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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  E02D
管理番号 1197412
審判番号 無効2008-800113  
総通号数 115 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-07-31 
種別 無効の審決 
審判請求日 2008-06-23 
確定日 2009-04-20 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3957607号発明「ニューマチックケーソン及びニューマチックケーソン工法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第3957607号の請求項1乃至4に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第3957607号の発明は、平成14年10月15日に出願され、平成19年5月18日に設定登録されたものである。
これに対し、請求人より、平成20年6月23日に、その請求項1乃至4に係る発明の特許を無効とするとの審判請求がなされ、被請求人より、同年11月17日に答弁書が提出されるとともに同日付けで訂正請求書が提出されている。同年12月22日に請求人より弁駁書が提出されている。

第2 請求人の主張
1.本件特許第3957607号の請求項1乃至4に係る発明の特許を無効にする、審判費用は被請求人の負担とするとの審決を求め、下記の証拠方法を提出して以下のように主張している。
本件特許の請求項1に係る発明は、甲第1号証もしくは甲第2号証に記載された発明と同一であるから、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当し、特許を受けることができないものであるか、または、同発明は、同第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであり、また、請求項2乃至4に係る発明は、甲第1号証乃至甲第4号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
2.訂正請求書による訂正について、以下のように主張している。
訂正請求書による訂正事項は請求項1に係る本件発明を不明りょうにするものであって、かつ、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲でされたものではなく、実質上特許請求の範囲を変更するものであるから、特許法第134条の2第1項第3号に掲げる事項を目的とするものではない。

(証拠方法)
甲第1号証:ブレンネッケ・ローマイヤ 基礎工 下巻
昭和11年6月20日発行
翻訳 太田尾 廣治他2名 出版コロナ社
甲第2号証:特公昭30-3770号公報
甲第3号証:特開昭63-184619号公報
甲第4号証:特公昭26-7832号公報
参考例 :昭和28年特許願第7351号写

第3 被請求人の主張
1.被請求人は、本件特許第3957607号の明細書の請求項1に係る発明を訂正明細書の請求項1に記載したとおりに訂正することを求めるとともに、請求人の主張は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、請求人の上記主張(特に、1.)に対して、以下のように反論している。
訂正明細書の請求項1に係る発明(以下、「本件訂正発明1」という。)は、側壁部と頂版部とからなるケーソン躯体が「完成形の地下構造物を構成するようにしたもの」であるが、甲第1号証に記載されたケーソン躯体は、それ自体が「完成形の地下構造物を構成するもの」ではなく、本件訂正発明1のような「側板部」、「頂版部」を備えたものではない。甲第1号証に記載されたケーソン躯体は、単にケーソン躯体を沈設するための圧気工法に用いられるだけのものであって、請求人による、甲第1号証のケーソン躯体は底版がなく本件訂正発明1における完成形に極く近い構成となっている旨の主張は、本件訂正発明1の「完成形」の意味を取り違えた誤認である。
甲第2号証に記載された発明は、簡易気閘室を利用した潜函工法を提案するものであって、本件訂正発明1の「完成形の地下構造物」を構成する「側壁部」、「頂版部」に相当するものは、記載も示唆もされていない。
したがって、本件訂正発明1は、甲第1号証、甲第2号証に記載された発明ではなく、また甲第1号証、甲第2号証に記載された発明から当業者が容易に発明することができたものでもない。
訂正明細書の請求項2、3に係る発明は、本件訂正発明1の全ての構成要件を備えた従属項に係る発明であり、本件訂正発明1が進歩性を有することで、当然、進歩性を有する。
訂正明細書の請求項4に係る発明(以下、「本件訂正発明4」という。)は、ケーソン躯体の側壁部、頂版部が、完成形の地下構造物を構成する前提において、所定の深さまで沈下したケーソン躯体の底部に底版部を構築して地下構造物とするものであって、甲第1号証乃至甲第4号証には、このような構成を示唆する記載はない。
したがって、本件訂正発明4は、甲第1号証?甲第4号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第4 訂正の適否
1.訂正の内容
平成20年11月17日付け訂正請求は、本件特許第3957607号の明細書を訂正請求書に添付した訂正明細書のとおり訂正することを求めるものであり、その訂正の内容は次のとおりである。
(訂正事項)
特許請求の範囲の請求項1を、次のとおり訂正する。
「【請求項1】 筒状のケーソン駆体の内部にケーソン躯体の底面地盤を掘削しつつケーソン躯体を沈下させるための圧気空間を設けてなるニューマチックケーソンであり、前記ケーソン駆体が側壁部と頂版部とから構成され、これら側壁部と頂版部で囲まれた空間が圧気空間とされ、該ケーソン躯体が完成形の地下構造物を構成するようにしたことを特徴とするニューマチックケーソン。」(本件訂正発明1)

2.訂正の目的の適否について
上記訂正事項は、「ケーソン躯体」について、それが「完成形の地下構造物を構成するようにした」ことを限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

3.新規事項の追加の有無、特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更について
上記訂正事項は、願書に添付された明細書の以下の記載に基づくものである。
(1)「・・・この請求項1は、構造物基礎やトンネルやその他の地下構造物の施工に適用され、下端に刃口が設けられた角筒状等のケーソン躯体を、下端に刃口が設けられた側壁部と、上床版としての頂版部とから、カップを伏せたような鉛直断面門形の函体とし、その内部に圧縮空気を供給し、ケーソン躯体の全体を圧気空間として用い、かつ、このケーソン躯体が完成形を構成するようにしたものである。」(段落【0008】)
(2)「従来のニューマチックケーソンの場合、ケーソン躯体の底部床版から刃先の付いた刃口側壁が下方に大きく突出し、これが完成形の地下構造物にとって不要な部分となっていたが、本発明によれば、ケーソン躯体を側壁部と頂版部とから断面門形の函体とし、その内部を圧気空間として用いるため、完成形に極めて近い形状のケーソン躯体でニューマチックケーソン工法を実施でき、沈設後は底版部を設けるだけで、地下構造物として用いることができ、従来の不要部分を小さくすることができ、コンクリート等の使用量を削減してコストの低減を図ることができる。」(段落【0012】)
(3)「図1(b) に示すように、完成形のトンネル本体からは、断面三角形状の刃口10が若干突出するだけであり、不要部分を従来と比べて大幅に低減することができる。・・・」(段落【0037】)
(4)「【発明の効果】
(1) 本発明によれば、ケーソン躯体を側壁部と頂版部とから断面門形の函体とし、その内部を圧気空間として用いるため、完成形に極めて近い形状のケーソン躯体でニューマチックケーソン工法を実施でき、沈設後は底版部を設けるだけで、地下構造物として用いることができ、従来の不要部分を小さくすることができ、コンクリート等の使用量を削減してコストの低減を図ることができる。」(段落【0039】)
そして、上記記載(1)乃至(4)から、本件訂正発明1の「ケーソン躯体」は、地下構造物完成形に極めて近い形状であって、ニューマチックケーソン工法による沈設後は、「ケーソン躯体」自体が底部から突出する刃口側壁等の不要部分が小さいほぼ完成形の地下構造物全体を構成するものであることは明らかである。
したがって、上記訂正事項は、願書に添付された明細書及び図面の範囲内においてなされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、若しくは変更するものではない。

4.まとめ
以上より、上記訂正請求による訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書きの規定に適合し、同条第5項の規定において準用する同法第126条第3項、第4項の規定に適合するから、当該訂正を認める。

第5 本件発明
本件特許の請求項1に係る発明は、上記のとおり訂正請求が認められることから、平成20年11月17日付け訂正請求書に添付された訂正明細書及び図面の記載から見て、その特許請求の範囲の請求項1乃至4に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める。

「【請求項1】 筒状のケーソン駆体の内部にケーソン躯体の底面地盤を掘削しつつケーソン躯体を沈下させるための圧気空間を設けてなるニューマチックケーソンであり、前記ケーソン駆体が側壁部と頂版部とから構成され、これら側壁部と頂版部で囲まれた空間が圧気空間とされ、該ケーソン躯体が完成形の地下構造物を構成するようにしたことを特徴とするニューマチックケーソン。」(以下、「本件発明1」という。)
「【請求項2】 請求項1に記載のニューマチックケーソンにおいて、ケーソン躯体の内部に支保工が設けられ、この支保工の下面に掘削機械が設けられていることを特徴とするニューマチックケーソン。」(以下、「本件発明2」という。)
「【請求項3】 請求項2に記載のニューマチックケーソンにおいて、ケーソン躯体の頂版部を貫通して排土設備が設けられていることを特徴とするニューマチックケーソン。」(以下、「本件発明3」という。)
「【請求項4】 筒状のケーソン躯体の内部に設けられた圧気空間でケーソン躯体の底面地盤を掘削しつつケーソン躯体を沈下させるニューマチックケーソン工法であり、前記ケーソン躯体を側壁部と頂版部とから構成し、前記側壁部と頂版部で囲まれた空間を圧気空間としてケーソン躯体の底面地盤を掘削しつつケーソン躯体を沈下させ、所定の深さまで沈下したケーソン躯体の底部に底版部を構築することを特徴とするニューマチックケーソン工法。」(以下、「本件発明4」という。)

第6 各甲号証の記載内容
1.甲第1号証:ブレンネッケ・ローマイヤ 基礎工 下巻
昭和11年6月20日発行
翻訳 太田尾 廣治他2名 出版コロナ社
請求人が提出した甲第1号証には、以下の記載がある。
(1a)「・・・斯様に補強された刃口は輾壓鋼により又竪坑壁の鐵筋コンクリートによつて刃口上3mの處にあり直角交叉をなし32cmの高さを有する格構桁からなる水平井桁・・・に結合してゐる。格構桁は沈下の際に竪坑壁を剛にし竣功した竪坑内にあつては底の杭張補強材として働くべきである。・・」(767頁6?9行)

2.甲第2号証:特公昭30-3770号公報
請求人が提出した甲第2号証には、以下の記載がある。
(2a)「大豊式簡易潜函工法は特許第193732号(特公昭26-7832)の如く、従来の潜函工法を小規模の水中工事に安全確実に応用させる為潜函の先端即ち掘搾作業部に互いに連接する作業室と気閘室とを設けたものであるが、・・・」(1頁左欄12?16行)
(2b)「この目的で本発明では、気閘室を潜函自体とは別個のものとして構成し、必要な個所に着脱自在に取付けて簡易潜函工法又はこれと類似の作業を施行し工事完了後はこれを取外して必要に応じて次の工業にも使用させ得るようにした特殊な簡易気閘室を利用することを特徴とするものである。この特殊簡易気閘室は通常鋼板製の気密槽で潜函の作業室に相当する部分の上壁コンクリート部に設けられた出入口に適宜パツキングを介して気密に取付けられ出入扉(又はこれと予備扉)を有し且つ圧搾空気用送気管及び排気管を具備すること従来の気閘室と同様である。
図に示した実施例について、その詳細を説明すれば第1図乃至第3図に示すような浅い潜函或は杭打を必要とし又は地下に障害物のある場合の潜函工法では潜函1は上壁2に出入口3を設け、これに内方に開く扉4を付し圧搾空気用の送気管5及び排気管6を設ける。・・・従来の簡易潜函工法と同様に工事は進められ掘搾作業は圧搾空気中で湧水を押えて陸上工事と同様に行われ地下工事完了後気閘室7は取除けられる。」(1頁左欄25行?右欄17行)
(2c)「本文所記の目的で出入口、圧搾空気用の送気管及び排気管並に気密保持を可能ならしめた取付座を有する気密気閘室を簡易潜函の上壁上面又はこれに相当する個所に着脱自在に取付けて、従来の簡易潜函工法と同様に湧水地又は水中において陸上工事と同様の作業を施工し得せしめることを特徴とする簡易気閘室利用の潜函工法。」(2頁右欄3?9行)
(2d)第2図には、潜函1が上壁2とその端部から垂下する側壁とから構成されていることが記載されている。
(2e)また、第2図には、潜函内の地盤に杭が打ち込まれることが記載されている。

上記記載事項(2a)乃至(2e)からみて、甲第2号証には以下の発明が記載されているものと認められる。
「内部が作業室となる潜函1であって、前記潜函1は、上壁2とその端部から垂下する側壁とから構成され、上壁2には出入口が設けられ、これに内方に開く扉4を付し圧搾空気用の送気管5及び排気管6が設けられた潜函であって、潜函工法における掘削作業を圧搾空気中で湧水を押えて陸上工事と同様に行うことができる潜函。」(以下、「甲2発明1」という。)

「内部が作業室となる潜函1であって、前記潜函1は、上壁2とその端部から垂下する側壁とから構成され、上壁2には出入口が設けられ、これに内方に開く扉4を付し圧搾空気用の送気管5及び排気管6が設けられた潜函であって、潜函工法における掘削作業を圧搾空気中で湧水を押えて陸上工事と同様に行うことができる潜函(甲2発明1の潜函)を用いて、従来の潜函工法と同様に工事を進め、所定の深さまで沈下した潜函内の地盤に杭を打ち込む潜函工法。」(以下、「甲2発明2」という。)

3.甲第3号証:特開昭63-184619号公報
請求人が提出した甲第3号証には、以下の記載がある。
(3a)「円筒状ケーソンの上部に設けられた橋型クレーンと、該橋型クレーンから吊設されたケーソン内壁面に固定自在なリング状固定桁と、該固定桁に昇降自在に設けられた吊部材と、該吊部材に吊設されたリング状のレールと、該リング状のレールに旋回自在に吊設された十字状の旋回桁と、該十字状の旋回桁の一方の桁に半径方向に移動自在に吊設された刃口掘削機と、他方の桁に半径方向に移動自在に吊設されたバックドーザおよびフロントドーザとを設けたことを特徴とするケーソン壁直下の掘削装置。」(特許請求の範囲)

4.甲第4号証:特公昭26-7832号公報
請求人が提出した甲第4号証には、以下の記載がある。
(4a)「建設物自體を完全なる潜函として利用して簡單、容易に且迅速にコンクリート建造物の完全なる基礎を水底地層又は湧水地層に建設せんとする」(1頁左欄15?17行)
(4b)「先づコンクリート橋脚の下部となる部分1に作業室2及補助室3を2段に形成し、之を橋脚を築造せんとする場所におき然る後該作業室2の扉4を閉塞して該作業室2内に空氣壓入管5を以て空氣を壓入することにより該作業室2内の水は漸次排除せられ陸上作業可能となる。・・・作業員は孔4’より作業室2内に入り該作業室2の下底の土9を堀鑿し此の上をバケツト7’’に入れて補助室3内に運び込む。・・・以上のような堀鑿作業を繰返し行ふことにより建造物の下部1は漸次土中に沈下する。而して此の沈下に從つて建造物下部1の上方にコンクリートを繼ぎ足し斯くして建造物の下面が水底中の所要位置例へば岩盤内適當の深さに到達したとき此の堀鑿作業を止める。次に此の堀鑿作業を終了した後は・・・該作業室2内のコンクリート打設作業を行ふ。斯くして作業室2内のコンクリート打設作業が終れば該作業室2の下底が水密状態となるから其の後は各室に壓搾空氣を送入する必要なく大気壓の下に單に橋脚1の内部にコンクリートを充填することにより橋脚建造作業を終了するものである。
尚右は本發明方法を橋脚築造の場合に付説明したが本發明方法は橋脚築造の場合のみに限られるものではなく一般のコンクリート建造物を水底地層又は湧水地層に建設する場合にすべて之を應用し得ることは勿論である。」(1頁左欄29行?2頁左欄7行)

第7 当審での検討
1.本件発明1について
(1)本件発明1と甲2発明1との対比
本件発明1と甲2発明1とを対比すると、甲2発明1の「潜函」が本件発明1の「ケーソン躯体」に相当しており、以下同様に「側壁」が「側壁部」に、「上壁2」が「頂版部」にそれぞれ相当している。
そして、甲2発明1において、圧搾空気用の送気管5及び排気管6が設けられ、掘削作業が圧搾空気中で行うものであることから甲2発明1の「潜函内部の作業室」は、本件発明1の「圧気空間」に相当している。
さらに、甲第2号証に記載された「潜函工法」とは、その従来技術として示された特公昭26-7832号公報(甲第4号証)の上記記載(4a)を考慮すると、潜函の内部の作業室に、圧力空気を送り込んで水を排除しながら、その作業室の下底を掘削し、潜函を沈設する工法であって、すなわちニューマチックケーソン工法であるといえるから、甲2発明1の「潜函」は、本件発明1の「ケーソン躯体」に相当するとともに「ニューマチックケーソン」に相当するものである。
したがって、両者は、以下の点で一致している。
(一致点)
「ケーソン駆体の内部に圧気空間を設けてなるケーソンであり、前記ケーソン躯体が側壁部と頂版部とから構成され、これら側壁部と頂版部で囲まれた空間が圧気空間とされるニューマチックケーソン。」
そして、両者は、以下の点で相違している。

(相違点1)
本件発明1は、ケーソン躯体が筒状であるのに対して、甲2発明1は、ケーソン躯体の形状が明らかではない点。
(相違点2)
本件発明1は、ケーソン躯体が完成形の地下構造物を構成するのに対して、甲2発明は、ケーソン躯体が沈設された後に何が構成されるのか明らかではない点。

(2)各相違点に対する判断
(相違点1についての判断)
ケーソン躯体を筒状とすることは、例示するまでもなく周知の技術であり、甲2発明1のケーソン躯体を筒状とすることは、当業者にとって適宜なし得た設計事項に過ぎない。
(相違点2についての判断)
そもそもケーソンとは、それを海中、地中内に沈めてコンクリート建造物を建設するものであるから、甲2発明1の潜函も何らかの(地下)建造物を構成するものであることは自明である。
そして、甲第4号証の記載事項(4a)にあるように、甲2発明1において採用されているのと同様の潜函工法に用いられる潜函がコンクリート建造物の基礎としての完成形を構成するものであることを示唆する記載があることなどから考えると、甲2発明1の「ケーソン躯体(潜函)」によって地下構造物である基礎等の完成形(全体)を構成するようにすることは当業者が容易になし得たことである。

(3)まとめ
全体として、本件発明1による効果は、甲2発明1及び周知の技術から当業者であれば当然に予測出来る程度のものであって、格別のものとはいえない。
したがって、本件発明1は、甲2発明1及び周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

2.本件発明2について
(1)本件発明2と甲2発明1との対比
本件発明2と甲2発明1とを対比すると、上記相違点1及び相違点2において相違すると共に、さらに以下の点で相違している。
(相違点3)
本件発明2は、ケーソン躯体の内部に支保工が設けられ、支保工の下面に掘削機械が設けられているのに対して、甲2発明1は、そうではない点。

(2)各相違点についての検討
相違点1及び相違点2については、上記「1.本件発明1について」において検討したとおりである。
甲第1号証の記載事項(1a)に記載されているように、竪管を沈下させるに際して、竪坑壁を横桁等により補強することは周知の技術である(他にも例えば特開平4-97021号公報:2頁右上欄等参照)。
そして、本願特許明細書段落【0017】に「圧気空間11には、頂版部1aの構築あるいは躯体の補強等のため、鋼材梁13aと支柱13bとブレース13c等からなる支保工13が設けられており」と記載されているように本件発明2の「支保工」とは、躯体の補強を行う部材を含むものであるから、上記周知技術における該横桁等の補強部材は本件発明2における「支保工」に相当するものであるということができる。
そして、甲2発明1においてもその沈下時に潜函を補強することが好ましいことは当業者にとって自明であって、甲2発明1の潜函(ケーソン躯体)をその沈下時に補強するために横桁等、すなわち支保工を設けることは当業者が容易になし得たことである。
ここで、ニューマチックケーソン工法ではないが、ケーソンの下部を掘削するに際して、ケーソンに固定した固定桁に掘削機械を設けることは甲第3号証の記載事項(3a)に記載されているように公知の技術であり、また、ニューマチックケーソン工法において、ケーソン躯体の下部を掘削機械によって掘削すること、及び、掘削機械をケーソンの床版に設けることは周知の技術であるから(例えば特開平3-221617号公報:3頁右上欄、特開平9-158196号公報:段落【0002】?【0003】参照)、甲2発明1において、掘削を機械によって行うことは当業者が適宜なし得たことであって、掘削の機械を設けるに際して、ケーソン躯体に補強の為の横桁等支保工があるのであれば、該支保工に掘削の機械を設けることは当業者が必要に応じて適宜なし得た設計事項である。

(3)まとめ
全体として、本件発明2による効果は、甲2発明1、甲第1号証及び甲第3号証の記載事項及び周知の技術から当業者であれば当然に予測できる程度のものであって、格別のものとはいえない。
したがって、本件発明2は、甲2発明1、甲第1号証及び甲第3号証の記載事項及び周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

3.本件発明3について
(1)本件発明3と甲2発明1との対比
本件発明3と甲2発明1とを対比すると、上記相違点1乃至相違点3において相違すると共に、さらに以下の点で相違している。
(相違点4)
本件発明3は、ケーソン躯体の頂版部を貫通して排土設備が設けられているのに対して、甲2発明1は、排土設備について明らかではない点。

(2)各相違点についての検討
相違点1乃至相違点3については、上記「1.本件発明1について」及び「2.本件発明2について」において検討したとおりである。
甲2発明1において、その上壁に形成した孔から掘削した土砂を排出することは明らかであり、該「孔」が、相違点4に係る構成の「排土設備」ということができる。
また、ニューマチックケーソン工法において、その作業室において掘削された土砂を排出する排出する装置を設けることは、周知であり、甲2発明1において、該孔に排土装置を設けることは当業者が容易になし得たことである。

(3)まとめ
全体として、本件発明3による効果は、甲2発明1、甲第1号証及び甲第3号証の記載事項及び周知の技術から当業者であれば当然に予測出来る程度のものであって、格別のものとはいえない。
したがって、本件発明3は、甲2発明1、甲第1号証及び甲第3号証の記載事項及び周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

4.本件発明4について
(1)本件発明4と甲2発明2との対比
本件発明4と甲2発明2とを対比すると、甲2発明2の「潜函」、「上壁2」、「側壁」、「作業室」及び「潜函工法」が、本件発明4の「ケーソン躯体」、「頂版部」、「側板部」、「圧気空間」及び「ニューマチックケーソン工法」に相当しており、両者は以下の点で一致している。
(一致点)
「ケーソン躯体を側壁部と頂版部とから構成し、前記側壁部と頂版部で囲まれた空間を圧気空間としてケーソン躯体の底面地盤を掘削しつつケーソン躯体を沈下させるニューマチックケーソン工法。」
そして、以下の点で相違している。
(相違点5)
本件発明4は、用いられるケーソン躯体が筒状であるのに対して、甲2発明2は、用いられるケーソン躯体の形状が明らかではない点。
(相違点6)
本件発明4は、所定の深さまで沈下したケーソン躯体の底部に底版部を構築するのに対して、甲2発明2は、所定の深さまで沈下した潜函内の地盤に杭を打ち込むものではあるが、底版部を構築するか否かは明らかではない点。

(2)各相違点に対する判断
(相違点5についての判断)
ケーソン躯体を筒状とすることは、例示するまでもなく周知の技術であり、甲2発明2のケーソン躯体を筒状とすることは、当業者にとって適宜なし得た設計事項に過ぎない。
(相違点6についての判断)
甲2発明2は、沈下した潜函の地盤に複数の杭を打ち込んでいるのであるから、これら複数の杭によって潜函により構成される建造物を固定することは当業者にとって自明の事項であって、甲2発明2において、杭を打ち込んだ後、該杭と潜函とをコンクリート等の手段により固定することは明らかである。
そして、甲2発明2においては、潜函と杭とをどのように固定するかは明らかではないものも、潜函内すべてにコンクリートを打設して固定するか、潜函の底部にコンクリートを打設して固定して潜函内の空間を土砂等によって埋めるか、もしくは、潜函内を空間として利用すべく底部にコンクリートを打設して固定して潜函内を空間として残すかは、当業者が構築する建造物に応じて適宜選択できる設計事項に過ぎない。
なお、沈下させたケーソンの底部のみにコンクリートを打設して、ケーソン内部を利用した地下室等の建造物を構築することは、特開平4-97021号公報に記載されていることを付言しておく。

(3)まとめ
全体として、本件発明4による効果は、甲2発明2及び周知の技術から当業者であれば当然に予測出来る程度のものであって、格別のものとはいえない。
したがって、本件発明4は、甲2発明2及び周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

第8 結び
以上、本件特許第3957607号の請求項1乃至4に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項において準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ニューマチックケーソン及びニューマチックケーソン工法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】筒状のケーソン躯体の内部にケーソン躯体の底面地盤を掘削しつつケーソン躯体を沈下させるための圧気空間を設けてなるニューマチックケーソンであり、前記ケーソン躯体が側壁部と頂版部とから構成され、これら側壁部と頂版部で囲まれた空間が圧気空間とされ、該ケーソン躯体が完成形の地下構造物を構成するようにしたことを特徴とするニューマチックケーソン。
【請求項2】請求項1に記載のニューマチックケーソンにおいて、ケーソン躯体の内部に支保工が設けられ、この支保工の下面に掘削機械が設けられていることを特徴とするニューマチックケーソン。
【請求項3】請求項2に記載のニューマチックケーソンにおいて、ケーソン躯体の頂版部を貫通して排土設備が設けられていることを特徴とするニューマチックケーソン。
【請求項4】筒状のケーソン躯体の内部に設けられた圧気空間でケーソン躯体の底面地盤を掘削しつつケーソン躯体を沈下させるニューマチックケーソン工法であり、前記ケーソン躯体を側壁部と頂版部とから構成し、前記側壁部と頂版部で囲まれた空間を圧気空間としてケーソン躯体の底面地盤を掘削しつつケーソン躯体を沈下させ、所定の深さまで沈下したケーソン躯体の底部に底版部を構築することを特徴とするニューマチックケーソン工法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、トンネル等の地下構造物の施工に用いられるニューマチックケーソン及びニューマチックケーソン工法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、構造物基礎等の施工に用いられるニューマチックケーソン工法は、図10に示すように、下端に刃口51を有する筒状のケーソン躯体50の底部に設けた床版52の下を作業空間53とし、そこに水圧に見合う圧縮空気を送り、圧気下でケーソン躯体50の底面地盤を掘削しつつケーソン躯体50を沈下させている(例えば、特許文献1参照)。作業空間(圧気空間)53を確保するため、底部床版からは下端に刃先の付いた刃口側壁54が下方に向かって所定長さ突出している。
【0003】
また、最近では、地下水の影響が少ないニューマチックケーソンを複数個並べて地下道路トンネルを構築する工法が実施されている。このニューマチックケーソン工法では、角筒状のケーソン躯体(直方体形状の函体)をトンネル長手方向に間隔をおいて複数沈設し、各ケーソン躯体間を接続工により接続し、トンネル長手方向に隣接している側壁部を撤去してトンネルを貫通させている(例えば、非特許文献1参照)。この場合も、ケーソン躯体の底部床版には、下方に向かって所定長さで突出する刃先付きの刃口側壁が突設されている。
【0004】
【特許文献1】
特開2001-262584号公報
【非特許文献1】
株式会社白石、「ニューマチックケーソン工法による地下高速道路」[online]、2002年7月1日(更新日)、〔平成14年8月20日検索〕、インターネット<URL:http://www.shiraishi.com/jpn/what/saitama/main.html>
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
従来のニューマチックケーソンの場合、ケーソン躯体の底部床版から下方に突出する刃先の付いた刃口側壁(例えば高さ2m程度)は、完成した地下構造物にとって不要な部分であり、特に長手方向に連続するトンネル等の場合には、コンクリートの使用量が増加し、コストが高くなるという課題があった。
【0006】
また、前記下方に突出する刃口側壁は、ケーソン躯体を横切る方向の地下水の流動を遮り、ケーソン躯体の左右両側で地下水位がアンバランスになるという課題もある。
【0007】
本発明は、完成形に近い形状のケーソン躯体でニューマチックケーソン工法を実施でき、コンクリート等の使用量を削減してコストの低減を図れ、またケーソン躯体を横切る方向の地下水の流動が遮られるのを防止することができるニューマチックケーソン及びニューマチックケーソン工法を提供することを目的としている。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明の請求項1は、筒状のケーソン躯体の内部にケーソン躯体の底面地盤を掘削しつつケーソン躯体を沈下させるための圧気空間を設けてなるニューマチックケーソンであり、前記ケーソン躯体が側壁部と頂版部とから構成され、これら側壁部と頂版部で囲まれた空間が圧気空間とされていることを特徴とするニューマチックケーソンである。この請求項1は、構造物基礎やトンネルやその他の地下構造物の施工に適用され、下端に刃口が設けられた角筒状等のケーソン躯体を、下端に刃口が設けられた側壁部と、上床版としての頂版部とから、カップを伏せたような鉛直断面門形の函体とし、その内部に圧縮空気を供給し、ケーソン躯体の全体を圧気空間として用い、かつ、このケーソン躯体が完成形を構成するようにしたものである。
【0009】
本発明の請求項2は、請求項1に記載のニューマチックケーソンにおいて、ケーソン躯体の内部に支保工が設けられ、この支保工の下面に掘削機械が設けられていることを特徴とするニューマチックケーソンである。この請求項2は、鋼材梁と支柱等からなる支保工を圧気空間内に設け、この支保工の下面に取付けた掘削機械でケーソン躯体の底面地盤を掘削できるようにし、また、この支保工を用いて頂版部の構築ができるようにしたものである。
【0010】
本発明の請求項3は、請求項2に記載のニューマチックケーソンにおいて、ケーソン躯体の頂版部を貫通して排土設備が設けられていることを特徴とするニューマチックケーソンである。この請求項3は、シャフト、エアロック、バケット等からなる排土設備を頂版部を貫通させて支保工の下端まで配置し、掘削した土砂を地上へと搬出できるようにしたものである。
【0011】
本発明の請求項4は、筒状のケーソン躯体の内部に設けられた圧気空間でケーソン躯体の底面地盤を掘削しつつケーソン躯体を沈下させるニューマチックケーソン工法であり、前記ケーソン躯体を側壁部と頂版部とから構成し、前記側壁部と頂版部で囲まれた空間を圧気空間としてケーソン躯体の底面地盤を掘削しつつケーソン躯体を沈下させ、所定の深さまで沈下したケーソン躯体の底部に底版部を構築することを特徴とするニューマチックケーソン工法である。この請求項4は、前述の請求項1、2または3のニューマチックケーソンを用い、沈設されたケーソン躯体に底版部を設け、そのままトンネルやその他の容器等の地下ケーソンとして用いるものである。トンネルの場合には、地下ケーソンを隣の地下ケーソンや他の工区のトンネル部分に接続工により接続し、トンネル長手方向の側壁部を撤去して貫通させる。
【0012】
従来のニューマチックケーソンの場合、ケーソン躯体の底部床版から刃先の付いた刃口側壁が下方に大きく突出し、これが完成形の地下構造物にとって不要な部分となっていたが、本発明によれば、ケーソン躯体を側壁部と頂版部とから断面門形の函体とし、その内部を圧気空間として用いるため、完成形に極めて近い形状のケーソン躯体でニューマチックケーソン工法を実施でき、沈設後は底版部を設けるだけで、地下構造物として用いることができ、従来の不要部分を小さくすることができ、コンクリート等の使用量を削減してコストの低減を図ることができる。
【0013】
また、従来のニューマチックケーソンの場合、ケーソン躯体の底部床版から下方に突出する刃口側壁がケーソン躯体を横切る方向の地下水の流動を遮り、ケーソン躯体の左右両側で地下水位がアンバランスになるという問題があったが、本発明によれば、ケーソン躯体の底部からは、本体側壁部下端の刃先部分が若干突出するだけであり、ケーソン躯体を横切る方向の地下水の流動が遮られるのを防止することができる。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を図示する実施の形態に基づいて説明する。この実施形態は、地下道路トンネルに適用した例である。図1は、本発明のニューマチックケーソンと完成形のトンネルの一実施形態を示したものである。図2は、本発明のニューマチックケーソンの躯体構造の一例を示したものである。図3?図5は、本発明のニューマチックケーソン工法の一例を工程順に示したものである。図6は、本発明のニューマチックケーソンの躯体構造の他の例を示したものである。図7?図9は、沈設されたケーソンの接続方法の一例を工程順に示したものである。
【0015】
図1の実施形態において、本発明のニューマチックケーソンC_(N)のケーソン躯体1は、地下道路トンネルの堀割スリット構造のトンネル部分に用いられるものであり、沈設後は、ケーソン躯体1に底版部2を設けることにより鉛直断面が横長の長方形状の函体のトンネルケーソンC_(T)となり、このケーソンC_(T)をトンネル長手方向に貫通させることにより堀割スリット構造のトンネルTが形成される。ケーソン躯体1の頂版部1aの中央には、梁3によりスリット4が形成され、このスリット4の両側には立上がり壁5が設けられる。また、トンネルT内の中央には、柱6が立設される。
【0016】
このような地下道路トンネルの施工において、本発明では、ニューマチックケーソンC_(N)のケーソン躯体1を、図1(a)、図2に示すように、鉄筋コンクリート(RC)製とし、平面形状が長方形の頂版部1aと、この頂版部1aの四周から一体的に垂下する側壁部1b,1b,1c,1cから構成し、お碗を伏せたような形状、即ち、下部が開口し上部が蓋をされた四角筒状の函体とする。そして、側壁部1b,1cの下端に刃口10を設け、頂版部1aと4つの側壁部1b,1cで囲まれた空間を圧気空間11とする。
【0017】
図1(a)に示すように、スリット4は、圧気蓋12を設置することで密閉し、地上に設置した圧縮空気供給装置(図示省略)から圧気空間11内に圧縮空気を供給する。圧気空間11には、頂版部1aの構築あるいは躯体の補強等のため、鋼材梁13aと支柱13bとブレース13c等からなる支保工13が設けられており、この鋼材梁13aの下面に掘削機械(ケーソンショベル)14が設けられる。また、排土設備(マテリアルロック及びシャフト)15と作業員の入函設備(マンロック及びシャフト)16が圧気蓋12を貫通し下端が支保工13の下面まで位置するように設置されている。17は排土設備のアースバケットである。
【0018】
図2に示すように、ケーソン躯体1は平面形状がトンネル長手方向Lに長い長方形であり、トンネル幅方向に一対の側壁部1b,1bと、トンネル長手方向Lに一対の側壁部(仮壁)1c,1cを有している。側壁部1cの上部には立上がり壁5’が一体的に設けられている。頂版部1aの梁3は、トンネル長手方向Lに等間隔をおいて配設され、スリット4が等間隔をおいて配列される。一対の側壁部1b,1bの下部は、後述するように底版部2が設けられるため肉厚とされ、この上に支保工13の鋼材梁13aが平面視で格子状に配設されている。支柱13bは梁3を支える位置に配設されている。
【0019】
以上のような構成において、次に示すような手順で本発明のニューマチックケーソン工法を実施する(図3?図5参照)。
【0020】
(1)ステップ1
施工基面を整正した後、トンネル長手方向Lに直交する遮水壁20を、設置されるケーソンCのトンネル長手方向Lの両端部に位置するように造成する。この遮水壁20は、地盤改良施工機により造成され、芯材なしのソイルセメント壁とされている。次に、設置されるケーソンCの前後における左右両側に位置するようにアースアンカー(グラウンドアンカー)21を計4箇所打設する。このアースアンカー21は、ボーリングマシン、グラウトミキサー、グラウトポンプ等を用いて打設される。次に、境界線BとケーソンCの間に境界線Bと平行に変状防護矢板(シートパイル)22を打設する。
【0021】
(2)ステップ2
左右の変状防護矢板22、22間を掘り下げ、ここに側壁部1bと側壁部(仮壁)1cを構築する。これら側壁部の下端の刃口10には、刃先を覆う刃口金物10aと皿板10bが設けられている。これら側壁部の内部に支保工13を組み立てる。
【0022】
(3)ステップ3
支保工13の上に頂版部1aを構築し、側壁部1b及び1cと一体化させる。頂版部1aのスリット4には圧気蓋12を設置する。これにより、ニューマチックケーソンC_(N)のお碗形のケーソン躯体1が完成する。
【0023】
(4)ステップ4
ケーソン躯体1に、掘削機械14、排土設備15、入函設備16等を艤装することにより、ニューマチックケーソンC_(N)が完成し、圧気空間11に圧縮空気を供給し、圧気下でケーソン躯体1の底面地盤を掘削しつつケーソン躯体1を沈下させる。ここでは、圧入ジャッキ23を用い、アースアンカー21を利用して、ケーソン躯体1を強制的に圧入する方式を併用している。
【0024】
(5)ステップ5
ケーソン躯体1が所定の深さまで沈設されると、掘削機械14を撤去し、ケーソン躯体1の底面地盤の上に中埋めコンクリート24を打設する。
【0025】
(6)ステップ6
中埋めコンクリート24の上にコンクリートを打設し、底版部2を構築する。支保工13の下面には底版用の鉄筋を吊り下げておく。構築された底版部2の上には、支柱13bの支柱仮受25を設置する。
【0026】
(7)ステップ7
圧縮空気の供給を停止し、排土設備15、入函設備16等の艤装を撤去する。圧気蓋12を撤去し、中間部の支保工13を撤去し、柱6を構築する。
【0027】
(8)ステップ8
残りの支保工13を撤去すれば、ケーソン沈設が完了し、堀割スリット構造のトンネルTを構成するトンネルケーソンC_(T)が所定の深さに設置される。
【0028】
なお、以上の図示例のトンネルケーソンC_(T)は、耐震隅角部に設置されるケーソンの例であり、他の工区のトンネル部分が接続され、側壁部1cを撤去することにより、トンネルが貫通する。
【0029】
次に、図6は、図2のニューマチックケーソンC_(N)(一体型)を2つに分離した例(分離型)であり、分離して沈設された2つのトンネルケーソンC_(T1)、C_(T2)が、次に示す手順で接続される(図7?図9参照)。なお、ここでは、分離型のトンネルケーソンC_(T)を2函接続する場合を示しているが、これに限らず、一体型のトンネルケーソンC_(T)を複数函接続することもでき、また分離型のトンネルケーソンC_(T)を3函以上接続することもできる。
【0030】
(1)ステップ1
トンネルTを構成するトンネルケーソンC_(T1)、C_(T2)がトンネル長手方向Lに所定の隙間S(例えば30cm程度)をおいて沈設される。
【0031】
(2)ステップ2
トンネルケーソンC_(T1)、C_(T2)の接続端部における側面地盤に薬液注入等による地盤改良体30を施工する。この側面地盤改良体30は、隙間Sを中心としてケーソン側面を所定長さ覆うように配置される。
【0032】
(3)ステップ3
トンネルケーソンC_(T1)、C_(T2)の接続端部における底面地盤に薬液注入等による地盤改良体31を施工する。この底面地盤改良体31も、隙間Sを中心としてケーソン底面を所定長さ覆うように配置される。
【0033】
(4)ステップ4
側面地盤改良体30と底面地盤改良体31で囲まれた隙間Sの土砂をエアーリフトやウォータージェットで掘削除去する。
【0034】
(5)ステップ5
ケーソン接続部の隣り合う側壁部1c,1cを撤去する。
【0035】
(6)ステップ6
トンネルケーソンC_(T1)、C_(T2)の接続端部における側壁部1b及び底版部2の内面に継手部隙間Sを中心とする止水プレート32を貼設し、この止水プレート32と側面地盤改良体30・底面地盤改良体31とで挟まれた継手部隙間S内に間詰めコンクリート33を充填する。側壁部1b及び底版部2の接続面には、凹凸等によるせん断キー34を形成しておくのが好ましい。
【0036】
なお、2つのトンネルケーソンC_(T1)、C_(T2)の両端部は、他の工区のトンネル部分あるいは同様のケーソンと接続され、両端の側壁部を撤去してトンネル内を貫通させ、仕上げ工を施工すれば、トンネルが完成する。
【0037】
図1(b)に示すように、完成形のトンネル本体からは、断面三角形状の刃口10が若干突出するだけであり、不要部分を従来と比べて大幅に低減することができる。また、底版部2の下方には、突出部の小さい通水部が形成され、トンネル横断方向の地下水の流動が確保される。
【0038】
なお、以上は、堀割スリット構造の地下道路トンネルに適用した例について説明したが、これに限らず、通常型の地下道路トンネル、その他のトンネル、その他の地下構造物にも本発明を適用できることは言うまでもない。
【0039】
【発明の効果】
(1)本発明によれば、ケーソン躯体を側壁部と頂版部とから断面門形の函体とし、その内部を圧気空間として用いるため、完成形に極めて近い形状のケーソン躯体でニューマチックケーソン工法を実施でき、沈設後は底版部を設けるだけで、地下構造物として用いることができ、従来の不要部分を小さくすることができ、コンクリート等の使用量を削減してコストの低減を図ることができる。
【0040】
(2)また、ケーソン躯体の底部からは、本体側壁部下端の刃先部分が若干突出するだけであり、ケーソン躯体を横切る方向の地下水の流動が遮られるのを防止することができ、ケーソン躯体の左右両側の地下水位を均等とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明のニューマチックケーソンと完成形のトンネルの一実施形態を示す鉛直断面図である。
【図2】
本発明のニューマチックケーソンの躯体構造の一例(一体型)を示したものであり、(a)はトンネル幅方向に平行な鉛直断面図、(b)はトンネル長手方向に平行な鉛直断面図、(c)は上半分が水平断面の平面図である。
【図3】
本発明のニューマチックケーソン工法の一例を工程順(ステップ1)に示したものであり、(a)は平面図、(b)は鉛直断面図である。
【図4】
本発明のニューマチックケーソン工法の一例を工程順(ステップ2?4)に示したものであり、鉛直断面図である。
【図5】
本発明のニューマチックケーソン工法の一例を工程順(ステップ5?8)に示したものであり、鉛直断面図である。
【図6】
本発明のニューマチックケーソンの躯体構造の他の例(分割型)を示したものであり、(a)はトンネル幅方向に平行な鉛直断面図、(b)はトンネル長手方向に平行な鉛直断面図、(c)は上半分が水平断面の平面図である。
【図7】
本発明で沈設されたケーソンの接続方法の一例を工程順(ステップ1、2)に示したものであり、(a)は鉛直断面図、(b)は平面図と側面図である。
【図8】
本発明で沈設されたケーソン間の接続方法の一例を工程順(ステップ3、4)に示したものであり、(a)は平面図と鉛直断面図、(b)は鉛直断面図である。
【図9】
本発明で沈設されたケーソン間の接続方法の一例を工程順(ステップ5、6)に示したものであり、(a)、(b)は鉛直断面図である。
【図10】
従来のニューマチックケーソンを示す斜視図である。
【符号の説明】
C_(N)……ニューマチックケーソン
C_(T)……トンネルケーソン
1……ケーソン躯体
1a…頂版部
1b…側壁部
1c…側壁部
2……底版部
3……梁
4……スリット
5……立上がり壁
6……柱
10……刃口
11……圧気空間
12……圧気蓋
13……支保工
13a…鋼材梁
13b…支柱
13c…ブレース
14……掘削機械
15……排土設備
16……入函設備
17……アースバケット
20……遮水壁
21……アースアンカー
22……変状防護矢板
23……圧入ジャッキ
24……中埋めコンクリート
25……支柱仮受
30……側面地盤改良体
31……底面地盤改良体
32……止水プレート
33……間詰めコンクリート
34……せん断キー
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2009-02-10 
結審通知日 2009-02-18 
審決日 2009-03-09 
出願番号 特願2002-300054(P2002-300054)
審決分類 P 1 113・ 121- ZA (E02D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 高橋 三成  
特許庁審判長 石川 好文
特許庁審判官 草野 顕子
宮崎 恭
登録日 2007-05-18 
登録番号 特許第3957607号(P3957607)
発明の名称 ニューマチックケーソン及びニューマチックケーソン工法  
代理人 久門 享  
代理人 久門 保子  
代理人 久門 知  
代理人 高山 道夫  
代理人 久門 知  
代理人 久門 知  
代理人 久門 保子  
代理人 久門 享  
代理人 久門 保子  
代理人 久門 享  

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