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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B28B
管理番号 1196798
審判番号 不服2006-16159  
総通号数 114 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-06-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-07-27 
確定日 2009-05-07 
事件の表示 平成 8年特許願第187402号「ジルコニア薄膜の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成10年 2月 3日出願公開、特開平10- 29205〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は平成8年7月17日の出願であって、平成17年7月12日付けで拒絶理由が通知され(発送日は同年7月26日)、平成17年9月26日付けで意見書・手続補正書が提出され、平成18年6月21日付けで拒絶査定され(発送日は同年6月27日)、その後、平成18年7月27日に拒絶査定不服審判請求され、同年8月11日付け手続補正書により明細書が補正され、平成20年10月7日付けで特許法第163条第3項に基づく報告書を引用した審尋が通知され(発送日は同年10月14日)、同年11月27日に回答書が提出されたものである。

2.平成18年8月11日付け手続補正書による補正についての補正却下の決定

[補正却下の結論]

平成18年8月11日付け手続補正書による補正を却下する。

[理由]

平成18年8月11日付け手続補正書による補正は、
(a) 平成17年9月26日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲(以下、「補正前の特許請求の範囲」という。)の請求項1に「二次粒子径が0.5?3μm(1.5μm以上を除く)である」を付け加え、
(b) 補正前の特許請求の範囲の請求項1の「ジルコニア粉末に、分散材、消泡剤及び溶剤を加えて混合分散した後、結合剤及び可塑剤を添加してスラリーを調製し」を「ジルコニア粉末に、結合剤、分散剤、消泡剤、可塑剤及び溶剤を添加してスラリーを調製し、このスラリーを真空脱泡し、溶剤の蒸発により粘度を調整してから」とし、
(c) 補正前の特許請求の範囲の請求項2が引用する同請求項1の「結合剤」を「結合剤を0.5?10重量部(8.8重量部以上を除く)」とし、 該請求項2を独立項とする、
補正事項を含むものである。
そこで、この補正事項(a)?(c)が適法なものか否かを検討する。
・補正事項(a)について
願書に最初に添付された明細書(以下、「当初明細書」という。)には、二次粒子径について、
(i)特許請求の範囲の請求項2に「二次粒子径が0.5?3μmであること」
(ii)【0024】の「実施例1」において、「二次粒子径が0.58μmであ」ること
(iii)【0030】の「実施例2」において、「二次粒子径が0.77μmであ」ること
(iv)【0031】の「比較例1」において、「二次粒子径が1.61μmであ」ること
が、それぞれ、記載されている。
しかし、当初明細書には、1.5μmという二次粒子径についても、また、二次粒子径を定める技術的意義についても何ら記載が見当たらない。
そうすると、当初明細書には本願発明の二次粒子径について、「0.5?3μm」の範囲にあることは記載されているが、この範囲にあることの技術的意義並びにこの範囲の中で「1.5μm以上を除く」こと及びその技術的意義については何等記載されていない。
また、当初明細書の全ての記載を考慮しても、この二次粒子径が「0.5?3μm」の範囲にあることの技術的意義やこの範囲の中で「1.5μm以上を除く」こと及びその技術的意義を導き出すことはできない。
よって、この補正事項(a)は、当初明細書の全ての記載を総合することにより導き出される技術的事項との関係において、新規な技術的事項を導入しないものとはいえない。
したがって、この補正事項(a)に係る補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反する。
・補正事項(b)について
補正事項2は、「ジルコニア粉末に、分散材、消泡剤及び溶剤を加えて混合分散した後、結合剤及び可塑剤を添加してスラリーを調製し」を「ジルコニア粉末に、結合剤、分散剤、消泡剤、可塑剤及び溶剤を添加してスラリーを調製し」とする補正事項(以下、「補正事項(b-1)」という。)と、新たに、「このスラリーを真空脱泡し、溶剤の蒸発により粘度を調整してから」を付け加える補正事項(以下、「補正事項(b-2)」という。)からなる。
補正事項(b-1)については、結合剤及び可塑剤の添加が「ジルコニア粉末に、分散材、消泡剤及び溶剤を加えて混合分散した後」から「ジルコニア粉末に、分散剤、消泡剤及び溶剤を添加」するときとなり、結合剤及び可塑剤の添加する時期が変更された。
補正事項(b-2)については、スラリーの「脱泡」や「粘度調整」について全く記載されていないにもかかわらず、「このスラリーを真空脱泡し、溶剤の蒸発により粘度を調整してから」が付け加えられた。
ところで、特許法第17条の2の第4項第2号に規定する事項を目的とする補正とは、特許請求の範囲を減縮するだけでなく、発明を特定するために必要な事項を限定するものでなくてはならないと解されるが、上記補正事項(b-1)は、添加する時期を変更するものであり、補正事項(b-2)は、補正前の請求項1にはスラリーの「脱泡」や「粘度調整」について全く記載されていなかったのだから、両補正事項は発明を特定するために必要な事項を限定するものではない。
また、この補正事項(b-1)及び(b-2)のいずれも、同条同項第1、3、4号を目的とする補正でないことは明らかである。
したがって、これら補正は、平成18年法律第55条改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反する。
なお、審判請求人は平成20年11月27日付け回答書において、この補正事項(b)に関し、平成18年法律第55号により改正された特許法第17条の2第4項第2号は本願には適用されない旨を主張するところ、上述のとおり、この補正は、改正された特許法第17条の2第4項ではなく、同法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するから、審判請求人の主張は採用できない。
・上記補正事項(c)について
当初明細書には結合剤の添加について、
(v)「結合剤の添加量については・・・・・・0.5?10重量%程度の添加量が好ましい」(【0010】)
(vi)「実施例1・・・・・・安定化ジルコニア粉末700g、分散剤として市販のポリカルボン酸エステル型高分子分散剤14g、消泡剤として市販のポリエチレングリコールモノ-パラ-イソ-オクチルフェニルエーテル試薬3.5g、溶剤として酢酸エチル245g及び酢酸n-ブチル245gを入れ、回転式ボールミルで混合分散し、さらに、結合剤としてブチラール樹脂(重合度約1000)粉末49g、及び可塑剤として、工業用のフタル酸ジオクチル42gを添加して引き続き回転式ボールミルで混合した。
・・・・・・実施例2・・・・・・約8モル%のイットリアを含有する安定化ジルコニア粉末を使用する以外は実施例1と同じ条件でジルコニア薄膜を得た。
」(【0024】?【0030】)
(vii)「比較例1・・・・・・実施例1と同じ条件、特に結合剤の量を同じにしてグリーンシートを作製した。・・・・・・比較例2・・・・・・結合剤の使用量を70gに多くしてジルコニア薄膜を作製した。」(【0031】?【0032】)
との記載がなされている。
この補正事項(c)に係る請求項2の記載は、「ジルコニア粉末に、結合剤を0.5?10重量部(8.8重量部以上を除く)・・・・・・を添加」であるから、結合剤の添加量はジルコニア粉末に対するものといえるが、この基準となるジルコニア粉末の重量部が特定されておらず、計算することはできない。仮に、ジルコニア粉末100重量部に対するものと解して計算を試みる。
まず、(v)の記載をもとに計算する。
(v)の添加量(割合)は、何に対する割合であるか明言はないから、スラリー全体に対する添加重量%と推認され、スラリー全体の重さは実施例1に記載されているもののみである。
そこで、実施例の記載をもとに計算してみると、結合剤以外のスラリー全体の重量は、
700+14+3.5+245+245+42=1249.5g
結合剤の重量をxgすると、
x/(1249.5+x)×100=0.5?10
これより、x=6.3?138.8g
ジルコニア粉末は700gであるから、ジルコニア粉末100重量部に対して結合剤は0.9(=6.3/7)?19.8(=138.8/7)重量部となり、上記数値範囲と重複する範囲は存在するものの「(8.8重量部以上を除く)」ことは導出できない。
次に、(vi)の記載をもとに計算する。
ジルコニア粉末700gに結合剤を49g添加しているからジルコニア粉末100重量部に対して結合剤は7(=49/7)重量部となり、上記数値範囲に含まれるものの「(8.8重量部以上を除く)」ことは導出できない。
さらに、(vii)の記載をもとに計算する。
ジルコニア粉末700gに結合剤を70g添加していると推定されるからジルコニア粉末100重量部に対して結合剤は10(=70/7)重量部となり、上記数値範囲の除外範囲に含まれるものの「(8.8重量部以上を除く)」ことは導出できない。
また、この「結合剤を0.5?10重量部(8.8重量部以上を除く)」とすることは、当初明細書の全ての記載を総合することにより導き出される技術的事項との関係において、新規な技術的事項を導入しないものとはいえない。
したがって、この補正事項(c)に係る補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反する。
仮に、特許法第17条の2第3項の規定に違反しないものであったとしても、補正前の特許請求の範囲の請求項2は、該請求項2が引用する同請求項1の「結合剤」に関し、添加量に関する特定はなされていない。
上記補正事項(b)の検討のところで述べたように、特許法第17条の2第4項第2号に規定する事項を目的とする補正とは、発明を特定するために必要な事項を限定するものでなくてはならないと解され、補正前の請求項2には結合剤の添加量について記載がなされていなかったのだから、この補正事項(c)は特許法第17条の2第4項第2号に規定する事項を目的とする補正とはいえない。また、この補正事項(c)は同条同項第1、3、4号を目的とする補正でないことは明らかである。
したがって、この補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反する。
さらに、審判請求人は上記回答書において、「結合剤を0.5?10重量%(8.1重量部%以上を除く)」とする補正案を示しているので、念のため検討する。なお、「8.1重量部%以上を除く」は、「8.1重量%以上を除く」の誤記とし、添加割合はスラリー全体に対するものと扱う。
上記(vi)をもとに結合剤の添加量を計算すると、
49/(700+14+3.5+245+245+49+42)×100=3.8重量%
上記(vii)をもとに結合剤の添加量を計算すると、
70/(700+14+3.5+245+245+70+42)×100=5.3重量%
となり、共に「0.5?10重量%」の範囲に含まれているものの「8.1重量%以上を除く」を導出することはできない。
また、この「結合剤を0.5?10重量%(8.1重量%以上を除く)」とすることは、当初明細書の全ての記載を総合することにより導き出される技術的事項との関係において、新規な技術的事項を導入しないものとはいえない。
したがって、この補正案に係る補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反する。
仮に、特許法第17条の2第3項の規定に違反しないものであったとしても、上述のとおり、補正前の特許請求の範囲の請求項2は、該請求項2が引用する同請求項1の「結合剤」に関し、添加量に関する特定はなされていないから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反する。
以上により、平成18年8月11日付け手続補正書による補正は特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明
上記のとおり平成18年8月11日付け手続補正書による補正は却下されたので、本願の請求項1?5に係る発明は平成17年9月26日付け手続補正書によって補正された請求項1?5に記載されたとおりのものであって、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「【請求項1】一次粒子径が500?800オングストロームであり、その表面積が3?10m^(2)/gであり、安定化剤を含有するジルコニア粉末に、分散剤、消泡剤及び溶剤を加えて混合分散した後、結合剤及び可塑剤を添加してスラリーを調製し、ドクターブレード装置を使用してキャリアーフィルム上にグリーンシートを成膜し、得られたグリーンシートを焼結することを特徴とするジルコニア薄膜の製造方法。」

4.引用発明
原査定の拒絶の理由に引用された本願出願前に頒布された刊行物である特開平4-37646号公報(以下、「引用文献」という。)には、以下の事項が記載されている。
(1)「(3)約500Å?600Åの一次粒子径を有する安定化ジルコニアまたは部分安定化ジルコニア500g当り、溶媒・・・・・・、結合剤・・・・・・、可塑剤・・・・・・、分散剤・・・・・・及び消泡剤・・・・・・を加え、・・・・・・の粘度に調整したスラリーを用いてドクターブレート法によって成膜することを特徴とするジルコニア系セラミックス膜の製造方法。」(請求項3) (なお、「ドクターブレート法」は「ドクターブレード法」の誤記と認める。)
(2)「ジルコニア粉末としてはイットリアを8mol%固溶させた安定化ジルコニア例えば東ソー社製商品名:・・・・・・TZ-8YSを用いた。」(6頁左上欄12?15行)
(3)「実施例2
・・・・・・ジルコニア粉末として一次粒子の粒子径か525ÅのTZ-8YSを使用した実施例を示す。・・・・・・ドクターブレード法により成膜した。
成膜したグリーンシートは、・・・・・・第6表の条件で焼成工程にかけられた。」(7頁右下欄4行?8頁左上欄8行)
(4)「第6表(焼成条件)
・・・・・・
1500℃ 5時間保持」(8頁右上欄1?6行)
ここで、上記(1)?(3)の記載事項を本願発明の記載ぶりに則して整理すると、引用文献には、
「一次粒子径が525Åであり、イットリアを固溶させたジルコニア粉末であるTZ-8YSに、溶媒、結合剤、可塑剤、分散剤及び消泡剤を添加してスラリーを調整し、ドクターブレード法によりグリーンシートを成膜し、成膜したグリーンシートを焼成するジルコニア系セラミックス膜の製造方法」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

そこで、本願発明と引用発明とを対比する。
(あ)引用発明の「TZ-8YS」の一次粒子径は「525Å」であるから、本願発明の一次粒子径が「500?800オングストローム」の範囲に含まれる。
(い)本願発明に特定されるジルコニア粉末の「表面積」は、「m^(2)/g」の単位で表されているから、「比表面積」であることは明らかである。引用発明の「TZ-8YS」の比表面積は「7m^(2)/g程度」であることは当業者にとって技術常識であるから、この比表面積は本願発明の表面積、すなわち、比表面積が「3?10m^(2)/g」の範囲に含まれる。
(う)引用発明の「イットリアを固溶させたジルコニア粉末であるTZ-8YS」は、上記(2)の記載からみて、本願発明の「安定化剤を含有するジルコニア粉末」であることは明らかである。
(え)引用発明の「ドクターブレード法によりグリーンシートを成膜」することは、本願発明の「ドクターブレード装置を使用してキャリアーフィルム上にグリーンシートを成膜」することに他ならない。
(お)引用発明の「焼成」は、上記(4)に記載されているように1500℃で5時間保持しているから、「焼結」と見ることができる。
(か)引用発明の「溶媒」、「ジルコニア系セラミックス膜」は、それぞれ、本願発明の「溶剤」、「ジルコニア薄膜」に相当することは明らかである。
そうすると、両者は共に、
「一次粒子径が500?800オングストロームであり、その表面積が3?10m^(2)/gであり、安定化剤を含有するジルコニア粉末に、分散剤、消泡剤、溶剤、結合剤、可塑剤を添加してスラリーを調整し、ドクターブレード装置を使用してキャリアーフィルム上にグリーンシートを成膜し、得られたグリーンシートを焼結するジルコニア薄膜の製造方法」である点で一致し、
分散剤、消泡剤、溶剤、結合剤、可塑剤の添加につき、本願発明では「分散剤、消泡剤及び溶剤を加えて混合分散した後、結合剤及び可塑剤を添加して」いるのに対し、引用発明では分散剤、消泡剤、溶剤、結合剤、可塑剤の添加順序は特定していない点(以下、「相違点」という。)で相違している。
この相違点について検討する。
ドクターブレード法を適用するセラミック粉末を含有するスラリーの製造に当たって、
(さ)セラミック粉末に分散剤及び溶剤を加え混合分散させた後に結合剤及び可塑剤を添加すること(特開昭64-20105号公報、素木洋一著「セラミック製造プロセスI」(1979年7月10日 技報堂発行) 279頁)、
(し)セラミック粉末に分散剤及び溶剤を加え混合分散させた後に結合剤及び消泡剤を添加すること(特開平1-183456号公報、特開平4-270165号公報)、
(す)セラミック粉末に溶剤及び消泡剤を加え混合分散させた後に結合剤を添加すること(特開平3-108502号公報)
(せ)セラミック粉末に分散剤及び溶剤を加え混合分散させた後に結合剤、可塑剤及び消泡剤を添加すること(特開昭61-174175号公報、特開平1-208880号公報)
はそれぞれ周知であることを考慮すれば、分散剤、消泡剤、溶剤、結合剤、可塑剤それぞれの添加時期は、当業者であれば適宜決定できるものといえ、上記相違点に係る本願発明の特定事項をなすことは困難なくなしえたものである。
そして、この特定事項によって奏する作用・効果は当然に予想される程度のものである。

5.むすび
以上のとおり、本願発明は、 引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることはできない。
したがって、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-02-24 
結審通知日 2009-03-03 
審決日 2009-03-16 
出願番号 特願平8-187402
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B28B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大橋 賢一  
特許庁審判長 板橋 一隆
特許庁審判官 安齋 美佐子
木村 孔一
発明の名称 ジルコニア薄膜の製造方法  

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