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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B42D |
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管理番号 | 1197486 |
審判番号 | 不服2006-800 |
総通号数 | 115 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2009-07-31 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2006-01-12 |
確定日 | 2009-05-11 |
事件の表示 | 特願2002-212287「IDカード作成システム、IDカード作成方法」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 4月 3日出願公開、特開2003- 94865〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、平成5年7月6日に出願した特願平5-167166号(以下、「原出願」という。)の一部を平成14年7月22日に新たな特許出願(特願2002-212287号)としたものであって、平成17年12月5日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成18年1月12日付けで拒絶査定に対する審判請求がなされたものである。 その後、当審により平成20年10月30日付けで拒絶理由が通知されたのに対し、同年12月24日付けで明細書についての手続補正がなされたものである。 2.本願発明について 本願の請求項1に係る発明は、平成20年12月24日付け手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるものであり、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりである。 「 【請求項1】 IDカードの作成を申請する申請者の過去の履歴から得られるデータが所定の基準に達しているか否かに基づいて、ID番号に対応するID情報に含まれる、これから作成されるIDカードの有効期限の延長を行うか否かを判断するIDカード有効期限延長判断手段と、 IDカードの有効期限の文字情報が記録されるベース部分の色が互いに異なる複数種のカードを収納するカード収納手段と、 前記IDカード有効期限延長判断手段による判断に基づき、前記カード収納手段から、所定色からなるベース部分を有するカードを選択するカード選択手段と、 当該選択された所定色からなるベース部分を有するカードに前記ID情報を記録する記録手段と、 を備えたことを特徴とするIDカード作成システム。」 3.刊行物 (1)当審における拒絶の理由で引用され、原出願の出願前に頒布された特開平3-223987号公報(以下、「刊行物1」という。)には、以下の記載が図示とともにある。 (ア)「(産業上の利用分野) 本発明は運転免許証、身分証明書、入門証、銀行通帳などの写真入りカード(または冊子)を作成するために、申請書上の画像を読取って所定の処理を行う画像読取り処理装置に関する。 (従来の技術) 一般に、運転免許証その他の証明書には、証明書の所持者を特定するための透明シールに覆われた写真が貼付けられ、さらに所持者の氏名、生年月日、性別、発行日および発行番号などが印刷されている。」(2頁左上欄3?13行) (イ)「証明書200が再交付や更新などで発行される場合は、顔写真領域201および署名領域202における顔写真画像および署名画像の他、ホストコンピュータ115やデータベースとしての大容量記憶部110に登録されている内容が表示部103で表示される。オペレータは、この表示内容から申請内容の確認を行い、適宜変更作業を行う。」(4頁左下欄16行?同頁右下欄3行) (ウ)「第1図における印刷部109は第16図に示すように、写真・署名画像および文字画像を時系列で印刷する写真・署名画像印刷ステージ621および文字印刷ステージ622を有する。印刷ステージ621は出力画像処理部108からの写真・署名画像データを印刷部109内の制御部620を介して人力し、前述したように熱昇華記録方式によってYMCのインクを用いて印刷を行う。印刷ステージ622は出力画像処理部108からの文字画像データを制御部620を介して入力し、通電転写記録方式によって印刷を行う。」(13頁左上欄4?14行) (エ)「印刷部109には、3組のトレイ623,624,625が設置され、印刷様式や紙色の異なる印刷原紙をセットできるようになっている。トレイ623,624,625にはゲート駆動器626,627,628がそれぞれ設けられ、これらが印刷制御部620を介して主制御部101により制御される。主制御部101では申請書100により確定される作業区分および申請書100の内容(例えば申請者の性別)を認識し、これに基づいて印刷原紙を指定する信号を印刷制御部620に送る。」(13頁右上欄2?12行) (オ)第16図から、文字印刷ステージ621及び写真・署名印刷ステージ622に対して、3つのトレイ623,624,625が設けられることが看取できる。 刊行物1の前記記載(ア)には、刊行物1に記載される画像読取り処理装置が、申請書上の画像を読み取って、運転免許証等のカード状の証明書を作成するものであることが記載されている。 また、刊行物1の前記記載(エ)には、印刷部109に、3組のトレイ623,624,625が設置され、紙色の異なる印刷原紙をセットできるようになっていることが記載されている。 これらの記載から、刊行物1に記載される画像読取り処理装置は、画像読取り部104で申請書の記載事項を読み取って、印刷部109で運転免許証等のカード状の証明書を作成するものであって、印刷部109では、複数種の印刷原紙を収納するトレイが設けられていると認められる。 刊行物1の前記記載(エ)には、3組のトレイ623,624,625のそれぞれにゲート駆動器626,627,628が設けられ、これらのゲート駆動器が印刷制御部620を介して制御されることが記載されている。 また、刊行物1の前記記載(エ)には、印刷原紙を指定する信号が印刷制御部620に送られることが記載されている。 これらの記載から、刊行物1に記載される印刷制御部620は、3組のトレイから印刷に供される印刷原紙を選択していると認められる。 刊行物1の前記記載(エ)及び(オ)から、写真・署名画像印刷ステージと文字印刷ステージに、3つのトレイにセットされた紙色等の異なる印刷原紙の中から選択された印刷原紙が供給されていると認められる。 また、刊行物1の前記記載(ウ)には、写真・署名画像印刷ステージが写真・署名画像を印刷し、文字印刷ステージが文字画像を印刷することが記載されている。 したがって、刊行物1に記載される写真・署名画像印刷ステージは、選択された印刷原紙に写真・署名画像を印刷するものであるとともに、刊行物1に記載される文字印刷ステージは、選択された印刷原紙に文字画像を印刷するものであると認められる。 したがって、前記記載及び図面を含む刊行物1全体の記載から、刊行物1には、以下の発明(以下「刊行物1記載の発明」という。)が開示されていると認められる。 「複数種の印刷原紙を収納するトレイと、前記トレイから所定の印刷原紙を選択する印刷制御部620と、当該選択された印刷原紙に文字画像を印刷する文字印刷ステージとを備えた画像読取り処理装置。」 (2)当審における拒絶の理由で引用され、原出願の出願前に頒布された実願平3-3702号(実開平4-98044号)のマイクロフィルム(以下、「刊行物2」という。)には、以下の記載が図示とともにある。 (カ)「【産業上の利用分野】 本考案は、銀行カード、各種のIDカードなどの作成装置に関し、特に、顔写真や氏名その他の証明事項から成る、発行する各カードに共通な識別記録に加え、カードの種類別、特記事項などから成る、或るカードにのみ必要な付帯記録を表示するのに便利なように改良されたカード作成装置に関する。」(段落【0001】) (キ)「発行者からすると、例えばVIP扱いその他付帯記録を表示したい場合がある」(段落【0004】4?5行) (ク)「【課題を解決するための手段】 本考案は、(1)画像情報と文字情報とから成る定型情報記録部に加えて、各カードに共通の事項に加えて付帯事項などをカード面に表示できるようにしたこと、又は(2)付帯事項などが昇華性樹脂を用いたトナー、又は昇華性染料を用いたインクで表示されること、を特徴とするものである。」(段落【0007】、当審により、丸内に符番が付された記号を、括弧内に符番を付して表記した。) したがって、前記記載及び図面を含む刊行物2全体の記載から、刊行物2には、以下の事項が開示されていると認められる。 「IDカードを作成するとき、カード利用者に応じてカードにVIP扱い等の表示を行う点。」 (3)当審における拒絶の理由で引用され、原出願の出願前に頒布された実願平3-67196号(実開平5-12164号)のCD-ROM(以下、「刊行物3」という。)には、以下の記載が図示とともにある。 (ケ)「【産業上の利用分野】 本考案は熱転写印刷装置によって作成される運転免許証、学生証、社員証、外国人登録証等の証明カードに関する。」(段落【0001】) (コ)「【従来の技術】 熱転写印刷装置等によってカード状記録媒体に顔写真、氏名、所属等の証明内容を印刷して作成される従来の証明カードは、証明する内容のうち写真以外の情報は全て文字情報で印刷するようにしている。 【考案が解決しようとする課題】 しかしながら、上述した従来の証明カードを確認する場合、情報確認をするためには印刷されている全ての文字を読まなければならず、印刷されている内容を詳細に識別する必要がないようなときでも、証明カードの内容確認に時間がかかる。 【課題を解決するための手段】 本考案は上記の課題を解決するため、印刷した文字情報の周囲の背景色を証明する内容に応じて予め定めた色で印刷するようにした。 【作用】 証明する内容に応じて背景色が異なるので、内容を詳細に確認する必要がないような場合には、背景色を確認することによって簡単に内容を判断することができるようになる。」(段落【0002】?【0005】) (サ)「また、運転免許証、パスポート、外国人登録証を作成する場合の例について、コードNo.、項目、背景色、証明内容は、例えば以下の(表2)のように定める。」(段落【0015】) (シ)【表2】から、運転免許証を作成する場合、黄色の背景色は優良であること、無色の背景色は普通であることを証明することが看取でき、パスポートを作成する場合、赤色の背景色は短期(1年)で、青色の背景色は長期(5年)であることを証明することが看取でき、外国人登録証を作成する場合、赤色の背景色は短期であること、青色の背景色は長期であること、緑色の背景色は学生であること、無色の背景色は業務であることを証明することが看取できる。 したがって、前記記載及び図面を含む刊行物3全体の記載から、刊行物3には、以下の事項が開示されていると認められる。 「証明カードを作成するとき、証明カードの証明内容を表示する文字の背景色を、証明内容に応じて異ならせる点。」 4.本願発明と刊行物1記載の発明との対比 a.刊行物1記載の発明の「印刷原紙」は、申請書に基づいて、印刷部109で印刷されるものである。そして、「印刷原紙」に印刷されて作成されるのは、運転免許証等のカード状のものである。 したがって、刊行物1記載の発明の「印刷原紙」を、カードということができる。 また、印刷原紙がカードであることにともない、刊行物1記載の発明の「トレイ」を、カード収納手段ということができる。 b.刊行物1記載の発明の「印刷制御部620」は、カードを選択する機能を有していることから、その機能に着目した本願発明の記載に倣って「カード選択手段」と称することができる。 c.刊行物1記載の発明の「文字画像」は、運転免許証等の証明書に印刷される住所、氏名、生年月日等であるから、個人を識別することができるものであり、本願発明の「ID情報」に相当する。 また、刊行物1記載の発明の「文字印刷ステージ」は、文字画像を印刷する手段である。 そして、本願の発明の詳細な説明の段落【0154】には、「かかるベース色の切り換えは、予めベース色が通常期限用の色(例えば青)に印刷されたカード材料と、特別有効期限用の色(例えば金や銀や朱色などの通常色に比して目立つ色)に印刷されたカード素材との2種類を用意しておき、プリンタ8でカードを印字させる際に、この2種類のカードの中からEWS2の指示に従って選択して印字させるようにすることができる。」と記載されていることから、本願発明の「記録」が印刷原紙に印刷することを意味していると認められる。 したがって、刊行物1記載の発明の「印刷原紙に文字画像を印刷する文字印刷ステージ」は、本願発明の「カードに前記ID情報を記録する記録手段」に相当する。 d.刊行物1に記載される運転免許証や身分証明書等のカードは、個人を識別することができるものであるから、そのようなカードをIDカードということができる。 そして、刊行物1記載の発明の「画像読取り処理装置」は、運転免許証や身分証明書等を作成するものであるから、IDカードを作成するものといえる。 また、刊行物1記載の発明の「画像読取り処理装置」は、画像読取り部や印刷部等の複数の要素が関連しあい、全体としてまとまった機能を有するものであるから、それを「システム」ということができる。 したがって、刊行物1記載の発明の「画像読取り処理装置」は、本願発明の「IDカード作成システム」に相当する。 よって、両者は、以下の点で一致している。 <一致点> 「複数種のカードを収納するカード収納手段と、 前記カード収納手段から、カードを選択するカード選択手段と、 当該選択されたカードに前記ID情報を記録する記録手段と、 を備えたIDカード作成システム。」 また、両者は、以下の点で相違している。 <相違点1> 本願発明では、複数種のカードに関し、「IDカードの有効期限の文字情報が記録されるベース部分の色が互いに異なる」と特定され、カード選択手段によって選択されるカード及び記録手段によって記録されるカードに関し、「所定色からなるベース部分を有するカード」と特定されているのに対して、刊行物1記載の発明では、それらの特定を有しない点。 <相違点2> 本願発明では、IDカード作成システムが、「IDカードの作成を申請する申請者の過去の履歴から得られるデータが所定の基準に達しているか否かに基づいて、ID番号に対応するID情報に含まれる、これから作成されるIDカードの有効期限の延長を行うか否かを判断するIDカード有効期限延長判断手段」を備え、カード選択手段がカードを選択するのは、「前記IDカード有効期限延長判断手段による判断に基づ」くことが特定されているのに対して、刊行物1記載の発明では、それらの特定を有しない点。 5.判断 <相違点1について> まず、本願発明におけるカード収納手段に関する記載で、カード収納手段を説明する記載において、複数種のカードに関し、「IDカードの有効期限の文字情報が記録されるベース部分の色が互いに異なる」ことが特定されていることについて検討する。 当該記載は、カード収納手段を特定しておらず、カード収納手段に収納されるカードを特定するものであるから、カード収納手段について直接的に何かを特定するものではない。 また、カード収納手段に収納されるカードの大きさや形が特定されているのであれば、そのようなカードを収納するための大きさや形状が間接的に或る程度特定され得るが、カードのベース部分の色を特定しても、カード収納手段がどのようなものであるかは特定できるものではないから、「所定色からなるベース部分を有するカード」と特定することで、カード収納手段の構成を間接的に特定しているともいえない。 したがって、カード収納手段を説明するための当該記載は、直接的にも間接的にも、カード収納手段を特定していないのであって、当該記載によって、カード収納手段についての特定をしているとはいえない。 次に、本願発明におけるカード選択手段に関する記載で、カード選択手段によって選択されるカードに関し、「所定色からなるベース部分を有するカード」と特定されていることについて検討する。 当該記載は、カード選択手段を特定しておらず、カード収納手段に収納されるカードを特定するものであるから、カード選択手段について直接的に何かを特定するものではない。 また、所定色からなるベース部分を有するカードについて、本願の発明の詳細な説明には、段落【0154】に、「予めベース色が通常期限用の色(例えば青)に印刷されたカード材料と、特別有効期限用の色(例えば金や銀や朱色などの通常色に比して目立つ色)に印刷されたカード素材との2種類を用意しておき、プリンタ8でカードを印字させる際に、この2種類のカードの中からEWS2の指示に従って選択して印字させるようにすることができる。」と記載されているのみで、カード収納手段に載置されるベース色が異なるカードをどのように選択するかについて具体的な記載があるものではない。 したがって、本願明細書の発明の詳細な説明を参酌しても、「所定色からなるベース部分を有するカード」との特定によって、カード選択手段についての新たな技術事項を見出すことはできないのであって、カード選択手段が特別な構成を備えていること(例えば、カード収納手段に載置されたカードのベース部分の色を検出器で検出する構成を備える等)を間接的に特定しているともいえない。 してみれば、「所定色からなるベース部分を有するカード」と特定することで、直接的にも間接的にも、カード選択手段を特定していないのであって、当該記載によって、カード選択手段についての特定が行われているとはいえない。 さらに、本願発明における記録手段に関する記載で、記録手段によって記録されるカードに関し、「所定色からなるベース部分を有するカード」と特定されていることについて検討する。 当該記載は、記録手段を特定しておらず、カード収納手段に収納されるカードを特定するものであるから、記録手段について直接的に何かを特定するものではない。 また、例えば、カード収納手段に収納されるカードの材質が特定されているのであれば、記録手段として、そのような材質のカードに記録することが可能なインクを使用する必要がある等の間接的に或る程度の事項が特定され得るが、カードのベース部分の色が所定色からなることを特定しても、記録手段がどのようなものであるかは特定できるものではないから、「所定色からなるベース部分を有するカード」と特定することで、記録手段の構成を間接的に特定しているともいえない。 してみれば、「所定色からなるベース部分を有するカード」と特定することで、直接的にも間接的にも、記録手段を特定していないのであるから、当該記載によって、記録手段についての特定が行われているとはいえない。 以上のとおり、相違点1に係る本願発明の特定は、IDカード作成システムの構成を特定するものでないことから、相違点1は、IDカード作成システムの構成上の相違点とはいえない。 また、本願発明のIDカード作成システムが、有効期限の文字情報が記録されるベース部分の色が互いに異なるカードを包含するシステムであって、相違点1はその点で相違していると解したとしても、刊行物2には、「IDカードを作成するとき、カード利用者に応じてカードにVIP扱い等の表示を行う点」が記載され、刊行物3には、「証明カードを作成するとき、証明カードの証明内容を表示する文字の背景色を、証明内容に応じて異ならせる点」が記載され、以下の<相違点2について>で検討するように、刊行物1?3に記載される事項、技術常識及び周知技術に基づいて、特別待遇であることを表示するカードと特別待遇でないことを表示するカードを、刊行物1記載の発明の複数のトレイにセットすることは、当業者が容易に想到することである。さらに、特別待遇を有効期限として、文字情報が記録されるベース部分の色が異なるようにすることも当業者が容易に想到し得ることである。 <相違点2について> 相違点2に係る本願発明の「IDカードの作成を申請する申請者の過去の履歴から得られるデータが所定の基準に達しているか否かに基づいて、ID番号に対応するID情報に含まれる、これから作成されるIDカードの有効期限の延長を行うか否かを判断するIDカード有効期限延長判断手段」との構成は、IDカードの作成を申請する申請者の過去の履歴から得られるデータが所定の基準に達しているか否かに基づいて、これから作成されるIDカードの有効期限の延長を行うか否かを判断するIDカード有効期限延長判断手段である点と、IDカードの有効期限がID番号に対応するID情報に含まれる点とを含んでいるので、それぞれについて検討することとする。 (1)まず、IDカードの作成を申請する申請者の過去の履歴から得られるデータが所定の基準に達しているか否かに基づいて、これから作成されるIDカードの有効期限の延長を行うか否かを判断するIDカード有効期限延長判断手段である点について検討する。 刊行物1には、複数のトレイに載置される印刷原紙について、印刷様式や紙色の異なるものをセットすることができる旨記載され、申請書の内容を認識し、それに基づいて印刷原紙を指定することが記載されている(刊行物1の前記記載(エ)を参照)。 また、前記したように、刊行物2には、「IDカードを作成するとき、カード利用者に応じてカードにVIP扱い等の表示を行う点」が記載され、刊行物3には、「証明カードを作成するとき、証明カードの証明内容を表示する文字の背景色を、証明内容に応じて異ならせる点」が記載されている。 刊行物2及び3の記載事項から、作成されるカードについて、カード使用者に対してVIP(ここで、VIPとは、「特別待遇の人」(株式会社岩波書店 広辞苑第5版)を意味する。)扱いする場合とVIP扱いしない場合とで、証明内容を表示する文字の背景色を異ならせることが容易に想定でき、刊行物1に記載の「印刷様式や紙色の異なる印刷原紙」に代えて若しくは加えて、VIP扱いであることを表示するカードとVIP扱いでないことを表示するカードを複数のトレイにセットすることは、当業者であれば容易に想到し得ることである。 また、カード使用者に対しての特別待遇を何とするかは、カードの種類や業務形態に応じ、カードを管理する管理者の意図によって適宜設定される事項といえる。 例えば、ガソリンスタンド店が発行するカードであれば、特別待遇者のカードにガソリン単価が安くなる特典が付与されたり、小売店が発行するカードであれば、特別待遇者のカードに高い割引率を適用する特典が付与される等、そのカードの種類やカードが使用される業務形態に応じて適宜設定される事項ということができる。 そして、刊行物1に記載されている運転免許証、身分証明書、入門証は、一般に有効期限を有するものであるし、刊行物3には、パスポートの証明内容として短期(1年)と長期(5年)が記載され、外国人登録証の証明内容として短期と長期が記載されていることから、カードの種類が有効期限のあるカードであれば、特別待遇としてカードの有効期限を長くするようにすることは、適宜設定され得る事項の1つであって、特別待遇を有効期限に設定することに困難性はない。 また、特別待遇が付与されるカード使用者を何に基づいて判断するかについても、同様に、カードの種類やカードが使用される業務形態に応じて、カードを管理する管理者の意図によって適宜設定される事項といえる。 カード利用者に関する特別待遇というのは、カード管理者からみてカード利用者が何かしら優良であると判断して与えられるサービスであるから、カードの種類やカードが使用される業務形態に応じて、カード管理者が特定のカード利用者を優良であると判断できる材料に基づいて、特別待遇者と判断することは、当然のことである。 例えば、ガソリンスタンド店が発行するカードであれば、給油量の多い利用客を特別待遇者としたり、小売店が発行するカードであれば、購入金額の多い利用客を特別待遇者とする等、そのカードの種類やカードが使用される業務形態に応じて適宜設定される事項ということができる。 そして、刊行物1及び3に記載される運転免許証に関しては、事故経歴によって優良ドライバー等の判断ができるものであり、刊行物1に記載される身分証明書に関しては、成績や休学等の経歴によって優良等の判断ができるものであり、さらに、刊行物3に記載されるパスポートや外国人登録証に関しては、法的な経歴によって優良等の判断ができるものであることからして、特別待遇を申請者の過去の履歴に基づいて判断することに困難性はない。 さらに、ある判断を行う場合に、基準値と比較することで判断を行うことは、コンピュータを用いた判断手法として周知の手法であって(例えば、特開平3-218897号公報、特開昭62-147589号公報、特開平3-248297号公報等を参照)、刊行物1に記載されるコンピュータを用いた画像読取り処理装置において、当該周知の手法を用いることに困難性はない。 以上、検討したとおり、刊行物1乃至3から、特別待遇であることを表示するカードと特別待遇でないことを表示するカードを複数のトレイにセットすることは、当業者が容易に想到し得ることであるし、また、特別待遇を何とするか及び特別待遇を付与される者を何に基づいて判断するかは、カードの種類やカードが使用される業務形態に応じて、カードの管理者によって適宜設定される事項といえるのであって、その内容を具体的に特定するものであっても、その特定によって特別な作用・機能を有する技術的特徴として考慮することができるものではないから、容易想到であるとする範疇から脱しているとはいえない。 また、免許証等のIDカードの有効期限を長くするか否かの判断を行う箇所を、その機能に着目した本願発明の記載に倣って「IDカード有効期限延長判断手段」と称することに困難性はない。 (2)次に、IDカードの有効期限がID番号に対応するID情報に含まれる点について検討する。 刊行物1に記載される画像読取り処理装置は、再発行や更新の場合に、ホストコンピュータやデータベースとしての大容量記憶部に既に登録されている内容を読み出すものである(刊行物1の前記記載(イ)を参照)ことから、刊行物1に記載される画像読取り処理装置は、申請書に記載される個人を識別する事項(ID)に基づいて、既に登録されているID情報を読み出して処理していることが把握できる。 そして、前記(1)で検討した、刊行物1記載の発明において特別待遇である有効期限をカードに表示する場合を想定すると、データベースに登録しておくID情報の1つを有効期限とすることは容易に想到することである。 また、個人を識別する事項(ID)として氏名とは別に番号を用いることは、刊行物1及び3に記載されている運転免許証等のカードにおいて、一般に行われている技術常識である。 最後に、カード選択手段がカードを選択するのは、「前記IDカード有効期限延長判断手段による判断に基づ」くことについて検討するに、(1)及び(2)で検討したように、刊行物1記載の発明において、特別待遇としての有効期限を長くするか否かの判断を行う場合を想定すると、有効期限の短いカードと有効期限の長いカードを異なるトレイ(カード収納手段)に載置しておき、有効期限を長くするか否かの判断(カード有効期限延長判断手段による判断)に基づいて、印刷制御部(カード選択手段)がカードを選択するのは当然のことである。 よって、前記相違点2に係る本願発明の構成は、刊行物1?3に記載される事項、技術常識及び周知事項に基づいて、当業者が容易に想到できたものである。 そして、本願発明の作用効果も、刊行物1?3に記載される事項、技術常識及び周知事項から当業者が予測できる程度のものである。 したがって、本願発明は、原出願の出願前に頒布された刊行物1?3に記載される事項、技術常識及び周知事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 なお、平成21年1月30日に行った面接の後、平成21年2月13日に請求人から送信されたファクシミリにおいて、請求人は、複数の過去の履歴について、所定の基準に達しているか否かが判断されるものに限定補正する用意があるとの主張があるが、本願の出願時の明細書及び図面には、特典を付与できるか否かの判断に際して、複数の過去の履歴が所定の基準に達するか否かで当該判断を行うことは記載されていないことを付言しておく。 本願の発明の詳細な説明の段落【0151】には、「そこで、ホストコンピュータ11から氏名や住所などの学生証に印字させる文字情報を読み出すときに、同時に、予めホストコンピュータ11に記憶されているその学生の過去の履歴を読み出し、所定の基準(例えばテストで全科目90点以上の成績であったとか、特別の研究成果を発表したとか、又は、構内で事故を起こしていないとか、授業の出席率が95%以上であるとか)から、特別待遇生としての特典を付与できるか否かをEWS2で判断させる。」と記載されており、基準との比較に供される過去の履歴事項が複数例示されているものの、この記載から、複数の過去の履歴事項のいずれかを用いて1つの判断を行うことは解し得ても、複数の過去の履歴事項が所定の基準に達することで1つの判断を行っているとまでは解することができないのである。 6.むすび 以上のとおり、本願発明は、原出願の出願前に頒布された刊行物1?3に記載の事項、技術常識及び周知事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明を検討するまでもなく、本願は、拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2009-03-13 |
結審通知日 | 2009-03-17 |
審決日 | 2009-03-30 |
出願番号 | 特願2002-212287(P2002-212287) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(B42D)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 武田 悟 |
特許庁審判長 |
酒井 進 |
特許庁審判官 |
菅野 芳男 菅藤 政明 |
発明の名称 | IDカード作成システム、IDカード作成方法 |
代理人 | 吉武 賢次 |
代理人 | 堀田 幸裕 |
代理人 | 大野 浩之 |
代理人 | 村田 卓久 |
代理人 | 永井 浩之 |
代理人 | 岡田 淳平 |
代理人 | 加島 広基 |
代理人 | 堀田 幸裕 |
代理人 | 勝沼 宏仁 |
代理人 | 大野 浩之 |
代理人 | 吉武 賢次 |
代理人 | 村田 卓久 |
代理人 | 永井 浩之 |
代理人 | 勝沼 宏仁 |
代理人 | 岡田 淳平 |
代理人 | 加島 広基 |