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この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
無効2011800085 審決 特許
無効2008800249 審決 特許

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審決分類 審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  B32B
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B32B
審判 全部無効 2項進歩性  B32B
審判 全部無効 1項3号刊行物記載  B32B
管理番号 1196837
審判番号 無効2008-800252  
総通号数 114 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-06-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2008-11-13 
確定日 2009-05-01 
事件の表示 上記当事者間の特許第4114397号発明「平滑性と平坦性が改善されたプラスチック段ボール」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第4114397号の請求項1ないし2に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 請求の趣旨・手続の経緯

1.本件特許
本件特許第4114397号の請求項1ないし2に係る発明についての出願は、特願2002-145077号として、平成14年5月20日に出願され、平成20年4月25日にそれらの発明について特許の設定登録がなされたものである。

2.請求の趣旨及びその理由の概要
それに対して、本件審判請求人は、本件特許第4114397号の特許請求の範囲の請求項1?2に記載された発明についての特許が、下記(1)?(3)の理由により特許法第123条第1項第2号及び同法同条同項第4号に該当し、無効とするとの審決を求めた。
(1)本件特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、甲第1号証?甲第3号証のそれぞれに記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとし、甲第1号証ないし甲第3号証の各刊行物を提示している。
(2)本件特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、甲第1号証?甲第3号証に記載された発明に基づいて、出願前に当業者が容易に想到し得たものであり、また本件特許請求の範囲の請求項2に係る発明は、甲第1号証?甲第4号証に記載された発明に基づいて、出願前に当業者が容易に想到し得たものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとし、甲第1号証ないし甲第4号証の各刊行物を提示している。
(3)本件特許は、明細書の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項、同条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない。

3.以降の手続の経緯
本件審判は、上記2.の請求の趣旨及び理由により、平成20年11月13日に請求されたものであり、以降の手続の経緯は、以下のとおりである。
平成20年12月 5日付け 答弁指令・請求書副本送付
平成20年12月10日 答弁指令・請求書副本送達報告
平成21年 2月 9日 答弁書提出指定期間経過
平成21年 2月23日付け 主査戻し
平成21年 2月24日付け 書面審理通知

4.証拠方法
審判請求人が提示した証拠方法は以下のとおりである。
甲第1号証:ポリマーダイジェスト,株式会社ラバーダイジェスト社,
Vol.33,No.7,1981,88?99ページ
甲第2号証:特開平2-241734号公報
甲第3号証:特開平6-255007号公報
甲第4号証:特開2001-9891号公報
(以下、それぞれ「甲1」ないし「甲4」という。)

第2 本件特許の無効に係る当審の判断
上記第1の3.のとおり、当審では、被請求人に対し本件審判請求書の副本を送付するとともに期間を指定して答弁書の提出を指令したが、被請求人からの答弁書の提出はなかったので、以降の本件に係る審理を書面によるものとする旨両当事者に通知し、職権をもって、審判請求人主張の無効理由につき当否の検討を行う。

1.審判請求人主張の無効理由
審判請求人が主張する無効理由の趣旨及び概略については、上記第1の2.で示したとおりであるが、具体的に事案にかんがみ分説すると、下記(1)?(3)の各理由のとおりである。

(1)本件特許明細書の請求項1に係る発明は、それぞれ本件特許に係る出願の出願日前に頒布された刊行物である甲1ないし甲3に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、同法第123条第1項第2号に該当し無効とすべきものである(以下「無効理由1」という。)。
(2)本件特許明細書の請求項1に係る発明は、それぞれ本件特許に係る出願の出願日前に頒布された刊行物である甲1ないし甲3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、また、本件特許明細書の請求項2に係る発明は、それぞれ本件特許に係る出願の出願日前に頒布された刊行物である甲1ないし甲3に記載された発明及び甲4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、いずれも特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同法第123条第1項第2号に該当し無効とすべきものである(以下「無効理由2」という。)。
(3)本件特許明細書の発明の詳細な説明には、「本発明」と表現される実施例が一例のみ記載されているものの、当該実施例については、本件特許に係る請求項1ないし2に記載された事項を具備しないものであって、他の実施例は記載されていないので、本件特許発明については、当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているものとはいえず、本件特許明細書に十分な技術的裏づけをもって発明が記載されているものとはいえず、また、発明が明確に記載されているものとはいえないから、特許法第36条第4項、同条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである(以下「無効理由3」という。)。

2.本件特許に係る発明
本件特許に係る発明は、下記請求項1及び2の各請求項に記載された事項で特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
プラスチックを材料とし、2枚の平板からなるライナーの間を互いに平行に走る多数のリブが接続した構造のプラスチック段ボールにおいて、ライナーの厚さT_(1)とリブの厚さT_(2)との間に、T_(2)/T_(1)=0.3?0.6(ただし、0.35を除く)の関係があることを特徴とする平滑性と平坦性が改善されたプラスチック段ボール。
【請求項2】
リブの断面形状が、曲線ないし屈曲線またはこれらと直線との組み合わせからなるものである請求項1のプラスチック段ボール。」
(以下、各請求項に記載された発明をその項番にしたがい「本件発明1」及び「本件発明2」といい、まとめて「本件発明」ということがある。)

3.本件発明1に係る検討

(1)無効理由1及び無効理由2について
ア.各甲号証の記載事項

(ア)甲1について
審判請求人が提示した甲1には、以下の事項が記載されている。

(ア-1)
「次に、中空異形押出品断面では、なるべく内部支柱を作らない方がよい。外壁を冷却しても、内部支柱はまだ高温に保たれていて、遅れて冷却するので、不均一に変形し、そりや凹みの原因となる。したがって支柱の厚みを特に外壁よりも約20%だけ薄くすべきである。」(第91頁下段第4行?第7行)
(ア-2)
「2-1-5 製品面のヒケ
製品面のヒケは常にリブの反対側や厚肉部に現われる。これは一般に材料収縮の差によって起こるが、・・(中略)・・外観を重視する異形品を成形するためには、・・(中略)・・リブの肉厚は本体部の肉厚よりやや薄くしたり・・(中略)・・することもヒケ防止の一法である。」(第92頁上段第11行?下段第4行)
(ア-3)
「次にアクリルおよびポリカーボネートの厚肉のダブルスキンシートが断熱採光建材として開発されている。この製品規格を第30図に示すが、・・(中略)・・スキンの厚み1.5?1.8mm、リブ厚み1mm、リブピッチ15mmとなっている。」(第95頁下段第5行?第96頁下段第3行)
(ア-4)第30図(第96頁上段)




(イ)甲2について
審判請求人が提示した甲2には、以下の事項が記載されている。

(イ-1)
「本発明は、一対のライナー間にほぼ垂直な隔壁を一体に形成した合成樹脂中空板を押出し成形し、この後に双方又はいずれか一方のライナーに金属板を貼着する金属樹脂複合板およびその製造方法に関する。」(第1頁右欄第8行?第12行)
(イ-2)
「(実施例9)
実施例1と同一見掛け厚み、同一目付および同一隔壁ピッチで、隔壁3の厚みが0.14mm(隔壁ピッチの3.5%)で上下ライナー1,2の厚みが0.24mm、ライナー1,2に対する隔壁3の角度θが90°の合成樹脂中空板4に0.20mm厚のアルミニウム板5を貼り合せて金属樹脂複合板6を得たが、曲げ弾性率、比曲げ弾性率も充分で、自重によるたわみも小さかった。」(第4頁左上欄第14行?右上欄第2行)
(イ-3)
「<比較例6>
実施例1と同一見掛け厚み同一目付および同一隔壁ピッチで隔壁3の厚みが0.08mm(隔壁ピッチの2.0%)で上下ライナー1,2の厚みが0.25mm、ライナー1,2に対する隔壁3の角度θが90°の合成樹脂中空板4に0.20mm厚のアルミニウム板5を貼り合せたが、貼り合せる際の圧力で隔壁3が座屈し、曲げ弾性率、比曲げ弾性率が落ち、自重によるたわみも大きくなった。又隔壁3が座屈しない様に接着時の圧力を0.3kg/cm^(2)としたところ、合成樹脂中空板とアルミニウム板の貼合せ面の空気が抜けきらなかった。」(第4頁左下欄第9行?第20行)
(イ-4)第1図及び第2図(第7頁右上欄)




(ウ)甲3について
審判請求人が提示した甲3には、以下の事項が記載されている。

(ウ-1)
「平行に配置された一対のライナー部と、このライナー部間を平行に仕切る複数のリブを設けたプラスチック製サンドイッチ板において、下式で示される3式を全て満足するリブ厚、リブ間隔およびライナー厚を有することを特徴とする一方向に平行なリブ構造をもつプラスチック製サンドイッチ板。
Tr=r(w/2ρ)^(1.12) (1)
Tl=p〔0.71(w/2ρ)^(1.12)〕-0.019 (2)
b=Tr(h-2Tl)/〔(w/ρ)-2Tl〕 (3)
〔上式において、Trはリブ厚み(mm)、Tlはライナ-厚み(mm)、wは目付け(kg/m^(2))、ρは材料密度(g/cm^(3))、hは板厚(mm)、bはリブ間隔(mm)をそれぞれ示す。pおよびrは係数であって、0.6<p<1.0、 0.5<r<1.0である。〕」(【請求項1】)
(ウ-2)
「比較例1?3
表1に示すリブ間隔で、表1に示す係数pおよびrを用いる以外は実施例1と同様にしてリブ厚みおよびライナー厚みを計算し、表1に示すリブ厚みおよびライナー厚みのポリプロピレン製サンドイッチ板を押し出し法により製造した。」(【0016】)
(ウ-3)表1(【0017】)



(ウ-4)
「比較例4?6
表2に示すリブ間隔で、表2に示す係数pおよびrを用いる以外は実施例5と同様にしてリブ厚みおよびライナー厚みを計算し、表2に示すリブ厚みおよびライナー厚みのポリプロピレン製サンドイッチ板を押し出し法により製造した。」(【0019】)
(ウ-5)表2(【0020】)




イ.各甲号証に記載された発明

(ア)甲1に記載された発明
甲1には、上記摘示(ア-3)及び(ア-4)からみて、いずれも「アクリル」なる材料からなる「厚みが1.5?1.8mmの2枚のスキンの間に厚みが1mmのリブが平行に多数設けられたダブルスキンシート」が記載されており、当該「アクリル」なる材料が、プラスチックの一種であることは、当業者に自明である。
また、上記の記載に基づき、スキンとリブとの厚みの比を算出すると、(リブの厚み)/(スキンの厚み)が0.556?0.667の範囲にあることも自明である。
してみると、上記甲1には、本件発明1に倣い表現すると、
「プラスチックを材料とし、2枚の平板からなるスキンの間を平行に走る多数のリブが設けられたダブルスキンシートにおいて、スキンの厚さT_(1)とリブの厚さT_(2)との間に、T_(2)/T_(1)=0.556?0.667の関係があることを特徴とするダブルスキンシート」
に係る発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているものといえる。

(イ)甲2に記載された発明
甲2には、上記摘示(イ-1)からみて、「一対のライナー間にほぼ垂直な隔壁を一体に形成した合成樹脂中空板」が記載されており、上記摘示(イ-2)及び(イ-3)からみて、当該合成樹脂中空板の具体例として、隔壁の厚みが0.14mmでライナーの厚みが0.24mmであるもの及び隔壁の厚みが0.08mmでライナーの厚みが0.25mmであるものがそれぞれ記載されている。
そして、各具体例の場合の隔壁の厚みとライナーの厚みとの比を算出すると、(隔壁の厚み)/(ライナーの厚み)がそれぞれ0.583及び0.32であることも自明である。
さらに、上記摘示(イ-4)からみて、各隔壁はそれぞれライナー間で他の隔壁と平行に設けられていることが明らかである。
してみると、上記甲2には、本件発明1に倣い表現すると、
「合成樹脂を材料とし、2枚の平板からなるライナーの間を平行に走る多数の隔壁を一体に形成した合成樹脂中空板において、ライナーの厚さT_(1)と隔壁の厚さT_(2)との間に、T_(2)/T_(1)=0.583又は0.32の関係があることを特徴とする合成樹脂中空板」
に係る発明(以下「甲2発明」という。)が記載されているものといえる。

(ウ)甲3に記載された発明
甲3には、上記摘示(ウ-1)からみて、「平行に配置された一対のライナー部と、このライナー部間を平行に仕切る複数のリブを設けたプラスチック製サンドイッチ板」が記載されており、上記摘示(ウ-2)及び(ウ-3)からみて、「比較例3」として、リブ厚み0.8mm及びライナー厚み1.4mmである場合が、また上記摘示(ウ-4)及び(ウ-5)からみて、「比較例4」として、リブ厚み0.5mm及びライナー厚み1.41mmである場合が、それぞれ具体例として記載されている。
そして、各具体例の場合のリブ厚みとライナー厚みとの比を算出すると、(リブ厚み)/(ライナー厚み)がそれぞれ0.571及び0.355であることも自明である。
してみると、上記甲3には、本件発明1に倣い表現すると、
「2枚の平板からなるライナーの間を平行に仕切る複数のリブを設けたプラスチック製サンドイッチ板において、スキンの厚さT_(1)とリブの厚さT_(2)との間に、T_(2)/T_(1)=0.571又は0.355の関係があることを特徴とするプラスチック製サンドイッチ板」
に係る発明(以下「甲3発明」という。)が記載されているものといえる。

ウ.対比・検討

(ア)本件発明1と甲1発明との対比・検討

(a)対比
そこで、本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明における「プラスチック」、「スキン」及び「リブ」は、それぞれ、本件発明1における「プラスチック」、「ライナー」及び「リブ」に相当するものであり、また、甲1発明における「ダブルスキンシート」は、その形状からみて、本件発明1における「プラスチック段ボール」に相当するものであって、さらに、甲1発明における「2枚の平板からなるスキンの間を平行に走る多数のリブが設けられた」は、その形状(必要ならば摘示(ア-4)参照。)からみて、本件発明1における「2枚の平板からなるライナーの間を互いに平行に走る多数のリブが接続した構造の」に相当する。
したがって、本件発明1と甲1発明とは、本件発明1に倣い表現すると、
「プラスチックを材料とし、2枚の平板からなるライナーの間を互いに平行に走る多数のリブが接続した構造のプラスチック段ボール」
の発明に係る点で一致し、下記の2点で一応相違している。

相違点a:ライナーの厚さT_(1)とリブの厚さT_(2)との間の関係につき、本件発明1では、「T_(2)/T_(1)=0.3?0.6(ただし、0.35を除く)の関係がある」のに対し、甲1発明では、「T_(2)/T_(1)=0.556?0.667の関係がある」点
相違点b:プラスチック段ボールにつき、本件発明1では、「平滑性と平坦性が改善された」ものであるのに対し、甲1発明では、当該平滑性及び平坦性が改善されたことにつき特に規定されていない点

(b)上記相違点に係る検討
上記相違点aにつき検討すると、両者は、「T_(2)/T_(1)=0.556?0.6の関係がある」点で一部重複するものであり、また、甲1発明においても、製品表面のヒケを防止するために、リブの肉厚を本体部(すなわちスキン)の肉厚に対して薄くする技術思想が存するのである(摘示(ア-2)参照。)から、上記相違点aに係る事項は、実質的な相違点といえないものであるか、当業者が適宜なし得る事項であるといえる。
また、上記相違点bにつき検討すると、上記説示のとおり、甲1発明においても、製品表面のヒケを防止するために、リブの肉厚を本体部(すなわちスキン)の肉厚に対して薄くする技術思想が存するのであり(摘示(ア-2)参照。)、さらに、中空異形押出成形品を製造する場合、製品のそり又は凹みを防止するために支柱(すなわちリブ)を設けるならば支柱部を薄くすべきである技術思想も存するのである(摘示(ア-1)参照。)から、甲1発明のものは、平滑性及び平坦性が改善されているものといえ、してみると、上記相違点bに係る事項も、実質的な相違点といえないものであるか、当業者が適宜なし得る事項であるといえる。

(c)本件発明1に係る効果について
上記各相違点に係る本件発明1の効果につき検討すると、本件発明は、本件特許明細書【0003】?【0008】からみて、プラスチック段ボールにおいて、リブ部の冷却固化が遅れることによる製品表面の「ヒケ」及びシート全体のたるみによる平滑性及び平坦性の低下防止による改善を発明の解決課題とするところ、上記(b)で説示したとおり、甲1発明においても、略同等の技術思想が開示されているのであるから、本件発明1が、上記各相違点に係る事項により、格別顕著な効果を奏しているものとはいえない。

(d)小括
したがって、本件発明1は、甲1発明と同一であるか、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものといえる。

(イ)本件発明1と甲2発明との対比・検討

(a)対比
そこで、本件発明1と甲2発明とを対比すると、甲2発明における「合成樹脂」、「ライナー」及び「隔壁」は、それぞれ、本件発明1における「プラスチック」、「ライナー」及び「リブ」に相当するものであり、また、甲2発明における「樹脂中空成形板」は、その形状からみて、本件発明1における「プラスチック段ボール」に相当するものであって、さらに、甲2発明における「2枚の平板からなるライナーの間を平行に走る多数の隔壁を一体に形成した」は、その形状(必要ならば摘示(イ-4)参照。)からみて、本件発明1における「2枚の平板からなるライナーの間を互いに平行に走る多数のリブが接続した構造の」に相当する。
したがって、本件発明1と甲2発明とは、本件発明1に倣い表現すると、
「プラスチックを材料とし、2枚の平板からなるライナーの間を互いに平行に走る多数のリブが接続した構造のプラスチック段ボール」
の発明に係る点で一致し、下記の2点で一応相違している。

相違点a’:ライナーの厚さT_(1)とリブの厚さT_(2)との間の関係につき、本件発明1では、「T_(2)/T_(1)=0.3?0.6(ただし、0.35を除く)の関係がある」のに対し、甲2発明では、「T_(2)/T_(1)=0.583又は0.32の関係がある」点
相違点b:プラスチック段ボールにつき、本件発明1では、「平滑性と平坦性が改善された」ものであるのに対し、甲2発明では、当該平滑性及び平坦性が改善されたことにつき特に規定されていない点

(b)上記相違点に係る検討
上記相違点a’につき検討すると、両者は、「「T_(2)/T_(1)=0.583」又は「T_(2)/T_(1)=0.32」の関係がある」点で重複するものであるから、上記相違点a’に係る事項は、実質的な相違点といえないものである。
また、仮に実質的な相違点であるとしても、上記(ア)(b)で説示したとおり、樹脂中空成形品の一種であるダブルスキンシートに係る甲1発明においても、製品表面のヒケを防止するために、リブの肉厚を本体部(すなわちスキン)の肉厚に対して薄くする技術思想が存するのである(摘示(ア-2)参照。)から、甲2発明において、押出成形時のヒケに起因する製品全体のたわみ等を防止することを意図し、上記甲1発明に係る知見を付加し、本件発明1の相違点a’に係る「T_(2)/T_(1)」の範囲とすることは、当業者が適宜なし得る事項であるといえる。
また、上記相違点bにつき検討すると、上記(ア)(b)で説示のとおり、甲1発明において、製品表面のヒケを防止するために、リブの肉厚を本体部(すなわちスキン)の肉厚に対して薄くする技術思想が存するのであり(摘示(ア-2)参照。)、さらに、中空異形押出成形品を製造する場合、製品のそり又は凹みを防止するために支柱(すなわちリブ)を設けるならば支柱部を薄くすべきである技術思想も存するのである(摘示(ア-1)参照。)から、「「T_(2)/T_(1)=0.583」又は「T_(2)/T_(1)=0.32」の関係がある」甲2発明に係るものも、甲1発明のものと同様に、平滑性及び平坦性が改善されているものといえ、してみると、上記相違点bに係る事項も、実質的な相違点といえないものであるか、当業者が適宜なし得る事項であるといえる。

(c)本件発明1に係る効果について
上記各相違点に係る本件発明1の効果につき検討すると、本件発明は、本件特許明細書【0003】?【0008】からみて、プラスチック段ボールにおいて、リブ部の冷却固化が遅れることによる製品表面の「ヒケ」及びシート全体のたるみによる平滑性及び平坦性の低下防止による改善を発明の解決課題とするところ、上記(b)で説示したとおり、甲1発明において略同等の技術思想が開示されており、甲2発明においても略同等の効果を奏する蓋然性が高いのであるから、本件発明1が、上記各相違点に係る事項により、格別顕著な効果を奏しているものとはいえない。

(d)小括
したがって、本件発明1は、甲2発明と同一であるか、甲1発明を参酌しつつ甲2発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものといえる。

(ウ)本件発明1と甲3発明との対比・検討

(a)対比
そこで、本件発明1と甲3発明とを対比すると、甲3発明における「プラスチック製」、「ライナー」及び「リブ」は、それぞれ、本件発明1における「プラスチックを材料とし」、「ライナー」及び「リブ」に相当するものであり、また、甲3発明における「サンドイッチ板」は、その形状からみて、本件発明1における「(プラスチック)段ボール」に相当するものであって、さらに、甲3発明における「2枚の平板からなるライナーの間を平行に仕切る複数のリブを設けた」は、その形状からみて、本件発明1における「2枚の平板からなるライナーの間を互いに平行に走る多数のリブが接続した構造の」に相当する。
したがって、本件発明1と甲3発明とは、本件発明1に倣い表現すると、
「プラスチックを材料とし、2枚の平板からなるライナーの間を互いに平行に走る多数のリブが接続した構造のプラスチック段ボール」
の発明に係る点で一致し、下記の2点で一応相違している。

相違点a’’:ライナーの厚さT_(1)とリブの厚さT_(2)との間の関係につき、本件発明1では、「T_(2)/T_(1)=0.3?0.6(ただし、0.35を除く)の関係がある」のに対し、甲3発明では、「T_(2)/T_(1)=0.571又は0.355の関係がある」点
相違点b:プラスチック段ボールにつき、本件発明1では、「平滑性と平坦性が改善された」ものであるのに対し、甲3発明では、当該平滑性及び平坦性が改善されたことにつき特に規定されていない点

(b)上記相違点に係る検討
上記相違点a’’につき検討すると、両者は、「「T_(2)/T_(1)=0.571」又は「T_(2)/T_(1)=0.355」の関係がある」点で重複するものであるから、上記相違点a’’に係る事項は、実質的な相違点といえないものである。
また、仮に実質的な相違点であるとしても、上記(ア)(b)で説示したとおり、「サンドイッチ板」と同様の形状を有するダブルスキンシートに係る甲1発明においても、製品表面のヒケを防止するために、リブの肉厚を本体部(すなわちスキン)の肉厚に対して薄くする技術思想が存するのである(摘示(ア-2)参照。)から、甲3発明において、押出成形時のヒケに起因する製品全体のたわみ等を防止することを意図し、上記甲1発明に係る知見を付加し、本件発明1の相違点a’’に係る「T_(2)/T_(1)」の範囲とすることは、当業者が適宜なし得る事項であるといえる。
また、上記相違点bにつき検討すると、上記(ア)(b)で説示のとおり、甲1発明において、製品表面のヒケを防止するために、リブの肉厚を本体部(すなわちスキン)の肉厚に対して薄くする技術思想が存するのであり(摘示(ア-2)参照。)、さらに、中空異形押出成形品を製造する場合、製品のそり又は凹みを防止するために支柱(すなわちリブ)を設けるならば支柱部を薄くすべきである技術思想も存するのである(摘示(ア-1)参照。)から、「「T_(2)/T_(1)=0.571」又は「T_(2)/T_(1)=0.355」の関係がある」甲3発明に係るものも、甲1発明のものと同様に、平滑性及び平坦性が改善されているものといえ、してみると、上記相違点bに係る事項も、実質的な相違点といえないものであるか、当業者が適宜なし得る事項であるといえる。

(c)本件発明1に係る効果について
上記各相違点に係る本件発明1の効果につき検討すると、本件発明は、本件特許明細書【0003】?【0008】からみて、プラスチック段ボールにおいて、リブ部の冷却固化が遅れることによる製品表面の「ヒケ」及びシート全体のたるみによる平滑性及び平坦性の低下防止による改善を発明の解決課題とするところ、上記(b)で説示したとおり、甲1発明において略同等の技術思想が開示されており、甲3発明においても略同等の効果を奏する蓋然性が高いのであるから、本件発明1が、上記各相違点に係る事項により、格別顕著な効果を奏しているものとはいえない。

(d)小括
したがって、本件発明1は、甲3発明と同一であるか、甲1発明を参酌しつつ甲3発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものといえる。

エ.本件発明1に係る無効理由1及び無効理由2についてのまとめ
以上を総合すると、本件発明1は、甲1ないし甲3のそれぞれに記載された発明であるか、甲1発明ないし甲3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものというべきものであるから、本件発明1は、特許法第29条第1項第3号の規定に該当するか、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものといえる。

(2)本件発明1に係るまとめ
結局、本件発明1は、無効理由3につき検討するまでもなく、特許法第123条第1項第2号の規定に該当するものということができるから、本件発明1に係る特許は、無効とすべきものである。

4.本件発明2について

(1)無効理由2について

ア.各甲号証に記載された事項

(ア)甲1ないし甲3に記載された事項
上記甲1ないし甲3には、上記3.(1)ア.の(ア)ないし(ウ)で指摘したとおりの事項が記載されている。

(エ)甲4について
上記甲4には、以下の事項が記載されている。

(エ-1)
「互いに略平行となるように配された複数のライナーと、ライナー間に所定の方向に沿って配されたリブとを有する押出成形された樹脂製段ボール構造板において、成形直後から成形後300日間が経過した時点までの間における常温での収縮率が、リブに平行な方向で0.45%以下であり、かつ、リブに垂直な方向で0.45%以下であることを特徴とする樹脂製段ボール構造板。」(【請求項1】)
(エ-2)
「リブ1は、ライナー2・2間の空間を所定の方向に沿って仕切るように、すなわち、ライナー2・2の双方に対して所定の方向に沿って延びた細長い帯状の接合面で接合するように配されて、ライナー2・2の対向面を当接支持し、樹脂製段ボール構造板を補強するためのものである。リブ1としては、具体的には、例えば、図1(a)に示すように、ライナー2・2に対して垂直に配され、該ライナー2・2の対向面を当接支持するもの(以下、場合によっては平行リブ型と称する)が挙げられる。この構造では、図1(a)に示すように、互いに略平行となるように等間隔で複数のリブ1を配することがより好ましい。また、リブ1として、図1(b)に示すように、波型の形状を有し、該波の頂点部において、ライナー2・2の対向面を当接支持するもの、図1(c)に示すように、ジグザク形状を有し、該ジグザグの頂点部において、ライナー2・2の対向面を当接支持するもの等も用いることができる。なお、リブ1の形状・数等は、特に限定されるものではないが、平行リブ型が強度の点で優れている。」(【0030】)
(エ-3)【図1】(第8頁中段)




イ.本件発明2に係る対比・検討
本件発明1を引用している本件発明2と上記3.(1)イ.で指摘した甲1発明ないし甲3発明とをそれぞれ対比し、検討する。

(ア)甲1発明との対比・検討

(a)対比
本件発明2と甲1発明とを対比すると、上記3.(1)ウ.(ア)(a)で指摘した相違点a及び相違点bに加えてさらに下記相違点cで一応相違している。

相違点c:リブの断面形状につき、本件発明2は「曲線ないし屈曲線またはこれらと直線との組み合わせからなるものである」のに対して、甲1発明では、略直線状の場合につき例示されているものの、リブの断面形状につき特定されていない点

(b)上記相違点に係る検討
上記相違点a及びbについては、上記3.(1)ウ.(ア)(b)で説示した理由により、いずれも実質的相違点といえないものであるか、当業者が適宜なし得る事項である。
また、上記相違点cにつき検討すると、甲4にも記載されているとおり、樹脂製段ボール(構造体)の技術分野において、リブの断面形状を曲線ないし屈曲線からなるものとすることは周知の技術であり、甲1発明において、当該当業界周知の技術に基づき、リブの断面形状を曲線ないし屈曲線からなるものとすることは、当業者が適宜なし得ることである。

(c)本件発明2の効果について
上記各相違点による本件発明2の効果につき本件特許明細書に基づいて検討しても、上記相違点a及びbに係る効果については、上記3.(1)ウ.(c)で説示したとおり、格別顕著なものとはいえず、また、上記相違点cに係る効果については、本件特許に係る【図7】に示した半月形曲線のリブ断面形状の場合に緩衝能力を示すものとは一応解されるが(本件特許明細書【0013】?【0014】)、当該緩衝能力は、半月形の構造に特異な効果であって、他の曲線ないし屈曲線のリブ断面形状である場合に奏される効果でないことが当業者に自明であって、相違点cに係る効果ということができず、してみると、相違点cに係る効果についても、格別顕著なものということができない。

(d)小括
したがって、本件発明2は、甲1発明に基づいて当業界周知の技術を参酌することにより、当業者が容易に発明をすることができたものといえる。

(イ)甲2発明との対比・検討

(a)対比
本件発明2と甲2発明とを対比すると、上記3.(1)ウ.(イ)(a)で指摘した相違点a’及び相違点bに加えてさらに下記相違点cで一応相違している。

相違点c:リブの断面形状につき、本件発明2は「曲線ないし屈曲線またはこれらと直線との組み合わせからなるものである」のに対して、甲2発明では、略直線状の場合につき例示されているものの、リブの断面形状につき特定されていない点

(b)上記相違点に係る検討
上記相違点a’及びbについては、上記3.(1)ウ.(イ)(b)で説示した理由により、いずれも実質的相違点といえないものであるか、当業者が適宜なし得る事項である。
上記相違点cについては、上記(ア)で説示した理由により、甲4に記載されたような当業界周知の技術を参酌することにより、当業者が適宜なし得ることといえる。

(c)本件発明2の効果について
上記(ア)(c)で説示したとおりの理由により、格別顕著なものということができない。

(d)小括
したがって、本件発明2は、甲2発明に基づいて、甲1発明及び当業界周知の技術を参酌することにより、当業者が容易に発明をすることができたものといえる。

(ウ)甲3発明との対比・検討

(a)対比
本件発明2と甲2発明とを対比すると、上記3.(1)ウ.(ウ)(a)で指摘した相違点a’’及び相違点bに加えてさらに下記相違点cで一応相違している。

相違点c:リブの断面形状につき、本件発明2は「曲線ないし屈曲線またはこれらと直線との組み合わせからなるものである」のに対して、甲3発明では、略直線状の場合につき例示されているものの、リブの断面形状につき特定されていない点

(b)上記相違点に係る検討
上記相違点a’’及びbについては、上記3.(1)ウ.(ウ)(b)で説示した理由により、いずれも実質的相違点といえないものであるか、当業者が適宜なし得る事項である。
上記相違点cについては、上記(ア)で説示した理由により、甲4に記載されたような当業界周知の技術を参酌することにより、当業者が適宜なし得ることといえる。

(c)本件発明2の効果について
上記(ア)(c)で説示したとおりの理由により、格別顕著なものということができない。

(d)小括
したがって、本件発明2は、甲3発明に基づいて、甲1発明及び当業界周知の技術を参酌することにより、当業者が容易に発明をすることができたものといえる。

ウ.本件発明2に係る無効理由2についてのまとめ
以上を総合すると、本件発明2は、甲1発明ないし甲3発明の各発明に基づいて、当業界周知の技術を参酌することにより、当業者が容易に発明をすることができたものというべきものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものといえる。

(2)本件発明2に係るまとめ
結局、本件発明2は、無効理由3につき検討するまでもなく、特許法第123条第1項第2号の規定に該当するものということができるから、本件発明2に係る特許は、無効とすべきものである。

第3 むすび
以上のとおりであるから、本件の請求項1ないし2に係る特許は、いずれも無効とすべきものである。
本件審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定により準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-03-04 
結審通知日 2009-03-06 
審決日 2009-03-19 
出願番号 特願2002-145077(P2002-145077)
審決分類 P 1 113・ 537- Z (B32B)
P 1 113・ 113- Z (B32B)
P 1 113・ 121- Z (B32B)
P 1 113・ 536- Z (B32B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 鈴木 正紀  
特許庁審判長 原 健司
特許庁審判官 杉江 渉
橋本 栄和
登録日 2008-04-25 
登録番号 特許第4114397号(P4114397)
発明の名称 平滑性と平坦性が改善されたプラスチック段ボール  
代理人 大谷 保  
代理人 塚脇 正博  
代理人 須賀 総夫  
代理人 時田 稔  
代理人 片岡 誠  
代理人 伊藤 高志  

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