 | 2009-02-23 |
出願番号 | 特願2000-279208(P2000-279208) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(B63B)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 出口 昌哉、内藤 真徳 |
特許庁審判長 |
川向 和実 |
特許庁審判官 |
柴沼 雅樹 金丸 治之 |
発明の名称 | 船舶の動揺低減装置 |