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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B41J
管理番号 1196760
審判番号 不服2005-9155  
総通号数 114 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-06-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-05-16 
確定日 2009-05-07 
事件の表示 特願2002-374964「液体噴射装置」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 7月22日出願公開、特開2004-202867〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願は、平成14年12月25日の出願であって、平成17年1月11日付けの拒絶理由通知に応答して同年3月15日付けで手続補正がされたが、同年4月13日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年5月16日に本件審判請求がされたものである。

当審においてこれを審理した結果、平成20年12月9日付けで拒絶の理由を通知したところ、請求人は平成21年2月10日付けで意見書及び手続補正書を提出した。

第2 本件出願発明の認定
本件出願の請求項1乃至16に係る発明は、平成21年2月10日付けの手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1乃至16に記載されたとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下「本件出願発明」という。)は、以下のとおりである。

「【請求項1】
ノズル開口が形成されたノズルプレートを有し、前記ノズル開口に連通する圧力室内の液体に圧力変動を生じさせて前記ノズル開口から液滴を吐出させる液体噴射ヘッドと、
前記液体噴射ヘッドをヘッド走査方向に走査させる走査機構と、
前記液体噴射ヘッドから噴射された液滴が付与される被処理物を前記ヘッド走査方向に対して直交する送り方向に搬送する送り機構と、
処理中の前記被処理物の裏面側であって、走査される前記液体噴射ヘッドに対向して前記ヘッド走査方向に沿って延在する領域に前記被処理物とは接触しないように配置され、前記被処理物から外れた領域に向けて吐出された液滴を吸収する吸収部材と、
前記吸収部材と前記ノズルプレートとの間に電位差を発生させることにより液滴の吐出方向に電界を発生させる電位差発生手段と、を備え、
印刷実行時において、前記被処理物の縁に沿って配置され、且つ当該縁の内外に対応して配置されている前記吸収部材と前記ノズルプレートとの間に電界を発生させる、液体噴射装置。」

上記本件出願発明の発明を特定するための事項については、以下に記載するように、特許請求の範囲の記載のみでは明確に解釈できるとまでは言えない。よって、本件出願の願書に添付した明細書(以下「本件出願明細書」という。)の記載を参酌する。

(A)本件出願発明の「印刷実行時」について
「印刷実行時」なる用語自体は、本件出願明細書の「発明の詳細な説明」の「課題を解決するための手段」の欄に「印刷実行時において、前記被処理物の縁に沿って配置され、且つ当該縁の内外に対応して配置されている前記吸収部材と前記ノズルプレートとの間に電界を発生させる。」(段落0017)、「印刷実行時において、前記被処理物の縁に沿って配置され、且つ当該縁の内外に対応して配置されている前記導電性の部材と前記ノズルプレートとの間に電界を発生させる。」(段落0020)として記載されているが、これらの記載は特許請求の範囲の記載とほぼ同様であり、明確に解釈できるものではない。
また、印刷に関する時間的な記載としては、「インクジェット式記録装置は、印刷時の騒音が比較的小さく」(段落0003)、「記録媒体の左右の側縁(送り方向に延在する縁)の部分に余白を残すことなく印刷を施すために、印刷時における記録ヘッドの走査範囲を、記録媒体の側縁よりも外側に外れる位置まで設定可能とされている。」(0007)、「記録媒体の前後縁(ヘッド走査方向に延在する縁)の部分に余白を残すことなく印刷を施す際には、記録媒体の印刷開始時においては記録媒体の前縁よりも前側に外れる領域までを印刷対象領域に指定すると共に、記録媒体の印刷終了時においては記録媒体の後縁よりも後側に外れる領域までを印刷対象領域に指定する。」(段落0008)、「初回の縁無し印刷の実施前に、記録紙6が無い状態で、インク滴がミスト化しないようキャリッジ1をゆっくり走査しながら、記録ヘッド12よりインク滴を吸収部材16に吐出し、吸収部材16にインクを含有させ、導電性を付与することもできる。」(段落0045)等の記載がある。
これらの記載を参酌しても「印刷実行時」がどのような内容かは、依然として明確ではない。
そこで、「記録媒体の縁部に余白を残すことなく印刷を施す場合には、記録媒体の縁部から前後又は左右に外れた領域にまでインク滴が吐出されることになり、記録媒体の裏面側に回り込んだインクミストが記録媒体の裏面縁部に付着して記録媒体を汚損してしまうという問題があった。」(段落0011)という課題を参酌するに、「印刷実行時」とは、記録媒体の印刷開始時から記録媒体の印刷終了時までの期間の全部又は一部であって、すくなくとも縁の部分の記録を行う時点を含むものと解釈した。

(B)本件出願発明の「被処理物の縁に沿って配置」、「当該縁の内外に対応して配置」について
「被処理物の縁に沿って配置」、「当該縁の内外に対応して配置」なる用語自体は、本件出願明細書の「発明の詳細な説明」の「課題を解決するための手段」の欄に「印刷実行時において、前記被処理物の縁に沿って配置され、且つ当該縁の内外に対応して配置されている前記吸収部材と前記ノズルプレートとの間に電界を発生させる。」(段落0017)、「印刷実行時において、前記被処理物の縁に沿って配置され、且つ当該縁の内外に対応して配置されている前記導電性の部材と前記ノズルプレートとの間に電界を発生させる。」(段落0020)として記載されているが、これらの記載は特許請求の範囲の記載とほぼ同様であり、明確に解釈できるものではない。
また、インク受け部の配置に関する記載としては、「複数のインク受け縦開口5c、5d、5e、5fのうち、一対のインク受け開口5cはA3サイズの記録紙6の左右端がそれぞれ真上を通過するように配置されており、一対のインク受け開口5dはB4サイズの記録紙6の左右端がそれぞれ真上を通過するように配置されており、一対のインク受け開口5eはA4サイズの記録紙6の左右端がそれぞれ真上を通過するように配置されており、一対のインク受け開口5fはB5サイズの記録紙6の左右端がそれぞれ真上を通過するように配置されている。」(段落0040)、「複数のインク受け横開口5a、5bは、給紙側に配置されている給紙側インク受け開口5aと、排紙側に配置されている排紙側インク受け開口5bとからなる。」(段落0041)、「これらのインク受け開口5a、5b、5c、5d、5e、5fには、いずれも、記録ヘッド12から吐出されたインクを吸収する吸収部材16が配置されている。」(段落0042)等の記載がある。
これらの記載を参酌しても「被処理物の縁に沿って配置」、「当該縁の内外に対応して配置」がどの箇所を示しているのかは、依然として明確ではない。
そこで、「記録媒体の縁部に余白を残すことなく印刷を施す場合には、記録媒体の縁部から前後又は左右に外れた領域にまでインク滴が吐出されることになり、記録媒体の裏面側に回り込んだインクミストが記録媒体の裏面縁部に付着して記録媒体を汚損してしまうという問題があった。」(段落0011)という課題や、図3等の記載を総合的に参酌するに、「被処理物の縁に沿って配置」とは、左右端や前後端を含んだ縁の記録の際に、当該記録されている縁に沿った位置に配置することと解釈し、「縁の内外に対応して配置」とは、同じく左右端や前後端を含んだ縁の記録の際に、記録されている縁について被記録物側、それとは逆の被記録物のない空間側、共に配置することと解釈した。

第3 当審の判断
1.刊行物
当審における拒絶の理由に引用され、本件出願前に頒布された刊行物である特開2002-86757号公報(以下「引用文献1」という。)には、以下の記載が図示とともにある。
(あ)【0002】【従来の技術】インクジェット式記録装置は、被記録材の1つとしての印刷用紙の記録面と対向する面に、印刷用紙に向かってインクを吐出する複数のノズル列を有する記録ヘッドと、印刷用紙を下から支えることにより前記記録ヘッドに対する印刷用紙の位置を規定するプラテンとを有している。
(い)【0019】図1において、符号1は記録ヘッド部を示している。記録ヘッド部1は、図示を省略するキャリッジの底部に設けられていて、同じく図示を省略する駆動モータによって主走査方向(図1の紙面の表裏方向)に往復動作するように構成されている。記録ヘッド部1はプラテン面(プラテン50の上面の総称:以下これを「プラテン面」と言う)と対向する位置に配置され、プラテン面と対向する面には、インクを吐出するノズルアレイ2が設けられている。
(う)【0020】「被記録材」としての用紙Pは、搬送方向上流側(図1における右側)から図示を省略する給紙装置によって給送されてきて、搬送駆動ローラ3及び搬送従動ローラ4に到達する。搬送駆動ローラ3は図示を省略する駆動モータによって回動し、駆動源を有しない搬送従動ローラ4は、搬送駆動ローラ3に圧接することによって従動回動する。従って、用紙Pは搬送駆動ローラ3と搬送従動ローラ4とに挟圧され、搬送駆動ローラ4の回動によって記録ヘッド部1の下部、即ちプラテン面に送られる。
(え)【0025】プラテン50のプラテン面には、主走査方向に延びるような溝穴が形成され、該溝穴に島部が形成されることによって、図2に示す様な形状の溝穴(符号10,11及び13?17で示す)及び、島部(符号18a?18dで示す)が形成されている。
(お)【0028】溝穴10,11及び13?17は、用紙Pに余白無く印刷する為のインク打ち切り用の溝穴であり、ノズルアレイ2から吐出されたインクは該溝穴に打ち捨てられる。先ず、用紙P始端の印刷においては、図4及び図5に示す様に、用紙Pの始端が搬送方向下流側に位置する溝穴11の上部にさしかかったとき、ノズルアレイ2の一部2bのみを駆動して、用紙Pにインクを吐出する。これにより、用紙P始端に着弾しなかったインクが溝穴11内に打ち捨てられ、従ってプラテン面がインクで汚損されることが無い。また、用紙Pの幅方向端部においては、溝穴13?17が当該役割を果たす(図4及び図6において仮想線で示した用紙Pのサイズでは、溝穴13及び溝穴17が当該役割を果たす)。一方、用紙Pの終端においては、図6及び図7に示す様に、用紙P終端が搬送方向上流側に位置する溝穴10の上部にさしかかったとき、ノズルアレイ2の一部2aのみを駆動して、用紙Pにインクを吐出する。これにより、用紙P終端に着弾しなかったインクが溝穴10内に打ち捨てられ、従ってプラテン面がインクで汚損されることが無い。
(か)【0029】・・・尚、溝穴10?17には、後述するインク吸収材が装填され、実際には、打ち捨てられたインクは一旦当該インク吸収材によって吸収された後、挿通穴14a(及び13a,16a,17a)からプラテン50の下方へ排出される。
(き)【0036】[インク吸収材の構成および作用効果]次に、前述した溝穴10?17に装填されるインク吸収材について、図12及び図13を参照しつつ、適宜図2をも参照しながら説明する。ここで、図12はインク吸収材19の要部平面図であり、図13はインク吸収材を装填したプラテン50の要部平面図である。図2において示した溝穴10,11及び13?17内にはインク吸収材19が装填される。インク吸収材19は、溝穴10,11及び13?17内に装填され、ノズルアレイ2(図1参照)からインクが勢いよく打ち捨てられた際に該インクを吸収して、所謂インクミストの発生による印字品質の低下を防止する。尚、本実施形態においては、インク吸収材19は、「弾性吸収体」としてのスポンジ材が用いられているが、弾性変形可能であって且つインクが打ち捨てられる際にインクを柔軟に受け止め、インクミストを発生させないものであればどのようなものでも構わない。

また、図1及び、上記(あ)における「主走査方向(図1の紙面の表裏方向)」なる記載、上記(い)ににおける「搬送方向上流側(図1における右側)」なる記載から、給紙装置において、搬送方向は主走査方向に対して直交していることが看取できる。

また、図4より、用紙の幅方向端部の記録の際に、記録する当該端部に当たる部分に沿って、且つ記録する端部について用紙側、それとは逆の用紙のない空間側、共に吸収体が配置されていることが看取できる。
加えて、図5、図7より、用紙の始端、終端の記録の際に、記録する当該端部に当たる部分に沿って、且つ記録する端部について用紙側、それとは逆の用紙のない空間側、共に吸収体が配置されていることが看取できる。

上記(お)に「ノズルアレイの一部のみを駆動して、用紙にインクを吐出する。」とあることから、用紙にノズルアレイから吐出されたインクが付与されることは明らかである。

上記(え)の「プラテン面に主走査方向に延びるような溝穴が形成され」なる記載、上記(か)の「溝穴内には、インク吸収体が装填され」なる記載から、インク吸収体はプラテン面に形成された溝穴内に装填されていることが認められる。プラテン面は記録中の用紙の裏面側であるから、インク吸収材も用紙の裏面側にあることは明らかである。
また、溝穴が主走査方向に延びていることから、インク吸収体も主走査方向に延びていることは明らかである。また、「用紙の始端・終端・左右端などの端部がそれぞれ溝穴の上部にさしかかったとき、ノズルアレイの一部のみを駆動して、用紙にインクを吐出し、用紙の端部に着弾しなかったインクが溝穴内に打ち捨てられ、打ち捨てられたインクは一旦当該インク吸収材によって吸収される」のであるから、インク吸収材は、ノズルアレイに対向する領域に配置されていると認められる。

したがって、前記記載及び図面を含む引用文献1全体の記載から、引用文献1には以下の発明(以下「引用文献1記載の発明」という。)が開示されていると認める。

<引用文献1記載の発明>
「インクを吐出するノズルアレイを有する記録ヘッド部と、記録ヘッド部を駆動モータによって主走査方向に往復動作するように構成し、ノズルアレイから吐出されたインクが付与される用紙を主走査方向と直交する搬送方向上流側から給送する給紙装置と、記録中の用紙の裏面側であるプラテン面に主走査方向に延びるような溝穴が形成され、溝穴内に装填された主走査方向に延びているインク吸収材を有し、用紙の始端・終端・左右端などの端部がそれぞれ溝穴の上部にさしかかったとき、ノズルアレイの一部のみを駆動して、用紙にインクを吐出し、用紙の端部に着弾しなかったインクが溝穴内に打ち捨てられ、打ち捨てられたインクは一旦当該インク吸収材によって吸収され、用紙の始端、終端及び幅方向端部記録の際に、記録する当該端部に当たる部分に沿って、且つ記録する端部について用紙側、それとは逆の用紙のない空間側、共にインク吸収材が配置された液体噴射装置」

当審における拒絶の理由に引用され、本件出願前に頒布された刊行物である特開2002-154226号公報(以下「引用文献2」という。)には、以下の記載が図示とともにある。

(く)【0006】さらに、この種の記録装置は高画質化の要求が強くなっており、これに伴ってインク滴の量も例えば2pL(ピコリットル、以下同様。)と極く少量になっている。そして、このような極く少量のインク滴は、空気の粘性抵抗を強く受けてしまうので飛翔可能な距離は極めて短い。このため、極く少量のインク滴で記録を行う場合には、記録ヘッドと記録用紙とを近接させて配置する必要がある。しかしながら、この記録装置に縁なし印刷モードによる記録を行わせると、インク吸収材が記録用紙の裏側に配置されているため、極く少量のインク滴はインク吸収材まで届かずミスト化してしまう虞がある。そこで、第1の従来装置のインク吸収材と第2の従来装置のサクションファンによる吸引とを組み合わせてインク滴をインク吸収材まで積極的に吸引してミスト化を防止する構成が考えられる。しかし、単に組み合わせただけでは、吸引する空部の容積が大きいために大型のモータやファンが必要となり、装置の大型化を招く。また、記録装置に適した比較的小型のモータではインク滴を効率よく吸引することは困難である。
(け)【0020】給紙ローラ7には給紙モータ11(図3参照)の回転軸が連結されており、この給紙ローラ7は給紙モータ11の駆動力によって回転する。そして、この給紙ローラ7が回転すると、支持板6上で支持された複数の記録用紙2…の内、最上部に位置する記録用紙2が該給紙ローラ7の表面に接触し、給紙ローラ7の回転に伴って搬送されて記録部4に供給される。なお、給紙モータ11は、図3に示すプリンタコントローラ12に電気的に接続されており、このプリンタコントローラ12からの駆動信号によって作動が制御される。
【0021】記録部4は、インクカートリッジ15を着脱可能に保持するカートリッジ保持部が設けられると共に記録ヘッド16が取り付けられたキャリッジ17と、このキャリッジ17を記録幅方向である主走査方向(紙幅方向)に沿って案内するガイド軸18と、記録用紙2を搬送するための紙送りローラ19と、記録用紙2を案内するプラテン(図示せず)と、キャリッジ17をガイド軸18に沿って移動させるキャリッジ走査機構と、印刷用紙の外側で吐出されたインク滴を吸引するためのインク滴吸引機構とを備えている。
【0022】記録ヘッド16は、複数のノズル開口を列状に穿設したノズルプレートを記録用紙2との対向面(下面)に配置しており、インクカートリッジ15から供給されたインクを各ノズル開口から印刷データに応じて吐出させる。なお、この記録ヘッド16に関し、ノズル開口からインク滴を吐出可能であれば、任意の構成を取り得る。例えば、圧力発生素子として電気機械変換素子の一種である圧電振動子を用いた記録ヘッド16を用いることができる。また、圧力発生素子として電気機械変換素子の一種である磁歪素子を用いた記録ヘッド16でもよい。さらに、圧力発生素子として発熱素子を用いた記録ヘッド16であってもよい。
(こ)【0043】記録用紙2Aをセットしたならば、プリンタ1は、ホストコンピュータから送信される印刷データや制御コマンドに基づいて記録動作を行う。ここで、本実施形態では、制御コマンドに基づいて制御部41(捕集制御手段)は、吸引筒24による吸引動作(つまり、インク滴捕集手段による捕集動作)を制御する。即ち、制御部41は、制御コマンドの印刷モード制御情報に基づき、この印刷モード制御情報が縁なし印刷モードを指定する場合に、縁なし印刷モードの設定期間中に亘って上記のエアーポンプ25を作動させる。これにより、縁なし印刷モードが設定されている期間中に亘って吸引筒24が作動してインクミストを吸引可能な状態になる。このようにして、縁なし印刷モードの設定期間に対応させて吸引筒24を選択的に作動させると、インクミストが発生する虞がある縁なし印刷モードでの記録動作時において、エアーポンプ25が選択的に作動するのでエアーポンプ25による電力消費を抑えることができる。このため、プリンタ1の省電力化に寄与する。
(さ)【0045】そして、吸引筒24の作動状態で縁なし印刷が行われると、記録用紙2Aの縁を外側に越えた位置でもインク滴が吐出されるが、このインク滴は吸引筒24の内部に着弾するので、このインク滴によって記録用紙2Aやプリンタ1内が汚れてしまうのを防止することができるし、インク滴の吐出が不安定になってしまうことも防止できる。さらに、インク滴が極く少量で、通常では吸引筒24まで届かない速度まで低下してしまう場合でも、吸引筒24の吸引力によってこのインク滴を吸引筒24の内部に導くことができる。従って、インク滴のミスト化を確実に防止することができる。
(し)【0050】例えば、インク滴捕集手段に関し、空気流によってインク滴を吸引する構成に限らず、電界によってインク滴を捕集する電気捕集装置によって構成してもよい。図4に例示した電気捕集装置50は、交流電源51と、この交流電源51が一次コイルに接続された高圧トランス52と、この高圧トランス52の二次コイルに接続された捕集電極53とを備えて構成されている。そして、この電気捕集装置50は、上記した吸引筒24内に配置されている。
【0051】このような構成の電気捕集装置50では、高圧トランス52に交流電源51から交流電圧を供給すると捕集電極53に高電圧が印加され、捕集電極53が電界を生成する。そして、ノズル開口から吐出されたインク滴は吐出に伴って帯電するため、このインク滴は捕集電極53が生成した電界によって吸引筒24内にに引き寄せられる。従って、この構成でも、インク滴を捕集することができ、上記した実施形態と同様の作用効果を得ることができる。

また、図1より、記録ヘッドの走査方向と、記録用紙を搬送する方向が直交していることが看取できる。

電気捕集装置が電界によってインク滴を捕集するのは、縁なし印刷をするためのものであるから、縁の部分の記録を行う時点で電界を発生させていることは明らかである。

したがって、前記記載及び図面を含む引用文献2全体の記載から、引用文献2には以下の発明(以下「引用文献2記載の発明」という。)が開示されていると認める。

<引用文献2記載の発明>
「複数のノズル開口を列状に穿設したノズルプレートを有し、圧力発生素子を用いてノズル開口からインクを吐出させる記録ヘッドと、記録ヘッドが取り付けられたキャリッジをガイド軸に沿って移動させるキャリッジ走査機構と、給紙モータ11の駆動力によって回転し、記録用紙を記録ヘッドの走査方向と直交して搬送して記録部に供給する給紙ローラとを有し、記録用紙の縁を外側に越えた位置でもインク滴が吐出される液体噴射装置に用いられるインク滴捕集手段であって、電界によってインク滴を捕集する電気捕集装置を吸引筒内部に設け、縁の部分の記録を行う時に当該電気捕集装置によって、インク滴を吸引筒の内部に着弾するように捕集するようにしたインク滴捕集手段」

2.本件出願発明と引用文献1記載の発明との対比
引用文献1記載の発明の「記録ヘッド部」、「記録ヘッド部を駆動モータによって主走査方向に往復動作するように構成した構造」、「インク」、「用紙」、「ノズルアレイから吐出されたインクが付与される用紙を主走査方向と直交する搬送方向上流側から給送する給紙装置」、「記録中の用紙の裏面側」、「主走査方向に延びている」、「用紙の端部に着弾しなかったインク」は、本件出願の請求項1に係る発明の「液体噴射ヘッド」、「液体噴射ヘッドをヘッド走査方向に走査させる走査機構」、「液滴」、「被処理物」、「前記液体噴射ヘッドから噴射された液滴が付与される被処理物を前記ヘッド走査方向に対して直交する送り方向に搬送する送り機構」、「処理中の被処理物の裏面側」、「走査される液体噴射ヘッドの走査方向に沿って延在している」、「前記被処理物から外れた領域に向けて吐出された液滴」にそれぞれ相当する。

したがって、本件出願発明と引用文献1記載の発明とは、以下の点で一致する。
「液体噴射ヘッドと、前記液体噴射ヘッドをヘッド走査方向に走査させる走査機構と、
前記液体噴射ヘッドから噴射された液滴が付与される被処理物を前記ヘッド走査方向に対して直交する送り方向に搬送する送り機構と、
処理中の前記被処理物の裏面側であって、走査される液体噴射ヘッドの走査方向に沿って延在し、前記被処理物から外れた領域に向けて吐出された液滴を吸収する吸収部材とを備え、被処理物の始端、終端及び幅方向端部の記録の際に、記録する当該端部に当たる部分に沿って、且つ記録する端部について被記録物側、それとは逆の被記録物のない空間側、共に吸収部材が配置された液体噴射装置」

そして、本件出願発明と引用文献1記載の発明とは、ひとまず、以下の点で相違している。
<相違点1>
本件出願発明は、液体噴射ヘッドが「ノズル開口が形成されたノズルプレートを有し、前記ノズル開口に連通する圧力室内の液体に圧力変動を生じさせて前記ノズル開口から液滴を吐出させる」と特定されているのに対し、引用文献1記載の発明は、液体噴射ヘッドが前記特定を有しているか否か定かではない点。

<相違点2>
本件出願発明は、吸収部材について「前記被処理物とは接触しないように配置され」と特定されているのに対し、引用文献1記載の発明は、前記特定を有するか否か定かではない点。

<相違点3>
本件出願発明は、吸収部材が、「走査される液体噴射ヘッドに対向する領域に配置」されていると特定されているのに対し、引用文献1記載の発明は、当該特定を有しているのか否か定かでない点。

<相違点4>
本件出願発明は、「前記吸収部材と前記ノズルプレートとの間に電位差を発生させることにより液滴の吐出方向に電界を発生させる電位差発生手段と、を備え、印刷実行時において、前記被処理物の縁に沿って配置され、且つ当該縁の内外に対応して配置されている前記吸収部材と前記ノズルプレートとの間に電界を発生させる」と特定されているのに対し、引用文献1記載の発明は、そのような特定がない点。

3.相違点についての判断
<相違点1について>
「ノズルが形成されたノズルプレートを有し、圧力発生素子を用いてノズル開口からインクを吐出させる記録ヘッド」は、文献を挙げるまでもなく従来より周知であるから、液体噴射ヘッドを「ノズル開口が形成されたノズルプレートを有し、前記ノズル開口に連通する圧力室内の液体に圧力変動を生じさせて前記ノズル開口から液滴を吐出させる」ように成すことは、単に周知な技術を採用したに過ぎない。

<相違点2について>
インク吸収材とは、そもそもインクを吸収するためのものであるから、当該インク吸収材に用紙が接触すると、用紙がインク吸収材の表面に残存したインクにより汚損されてしまうことは明らかである。よって、本件出願時の技術常識として、「インク吸収材」と用紙を接触させないことは当然のことと解釈できる。
したがって、吸収部材について「前記被処理物とは接触しないように配置」した点は、本件出願発明と引用文献1記載の発明との相違点とはならない。

<相違点3について>
引用文献1記載の発明は、「用紙の始端・終端・左右端などの端部がそれぞれ溝穴の上部にさしかかったとき、ノズルアレイの一部のみを駆動して、用紙にインクを吐出し、用紙の端部に着弾しなかったインクが溝穴内に打ち捨てられ、打ち捨てられたインクは一旦当該インク吸収材によって吸収される」のであるから、インク吸収材は、ノズルアレイに対向する領域に配置されていると認められる。
本件出願発明の「吸収部材」を「走査される液体噴射ヘッドに対向する領域」に配置するのは、液体噴射ヘッドから吐出されたインク滴を「吸収部材」により吸収し、「プラテン」や、「記録紙」を汚損させないためである。してみると、引用文献1記載の発明も同様の課題を有しているから、引用文献1記載の発明の「インク吸収材」も、本件出願発明の「吸収部材」と同様に配置されていることは明らかである。
したがって、「吸収部材」を「走査される液体噴射ヘッドに対向する領域」に配置することは、本件出願発明と引用文献1記載の発明との相違点とはならない。

<相違点4について>
引用文献1記載の発明と、引用文献2記載の発明とは、共に縁なし印刷(余白なし印刷)に関する技術という共通の技術分野に属しており、課題も共に用紙の端部に付着しなかったインクの回収を目的としている。
したがって、引用文献1記載の発明の用紙の端部に付着しなかったインクを回収する溝及びインク吸収体に、よりインクを引き寄せるための構造として、引用文献2記載の発明のインクを回収する吸引筒内部に設けられている「電界によってインク滴を捕集する電気捕集装置」を適用することは、当業者であれば容易に想到しうるものである。
引用文献2記載の発明の「電界によってインク滴を捕集する電気捕集装置」は、ノズルと、インク吸収体との間に電位差を発生させる事により、電界を発生させるものではない。
しかし、不要なインクを回収するために、ノズルと、不要なインクを回収する部材との間に電位差を発生させることにより電界を発生させることは、本件出願前に頒布された特開平5-338206号公報(以下「周知文献1」という。)、本件出願前に頒布された特開平11-334106号公報(以下「周知文献2」という。この文献には、ノズルとインク吸収体との間に電位差を発生させることは、直接明記はされていないが、段落0034に「飛翔インク滴は、吸入口に印加された電圧による電界で吸入口に引きつけられる」とあるように、インク滴及びインク滴と接触しているノズルと、インク吸収体に接触する電極との間に電界が発生していることは明らかである。また、当該電界は、吸収体を経由しており(特に図4等参照。)、ノズルと吸収体との間にも同様に電界が発生しているとも認められる。)にもあるように従来より周知である。
してみれば、具体的な電界の印加技術として、当該周知な技術を採用して、インクを回収する部材であるインク吸収体とノズルとの間に電位差を発生させることにより電界を発生させるように成すことに特段の困難性は見いだせない。当然のことながら、当該周知な技術を採用すれば、電界の発生方向はインクの吐出方向となることは明らかである。
残る「印刷実行時において、前記被処理物の縁に沿って配置され、且つ当該縁の内外に対応して配置されている前記吸収部材と前記ノズルプレートとの間に電界を発生させる」ことについて検討する。
前記「4.本件出願発明と引用文献1記載の発明との対比」において述べたように、「吸収部材」を「被処理物の始端、終端及び幅方向端部の記録の際に、記録する当該端部に当たる部分に沿って、且つ記録する端部について被記録物側、それとは逆の被記録物のない空間側、共に」配置した点については、本件出願発明と引用文献1記載の発明とで差異はない。
また、縁なし印刷を行うことが目的である以上、縁の部分の記録を行う際、すなわち、本件出願発明で言うところの「印刷実行時」に電界を発生させることは当然である。
そして、具体的に吸収部材のいずれの箇所に電界を発生させるかは、その箇所における不要インクの発生量や、電界発生構造を設けるコスト、用紙搬送の精度等を鑑み、当業者が適宜設定しうる事項にすぎない。

なお、周知文献1、2の適用について、請求人は、平成21年2月10日付け意見書において、「周知文献1,2に係る技術は、むしろ印刷画質に悪影響を及ぼすような電界を発生させるものであるし(これがために印刷時には電界をOFFにする必要がある)、引用文献2に係る技術は、局所的に配設された吸引孔や電極により、インク滴を集束的に誘引するという思想のものである。また、引用文献1に開示する吸収部材が本願発明に係る吸収部材と構造的には同じであるとしても、このような吸収部材を終端として電界を発生させる点については、周知文献等と組み合わせて想到容易と言うことはできない。周知文献には吸収部材と導電性電極とを接触させることが記載されているが、これは電極にインク保持の機能を持たせることを目的としたものであって、既存の吸収部材に電界終端としての機能を持たせることを提案するものではないからである。」など主張するが、周知文献1、2は、単に、具体的な電界の印加技術として採用しているのであり、引用文献1記載の発明に引用文献2記載の発明の「電気捕集装置」を適用した際に、当該印加技術が採用できないものとは言えない。

4.本件出願発明の進歩性の判断
相違点1乃至4は、実質的相違点でないか、当業者にとって容易に想到することができたものであり、これらの発明特定事項を採用したことによる格別の作用効果を認めることもできない。
したがって、本件出願発明は、本件出願前に頒布された引用文献1、2に記載された事項及び従来より周知な技術に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

第3 むすび
以上のとおり、本件出願発明が特許を受けることができない以上、その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶を免れない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-03-12 
結審通知日 2009-03-13 
審決日 2009-03-24 
出願番号 特願2002-374964(P2002-374964)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大仲 雅人  
特許庁審判長 酒井 進
特許庁審判官 湯本 照基
江成 克己
発明の名称 液体噴射装置  
代理人 岡田 淳平  
代理人 永井 浩之  
代理人 名塚 聡  
代理人 勝沼 宏仁  
代理人 吉武 賢次  
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