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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C05D
管理番号 1196764
審判番号 不服2005-13514  
総通号数 114 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-06-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-07-14 
確定日 2009-05-07 
事件の表示 特願2002-349304「かき殻肥料」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 8月12日出願公開、特開2003-226587〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯及び本願発明
本願は、平成14年11月29日(優先権主張平成13年11月29日)の出願であって、平成17年6月9日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成17年7月14日に拒絶査定に対する審判請求がされるとともに手続補正がされ、平成19年10月17日付けで審尋がされ、平成19年12月25日に回答書が提出され、平成20年7月31日付けで平成17年7月14日付けの手続補正が却下されるとともに拒絶の理由が通知され、平成20年10月3日に意見書が提出されたものである。

そして、本願請求項1?16に係る発明は、願書に最初に添付した明細書(以下、「本願明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1?16に記載された事項により特定されるとおりの、下記のものである。

【請求項1】かき殻とフルボ酸鉄とを成分に含むことを特徴とするかき殻肥料。
【請求項2】腐植土を含み、前記フルボ酸鉄は前記腐植土に含まれることを特徴とする請求項1記載のかき殻肥料。
【請求項3】前記腐植土は前記フルボ酸鉄を鉄成分の重量で0.5重量%以上含み、前記腐植土の分量は前記かき殻に対し5重量%以上20重量%以下であることを特徴とする請求項2記載のかき殻肥料。
【請求項4】前記腐植土はフルボ酸を含むことを特徴とする請求項3記載のかき殻肥料。
【請求項5】さらに酸化チタンを含むことを特徴とする請求項1、2、3または4記載のかき殻肥料。
【請求項6】砂鉄を含み、前記酸化チタンは前記砂鉄に含まれることを特徴とする請求項5記載のかき殻肥料。
【請求項7】前記砂鉄は前記酸化チタンを0.3重量%以上含み、二酸化鉄を4重量%以上含み、前記砂鉄の分量は前記かき殻に対し10重量%以上40重量%以下であることを特徴とする請求項6記載のかき殻肥料。
【請求項8】さらに、加熱かき殻を含み、前記砂鉄は加熱かき殻用かき殻とともに300℃乃至400℃の温度で加熱した浜砂鉄から成り、前記加熱かき殻は前記砂鉄とともに加熱された加熱かき殻用かき殻から成ることを特徴とする請求項6または7記載のかき殻肥料。
【請求項9】前記加熱かき殻は炭酸ナトリウムを1.5重量%以上含み、分量が前記砂鉄に対し200重量%以上400重量%以下であることを特徴とする請求項8記載のかき殻肥料。
【請求項10】さらに、300℃乃至400℃の温度で加熱したほっき貝殻を含むことを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6、7、8または9記載のかき殻肥料。
【請求項11】前記ほっき貝殻の分量は前記かき殻に対し5重量%以上20重量%以下であることを特徴とする請求項10記載のかき殻肥料。
【請求項12】さらに、かき殻に付着する藻を含むことを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9、10または11記載のかき殻肥料。
【請求項13】前記藻の分量は前記かき殻の重量に対し9分の1乃至17分の3であることを特徴とする請求項12記載のかき殻肥料。
【請求項14】松枝、松葉および松笠のうち少なくとも1種以上を含むことを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12または13記載のかき殻肥料。
【請求項15】pH8乃至9の液体肥料であることを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13または14記載のかき殻肥料。
【請求項16】かき殻と腐植土と浜砂鉄と加熱かき殻とほっき貝殻とかき殻に付着する藻とを含み、前記腐植土はフルボ酸鉄を鉄成分の重量で0.6重量%以上含むとともにフルボ酸を含み、前記腐植土の分量は前記かき殻に対し10重量%であり、前記浜砂鉄は酸化チタンを0.3重量%以上含み、二酸化鉄を4重量%以上含み、前記浜砂鉄の分量は前記かき殻に対し20重量%であり、前記加熱かき殻は炭酸ナトリウムを1.5重量%以上含み、分量が前記砂鉄に対し300重量%であり、前記浜砂鉄は加熱かき殻用かき殻とともに300℃乃至400℃の温度で加熱してあり、前記加熱かき殻は前記砂鉄とともに加熱された加熱かき殻用かき殻から成り、前記ほっき貝殻は300℃乃至400℃の温度で加熱してあり、前記ほっき貝殻の分量は前記かき殻に対し10重量%であり、前記藻の分量は前記かき殻の重量に対し9分の1であり、pH8乃至9の液体肥料であることを特徴とするかき殻肥料。

第2 当審で通知した拒絶の理由
当審で通知した、平成20年7月31日付けの拒絶の理由の概要は、
「本願の発明に係るかき殻肥料について、具体的にかき殻肥料として記載され、その効果を確認し得るのは、実施例に記載される、「かき殻と腐植土と浜砂鉄と加熱かき殻とほっき貝殻とかき殻に付着する藻と松枝・松葉・松笠との混合物から成る。」もののみであり、これ以外の特許請求の範囲に記載される、かき殻とフルボ酸鉄からなるかき殻肥料及びこれに追加的・選択的に成分を加えてなる種々のかき殻肥料は、具体的に発明の詳細な説明に記載されるものではなく、また、「植物の成長促進効果」を有することを確認することができるものでもない。
さらに、本願の発明に係るかき殻肥料のpHを特定する手段、液体肥料とするための液体成分について発明の詳細な説明に記載されるものでもない。
そうしてみると、本願の発明に係るかき殻肥料が、総体的に発明の詳細な説明において裏付けられていないので、本願の請求項1?16に記載された特許を受けようとする発明は、発明の詳細な説明に記載されたものであるとすることができない。 」から、本件出願は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない、というものである。

第3 当審の判断
1.特許法第36条第6項第1号の判断について
特許法第36条第6項第1号は「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」というものであるところ、これにつき、知財高裁平成17年(行ケ)第10042号判決において、次のように判示されている。

「特許制度は,発明を公開させることを前提に,当該発明に特許を付与して,一定期間その発明を業として独占的,排他的に実施することを保障し,もって,発明を奨励し,産業の発達に寄与することを趣旨とするものである。そして,ある発明について特許を受けようとする者が願書に添付すべき明細書は,本来,当該発明の技術内容を一般に開示するとともに,特許権として成立した後にその効力の及ぶ範囲(特許発明の技術的範囲)を明らかにするという役割を有するものであるから,特許請求の範囲に発明として記載して特許を受けるためには,明細書の発明の詳細な説明に,当該発明の課題が解決できることを当業者において認識できるように記載しなければならないというべきである。特許法旧36条5項1号(審決注:特許法第36条第6項第1号と同内容)の規定する明細書のサポート要件が,特許請求の範囲の記載を上記規定のように限定したのは,発明の詳細な説明に記載していない発明を特許請求の範囲に記載すると,公開されていない発明について独占的,排他的な権利が発生することになり,一般公衆からその自由利用の利益を奪い,ひいては産業の発達を阻害するおそれを生じ,上記の特許制度の趣旨に反することになるからである。
そして,特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであり,明細書のサポート要件の存在は,特許出願人が証明責任を負うと解するのが相当である。」

そこで、上記判示事項に沿って、本願の請求項1に記載された特許を受けようとする発明が、発明の詳細な説明に記載したものであるか否かを検討する。

2.特許請求の範囲に記載された発明について
本願明細書の特許請求の範囲の請求項1には、次の発明が記載がされているといえる。
「かき殻とフルボ酸鉄とを成分に含むことを特徴とするかき殻肥料。」

3.発明の詳細な説明の記載について
本願明細書には、次の記載がされている。
a「【発明が解決しようとする課題】かき殻には、酸化チタン41ppm、カルシウム45重量%、鉄6200ppm、亜鉛43.41ppm、マンガン1400ppm、カリウム320ppm、リン1600ppm、マグネシウム5200ppm、セレン52200ppm、モリブデン2748ppm、珪素7100ppm、銅8.61ppm、ナトリウム1.55重量%、ゲルマニウム5ppm未満、クロム1ppm未満、コバルト44重量%、ニッケル1ppm未満、リチウム2ppm未満、バナジウム2ppm未満、キチン質、炭素、ラミナリン、コンキオリン有機窒素15重量%、酸素、水素、硫黄、ヨウ素、フルボ酸などが含まれる。
これらのミネラル類は、植物の成長に有用である。しかしながら、従来のかき殻肥料では、かき殻に含まれるミネラル類が溶出しにくいため、植物の成長促進の効果に限界があるという課題があった。
本発明は、このような従来の課題に着目してなされたもので、かき殻に含まれるミネラル類が溶出しやすく、植物の生長促進効果が高いかき殻肥料を提供することを目的としている。」(段落0003?0005)
b「フルボ酸鉄は前記腐植土に含まれることが好ましい。しかしながら、フルボ酸鉄は、土壌などから抽出したものであってもよい。前記腐植土は前記フルボ酸鉄を鉄成分の重量で0.5重量%以上含み、前記腐植土の分量は前記かき殻に対し5重量%以上20重量%以下であることが好ましい。前記腐植土はフルボ酸を含むことが好ましい。」(段落0006)
c「本発明に係るかき殻肥料は、特に、かき殻と腐植土と浜砂鉄と加熱かき殻とほっき貝殻とかき殻に付着する藻とを含み、前記腐植土はフルボ酸鉄を鉄成分の重量で0.6重量%以上含むとともにフルボ酸を含み、前記腐植土の分量は前記かき殻に対し10重量%であり、前記浜砂鉄は酸化チタンを0.3重量%以上含み、二酸化鉄を4重量%以上含み、前記浜砂鉄の分量は前記かき殻に対し20重量%であり、前記加熱かき殻は炭酸ナトリウムを1.5重量%以上含み、分量が前記砂鉄に対し300重量%であり、前記浜砂鉄は加熱かき殻用かき殻とともに300℃乃至400℃の温度で加熱してあり、前記加熱かき殻は前記砂鉄とともに加熱された加熱かき殻用かき殻から成り、前記ほっき貝殻は300℃乃至400℃の温度で加熱してあり、前記ほっき貝殻の分量は前記かき殻に対し10重量%であり、前記藻の分量は前記かき殻の重量に対し9分の1であり、pH8乃至9の液体肥料であることが好ましい。」(段落0017)
d「当かき殻肥料は有機質肥料で「水素化触媒」で自然の生態系で、どんどんイオン化しているのである。勿論、この時、フルボ酸、フルボ酸鉄の役割はここで求心的役割を担っていいるのである。
あくまでも、こうした作物の生育成長には、土壌中で必ず微生物の繁殖を促進する酸素を運び、栄養分を運ぶことから始められる訳である。その際、その運び役は、このミネラル種の中でもフルボ酸鉄という鉄イオンなのである。」(段落0021)
e「フルボ酸は水に溶け易く、酢酸と修酸で構成されているのである。」(段落0025)
f「中部、関東、東北地方には落葉広葉樹が多く、この樹木の枝に付く葉は鉄を含み、約半年足らずで落葉し、地上で腐葉化され、フルボ酸となるが、更に、これがフルボ酸鉄という酸素をとりこまない鉄イオンと結ばれる二物質が湿原、湿地地帯の土壌地帯に溶解され、更に葦、茅、薦といわれる禾本科植物の根から排出される鉄分も溶解してしまう。この時、酸素と結ばれた鉄は酸化鉄、酸素と結合しない鉄としてフルボ酸鉄という鉄イオンがある。このフルボ酸鉄の中の[酢酸]と、湿原、湿地地帯の水中地殻に溶けこんでいる[ナトリウム]が[酸素]と交わり、湿原、湿地地帯の[水]によって水素化触媒が始まる。この場合、溶解している物体は固体、気体でない液体物質であるので均一系触媒、金属触媒ととも言われている。」(段落0027)
g「落葉広葉樹林で生み出されるフルボ酸とフルボ酸鉄の役割は更にいろいろなミネラル元素を溶解する働きをもち、水素化触媒(均一触媒、金属触媒)に発展しいてるのである。」(段落0029)
h「本発明の実施例のかき殻肥料は、かき殻と腐植土と浜砂鉄と加熱かき殻とほっき貝殻とかき殻に付着する藻と松枝・松葉・松笠との混合物から成る。かき殻肥料1単位は、かき殻5kg、腐植土0.5kg、浜砂鉄1kg、加熱かき殻3kg、ほっき貝殻0.5kg、かき殻に付着する藻0.56kgと松枝・松葉・松笠0.1kgとから成る。かき殻肥料20kgが1つの袋に入れられて流通される。」(段落0055)
i「腐植土は、フルボ酸鉄を鉄成分の重量で0.62重量%含むとともにフルボ酸を含む。」(段落0056)
j「【実験1】2000年8月20日に宮城県加美郡小野田町のゴルフ場において、ダラースポット病の芝に対し、本実施例のかき殻肥料を使用し、試料群1とした。・・・本実施例のかき殻肥料を使用しない対照群1の芝ではダラースポット病が悪化し、すべての芝が枯れ死したのに対し、本実施例のかき殻肥料を使用した試料群1の芝ではダラースポット病が完全に消滅し、健康に成長していた。」(段落0057?0058)
k「【実験2】砒素を含む汚染土壌10リットルに本実施例のかき殻肥料2.5リットルを混合し、内径20cm、高さ45cmの円筒形の鉢に入れ、2001年6月14日に枝豆の種子2粒と、とうもろこしの種子2粒を播いた。・・・対照群2として、本実施例のかき殻肥料を使用しないほかは同様の条件の鉢に、同日に同様に種子を播いた。・・・対照群2は、7月10日に5cmまで伸びた段階で枯れてしまった。試料群2は、9月14日の時点ですべての枝豆、とうもろこしが34乃至38cmまで成長した。」(段落0059?0060)
l「【実験3】秋田県雄物川町造山において、10aの畑に本実施例のかき殻肥料200kgを均等に散布した。2000年5月13日にその畑に1m^(2)あたり4個の白菜の種子を均等に播き、生育した。・・・対照群3では、本実施例のかき殻肥料の代わりに石灰を中心とした従来の肥料を使用した。・・・対照群3の白菜は1個当たりの重量が3乃至4kgであったのに対し、試料群3の白菜は1個当たりの重量が7乃至8kgであった。また、試料群3の白菜は、対照群3の白菜に比べて甘味が高かった。」(段落0061?0062)
m「【実験4】秋田県雄物川町造山において、10aの畑に本実施例のかき殻肥料200kgを均等に散布した。2000年5月3日にその畑に1m^(2)あたり2.5個のスイカの種子を均等に播き、生育した。・・・対照群4では、本実施例のかき殻肥料の代わりに石灰を中心とした従来の肥料を使用した。・・・対照群4では1株当たり6個の収穫であったのに対し、試料群4では1株当たり10個の収穫であった。10aでの収穫量は、対照群4では765個であったのに対し、試料群4では1,268個であった。」(段落0063?0064)

4.発明の詳細な説明に記載された発明について
本願の発明の課題は、aに摘記したとおり、「従来のかき殻肥料では、かき殻に含まれるミネラル類が溶出しにくいため、植物の成長促進の効果に限界があるという課題があった」ので「かき殻に含まれるミネラル類が溶出しやすく、植物の生長促進効果が高いかき殻肥料」としたもの、である。
そしてその課題を達成するために、「かき殻とフルボ酸鉄とを成分に含むことを特徴とするかき殻肥料。」としたものであるから、まず、「かき殻」と「フルボ酸鉄」についての発明の詳細な説明の記載を検討する。

(1)「かき殻」と「フルボ酸鉄」についての発明の詳細な説明の記載
「かき殻」については、摘記aに、かき殻に含まれる成分として、各種ミネラル類や他の有機物、無機物が列挙され、これらのミネラル類は、植物の成長に有用であること、しかし、従来のかき殻肥料では、かき殻に含まれるミネラル類が溶出しにくいため、植物の成長促進の効果に限界があることが、記載されている。
一方、「フルボ酸鉄」については、「自然の生態系で、どんどんイオン化しているのである。勿論、この時、フルボ酸、フルボ酸鉄の役割はここで求心的役割を担っていいるのであ」り、「作物の生育成長には、土壌中で必ず微生物の繁殖を促進する酸素を運び、栄養分を運ぶことから始められる訳である。その際、その運び役は、このミネラル種の中でもフルボ酸鉄という鉄イオンなのである。」こと(摘記d)、「水に溶け易く、酢酸と修酸で構成されている」こと(摘記e)、「中部、関東、東北地方には落葉広葉樹が多く、この樹木の枝に付く葉は鉄を含み、約半年足らずで落葉し、地上で腐葉化され、フルボ酸となるが、更に、これがフルボ酸鉄という酸素をとりこまない鉄イオンと結ばれる二物質が湿原、湿地地帯の土壌地帯に溶解され、更に葦、茅、薦といわれる禾本科植物の根から排出される鉄分も溶解してしまう。」こと(摘記f)、「いろいろなミネラル元素を溶解する働きをもち」(摘記g)、また、「腐植土は、フルボ酸鉄を鉄成分の重量で」、0.5重量%以上、0.6重量%以上、あるいは0.62重量%含むものであること(摘記b、c、i)、が記載されている。

これらの記載から、フルボ酸鉄が、自然の生態系でイオン化の求心的役割を担い、微生物の繁殖を促進する酸素や栄養分を運ぶものであり、水に溶け易く、いろいろなミネラル元素を溶解する働きがあり、腐植土に所定量含まれている、ということはわかるものの、かき殻とともにフルボ酸鉄を用いた場合に溶出しにくかったかき殻中のミネラル類が溶出し易くなることについては、何ら合理的に説明されておらず、また、このことが出願時の技術常識であったとすることもできない。

そこで、具体的にデータをともなって記載された実験について検討する。

(2)「かき殻肥料」についての実験例
具体的に示される実施例を検討すると、【実験1】?【実験4】はいずれも「本実施例のかき殻肥料」を用いているところ(摘記j?m)、「本実施例のかき殻肥料」とは、前の段落に「本発明の実施例のかき殻肥料は、かき殻と腐植土と浜砂鉄と加熱かき殻とほっき貝殻とかき殻に付着する藻と松枝・松葉・松笠との混合物から成る。かき殻肥料1単位は、かき殻5kg、腐植土0.5kg、浜砂鉄1kg、加熱かき殻3kg、ほっき貝殻0.5kg、かき殻に付着する藻0.56kgと松枝・松葉・松笠0.1kgとから成る。かき殻肥料20kgが1つの袋に入れられて流通される。」(摘記h)として示される、
「かき殻 5kg
腐植土 0.5kg
浜砂鉄 1kg
加熱かき殻 3kg
ほっき貝殻 0.5kg
かき殻に付着する藻 0.56kg
松枝・松葉・松笠 0.1kg」
からなる肥料といえ、これに続く段落に、「腐植土は、フルボ酸鉄を鉄成分の重量で0.62重量%含む」(摘記i)と記載されているから、上記肥料がフルボ酸鉄を含むことはわかる。
(以下、「かき殻、腐植土、浜砂鉄、加熱かき殻、ほっき貝殻、かき殻に付着する藻、松枝・松葉・松笠とからなるかき殻肥料」を「かき殻肥料A」という。)
そして、摘記aにあるように、従来のかき殻肥料では、植物の成長促進の効果に限界があったのであるから、「かき殻肥料A」において、かき殻と他の成分との組合せにより効力が向上したのであろうと推測されるものの、これらの実験1?4における対照群は、実験1及び2においては「本実施例のかき殻肥料を使用しない」対照群(摘記j、k)であり、実験3及び4においては「本実施例のかき殻肥料の代わりに石灰を中心とした従来の肥料を使用した」対照群(摘記l、m)なのであるから、上記「かき殻肥料A」において、かき殻と何との組合せが効力の向上に寄与したのかまでは、わからず、この実験から読み取れるのは、「かき殻肥料A」は、これを使用しない場合やこれの代わりに石灰を中心とした従来の肥料を使用した場合よりも、効力に優れる、ということのみといえる。
すなわち、「かき殻肥料A」以外のかき殻を含む肥料、例えば、「かき殻とフルボ酸鉄とを成分に含み、フルボ酸鉄以外の腐植土、浜砂鉄、加熱かき殻、ほっき貝殻、かき殻に付着する藻、松枝・松葉・松笠のいずれをも含まないかき殻肥料」(以下、「かき殻肥料B」という。)が、「かき殻肥料A」と同様の効果を奏することまでは、発明の詳細な説明に記載されているとはいえない。

(3)発明の詳細な説明に記載された発明
そうしてみると、発明の詳細な説明には、「かき殻肥料A」の発明は記載されているものの、例えば「かき殻肥料B」についての発明までは記載されているとはいえない。

5.発明の詳細な説明に記載された発明と特許請求の範囲に記載された発明との対比
特許請求の範囲にはその請求項1に、上記3.に示した発明、すなわち、
「かき殻とフルボ酸鉄とを成分に含むことを特徴とするかき殻肥料。」
が記載され、これが、上記「かき殻肥料B」を包含していることは明らかであるところ、発明の詳細な説明には、「かき殻肥料B」についての発明は記載されていないのであるから(上記「4.(3)」)、特許請求の範囲に記載された特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載された発明であるとはいえない。

6.請求人の主張
請求人は、平成20年10月3日付け意見書において、
「(1)フルボ酸鉄とは
(2)かき殻肥料と連動するフルボ酸鉄
(3)フルボ酸鉄の抽出方法
(4)フルボ酸鉄溶液の抽出方法
(5)水素化触媒」という項目を設けて、本願発明は特許を受け得るものであると主張する。

しかしながら、上記(1)、(3)、(4)はフルボ酸鉄のみに関する説明であって、本願請求項1に特定する「かき殻とフルボ酸鉄とを成分に含むことを特徴とするかき殻肥料。」についての説明ではない。

上記(2)において、「多くのミネラル分を含むかき殻肥料を土壌へ還元すると、忽ち、土壌中で微生物、土中動物が発生し、この生き物たちによって土壌中の汚染物を分解してしまいます。これが結果的には信じられない農作物を育んできました。しかし、こうした集大成の背景には、光触媒もあり、水素化触媒もあったことも知っていましたが、最大の要因は、フルボ酸鉄が水と出合うことで、全ての物質をナノ?ピコの超微粒分子へ分解できることです。」と主張するが、「フルボ酸鉄が水と出合うことで、全ての物質をナノ?ピコの超微粒分子へ分解できること」を示す合理的な説明も実験成績も示されておらず、このようなことが、出願時の技術常識であったとすることもできない。
また上記(5)において、「本願発明のフルボ酸鉄を含むかき殻肥料を土壌へ施用した場合、水と出合うことで肥料中に含まれている成分が溶出してきます。完全に溶出した段階での土中でのpHは、8.74です。pHが10以上のものは、水素を多く発生することが知られています。」と主張するが、水素を多く発生すると何故優れた肥料になるのかについての合理的説明はされておらず、また、このようなことを実験的に確かめているものでもなく、このようなことが、出願時の技術常識であったとすることもできない。
そうしてみると、請求人の主張は言葉で述べるのみであって、「かき殻とフルボ酸鉄とを成分に含むことを特徴とするかき殻肥料。」において、上記(2)や(5)で説明されていることが実際に生じているとすることはできず、かつ、これらの主張から、特許請求の範囲に記載された発明が発明の詳細な説明に記載された発明であるとすることもできない。

したがって、請求人の主張は、当審の上記5.の判断を左右するものではない。

7.まとめ
以上のとおりであって、特許請求の範囲の記載は、「請求項1の特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものである」とはいえないから、特許法第36条第6項第1号に適合しない。

第4 むすび
以上のとおりであって、この出願は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていないので、その余のことを検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-03-18 
結審通知日 2009-03-24 
審決日 2009-03-26 
出願番号 特願2002-349304(P2002-349304)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (C05D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 安藤 達也  
特許庁審判長 西川 和子
特許庁審判官 鈴木 紀子
唐木 以知良
発明の名称 かき殻肥料  
代理人 須田 篤  

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