• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A01N
管理番号 1196863
審判番号 不服2006-21731  
総通号数 114 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-06-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-09-28 
確定日 2009-05-08 
事件の表示 平成 8年特許願第 92168号「害虫駆除方法」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年 1月14日出願公開、特開平 9- 12405〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成8年4月15日(優先権主張 平成7年4月26日)の出願であって、平成17年11月30日付けで拒絶理由が通知され、平成18年2月2日に意見書及び手続補正書が提出され、同年3月29日付けで最後の拒絶理由が通知され、同年6月1日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年8月22日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年9月28日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに手続補正書が提出され、その後、平成20年6月30日付けで審尋がされ、同年8月20日に回答書が提出されたものである。

2 本願発明
本願の請求項1に係る発明は、平成18年2月2日付け手続補正書、同年6月1日付け手続補正書及び同年9月28日付け手続補正書により補正された明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものと認められる。
「20℃における蒸気圧が1.0×10^(-5)?5.0×10^(-2)mmHgである殺虫性化合物が、プレート状またはシート状の形状を有し、かつ水に溶解または分解し得る水解紙もしくは水溶紙である水溶性固体担体に、当該水溶性固体担体のプレート面またはシート面100cm^(2)当たり0.05?1gにて塗布、含浸により保持されてなる害虫駆除剤を、浄化槽内の空間部に、当該空間部1m^(3)当たりプレート面またはシート面の面積にして300?30000cm^(2)となるように配置したことを特徴とする害虫駆除方法。」
(以下、「本願発明」という。)

3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由の概要は、本願発明は、その出願前に頒布された刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

4 引用文献等の記載事項
原査定の拒絶の理由で挙げられた、本願の出願前に頒布された刊行物である引用文献2(特開平3-200704号公報。以下、「引用例」という。)には、以下の事項が記載されている。また、本願出願時に当業者に周知の事項を示すために、例示として参考資料1?6を挙げる。

引用例:特開平3-200704号公報
参考資料1:特開平2-282309号公報
参考資料2:特開平4-82804号公報
参考資料3:特開平3-113098号公報
参考資料4:特開昭64-46425号公報
参考資料5:高分子学会、高分子と吸湿委員会編、
「材料と水分ハンドブック-吸湿・防湿・調湿・乾燥-」
昭和43年4月15日 初版1刷発行、
共立出版株式会社、p.745の表8.5
参考資料6:紙業タイムス社出版部編、
「オールペーパーガイド-紙の商品事典 下巻・生活篇」
昭和58年12月1日発行、株式会社紙業タイムス社、
p.53右下欄の<ちり紙類の強度特性など>の表

引用例:
a-1 「1-エチニル-2-メチル-2-ペンテニルクリサンセメートを合成樹脂99?85重量%に対して1?15重量%の濃度に含有せしめた後、0.5mm以上5mm未満の厚さのシートに熱成形加工してなる薬剤徐放性樹脂成形体。」(特許請求の範囲請求項1)
a-2 「従来から、ハエ、蚊等の害虫の駆除方法としては殺虫薬剤をスプレー等により直接害虫に噴霧する方法が一般的に用いられているが、浄化槽等の特定空間を有する部分においては長期にわたって安定的に殺虫効力を持続させる必要があり、この目的のために、紙、布、不織布あるいは発泡体に薬剤を含浸または塗布する方法が提案されている。また、塩化ビニル樹脂に有機リン系殺虫剤ジクロルボスを混合成形したプレートが実用化されている。」(1頁右下欄5?14行)
a-3 「殺虫性試験:成形体試料を容積0.34M^(3)のチャンバー内中央部に吊り下げ密閉し、供試虫としてオオチョウバエ(英名 Bath room fly)を100匹吸虫管を利用してチャンバー内に導入し、死虫率を調査した。」(2頁右下欄16?末行)
a-4 「実施例1 合成樹脂としてエチレン-メチルメタクリレート共重合体(・・・)91重量部、薬剤として1-エチニル-2-メチル-2-ペンテニルクリサンセメート(・・・)9重量部ならびに緑色顔料(・・・)1.7重量部を密閉式ニーダ-(・・・)にて混練熱を利用し混練したのち、押出機に供給し押し出しながらホットカットを行ないペレット化を行なった。このペレットを引続き押出機に供給し、厚さ2mmのシートを成形した。尚、この時の押出温度はTダイ部において150°Cとなるよう調節した。
得られたシートを70mm×150mmに切断しこの試料を用いて薬剤揮散性試験および殺虫性試験を行なった。第1表および第2表に示す通り、薬剤の揮散は長期的に継続して行なわれ、殺虫効力も長期的に持続することを確認した。」(3頁左上欄1?19行)
a-5 「本発明の薬剤徐放性樹脂成形体は、防殺虫用として広範な用途に使用できるが、特に、浄化槽空間に吊り下げられ、蚊、ハエの殺虫駆除用として、・・・好適に使用することができる。」(5頁左上欄2?6行)

参考資料1:
「化合物〔I〕を蒸散させて殺虫、殺ダニを行う場合、通常、化合物〔I〕は適当な担体に吸着させて使用される。
吸着用担体としては、例えば濾紙・厚紙などの紙類、・・・などの樹脂、・・・などが挙げられ、化合物〔I〕を吸着させたこれらの担体は任意の剤型にして使用できる。」(2頁右下欄8?末行)
「製剤例2
化合物〔I〕200mgとBHT100mgとを適量のアセトンに溶解し、10cm×15cm、厚さ0.8cmの濾紙に均一に塗布した後、アセトンを風乾して非加熱型蒸散剤を得た。
製剤例3
・・・600mg・・・10cm×15cm・・・得た。」(4頁右上欄3?11行)

参考資料2:
「常温揮散性の殺虫剤を主成分とするものを使用する場合は、多孔質マットに含浸させて板状剤もしくはシート状剤とし、・・・樹脂に練りこんでシート状もしくはプレート状等の適当な形状に成型して」(4頁右下欄15?末行)
「エンペントリンを30mg、直径9cmのろ紙に含浸させた。」(5頁左下欄下から4?3行)
「NO.11 エンペントリンを100mg、60×80mm、厚さ3mmの紙に含浸させ、同様の容器に入れた。
NO.12 テラレスリンを100mg、・・・入れた。」(6頁左下欄3?7行)

参考資料3:
「本発明は特にトイレの床、便器などの硬質表面を拭くのに適した、洗浄効果がよく、且つ使用後は容易に水洗廃棄できる水解性清掃物品に関する。」(1頁左欄下から7?4行)

参考資料4:
「本発明は、・・・水中で容易に分散し、且つ殺菌剤で処理されている使いすて便座用紙シートに関する。」(1頁左欄下から10?7行)

参考資料5:
「(ポリビニルアルコールの欄)
上質紙 65g/m^(2) ・・・
上質紙 130g/m^(2)」(表8.5)

参考資料6:
「(白ちり紙の欄)
坪量(g/m^(2)) 27?30」(53頁右下の表)

5 引用発明
引用例には、「1-エチニル-2-メチル-2-ペンテニルクリサンセメートを合成樹脂99?85重量%に対して1?15重量%の濃度に含有せしめた後、0.5mm以上5mm未満の厚さのシートに熱成形加工してなる薬剤徐放性樹脂成形体」(摘記a-1)が記載されており、この「薬剤徐放性樹脂成形体」は「浄化槽空間に吊り下げられ、蚊、ハエの殺虫駆除用として」(摘記a-5)使用されるものであるから、引用例には、これを浄化槽空間に吊り下げて害虫駆除を行うという、害虫駆除方法が記載されているといえる。
また、薬剤を「合成樹脂99?85重量%に対して1?15重量%の濃度に含有せしめ」とあることから、合成樹脂1重量部に対し薬剤は約0.01?0.18重量部(1/99?15/85)含有されるものである。
そうしてみると、引用例には、
「1-エチニル-2-メチル-2-ペンテニルクリサンセメートを合成樹脂1重量部に対して0.01?0.18重量部含有せしめた後、0.5mm以上5mm未満の厚さのシートに熱成形加工してなる薬剤徐放性樹脂成形体を、浄化槽空間に吊り下げることによる害虫駆除方法」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているとすることができる。

6 当審の判断
(1)本願発明と引用発明との対比
引用発明における「1-エチニル-2-メチル-2-ペンテニルクリサンセメート」は、本願明細書で例示されるように(段落【0005】)、本願発明における「20℃における蒸気圧が1.0×10^(-5)?5.0×10^(-2)mmHgである殺虫性化合物」である。また、引用発明における「合成樹脂」、「薬剤徐放性樹脂成形体」は、それぞれ本願発明の殺虫性化合物を保持する「固体担体」、「害虫駆除剤」に相当する。そして、引用発明における「浄化槽空間に吊り下げること」は、本願発明における「浄化槽内の空間部に」「配置したこと」にほかならない。
以上の認定を踏まえて本願発明と引用発明を対比すると、両者は、
「20℃における蒸気圧が1.0×10^(-5)?5.0×10^(-2)mmHgである殺虫性化合物が、シート状の形状を有する固体担体に保持されてなる害虫駆除剤を、浄化槽内の空間部に配置する害虫駆除方法」である点で一致し、以下の点A、B、Cにおいて相違する。
A 殺虫性化合物を保持する固体担体が、本願発明では、「水に溶解または分解し得る水解紙もしくは水溶紙」であるのに対し、引用発明では「合成樹脂」であってシートの厚みが規定されている点
B 固体担体に保持される殺虫性化合物の量が、本願発明では「シート面100cm^(2)当たり0.05?1g」であるのに対し、引用発明では、殺虫性化合物の量がシートの面積では規定されていない点
C 害虫駆除剤を浄化槽内の空間部に配置するに当たり、本願発明では、「空間部1m^(3)当たりシート面の面積にして300?30000cm^(2)となるように配置」するのに対し、引用発明では、配置されるシートの大きさ等が明示されていない点

(2)判断
以下、相違点A?Cについて検討する。
ア 相違点Aについて
シートの厚みは、本願発明においても引用発明と実質的に差異がない(本願明細書段落【0023】?【0025】等)ものであるところ、引用例には、従来の技術として、「浄化槽等の特定空間を有する部分においては長期にわたって安定的に殺虫効力を持続させる必要があり、この目的のために、紙、布、不織布あるいは発泡体に薬剤を含浸または塗布する方法が提案されている」(摘記a-2)と記載されるように、本願の出願時に常温で揮散することにより殺虫効果を奏する害虫駆除剤において、担体として紙、布、合成樹脂等を採用し薬剤を保持させることが当業者に広く知られていた(必要ならばさらに、参考資料1、2等参照)。
このような技術背景を参酌すれば、引用発明で担体として使用される合成樹脂シートも、従来使用されていた他の担体である紙も、普通に採用されるものであるところ、本願の出願時において、トイレの床・便器の清掃物品、便座シート等のトイレで使用される紙製品にあって、使用後そのまま水洗トイレに流し廃棄できるものは周知といえるもの(必要ならば、参考資料3、4等参照)であるから、トイレに続く浄化槽で使用される引用発明の害虫駆除剤において、担体として、紙であって、かつ、使用後廃棄に当たりそのまま水に流せるものを採用することは、普通に着想する範囲内といえる。
したがって、引用発明において、殺虫性化合物を保持する固体担体について「水に溶解または分解し得る水解紙もしくは水溶紙」とすることは、従来技術を参酌すれば、当業者が容易に想到することができたものといえる。

イ 相違点Bについて
本願発明においては、固体担体に保持される殺虫性化合物の量が、「シート面100cm^(2)当たり0.05?1g」であるが、紙やフィルムの100cm^(2)当たりの重量は、紙の材質、厚さ等々にもよるものの、一般的には0.27?1.3g/100cm^(2)(必要ならば、参考資料5、6等参照)といえる。
そうすると、引用発明においては、担体1g当たり殺虫性化合物を0.01?0.18g含有させるものであるところ、紙やフィルムが担体の場合、100cm^(2)当たりの重量は一般に上記のとおりといえるから、担体100cm^(2)当たりに含有している殺虫性化合物量は、0.01×0.27g?0.18×1.3gの範囲と計算され、すなわち、0.0027g?0.234g/100cm^(2)、含有していることになり、これは、固体担体に保持される殺虫性化合物の量が、「シート面100cm^(2)当たり0.05?1g」という本願発明範囲と重複する。
したがって、相違点Bは、実質的な相違点といえるものではない。

なお、例えば参考資料1の製剤例2、3の場合、化合物〔I〕を100cm^(2)当たりでは0.13g、0.40g吸着させており、参考資料2のNO.11、12の場合、エンペントリン、テラレスリンを100cm^(2)当たりでは0.21g含浸させているから、本願発明で規定される数値範囲は、従来採用されていた程度のものにすぎないといえる。

ウ 相違点Cについて
引用例には、空間部にどれほどの面積のシートを配置するかは示されていないが、引用例の実施例では、「70mm×150mm」(摘記a-4)のシートを、「容積0.34M^(3)のチャンバー内中央部に吊り下げ」(摘記a-3)ており、これは、1m^(3)当たりにすると約309cm^(2)(7×15/0.34)となる。
そうしてみると、引用発明において、害虫駆除剤を浄化槽内の空間部に配置するに当たり、引用発明における「1m^(3)当たり約309cm^(2)」という面積を含む範囲の、「空間部1m^(3)当たりシート面の面積にして300?30000cm^(2)となるように配置」することは、当業者にとって容易といえる。

なお、「100cm^(2)当たり0.05?1g」を塗布、含浸したシート「300?30000cm^(2)」に含有される殺虫性化合物を計算すると、0.15?300gとなり、通常採用されるであろう量を含む範囲を表すにすぎないものといえる(必要ならば、参考資料1等参照)ので、「300?30000cm^(2)」という面積の設定に特に意味があるとすることはできない。

エ 効果について
本願発明の効果は、本願明細書に記載されるように、「浄化槽内の害虫を長期間にわたって駆除できると共に、使用後はそのまま浄化槽内に投棄することのできる使用し易いものでもある。」(段落【0094】)というものであるところ、「害虫を長期間にわたって駆除できる」という効果は、引用発明においても奏されているところであり(摘記a-4)、「使用後はそのまま浄化槽内に投棄することのできる使用し易いもの」という効果は、担体として水解紙もしくは水溶紙である水溶性固体担体を選択することによりもたらされる当然の効果であり、格別の予期し得ない効果ではない。

(3)まとめ
したがって、本願発明は、出願前に頒布された刊行物である引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

7 請求人の主張
請求人は、平成20年8月20日付け回答書において、「このように、引用文献2に記載された担体である紙、布、不織布あるいは発泡体、さらには本願の請求項1に係る発明である害虫駆除方法に使用する水解紙もしくは水溶紙である水溶性固体担体は、トイレ関連用品とは全く別の異なるものであることから、引用文献2に記載された担体である紙、布、不織布あるいは発泡体、さらには本願の請求項1に係る発明である害虫駆除方法に使用する水解紙もしくは水溶紙である水溶性固体担体に、浄化槽等にそのまま廃棄できる水解紙、水溶紙を用いることが、当業者において容易に想到し得ることでは決してありません。」と主張する。
しかしながら、水解紙や水溶紙がそのまま水に流せるものであり、いわゆる水回りを含む用途に用いられることは周知であるのだから、これを汚水を処理する浄化槽内に用いることは当業者が着想する範囲内のものといえる。
したがって、請求人の主張は採用できない。

8 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に記載の発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-03-18 
結審通知日 2009-03-25 
審決日 2009-03-27 
出願番号 特願平8-92168
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 柿澤 恵子  
特許庁審判長 西川 和子
特許庁審判官 杉江 渉
原 健司
発明の名称 害虫駆除方法  
代理人 浜本 忠  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ