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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) E04G |
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管理番号 | 1196886 |
審判番号 | 不服2007-9064 |
総通号数 | 114 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2009-06-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2007-03-29 |
確定日 | 2009-05-07 |
事件の表示 | 特願2003-308382「コンクリート構造体の施工方法」拒絶査定不服審判事件〔平成16年4月15日出願公開、特開2004-116281〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、平成15年9月1日(優先権主張平成14年9月2日)の特許出願であって、平成19年2月26日付けで拒絶査定がなされたのに対し、平成19年3月29日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、平成19年4月26日受付けで手続補正書が提出されたものである。 その後、当審にて、平成20年9月5日付けで審査官による前置報告書の内容を提示して審判請求人の意見を求めるために審尋し、平成20年11月7日受付けで回答書が提出され、平成20年12月4日付けで拒絶理由を通知したところ、平成21年2月4日受付けで意見書および手続補正書が提出されたものである。 2.本願発明 平成21年2月4日受付けの手続補正書により、特許請求の範囲は次のとおりに補正された。 「【請求項1】 略水平な床部を上下に複数有するコンクリート構造体を、型枠を設置して支保工を型枠の下側に配置して型枠を支えて型枠内にコンクリートを流し込んで行うコンクリート構造体の施工方法において、 前記支保工は一般支保工と特定支保工が用いられ、床部の下側に用いられる型枠の下側に型枠保持材を配置し、前記型枠保持材は一般支保工により支えられ、一般支保工は型枠保持材を介して型枠を支えており、 型枠内にコンクリートを流し込む前に一般支保工を設置し、コンクリートが設計強度に達する前の不完全養生状態で、型枠を支えている特定支保工の支持力を大きくする支持力調整作業を行った後に一般支保工及び型枠保持材を取り外し、支持力調整作業を行った特定支保工により不完全養生状態の床部を支えてコンクリートの変形を小さくし、コンクリートが設計強度に達した後に特定支保工を取り外すことを特徴とするコンクリート構造体の施工方法。 【請求項2】?【請求項13】(記載を省略する。)」(以下、請求項1に係る発明を「本願発明」という。) 3.刊行物に記載された発明 原査定および当審における拒絶の理由で引用され、本願出願前に頒布された刊行物である特開昭57-184159号公報(以下、「引用文献」という。)には、「複数階層コンクリート構造物構築用型枠転用工法」に関して、図面とともに以下の記載がある。 (a) 「スラブ型枠とその支保工を下層階から上層階へと順次転用する工法であつて、スラブ型枠のせき板を、巾狭の中間部分と、その両側に位置する巾広の両側部分とに分離可能な形状とし、前記せき板を前記両側部分間にわたつて、かつ、中間部分の長手方向適当間隔おきに配置した複数本の根太と、前記両側部分の直下において前記根太を支持する大曳の長手方向適当間隔おきに立設したパイプサポートとによつて支保した状態で、コンクリート打設を行なう一方、このコンクリートの打設前あるいは打設後に、上端部が前記中間部分に直に接したパイプサポートを中間部分の長手方向適当間隔おきに立設しておき、せき板存置期間経過後、直ちに、中間部分及びこれを支保するパイプサポートを存置させた状態で、両側部分ならびにこれらを支保する根太、大曳、パイプサポートを解体撤去して、上層階に移行させることを特徴とする複数階層コンクリート構造物構築用型枠転用工法。」(2.特許請求の範囲) (b) 「本発明は、複数階層のコンクリート構造物を構築するにあたり、型枠の早期脱型を可能とすることによりスラブ型枠とその支保工を下層階から上層階へと順次転用できるようにした複数階層コンクリート構造物構築用型枠転用工法に関する。」(1頁右下欄5?10行) (c) 「スラブ型枠のせき板1を、スパン中間部に位置する巾狭の中間部分(これは、例えば合板等を適当な寸法に裁断して用いる。)1aと、その両側に位置する巾広の両側部分(これは、例えば、定尺パネルを用いる。)1b,1cとに分離可能な形状とする。そして、このせき板1を、両側部分1b,1c間にわたつて、かつ、中間部分1aの長手方向適当間隔おきに配置した複数本の鋼管製根太2…と、前記両側部分1b,1cの直下において前記根太2…を支持する鋼管製の大曳3…と、これら大曳3…の長手方向適当間隔おきに立設したパイプサポート4…とによつて支保し、さらに、前記中間部分1aの直下には、前記パイプサポート4…と同一種のパイプサポート4a…を、その上端部に設けられたフランジ部4b…が中間部分1aの下面に直に接した状態に複数本適当間隔おきに立設しておく。 この状態で、スラブ及び梁の配筋を行ないコンクリートC1を打設する。」(2頁右下欄18行?3頁左上欄17行) (d) 「そして、コンクリートC1がある程度硬化した時点で、つまり、せき板1の存置期間(約5?7日)が経過した後、直ちに、中間部分1a及びこれを支保するパイプサポート4a…を残した状態で、両側部分1b,1cならびにこれを支保する根太2…、大曳3…、パイプサポート4…を解体撤去し、・・・前記と同様な型枠とその支保工を組立て、上層階のコンクリートC2を打設する。・・・ この場合、コンクリートC1の材令が経過し、硬化するにつれて、パイプサポート4a…がコンクリートC1の荷重の一部を負担し始めると共に、コンクリートC1上への上載荷重を負担できるようになる。」(3頁右上欄11行?左下欄8行) (e) 「従つて、上記のように、せき板存置期間の経過後、直ちに両側部分1b,1c、根太2…、大曳3…、パイプサポート4…を解体撤去して上層階に転用し、コンクリートC2を打設しても、中間部分1aを支保するパイプサポート4a…を存置させておけば、若材令のコンクリートC1の不当な変形は十分に防止されるのである。」(3頁左下欄14行?右下欄1行) (f) 「また、中間部分1a,1a’を支保するパイプサポート4a,4a’は、コンクリートC1,C2の打設後に設置して実施することも可能である。」(3頁右下欄13?16行) (g) 「本発明は、・・・転用性が良く、現場内への仮設材搬入量を低減して大巾なコストダウンを図ることができる。 ・・・作業の合理化、高能率化が可能になつたのである。」(3頁右下欄17行?4頁左上欄末行) (h) 実施例を示す第3図(ロ)および第3図(ハ)から、コンクリートC1が設計強度に達した後にパイプサポート4aを取り外すことは当業者にとって明らかである。 ここで、引用文献に記載されたコンクリート構造物構築用型枠転用工法のコンクリート構造物は、略水平な床部を上下に複数有するコンクリート構造物であり、該コンクリート構造物構築用型枠転用工法が、スラブ型枠のせき板を設置し、根太、大曳およびパイプサポートをスラブ型枠のせき板の下側に配置し、スラブ型枠のせき板をパイプサポートによって支保して型枠内にコンクリートを流し込んで行うコンクリート構造物構築用型枠転用工法であることは当業者にとって明らかである。 そうすると、これら記載事項および図面並びに当業者の技術常識からみて、引用文献には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。 (引用発明) 「略水平な床部を上下に複数有するコンクリート構造物を、スラブ型枠のせき板を設置し、根太、大曳およびパイプサポートをスラブ型枠のせき板の下側に配置し、スラブ型枠のせき板をパイプサポートによって支保して型枠内にコンクリートを流し込んで行うコンクリート構造物構築用型枠転用工法であって、 スラブ型枠のせき板1は中間部分1aと両側部分1b,1cとからなり、 パイプサポートは両側部分1b,1cの直下のパイプサポート4と中間部分1aの直下のパイプサポート4aとからなり、 せき板1の直下に根太2と大曳3を配置し、根太2と大曳3はパイプサポート4により支保され、パイプサポート4は根太2と大曳3を介してせき板1を支保しており、 せき板1を、根太2と、根太2を支持する大曳3と、大曳3を支保するパイプサポート4とによって支保した状態で、コンクリート打設を行い、 コンクリートC1の打設後にパイプサポート4aを設置して、 コンクリートC1がある程度硬化した時点で、中間部分1a及びこれを支保するパイプサポート4aを残した状態で、両側部分1b,1cならびにこれを支保する根太2、大曳3、パイプサポート4を解体撤去し、中間部分1aを支保するパイプサポート4aを存置させることにより、若材令のコンクリートC1の不当な変形を防止し、コンクリートC1が設計強度に達した後にパイプサポート4aを取り外すコンクリート構造物構築用型枠転用工法。」 4.対比 本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「スラブ型枠のせき板1」、「パイプサポート」、「コンクリート構造物」、「パイプサポート4」、「パイプサポート4a」、「根太2と大曳3」、「コンクリート打設」、「(根太2、大曳3、パイプサポート4を)解体撤去し」、「コンクリート構造物構築用型枠転用工法」は、本願発明の「型枠」、「支保工」、「コンクリート構造体」、「一般支保工」、「特定支保工」、「型枠保持材」、「型枠内にコンクリートを流し込む」、「(一般支保工及び型枠保持材を)取り外し」、「コンクリート構造体の施工方法」に、それぞれ相当する。 また、引用発明の「せき板1を、根太2と、根太2を支持する大曳3と、大曳3を支保するパイプサポート4とによって支保した状態で、コンクリート打設を行い」とは、「コンクリート打設」が行われる前に、「せき板1を、根太2と、根太2を支持する大曳3と、大曳3を支保するパイプサポート4とによって支保した状態」となっているのだから、本願発明の「型枠内にコンクリートを流し込む前に一般支保工を設置」することに相当する。 さらに、引用発明の「中間部分1aを支保するパイプサポート4aを存置させることにより、若材令のコンクリートC1の不当な変形を防止」することは、本願発明の「特定支保工により不完全養生状態の床部を支えてコンクリートの変形を小さく」することに相当する。 そして、引用発明の「コンクリートC1がある程度硬化した時点」のコンクリートは、本願発明の「コンクリートが設計強度に達する前の不完全養生状態」のコンクリートであるといえる。そして、引用発明の「コンクリートC1の打設後にパイプサポート4aを設置」するのは、「コンクリートC1がある程度硬化した時点」となるまでの間であり、「パイプサポート4aを設置」することにより、その直上の「せき板1の中間部分1a」に対して支持力を付与することになるから、引用発明の「コンクリートC1の打設後にパイプサポート4aを設置」すると、本願発明の「コンクリートが設計強度に達する前の不完全養生状態で、型枠を支えている特定支保工の支持力を大きくする支持力調整作業を行」うとは、「コンクリートが設計強度に達する前の不完全養生状態で、型枠を支えている特定支保工の支持力を調整」することで共通する。 そうすると、本願発明と引用発明とは、 「略水平な床部を上下に複数有するコンクリート構造体を、型枠を設置して支保工を型枠の下側に配置して型枠を支えて型枠内にコンクリートを流し込んで行うコンクリート構造体の施工方法において、 前記支保工は一般支保工と特定支保工が用いられ、床部の下側に用いられる型枠の下側に型枠保持材を配置し、前記型枠保持材は一般支保工により支えられ、一般支保工は型枠保持材を介して型枠を支えており、 型枠内にコンクリートを流し込む前に一般支保工を設置し、コンクリートが設計強度に達する前の不完全養生状態で、型枠を支えている特定支保工の支持力を調整し、その後、一般支保工及び型枠保持材を取り外し、特定支保工により不完全養生状態の床部を支えてコンクリートの変形を小さくし、コンクリートが設計強度に達した後に特定支保工を取り外すコンクリート構造体の施工方法。」 で一致し、以下の点で相違する。 [相違点] コンクリートが設計強度に達する前の不完全養生状態で、型枠を支えている特定支保工の支持力を調整するのに、本願発明では、型枠を支えている特定支保工の支持力を大きくするのに対し、引用発明では、パイプサポート4aを設置する点。 5.当審の判断 前記相違点について検討する。 本願発明の「特定支保工の支持力を大きくする支持力調整作業」の「支持力を大きくする」とは具体的に何を意味するのか明確ではないので、本願の明細書をみると、その段落【0067】には「支持力調整作業は、特定支保工47のねじ部45aを調整して、特定支保工47の長さを長くして支持力を大きくすることにより行われる。」と記載されている。 そして、この「特定支保工47の長さを長くして」について、平成21年2月4日受付けの意見書において、「すなわち、一般支保工でコンクリートの重量を支持している間は、特定支保工はコンクリートを支持しておりません。一般支保工でコンクリートを支持しているとはいえ、コンクリートの自重による変形を完全に阻止することは不可能であり、仮に特定支保工をコンクリート(型枠)に接触させておくと、コンクリート側の変形によって特定支保工に荷重が掛かってしまう恐れがあります。これでは、本発明の前提条件が変わってしまうため、コンクリート打設直後において特定支保工は、コンクリート(型枠)から少しでも離れている(すなわち、特定支保工の長さを短くする)必要があります。 これは、明細書中に記載がなくても自明であり、コンクリートの重量を支持するときの特定支保工の長さと、支持していないときとの特定支保工の長さとでは、前者の方が長いというのは理に適っております。 別な言い方をしますと、「型枠を支えている特定支保工の支持力を大きくする支持力調整」とは、コンクリートの重量を多数の一般支保工が支持する間は、特定支保工の長さは比較的短く、コンクリートの養生がある程度まで進むと、特定支保工の長さを長くしてコンクリート(型枠)に接触させる調整を意味します。これにより、特定支保工は、養生中のコンクリートの重量を一般支保工に代わって支持することができるようになります。」としている。 これらを総合すると、本願発明の「特定支保工の支持力を大きくする支持力調整作業」とは、「特定支保工の長さを長くして、コンクリート(型枠)から少しでも離れている状態から、コンクリート(型枠)に接触させる」作業を意味するものと解される。 ここで、引用発明をみると、引用発明においても「コンクリートC1の打設後にパイプサポート4aを設置」するものであることから、「パイプサポート4a」の設置の前後で考えると、「パイプサポート4a」の設置前には、他の「パイプサポート4」により打設されたコンクリートの重量を支え、当然に「パイプサポート4a」はコンクリートの重量を支えておらず、その後、「パイプサポート4a」を「せき板1の中央部分1a」の直下に「設置」することにより、「せき板1の中央部分1a」に対して「パイプサポート4a」を接触させることにより、支持力を付与して、ある程度硬化したコンクリートを支持して、コンクリートの重量を支えるものである。 そして、引用発明における特定支保工であるところの「パイプサポート4a」がどのような構成を有するのか定かではないものの、仮設支保工の分野において、ねじ部を有する支保工のねじ部を回転することにより高さ(長さ)を調整し、所定の高さとして型枠を支持することは慣用技術(例えば、実願昭58-85235号(実開昭59-190838号)のマイクロフィルムを参照。)であるといえ、この慣用技術を、引用発明の特定支保工であるところの「パイプサポート4a」の構成として採用して、「パイプサポート4aを設置」する際に、「パイプサポート4a」の長さを長くして、コンクリート(型枠)から離れている状態から、接触する状態とすることは当業者が適宜なし得る程度のことである。 そして、本願発明の効果であるところの、「最小限の型枠や支保工を用い、施工期間の短縮が可能」(明細書の段落【0035】)との効果についてみても、引用文献の上記記載事項(g)をはじめとする引用文献全体の記載および引用発明並びに慣用技術に接した当業者ならば、本願発明の作用効果は予測できる程度のものであって、格別顕著なものではない。 したがって、本願発明は、引用発明および慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 6.むすび 以上のとおり、本願発明が、引用発明および慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は、特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2009-03-04 |
結審通知日 | 2009-03-05 |
審決日 | 2009-03-18 |
出願番号 | 特願2003-308382(P2003-308382) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(E04G)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 渋谷 知子 |
特許庁審判長 |
石川 好文 |
特許庁審判官 |
宮崎 恭 家田 政明 |
発明の名称 | コンクリート構造体の施工方法 |
代理人 | 藤田 隆 |