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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H03F
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H03F
管理番号 1196883
審判番号 不服2007-7000  
総通号数 114 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-06-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-03-08 
確定日 2009-05-07 
事件の表示 特願2001-148000「高周波半導体回路」拒絶査定不服審判事件〔平成14年11月29日出願公開、特開2002-344262〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯

本願は、平成13年5月17日の出願であって、平成18年5月30日付けで拒絶理由通知がなされ、同年8月4日付けで手続補正がなされたが、平成19年2月2日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年3月8日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同年4月9日付けで手続補正がなされたものである。


2.平成19年4月9日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成19年4月9日付けの手続補正を却下する。
[理由]
(1)補正の目的の適否について
本件手続補正の目的が、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に適合するか否かを検討する。

本件手続補正のうち、特許請求の範囲の請求項1についての補正は、同請求項1に係る発明を、
「複数段接続された差動増幅器を備えた高周波半導体集積回路において、
上記複数段の差動増幅器のうち、少なくとも最終段の差動増幅器のコモンエミッタを、定電流源を介さず独立の接地端子に接地し、上記独立の接地端子で接地される差動増幅器以外の少なくとも1つ以上の差動増幅器のコモンエミッタを、定電流源を介して上記独立の接地端子とは異なる1つの共通接地端子に集約して接地したことを特徴とする高周波半導体回路。」から、
「複数段接続された差動増幅器を備えた高周波半導体集積回路において、
上記複数段の差動増幅器のうち、少なくとも最終段を含む差動増幅器のコモンエミッタは、定電流源を介さず、高周波半導体集積回路に形成した独立の接地端子に接続され、残りの段の差動増幅器のコモンエミッタは、定電流源を介して、上記独立の接地端子とは異なる1つの接地端子に共通に接続されることを特徴とする高周波半導体回路。」に補正しようとするものである。

上記補正内容のうち、「独立の接地端子」を「高周波半導体集積回路に形成した」ものとする補正、「コモンエミッタに定電流源が接続された差動増幅器」について、「独立の接地端子で接地される差動増幅器以外の少なくとも1つ以上の差動増幅器」を、「残りの段の差動増幅器」に変更する補正については、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当すると認められる。
しかし、上記補正内容のうち、「独立の接地端子に接地し」を、「独立の接地端子に接続され」に変更する補正、及び「独立の接地端子とは異なる1つの共通接地端子に集約して接地した」を、「独立の接地端子とは異なる1つの接地端子に共通に接続される」に変更する補正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものとは認められない。
すなわち、当該補正箇所の補正前の「独立の接地端子に接地し」た及び「独立の接地端子とは異なる1つの共通接地端子に集約して接地した」という事項については、具体的な接地状態を特定しているものと解されるが、補正後の「独立の接地端子に接続され」る及び「独立の接地端子とは異なる1つの接地端子に共通に接続される」という事項は、「接地端子」なる部材に接続されることのみを特定しているものと解され、「接地」された状態を具体的に特定するものとは認められない。

また、請求項2?4に係る補正についても上記補正事項が含まれるが、上記と同様に、請求項2?4に係る補正において、「独立の接地端子」を「高周波半導体集積回路に形成した」ものとする補正、「コモンエミッタに定電流源が接続された差動増幅器」について、「独立の接地端子で接地される差動増幅器以外の少なくとも1つ以上の差動増幅器」を、「残りの段の差動増幅器」に変更する補正については、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当すると認められる。
しかし、「独立の接地端子に接地し」を、「独立の接地端子に接続され」に変更する補正、及び「独立の接地端子とは異なる1つの共通接地端子に集約して接地した」を、「独立の接地端子とは異なる1つの接地端子に共通に接続される」に変更する補正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものとは認められない。

よって、補正前の請求項1?4の記載を補正後の請求項1?4とする補正は、請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定したものとは認められず、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するとは認められない。
また、上記補正事項が、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第1号の請求項の削除、同第3号の誤記の訂正及び同第4号の明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当するものとも認められない。

以上のとおり、本件手続補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するものである。

(2)独立特許要件について
仮に、上記補正事項における補正後の「独立の接地端子に接続され」た状態が、補正前の「独立の接地端子に接地し」た状態と実質的に同様の場合を特定していると解釈し、同様に補正後の「独立の接地端子とは異なる1つの接地端子に共通に接続される」状態が、補正前の「独立の接地端子とは異なる1つの共通接地端子に集約して接地した」状態と実質的に同様の場合を特定していると解釈し得た場合、補正前の請求項1?4に係る発明を補正後の請求項1?4に係る発明に補正することは、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するということができる。
そこで、本件手続補正後の請求項2に係る発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について、以下に検討する。

(2-1)補正後の請求項2に係る発明
本願の請求項2に係る発明は、平成19年4月9日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項2に記載されたとおりの次のものと認める(以下、「本願補正発明」という。)。
「複数段接続された差動増幅器を備えた高周波半導体集積回路において、
上記複数段の差動増幅器のうち、高周波電力レベルの高い差動増幅器のコモンエミッタは、定電流源を介さず、高周波半導体集積回路に形成した独立の接地端子に接続され、残りの段の差動増幅器のコモンエミッタは、定電流源を介して、上記独立の接地端子とは異なる1つの接地端子に共通に接続されることを特徴とする高周波半導体回路。」

(2-2)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された特開2000-22464号公報(以下、「引用例」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。

A.「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、実装基板における高周波接地パターンの影響を受け難く、高周波信号に対する出力電力(送信電力)の絞り込み時における電力損失の大幅な増大を防ぐことができ、例えば集積回路化に適した構成の高周波パワーモジュールに関する。」

B.「【0011】図1はW-CDMA端末機(携帯電話機)の高周波部に組み込まれる高周波用パワーモジュールの概略構成を示しており、この高周波用パワーモジュールは、例えば1チップのモノリシック集積回路化されたRFパワーアンプ(MMIC;Microwave Monolithic Integrated Circuit)として実現される。この高周波用パワーモジュールは、RF変調器を介して変調された2GHz(具体的には中心周波数1.9GHzで5MHz幅の拡散信号)の高周波信号を所定の利得(例えば30dB以上)で増幅し、これをアンテナ回路(図示せず)に出力して送信出力するものである。」

C.「【0013】より具体的には前記高周波用パワーモジュールは、例えば図2にその概念的な回路構成を示すように複数のバイポーラトランジスタT_(1),T_(2),?T_(11)を用いて構成される。初段の差動増幅器11は、エミッタを共通接続し、そのコレクタに負荷抵抗R_(1),R_(2)をそれぞれ備えた一対のトランジスタT_(1),T_(2)を主体として構成される。これらのトランジスタT_(1),T_(2)からなる差動増幅器11は、そのエミッタと接地(GND)間に設けられトランジスタT_(3)がなす定電流源により駆動されて、前記トランジスタT_(1),T_(2)の各ベースにコンデンサを介して平衡入力される高周波信号を増幅する。
【0014】また次段の差動増幅器12は、エミッタを共通接続すると共に、各ベースを前記初段の差動増幅器11の各トランジスタT_(1),T_(2)のコレクタに直結した一対のトランジスタT_(4),T_(5)を主体として構成される。これらトランジスタT_(4),T_(5)からなる差動増幅器12は、そのエミッタと接地(GND)間に設けられトランジスタT_(6)がなす定電流源により駆動されて前記高周波信号を平衡増幅する。
【0015】前記各トランジスタT_(3),T_(6)がなす定電流源は、前記各差動増幅器11,12のをバイアス電流をそれぞれ設定する役割を担い、特に前述したように前記各バイアス電流設定回路15,16の下で前記利得制御信号に応じて上記各バイアス電流を設定して、前記各差動増幅器11,12の増幅利得を可変設定する。このような各差動増幅器11,12に対するバイアス電流の可変制御により高周波信号に対するAGC(自動利得調整)等が行われる。尚、バイアス電流設定回路15,16によるトランジスタT_(3),T_(6)の動作制御により、前記各各差動増幅器11,12に対する温度補償等の機能を持たせることも勿論可能である。
【0016】さて高周波信号を電力増幅してアンテナ回路を駆動するプッシュプル回路13は、エミッタを共通接続して接地すると共に、ベースにコンデンサを介して高周波信号を平衡入力し、そのコレクタ間に増幅出力を平衡に得る一対のトランジスタT_(7),T_(8)からなる。特にこれらのトランジスタT_(7),T_(8)のベース間には、そのベース電流、ひいてはプッシュプル回路13のバイアス電流を設定する定電流源としての一対の駆動トランジスタT_(9),T_(10)が設けられている。これらの各駆動トランジスタT_(9),T_(10)は、トランジスタT_(11)を介してバイアス電流設定回路17により駆動されて定電流動作するものであり、これによってプッシュプル回路13の直流バイアス(バイアス電流)が設定されている。特に各駆動トランジスタT_(9),T_(10)のベースに挿入された抵抗R_(3),R_(4),R_(5)により、その高インピーダンス化が図られている。このような駆動トランジスタT_(9),T_(10)の高インピーダンス化により、高周波信号に対するトランジスタT_(7),T_(8)の動作条件を安定に維持しながら、該トランジスタT_(7),T_(8)がなすプッシュプル回路13のバイアス電流の最適化が行われ、電力損失の増大が防がれるようになっている。」

引用例の図1には、2つの差動アンプ及びプッシュプルアンプの縦続接続から構成される高周波用パワーモジュールが示されており、上記Bの【0011】段落には、「この高周波用パワーモジュールは、例えば1チップのモノリシック集積回路化されたRFパワーアンプ(MMIC;Microwave Monolithic Integrated Circuit)として実現される。」と説明されていることから、当該高周波用パワーモジュールは、2つの差動アンプ及びプッシュプルアンプの縦続接続から構成された高周波用パワーモジュールであり、さらにモノリシック集積回路として構成された高周波用パワーモジュールであると解される。
そして、2つの差動アンプの詳細について、上記Cの【0013】段落には、「初段の差動増幅器11は、エミッタを共通接続し、そのコレクタに負荷抵抗R_(1),R_(2)をそれぞれ備えた一対のトランジスタT_(1),T_(2)を主体として構成される。これらのトランジスタT_(1),T_(2)からなる差動増幅器11は、そのエミッタと接地(GND)間に設けられトランジスタT_(3)がなす定電流源により駆動されて、前記トランジスタT_(1),T_(2)の各ベースにコンデンサを介して平衡入力される高周波信号を増幅する。」と説明され、また同【0014】段落には、「次段の差動増幅器12は、エミッタを共通接続すると共に、各ベースを前記初段の差動増幅器11の各トランジスタT_(1),T_(2)のコレクタに直結した一対のトランジスタT_(4),T_(5)を主体として構成される。これらトランジスタT_(4),T_(5)からなる差動増幅器12は、そのエミッタと接地(GND)間に設けられトランジスタT_(6)がなす定電流源により駆動されて前記高周波信号を平衡増幅する。」と説明されていることから、初段と次段に配置される増幅器は、「差動増幅器」であり、「共通接続されたエミッタは、定電流源を介して接地される」ものであると解される。
また、プッシュプルアンプの詳細について、上記Cの【0016】段落には、「プッシュプル回路13は、エミッタを共通接続して接地すると共に、ベースにコンデンサを介して高周波信号を平衡入力し、そのコレクタ間に増幅出力を平衡に得る一対のトランジスタT_(7),T_(8)からなる。」と説明されていることから、エミッタが共通接続される一対のトランジスタからなる増幅器であり、一対のトランジスタのベースに平衡に入力信号が入力され、一対のトランジスタのコレクタから平衡に出力信号が出力されることから、最終段に配置される増幅器も初段と次段に配置される増幅器と同様に「差動増幅器」であると解される。ただし、共通接続されたエミッタには初段と次段に配置される増幅器とは異なり定電流源が介在しないものであるから、「共通接続されたエミッタは、定電流源を介さず接地される」ものであると解される。
そして、図1に示される高周波用パワーモジュールは、2つの差動アンプ及びプッシュプルアンプからなる差動増幅器が縦続接続されていることからみて、次段に配置される差動増幅器は前段に配置される差動増幅器の信号を更に増幅する機能を有していると解され、また、各差動増幅器の機能及びその接続過程において、特に元の信号の信号レベルを増幅させないための構成は明示されていないことからみて、結局のところ、図1に示される高周波用パワーモジュールは、後段に配置される差動増幅器ほど、レベルの大きな信号を扱うものであると解される。つまり、最終段に配置される差動増幅器であるプッシュプルアンプは、前段に配置される複数の差動増幅器に比べて最も信号レベルの大きな信号を扱う「高周波電力レベルの高い差動増幅器」であると解される。

よって、上記A?Cの記載及び関連する図面を参照すると、引用例には、実質的に、次の発明が記載されているものと認められる(以下、「引用例記載の発明」という。)。
「複数段接続された差動増幅器を備え、モノリシック集積回路として構成された高周波用パワーモジュールにおいて、
上記複数段の差動増幅器のうち、高周波電力レベルの高い差動増幅器の共通接続されたエミッタは、定電流源を介さず接地され、残りの段の差動増幅器の共通接続されたエミッタは、定電流源を介して接地される高周波用パワーモジュール。」

(2-3)対比
本願補正発明と引用例記載の発明とを対比すると、以下のことがいえる。

(あ)引用例記載の発明における「高周波用パワーモジュール」は「モノリシック集積回路」として構成されるものであり、この「モノリシック集積回路」は、半導体基板上に増幅器等の能動素子や、抵抗等の受動素子を集積化した回路であることから、引用例記載の発明における「高周波用パワーモジュール」は、本願補正発明における「高周波半導体集積回路」、「高周波半導体回路」に相当する。

(い)引用例記載の発明における「差動増幅器」の「共通接続されたエミッタ」は、本願補正発明における「コモンエミッタ」に相当する。

(う)本願補正発明における「高周波電力レベルの高い差動増幅器」のコモンエミッタは最終的には「独立の接地端子」を介して接地されるものと解され、同様に、本願補正発明における「残りの段の差動増幅器」のコモンエミッタも最終的には「1つの接地端子」を介して接地されるものと解される。
すると、引用例記載の発明における「高周波電力レベルの高い差動増幅器の共通接続したエミッタ」と本願補正発明における「高周波電力レベルの高い差動増幅器のコモンエミッタ」は、何れも「定電流源を介さず、接地される」もので共通であり、また、引用例記載の発明における「残りの段の差動増幅器の共通接続したエミッタ」と本願補正発明における「残りの段の差動増幅器のコモンエミッタ」は、何れも「定電流源を介して、接地される」もので共通である。

上記(あ)?(う)の事項を踏まえると、本願補正発明と引用例記載の発明とは、次の点で一致し、また相違するものと認められる。

(一致点)
「複数段接続された差動増幅器を備えた高周波半導体集積回路において、
上記複数段の差動増幅器のうち、高周波電力レベルの高い差動増幅器のコモンエミッタは、定電流源を介さず、接地され、残りの段の差動増幅器のコモンエミッタは、定電流源を介して、接地される高周波半導体回路。」

(相違点)
相違点1:
「高周波電力レベルの高い差動増幅器」及び「残りの段の差動増幅器」の接地の形態として、本願補正発明では、高周波電力レベルの高い差動増幅器のコモンエミッタは、定電流源を介さず「独立の接地端子」に接続され、また、残りの段の差動増幅器のコモンエミッタは、定電流源を介して「独立の接地端子とは異なる1つの接地端子」に共通に接続されるものであるのに対して、引用例記載の発明では、そのような接地の形態について明示していない点。

相違点2:
さらに、本願補正発明における「独立の接地端子」は、高周波半導体集積回路に形成したものであるのに対して、引用例記載の発明では、そのようなことについて明示していない点。

(2-4)判断
そこで、上記相違点1及び2について検討する。

(相違点1について)
一般に、半導体集積回路上に配置される増幅器において、信号レベルが大きい信号を扱う回路の動作過程において、当該回路から発生する信号が他の回路に影響を及ぼす可能性があることは知られており、このような信号レベルが大きい信号を扱う増幅器からの信号の回り込みを防ぐために、半導体集積回路上に配置される増幅器の接地の形態として、信号レベルが大きい信号を扱う増幅器の接地端子は、他の増幅器の接地端子とは独立した接地端子とするような構成は周知である(以下、「周知技術1」という。この点について、例えば、原査定の拒絶の理由に引用された特開平11-274870号公報及び特開平1-260847号公報を参照。特開平11-274870号公報の図1?3及びその説明箇所をみると、モノリシック回路として形成される高周波回路において、最終段に配置される増幅回路B2からの高周波成分の回り込みが大きいことを考慮し、当該増幅回路B2のGNDパッドPD8が接続される接地端子である外部端子PN6は、他の回路の接地端子である外部端子PN5とは独立したものとすることが示されている。また、特開平1-260847号公報の図1及びその説明箇所をみると、半導体集積回路装置として構成されるTTLゲートにおいて、最終段に配置されるトーテムポール出力部に流れる大きな電流によってグランド電位が変動することを考慮し、当該トーテムポール出力部の接続端子であるグランドパッド8aは、他の回路の接地端子であるグランドパッド22とは独立したものとすることが示されている。)。
また、半導体基板上に複数の回路を配置して構成される半導体集積回路において、各回路の接地端子の端子数や配置については、回路全体の性能、チップサイズ等を考慮して決定されるものであることもよく知られており、回路全体の性能、チップサイズ等を考慮して、基板上に配置される回路のうち、独立して接地端子を備える回路以外の回路の接地端子を1つの接地端子で共通にすることも周知である(以下、「周知技術2」という。この点についても、上記特開平11-274870号公報及び特開平1-260847号公報を参照。特開平11-274870号公報には、他の回路とは独立した接地を行う増幅回路B2以外の増幅回路B1及び2段のアッテネータA1、A2等回路については、1つの接地端子である外部端子PN5に共通に接続されることが示されている。また、特開平1-260847号公報には、他の回路とは独立した接地を行うトーテムポール出力部以外の入力部及び位相反転部等の回路については、1つの接地端子であるグランドパッド22に共通に接続されることが示されている。)。

引用例記載の発明における「高周波電力レベルの高い差動増幅器」は、信号レベルの高い信号を扱うものであることから、一般に他の回路への影響についても考慮する必要があることは当業者にとって自明であり、逆に、当該差動増幅器が他の回路に及ぼす影響を全く考慮しなくて良いような特別な回路構成を採用しているとも認められないことから、引用例記載の発明における「高周波電力レベルの高い差動増幅器」の具体的な接地の形態として、上記周知技術1を考慮すれば、他の差動増幅器の接地端子とは独立した接地端子に接続するような接地の形態とするようなことは、当業者が容易に想到し得るものである。
その際、「高周波電力レベルの高い差動増幅器」以外の回路となる「残りの段の差動増幅器」の接地の形態としては、上記周知技術2を考慮すれば、これらの差動増幅器の接地端子を1つの共通の接地端子とし、1つの接地端子に共通に接続するような接地の形態とするようなことは、当業者が適宜適用すれば良い程度の事項にすぎない。

すなわち、上記周知技術1及び2を考慮すれば、引用例記載の発明における接地の形態の具体的な構成として、本願補正発明のような「高周波電力レベルの高い差動増幅器のコモンエミッタは、定電流源を介さず、独立の接地端子に接続され、残りの段の差動増幅器のコモンエミッタは、定電流源を介して、上記独立の接地端子とは異なる1つの接地端子に共通に接続される」ものとすることは、当業者が容易に想到し得るものである。

(相違点2について)
接地状態とするために必要となる、接地電位に接続されるための部位としての接地端子を、特に半導体基板に形成することも周知である(以下、「周知技術3」という。この点についても、上記特開平1-260847号公報を参照。第1図(b)等に示されるグランドパッドは半導体集積回路のチップに設けられることが示されている(第2頁左上欄第11行?13行を参照)。)。
よって、上記周知技術3を考慮すれば、接地端子の具体的な構成として、特に、「高周波電力レベルの高い差動増幅器」の接地に必要となる「接地端子」を、高周波半導体集積回路に形成したものとすることは、当業者が容易に想到し得るものである。

(本願補正発明の効果について)
そして、本願補正発明の構成によってもたらされる効果も、引用例記載の発明及び上記周知技術1?3から当業者ならば容易に予測することができる程度のものであって、格別のものとはいえない。

したがって、本願補正発明は、引用例記載の発明及び上記周知技術1?3に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

以上のとおり、本件手続補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものである。

(3)むすび
上記(1)及び(2)で検討したとおり、本件手続補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定、あるいは同第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。


3.補正却下の決定を踏まえた検討

(1)本願発明
平成19年4月9日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項2に係る発明は、平成18年8月4日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項2に記載されたとおりの次のものと認める(以下、「本願発明」という。)。
「複数段接続された差動増幅器を備えた高周波半導体集積回路において、
上記複数段の差動増幅器のうち、高周波電力レベルの高い差動増幅器のコモンエミッタを、定電流源を介さず独立の接地端子に接地し、上記独立の接地端子で接地される差動増幅器以外の少なくとも1つ以上の差動増幅器のコモンエミッタを、定電流源を介して上記独立の接地端子とは異なる1つの共通接地端子に集約して接地したことを特徴とする高周波半導体回路。」

(2)引用例
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された引用例について、引用例の上記A?Cの記載及び関連する図面を参照すると、引用例には、実質的に、次の発明も記載されているものと認められる(以下、「引用例記載の発明2」という。)。
「複数段接続された差動増幅器を備え、モノリシック集積回路として構成された高周波用パワーモジュールにおいて、
上記複数段の差動増幅器のうち、高周波電力レベルの高い差動増幅器の共通接続されたエミッタを、定電流源を介さず接地し、上記定電流源を介さず接地される差動増幅器以外の差動増幅器の共通接続されたエミッタを、定電流源を介して接地した高周波用パワーモジュール。」

(3)対比
本願発明と引用例記載の発明2とを対比すると、以下のことがいえる。

(あ)引用例記載の発明2における「高周波用パワーモジュール」は「モノリシック集積回路」として構成されるものであり、この「モノリシック集積回路」は、半導体基板上に増幅器等の能動素子や、抵抗等の受動素子を集積化した回路であることから、引用例記載の発明2における「高周波用パワーモジュール」は、本願発明における「高周波半導体集積回路」、「高周波半導体回路」に相当する。

(い)引用例記載の発明2における「差動増幅器」の「共通接続されたエミッタ」は、本願発明における「コモンエミッタ」に相当する。

(う)引用例記載の発明2における「高周波電力レベルの高い差動増幅器の共通接続されたエミッタ」と本願発明における「高周波電力レベルの高い差動増幅器のコモンエミッタ」は、何れも「定電流源を介さず接地し」たもので共通であり、また、引用例記載の発明における「上記定電流源を介さず接地される差動増幅器以外の差動増幅器の共通接続されたエミッタ」と本願発明における「上記独立の接地端子で接地される差動増幅器以外の少なくとも1つ以上の差動増幅器のコモンエミッタ」は、何れも「定電流源を介して、接地される」もので共通である。
そして、引用例記載の発明2における「上記定電流源を介さず接地される差動増幅器」も本願発明における「上記独立の接地端子で接地される差動増幅器」も、何れも「高周波電力レベルの高い差動増幅器」を示していることに他ならない。

上記(あ)?(う)の事項を踏まえると、本願発明と引用例記載の発明2とは、次の点で一致し、また相違するものと認められる。

(一致点)
「複数段接続された差動増幅器を備えた高周波半導体集積回路において、
上記複数段の差動増幅器のうち、高周波電力レベルの高い差動増幅器のコモンエミッタを、定電流源を介さず接地し、上記高周波電力レベルの高い差動増幅器以外の差動増幅器のコモンエミッタを、定電流源を介して接地した高周波半導体回路。」

(相違点)
相違点1:
「高周波電力レベルの高い差動増幅器以外の差動増幅器」について、本願発明では、「少なくとも1つ以上」であるのに対して、引用例記載の発明2では、そのような限定がなされていない点。

相違点2:
「高周波電力レベルの高い差動増幅器」及び「高周波電力レベルの高い差動増幅器以外の差動増幅器」の接地の形態として、本願発明では、高周波電力レベルの高い差動増幅器のコモンエミッタは、定電流源を介さず「独立の接地端子」に接地しており、また、高周波電力レベルの高い差動増幅器以外の差動増幅器のコモンエミッタは、定電流源を介して「独立の接地端子とは異なる1つの共通接地端子」に集約して接地したものであるのに対して、引用例記載の発明2では、そのような接地の形態について明示していない点。

(4)当審の判断
そこで、上記相違点1及び2について検討する。

(相違点1について)
引用例記載の発明2における「定電流源を介さず接地される差動増幅器以外の差動増幅器(高周波電力レベルの高い差動増幅器以外の差動増幅器)」は、具体的には初段と次段の2つの差動増幅器を示すものであるが、本願発明の「少なくとも1つ以上の差動増幅器」の文言で特定される差動増幅器は、2つの差動増幅器を含み得るものであることから、相違点1については形式的な相違点であって、実質的な相違点とは認められない。

(相違点2について)
上記周知技術1及び2にみられるような接地の形態においても、接地端子は接地電位に接続される部位を構成するものあって、当該接地端子は接地電位に接続されることは明らかであるから、結局のところ、半導体基板上の回路等が接地端子に接続される状態は、「接地端子に接地した」状態ということができる。
すなわち、上記周知技術1については、信号レベルが大きい信号を扱う増幅器の接地端子は、他の増幅器の接地端子とは独立したものとし、当該信号レベルが大きい信号を扱う増幅器は、当該独立した接地端子に接地する構成が開示されており(以下、「周知技術4」という。)、また、上記周知技術2については、独立した接地端子を備える回路以外の回路の接地端子を1つの接地端子で共通にし、当該独立した接地端子を備える回路以外の回路は、当該共通の接地端子に集約して接地する構成が開示されている(以下、「周知技術5」という。)。

引用例記載の発明2における「高周波電力レベルの高い差動増幅器」は、信号レベルの高い信号を扱うものであることから、一般に他の回路への影響についても考慮する必要があることは当業者にとって自明であり、逆に、当該差動増幅器が他の回路に及ぼす影響を全く考慮しなくて良いような特別な回路構成を採用しているとも認められないことから、引用例記載の発明2における「高周波電力レベルの高い差動増幅器」の具体的な接地の形態として、上記周知技術4を考慮すれば、他の差動増幅器の接地端子とは独立した接地端子に接地するような接地の形態とするようなことは、当業者が容易に想到し得るものである。
その際、「高周波電力レベルの高い差動増幅器」以外の回路となる「定電流源を介さず接地される差動増幅器以外の差動増幅器」の接地の形態としては、上記周知技術5を考慮すれば、これらの差動増幅器の接地端子を1つの共通の接地端子とし、1つの共通接地端子に集約して接地するような接地の形態とするようなことは、当業者が適宜適用すれば良い程度の事項にすぎない。

すなわち、上記周知技術4及び5を考慮すれば、引用例記載の発明2における接地の形態の具体的な構成として、本願発明のような「高周波電力レベルの高い差動増幅器のコモンエミッタを、定電流源を介さず独立の接地端子に接地し」たものとすること、及び「独立の接地端子で接地される差動増幅器以外の差動増幅器のコモンエミッタを、定電流源を介して上記独立の接地端子とは異なる1つの共通接地端子に集約して接地した」ものとすることは、当業者が容易に想到し得るものである。

(本願発明の効果について)
そして、本願発明の構成によってもたらされる効果も、引用例記載の発明2並びに上記周知技術4及び5から当業者ならば容易に予測することができる程度のものであって、格別のものとはいえない。

(5)むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例記載の発明2並びに上記周知技術4及び5に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-03-03 
結審通知日 2009-03-10 
審決日 2009-03-24 
出願番号 特願2001-148000(P2001-148000)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H03F)
P 1 8・ 575- Z (H03F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 野元 久道  
特許庁審判長 長島 孝志
特許庁審判官 伏本 正典
飯田 清司
発明の名称 高周波半導体回路  
代理人 古川 秀利  
代理人 上田 俊一  
代理人 鈴木 憲七  
代理人 大宅 一宏  
代理人 梶並 順  
代理人 曾我 道治  

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