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審決分類 審判 査定不服 (159条1項、163条1項、174条1項で準用) 特許、登録しない。 F16C
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16C
管理番号 1197478
審判番号 不服2007-32766  
総通号数 115 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-07-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-12-05 
確定日 2009-05-13 
事件の表示 特願2000- 82383「クランクシャフト」拒絶査定不服審判事件〔平成13年10月 5日出願公開、特開2001-271825〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成12年3月23日の出願であって、平成19年10月29日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成19年12月5日に審判請求がなされるとともに、平成19年12月25日付けで手続補正がなされたものである。

2.平成19年12月25日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成19年12月25日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
本件補正により、特許請求の範囲はその補正前の
「【請求項1】 炭素を0.32-0.56重量%含有する機械構造用炭素鋼からなり、
ジャーナル部とピン部をつなぎ、前記ジャーナル部及びピン部の外周に潤滑油を供給する油穴の開口部を形成し、
高周波焼入れにより、前記ピン部外周及びピン部のフィレットR部の焼入れ硬化層深さを1.5mm以上に形成し、
前記ピン部の油穴開口部の焼入れ硬化層深さを、油穴開口部の径に対して1.5倍以上に形成し、
前記油穴開口部付近の回転位置において、焼入れ入熱量を増大させ、焼入れ深さが深まるように、供給する高周波電力量を油穴開口部の位置を焼入れする際に増大し、それ以外の部分では減少させるように制御して油穴開口部に焼入れ層を形成したことを特徴とするクランクシャフト。」から、
「【請求項1】 炭素を0.32-0.56重量%含有する機械構造用炭素鋼からなるクランクシャフトの製造方法であって、
ジャーナル部とピン部をつなぎ、前記ジャーナル部及びピン部の外周に潤滑油を供給する油穴の開口部を形成し、
高周波焼入れにより、前記ピン部外周及びピン部のフィレットR部の焼入れ硬化層深さを1.5mm以上に形成し、
前記ピン部の油穴開口部の焼入れ硬化層深さを、油穴開口部の径に対して1.5倍以上に形成し、
前記油穴開口部付近の回転位置において、焼入れ入熱量を増大させ、焼入れ深さが深まるように、供給する高周波電力量を油穴開口部の位置を焼入れする際に増大し、それ以外の部分では減少させるように制御して油穴開口部に焼入れ層を形成する段階を有することを特徴とするクランクシャフトの製造方法。」に補正された。
上記の補正について、審判請求の理由では「上記補正において本件出願人は特許請求の範囲を「クランクシャフト」から「クランクシャフトの製造方法」に補正した。…また、上記補正は、特許請求の範囲の減縮するものであって、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題を変更するものでもない。特許法第17条の2第3項及び4項の規定を充足するものである。」と主張している。しかし、本件補正前の請求項1に係る発明は物の発明であったのに対して、本件補正後の請求項1に係る発明は方法の発明である。このように発明のカテゴリーを物の発明から方法の発明に変更する補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項各号に掲げるいずれの事項を目的とするものでもない(なお、知的財産高等裁判所平成18年(行ケ)10494号平成19年9月20日判決言渡において同旨の判断がなされている。)。
したがって、本件補正は、他の補正事項を検討するまでもなく、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明について
(1)本願発明
平成19年12月25日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、平成18年12月8日付け手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】 炭素を0.32-0.56重量%含有する機械構造用炭素鋼からなり、
ジャーナル部とピン部をつなぎ、前記ジャーナル部及びピン部の外周に潤滑油を供給する油穴の開口部を形成し、
高周波焼入れにより、前記ピン部外周及びピン部のフィレットR部の焼入れ硬化層深さを1.5mm以上に形成し、
前記ピン部の油穴開口部の焼入れ硬化層深さを、油穴開口部の径に対して1.5倍以上に形成し、
前記油穴開口部付近の回転位置において、焼入れ入熱量を増大させ、焼入れ深さが深まるように、供給する高周波電力量を油穴開口部の位置を焼入れする際に増大し、それ以外の部分では減少させるように制御して油穴開口部に焼入れ層を形成したことを特徴とするクランクシャフト。」
(2)引用例
(2-1)引用例1
実願昭63-159515号(実開平2-78807号)のマイクロフィルム(以下、「引用例1」という。)には、下記の事項が図面とともに記載されている。
(あ)「(産業上の利用分野)
本考案は、強度を向上するようにしたクランクシャフトの構造に関するものである。
(従来の技術)
…これらのジャーナル部およびピン部の表面は耐摩耗性が要求されることから、その周面に焼入れを施す技術が、例えば、実開昭62-97317号公報に見られるように公知である。
(考案が解決しようとする課題)
しかして、前記のようにジャーナル部およびピン部に焼入れを施したものでは、その焼入れ層と非焼入れ部との油孔内周面における境界部分にクラックが発生したり捩り強度が不足する恐れがある。
すなわち、クランクシャフトには、そのジャーナル部もしくはピン部の潤滑を行うために、ジャーナル部およびピン部を半径方向に貫通する油孔および両者を斜めに連通する油孔が形成され、潤滑油が供給されるように構成されている。そして、エンジンの運転に伴い、ピン部に燃焼爆発に伴う荷重が作用して各部に曲げおよび捩り応力が働いた時に、この油孔の形成に伴う強度低下および応力集中によって、残留圧縮応力が作用している前記油孔の焼入れ層とその内部との境界部分からクラックが発生したり、全体の捩り強度が不足する場合がある。
そこで本考案は上記事情に鑑み、油孔の部分の強度を高めるようにしたクランクシャフトを提供することを目的とするものである。」(明細書第2頁第2行?第3頁第14行)
(い)「上記のようなクランクシャフト1に対し、第2図および第3図にクロスハッチングで示す部分に焼入れ処理を施して焼入層を形成するものである。まず、ジャーナル部2の周面に軸部焼入層11を形成し、この軸部焼入層11はアーム部4との連接角部を含み、ウェイト部5側では中央部分のみに行う(連接角部を含んでもよい)。また、ピン部3の周面にピン部焼入層12を形成し、このピン部焼入層12は中心側ではアーム部4との連接角部を含み、外側では中央部分のみに形成している(中心側と同様に形成してもよい)。さらに、ジャーナル部2およびピン部3の貫通油孔7,8の開口部の周囲および全内周面に油孔焼入層13を形成するものである。
上記軸部焼入層11、ピン部焼入層12および油孔焼入層13の形成によって摩擦表面の耐摩耗性の向上、油孔開口部の強度上昇によるクラック発生の防止、およびクランクシャフト全体の捩り強度を向上することができるものである。
上記のような焼入層11?13の形成による捩り疲労テストの結果を、第4図に示す。テストに使用したクランクシャフト1は、材質がS48CS1-Vで、各部の寸法は、ジャーナル部2の直径が50mm、ピン部3の直径が45mm、油孔7?9の直径が5.5mm、…である。
軸部およびピン部焼入層11,12は、高周波焼入れによって形成し、硬度がHv600?800で、焼入深さは、連接角部Aで2.0?5.0mm、ジャーナル部2およびピン部3の周囲Bで4.0?7.5mm程度に形成する。
また、貫通油孔7,8に対する油孔焼入層13の形成は、例えば、貫通油孔7,8の孔径より外径が所定値小さい導電性棒材を高周波電源の一方側と接続し、…焼入れ処理を施すものである。」(明細書第5頁第17行?第7頁第20行)
(う)「なお、強度不足による破壊状況は、例えば、破線IIの例では第5図に示すように、…ジャーナル部2並びにピン部3の貫通油孔7,8の開口部分にクラック15が生じている。」(明細書第9頁第18行?第10頁第2行。なお、「破線II」の「II」は原文ではローマ数字である。以下、同様。)
以上の記載事項及び図面からみて、引用例1には、次の発明(以下、「引用例1発明」という。)が記載されていると認められる。
「材質がS48CS1-Vからなり、
ジャーナル部2とピン部3をつなぎ、前記ジャーナル2部及びピン3部の外周に潤滑油を供給する貫通油孔7,8の開口部を形成し、
高周波焼入れにより、軸部焼入層11及びピン部焼入層12を形成し、
さらに、ジャーナル部2およびピン部3の貫通油孔7,8の開口部の周囲および全内周面に油孔焼入層13を形成したクランクシャフト1。」
(3)対比
本願発明1と引用例1発明とを比較すると、実質的にみて、後者の「S48CS1-V」は前者の「炭素鋼」に、同じく「貫通油孔7,8」は「油穴」にそれぞれ相当する。同じく、後者の「高周波焼入れにより、軸部焼入層11及びピン部焼入層12を形成し、」と前者の「高周波焼入れにより、前記ピン部外周及びピン部のフィレットR部の焼入れ硬化層深さを1.5mm以上に形成し、」とは「高周波焼入れにより、前記ピン部外周に焼入れ硬化層を形成」する限りにおいて一致する。
したがって、本願発明1の用語に倣って整理すると、両者は、
「炭素鋼からなり、
ジャーナル部とピン部をつなぎ、前記ジャーナル部及びピン部の外周に潤滑油を供給する油穴の開口部を形成し、
高周波焼入れにより、前記ピン部外周に焼入れ硬化層を形成したクランクシャフト。」である点で一致し、以下の点で相違している。
[相違点1]
本願発明1は「クランクシャフト」が「炭素を0.32-0.56重量%含有する機械構造用炭素鋼」からなっているのに対し、引用例1発明は「材質がS48CS1-V」からなっている点。
[相違点2]
本願発明1は「高周波焼入れにより、前記ピン部外周及びピン部のフィレットR部の焼入れ硬化層深さを1.5mm以上に形成」したのに対し、引用例1発明は「高周波焼入れにより、軸部焼入層11及びピン部焼入層12を形成」したにすぎない点。
[相違点3]
本願発明1は「前記ピン部の油穴開口部の焼入れ硬化層深さを、油穴開口部の径に対して1.5倍以上に形成」したのに対し、引用例1発明は「ジャーナル部2およびピン部3の貫通油孔7,8の開口部の周囲および全内周面に油孔焼入層13を形成」した点。
[相違点4]
本願発明1は「前記油穴開口部付近の回転位置において、焼入れ入熱量を増大させ、焼入れ深さが深まるように、供給する高周波電力量を油穴開口部の位置を焼入れする際に増大し、それ以外の部分では減少させるように制御して油穴開口部に焼入れ層を形成」したのに対し、引用例1発明はそのような事項を具備していない点。
(4)判断
[相違点1]について
引用例1発明のクランクシャフト1の材質は適宜の設計的事項であり、「炭素を0.32-0.56重量%含有する機械構造用炭素鋼」とすることはその程度のことにすぎない。
[相違点2]
上記に摘記したとおり、引用例1には「ピン部3の周面にピン部焼入層12を形成し、このピン部焼入層12は中心側ではアーム部との連接角部を含み、外側では中央部分のみに形成している(中心側と同様に形成してもよい)。」、及び、「焼入深さは、連接角部Aで2.0?5.0mm、ジャーナル部2およびピン部3の周囲Bで4.0?7.5mm程度に形成する。」と記載されており、したがって、引用例1には「ピン部外周及びピン部のフィレットR部の焼入れ硬化層深さを1.5mm以上に形成」するという事項が実質的に示されている。引用例1発明にこのような事項を採用することは当業者が容易に想到し得たものと認められる。
[相違点3]について
引用例1の第3図をみると、その図の各部の寸法関係は必ずしも正確なものではないとしても、技術常識を参酌すれば、ピン部3の貫通油孔8の開口部における焼入層の深さが貫通油孔8の径の1.5倍以上であることは明らかである。

なお、相違点3については、次のようにいうこともできる。すなわち、
引用例1発明のピン部3の貫通油孔8開口部の周囲における焼入深さをどの程度にするかは、その強度向上等、引用例1に記載された所期の課題ないし目的に鑑みて適宜設計する事項にすぎない。
ここで、上記に摘記したとおり、引用例1には「テストに使用したクランクシャフト1は、…油孔7?9の直径が5.5mm、…である。軸部およびピン部焼入層11,12は、高周波焼入れによって形成し、…焼入深さは、…ジャーナル部2およびピン部3の周囲Bで4.0?7.5mm程度に形成する。」と記載されている。すなわち、油孔7?9の直径が5.5mmでピン部3の周囲Bの焼入深さが7.5mmである例が示されているとともに、「4.0?7.5mm程度に形成する。」との記載から看取されるように7.5mmを上限値とするものではなく、それよりある程度大きなものを許容していることは明らかである。また、引用例1の第3図をみると、ピン部3の貫通油孔8の開口部における焼入深さはそれと同程度以上であることは明らかである。一方、本願の図5をみても、縦軸の技術的意義や尺度が不明であるほか、「前記ピン部の油穴開口部の焼入れ硬化層深さを、油穴開口部の径に対して1.5倍以上に形成」したという事項の「1.5倍」という下限値が例えばクランクシャフトのジャーナル部の直径、ピン部の直径、油穴開口部の直径等の各部の寸法関係によらないのかどうか、不明確であり、「1.5倍」という下限値に格別顕著な技術的意義があるとは認められないことを勘案すると、ピン部3の貫通油孔8の開口部の焼入層深さを貫通油孔8の直径に対して1.5倍以上とすることは、上記のような適宜の設計として当業者が容易に想到し得たものと認められる。

ただ、引用例1発明は「ピン部3の貫通油孔8の開口部の周囲に油孔焼入層13を形成」しているのみならず、「貫通油孔8の全内周面に油孔焼入層13を形成」している。この点については、「相違点4」と関連するので、次に合わせて検討する。
[相違点4]について
まず、本願発明1の「前記油穴開口部付近の回転位置において、焼入れ入熱量を増大させ、焼入れ深さが深まるように、供給する高周波電力量を油穴開口部の位置を焼入れする際に増大し、それ以外の部分では減少させるように制御して油穴開口部に焼入れ層を形成」したという事項は物の発明である本願発明1のクランクシャフトについての形成方法に関する事項であって、それは、その方法によって得られたクランクシャフト自体の物としての構成を特定するという意義を有する。したがって、上記事項は、その方法には特に意味がなく、実質的にみて、焼入れ硬化層深さが所定の数値範囲を満たしつつ、油穴開口部において深く、他の部位ではそれより浅いという物としての構成を意味するものと解される。
それを前提に検討すると、引用例1の第3図には、ピン部3の周囲の焼入層深さが、貫通油孔8の開口部において深く、開口部以外の部位ではそれより浅くなっているものが示されていることは明らかである。
引用例1発明が「貫通油孔8の全内周面に油孔焼入層13を形成」している点については、そもそも、本願発明1の「前記ピン部の油穴開口部の焼入れ硬化層深さを、油穴開口部の径に対して1.5倍以上に形成」したという事項における「1.5倍以上」の数値範囲には上限がなく、したがって本願発明1は「油穴の全内周面に焼入れ硬化層を形成」したものを包含するのか、それとも、本願発明1のクランクシャフトについての形成方法に関する上記事項によって「油穴の全内周面には焼入れ硬化層が形成されていない」すなわち「油穴の中心部分には焼入れ硬化層が形成されていない」という物としての構成が特定されているのか、必ずしも明らかではない。仮に前者であると解すると、この点で引用例1発明と本願発明1とが相違するということはできない。一方、仮に後者と解した場合について検討すると、以下のとおりである。
上記に摘記したように、引用例1には「しかして、前記のようにジャーナル部およびピン部に焼入れを施したものでは、その焼入れ層と非焼入れ部との油孔内周面における境界部分にクラックが発生したり捩り強度が不足する恐れがある。」、「なお、強度不足による破壊状況は、例えば、破線IIの例では第5図に示すように、…ジャーナル部2並びにピン部3の貫通油孔7,8の開口部分にクラック15が生じている。」等と記載されており、貫通油孔7,8の開口部分の周囲における焼入層の深さを深くすると、クラック発生等の不都合が相応に改善されるという知見が看取される。そして、その深さをどの程度とするかは所要の強度や寿命等に鑑みて適宜設計する事項にすぎないことは上記のとおりである。したがって、貫通油孔8の全内周面に焼入層を形成することなく、貫通油孔7,8の開口部分の周囲における焼入層をクラック発生等の不都合を相応に解決し得る程度の深さの焼入層とすることは適宜の設計として当業者が容易に想到し得たものと認められる。これに関連して、引用例1の第4図には焼入層13を形成していない例(破線II)が強度不足であると説明されているが、それはピン部焼入層12の深さが4mmの場合であって、それが例えば7.5mm程度のものについても強度不足であるのかどうかが不明であるとともに、例えば第4図の目標値が普遍的なものかどうかが不明確であることからしても、この説明をもってそれが直ちに、貫通油孔8の全内周面に焼入層を形成せずに、貫通油孔7,8の開口部分の周囲における焼入層を相応の深さの焼入層とすることの阻害事由となるものではない。
さらに、仮に、クランクシャフトについての形成方法に関する上記事項における「焼入れ入熱量を増大」等の形成方法自体についても物の発明である本願発明1の要件として一応の意義を認めるとしても、貫通油孔7,8の開口部分の周囲における相応の深さの焼入層をどのような方法によって形成するかは適宜の設計的事項にすぎないと認められる。

そして、本願発明1の作用効果は、引用例1に記載された発明に基づいて当業者が予測し得た程度のものである。

なお、平成18年12月8日付け意見書において、「しかしながら、引用文献1においては、強度向上のために油穴開口部の周辺だけでなく油穴の全内周面にも焼入れ層を形成するものであります。(引用文献1、実用新案請求項の記載ご参照) このため引用文献1においては、油穴焼入層13の形成にために孔径より外径の小さい導電性棒材を用意して焼入れ処理を行うようにしております。(引用文献1、第7頁第10行ないし20行ご参照) したがって、引用文献1においては、油穴焼入層13を構成するための特別の構成と工程が不可欠となるものであります。 本発明においては、このような特別の構成及び工程を必要とすることなく、効果的に所望の強度を得ることができるものであります。すなわち、上記しましたように、本件発明は、油穴開口部付近の回転位置において、焼入れ入熱量を増大させ、焼入れ深さが深まるように、供給する高周波電力量を油穴開口部の位置を焼入れする際に増大し、それ以外の部分では減少させるように制御して油穴開口部に焼入れ層を形成したことを特徴とするものであり、本件発明は、引用文献1にとは異なるより作業効率のよい手法によって、所望の効果を達成している点において特許的に区別されるものと思料いたします。」と主張するが、(a)物の発明である本願発明1のクランクシャフトについての形成方法に関する事項はその方法によって得られたクランクシャフト自体の物としての構成を特定するという意義を有すること、(b)上記事項によって「油穴開口部の全内周面には焼入れ硬化層が形成されていない」すなわち「油穴開口部の中心部分には焼入れ硬化層が形成されていない」という物としての構成が特定されているとしても、貫通油孔7,8の開口部分の周囲における焼入層を相応の深さの焼入層とすることは適宜の設計として当業者が容易に想到し得たものと認められること、及び、(c)上記事項の形成方法自体についてもクランクシャフトとの関連で一応の意義を認めるとしても、貫通油孔7,8の開口部分の周囲における相応の深さの焼入層をどのような方法によって形成するかは適宜の設計的事項にすぎないことは、上述のとおりである。

(5)むすび
以上のとおり、本願発明1は、引用例1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-03-12 
結審通知日 2009-03-16 
審決日 2009-03-30 
出願番号 特願2000-82383(P2000-82383)
審決分類 P 1 8・ 56- Z (F16C)
P 1 8・ 121- Z (F16C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岡野 卓也関口 勇  
特許庁審判長 山岸 利治
特許庁審判官 藤村 聖子
川上 益喜
発明の名称 クランクシャフト  
代理人 小川 信夫  
代理人 熊倉 禎男  
代理人 西島 孝喜  
代理人 大塚 文昭  
代理人 箱田 篤  
代理人 宍戸 嘉一  
代理人 中村 稔  

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