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審決分類 |
審判 一部無効 2項進歩性 B60B |
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管理番号 | 1196745 |
審判番号 | 無効2008-800127 |
総通号数 | 114 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2009-06-26 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2008-07-07 |
確定日 | 2009-05-01 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第3503007号発明「ホイールバランスウエイトおよびその製造方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 |
理由 |
1.本件発明 本件特許第3503007号の請求項1ないし5に係る発明(平成7年8月8日出願,平成15年12月19日設定登録。)は,特許明細書及び図面の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】一定の断面形状をもつ鉄線材を引き抜きにより製造し所定の曲率半径とする鉄線材製造工程と, 該鉄線材を所定の長さに切断して所定の重量に調整した重量調整済のウエイトを形成する切断工程と, 一端側に形成されたホイールのリム部に係止される係止部と他端側に形成され該ウエイトの一部に連結される連結部とをもつ取り付け金具の該連結部を,該ウエイトに一体的に連結する連結工程と、よりなることを特徴とするホイールバランスウエイトの製造方法。(以下「本件特許発明1」という。) 【請求項2】ウエイトは,その両端がホイールのリム部と当接し,その中央部が取り付け金具によりホイールのリム部に付勢されているホイールバランスウエイトであって, 一定の断面形状をもつ鉄線材を引き抜きにより製造しさらに所定の曲率半径とした鉄線材を所定の長さに切断して所定の重量に調整した重量調整済のウエイトと, 一端側に形成されたホイールのリム部に係止される係止部と他端側に形成され該ウエイトの中央部に連結される連結部とをもつ取り付け金具と,よりなることを特徴とするホイールバランスウエイト。(以下「本件特許発明2」という。) 【請求項3】ウエイトは,ホイールのリム部の曲率半径より大きい曲率半径をもつ請求項2記載のホイールバランスウエイト。(以下「本件特許発明3」という。) 【請求項4】ウエイトは,その両端にホイールのリム部の円弧状内面に当接する突起を持つ請求項2記載のホイールバランスウエイト。(以下「本件特許発明4」という。) 【請求項5】ウエイトは,その表面に塗膜層をもつ請求項2記載のホイールバランスウエイト。(以下「本件特許発明5」という。) 2.請求人の主張 これに対して,請求人は,本件特許の請求項1および2に係る発明は,本件出願前に頒布された刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定に違反してされたものであり,また,本件特許の請求項3に係る発明は,甲第9号証に記載されており(なお、無効審判請求書(4)請求理由の要約において,甲第10号証に記載されていると主張しているが,無効審判請求書第18頁の対比の項では甲第9号証と記載している。当審において,主張の内容からみて,正しくは甲第9号証であるとした。),本件特許の請求項5に係る発明は甲第5号証および甲第8号証に記載されているので特許法29条1項第3号の規定に違反してされたものか、少なくとも特許法29条2項の規定に違反してされたものと主張し,証拠方法として,甲第1号証(特開平1-148602号公報),甲第2号証(特開昭61-33301号公報),甲第3号証(特開昭58-221140号公報),甲第4号証(実願昭50-131932号(実開昭52-45901号)のマイクロフイルム),甲第5号証(実願昭59-158744号(実開昭61-72402号)のマイクロフイルム)(なお、無効審判請求書において,甲第5号証の公開番号を実開昭61-72407号と誤って記載しているが、当審において正しく実開昭61-72402号とした。),甲第6号証(実願昭59-158746号(実開昭61-72404号)のマイクロフイルム),甲第7号証(実願平4-71832号(実開平6-28386号)のマイクロフイルム),甲第8号証(特開平3-272347号公報),甲第9号証(実願昭55-160477号(実開昭56-70302号)のマイクロフイルム) ,甲第10号証(実願昭51-49421号(実開昭52-141702号)のマイクロフイルム),甲第11号証(実願昭63-78880号(実開平2-1179号)のマイクロフイルム),甲第12号証(特開平6-62551号公報),甲第13号証(特開平5-146102号公報)及び甲第14号証(塑性加工技術シリーズ6 「引抜き加工」基礎から先端技術まで,社団法人日本塑性加工学会編,株式会社コロナ社発行、発行日1990年10月25日)を提出している。 3.甲第1号証?甲第14号証 (1)甲第1号証(特開平1-148602号公報)には,タイヤバランサーで測定された情報に基づき位置決めを行ったワークストッパーにウエイト母材を押し付け,かつ切断機でウエイト母材をカットし,適量ウエイトを得るウエイト母材切断方法が記載されている。 (2)甲第2号証(特開昭61-33301号公報)には,ウエイト切断装置で,アンバランス量に関する情報を受けてウエイト母材を引き出して切断し,そのアンバランス量に見合ったバランスウエイトを形成することが記載されている。また,ウエイト切断装置にて切断形成されたバランスウエイトをクリップに挿入固定することが記載されている。 (3)甲第3号証(特開昭58-221140号公報)には,ホイールのアンバランス量を検出する第1センサーと,バランスウエイト供給装置から連続的に供給されるバランスウエイト量を検出する第2センサーと,両センサーからの信号を入力し両検出量が等しくなったときに出力信号を発生する比較回路と,この出力信号によりバランスウエイトの供給を停止しカッターで切断する供給停止装置とからなるホイールバランサーのバランスウエイト自動供給装置が記載されている。 (4)甲第4号証(実願昭50-131932号(実開昭52-45901号)のマイクロフイルム)には,ウエイトに,リムフランジ部に係止するクリップを固着したホイールバランスウエイト及びウエイトが円弧状であることが記載されている。また,明細書に添付された図面には,ウエイトの形状として円弧状であること(FIG.1)及びリムフランジ部に係止するクリップをウエイトに固着したこと(FIG.4)が示されている。 (5)甲第5号証(実願昭59-158744号(実開昭61-72402号)のマイクロフイルム)には,ウエイトに,リムフランジ部に係止するクリップを固着したホイールバランスウエイトが記載されている。また,ウエイトの形状として,球場,棒状,弧状等用途に応じまた意匠効果も考慮して種々に設計できることも記載されている。さらに,クリップおよびウエイトの全面に樹脂被膜(塗膜)が設けられているホイールバランスウエイトが記載されている。 (6)甲第6号証(実願昭59-158746号(実開昭61-72404号)のマイクロフイルム)には,ウエイトに,リムフランジ部に係止するクリップを固着したホイールバランスウエイトが記載されている。また、ウエイトの形状は,球場,棒状,弧状等用途に応じまた意匠効果も考慮して種々に設計できることが記載されている。 (7)甲第7号証(実願平4-71832号(実開平6-28386号)のマイクロフイルム)には,ウエイトに,ホイールのフランジに係止するクリップ(フック金物)が固着されたホイールバランスウエイトが記載されている。 (8)甲第8号証(特開平3-272347号公報)には,ウエイト本体と,それをタイヤホイールに固定するクリップとを一体化してバランスウエイトを形成することが記載されている。また,図3には,バランスウエイトの全表面に塗布膜層を施すことが記載されている。 (9)甲第9号証(実願昭55-160477号(実開昭56-70302号)のマイクロフイルム)には,ウエイト本体の湾曲度をリムフランジの湾曲度よりも大きくすることが記載されている。 (10)甲第10号証(実願昭51-49421号(実開昭52-141702号)のマイクロフイルム)には,自動車用バランスウエイトを,金属で形成することが記載されている。 (11)甲第11号証(実願昭63-78880号(実開平2-1179号)のマイクロフイルム)には,ゴルフクラブのスィングバランス調整用ウエイトが,従来金属製の材料で構成されていることが記載されている。 (12)甲第12号証(特開平6-62551号公報)には、電動機の回転子のバランスウエイトとして,金属板を回転子の両側に固着してバランスウエイトとすることが記載されている。 (13)甲第13号証(特開平5-146102号公報)には,電動機の回転子のバランスウエイトを鉄板で形成することが記載されている。 (14)甲第14号証(塑性加工技術シリーズ6 「引抜き加工」基礎から先端技術まで,社団法人日本塑性加工学会編,株式会社コロナ社発行,発行日1990年10月25日)には,塑性加工技術としての「引抜き加工」の内容が記載され,引抜き加工とは,棒,管などの断面を縮小させ,必要ならば同時に断面形状をも変える技術であることが記載されている。また,第41頁?第43頁には,引抜き加工された材料は,矯正および所定長に切断されることが記載されている。 4.対比・判断 (1)本件特許発明1について まず,本件特許発明1と甲第1号証?甲第10号証に記載されたものと比較すると,甲第1号証?甲第10号証は,いずれも自動車のホイールバランスウエイトに関して記載されているものであるが,そのバランスウエイトの材質について,本件特許発明1のような鉄製ウエイトの製造方法についての記載や示唆はない。具体的には,本件特許発明1のような,引き抜いた鉄線材からバランスウエイトを製造することに関する示唆や動着付けを与える記載はない。 本件特許発明1と甲第11号証に記載されたものと比較する。甲第11号証にはゴルフクラブのバランスウエイトに関して記載されており,本件特許発明1のような自動車のホィールに用いられるバランスウエイトの製造方法とは技術分野が異なるばかりでなく,本件特許発明1の「一定の断面形状をもつ鉄線材を引き抜きにより製造し所定の曲率半径とする鉄線材製造」について記載も示唆もない。 本件特許発明1と甲第12号証並びに甲第13号証に記載されたものと比較すると,甲第12号証およびに甲第13号証には共に電動機のバランスウエイトに関して記載されており,本件特許発明1のような自動車のホィールに用いられるバランスウエイトの製造方法とは技術分野が異なるばかりでなく,本件特許発明1の「一定の断面形状をもつ鉄線材を引き抜きにより製造し所定の曲率半径とする鉄線材製造」について,記載も示唆もない。 本件特許発明1と甲第14号証記載されたものと比較すると,甲第14号証は塑性加工に関する一般論を解説した文献であり,鉄系素材の引抜き加工に関して記載されている。しかし,本件特許発明1のような,自動車のホィールに用いられるバランスウエイトを引き抜いた鉄線材から製造し所定の曲率半径とする製造工程については,記載も示唆もない。 したがって,本件特許発明1は甲第1号証?甲第14号証には記載も示唆もされておらず,さらに,本件特許発明1の「引き抜いた鉄線材からバランスウエイトを製造」したことにより,本件明細書に記載されたような「従来,高価な鉛(あるいは鉛を主成分とする合金)を用いてウエイトを製造することによる材料コストをほぼ1/2?1/3に低減でき,かつ量産時に大幅なコストダウンを実現できる。」「従来の鉛(あるいは鉛を主成分とする合金)を用いて製造されたウエイトからでは期待できなかった弾性(弾性反力)を備えている。」「金属線材製のウエイトは,強靱であり,ホイールのリム部への取り付け時に,取り付け金具を木ハンマーなどの打撃工具による打ち込み操作に伴う衝撃が付与された場合であっても,従来の鉛製のウエイトのように,その一部が欠損(いわゆる欠肉)し,本来のバランス機能を損ない不良品となることを回避きる。」(本件明細書の【0035】?【0038】)という作用効果も予測出来るものではない。 (2)本件特許発明2について 次ぎに,本件特許発明2と甲第1号証?甲第10号証に記載されたものと比較すると,甲第1号証?甲第10号証はいずれも自動車のホィールに用いられるホイールバランスに関するものであるが,そのホイールバランスの材質については,本件特許発明2のような鉄製ウエイトとすることに関する記載や示唆はない。具体的には,本件特許発明2のような,引き抜いた鉄線材から製造するバランスウエイトに関する示唆や動着付けを与える記載もない。 本件特許発明2と甲第11号証に記載されたものと比較する。 甲第11号証に記載にはゴルフクラブのバランスウエイトに関して記載されており,本件特許発明2のような自動車のホィールに用いられるバランスウエイトとは技術分野が異なるばかりでなく,本件特許発明2の「一定の断面形状をもつ鉄線材を引き抜きにより製造し所定の曲率半径とする鉄線材」について,記載も示唆もない。 本件特許発明2と甲第12号証並びに甲第13号証記載されたものと比較すると,甲第12号証並びに甲第13号証には共に電動機のバランスウエイトに関して記載されており,本件特許発明2のような自動車のホィールに用いられるバランスウエイトとは技術分野が異なるばかりでなく,本件特許発明2の「一定の断面形状をもつ鉄線材を引き抜きにより製造し所定の曲率半径とする鉄線材」について,記載も示唆もない。 本件特許発明2と甲第14号証記載されたものと比較すると,甲第14号証は塑性加工に関する一般論を解説した文献であり,鉄系素材の引抜き加工に関して記載されている。しかし,本件特許発明2のような,自動車のホィールに用いられるバランスウエイトを引き抜いた鉄線材から製造し所定の曲率半径としたことについては,記載も示唆もない。 したがって,本件特許発明2は甲第1号証?甲第14号証には記載も示唆もされておらず,さらに,本件特許発明2の「鉄線材を引き抜きにより製造しさらに所定の曲率半径とした鉄線材を所定の長さに切断したウエイト」は,本件明細書に記載されたような「従来、高価な鉛(あるいは鉛を主成分とする合金)を用いてウエイトを製造することによる材料コストをほぼ1/2?1/3に低減でき,かつ量産時に大幅なコストダウンを実現できる。」「従来の鉛(あるいは鉛を主成分とする合金)を用いて製造されたウエイトからでは期待できなかった弾性(弾性反力)を備えている。」「金属線材製のウエイトは,強靱であり,ホイールのリム部への取り付け時に,取り付け金具を木ハンマーなどの打撃工具による打ち込み操作に伴う衝撃が付与された場合であっても,従来の鉛製のウエイトのように,その一部が欠損(いわゆる欠肉)し,本来のバランス機能を損ない不良品となることを回避きる。」(本件明細書の【0035】?【0038】)という作用効果も予測出来るものではない。 以上のことから,本件特許発明1ないし2は,甲第1号証?甲第14号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできないので,特許法29条2項の規定に違反したものとすることができない。 (3)本件特許発明3について 本件特許発明3と甲第9号証に記載されたものと比較すると,甲第9号証は自動車のホィールに用いられるホイールバランスに関するものであり,「ウエイト本体の湾曲度をリムフランジの湾曲度よりも大きくする」ことが記載されていても,そのホイールバランスの材質については,本件特許発明3のような,引き抜いた鉄線材から製造するバランスウエイトに関する示唆や動着付けを与える記載もない。 したがって,本件特許発明3は甲第9号証には記載も示唆もされているとはいえない。そして,本件特許発明3の作用効果も甲第9号証に記載の事項から予測出来るものではない。 以上のことから,本件特許発明3は,甲第9号証に記載された発明とはいえないし,同号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできないので,特許法29条1項第3号の規定に違反してされたものといえないし,特許法29条2項の規定に違反したものとすることもできない。 (4)本件特許発明5について 本件特許発明5と甲第5号証に記載されたものと比較すると,甲第5号証は自動車のホィールに用いられるホイールバランスに関するものであり,「ウエイトに,リムフランジ部に係止するクリップを固着したホイールバランスウエイト」や「ウエイトの形状として,弧状等用途に応じまた意匠効果も考慮して種々に設計できること」や「クリップおよびウエイトの全面に樹脂被膜(塗膜)が設けられている」ことが記載されているが,そのホイールバランスの材質については,本件特許発明5のような,引き抜いた鉄線材から製造するバランスウエイトに関する示唆や動着付けを与える記載もない。 また,本件特許発明5と甲第8号証に記載されたものと比較すると,甲第8号証は自動車のホィールに用いられるホイールバランスに関するものであり,「ウエイト本体と,それをタイヤホイールに固定するクリップとを一体化してバランスウエイトを形成すること」や「バランスウエイトの全表面に塗布膜層を施す」ことが記載されているが,そのホイールバランスの材質については,本件特許発明5のような,引き抜いた鉄線材から製造するバランスウエイトに関する示唆や動着付けを与える記載もない。 したがって,本件特許発明5は甲第5号証及び甲第8号証には記載も示唆もされているとはいえない。そして,本件特許発明5の作用効果も甲第5号証及び甲第8号証の記載の事項から予測出来るものではない。 以上のことから,本件特許発明5は,甲第5号証及び甲第8号証に記載された発明とはいえないし,甲第5号証及び甲第8号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできないので,特許法29条1項第3号の規定に違反してされたものといえないし,特許法29条2項の規定に違反したものとすることもできない。 5.むすび 以上のとおりであるから,請求人の主張及び証拠方法によっては,本件特許発明1?3,5を無効とすることができない。 審判に関する費用については,特許法169条2項の規定で準用する民事訴訟法61条の規定により,請求人が負担すべきものとする。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2009-02-18 |
結審通知日 | 2009-02-20 |
審決日 | 2009-03-19 |
出願番号 | 特願平7-202205 |
審決分類 |
P
1
123・
121-
Y
(B60B)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 小関 峰夫 |
特許庁審判長 |
川向 和実 |
特許庁審判官 |
中川 真一 柴沼 雅樹 |
登録日 | 2003-12-19 |
登録番号 | 特許第3503007号(P3503007) |
発明の名称 | ホイールバランスウエイトおよびその製造方法 |
代理人 | 清水 定信 |
代理人 | 森岡 正往 |