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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  B65D
管理番号 1196988
審判番号 無効2004-80029  
総通号数 114 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-06-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2004-04-26 
確定日 2009-05-28 
事件の表示 上記当事者間の特許第3349138号「記録媒体用ディスクの収納ケース」の特許無効審判事件についてされた平成18年 5月12日付け審決に対し、東京高等裁判所において審決取消の判決(平成18年(行ケ)第10277号平成19年3月8日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 特許第3349138号の請求項2に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3349138号についての出願は、平成11年3月4日(特願2000-272058号。平成11年3月4日に国際特許出願された特願平11-545603号からの分割出願。)に出願され、平成14年9月13日にその発明について特許権の設定登録がされたものである。
そして、平成15年5月14日に異議申立がなされ、平成16年1月26日に訂正請求がなされ、平成16年2月24日に訂正を認めて請求項1及び2に係る特許を維持する旨の異議決定がなされた。
平成16年4月26日に本件無効審判2004-80029号が請求され、平成16年8月27日に訂正請求がなされ、平成17年2月2日に審決がなされたが、平成17年3月16日に審決取消訴訟が提起され、平成17年6月9日に訂正審判がなされたため、平成17年6月23日に審決の取消決定がなされた。
そして、平成17年6月9日の訂正審判は本件無効審判の訂正請求として援用され、平成18年5月12日に「訂正を認める。特許第3349138号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。特許第3349138号の請求項2に係る発明についての審判請求は、成り立たない。」との審決がなされた。
無効審判請求人(不二精機株式会社)は、請求項2に係る発明についての審決の取消しを求めて審決取消訴訟を提起し、平成19年3月8日に「特許庁が無効2004-80029号事件について平成18年5月12日にした審決のうち、特許第3349138号の請求項2に係る部分を取り消す。」との判決がなされた。
この判決により、援用された上記訂正を認める点と特許第3349138号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする点については確定しているので、本審決で審理の対象となるのは請求項2に係る発明のみである。
なお、本件無効審判の被請求人である明晃化成工業株式会社は、平成18年9月8日に特許第3349138号の請求項2に係る発明について訂正審判2006-39149号を請求し、この訂正審判については、平成19年10月24日付けで訂正を認めない旨の審決がなされている。

2.本件特許の請求項2に係る発明についての請求人及び被請求人の主張
(1)請求人は、甲第1から20号証を提出し、本件請求項2に係る発明は、甲第1?4、10号証に記載された発明及び周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第123条第1項第2号の規定により無効とすべき旨主張している。

甲第1号証:特開平8-90610号公報
甲第2号証:実願平4-3172号(実開平5-62485号)のCD-ROM
甲第3号証:実願昭60-168702号(実開昭62-78687号)のマイクロフィルム
甲第4号証:特開平10-305890号公報
甲第5号証:米国特許第4903829号明細書
甲第6号証:特開平8-276975号公報
甲第7号証:実願昭59-54529号(実開昭60-167795号)のマイクロフィルム
甲第8号証:登録実用新案第3011884号公報
甲第9号証:登録実用新案第3038504号公報
甲第10号証:実願昭63-65164号(実開平1-170684号)のマイクロフィルム
甲第11号証:特願平11-361506号の平成12年4月27日付け手続補正書
甲第12号証:実願平5-76673号(実開平7-43418号)のCD-ROM
甲第13号証:特願平11-361506号の平成12年6月28日付け拒絶理由通知
甲第14号証:特願平11-361506号の平成12年9月7日付け意見書
甲第15号証:異議2003-70114号の異議の決定
甲第16号証:特願2000-272058号の平成13年1月22日付け手続補正書
甲第17号証:特願2000-272058号の平成13年2月27日付け拒絶理由通知書
甲第18号証:特願2000-272058号の平成13年4月16日付け意見書
甲第19号証:特開平10-305891号公報
甲第20号証:特開平6-179482号公報

(2)被請求人は、本件請求項2に係る発明は当業者が容易に発明できたものではない旨、主張している。

3.本件特許の請求項2に係る発明
上記手続の経緯の項で述べたように、訂正審判2006-39149号は、別途訂正が認められない旨の審決がなされているので、本件請求項2に係る特許発明は(以下、「本件特許発明」という。)、平成17年6月9日に訂正請求され、訂正が認められた明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項2に記載された次のとおりのものである。
「保持板(2)とカバー体(3)とが、それぞれの一端側に設けられたヒンジ部(2a,3a)を介して互いに揺動開閉自在に連結され、保持板(2)には、その板面の略中央部に、記録媒体用ディスク(100)の中央孔(101)に嵌まる保持部(5)が設けられ、これら保持板(2)とカバー体(3)とによって、記録媒体用ディスク(100)の両面を覆う収納状態とでき、
該収納状態は、前記ディスク(100)を前記保持部(5)に嵌合したとき該ディスク(100)上面と前記保持部(5)上面間の距離が、前記ディスク(100)の厚み以下とされており、前記保持板(2)の裏面から前記保持部(5)の上面までの距離は4mm程度とされており、かつ前記カバー体(3)の内面と前記保持部(5)の上面とは当接するか又は、前記ディスク(100)の厚み以下の間隙が形成されており、かつ前記保持板(2)の裏面からカバー体(3)の上面までの厚みは6mm以下に設定されており、
前記保持板(2)は、上下ヒンジ部(2a)を有するヒンジ結合側端縁部と、該ヒンジ結合側端縁部とは反対側の自由端縁部と、これら両端縁部を介して対向する上下端縁部とを有する矩形状に形成され、かつ前記ヒンジ結合側端縁部には周壁(22)が形成されており、
前記カバー体(3)は、その一端部において前記保持板(2)の上下ヒンジ部(2a)の対向内面側にヒンジ結合されるヒンジ部(3a)を形成したヒンジ結合側端縁部と、該ヒンジ結合側端縁部とは反対側の自由端縁部と、これら両端縁部を介して対向する上下端縁部とを有する矩形状に形成されていて、前記ヒンジ結合により保持板(2)に対して閉じた前記収納状態から180°開いた状態に相対回動可能になっており、かつ、180°開いた状態において前記カバー体(3)におけるヒンジ結合側端縁部は前記保持板(2)のヒンジ結合側端縁部と当接可能になっており、
前記収納状態において、カバー体(3)におけるヒンジ結合側端縁部は、保持板(2)におけるヒンジ結合側端縁部よりも外方へ突出するようになっており、この突出部分に周壁(43)が設けられ、この周壁(43)は指掛け部(44)とされており、
保持板(2)の上下端縁部の中央部には、該保持板(2)の内側へ入り込む中央凹所(24)が形成され、カバー体(3)には前記中央凹所(24)に嵌合する周壁中央部(38a)が形成され、該中央部(38a)の周壁(38)の高さはケースの厚みとされており、
前記カバー体(3)には前記周壁中央部(38a)の両側に周壁(38)が形成され、該周壁(38)には内側に突出するラベル係止爪(46)が設けられ、 かつ前記カバー体(3)には、前記係止爪(46)に連通する厚み方向に貫通した連通孔(47)が設けられており、
前記保持板(2)には前記中央凹所(24)の両側に周壁(22)が形成され、該周壁(22)には、前記係止爪(46)を内側において迂回する段部(27)が形成されていることを特徴とする記録媒体用ディスクの収納ケース。」

4.当審の判断
(1)甲各号証の記載事項
本件優先日前に頒布された刊行物である甲第1?3号証及び、本件優先日後であり、本件の原出願である特願平11-545603号の国際出願日である平成11年3月4日以前に頒布された刊行物である甲第4号証には、それぞれ以下の記載が認められる。

甲第1号証(特開平8-90610号公報)の記載
甲第1号証の段落番号【0011】に、「【実施例】以下、本発明の一実施例について、・・まず、ケース部材が用いられるCD収納ケースの構成を図5に基づいて説明する。このCD収納ケースは、本体側ケース部材31と蓋側ケース部材32を互いに回動開閉自在に枢着してなるものであり、トレーのないスリムタイプである。・・」と記載され、段落番号【0012】に、「本体側ケース部材31は、平らなほぼ正方形状の主面部33の・・側面部34および前面部35が垂直に突出形成されている。また、主面部33の・・これら側面部34の外面にそれぞれ支軸部38が突出形成されている。・・前記主面部33の内面には、内側にCD収納部を形成する・・形成されているとともに、CDの中央孔に着脱自在に嵌合するCD保持部46が中央部に形成されている。」と、段落番号【0013】に、「蓋側ケース部材32は、平らなほぼ長方形状の主面部51の・・両側面部52の後端側は、これら側面部52が延長する形で後方へ突出した突片部57となっている。さらに、これら突片部57には、・・軸受孔59が貫通形成されている。・・」と、更に、段落番号【0014】に、「そして、本体側ケース部材31の両支軸部38が蓋側ケース部材32の軸受孔59にそれぞれ嵌合されて、両ケース部材31,32が互いに枢着されている。・・」と記載されており、支軸部と軸受孔とで枢着することは、ヒンジ部分を構成するというべきであり、さらに、CD収納ケースの本体側ケース部材31と蓋側ケース部材32は、互いに回動開閉自在であるから、閉の状態、即ち、CDを本体側ケース部材31と蓋側ケース部材32とによって、CDの両面を覆う収納状態を取り得るものと認められる。加えて、回動開閉とは、双方向の回動であるので、揺動による開閉と同義と解されるので、甲第1号証には、
記載事項1-1
本体側ケース部材31と蓋側ケース部材32とが、それぞれの一端側に設けられた支軸部38と軸受孔59とで、ヒンジ部分を介して互いに揺動開閉自在に連結され、本体側ケース部材31には、その主面部33の略中央部に、CDの中央孔に嵌まるCD保持部46が設けられ、これら本体側ケース部材31と蓋側ケース部材32とによって、CDの両面を覆う収納状態とできるトレーのないスリムタイプのCD収納ケースであり、蓋側ケース部材32は、本体側ケース部材31に対して閉じた状態から開いた状態に相対回動可能とすること、が記載されるものと認める。

更に、本体側ケース部材31及び蓋側ケース部材32の形状である正方形状は、矩形であると共に、一端部で回動開閉自在とすることは他端部が必然として自由端となり、しかも、甲第1号証の段落番号【0012】に、「本体側ケース部材31は、平らなほぼ正方形状の主面部33の内面の左右両側縁部および前側縁部・・」と、段落番号【0013】に、「蓋側ケース部材32は、平らなほぼ長方形状の主面部51の左右両側縁からそれぞれ側面部52が垂直に屈曲している。また、主面部51の後縁から側面部52と同方向へ垂直に屈曲した後面部53があり、・・」と記載され、段落番号【0014】に、「そして、本体側ケース部材31の両支軸部38が蓋側ケース部材32の軸受孔59にそれぞれ嵌合されて、」と記載される両支軸部38、軸受孔59の配置は、図面の記載によれば、上下に配置されるものと把握されるので、甲第1号証には、
記載事項1-2
前記本体側ケース部材31は、ヒンジ部分を構成する上下に支軸部38を有する端縁の部分と、該端縁の部分とは反対側の自由端縁の部分である前面部35と、これら両端縁を介して対向する側面部34とを有する矩形状に形成されており、
前記蓋側ケース部材32は、その一端部において本体側ケース部材31の上下に設けられた両支軸部38を嵌合してヒンジ部分を構成する軸受孔59を有する突片部57側の端縁の部分である後面部53と、後面部53とは反対側の自由端縁の部分とこれら両端縁を介して対向する側面部52とを有する矩形状に形成され、上下の突片部57の対向する内側の面に支軸部38がヒンジ結合されること、が記載されるものと認める。

次に、段落番号【0012】に、「本体側ケース部材31は、平らなほぼ正方形状の主面部33の内面の左右両側縁部および前側縁部に、それぞれ低い側面部34およびが垂直に突出形成されている。・・前記両側面部34は中央部がそれぞれ欠けていて、そこで主面部33の左右両側縁部に切欠き部39が形成されている。・・」と、段落番号【0013】に、「蓋側ケース部材32は、・・また、両側面部52の前後部には、主面部51に沿う貫通溝62,63がそれぞれ形成されており、これら貫通溝62,63よりも先端縁側が内側へ膨出したラベル押さえ部64,65になっている。特に、前側のラベル押さえ部64の内面中央部には、係止突起66がそれぞれ形成されている。さらに、前後のラベル押さえ部64,65間に位置して両側面部52の先端縁にはそれぞれ凸部67が形成されている。」と、段落番号【0014】に、「・・また、両ケース部材31,32を突き合わせて閉じた状態では、本体側ケース部材31の主面部33と蓋側ケース部材32の対面部54および凸部58,67とが同一平面上に位置する。特に、蓋側ケース部材32の側面部52の中央の凸部67は、本体側ケース部材31の切欠き部39に位置する。・・」と記載され、図面の記載を併せ見ると、甲第1号証には、
記載事項1-3
本体側ケース部材31の側面部34の中央部には、該本体側ケース部材31の内側へ入り込む切欠き部39が形成され、蓋側ケース部材32には前記切欠き部39に嵌合する凸部67が形成され、該凸部67の高さはケースの厚みとされており、
前記蓋側ケース部材32には前記凸部67の両側に側面部52が形成され、該側面部52には内側に突出するラベル押さえ部64,65が設けられること、が記載されるものと認める。

加えて、段落番号【0012】に、「・・そこで主面部33の左右両側縁部に切欠き部39が形成されている。また、この切欠き部39の前後に位置して各側面部34には、内側へ窪んだ凹部41,42がそれぞれ形成されている。・・」と、段落番号【0014】に、「・・さらに、蓋側ケース部材32のラベル押さえ部64,65が本体側ケース部材31の凹部41,42内にそれぞれ収まるが、・・」と記載されており、甲第1号証には、記載事項1-4
本体側ケース部材31には前記切欠き部39の両側に側面部34が形成され、該側面部34には、前記ラベル押さえ部64,65を内側において迂回する凹部41,42内が形成されているCDの収納ケース、が記載されるものと認める。

さらに、段落番号【0013】に、「蓋側ケース部材32は、平らなほぼ長方形状の主面部51の左右両側縁からそれぞれ側面部52が垂直に屈曲している。また、主面部51の後縁から側面部52と同方向へ垂直に屈曲した後面部53があり、さらに、この後面部53の先端縁から主面部51と対向する対面部54が垂直に屈曲している。こうして、主面部51と対面部54との間に、前方へ開口したポケット部55が形成されている。・・両側面部52の後端側は、これら側面部52が延長する形で後方へ突出した突片部57となっている。さらに、これら突片部57には、・・軸受孔59が貫通形成されている。なお、両突片部57の先端部外面は、図6に詳しく示すように、・・曲率の大きな円弧状部61になっている。・・」と記載され、この軸受孔59は、本体側ケース部材31の支軸部38を受ける孔であるので、甲第1号証には、
記載事項1-5
蓋側ケース部材32におけるヒンジ部分を構成する軸受孔59より後方に、側面部52の後端側に延長した突片部57の円弧状部61があり、本体側ケース部材31における支軸部38よりも後方へ突出するようになっており、この突出部分に後面部53が設けられ、更に、後面部53から対面部54が垂直に屈曲すること、が記載されるものと認める。
したがって、上記記載事項1-1?1-5を総合すると、甲第1号証には、
本体側ケース部材31と蓋側ケース部材32とが、それぞれの一端側に設けられた支軸部38と軸受孔59とで、ヒンジ部分を介して互いに揺動開閉自在に連結され、
本体側ケース部材31には、その主面部33の略中央部に、CDの中央孔に嵌まるCD保持部46が設けられ、
これら本体側ケース部材31と蓋側ケース部材32とによって、CDの両面を覆う収納状態とできるトレーのないスリムタイプのCD収納ケースであり、
前記本体側ケース部材31は、ヒンジ部分を構成する上下に支軸部38を有する端縁の部分と、該端縁の部分とは反対側の自由端縁の部分である前面部35と、これら両端縁を介して対向する側面部34とを有する矩形状に形成されており、
前記蓋側ケース部材32は、その一端部において本体側ケース部材31の上下に設けられた両支軸部38を嵌合してヒンジ部分を構成する軸受孔59を有する突片部57側の端縁の部分である後面部53と、後面部53とは反対側の自由端縁の部分とこれら両端縁を介して対向する側面部52とを有する矩形状に形成され、上下の突片部57の対向する内側の面に支軸部38がヒンジ結合され、蓋側ケース部材32は、本体側ケース部材31に対して閉じた状態から開いた状態に相対回動可能となっており、
蓋側ケース部材32におけるヒンジ部分を構成する軸受孔59より後方に、側面部52の後端側に延長した突片部57の円弧状部61があり、本体側ケース部材31における支軸部38よりも後方へ突出するようになっており、この突出部分に後面部53が設けられ、更に、後面部53から対面部54が垂直に屈曲し、
本体側ケース部材31の側面部34の中央部には、該本体側ケース部材31の内側へ入り込む切欠き部39が形成され、蓋側ケース部材32には前記切欠き部39に嵌合する凸部67が形成され、該凸部67の高さはケースの厚みとされており、前記蓋側ケース部材32には前記凸部67の両側に側面部52が形成され、該側面部52には内側に突出するラベル押さえ部64,65が設けられ、本体側ケース部材31には前記切欠き部39の両側に側面部34が形成され、該側面部34には、前記ラベル押さえ部64,65を内側において迂回する凹部41,42内が形成されているCDの収納ケース(以下、「甲第1号証の発明」という。)
が記載されるものと認める。

甲第2号証(実願平4-3172号(実開平5-62485号)のCD-ROM)の記載
甲第2号証の段落番号【0006】に、「【実施例】本考案の実施例を添付図面を参照して説明すると、図1において1はコンパクトディスクのケース本体であって、・・この本体1の側部には軸受4が形成され、同軸受4にはこれにヒンジ状に係合する軸受を具えたケース蓋体5が開閉自在に取付けられている。・・」と記載されている。
そして、上記記載と図面の記載を併せ見ると、本体1とケース蓋体5とを結合する軸受4側のケース蓋体5の端部は、収納状態においては、軸受4より外方に突出した位置となり、端部には壁が設けられることが把握されるので、同壁と本体ケース1との間には、本体ケース1側に開放する隙間があるものと認められ、更に、本体1のケース蓋体5との結合側の端部には、壁が図示されているので、甲第2号証には、
コンパクトディスク用ケースであって、収納状態においては、ケース本体1の側部には軸受4が形成され、同軸受4にはこれにヒンジ状に係合する軸受を具えたケース蓋体5が開閉自在に取付けられ、本体1とケース蓋体5とを結合する軸受4側のケース蓋体5の端部は、軸受4より外方に突出した位置に壁が設けられ、同壁とケース本体との間に本体ケース側に開放する隙間が設けられ、本体1の軸受4が設けられる側の端部にも壁が設けられているコンパクトディスク用ケース、が記載されるものと認める。

甲第3号証(実願昭60-168702号(実開昭62-78687号)のマイクロフィルム)の記載
引用例3には、カード係止用突起が、爪状に図示されており、
カードを係止する部材である爪状のカード係止用突起
の発明が記載されるものと認める。

甲第4号証(特開平10-305890号公報)の記載
甲第4号証の段落番号【0022】に、「【発明の実施の形態】本発明のコンパクトディスク収納ケースの一実施態様について添付した図面に基づき以下に詳述する。・・図6は図1の本発明のコンパクトディスク収納ケース30の一部を構成する蓋体部23のラベル抑え爪19及び通孔28を示す斜視図である。」と記載され、段落番号【0025】に、「一方、前記蓋体部23は天板14の二辺の内面周縁に沿って両側壁15,16が・・突設され、・・前記両側壁15,16の内面には前記収納部22の前記係合凹部7に対応して複数個のラベル抑え爪19が突設されている。なお、前記ラベル抑え爪19の上面に対向する前記天板14の内面には成形金型の一部を構成する固定側金型の突起部(図示せず)によって形成される通孔28が透設されている。前記通孔28は対応する前記ラベル抑え爪19の投影形状と略同等以上の面積を占めるように設定することにより、可動側金型との協動によって、良好な輪郭とパーティングラインを有する前記ラベル抑え爪19が得られる。・・」と記載されているので、これら記載と図面の記載とを併せみれば、甲第4号証には、
蓋体部28の側壁15,16には内側に突出するラベル押さえ爪19が設けられ、蓋体部28には、前記ラベル押さえ爪19に連通する厚み方向に貫通した通孔28が設けられているコンパクトディスク収納ケース
の発明が記載されるものと認める。

(2)対比・判断
本件特許発明と甲第1号証に記載の発明を対比すると、
甲第1号証の発明の「本体側ケース部材31」、「蓋側ケース部材32」は、その被収納物を保持する部材である点及びその蓋であることをみれば、本件特許発明の「保持板(2)」及び「カバー体(3)」に相当し、甲第1号証の発明の「CD」及び「CDの中央孔」は、本件特許発明の「記録媒体用ディスク(100)」及び「中央孔(101)」に相当するとともに、甲第1号証の発明の「主面部33」及び「CD保持部46」は、記録媒体の保持に係る機能及びその配置からみて、本件特許発明の「板面」及び「保持部(5)」に相当するものと認める。
また、甲第1号証の発明の「支軸部38」と「軸受孔59」とは、ヒンジ部分を構成しており、その配置関係からみて、本件特許発明の「ヒンジ部(2a,3a)」に相当すると共に、甲第1号証の発明の本体側ケース部材の「前面部35」、「側面部34」、並びに、「切欠き部39」、及び、蓋側ケース部材の「後面部53」、「後面部53とは反対側の自由端縁の部分」、「側面部52」並びに「凸部67」は、ヒンジ部との配置関係及び矩形を構成する点より、本件特許発明の保持板の「自由端縁部」、「上下端縁部、周壁(22)」並びに「中央凹所(24)」、及び、カバー体の「ヒンジ結合側端縁部」、「自由端縁部」「上下端縁部、中央部の両側に周壁」並びに「周壁中央部(38a)」に相当するものと認める。
加えて、甲第1号証の発明の「ラベル押さえ部64,65」は、ラベルを係止する機能からは、本件特許発明の「係止爪(46)」に対応する部材であり、これらは双方ともに、ラベルを係止する部材である点では一致しており、甲第1号証の発明の「凹部41,42」は、ラベルを係止する部材を迂回するための構成である点において、本件特許発明の「段部(27)」に相当するものと認められると共に、甲第1号証の発明の「CDの収納ケース」は、CDが記録媒体用ディスクであり、それを収納するケースである点において、本件特許発明の「記録媒体用ディスクの収納ケース」に相当するものと認める。
したがって、両発明は、
保持板とカバー体とが、それぞれの一端側に設けられたヒンジ部を介して互いに揺動開閉自在に連結され、保持板には、その板面の略中央部に、記録媒体用ディスクの中央孔に嵌まる保持部が設けられ、これら保持板とカバー体とによって、記録媒体用ディスクの両面を覆う収納状態とでき、
前記保持板は、上下ヒンジ部を有するヒンジ結合側端縁部と、該ヒンジ結合側端縁部とは反対側の自由端縁部と、これら両端縁部を介して対向する上下端縁部とを有する矩形状に形成されており、
前記カバー体は、その一端部において前記保持板の上下ヒンジ部にヒンジ結合されるヒンジ結合側端縁部と、該ヒンジ結合側端縁部とは反対側の自由端縁部と、これら両端縁部を介して対向する上下端縁部とを有する矩形状に形成されていて、前記ヒンジ結合により保持板に対して閉じた前記収納状態から開いた状態に相対回動可能になっており、
保持板の上下端縁部の中央部には、該保持板の内側へ入り込む中央凹所が形成され、カバー体には前記中央凹所に嵌合する周壁中央部が形成され、該中央部の周壁の高さはケースの厚みとされており、
前記カバー体には前記周壁中央部の両側に周壁が形成され、該周壁には内側に突出するラベルを係止する部材が設けられ、
前記保持板には前記中央凹所の両側に周壁が形成され、該周壁には、前記係止爪を内側において迂回する段部が形成されている記録媒体用ディスクの収納ケース。
である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1
本件特許発明のカバー体は、保持板に対して180°開いた状態に相対回動可能になっているのに対して、甲第1号証の発明の蓋側ケース部材32は、本体側ケース部材31に対して相対回動可能となっているものの180°開いた状態になることの記載はない点。

相違点2
本件特許発明は、前記保持板のヒンジ結合側端縁部に周壁(22)が形成されており、収納状態において、カバー体(3)におけるヒンジ結合側端縁部は、保持板(2)におけるヒンジ結合側端縁部よりも外方へ突出するようになっており、この突出部分に周壁(43)が設けられ、この周壁(43)は指掛け部(44)とされているのに対して、甲第1号証の発明の本体側ケース部材31のヒンジ結合される支軸部38を有する側の端縁部には、周壁がなく、蓋側ケース部材32におけるヒンジ部分を構成する軸受孔59より後方に、側面部52の後端側に延長した突片部57の円弧状部61があり、本体側ケース部材31における支軸部38よりも後方へ突出するようになっており、この突出部分に後面部53が設けられるものの、更に、後面部53から対面部54が垂直に屈曲している点。

相違点3
本件特許発明のラベルを係止する部材は、係止爪(46)であるのに対して、甲第1号証の発明のラベル押さえ部64,65は、ラベルを係止する部材ではあるものの、係止爪ではない点。

相違点4
本件特許発明は、収納状態は、前記ディスク(100)を前記保持部(5)に嵌合したとき該ディスク(100)上面と前記保持部(5)間の距離が、前記ディスク(100)の厚み以下とされており、前記保持部(5)の裏面から前記保持部(5)の上面までの距離は4mm程度とされており、かつ前記カバー体(3)の内面と前記保持部(5)の上面とは当接するか又は、前記ディスク(100)の厚み以下の間隙が形成されており、かつ前記保持板(2)の裏面からカバー体(3)の上面までの厚みは6mm以下に設定されているのに対して、甲第1号証の発明は、スリムなる記載を伴って、本体側ケース部材31と蓋側ケース部材32とによって、CDの両面を覆うものであり、CDをCD保持部46に嵌合できるものの、嵌合したとき該CD上面と前記CD保持部46上面間の距離についての特段の記載はなく、本体側ケース部材31の裏面とCD保持部46の上面との間の距離についての特段の記載はなく、さらに、蓋側ケース部材32に内面と、CD保持部46の上面との間の距離についての特段の記載はなく、収納状態における本体側ケース部材31の裏面から蓋側ケース部材32の上面までの厚みについての特段の記載もない点。

相違点5
本件特許発明は、180°開いた状態において前記カバー体(3)におけるヒンジ結合側端縁部は前記保持板(2)のヒンジ結合側端縁部と当接可能になっているのに対して、甲第1号証の発明には、そのような記載はない点。

相違点6
本件特許発明のカバー体(3)には、係止爪(46)に連通する厚み方向に貫通した連通孔(47)が設けられているのに対して、甲第1号証の発明は、蓋側ケース部材に連通孔を設けるものではない点。

[相違点についての判断]
相違点1について
記録媒体用ディスクの収納ケースにおいて、カバー体は、保持板に対して180°開いた状態に相対回動可能とすることは、特段の例示を待つまでもなく周知の事項であり、甲第1号証の発明の蓋側ケース部材32は、本体側ケース部材31に対して相対回動により、開くものであるから、それを180°回動可能とすることは単なる設計上の事項にすぎず、相違点1は、格別の事項とは認められない。

相違点2について
相違点2の形状は、被請求人が主張するように、指掛け部とされているのであるから、周壁に指が掛かる程度の寸法の構成であると認められる。
ここで、甲第2号証には、被請求人が主張するように、その図面から直接採寸を行い技術思想を把握することを期待して作成された図面ではないとしても、7-2-2に述べたとおり、コンパクトディスク用ケースであって、収納状態においては、ケース本体1の側部には軸受4が形成され、同軸受4にはこれにヒンジ状に係合する軸受を具えたケース蓋体5が開閉自在に取付けられ、本体1とケース蓋体5とを結合する軸受4側のケース蓋体5の端部は、軸受4より外方に突出した位置に壁が設けられ、同壁とケース本体との間に本体ケース側に開放する隙間が設けられているコンパクトディスク用ケースが、本体1の軸受4側の端部に設けられる壁とともに記載されている。
そして、甲第2号証に記載の発明は、本件請求項1に係る発明及び甲第1号証の発明と同様に記録媒体用ディスクの収納ケースに係る技術であり、設計者は、甲第1号証の発明に基づいて、具体的にケースを設計するに当たり、各部分の具体的な形状を公知の形状より、設計の意図に応じて適宜選択して採用すべきものと認められるので、甲第1号証の発明における本体側ケース部材31のヒンジ結合される支軸部38を有する側の端縁部の形状として、甲第2号証に示される、形状を採用することは、甲第1号証に記載の発明の残余の構成から独立して適用可能な事項であり、それを阻害する格別の事項は認められない。
しかも、甲第2号証に記載されるケース蓋体の端部の形状を採用するに当たり、記録媒体用ディスクの収納ケースの固有の目的である防塵性の向上よりみれば、甲第2号証に記載されるケース蓋体の端部の形状の採用とともに、甲第2号証に記載されるケース本体1の軸受4側の端部に設けられる壁を併せ採用することは、当業者にとって当然の選択というべき事項である。
よって、相違点2は、甲第1号証の発明に甲第2号証の発明を適用して、当業者が容易になしえたものであり、格別の事項とは認められない。

相違点3について
係止する部材として係止爪を採用することは、甲第3号証に記載されており、相違点3は、甲第1号証の発明に甲第3号証の発明を適用して当業者が容易になしえたものであり、格別の事項とは認められない。
相違点4について
本件特許発明の属する記録媒体用ディスクの収納ケースにおいて、ケースの薄型化は、そのケースの材質にかかわらず周知の技術課題の1つというべきである(甲第6、7、9号証参照。)。さらに、本件請求項1に係る発明は、必ずしも材質に特定を有するものではないが、ヒンジを有すること、透明であることからみれば、甲第8号証には、本件請求項1に係る発明と同様の材質を包含するものが記載されている。そして、甲第8号証には、約6mm程度に薄くなったCD、FDのケースを従来技術とし、薄くなったために発生する問題点を改良することが記載されていることに鑑みれば、甲第1号証の発明においても、当業者がその設計に当たり、薄型化を設計課題の1つとし、「6mm以下」とすることに格別の困難性は認められない。
そして、甲第1号証の発明において、薄型化を課題の1つとして設計を行えば、収納状態での、ディスクの上面と前記保持部の上面間の距離は、記録媒体用ディスクの保持に支障のない範囲で狭くするべきものであり、カバー体の内面と前記保持部の上面との距離も、同様に狭くすることが当然である。
また、本件請求項1に係る発明は、これらの距離が、下限を設けないことにより限りなく0に近い値を含むか、または、0(当接)を含めて、ディスクの厚み以下とされるものである。一方、設計にあたり薄型化を図ることは、別異の設計視点からの制約がない限り、限りなく薄くすることを目指すものであり、ディスクの厚み以下という限定に格別の臨界的意味を有するとは認められないので、これら両距離の設定は、当業者が適宜選定し得た設計上の事項にすぎない。
次に、甲第1号証の発明を含めて、通常想定される記録媒体用ディスクの厚み、ケースの本体及びケースの蓋体それぞれの厚みについて検討すると、記録媒体用ディスクの厚みは、通常1.2?1.5mm程度であり、ケースの本体及びケースの蓋体の厚みは、1mm程度のものであり、これらの値は、通常想定される各厚みに反するものではなく、甲第1号証のものにおいて敢えて別異の厚みとする格別の事情は認められない。そこで、通常想定される各厚みを前提として、保持板の裏面から保持部の上面間での距離を想定すると、これは、ケース本体の肉厚、記録媒体用ディスクの厚み、それら間の若干の記録媒体用ディスクの保護の隙間、及び、記録媒体用ディスクの保持のためのディスクの上面と前記保持部の上面間の距離の総計であり、薄型化により算定される値は、4mm程度となることが必然であり、4mm程度を選択する点に格別の困難性は認められない。
以上のとおり、相違点4は、当業者が周知の設計課題である薄型化に基づいて設計を行うことにより、適宜選定し得た設計上の事項にすぎず、格別の事項とは認められない。

相違点5について
本件特許発明では、収納ケースを180°開いた状態において前記カバー体(3)におけるヒンジ結合側端縁部は前記保持板(2)のヒンジ結合側端縁部と当接可能になっている。これに対して、甲第1ないし3号証に記載のケースでは、開いた状態において、カバー体と保持板の端縁部が互いに当接しているか否か明らかではない。
しかし、一般に蓋付きのケースにおいて、蓋をある程度開いた状態で蓋の端縁部がケースの端縁部に当たり接する構造、すなわち当接する構造となっているのは、容器の分野において周知の構造であって(例えば、実公昭57-39330号公報、特開平9-131957号公報参照)、本件特許発明のようなCDのケースにおいてもこのような構造とすることに何ら困難性は認められない。

相違点6について
相違点6について検討するに当たり、優先権の主張の是非についてまず検討すると、本件出願は、特願平11-545603号のいわゆる分割出願であり、前記優先権の主張がなされている。しかしながら、本件訂正発明は、上記の通り、「前記カバー体(3)には、前記係止爪(46)に連通する厚み方向に貫通した連通孔(47)が設けられていること」をその構成の一部と解すべきものであり、同構成は、本件の優先権の基礎となる先の出願である特願平10-57080号の願書に最初に添付された明細書又は図面に記載されるものではない。したがって、本件訂正発明は、特許法第29条第2項の適用に当たり、特願平10-57080号の出願の時に出願されたものとされるものではなく、本件の原出願である特願平11-545603号の出願の時に出願されたものとみなされるものである。
一方、本件請求項2に係る発明について出願の時が遡及する特願平11-545603号の出願前に頒布された刊行物である甲第4号証には、上記のとおり、蓋体部28の側壁15,16には内側に突出するラベル押さえ爪19が設けられ、蓋体部28には、前記ラベル押さえ爪19に連通する厚み方向に貫通した通孔28が設けられているコンパクトディスク収納ケースの発明が記載されており、甲第4号証の発明の「蓋体部28」、「側壁15,16」、「ラベル押さえ爪19」、「通孔28」、及び、「コンパクトディスク収納ケース」は、本件請求項2に係る発明の「カバー体(3)」、「周壁(38)」、「ラベル係止爪(46)」、「連通孔(47)」、及び、「記録媒体用ディスクの収納ケース」にそれぞれ相当するものと認められるから、本件訂正発明の相違点6の構成は、甲第4号証に記載されている。
したがって、相違点6は、甲第1号証の発明に甲第4号証に記載される発明を適用して、当業者が容易になし得たものであり、格別の事項とは認められない。

5.むすび
以上のとおりであるから、本件特許発明は甲第1から4号証に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-04-26 
結審通知日 2007-11-02 
審決日 2006-05-12 
出願番号 特願2000-272058(P2000-272058)
審決分類 P 1 113・ 121- Z (B65D)
最終処分 成立  
特許庁審判長 寺本 光生
特許庁審判官 関 信之
石原 正博
登録日 2002-09-13 
登録番号 特許第3349138号(P3349138)
発明の名称 記録媒体用ディスクの収納ケース  
代理人 辻村 和彦  
代理人 安田 敏雄  
代理人 野口 繁雄  
代理人 国立 久  
代理人 小松 陽一郎  
代理人 井▲崎▼ 康孝  
代理人 川端 さとみ  
代理人 井口 喜久治  
代理人 山本 淳也  
代理人 岡本 宜喜  
代理人 福田 あやこ  
代理人 森本 純  
代理人 安田 幹雄  

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