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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B62K
管理番号 1197567
審判番号 不服2007-2888  
総通号数 115 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-07-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-01-25 
確定日 2009-05-14 
事件の表示 特願2002-281990号「低床式車両のリヤクッション取付構造」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 4月15日出願公開、特開2004-114870号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願の発明
本願は、平成14年9月26日の出願であって、平成18年12月21日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成19年1月25日に審判請求がなされた後、当審において拒絶理由通知がなされたものであって、その発明は、平成21年1月22日付けの手続補正に係る明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりの次のものと認める。
「低床式車両のシートの前方で、運転者が乗車するときに跨ぐ車体フレームの長手中央の下方に且つ、低床の下方にエンジンを搭載し、後輪用リヤクッションを車体の略中心に配置する低床式車両において、
前記低床式車両は、前記中央より前方の前部に配置した燃料タンクと、前記エンジンの後方に変速機ユニットが配置され、前記シートの下方に、シートの前後長と略同等の前後長を有する収納ボックスと、を備え、この収納ボックスの下方に前記後輪用リヤクッションを、その軸線が車両の前後方向を向くように横置きにして、且つ、前記変速機ユニットと前記収納ボックスとの間のスペースに配置したもので、
前記収納ボックスは、その底面を後下方に傾斜させ、該底面の傾斜最下部近傍に前記後輪用リヤクッションの点検用リッドを備え、
前記エンジンは、前記車体フレームのヘッドパイプから後下方へ延出するアッパフレームの下方のスペースに吸気系とともに配置されて前記アッパフレームと、前記ヘッドパイプから下方へ延出するダウンフレームとからなるダイヤモンド型フレームに懸架され、車体の一側部の上方に配置されている消音器に接続するために、前記後輪用リヤクッションの下方を通した排気管を備え、
前記リヤクッションは、前記車体フレームのアッパフレームの後部に沿って配置されているとともに、前記アッパフレームの後部に前端部が取付けられ、且つ、前記変速機ユニットの上方で前記シートの前端よりも後方に配置され、車体の中心に対して、他側部寄りにオフセットして配置されていることを特徴とする低床式車両のリヤクッション取付構造。」

2.引用された刊行物とその記載事項及び引用発明
(1)これに対して、当審の拒絶理由において、刊行物(引用例1)として引用された特開平10?324279号公報(以下「引用例」という。)には、「自動二輪車において、シートの下側を有効に利用して長尺荷物を収納できるようにし」た発明に関するもので、発明の詳細な説明には、次の事項が記載されている。
(ア)「【0011】
【発明の実施の形態】図1は本願発明を適用したスクータ型自動二輪車の左側面図であり、車体フレームを覆うカバーを外して示している。車体フレームは、上側ダウンチューブ1と下側ダウンチューブ2をそれぞれ左右1対備えており、上側ダウンチューブ1は、ヘッドパイプ3の上端部から後下方へと斜めに延びると共に途中で湾曲し、腰掛式運転者シート5の前下端部の近傍から後部チューブ10として概ね水平に後方へと延びている。下側ダウンチューブ2は、上記上側ダウンチューブ1から下方へと間隔をおいて配置され、前記ヘッドパイプ3の下端部から後下方へと斜めに延びると共に途中で後方へと略水平に延び、スイング式リヤアーム7の前端支軸8の近傍まで至り、さらに後部チューブ12として後上方へと延び、前記上側の後部チューブ10に連結している。シート4は、腰掛け式の運転者シート5とこれより段部を介して高くなっている同乗者シート6を一体に有するタンデム型シート4となっており、該タンデム型シート4は、上側後部チューブ10に設けられた複数の左右の取付ブラケット15に支持されている。
【0012】車体フレームの左右両側には、下側ダウンチューブ2の下端水平部分に概ね沿うように左右1対の低床式踏板9が設けられ、該踏板9は前記スイング式リヤアーム7の支軸8の近傍から概ね水平前方へと延びると共に途中からやや前上がりに傾斜し、その前端部9aは前面カバー11につながっている。
【0013】エンジン13は、略水平状態に近い前倒し状態に傾斜しており、前記4本のダウンチューブ1,2で囲まれる空間内に大半が収納され、複数箇所に設けられた取付ブラケット14が、弾性支持機構などを介して車体フレームのクロス部材19等に支持されている。エンジン13のクランクケース16には後方へと延び出す軸ケース部16aが一体に形成されており、エンジン全体としては前記軸ケース部16aの後端からヘッドカバー17の前端に至る全長が、運転者シート5の前端縁と踏板9の前端部9aとの間に配置されていることになる。
【0014】下側ダウンチューブ2の後部には、左右1対のリヤアーム支持用のピボット部18が溶着され、左右ピボット部18間に前記リヤアーム用支軸8が架設支持され、該支軸8にリヤアーム7の前端部が回動自在に嵌合支持されている。リヤアーム7の後端部は後車輪23を支持すると共にリヤクッション24を介して上下揺動自在に後部チューブ10,12のクロス部材22に懸架されている。」
(イ)「【0020】燃料タンク43と運転者シート5との間には、収納部用のスペースが確保されており、該スペース内に収納ボックス48が配置されている。該収納ボックス48は運転者シート5の下側スペースから後方の同乗者シート6の下側スペースまで一体に長く延びており、その左右両端の上端部は前記取付ブラケット15に支持されている。」
(ウ)【図1】には、スクータ型自動二輪車が示されている。

また、上記記載と図面を参酌すると、引用例には次ぎの点が記載されていることは明らかである。
(エ)「上側ダウンチューブ1は、運転者が乗車するときに跨ぐものである」点。 (【0011】,図1)
(オ)「タンデム型シート4の前方で、上側ダウンチューブ1の長手中央の下方に且つ、低床式踏板9の下方にエンジン13を搭載している」点。(【0012】,図1)
(カ)「リヤクッション24の配置や取付構造が示されている」点。(【0014】,図1)
(キ)「エンジン13の後方にVベルト式自動変速機33が配置されている」点。( 図1)
(ク)「タンデム型シート4の下方に、タンデム型シート4の前後長と略同等の前後長を有する収納ボックス48を備えている」点。(【0020】,図1)
(ケ)「エンジン13は、上側ダウンチューブ1と、ヘッドパイプ3から下方へ延出する下側ダウンチューブ2とからなる一種のダイヤモンド型フレームに懸架されている」点。(【0013】,図1)

以上のことから、上記引用例には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「低床式踏板9を有する車両のタンデム型シート4の前方で、運転者が乗車するときに跨ぐ上側ダウンチューブ1の長手中央の下方に且つ、低床式踏板9の下方にエンジン13を搭載し、リヤクッション24を配置する低床式踏板9を有するスクータ型自動二輪車において、
前記低床式踏板9を有するスクータ型自動二輪車は、前記エンジン13の後方にVベルト式自動変速機33が配置され、前記タンデム型シート4の下方に、タンデム型シート4の前後長と略同等の前後長を有する収納ボックス48と、を備え、
前記エンジン13は、前記上側ダウンチューブ1と、前記ヘッドパイプ3から下方へ延出する下側ダウンチューブ2とからなるダイヤモンド型フレームに懸架された低床式踏板9を有するスクータ型自動二輪車のリヤクッション取付構造」

また、周知例1?6及び新たな周知例7?9には、それぞれ以下の(2)?(10)の技術事項が記載されている。

(2)[ 周知例1] 特開昭55?68483号公報
モノクロサスペンション形自動二輪車のフレーム構造に関して、第1図には、「緩衝器19がシートレール7(フレーム)に沿って配置」されていることが示されている。

(3)[ 周知例2] 特開昭61?287877号公報
自動二輪車のリヤボックスに関して、第1図には、「スペースの有効利用のために、中央より前方の前部に燃料タンク(4)を配置」する構成、及び「緩衝器27(後輪用リヤクッション)がその軸線が車両の前後方向を向くように横置きに配置されている」構成が示されている。

(4)[ 周知例3] 実願平1?80758号(実開昭3?32580号)のマイクロフィルム
スクータ型車両に関して、第1図には、スペースの有効利用のために、「中央より前方の前部に燃料タンク(39)を配置」する構成が示されている。

(5)[ 周知例4] 特開昭55?79774号公報
自動二輪車における工具等収納空間構造に関して、第1図には、「懸架装置9がシートピラチューブ1(フレーム)に沿って配置」されていることが示されている。

(6)[ 周知例5] 特開平5-30677号公報
自動二輪車に関して、【図1】には、「横置きの緩衝器23」が示されている。

(7)[ 周知例6] 特開2001?88765号公報
自動二輪車のリヤクッションユニット配置構造に関して、【図3】?【図5】には、「収納ボックス(32)は、リヤクッションユニット33(後輪用リヤクッション)の点検用リッド(58)を備え」る構成が示されている。

(8)[ 周知例7] 特開平9-109975号公報
自動二輪車のリヤアームに関して、【図1】には、「リヤクッション(46)は、車体フレームのメインフレーム8(アッパフレーム)の後部に沿って配置されているとともに、メインフレーム8(アッパフレーム)の後部に前端部が取付けられ、シート(34)の前端よりも後方に配置され、」の構成が示されている。

(9)[ 周知例8] 特開平2?95996号公報
鞍乗型車両に関して、【図4】に、リヤクッションのオフセット例が示されている。

(10)[ 周知例9] 特開2000?219182号公報
スクータ型自動二輪車に関して、【図3】に、リヤクッションのオフセット例が示されている。

3.発明の対比
本願発明と上記引用発明とを対比すると、
引用発明の「低床式踏板9を有するスクータ型自動二輪車」は、本願発明でいう「低床式車両」に相当し、同様に、「タンデム型シート4」は「シート」に、「上側ダウンチューブ1」は「車体フレーム」に、「低床式踏板9」は「低床」に、「エンジン13」は「エンジン」に、「リヤクッション24」は「後輪用リヤクッション」に、「Vベルト式自動変速機33」は「変速機ユニット」に、「収納ボックス48」は「収納ボックス」に、「ヘッドパイプ3」は「ヘッドパイプ」に、「下側ダウンチューブ2」は「ダウンフレーム」に相当する。

すると、本願発明と引用発明との一致点と相違点は次のとおりである。
(一致点)
「低床式車両のシートの前方で、運転者が乗車するときに跨ぐ車体フレームの長手中央の下方に且つ、低床の下方にエンジンを搭載し、後輪用リヤクッションを配置する低床式車両において、
前記低床式車両は、前記エンジンの後方に変速機ユニットが配置され、前記シートの下方に、シートの前後長と略同等の前後長を有する収納ボックスと、を備え、
前記エンジンは、ヘッドパイプから下方へ延出するダウンフレームとからなるダイヤモンド型フレームに懸架された低床式車両のリヤクッション取付構造。」

(相違点1)本願発明では、「燃料タンク」を「中央より前方の前部に配置し」ているのに対して、引用発明は、そのように構成されていない点。

(相違点2)本願発明では、後輪用リヤクッションを「車体の略中心に配置」し、「収納ボックスの下方に後輪用リヤクッションを、その軸線が車両の前後方向を向くように横置き」し、且つ「変速機ユニットと収納ボックスとの間のスペースに配置し」ているのに対して、引用発明は、そのように構成されていない点。

(相違点3)本願発明では、「収納ボックスは、その底面を後下方に傾斜させ、底面の傾斜最下部近傍に」配置し、「後輪用リヤクッションの点検用リッドを備え」ているのに対して、引用発明は、そのように構成されていない点。

(相違点4)本願発明では、「エンジンは、車体フレームのヘッドパイプから後下方へ延出するアッパフレームの下方のスペースに吸気系とともに配置されて」いるのに対して、引用発明は、そのように構成されていない点。

(相違点5)本願発明では、「車体の一側部の上方に配置されている消音器に接続するために、後輪用リヤクッションの下方を通した排気管を備え」ているのに対して、引用発明は、そのように構成されていない点。

(相違点6)本願発明では、「リヤクッションは、車体フレームのアッパフレームの後部に沿って配置されているとともに」、「アッパフレームの後部に前端部が取付けられ、且つ、変速機ユニットの上方でシートの前端よりも後方に配置され」いるのに対して、引用発明は、そのように構成されていない点。

(相違点7)本願発明では、「車体の中心に対して、他側部寄りにオフセットして配置されている」のに対して、引用発明は、そのように構成されていない点。

4.当審の判断
(相違点1)について
燃料タンクの構成に関しては、スペースの有効利用のために、「中央より前方の前部に燃料タンクを配置」することは、周知例2、3に示されているとおり周知であり、このような周知な構成を引用発明の燃料タンクの構成に施すことは、当業者が容易になし得る程度のことと認められる。

(相違点2)について
後輪用リヤクッションの配置を「車体の略中心に」及び「横置きにして配置」することは、周知例1の「緩衝器19」、周知例2の「緩衝器27」、周知例3の「リヤクッション36」、周知例4の「懸架装置9」、周知例5の「緩衝器23」及び新たに提示する周知例7の「リヤクッション46」に見られる如く、当該分野で周知の構成である。また、「収納ボックスの下方」で「変速機ユニットと収納ボックスとの間のスペースに配置されている」構成については、引用発明において、燃料タンクが配置されている車体の略中心位置にリヤクッションを配置することは、上記周知例1?5を参酌すれば当業者であれば容易に想到できるものと認められる。
そして、このように配置すれば、(相違点2)の構成である「収納ボックスの下方」で「変速機ユニットと収納ボックスとの間のスペースに配置され」る構成は、引用発明において当然生ずる構成を記載したに過ぎない。

(相違点3)について
「収納ボックスは、・・・後輪用リヤクッションの点検用リッドを備え」の構成は、周知例6(特に図5を参照)に記載されている周知技術であって、このような周知技術を引用発明の収納ボックスの構成に施すことは、当業者が容易に設計できる程度のことと認められる。さらに、点検するものの配置にあわせ、「収納ボックスの底面を後下方に傾斜させ」たり、「点検用リッドを底面の傾斜最下部近傍に備え」ることは設計上の常識を示したに過ぎない。

(相違点4)について
「エンジン13は、上側ダウンチューブ1と、ヘッドパイプ3から下方へ延出する下側ダウンチューブ2とからなるダイヤモンド型フレームに懸架された」構成は引用発明にも示されているが、「吸気系全体がフレームの下方のスペースに配置される」ことは、例を挙げるまでもなく当該分野での周知技術であるから、この周知技術を引用発明に施して、本願発明のごとく、「エンジンは、車体フレームのヘッドパイプから後下方へ延出するアッパフレームの下方のスペースに吸気系とともに配置」する構成となすことは当業者が容易に想到し得る程度のことと認められる。
(相違点5)について
「車体の一側部の上方に配置されている消音器に接続するために、後輪用リヤクッションの下方を通した排気管を備え」ることは、排気管の配置として単に空いている空間を利用しただけであって、設計上の事項に過ぎない。
(相違点6)について
「リヤクッションは、車体フレームのアッパフレームの後部に沿って配置されているとともに、アッパフレームの後部に前端部が取付けられ、シートの前端よりも後方に配置され」の構成については、周知例7に示されているように周知の技術であり、そのうちで、「フレームに沿って配置する」点は、周知例1,4にも示されており、このような周知の技術を引用発明に施して上記(相違点6)の構成とすることは、当業者が容易になし得たものと認められる。
なお、リヤクッションを「変速機ユニットの上方」に配置することについては、前記の(相違点2)で述べたとおり、このように配置すれば、引用発明において当然生ずる構成を記載したに過ぎないものである。

(相違点7)について
「車体の中心に対して、他側部寄りにオフセットして配置されている低床式車両のリヤクッション取付構造」に関しては、リヤクッションのオフセットは周知例8,周知例9に示されているように通常の形態であり、引用発明のリヤクッションをオフセットして配置することは設計上の事項に過ぎない。

そして、本願発明の作用効果も、引用発明と各周知例に記載された技術事項から当業者が予測できる範囲のものである。

したがって、本願発明は、引用発明、周知例1ないし9に記載された技術事項とから、当業者ならば容易に発明をすることができたものと認められる。

5.むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、引用発明と周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるので、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-03-19 
結審通知日 2009-03-24 
審決日 2009-03-30 
出願番号 特願2002-281990(P2002-281990)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B62K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岩崎 晋加藤 友也  
特許庁審判長 川向 和実
特許庁審判官 渡邉 洋
柴沼 雅樹
発明の名称 低床式車両のリヤクッション取付構造  
代理人 下田 容一郎  

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