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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H03F
管理番号 1196884
審判番号 不服2007-7159  
総通号数 114 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-06-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-03-08 
確定日 2009-05-07 
事件の表示 平成11年特許願第155508号「電力増幅装置」拒絶査定不服審判事件〔平成12年12月15日出願公開、特開2000-349565〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成11年6月2日の出願であって、平成19年1月31日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成19年3月8日に拒絶査定不服審判の請求がなされたが、平成20年12月4日付けで当審において拒絶理由通知がなされ、平成21年1月20日付けで手続補正がなされたものである


2.本願発明
本願の請求項1に係る発明は、平成21年1月20日付け手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、次のものと認める(以下、「本願発明」という。)。
「入力信号を電力分配する電力分配手段と、
入力信号の電力変化に対して利得特性および位相特性を有し、上記電力分配手段によって分配された一方の入力信号を増幅する第1の単位増幅器と、
入力信号の電力変化に対して上記第1の単位増幅器の利得特性とは相互に正負符号が異なり且つ同値の利得特性を有すると共に、入力信号の電力変化に対して上記第1の単位増幅器の位相特性とは相互に正負符号が異なり且つ同値の位相特性を有し、上記電力分配手段によって分配された他方の入力信号を増幅する第2の単位増幅器と、
上記第1の単位増幅器および上記第2の単位増幅器によって増幅された信号を電力合成する電力合成手段とを備えた電力増幅装置。」


3.引用例
当審の拒絶の理由に引用された、特開平8-84026号公報(以下、「引用例1」という。)及び実願昭48-115712号(実開昭50-61742号)のマイクロフィルム(以下、「引用例2」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。

A.「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、例えば携帯電話機などの無線通信装置において、帯域制限されたディジタル信号の変調波を低位相歪で高効率に増幅する低位相歪電力増幅器に関する。」

B.「【0011】
【実施例】図1は、本発明の低位相歪電力増幅器の第1実施例の構成を示す(請求項1)。
【0012】図において、11は入力端子、12は出力端子、13はゲート接地FETを用いた増幅器、14はソース接地FETを用いた増幅器、15は分配器、16は合成器、17は位相器であり、増幅器13と増幅器14が並列に接続される。
【0013】入力端子11から入力された信号は、分配器15で増幅器13と増幅器14に分配され、それぞれ増幅されて逆位相歪をもつ信号となる。位相器17は、同相増幅するゲート接地FETを用いた増幅器13と、逆相増幅するソース接地FETを用いた増幅器14との位相を調整するものであり、ここでは増幅器13の入力側に接続されているが、増幅器13の出力側あるいは増幅器14側でもよい。逆位相歪をもつ信号は合成器16で合成され、位相歪が打ち消されて出力端子12から出力される。なお、分配器15および合成器16での分配・合成比率は、必ずしも1:1である必要はない。
【0014】また、ゲート接地FETを用いた増幅器13をドレイン接地FETを用いた構成に代えてもよい(請求項2)。以下、図2?図4を参照して本構成の動作原理について説明する。
【0015】図2は、ソース接地FET増幅器、ゲート接地FET増幅器、ドレイン接地FET増幅器のAB級動作時の入出力特性を示す。矢印は1dB利得圧縮点を示す。一般に、ソース接地FET増幅器では入力電力の増加に伴って利得が低下するとともに、出力位相が進む方向に変化する。一方、ゲート接地FETまたはドレイン接地FET増幅器では、入力電力の増加に伴って利得が低下するとともに、出力位相が遅れる方向に変化する。
【0016】図3は、ソース接地FET、ゲート接地FET、ドレイン接地FETのゲート電圧V_(gs)に対する位相特性を示す。ここではバイアス点を飽和電流値I_(dss)の1/2から1/10まで変化させ、1dB利得圧縮点での位相を比較している。ソース接地FETでは、I_(dss)/4付近で位相変化が小さく、I_(dss)/10付近に近くなると位相が大きく進む。一方、ゲート接地FETまたはドレイン接地FETでは、I_(dss)/4付近で位相が遅れ、I_(dss)/10付近に近くなると位相変化が小さくなる。したがって、ソース接地FETでは動作点をI_(dss)/4付近に設定し、ゲート接地FETまたはドレイン接地FETでは、動作点をI_(dss)/10付近に設定すると位相歪を低減できる。すなわち、単体での位相特性の改善には、ソース接地FETでは動作点をI_(dss)/4付近に設定し、ゲート接地FETまたはドレイン接地FETでは動作点をI_(dss)/10付近に設定すればよい。
【0017】このように、ソース接地FETと、ゲート接地FETまたはドレイン接地FETの位相変化は互いに逆特性になるので、ソース接地FETとゲート接地FETまたはドレイン接地FETを並列に接続して動作点を適切に設定すれば、図4に示すように互いの位相歪を補償することができる。
【0018】したがって、図1に示す構成のように、ゲート接地FETを用いた増幅器13とソース接地FETを用いた増幅器14を組み合わせ、動作点を最適化することにより、電力増幅器全体で位相歪を補償することができる。この並列構成では、ともに増幅作用のあるFETを組み合わせているので、電力効率が高くかつモノリシックIC化が容易である。」

上記A、Bの記載及び関連する図面を参照すると、引用例1には、実質的に、次の発明が記載されているものと認められる(以下、「引用例1記載の発明」という。)。
「入力信号を分配する分配器と、
上記分配器によって分配された一方の入力信号の位相を調整する位相器と、
入力信号の変化に対して位相特性を有し、上記位相器の出力信号を増幅するゲート接地FETを用いた増幅器と、
入力信号の変化に対して上記ゲート接地FETを用いた増幅器とは逆の位相特性を有し、上記分配器によって分配された他方の信号を増幅するソース接地FETを用いた増幅器と、
上記ゲート接地FETを用いた増幅器および上記ソース接地FETを用いた増幅器によって増幅された信号を合成する合成器とを備えた低位相歪電力増幅器。」

(引用例2)
C.「3.考案の詳細な説明
この考案は増幅装置に係り特に良好な直線性を有する装置に関するものである。
従来、放送機に用いられる電力増幅装置等は、その入力出力特性において良好な直線性が要求される。」(明細書第1頁第9行?14行)

D.「この考案はかかる点に鑑みなされたもので、夫々動作点を変化できる複数の増幅器を互に並列接続し、各々の動作点設定によつて十分な直線性を有する増幅装置を提供するものである。」(明細書第2頁第3行?6行)

E.「第1図の如く、入力端子(2)に導入される入力信号は分配器(4)に導入され2分岐された入力信号は第1及び第2の増幅器(6)(8)に夫々導入され増幅される。
これら増幅された信号は合成器(10)によつて合成され、出力端子(12)から他の回路に導出される。」(明細書第2頁第9行?14行)

F.「このため入力端子(2)と出力端子(14)との間における、この増幅装置の入力-出力特性は、これらA曲線とB曲線との合成となり第2図のC曲線(20)となり、十分な直線性を得ることができる。」(明細書第3頁第7行?10行)

上記Fの記載及び第2図に示される入力-出力特性の曲線をみると、第1の増幅器(6)と第2の増幅器(8)は、「各々異なる利得特性を有している」ものと解され、そして、これらの2つの増幅器の特性を合成することにより、入力と出力の関係が直線的に変化するようなC曲線が生じることから、これらの異なる利得特性を有した増幅器を備えることによって、「相互に利得特性を補完し全体の利得特性の直線性を向上」するものと解される。

よって、上記C?Fの記載及び関連する図面を参照すると、引用例2には、実質的に、次の発明が記載されているものと認められる(以下、「引用例2記載の発明」という。)。
「入力信号を分配する分配器と、分配器で分配された信号を増幅する第1及び第2の増幅器と、第1及び第2の増幅器で増幅された信号を合成する合成器とを備えた電力増幅装置において、第1及び第2の増幅器は各々異なる利得特性を有することで、相互に利得特性を補完し全体の利得特性の直線性を向上すること。」

4.対比
本願発明と引用例1記載の発明とを対比すると、以下のことがいえる。

(あ)引用例1記載の発明における「分配器」及び「合成器」は、電力増幅器を構成するものであることから、「分配器」の機能は「入力信号を電力分配する」ものであり、また、「合成器」の機能は「信号を電力合成する」ものということができる。よって、引用例1記載の発明における「分配器」、「合成器」は、それぞれ本願発明の「電力分配手段」、「電力合成手段」に相当する。

(い)引用例1記載の発明における「位相器」は、並列接続された増幅器として、同相増幅する「ゲート接地FET」及び逆相増幅する「ソース接地FET」を採用することによって常に生じる互いの信号の位相差を「合成器」で合成する前に調整する機能を有していることから、「ソース接地FETを用いた増幅器」に対して「位相器」及び「ゲート接地FETを用いた増幅器」で1つの増幅器を構成しているものと解される。そうすると、引用例1記載の発明における「位相器」及び「ゲート接地FETを用いた増幅器」、「ソース接地FETを用いた増幅器」は、それぞれ本願発明における「第1の単位増幅器」、「第2の単位増幅器」ということができる。
そして、引用例1記載の発明における「ゲート接地FETを用いた増幅器」、「ソース接地FETを用いた増幅器」の入力電力に対する位相特性の変化について、引用例1の図4に示される位相特性の曲線をみると、「ゲート接地FETを用いた増幅器」の位相特性は入力電力の増加に対して位相が遅れ、他方「ソース接地FETを用いた増幅器」の位相特性は入力電力の増加に対して位相が進むものであり、特にその位相遅れ及び位相進みの程度は、同程度の値をとるものであると解される。このような位相特性を有することによって、引用例1記載の発明における「低位相歪電力増幅器」全体の位相特性は、入力電力の変化に対して平坦な特性となるものであるから、引用例1記載の発明における「ソース接地FETを用いた増幅器」の「位相特性」である「入力信号の変化に対して上記ゲート接地FETを用いた増幅器とは逆の位相特性」とは、本願発明における「第2の単位増幅器」の「位相特性」である「入力信号の電力変化に対して上記第1の単位増幅器の位相特性とは相互に正負符号が異なり且つ同値の位相特性」に相当するものである。

(う)引用例1記載の発明における「低位相歪電力増幅器」は、電力増幅するものであることから、「電力増幅装置」を構成しているということができる。

上記(あ)?(う)の事項を踏まえると、本願発明と引用例1記載の発明とは、次の点で一致し、また相違するものと認められる。

(一致点)
「入力信号を電力分配する電力分配手段と、
入力信号の電力変化に対して位相特性を有し、上記電力分配手段によって分配された一方の入力信号を増幅する第1の単位増幅器と、
入力信号の電力変化に対して上記第1の単位増幅器の位相特性とは相互に正負符号が異なり且つ同値の位相特性を有し、上記電力分配手段によって分配された他方の入力信号を増幅する第2の単位増幅器と、
上記第1の単位増幅器および上記第2の単位増幅器によって増幅された信号を電力合成する電力合成手段とを備えた電力増幅装置。」

(相違点)
本願発明の第1及び第2の単位増幅器は、入力信号の電力変化に対して位相特性とともに利得特性を有しており、そして、その2つの単位増幅器の利得特性の関係について、特に、第2の単位増幅器は、入力信号の電力変化に対して第1の単位増幅器の利得特性とは相互に正負符号が異なり且つ同値の利得特性を有するものであるのに対して、引用例1記載の発明では、利得特性について明示されていない点。

5.当審の判断
そこで、上記相違点について検討する。

上記したように、2つの増幅器を並列接続して構成される電力増幅装置において、2つの増幅器は各々異なる利得特性を有することで、相互に利得特性を補完し全体の利得特性の直線性を向上することは、引用例2に記載の発明に示されるように公知である。
増幅器の歪み成分は、位相成分の歪み以外にも利得成分の歪みが存在することは知られており、位相歪みと利得歪みの両歪みについて補償しようとすることは当該分野において周知であることを考慮すれば(この点については、当審の拒絶理由で示した特開平8-250937号公報及び特開平9-162656号公報を参照。)、引用例1記載の発明においても、位相歪みのみならず利得歪みを補償するため、引用例2記載の発明を適用し、2つの増幅器について各々異なる利得特性を持たせ、相互に利得特性を補完するような構成とすることは当業者が容易に想到し得るものである。
その際、位相特性と同様に利得特性も入力電力に対して平坦な特性を持たせるよう、2つの増幅器の利得特性の関係について、一方の増幅器は、入力信号の電力変化に対して利得特性を有し、他方の増幅器は、入力信号の電力変化に対して一方の単位増幅器の利得特性とは相互に正負符号が異なり且つ同値の利得特性を有するものとすることは、当業者が適宜なし得るものである。

すなわち、引用例1記載の発明に引用例2記載の発明を適用することで、本願発明の構成のように、第1及び第2の単位増幅器は、「入力信号の電力変化に対して利得特性及び位相特性を有し」たものとし、そして2つの単位増幅器の利得特性及び位相特性の関係について、特に、第2の単位増幅器は、「入力信号の電力変化に対して上記第1の単位増幅器の利得特性とは相互に正負符号が異なり且つ同値の利得特性を有すると共に、入力信号の電力変化に対して上記第1の単位増幅器の位相特性とは相互に正負符号が異なり且つ同値の位相特性を有し」たものとすることは、当業者が容易に想到し得るものである。

(本願発明の効果について)
そして、本願発明の構成によってもたらされる効果も、引用例1及び2記載の発明並びに上記周知技術から当業者が容易に予測することができる程度のものであって、格別のものとはいえない。


6.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例1及び2記載の発明並びに上記周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-03-05 
結審通知日 2009-03-10 
審決日 2009-03-24 
出願番号 特願平11-155508
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H03F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 野元 久道  
特許庁審判長 長島 孝志
特許庁審判官 飯田 清司
伏本 正典
発明の名称 電力増幅装置  
代理人 田澤 英昭  
代理人 濱田 初音  

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