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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G11B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G11B
管理番号 1196766
審判番号 不服2005-17368  
総通号数 114 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-06-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-09-09 
確定日 2009-05-07 
事件の表示 特願2001-285529「ディスククラック検出方法及びこれを用いたディスクドライブの倍速制御方法」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 8月23日出願公開、特開2002-237033〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯・本願発明
本件審判の請求に係る特許出願(以下「本願」という。)は、平成13年9月19日(パリ条約に基づく優先権主張外国受理 2001年2月5日 韓国)に出願されたものであって、平成17年6月10日付けで拒絶査定がなされたところ、平成17年9月9日付けで拒絶査定不服審判が請求されたものである。
その後、平成20年5月27日付けで当審から最後の拒絶理由が通知されたところ、平成20年9月3日付で手続補正書が提出されたものである。


II.平成20年9月3日付け手続補正についての却下の決定

〔補正却下の決定の結論〕
平成20年9月3日付け手続補正を却下する。

〔理由〕
1.平成20年9月3日付け手続補正(以下「本件補正」という。)についての補正の内容
本件補正は、明細書の特許請求の範囲についてするもので、そのうち請求項1に係る発明についてみれば、

-本件補正前-
「【請求項1】 ディスクドライブの倍速制御方法において、
(a)倍速変更命令が入力されるかどうかを判断する段階と、
(b)前記倍速変更命令に応じて目標倍速にスピンドルモータの速度を制御する段階と、
(c)現在の倍速が目標倍速に達するまで所定の測定周期で所定の臨界電圧を超えるトラッキングエラー信号の個数をカウンティングする段階と、
(d)前記段階(c)でカウンティングされたトラッキングエラー信号の個数が臨界個数を超える場合にディスククラック検出信号を生成させる段階と、
(e)前記ディスククラック検出信号が生成される場合、前記目標倍速を現在倍速より低い倍速に変更させる段階と、
を含むことを特徴とするディスクドライブの倍速制御方法。」

-本件補正後-
「【請求項1】 情報の記録又は再生時のディスクドライブの倍速制御方法において、
(a)倍速変更命令が入力されるかどうかを判断する段階と、
(b)前記倍速変更命令に応じて目標倍速にスピンドルモータの速度を制御する段階と、
(c)現在の倍速が目標倍速に達するまで所定の測定周期で、トラッキングエラー信号に含まれたディスクのクラックのみに起因する非正常的なパルスを感知するための所定の臨界電圧を超えるトラッキングエラー信号の個数をカウンティングする段階と、
(d)前記段階(c)でカウンティングされたトラッキングエラー信号の個数が臨界個数を超える場合にディスククラック検出信号を生成させる段階と、
(e)前記ディスククラック検出信号が生成される場合、前記目標倍速を現在倍速より低い倍速に変更させる段階と、
を含むことを特徴とするディスクドライブの倍速制御方法。」

と、ディスクドライブの倍速制御方法について「情報の記録又は再生時のディスクドライブの倍速制御方法」と、所定の臨界電圧について「トラッキングエラー信号に含まれたディスクのクラックのみに起因する非正常的なパルスを感知するための所定の臨界電圧」と、下線部の構成要件を追加する補正をするものである。上記下線部の各構成要件はディスクドライブの倍速制御方法、及び所定の臨界電圧について、発明を特定するために必要とする事項を限定するものと認められる。要するに、本件補正は、平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

2.独立特許要件
次に、本件補正後の請求項1に係る発明が、特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について、以下に検討する。

(1)本件補正後発明
本件補正後における【請求項1】に記載された発明(以下「本件補正後発明」という。)は、上記1.-本件補正後-に記載したとおりのものである。

(2)刊行物及び記載された事項
当審からの拒絶の理由に引用された刊行物である特開2000-215596号公報(以下「刊行物1」という。)は、ディスクプレーヤーのスピンドルモーターの回転制御方法についてのもので、図面とともに以下の記載がある。(なお、下線は当審で付与した。)
(i)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 ディスクに記録されている信号を光学式ピックアップにより読み出すように構成されているディスクプレーヤーにおいて、ディスクの目標回転数及び回転加速度を設定した後スピンドルモーターの加速動作を行うとともに加速途中のサーボ状態をチェックし、サーボ状態が異常状態になったときスピンドルモーターの加速動作を停止させるとともにサーボの立て直し動作を行い、サーボの立て直し動作が所定回数行われたとき、目標回転数を1段階下げるようにしたことを特徴とするディスクプレーヤーのスピンドルモーター回転制御方法。
【請求項2】【請求項3】・・・(省略)・・・。」
(ii)「【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、回転するディスクに記録されている信号を光学式ピックアップにより読み出すように構成されたディスクプレーヤーのスピンドルモーター回転制御方法に関する。
【0002】?【0004】・・・(省略)・・・。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】CD-ROMプレーヤーは、音声信号を再生するCDプレーヤーと異なり、信号の高速読み出し動作が要求されるため、最近では、規定の線速度に対して、6倍、8倍及び10倍等の高速の線速度一定にてディスクを回転させて信号の読み出し動作を行うように構成されたディスクプレーヤーが商品化されているが、ディスクを高速の線速度一定にて回転させる制御が困難であるため、最近では、角速度一定の回転速度にてディスクを回転させて信号の読み出し動作を行うように構成されたディスクプレーヤーが多く商品化されている。
【0006】斯かるディスクプレーヤーに使用されるディスクの中には、重心が中心よりずれた偏重心ディスクと呼ばれるディスクがあり、斯かるディスクを高速回転状態にて再生した場合異常振動が発生し、異音を発生するという問題がある。」
(iii)「【0008】斯かる自動調芯装置が組み込まれたディスクプレーヤーにおいてもディスクの回転速度を目標の回転速度まで急速に加速させている途中で振動による影響を受け、サーボ状態が異常の状態になることがある。斯かる場合には、サーボの立て直し動作が行われるが、再びサーボ状態が異常となり、立て直し動作が繰り返し行われたままの状態になるという問題がある。
【0009】本発明は、斯かる問題を解決したスピンドルモーターの回転制御方法を提供しようとするものである。
【0010】
【作用】本発明は、ディスクの目標回転数及び回転加速度を設定した後スピンドルモーターの加速動作を行うとともに加速途中のサーボ状態をチェックし、サーボ状態が異常状態になったときスピンドルモーターの加速動作を停止させるとともにサーボの立て直し動作を行い、サーボの立て直し動作が所定回数行われたとき、目標回転数を1段階下げるようにしたものである。」 (iv)「【0013】5は前記光学式ピックアップ4に組み込まれている光検出器より得られるRF信号を増幅するとともに波形成形するRF信号増幅回路、6は前記RF信号増幅回路5を介して得られる信号に基づいて前記光学式ピックアップ4より照射される光ビームをディスク1の信号面に合焦させるフォーカシング制御動作及び該光ビームを前記信号面の信号トラックに追従させるトラッキング制御動作を行うサーボ信号処理回路であり、斯かる動作は対物レンズの動きを制御することによって行うように構成されている。」
(v)「【0020】斯かる動作が行われた後、コンピューター装置9よりディスク1に記録されている情報を読み出すための命令信号がシステム制御回路10に対して出力されるが、先ず信号を読み出すための目標の回転数を設定する(ステップA)。目標とする回転数が設定されると、次にディスクの回転数を速やかに目標の回転数にするための回転加速度の設定動作が行われる(ステップB)。
【0021】ディスクの目標回転数及び回転加速度の設定動作が行われると、スピンドルモーター3を目標の回転数にて回転させるための制御信号がシステム制御回路10よりスピンドルモーター制御回路11に対して出力される。斯かる制御信号がスピンドルモーター制御回路11に印加されると、該スピンドルモーター制御回路11よりスピンドルモーター3に対して駆動信号が出力され、スピンドルモーター3の加速動作が行われる(ステップC)。
【0022】スピンドルモーター3の加速動作が開始されると、該スピンドルモーター3の回転数が次第に増加するが、斯かる動作が行われているとき、スピンドルモーター制御回路11に組み込まれているサーボ回路によるサーボ動作が行われた状態にある。そして、斯かるサーボ回路によるサーボ動作が良好に行われているか否かのチェックが、システム制御回路10によって行われる(ステップD)。
【0023】システム制御回路10によるサーボ状態のチェックが行われると、その状態が良好であるか否かの判定が行われる(ステップE)。ステップEにて、サーボ状態が良好であると判定されると、そのときの回転数が目標の回転数であるか否かの判定が行われる(ステップF)。ステップFにて目標の回転数で無い場合には、ステップCに戻ってスピンドルモーター3の加速動作が続けて行われることになる。そして、ステップFにて目標の回転数であると判定されると、スピンドルモーター3の加速動作を停止し、その回転速度で回転駆動する(ステップG)。
【0024】このようにして、ディスク1が目標の回転数にて回転駆動される状態になると、サーボ信号処理回路6による光学式ピックアップ4のフォーカス制御動作及びトラッキング制御動作が行われ、ディスク1に記録されている情報の読み出し動作が行われる。光学式ピックアップ4により読み出された信号は、RF信号増幅回路5によって増幅された後デジタル信号処理回路7に入力され、各種信号の復調動作が行われる。前記デジタル信号処理回路7によりデジタル信号処理された信号であるデータ信号は、信号再生回路8に入力された後、コンピューター装置9に出力される。斯かる動作が行われる結果、コンピューター装置9は、ディスク1に記録されている所望の情報データを受信することが出来、所定の演算処理動作を行うことが出来る。
【0025】スピンドルモーター3を設定された回転加速度にて異常なく目標の回転数に加速させることが出来た場合の動作は、以上の如く行われるが、次に加速動作を行っている途中においてサーボの状態が異常になった場合について説明する。
【0026】斯かる場合には、ステップEにてサーボ状態が良好ではないと判定されるが、このように判定されると、スピンドルモーター3の加速動作を停止し、該スピンドルモーター3をそのままの状態で回転させるフリーランと呼ばれる回転状態にする動作か、減速処理動作のいずれかの動作を行う(ステップH)。斯かる動作が行われると、サーボの立て直し動作を行う(ステップI)。斯かるサーボの立て直し動作が行われると、システム制御回路10内に設けられているカウンタのカウント数を1増加させる処理が行われる(ステップJ)。
【0027】・・・(省略)・・・。
【0028】スピンドルモーター3の回転数が目標の回転数に達する前にサーボ状態が異常になると、前述した処理動作が繰り返し行われることになるが、サーボの立て直し動作が所定回数行われると、その回数がステップKにて判定されスピンドルモーター3の回転数を1段階下げる処理動作が行われる(ステップL)。ステップLにてスピンドルモーター3の目標回転数がそれまでの回転数に対して1段階小さい回転数に設定されると、ステップCに戻り、新しく設定された回転数にするための加速動作が行われる。
【0029】・・・(省略)・・・。
【0030】
【発明の効果】本発明は、ディスクの目標回転数及び回転加速度を設定した後スピンドルモーターの加速動作を行うとともに加速途中のサーボ状態をチェックし、サーボ状態が異常状態になったときスピンドルモーターの加速動作を停止させるとともにサーボの立て直し動作を行い、そのサーボの立て直し動作が所定回数行われたとき、目標回転数を1段階下げるようにしたので、偏重心ディスクの影響等によって加速の途中でサーボの状態が異常になってもスピンドルモーターの目標回転数が1段階下げられる結果、サーボ異常が発生する回転数に達しない回転数に設定することが出来、ディスクに記録されている信号の読み出し動作をそのディスクの特性に対して最も高速の回転速度にて行うことが出来る。
【0031】また、本発明は、スピンドルモーターの加速動作を停止させたとき、該スピンドルモーターをフリーラン回転状態にするようにしたので、スピンドルモーターの回転状態が安定した状態になり、その結果サーボの立て直し動作を速やかに行うことが出来る。」

以上の摘示事項を総合勘案して、図面とともに整理すると、刊行物1には以下の発明が記載されているものと認める。
「コンピューター装置よりディスクに記録されている情報を読み出すための命令信号がシステム制御回路に対して出力され、
先ず信号を読み出すための目標の回転数を設定し(ステップA)、
目標とする回転数が設定されると、次にディスクの回転数を速やかに目標の回転数にするための回転加速度の設定動作が行われ(ステップB)、
ディスクの目標回転数及び回転加速度を設定した後スピンドルモーターの加速動作を行うとともに(ステップC)、
加速途中のサーボ状態をチェックし(ステップD)、
サーボ状態が異常状態になったと判断されたとき(ステップE)、
スピンドルモーターの加速動作を停止させるとともに(ステップH)、サーボの立て直し動作が所定回数行われたとき(ステップK)、
目標回転数を1段階下げる(ステップY)ようにしたスピンドルモーターの回転制御方法。」(以下「刊行物1発明」という。)

同じく、拒絶の理由に引用された刊行物2である特開昭64-3827号公報(以下「刊行物2」という。)は、トラツキングサーボはずれ信号を検出できる光デイスク装置について、図面とともに以下の記載がある。
(vi)「2.特許請求の範囲
(1) 光スポツトを記録媒体面上に照射し、その反射光または透過光からトラツキングサーボ機構の駆動に必要なトラツキング誤差信号を検出する検出器を含む光デイスク装置において、前記トラツキング誤差信号をトラツキング誤差許容レベルと比較する比較回路と、この比較回路の出力信号からノイズ成分を除去して書き込み保護用信号を出力するフイルタ回路と、このフイルタ回路の出力信号が一定時間内に一定のパルス数以上のときトラツキングサーボはずれ信号を検出するカウンタ回路と、前記フイルタ回路の出力信号が一定時間トラツキング誤差許容レベル以下に対応するときトラツキングサーボロツク信号を出力するサーボロツク検出回路とを備えたことを特徴とする光デイスク装置。」(1頁左下欄4?19行)
(vii)「さて、記録時において、外部振動等により、あるいはデイスク1の偏心に起因する半径方向の溝移動とか溝における傷などにより、光スポツトがトラツキング制御に追従できず、トラツキングはずれを起こすと、すでに記録したトラツクに再度重ね書きしたり、あるいはまだ記録していないトラックに誤って記録してしまうことを避けるために従来装置ではトラツキングはずれ検出回路31および制御信号発生回路32を設け、誤差増幅器25から出力されたトラッキング誤差信号からトラツキングはずれ検出回路31によつてトラツキングはずれを検出し、この検出出力で制御信号発生回路32から制御信号を発生させ、レーザー駆動回路4を制御し、これによつて記録動作を不能にしている。」(4頁右上欄3?17行)
(viii)「第7図において、トラツキングはずれ検出回路31はレベル検出回路33であり、制御信号発生回路32はD型フリツプフロップである。
第8図は第7図における各部信号の波形図である。
トラツキング制御が正常に行われている時には、第8図(a)に見られるように、トラツキング誤差信号の振幅は小さいが、時刻t1でトラツキング制御がはずれた場合には振幅の大きなトラツキング誤差信号となる。
この信号を第8図(a)にE1で示す基準電圧が設定されたレベル検出回路33に人力し、ここでE1を超すレベルを検出することにより、第8図(b)に示すような波形の信号が得られる。基準電圧E1は、トラツキング制御が正常に動作している時に得られトラツキング誤差電圧と、トラツキング制御がはずれた時に得られるピーク誤差電圧とのほぼ中間に設定しておく。
トラツキング制御が正常な時には、トラツキング誤差信号のレベルが基準電圧E1よりも小さいため、レベル検出回路33からはパルスが出力されないが、トラツキング制御がはずれた時には、トラツキング誤差信号のレベルが基準電圧E1を超えるため、第8図(b)に示すようにパルスが出力される。このパルスをD型フリツプフロツプ32のクロツク端子Tに入力すると、トラツキング制御のはずれが発生した以後第8図(c)に示すようなハイレベルの信号が制御信号として得られる。この制御信号をレーザー駆動回路4に入力し、記録不能になるように制御する。」(4頁左下欄3行?右下欄12行)
(ix)「第1図はこの発明の一実施例を示す回路略図であり、トラツキング誤差信号をトラツキング誤差許容レベルと比較する比較回路100」(5頁右上欄17?18行)
(x)「フイルタ回路200の出力信号が一定時間内に一定のパルス数以上のとき後述するトラツキングサーボはずれ信号を検出するカウンタ回路400」(5頁右下欄13?15行)
(xi)「なお、上述した実施例では、トラツキングサーボはずれ信号を、トラツキング再引き込みを行うために、上位コントローラにトラツキングはずれを知らせる信号としたが、フオーカス引き込み時にフオーカスサーボが記録媒体面に引き込まれたかどうかを検出する信号として共用できる。」(8頁右上欄16行?左下欄1行)

(3)対比・判断
〔対比〕
本件補正後発明と、刊行物1発明及び刊行物1の【図1】を参酌しながら対比すると、
(a)刊行物1発明の「コンピューター装置よりディスクに記録されている情報を読み出すための命令信号がシステム制御回路に対して出力」は、出力後のステップに「ディスクの回転数を速やかに目標の回転数にするための回転加速度の設定動作が行われ(ステップB)」ることをともなうもので、目標の回転数とは「6倍、8倍及び10倍等、」(上記(2)の【0005】)の速度に対応するものであるから、刊行物1発明の「スピンドルモーターの回転制御方法」は、本件補正後発明の「情報の再生時のディスクドライブの倍速制御方法」及び「ディスクドライブの倍速制御方法」に相当する。
(b)刊行物1発明の「先ず信号を読み出すための目標の回転数を設定し(ステップA)、目標とする回転数が設定されると、次にディスクの回転数を速やかに目標の回転数にするための回転加速度の設定動作が行われ(ステップB)」は、速度設定の入力の有無をみてその速度設定動作をするもので、速度設定のためには判断するステップがあることから、本件補正後発明の「(a)倍速変更命令が入力されるかどうかを判断する段階」に相当する。
(c)刊行物1発明の「ディスクの目標回転数及び回転加速度を設定した後スピンドルモーターの加速動作を行うとともに(ステップC)」は、目標回転数を設定した後回転加速動作する制御ステップであるから、本件補正後発明での「(b)前記倍速変更命令に応じて目標倍速にスピンドルモータの速度を制御する段階」に相当する。
(d)刊行物1発明の「ディスクの目標回転数及び回転加速度を設定した後スピンドルモーターの加速動作を行うとともに(ステップC)、加速途中のサーボ状態をチェックし(ステップD)、サーボ状態が異常状態になったと判断されたとき(ステップE)」について、上記「ディスクの目標回転数及び回転加速度を設定した後スピンドルモーターの加速動作を行う」は本願補正後発明での「(c)現在の倍速が目標倍速に達するまで」の段階であり、加えて上記「スピンドルモータの加速動作を行うとともに(ステップC)、加速途中のサーボ状態をチェックし(ステップD)、」とするサーボ状態のチェックについてはディスクに起因する反射光量の変化を電圧信号値に変え、この値を所定値と比較してサーボ状態の異常(エラー)をみて判断していくステップであることを普通に想定できるので、本件補正後発明での「(サーボ)エラー信号に含まれたディスクに起因する非正常的な所定の臨界電圧を超える(サーボ)エラー」をみていることであり、結局上記(ステップC,D,E)は本願発明の「(c)現在の倍速が目標倍速に達するまで、(サーボ)エラー信号に含まれたディスクに起因する非正常的な所定の臨界電圧を超える(サーボ)エラー」をみていることに相当する。
(e)刊行物1発明の「サーボ状態が異常状態になったとき(ステップE)、スピンドルモーターの加速動作を停止させるとともに(ステップH)、サーボの立て直し動作が所定回数行われたとき(ステップK)、」は、ディスクを駆動するスピンドルモータを倍速に加速するステップにおいて、サーボ状態が異常状態となったとき立て直し動作を行い、立て直し動作が所定回数行われた時点で一つ判断処理をするステップである。
そして、「立て直し動作が所定回数」とは、サーボ状態をとれない場合の回数で、結果としてサーボエラー(所定の臨界電圧を超えてしまった状態)の所定回数をみて判断していることであるから、これは本件補正後発明の「(d)前記段階(c)でカウンティングされた(サーボ)エラー(の回数)が臨界個数を超える場合にディスク(に係る)検出信号を生成させる段階」と共通する。
(f)刊行物1発明の「サーボの立て直し動作が所定回数行われたとき(ステップK)、
目標回転数を1段階下げる(ステップY)」は、上記(v)と関連して「サーボの立て直し動作」が「所定回数行われた」結果を踏まえて判断するとしている。サーボの立て直しはサーボ状態が正常でない状態にあってするもので、ディスクに関しての少なくともサーボ状態が異常状態であることの回数をカウンティングして、所定回数を越えている場合に「目標回転数を1段階下げる」と理解できるから、これは本件補正後発明の「所定の臨界電圧を超える(サーボ)エラー(の回数)をカウンティングする段階と、
(d)前記段階(c)でカウンティングされた(サーボ)エラー(の回数)が臨界個数を超える場合にディスク(に関する)検出信号を生成させる段階と、
(e)前記ディスク(に関する)検出信号が生成される場合、前記目標倍速を現在倍速より低い倍速に変更させる段階」と共通する。

結局のところ、本件補正後発明と刊行物1発明との[一致点]及び[相違点]は以下のとおりである。

[一致点]
「情報の再生時のディスクドライブの倍速制御方法において、
(a)倍速変更命令が入力されるかどうかを判断する段階と、
(b)前記倍速変更命令に応じて目標倍速にスピンドルモータの速度を制御する段階と、
(c)現在の倍速が目標倍速に達するまで、(サーボ)エラー信号に含まれたディスクに起因する非正常的な所定の臨界電圧を超える(サーボ)エラー(の回数)をカウンティングする段階と、
(d)前記段階(c)でカウンティングされた(サーボ)エラー(の回数)が臨界(回数)を超える場合にディスク(に関する)検出信号を生成させる段階と、
(e)前記ディスク(に関する)検出信号が生成される場合、前記目標倍速を現在倍速より低い倍速に変更させる段階と、
を含むディスクドライブの倍速制御方法。」の点。

[相違点]
イ)ディスクドライブ状態について、本件補正後発明は「情報の記録又は再生時」と記録時を含んでいるが、刊行物1発明にはこの構成がない点。

ロ)ディスクの非正常な状態の検出について、本件補正後発明は「ディスクのクラックのみに起因する」非正常な状態を対象として、非正常的な状態の検出は「所定の測定周期で、トラッキングエラー信号に含まれた」と、所定の測定周期でのトラッキングエラー信号を対象として、「非正常的なパルスを感知するための所定の臨界電圧を超えるトラッキングエラー信号の個数をカウンティング」して、「トラッキングエラー信号の個数が臨界個数を超える場合にディスククラック検出信号を生成」するのに対して、刊行物1発明にはこの構成がない点。

〔判断〕
相違点イ)について
ディスクプレーヤにおいて、スピンドルモータの加速動作を制御する回転制御方法についての倍速制御を、ディスクからの情報の再生時だけでなく、ディスクへの記録時においても採用することは周知であるから、上記相違点イ)の「情報の記録又は再生時」とする構成は、当業者が容易に想到できるものである。

相違点ロ)について
先ず、ディスクのドライブ装置において、サーボ状態で異常状態であるか否かをみようとする場合に、サーボ状態とは「トラッキングサーボエラー」ないし「フォーカスサーボエラー」を通常想定する。本件補正後発明がサーボ状態の異常状態の検出信号の対象を「トラッキングエラー信号のみに起因する」と限定するにしても、フォーカスエラー状態と双方をみれば最良であることは、請求人も本願の明細書に「トラッキングエラー信号及びフォーカスエラー信号の双方を用いてクラック発生の有無を判断することができる。」(【0028】)と記載しているところである。ディスクの非正常な状態の検出についてフォーカスエラー状態を除外するとすれば自ずと「トラッキングエラー状態」になることも踏まえ、本件補正後発明「トラッキングエラー状態のみに起因」なるは単なる限定で必要に応じて適宜なしえる事項である。
次に、刊行物1にはサーボ状態の異常検出について、「ディスクの中には、重心が中心よりずれた偏重心ディスクと呼ばれるディスクがあり、斯かるディスクを高速回転状態にて再生した場合異常振動が発生し、異音を発生する」(上記2.(2)(ii)【0006】)、「ディスクプレーヤーにおいてもディスクの回転速度を目標の回転速度まで急速に加速させている途中で振動による影響を受け、サーボ状態が異常の状態になることがある。斯かる場合には、サーボの立て直し動作が行われるが、再びサーボ状態が異常となり、立て直し動作が繰り返し行われたままの状態になるという問題がある。」(上記2.(2)(iii)【0008】)と記載しているところ、刊行物1発明は、本件補正後発明のように「ディスクのクラック」を対象としたサーボ状態が異常状態であるかをみているものではない。しかしながら、目標とする回転数が設定され、ディスクの回転数を速やかにその目標の回転数にするための回転加速度の設定動作を、加速途中の段階からサーボ状態が異常状態でないことを確認しつつ最終の設定動作に移行可能か否かを判断する技術を開示する構成のものである。
そして、上記加速途中のサーボ状態が異常状態になったときの検出を、『偏重心ディスク』の場合に限定しなければならない特段の理由はなく、またディスクを使用していく環境においてディスク表面に、そもそもある、ないし、その後生じる「傷などの割れ目(クラック)」について、サーボ状態の異常トラックはずれとして検出できることが、刊行物2に記載(上記2.(2)(vii))されている。また、「傷など」が検出される傷の形態については種々あるとしても、ディスク表面で半径方向の線状(太い/細い線状の場合、多数集中している場合等)であればそれが周期的エラーの個数となって検出されることは技術常識的に自明で、このような場合をも含めて「出力信号が所定の測定周期である一定時間内に一定のパルス数以上のトラッキングサーボはずれ信号(要するに個数)をカウンタ回路をもって検出できる」ことが刊行物2から認識できる(上記2.(2)(vi)(vii)(ix)(x))ところである。
とすれば、刊行物1発明のものは、少なくともサーボ状態が異常状態であることの回数をカウンティングして、これが所定回数(「臨界個数」とは表現上の相違である)の場合に「目標回転数を1段階下げる」とする発明、要するに、高速回転に耐えられないディスクを対象として、目標倍速を現在倍速より低い倍速に変更する技術的思想のものであるから、ディスク表面にクラック(傷などの割れ目)があっての高速回転での破損可能性についても考慮しつつ、「所定の測定周期で、トラッキングエラー信号に含まれた」所定の測定周期でのトラッキングエラー信号を対象として、「非正常的なパルスを感知するための所定の臨界電圧を超えるトラッキングエラー信号の個数をカウンティング」して、「トラッキングエラー信号の個数が臨界個数を超える場合にディスククラック検出信号を生成」する、上記相違点ロ)の構成は、当業者が容易に想到できるものである。

そして、上記各相違点についての判断を総合しても、本願発明の奏する効果は刊行物1及び刊行物2から当業者が十分に予測できたものであって、格別のものとはいえない。

結局、本件補正後発明は、刊行物1及び刊行物2に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3.補正についてのむすび
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


III.本願発明
1.本願発明
平成20年9月3日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願発明の請求項に係る発明は、平成17年9月9日付け手続補正で補正された特許請求の範囲に記載されたとおりのものと認められるところ、【請求項1】に係る発明は、上記II.〔理由〕1.-本件補正前-の【請求項1】に記載されたとおりのもの(以下「本願発明」という。)である。

2.刊行物
これに対して、原査定の拒絶の理由で引用された刊行物に記載された事項は、上記したとおりである(上記II.〔理由〕2.(2)刊行物及び記載された事項)。

3.対比・判断
本願発明は、上記II.で検討した本件補正後発明の構成から、ディスクドライブの倍速制御方法についての「情報の記録又は再生時のディスクドライブの倍速制御方法」、所定の臨界電圧についての「トラッキングエラー信号に含まれたディスクのクラックのみに起因する非正常的なパルスを感知するための所定の臨界電圧」から下線部の、「情報の記録又は再生時の」及び「トラッキングエラー信号に含まれたディスクのクラックのみに起因する非正常的なパルスを感知するための」を削除して上位概念の構成としたものである。
そうすると、本願発明の構成要件を実質的に全て含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本件補正後発明が、上記「II.〔理由〕2.(3)対比・判断」に記載したとおり、刊行物1及び刊行物2に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、本願発明も、同様の理由により当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、その出願前日本国内において頒布された刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-11-10 
結審通知日 2008-11-11 
審決日 2008-12-15 
出願番号 特願2001-285529(P2001-285529)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G11B)
P 1 8・ 575- WZ (G11B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岩井 健二齊藤 健一渡邊 聡  
特許庁審判長 江畠 博
特許庁審判官 小松 正
樫本 剛
発明の名称 ディスククラック検出方法及びこれを用いたディスクドライブの倍速制御方法  
代理人 伊東 忠彦  

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