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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F16C
管理番号 1196869
審判番号 不服2008-818  
総通号数 114 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-06-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-01-10 
確定日 2009-05-08 
事件の表示 特願2001-129787「転がり軸受」拒絶査定不服審判事件〔平成14年11月8日出願公開、特開2002-323049〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成13年4月26日の出願であって、平成19年12月3日付けで拒絶査定がされたところ、平成20年1月10日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。
そして、本願の請求項1及び2に係る発明は、平成19年10月18日付け、及び平成21年2月6日付けの手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりのものである。なお、平成20年1月23日付けの手続補正は、当審において平成20年12月9日付けで決定をもって却下された。
「【請求項1】
内輪、外輪、およびそれらの環状空間内に収容された複数の転動体とからなり、車両用歯車減速装置における歯車軸を回転自在に支持する転がり軸受において、
前記内輪の端部に板厚が0.5mm程度の薄肉の鋼板製ワッシャを嵌合し、このワッシャが断面L字状をなし、前記内輪の外径に圧入嵌合する円筒部と、前記内輪の端面に接合する円板部とからなり、当該ワッシャの表面に、軟窒化処理による窒化層を形成し、表面硬さを400Hv以上とし、かつ、その窒化層深さを20μm以上とすると共に、前記円板部の表面に固体潤滑剤からなる表面層を形成したことを特徴とする転がり軸受。」

2.本願出願前に日本国内において頒布され、当審において平成20年12月9日付けで通知した拒絶の理由において引用した刊行物に記載された発明及び記載事項
(1)刊行物1:実願平4-23273号(実開平5-83437号)のCD-ROM
(2)刊行物2:特開平8-303473号公報
(3)刊行物3:実願平1-34387号(実開平2-125255号)のマイクロフィルム
(4)刊行物4:特開平11-51059号公報
(5)刊行物5:実願昭63-126713号(実開平2-47417号)のマイクロフィルム
(6)刊行物6:特開2000-192978号公報

(刊行物1)
刊行物1には、「プロペラシャフト装置」に関して、図面(特に、図4を参照)とともに、下記の技術的事項が記載されている。
(a)「本考案は、比較的大形の車両等においてエンジンの出力を車軸側に伝えるために使われるプロペラシャフト装置に関する。」(第4頁第4及び5行、段落【0001】参照)
(b)「本考案の目的は、トルクの立上がり時等においてベアリング部で異音が発生しないようなプロペラシャフト装置を提供することにある。」(第5頁第14及び15行、段落【0005】参照)
(c)「ベアリングインナレースとフランジ部材との間に挟まれるシムに、りん酸塩被膜処理がなされかつグリース等の潤滑剤が塗布されているため、シムとフランジ部材との間の摩擦はきわめて小さい。このため、車両の発進時やエンジンブレーキ作動時などにおいてプロペラシャフトにトルクが作用した時に、スプラインとスプライン溝との間の遊び分をスムーズに滑ることができる。従ってトルクの立上がり初期からシャフト部材のスプラインがトルクをダイレクトに伝達できる状態となり、スティックスリップやフレッティングの発生が回避される。」(第5頁第27行?第6頁第4行、段落【0007】参照)
(d)「フランジ部材14の端面55とベアリングインナレース33の端面56との間に、円環状のシム57が設けられている。シム57の両面、すなわちフランジ部材14の端面55に接する面と、インナレース33の端面56に接する面に、りん酸塩被膜処理が施されている。りん酸塩被膜の例としては、りん酸亜鉛リッチ膜、りん酸亜鉛鉄、りん酸亜鉛カルシウム、りん酸マンガン等が適用される。シム57の両面にグリースが薄く塗布されている。
シム57の基材は、ばね鋼に代表される炭素鋼以外に、クロムモリブデン鋼やニッケルクロムモリブデン鋼などでもよい。なお、上記のりん酸塩被膜処理は、シム57の片側の面、例えばフランジ部材14の端面55と接する面のみに施してもよい。」(第7頁第8?18行、段落【0012】及び【0013】参照)
(e)「フランジ部材14とベアリングインナレース33との間に、りん酸塩被膜処理がなされかつグリースの塗布されたシム57が設けられているため、シム57とフランジ部材14との間の摩擦は著しく小さいものとなる。このため、車両の発進時あるいはエンジンブレーキ作動時などのようにプロペラシャフト12に急峻なトルクが作用した時に、スプライン21とスプライン溝25との嵌合部分の遊び分だけシム57とフランジ部材14との間がスムーズに滑ることにより、トルクの立上がり初期からシャフト部材13のスプライン21がダイレクトにトルクを伝達できる状態となり、スティックスリップやフレッティングの発生が無くなる。」(第7頁第26行?第8頁第5行、段落【0015】参照)
(f)「図4は本考案の他の実施例を示すものであり、この実施例においては、リヤデファレンシャル部60のジョイント部分61に、りん酸塩被膜処理が施されたシム62を設けるようにしている。リヤデファレンシャル部60は、軸受ケース65を有するハウジング66(一部のみ図示する)を備えている。ハウジング66の内部には周知の差動歯車機構67とオイルが収容されている。
軸受ケース65の中心部にシャフト部材70が通っている。このシャフト部材70は、軸受ケース65の内側に設けられた前後一対のベアリング71,72によって回転自在に支持されている。ベアリング71,72のアウタレース75,76は、軸受ケース65の内周部に保持されている。ベアリング71,72のインナレース77,78は、シャフト部材70の外周部に固定されている。インナレース77,78の間にカラー80が設けられている。
シャフト部材70の一端側にリダクションギヤ85が設けられている。シャフト部材70の他端側にはスプライン86とねじ部87が設けられている。そしてスプライン86にフランジ部材90のスプライン溝91が嵌合させられ、ナット92によって、フランジ部材90がシャフト部材70に固定されている。軸受ケース65とフランジ部材90との間にオイルシール93が設けられている。
フランジ部材90とベアリングインナレース77との間に、ばね鋼からなる円環状のシム62が設けられている。このシム62には、前記実施例のシム57と同様に、りん酸塩被膜処理が施され、かつ、シム62の表面にグリースが薄く塗布されている。従って、シム62とフランジ部材90との間の摩擦は著しく小さいものとなる。
このため、シャフト部材70とフランジ部材90との間にトルクが作用した時に、スプライン86とスプライン溝91との遊び分だけフランジ部材90とシム62との間がスムーズに滑ることにより、トルクの立上がり初期からスプライン86によってトルクがダイレクトにシャフト部材70とフランジ部材90との間に伝わるようになる。」(第8頁第7行?第9頁第7行、段落【0016】?【0020】参照)
(g)「本考案によれば、プロペラシャフトにトルクが作用する際に、異音の発生がなくなる。また、ベアリングインナレースとフランジ部材との間のフレッティングも防止できる。」(第9頁第10?12行、段落【0021】参照)
(h)図4から、インナーレース77の端部に薄肉のばね鋼からなるシム62を装着し、このシム62がインナーレース77の端面に当接する円板部からなる構成が看取できる。
したがって、刊行物1には、下記の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認める。
【引用発明】
インナーレース77、アウタレース75、およびそれらの環状空間内に収容された複数のベアリング71とからなり、リヤデファレンシャル部60におけるシャフト部材70を回転自在に支持するベアリング71において、
前記インナーレース77の端部に薄肉のばね鋼からなるシム62を装着し、このシム62が前記インナーレース77の端面に当接する円板部からなり、前記円板部の表面にりん酸塩被膜処理がなされかつグリースが塗布されているベアリング71。

3.対比・判断
本願発明と引用発明とを対比すると、それぞれの有する機能からみて、引用発明の「インナーレース77」は本願発明の「内輪」に相当し、以下同様にして、「アウタレース75」は「外輪」に、「ベアリング71」は「転動体」に、「リヤデファレンシャル部60」は「車両用歯車減速装置」に、「シャフト部材70」は「歯車軸」に、「ばね鋼からなるシム62」又は「シム62」は「鋼板製ワッシャ」又は「ワッシャ」に、「装着」は「嵌合」に、「当接」は「接合」に、それぞれ相当するので、両者は下記の一致点、及び相違点1?3を有する。
<一致点>
内輪、外輪、およびそれらの環状空間内に収容された複数の転動体とからなり、車両用歯車減速装置における歯車軸を回転自在に支持する転がり軸受において、
前記内輪の端部に薄肉の鋼板製ワッシャを嵌合し、このワッシャが前記内輪の端面に接合する円板部からなる転がり軸受。
(相違点1)
前記ワッシャに関し、本願発明は、「板厚が0.5mm程度」で「断面L字状をなし、前記内輪の外径に圧入嵌合する円筒部と、前記内輪の端面に接合する円板部とから」なるのに対し、引用発明は、シム62がインナーレース77の端面に当接する円板部からなる点。
(相違点2)
前記ワッシャに関し、本願発明は、「当該ワッシャの表面に、軟窒化処理による窒化層を形成し、表面硬さを400Hv以上とし、かつ、その窒化層深さを20μm以上とする」のに対し、引用発明は、そのような構成を具備していない点。
(相違点3)
前記ワッシャに関し、本願発明は、「前記円板部の表面に固体潤滑剤からなる表面層を形成した」のに対し、引用発明は、円板部の表面にりん酸塩被膜処理がなされかつグリースが塗布されている点。
そこで、上記相違点1?3について検討する。
(相違点1について)
転がり軸受の内輪の端部における固定構造において、断面L字状をなし、内輪の外径に圧入嵌合する円筒部と、内輪の端面に接合する円板部とからなる構成とすることは、従来周知の技術手段(例えば、刊行物2の段落【0006】、【0007】、及び図1には、芯金6の屈曲部6a及び幅押え部6bが、また、段落【0002】、及び図4には、芯金52の屈曲部52b及び幅面係合片52cが記載されている。特開平1-193411号公報の第1図には、断面L字状の環状部材28が記載されている。)にすぎない。
引用発明のシム62(本願発明の「ワッシャ」に相当する。以下同様。)に、上記従来周知の技術手段を適用して、断面L字状をなし、内輪の外径に圧入嵌合する円筒部と、内輪の端面に接合する円板部とからなる構成のものとして、転がり軸受の内輪の端部に固定することは、当業者が容易に想到できるものであって、これを妨げる格別の事情は見出せない。
また、ワッシャの技術分野において、その板厚を0.5mm程度とすることは、当業者が通常普通に行なっているものであって単なる設計変更の範囲内の事項にすぎない。
してみれば、引用発明のシム62(ワッシャ)に、上記従来周知の技術手段を適用することにより、組立性を向上させて、上記相違点1に係る本願発明の構成とすることは、技術的に格別の困難性を有することなく当業者が容易に想到し得たものである。
(相違点2について)
ワッシャのような薄板に対し、軟窒化処理による窒化層を形成し、表面硬さを400Hv以上とし、かつ、その窒化層深さを20μm以上とすることは、従来周知の技術手段(例えば、刊行物3の第3頁第19行?第4頁第1行には、「スラストワッシャーとしては、高炭素工具鋼特に軟窒化処理を施して表面硬度をHv400程度としたものが用いられており」と、また第1図にはスラストワッシャー20,21が記載されている。また、刊行物4の段落【0002】、及び図4には、SPCCの表面に、軟窒化法により窒化層を形成し、表面からの距離が0μmでビッカース硬さ(HV)を400Hv以上とし、かつ、その窒化層深さが20μm以上となっている構成が記載されている。)にすぎない。
引用発明のシム62(ワッシャ)に、上記従来周知の技術手段を適用して、ワッシャの表面に、軟窒化処理による窒化層を形成し、表面硬さを400Hv以上とし、かつ、その窒化層深さを20μm以上とすることは、当業者が容易に想到できるものであって、これを妨げる格別の事情は見出せない。
してみれば、引用発明のシム62(ワッシャ)に、上記従来周知の技術手段を適用することにより、ワッシャの摩耗を軽減し、上記相違点2に係る本願発明の構成とすることは、技術的に格別の困難性を有することなく当業者が容易に想到し得たものである。
(相違点3について)
軸受に対し予圧ないし位置決めをするワッシャのような部材において、ワッシャの円板部の表面に固体潤滑剤からなる表面層を形成することは、従来周知の技術手段(例えば、刊行物5の第6頁第15?17行、及び第4図には、「スラストワッシャ5の側壁面に金属となじみ性のよい材料により、被膜層5bを形成している。」と記載されている。刊行物6には、リング溝8やリング部材9に二硫化モリブデン(MoS_(2))系のコーティング10を施しても良いことが記載されている。)にすぎない。
引用発明のシム62(ワッシャ)に、上記従来周知の技術手段を適用して、ワッシャの円板部の表面に固体潤滑剤からなる表面層を形成することは、当業者が容易に想到できるものであって、これを妨げる格別の事情は見出せない。
してみれば、引用発明のシム62(ワッシャ)に、上記従来周知の技術手段を適用することにより、ステックスリップノイズの発生を防止し、かつワッシャの摩耗を軽減し、上記相違点3に係る本願発明の構成とすることは、技術的に格別の困難性を有することなく当業者が容易に想到し得たものである。

また、本願発明の奏する効果についてみても、引用発明、及び従来周知の技術手段の奏するそれぞれの効果の総和以上の格別顕著な効果を奏するものとは認められない。
したがって、本願発明は、刊行物1に記載された発明、及び従来周知の技術手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

なお、審判請求人は、平成21年2月6日付け意見書において、「本願発明は、(中略)スティックスリップノイズ発生を防止し、ワッシャ取付のために内輪、あるいはワッシャ自体に特別な加工を施すことはなく、組立性を向上させると共に、表面処理による変形を可及的に抑制し、長期間にわたってワッシャの摩耗を軽減させることができる。したがって、歯車の噛み合いを良好に保つことができ、初期の軸受予圧を維持することができるものである。」(「3.本願発明の説明」の項参照)等と述べ、本願発明の奏する効果について縷々主張している。
しかしながら、上記(相違点1について)?(相違点3について)において記載したように、引用発明に、上記従来周知の技術手段を適用することは当業者が容易に想到し得たものであるところ、審判請求人が主張する本願発明の奏する上記の効果は、従前知られていた構成が奏する効果を併せたものにすぎず、本願発明の構成を備えることによって、本願発明が、従前知られていた効果を併せたものとは異なる、相乗的で予想外の効果を奏するものとは認められないので、審判請求人の上記主張は採用することができない。

4.むすび
結局、本願の請求項1に係る発明(本願発明)は、その出願前日本国内において頒布された刊行物1に記載された発明、及び従来周知の技術手段に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そして、本願の請求項1に係る発明が特許を受けることができないものである以上、本願の請求項2に係る発明について検討をするまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-03-05 
結審通知日 2009-03-06 
審決日 2009-03-27 
出願番号 特願2001-129787(P2001-129787)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (F16C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐藤 高弘安井 寿儀  
特許庁審判長 溝渕 良一
特許庁審判官 岩谷 一臣
常盤 務
発明の名称 転がり軸受  
代理人 越川 隆夫  

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