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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C01B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C01B
管理番号 1196778
審判番号 不服2006-2315  
総通号数 114 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-06-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-02-09 
確定日 2009-05-07 
事件の表示 平成 7年特許願第 17064号「シリカゲル及びその製造法,並びに合成石英ガラス粉の製造法」拒絶査定不服審判事件〔平成 8年 8月13日出願公開,特開平 8-208214〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本件出願は,平成7年2月3日の出願であって,平成17年7月7日付けで拒絶理由が通知され(発送日は平成17年7月12日),平成17年9月12日付けで意見書及び明細書の記載に係る手続補正書が提出され,平成17年12月26日付けで拒絶査定がなされ(発送日は平成18年1月10日),平成18年2月9日に拒絶査定不服審判の請求がなされ,平成18年3月13日付けで明細書の記載に係る手続補正書が提出され,平成20年10月8日付けで特許法第164条第3項に基づく報告を引用した審尋が起案され(発送日は平成20年10月14日),平成20年12月12日付けで回答書が提出されたものである。

2.平成18年3月13日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成18年3月13日けの手続補正(以下,「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
(1)本件補正により,平成17年9月12日付けの手続補正書の特許請求の範囲
「【請求項1】
ゾルゲル反応により得られるシリカゲルであって,
異常粒子の個数が200個/10g以下であるとともに,
該異常粒子が,見かけ上はシリカゲル粒子と見分けがつかないが,窒素ガス流通下,800℃で15分間加熱することにより黒点として検出されるものである
ことを特徴とするシリカゲル。
【請求項2】
水分含有量が30重量%以下であることを特徴とする請求項1記載のシリカゲル。
【請求項3】
少なくとも反応容器を備えた反応装置を用い,該反応容器中でゾルゲル反応を行なうことにより,シリカゲルを製造する方法であって,
該反応容器の液又はシリカゲルが接する内壁部分を予めアルカリ洗浄することにより,該内壁部分に付着するスケール層を剥離限界厚み以下にした後,上記ゾルゲル反応を行なう
ことを特徴とするシリカゲルの製造法。
【請求項4】
請求項1又は2記載のシリカゲルを焼成することを特徴とする合成石英ガラス粉の製造法。
【請求項5】
少なくとも反応容器を備えた反応装置を用い,該反応容器中でゾルゲル反応を行なうことによりシリカゲルを製造した後,得られたシリカゲルを焼成することによる合成石英ガラス粉の製造法であって,
該反応容器の液又はシリカゲルが接触する内壁部分を予めアルカリ洗浄することにより,該内壁部分に付着するスケール層を剥離限界厚み以下にした後,上記ゾルゲル反応を行ない,
得られた水分含有量30重量%以下のシリカゲルを焼成することを特徴とする合成石英ガラス粉の製造法。
【請求項6】
得られる合成石英ガラス粉がFe,Crが各々1ppm以下,Na,Kが各々100ppb以下である
ことを特徴とする請求項4又は5記載の合成石英ガラス粉の製造法。
【請求項7】
請求項1又は2記載のシリカゲルを焼成し,更に溶融する
ことを特徴とする合成石英ガラス成形体。」
が,次のように補正された。
「【請求項1】 少なくとも反応容器を備えた反応装置を用い,該反応容器の液又はシリカゲルが接する内壁部分を予めアルカリ洗浄することにより,該内壁部分に付着するスケール層を剥離限界厚み以下にした該反応容器中で行うゾルゲル反応により得られるシリカゲルであって,
異常粒子の個数が200個/10g以下であるとともに,
該異常粒子が,見かけ上はシリカゲル粒子と見分けがつかないが,窒素ガス流通下,800℃で15分間加熱することにより黒点として検出されるものであることを特徴とするシリカゲル。
【請求項2】 水分含有量が30重量%以下であることを特徴とする請求項1記載のシリカゲル。
【請求項3】 少なくとも反応容器を備えた反応装置を用い,該反応容器中でゾルゲル反応を行なうことにより,シリカゲルを製造する方法であって,
該反応容器の液又はシリカゲルが接する内壁部分を予めアルカリ洗浄することにより,該内壁部分に付着するスケール層を剥離限界厚み以下にした後,上記ゾルゲル反応を行なう
ことを特徴とするシリカゲルの製造法。
【請求項4】 請求項1又は2記載のシリカゲルを焼成することを特徴とする合成石英ガラス粉の製造法。
【請求項5】 得られる合成石英ガラス粉がFe,Crが各々1ppm以下,Na,Kが各々100ppb以下である
ことを特徴とする請求項4記載の合成石英ガラス粉の製造法。
【請求項6】 請求項1又は2記載のシリカゲルを焼成し,更に溶融する
ことを特徴とする合成石英ガラス成形体。」

(2)本件補正は,平成17年9月12日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1における「ゾルゲル反応」を「少なくとも反応容器を備えた反応装置を用い,該反応容器の液又はシリカゲルが接する内壁部分を予めアルカリ洗浄することにより,該内壁部分に付着するスケール層を剥離限界厚み以下にした該反応容器中で行うゾルゲル反応」に限定し,請求項5を削除するものであって,平成6年法律第116号改正附則第6条によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項第1号及び第2号に掲げる事項を目的とするものである。
そこで,本件補正後の請求項6に記載された発明(以下,「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものかについて検討する。

(i)本願補正発明
本願補正発明は,上記の通り,
「【請求項6】 請求項1又は2記載のシリカゲルを焼成し,更に溶融する
ことを特徴とする合成石英ガラス成形体。」
であるから,請求項1を引用する場合の本願補正発明は,以下の通りのものであると認められる。
「【請求項6】少なくとも反応容器を備えた反応装置を用い,該反応容器の液又はシリカゲルが接する内壁部分を予めアルカリ洗浄することにより,該内壁部分に付着するスケール層を剥離限界厚み以下にした該反応容器中で行うゾルゲル反応により得られるシリカゲルであって,
異常粒子の個数が200個/10g以下であるとともに,
該異常粒子が,見かけ上はシリカゲル粒子と見分けがつかないが,窒素ガス流通下,800℃で15分間加熱することにより黒点として検出されるものであることを特徴とするシリカゲルを焼成し,更に溶融する
ことを特徴とする合成石英ガラス成形体。」

(ii)引用文献
原査定の拒絶の理由において引用された特開平6-340411号公報(以下,「引用文献1」という。)には次の事項が記載されている。
(ア)「テトラアルコキシシランを加水分解することにより得た湿潤シリカゲルを乾燥容器内で乾燥するにあたり,前記乾燥容器として,予めアルカリ金属系のアルカリ水溶液により容器内壁を洗浄したものを用いることを特徴とする合成石英ガラス粉末の製造方法。」(【請求項1】)
(イ)「本発明は半導体製造分野,特に1,000℃以上の高温度域で使用される超高純度石英ガラス製品の原料として好適な石英ガラス粉末を提供するものである。」(段落【0001】)
(ウ)「【課題を解決するための手段】・・・・・・ゾル・ゲル法による合成石英ガラス粉末の製造において,ゲルの乾燥工程に使用する乾燥容器の内部に付着した薄片状異物をアルカリ金属系のアルカリ水溶液にて定期的に溶解洗浄することにより,製品粉末中に薄片状異物の混入が無く,ひいては,ルツボやインゴットへの溶融成形時に発泡の少ない合成石英ガラス粉末を提供できることを見出し,本発明に到達した。」(段落【0005】)
(エ)「本発明方法においては,アルカリ金属系のアルカリ水溶液で,浸漬洗浄することにより,膜状付着物(成分はSiO_(2 ))が,・・・・溶解除去される。・・・・・・用いる水溶液の濃度としては,アルカリの種類や洗浄時の温度により異なるが,0.01重量%?10重量%位が適当である。この濃度が,あまり低すぎると,溶解速度が遅く,膜状異物の溶解可能量も小さくなるので好ましくない。アルカリ浸漬洗浄時の温度としては,通常,20?150℃,好ましくは,60?120℃がよい。洗浄温度が低い場合には,溶解速度が遅いため,浸漬時間に長時間を要す。例えば,1%のNaOH水溶液を用いて煮沸洗浄した場合には,100?500リットル程度の容器で90?120分と,短時間で十分である。また,溶解洗浄する頻度としては,・・・・・膜状付着物の成長状態を見ながら決定するのが一般的である。・・・・あまり不必要に短い周期で洗浄しても,時間を要し工業的でない。
・・・・・・・・・定期的に乾燥容器内壁を洗浄しながら,ゲルの乾燥を行ない,乾燥シリカゲル粉末を得る。このようにして得られる乾燥シリカゲル粉末を,1000?1400℃の温度範囲において焼成・無孔化し,合成石英ガラス粉末を得る。製品粉末中には,薄片状異物に起因する未燃カーボンを含んだ黒色異物は,ほとんどみられず,この粉末を用いて,インゴットを溶融成形すると,非常に泡の少ない透明なインゴットを得ることが出来る。」(段落【0009】?【0010】)
(オ)「 【実施例】・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
参考例
・・・コニカルドライヤー(円錐型乾燥器)に,常温でテトラメトキシシラン50kgおよび純水30kgを仕込み・・・両液の混合および加水分解反応を行なった。・・・・ゲル化させ・・・・・・湿潤ゲル体が得られた。次に,コニカルドライヤーのジャケット部に・・・水蒸気を流して加温し,・・・・乾燥を行なった。乾燥の終了した乾燥シリカゲル粉末は,・・・・粒度調整を行ない,以上の操作を繰り返し,同様の手順で20,40,60,80バッチ目のサンプルを採取した。・・・・・・次に,サンプリングした各サンプル1kgずつを1200℃まで200℃/Hrの速度で昇温し,1200℃で5時間保持した。冷却後,各サンプルを取り出し黒色異物の数を調べたところ,目視的に確認できるものが,1バッチ目は0個,20バッチ目で0個,40バッチ目で2個,60バッチ目で5個,80バッチ目で7個であった。さらに,各サンプルを酸素-水素炎の加熱によるベルヌイ型溶融装置を用いて溶融し,12mmφ×50mmのインゴットを作製し,発泡状態を調べた。・・・・・・・・・。
実施例1
参考例1において,40バッチを終了したところで,コニカルドライヤー内に1%NaOH水溶液130リットルを仕込み,・・・・1時間,内壁部の煮沸洗浄を行なった。その後,容器内のNaOH水溶液を抜き出し,容器内のNaOHを完全に取り除くため超純水130リットルを仕込んで,6rpmで5分間転動した後,抜き出す操作を5回繰り返した。洗浄後,再度,参考例1と同様の方法でゲルの加水分解・乾燥を行ない,40バッチ目ごとにアルカリ洗浄を行いながら運転を続けた。なお,アルカリ洗浄後の容器内壁部を観察したところ,膜状付着物は完全に溶解除去されていた。さらに,アルカリ洗浄後に乾燥させたシリカゲル中のNa濃度を測定したところ,0.01ppm未満で,問題なかった。また,サンプリングは,40,41,80,81バッチ目で行ない,参考例1と同様の評価を行なった。結果を表1に示す。
・・・・・・・・・・。
【表1】

」(段落【0011】?【0015】)
(カ)「【発明の効果】本発明により,発泡の無い透明な石英ガラス製品を作るのに適した合成石英ガラス粉末を提供することができる。」(段落【0016】)

(iii)対比・判断
(a)引用文献1には,(ア)に,「テトラアルコキシシランを加水分解することにより得た湿潤シリカゲルを,予めアルカリ金属系のアルカリ水溶液により容器内壁を洗浄した乾燥容器内で乾燥する合成石英ガラス粉末の製造方法」が,(エ)に,この「合成石英ガラス粉末」は,「ゲルの乾燥」を行ない,得られる「乾燥シリカゲル粉末」を「焼成」して得られることがそれぞれ記載されているといえる。
(b)引用文献1には,(イ)に,(ア)でいう「合成石英ガラス粉末」は,「半導体製造分野,特に1,000℃以上の高温度域で使用される超高純度石英ガラス製品」の原料であることが,(カ)に,この「石英ガラス製品」は「発泡の無い」ことがそれぞれ記載されているとみることができる。また,(エ)に,この「合成石英ガラス粉末」を「溶融成形」して「インゴット」を形成することが記載されているといえる。そして,(エ)でいう「インゴット」が,(イ),(カ)でいう「石英ガラス製品」の一例であることは明らかであるから,上記「合成石英ガラス粉末」は「溶融成形」されて「発泡の無い超高純度石英ガラス製品」になると認められる。
(c)引用文献1には,(オ)に,(ア)でいう「合成石英ガラス粉末の製造方法」の具体例が記載されており,実施例1では,「サンプリングは,40,41,80,81バッチ目で行ない,参考例1と同様の評価」,即ち,「各サンプル1kgずつを1200℃まで200℃/Hrの速度で昇温し,1200℃で5時間保持し,冷却後,各サンプルを取り出し黒色異物の数を調べ,目視的に確認」し,「さらに,各サンプルを酸素-水素炎の加熱によるベルヌイ型溶融装置を用いて溶融し,インゴットを作製し,発泡状態を調べ」,その結果を(オ)の表1に示したことが記載されているといえる。そして,この「インゴット」は,上記(b)で検討した「石英ガラス製品」に他ならない。また,(オ)の表1には,実施例1のサンプリングバッチ41,81として,「合成石英ガラス粉末」の「黒色異物の数」が「0個/kg」であり,「溶融時の発泡状態」は「泡は皆無」であるものが示されている。

上記(a)?(c)の検討を踏まえて,引用文献1の(ア),(イ),(エ)?(カ)の記載事項を,本願補正発明の記載ぶりに則って整理すると,引用文献1には,
「テトラアルコキシシランを加水分解することにより得た湿潤シリカゲルを,予めアルカリ金属系のアルカリ水溶液により容器内壁を洗浄した乾燥容器内で乾燥し,焼成して得られた合成石英ガラス粉末であって,1200℃まで200℃/Hrの速度で昇温し,1200℃で5時間保持した後の黒色異物の数が0個/kgであり,溶融時の泡は皆無である合成石英ガラス粉末を溶融成形した発泡の無い超高純度石英ガラス製品。」
の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

次に,本願補正発明と引用発明を対比する。
(d)引用発明において,「加水分解」反応を行っているから,少なくとも 「反応容器」を備えた「反応装置」を当然に用いているといえる。このことは,引用文献1には,(オ)に,「コニカルドライヤー(円錐型乾燥器)に,常温でテトラメトキシシラン50kgおよび純水30kgを仕込み・・・両液の混合および加水分解反応を行なった」ことが記載されており,「コニカルドライヤー」を「反応容器」として用いることが示されていることにも裏付けられている。
(e)引用発明において,「テトラアルコキシシランを加水分解」することにより「湿潤シリカゲル」を得ることが,(ウ)でいう「ゾル・ゲル法」により「ゲル」を得ることを指すことは明らかである。
(f)本願明細書には,実施例1として,「反応機にテトラメトキシシランと,これに対して5倍当量の水を仕込み,65℃で30分間反応させ,ウエットゲルを得た。・・・・ゲルを4時間水洗・乾燥し,水分含有量約10重量%のドライゲルを得た。・・・・・・ドライゲルを・・・焼成し,合成石英ガラス粉を得た。・・・・この合成石英ガラス粉を・・・溶融し」(段落【0009】?【0010】)と記載されているから,本願補正発明における「ゾルゲル反応により得られるシリカゲル・・・・を焼成し,更に溶融する」ことには,「テトラメトキシシランと水を反応」させる「ゾルゲル反応」により得られた「ウエットゲル」,即ち「湿潤ゲル」を「乾燥」し,「焼成」して得た「合成石英ガラス粉」を「溶融」することが含まれるものといえる。そして,上記(e)の検討を踏まえると,引用発明において,「テトラアルコキシシランを加水分解することにより得た湿潤シリカゲルを・・・乾燥し,焼成して得られた合成石英ガラス粉末・・・・を溶融」することは,本願補正発明における「ゾルゲル反応により得られるシリカゲル・・・・を焼成し,更に溶融する」ことに相当するとみることができる。
(g)引用発明において,「超高純度石英ガラス製品」は,「合成石英ガラス」の粉末を溶融し,「成形」したものであるから,「合成石英ガラス」の「成形体」に他ならない。
(h)本願明細書の段落【0004】には,「石英ガラス体の気泡は・・・ゲルに混入した異常粒子に由来するものが存在する・・・。・・・・ゾルゲル法で用いられる反応槽,乾燥器,配管等の装置内壁面には硬い,緻密なシリカ前駆体から成るスケールが生成,付着しており,かかるスケールが,ゾルゲル反応により得られたシリカゲルに混入する。かかるスケールから成る粒子は見掛け上はその他のシリカゲルとは判別できないが,・・・・その後の乾燥,焼成によっても,容易に有機基由来のカーボンが脱却せず,ゲルを焼成して得られる合成石英ガラス粉中に残る。これらのカーボン成分は,合成石英ガラス粉を溶融加工して石英ガラス体とする際,燃焼しガスを発生させる為,得られる石英ガラス体は泡を含有することになる。」と記載され,また,段落【0010】には,実施例1として,「窒素ガス流通下,800℃で15分間加熱した後・・・・目視により黒点粒子の数を計測することによりドライゲル中の異常粒子の数を調べた・・・また,・・・ドライゲルを・・・焼成し,合成石英ガラス粉を得た。得られた合成石英ガラス粉・・・を目視観察した所,黒点粒子の個数は1個であった。」と記載されている。
そうすると,本願補正発明の「異常粒子」とは,ゾルゲル法で用いる装置内壁面から混入した「スケールから成る粒子」であって,焼成により,「石英ガラス体」,即ち,「合成石英ガラス成形体」の「泡」の原因となる「カーボン」からなる「黒点粒子」を生ずるものであるから,この「異常粒子」は,「合成石英ガラス成形体」に,カーボン由来の「泡」が生じる原因となる異物とみることができる。
一方,引用発明の黒色異物は,(ウ)及び(エ)の記載事項からみて,ゾル・ゲル法に使用する乾燥容器の内部に付着した薄片状異物に起因する未燃カーボンであり,「インゴット」,即ち,「合成石英ガラス成形体」に,カーボン由来の「泡」が生じる原因となる異物であるといえる。
よって,引用発明の「黒色異物」と,本願補正発明の「異常粒子」とは,合成石英ガラス成形体にカーボン由来の泡が生じる原因となる異物である点で共通するものとみることができる。

したがって,本願補正発明と引用発明とは,
「少なくとも反応容器を備えた反応装置を用い,該反応容器中で行うゾルゲル反応により得られるシリカゲルを焼成し,更に溶融する合成石英ガラス成形体であって,合成石英ガラス成形体にカーボン由来の泡が生じる原因となる異物の個数を特定した合成石英ガラス成形体。」である点で一致し,以下の点で一応相違する。

相違点:異物につき,本願補正発明は,「反応容器の液又はシリカゲルが接する内壁部分を予めアルカリ洗浄することにより,該内壁部分に付着するスケール層を剥離限界厚み以下にした該反応容器中で行うゾルゲル反応により得られるシリカゲル」における「異常粒子」であって,その「個数が200個/10g以下であるとともに,見かけ上はシリカゲル粒子と見分けがつかないが,窒素ガス流通下,800℃で15分間加熱することにより黒点として検出されるもの」であるのに対して,引用発明は,「湿潤シリカゲルを,予めアルカリ金属系のアルカリ水溶液により容器内壁を洗浄した乾燥容器内で乾燥し,焼成して得られた合成石英ガラス粉末」における「黒色異物」であって,「1200℃まで200℃/Hrの速度で昇温し,1200℃で5時間保持した後の数が0個/kgであり,溶融時の泡は皆無である」点。

ここで,上記相違点について検討する。
(i)上記相違点における本願補正発明の「反応容器の液又はシリカゲルが接する内壁部分を予めアルカリ洗浄することにより,該内壁部分に付着するスケール層を剥離限界厚み以下に」すること(以下,「特定事項A」という。)についてみてみる。
本願明細書段落【0007】の「異常粒子の個数を制御するには・・・・望ましくは予め,ゲルの調製過程における混入を防止するのが望ましい。そのためにはゾルゲル反応の反応装置,すなわち反応容器,配管,粉砕機,乾燥器等,液又はゲルと接触する内壁部分を有する装置において,かかる内壁部分のスケール層を剥離限界厚み以下とした反応装置を用いるのが簡便である。スケール層を剥離限界厚み以下におさえるとは,スケールの剥離・脱落が実質的に無視できる範囲内の厚みとすることであり,通常は2mm以下である。よって2mm以上の厚みになったら,内壁部分を洗浄する。この洗浄方法は・・・・例えば,アルカリ洗浄等で行なわれる。」との記載をみると,この特定事項Aは,シリカゲルにおける異常粒子の個数を200個/10g以下とするためのものであることは明らかである。
(j)上記相違点に係る引用発明の「予めアルカリ金属系のアルカリ水溶液により容器内壁を洗浄」することについてみてみると,(エ)の記載事項から,この洗浄は,黒色異物の数を0個/kgとするためのものであることは明らかである。
(k)そうすると,上記相違点は,異物につき,本願補正発明は,「シリカゲル」における「異常粒子」であって,その「個数が200個/10g以下であるとともに,見かけ上はシリカゲル粒子と見分けがつかないが,窒素ガス流通下,800℃で15分間加熱することにより黒点として検出されるもの」であるのに対して,引用発明は,「合成石英ガラス粉末」における「黒色異物」であって,「1200℃まで200℃/Hrの速度で昇温し,1200℃で5時間保持した後の数が0個/kgであり,溶融時の泡は皆無である」点とすることができる。
(l)そこで,この相違点について検討する。
本願補正発明の異物は,「シリカゲル」におけるものであるが,引用発明のものは,「合成石英ガラス粉末」におけるものであり,異物を比べる対象が異なるから,異物を直接対比することはできない。
ところで,本願明細書の段落【0009】?【0012】には,実施例1,2として以下の記載がある。
「実施例1
・・・・ドライゲルのうち10gを精秤し,電気炉中,窒素ガス流通下,800℃で15分間加熱した後,電気炉から取りだし,目視により黒点粒子の数を計測することによりドライゲル中の異常粒子の数を調べた所,10個であった。また,分級後のドライゲルを回転炉中,空気流通下,室温から1200℃まで4時間かけて昇温して焼成し,合成石英ガラス粉を得た。得られた合成石英ガラス粉50gを目視観察した所,黒点粒子の個数は1個であった。この合成石英ガラス粉を・・・・溶融し10gの石英ガラスインゴットを得た。目視観察した所,このインゴットに泡は見出されず,良質のものであった。
実施例2
・・・・実施例1同様の方法でこれらのゲルの焼成を行ったところ,得られた合成石英ガラス粉中の黒点粒子の数は,各々50g中1?3個の範囲内であった。更にこれらの合成石英ガラス粉を,実施例1同様の方法で溶融し10gのインゴットとしたところ,いずれも泡の見出されない,良質のものが得られた。更に,実施例1同様の操作により反応・粉砕・乾燥・分級を通算100回まで繰り返した後,全装置をカ性ソーダ・・・で・・・洗浄し,装置内壁のスケールを除去した。アルカリ洗浄後の1回目,すなわち通算101回目の反応・粉砕・乾燥・分級を行ったところ,実施例1同様の800℃加熱により黒点として検出した異常粒子の数はゲル10g中,2個であった。この分級後のドライゲルについても実施例1同様の方法により焼成を行ったところ,得られた合成石英ガラス粉は,50g中黒点粒子は0個であった。また,この合成石英ガラス粉を実施例1同様の方法で溶融し10gのインゴットとしたところ,泡のない,良質なものであった。」
この記載には,本願補正発明における「シリカゲル」を焼成して得た「合成石英ガラス粉」の「黒点粒子」,即ち,引用発明でいう「黒色異物」についての言及がある。しかし,引用発明と「合成石英ガラス粉」を得るための焼成条件が異なっているため,この「黒点粒子」と引用発明の「黒色異物」とを比較することによって,「シリカゲル」の異物について,本願補正発明と引用発明とを対比することはできない。
しかし,実施例1,2には,「石英ガラスインゴット」,即ち,「合成石英ガラス成形体」には「泡」の「ない」ことが明言されている。
一方,上記相違点に係る引用発明の特定事項には「溶融時の泡は皆無」である事項が含まれており,引用発明は,この「溶融時の泡は皆無」である「合成石英ガラス粉末」を「溶融成形した発泡の無い超高純度石英ガラス製品」である。
(m)そうすると,上記相違点に係る本願補正発明の特定事項である,シリカゲルにおける異物に対して,本願明細書の実施例1,2に係る記載を基にした合成石英ガラス粉の黒点粒子に置き換えて,引用発明と対比したとしても,黒点粒子を得るための焼成条件が異なるから,「シリカゲル」の異物について,本願補正発明と引用発明とを対比することはできないが,上述の通り,本願補正発明の異物も引用発明の異物も,共に,合成石英ガラス成形体にカーボン由来の泡が生じる原因である異物である点において実質的に差異はなく,異物についての上記相違点に係る特定事項が同一であるか否かにかかわりなく,引用発明の「合成石英ガラス成形体」も本願補正発明のものと同様に「泡」はないものであるから,「合成石英ガラス成形体」という「物」に係る発明として,本願補正発明と引用発明とを対比した際に,その差は何ら認められない。
(n)また,(l)で検討した,本願明細書の実施例1,2における「合成石英ガラス粉」は,「室温から1200℃まで4時間かけて昇温して焼成」されたものであるから,引用発明の「1200℃まで200℃/Hrの速度で昇温し,1200℃で5時間保持」する焼成条件と類似した焼成条件により得られたものであり,この「合成石英ガラス粉」は,「合成石英ガラス成形体」を得るための溶融原料である点で,引用発明の「合成石英ガラス粉」と共通するとみることもできる。そうすると,溶融原料となる「合成石英ガラス粉」は,本願明細書の実施例1,2のものは,泡の原因となる黒点粒子の数は0?3個/50gであるのに対し,引用発明は0個/kgであるから,溶融原料の「合成石英ガラス粉」の「泡」の生じやすさにつき,引用発明は本願発明と同レベルであるか,さらに泡が生じにくいものとみることができる。このことは,引用発明の「合成石英ガラス成形体」が本願補正発明のものと同様に「泡」の発生がないという上記判断と矛盾しない。
よって,上記相違点は実質的なものとはいえず,本願補正発明は,引用発明と同一であるといわざるを得ない。
(o)ここで,上記相違点に係る本願補正発明における「異常粒子」に巻き込まれた不純物について検討する。
本願明細書の段落【0007】には,「異常粒子は,装置内壁を構成する金属成分をもまき込んでいることが多く,得られる合成石英ガラス粉,ひいてはこれを溶融してなる石英ガラス体への金属不純物の混入を引起すおそれのあるものである」,及び「本発明により得られる合成石英ガラス粉は,他元素の不純物含有量も極めて少ない,例えばFe,Crは1ppm以下,Na,Kは100ppb以下,のものとなる。これはスケールの混入,脱落等による壁面素材からの不純物混入が防止できるためと考えられる」との記載があり,本願補正発明は,異常粒子の数を少なくしたことにより不純物含有量も少ない旨の開示があるといえる。
一方,引用文献1には,黒色異物の数と不純物含有量との関係について言及はなく,引用発明のシリカゲルにおける異常粒子の個数が本願補正発明と同一でない場合には,本願補正発明と引用発明とは,合成石英ガラス成形体の不純物含有量が異なり,両者は異なった発明であるとみられないこともない。
そこで,この点について検討する。
引用発明は,(イ)に記載されるように,「半導体製造分野,特に1,000℃以上の高温度域で使用される超高純度石英ガラス製品」であり,本願補正発明の「単結晶引上げ用るつぼ等の半導体産業」(段落【0003】)と用途が重複している。
そうすると,引用発明の合成石英ガラス成形体は,本願補正発明のものと同水準の不純物含有量を有しているとみることができ,本願補正発明と引用発明とは不純物量においても差異がないということができる。そして,「合成石英ガラス成形体」の不純物は,原料,触媒等,本願補正発明の異常粒子以外からも由来するものであり,「合成石英ガラス成形体」において,本願補正発明における異常粒子の個数により不純物を低減したものと他の由来の不純物を低減したものとを区別することはできないから,異常粒子の個数にかかわらず,上記の通り用途が共通している点からみて,本願補正発明と引用発明とは,不純物含有量に差異がないとする上記判断と矛盾しない。
(p)以上検討したとおり,上記相違点は,「合成石英ガラス成形体」という「物」に係る発明として,本願補正発明と引用発明とを対比した際に実質的なものとはいえず,本願補正発明と引用発明とは差異がない。
そして,仮に,上記相違点に係る特定事項により「合成石英ガラス成形体」における「泡の形成」又は「不純物含有量」について差異があるとしても,引用発明において,半導体製造分野で使用できるように,石英ガラス成形体を,発泡が無くかつ不純物含有量が低減されたものとすることは,引用文献1及び原査定の拒絶の理由に引用された特開平5-4827号公報(以下,「引用文献2」という)に基づいて,例えば,カーボン及び不純物含有量の低減された石英ガラス粉を用いることにより,当業者が困難なくなし得ることである。

したがって,本願発明は,引用文献1に記載された発明であるか,仮にそうでないとしても,引用文献1,2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第1項第3号に該当し,または,同条第2項の規定により,特許を受けることができない。

(iV)まとめ
以上のとおりであるから,本願補正発明は,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(3)むすび
したがって,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明
平成18年3月13日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので,本願の請求項7に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,平成17年9月12日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項7に記載されたとおりのものであって,「前記2.(1)」に記載したとおりのものである。
そして,請求項1を引用する場合の本願発明は,以下の通りのものであると認められる。
「ゾルゲル反応により得られるシリカゲルであって,
異常粒子の個数が200個/10g以下であるとともに,
該異常粒子が,見かけ上はシリカゲル粒子と見分けがつかないが,窒素ガス流通下,800℃で15分間加熱することにより黒点として検出されるものである
ことを特徴とするシリカゲルを焼成し,更に溶融する
ことを特徴とする合成石英ガラス成形体。」

4.引用文献
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献(特開平6-340411号公報)及びその記載事項は,「前記2.(2)(ii)」に記載したとおりである。

5.対比・判断
本願発明は,「前記2」で検討した本願補正発明に関して,「少なくとも反応容器を備えた反応装置を用い,該反応容器の液又はシリカゲルが接する内壁部分を予めアルカリ洗浄することにより,該内壁部分に付着するスケール層を剥離限界厚み以下にした該反応容器中で行うゾルゲル反応」を,「ゾルゲル反応」とするものである。
してみると,本願発明の特定事項を含み,さらに,ゾルゲル反応につき,所定の反応容器中で行うことを限定したものである本願補正発明が,「前記2」に記載したとおり,引用文献1に記載された発明であり,仮にそうでないとしても引用文献1,2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願補正発明と同様の理由により,本願発明も,引用文献1に記載された発明であり,仮にそうでないとしても引用文献1,2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

6.回答書の主張について
請求人は,平成20年12月12日付けで提出した回答書において,
「引用文献1においては,合成石英中の黒点を減らすために,シリカゲル製造時の乾燥容器の洗浄を行なっているが,乾燥容器の洗浄では,シリカゲル中の異常粒子の数を十分に減らすことは困難である。
具体的には,平成18年4月21日提出の手続補正書(方式)にて示した追加実験にて,引用文献1の条件とは異なる条件であるが,100回の繰り返し反応(シリカゲル製造)後,反応容器のみを洗浄した例と,乾燥容器のみを洗浄した例とを示している。反応容器のみを洗浄した例では異常粒子の数が7個/10gであり,乾燥容器のみを洗浄した例では異常粒子の数が187個/10gであり,これらに非常に大きな差があることが示されている。したがって,乾燥容器のみを洗浄した場合にはシリカゲル中の異常粒子を十分に減らすことが困難であることは明らかである。・・・・引用文献1では,合成石英中の黒点を少なくすることで,インゴッドとしたときに泡を低減しようとしているものであるが,引用文献1の実施例では泡が生じているものがある。この点から考えても,泡が生じないという効果において,本願発明は引用文献1より優れた効果を奏する。」(第4頁第1行?同頁第23行)と主張する。
しかし,上記追加実験は,乾燥器を0.1%の苛性ソーダ水溶液で80℃3時間洗浄するものであって,引用文献1の,前記「2.(2)(ii)(エ)」に記載される「アルカリ金属系のアルカリ水溶液で,浸漬洗浄する・・・・水溶液の濃度としては・・・・0.01重量%?10重量%位・・・・アルカリ浸漬洗浄時の温度としては,通常,20?150℃」(段落【0009】)という洗浄条件に含まれる一例を行ったものにすぎず,引用発明は,この条件よりも洗浄力の大きい他の条件で洗浄したものを含むから,上記追加実験の結果を直ちに引用発明のシリカゲルの異常粒子の数として採用し,本願補正発明と対比することはできない。しかも,上記主張において「乾燥容器の洗浄では,シリカゲル中の異常粒子の数を十分に減らすことは困難である」として示された追加実験の「異常粒子の数が187個/10g」という結果は,本願補正発明の「異常粒子の個数が200個/10g以下」に含まれており,上記主張は本願補正発明と対応していない。
仮に,引用発明のシリカゲルと本願補正発明のシリカゲルの異常粒子の数が異なるとしても,前記「2.(2)(iii)」で詳述したとおり,引用発明と本願補正発明とは,何れも泡がないものであるから「合成石英ガラス成形体」としての差異は見出せない。また,引用文献1の実施例には,請求人が主張するように泡の生じているインゴットについても記載があるが,前記「2.(2)(ii)(オ)」には,実施例1のサンプリングバッチ41,81として,泡は皆無であるものが記載されているのだから,これらのバッチで得られる引用発明の「石英ガラス成形体」は,上述のとおり,本願補正発明と差異があるとはいえない。したがって,請求人の上記主張は採用できない。

なお,請求人は,上記回答書において,さらに,以下のように主張する。
(あ)「上述の追加実施例及び追加比較例において,反応容器のみを洗浄した例と,乾燥容器のみを洗浄した例とでは異常粒子の個数に,7個/10gと187個/10gという大きな差があるが,この結果を理由として,前置報告書に記載されたように,本願発明の新規性が否定されるとのご認定がなされる場合には,・・・・・請求項1における異常粒子の数を「100個/10g以下」とする手続補正の用意がある。」(第4頁第24行?同頁第29行)
(い)「本願発明は,アルカリ洗浄によって反応容器の内壁部分のスケール層を「剥離限界厚み以下」とすることによって,例え,スケール層が少し残っていたとしても,異常粒子の数が少ないシリカゲルが得られることを見出したものである。したがって,本願発明は,アルカリ洗浄することに特徴があるのではなく,内壁部分に付着するスケール層を剥離限界厚み以下とすることに特徴があり,このような技術的思想は,審査官殿が引用されたいずれの文献にも記載や示唆がない。」(第5頁第5行?同頁第11行)

そこで,これらの主張について以下に検討する。
(あ)について
本願明細書の段落【0007】には「異常粒子の個数を制御するには・・・・望ましくは予め,ゲルの調製過程における混入を防止するのが望ましい。そのためにはゾルゲル反応の反応装置,すなわち反応容器,・・・乾燥器等,液又はゲルと接触する内壁部分を有する装置において,かかる内壁部分のスケール層を剥離限界厚み以下とした反応装置を用いるのが簡便である。・・・・この洗浄方法は・・・・例えば,アルカリ洗浄等で行なわれる。」と記載されているから,本願発明は,上述の追加実施例のように予め反応容器のみをアルカリ洗浄するものだけではなく,予め反応容器と乾燥容器を共にアルカリ洗浄するものを含むものといえる。
一方,引用発明は,「予めアルカリ金属系のアルカリ水溶液により容器内壁を洗浄した乾燥容器内で乾燥」する特定事項を含むものであるが,引用文献1には,反応容器をアルカリ洗浄することは明記されていない。
ところで,引用文献1の前記「2(2)(ii)(オ)」の記載事項をみると,参考例として,「コニカルドライヤー(円錐型乾燥器)に,常温でテトラメトキシシラン50kgおよび純水30kgを仕込み・・・両液の混合および加水分解反応を行なった。・・・・コニカルドライヤーのジャケット部に・・・水蒸気を流して加温し,・・・・乾燥を行なった。・・・・以上の操作を繰り返し・・・・た」と記載されているから,「コニカルドライヤー」を反応器として用いて加水分解反応を行い,次に,同じ「コニカルドライヤー」を乾燥器として用いることが示されているといえる。そして,実施例1として,「参考例1において,40バッチを終了したところで,コニカルドライヤー内に1%NaOH水溶液130リットルを仕込み,・・・・煮沸洗浄を行なった。・・・・洗浄後,再度,参考例1と同様の方法でゲルの加水分解・乾燥を行ない,40バッチ目ごとにアルカリ洗浄を行いながら運転を続けた」と記載されており,この「参考例1」は上記「参考例」を指すものといえるから,コニカルドライヤーをNaOH水溶液によりアルカリ洗浄した後,参考例と同様に,このコニカルドライヤーにテトラメトキシシランおよび純水を仕込み加水分解反応を行う反応器として用いるものとみることができる。そうすると,引用文献1には,反応容器をアルカリ洗浄することの明記はないものの,実施例1は,予めアルカリ洗浄された反応容器で加水分解反応を行うものに他ならない。
さらに,製造装置の反応部を定期的にアルカリ溶液で洗浄して装置のシリカ沈着物を除去することは公知技術である(例えば,国際公開第93/24409号の第3頁第17行?第30行,第7頁第13行?第8頁第6行参照)。
そうすると,当業者がかかる公知技術を踏まえて,引用文献1の記載をみれば,実施例1において,予めアルカリ洗浄がなされた容器で加水分解がなされていることに着眼し,引用発明において,乾燥容器だけでなく,反応容器の内壁も予めアルカリ洗浄してシリカ沈着物を除去するという教示を得るものといえ,かかる教示により,シリカ沈着物に由来する異常粒子の数が「100個/10g以下」程度に低減されたシリカゲルを得ることは格別困難なくなし得ることである。よって,仮に,請求人が主張するとおりの補正がなされたとしても,請求項1に係る発明及びその従属請求項である本願補正発明は特許を受けることができない。
(い)について
引用文献1には,前記「2.(2)(ii)(エ)」に,「アルカリ水溶液で,浸漬洗浄することにより,膜状付着物(成分はSiO_(2 ))が・・・溶解除去される。・・・・・・・溶解洗浄する頻度としては,膜状付着物の成長状態を見ながら決定するのが一般的である」(段落【0009】)と記載されている。そうすると,上記「(あ)について」の項で検討したように,引用発明において,アルカリ水溶液によって乾燥器だけでなく反応容器も洗浄するに当たり,スケールといった容器内部のシリカ付着物の成長状態を見ながら,目的とするシリカ成形体が得られる範囲で,該付着物の厚みを剥離限界厚み以下程度とすることは当業者が適宜なし得ることである。

よって,これらの主張も採用できない。

7.むすび
以上のとおり,本願の請求項7に記載された発明は,引用文献1に記載された発明であるか,仮にそうでないとしても,引用文献1,2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第1項第3号に該当し,または,同条第2項の規定により,特許を受けることができない。
したがって,その余の請求項について論及するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-03-06 
結審通知日 2009-03-10 
審決日 2009-03-25 
出願番号 特願平7-17064
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C01B)
P 1 8・ 113- Z (C01B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 横山 敏志  
特許庁審判長 板橋 一隆
特許庁審判官 安齋 美佐子
木村 孔一
発明の名称 シリカゲル及びその製造法、並びに合成石英ガラス粉の製造法  
代理人 真田 有  

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