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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61B
管理番号 1197573
審判番号 不服2007-12019  
総通号数 115 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-07-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-04-26 
確定日 2009-05-14 
事件の表示 特願2001-112818「巡回移動式検診システム」拒絶査定不服審判事件〔平成14年10月22日出願公開,特開2002-306430〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 本願発明
本願は,平成13年4月11日に出願された特許出願であって,その請求項1?7に係る発明は,平成19年5月21日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定されるものと認められ,その請求項1に係る発明は,以下のとおりのものである。(以下,「本願発明」という。)
「【請求項1】
移動検診車を用いて検診者のための定期または不定期に健康状態を診断する巡回移動式検診システムにおいて、超音波検査手段及びX線直接撮影検査手段を移動検診車本体に装備し、他の検査手段を現地の車外に設置し、これらの検査手段を用いて現場で検診者の検診を行うようにしたことを特徴とする巡回移動式検診システム。」

なお,平成19年5月21日付けの手続補正書により,平成18年12月25日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲は,その請求項1が削除され,かつそれにより補正前に引用形式で記載されていた請求項2?8のうち,補正前の請求項2および5がそれぞれ独立形式の新たな請求項1および3と補正され,また他の引用形式の各項の引用番号も整理された上で新たな請求項2,4?7に変更されているので,平成19年5月21日付の手続補正書による補正は,請求項の削除を目的とするものであると認められる。

第2 引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開昭53-148188号公報(以下,「引用例1」という。)には,「成人病移動検診方法及び検診車装置」に関して,図面と共に次の事項が記載されている。

(1-ア)成人病移動検診方法
「2.特許請求の範囲
(1)農山漁村、学校、工場、団地、その他の地域において、健康体をもつて生活している人々に対して、採血検尿による検査、血圧測定、眼底血圧測定、肺機能測定、身長体重測定、胸部X線透視、胃部X線テレビ透視及び撮影、心電図作成等成人病検診に必要最少限の多項目検診設備を一台の自動車車体にまとめて配置し、前記地域に出向して、短時間に、多項目同時に検診を行い、疾病の予防と早期発見による健康指導を行うことを特徴とする成人病移動検診方法。
(2)特許請求の範囲第1項記載の検診方法を直接実施するため、1台の自動車車体1を運転台2を除き、仕切板3,4をもつてA,B,Cの三区画に区分し、A区画5には、反転ステップ8、受付台9、ロッカ10、脱衣カーテン11、受診者席12、血圧測定、採血、肺機能等測定台13、自動身長体重計14、採尿施設(大便所)15、手洗器16、眼圧用ベット7、眼底写真置台18胸部X線操作パネル19、流し台20、水タンク21、冷蔵庫22等を配置し、B区画にはリレーボックス23、胸部X線電動架台24、ミラカメラ25、看視ミラ26、胃部X線テレビ透視台27、蛍光灯28、胃部X線テレビカメラ29、ドアエンジン30、トランス31高圧切替器32、ハウベ33、コンプレッサ34等を配置し、C区画7には、心電計用ベット5、換気扇36、心電計37、クーリングユニット38、パネル39、操作席40、カメラコントローラ41、ハイオート42、操作卓43等を配置して成ることを特徴とする成人病移動検診車装置。」(1頁左下欄4行?同頁右下欄14行)

(1-イ)従来の検診車
「従来、この種検診車装置としては、胃部X線専用検診車、胸部X線間接撮影車、採血専用車、心臓血管病集団検診車、婦人用ガン検診者等それぞれ専門科目の検診車はあったが、成人病に必要な多項目にわたる検診設備を一台の自動車車体にまとめて配置し、移動して定期的に検診を行う移動検診方法も、検診自動車装置も未だ會って存在しなかった。」(1頁右下欄下から3行?2頁左上欄5行)

(1-ウ)効果
「次に、本発明の成人病移動検診方法及び検診車装置の採用効果について述べよう。
第1に、交通不便な農山漁村その他の地域に住む人々に対して、成人病検診を僅かの費用で、短時間に受診でき、しかも、年2回程度定期的に来訪するので、前記地域の人々に大きな福音を与えるものである。
第2に、検診を施行する側にしても本発明は成人病の総合的検診施設が一台の自動車車体に配置されているので経済的にして便利である。従来のように専門科目のみの検診車では二台も三台も使用しなければならないが、本発明の方法及び装置は1台の自動車で必要最少限の検診が可能である。
第3に、交通不便の地域でなくても、学校、工場、団地等における人達にして人間ドックに入るにはその時間的余裕なく、経済的負担に堪えられない人々にも大きな福音を与えるものである。すなわち、短時間に成人病総合検診が移動して年2回程度定期的に行われるので、手軽に検診ができる。
このように本発明の成人病移動検診方法及び検診車装置は、集団検診に恵まれず、受診の時間的余裕なく経済的負担に堪えられない人々に対してその成人病受診率を高め、社会医学に貢献すること頗る大なりというべきである。」(2頁右下欄5行?3頁左上欄9行)

これらの記載事項(1-ア)?(1-ウ)および図面の記載を総合すると,引用例1には,次の発明が記載されていると認められる。
「農山漁村,学校,工場,団地,その他の地域において,健康体をもつて生活している人々に対して,採血検尿による検査,血圧測定,眼底血圧測定,肺機能測定,身長体重測定,胸部X線透視,胃部X線テレビ透視及び撮影,心電図作成等成人病検診に必要最少限の多項目検診設備を一台の自動車車体にまとめて配置し,前記地域に年2回程度定期的に出向して,短時間に,多項目同時に検診を行い,疾病の予防と早期発見による健康指導を行う成人病移動検診システム。」(以下,「引用発明」という。)

同様に,原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開平9-122125号公報(以下,引用例2という。)には,「超音波モジュールおよび超音波診断システム」に関して,図面と共に次の事項が記載されている。

(2-ア)超音波診断装置の役割
「【0002】
【従来の技術】従来より、上述の超音波診断システムを装置としてまとめた超音波診断装置が、人体に対する安全性、無浸襲性と軟組織を映像化するという特徴を利用し、医療における診断の分野において、循環器、腹部を中心に広範囲に使用されている。」

(2-イ)集団検診車での使用
「【0069】図12に示す超音波診断システムにおける上述以外の点は図10に示す超音波診断システムと同様であり、説明は省略する。図14は、図10ないし図12に示す超音波診断システムの運用形態の一例を示す模式図である。コンピュータシステム60は、拠点医用施設、例えば病院等に設置され、コンピュータ40、および、それに接続ないし内蔵された超音波モジュールは、家庭内、あるいは集団検診車等に運搬自在に持ち込まれる。ここでは複数のコンピュータシステム40が通信回線を介してコンピュータシステム60と接続されている状態が示されている。
【0070】可搬型のコンピュータシステム40(超音波モジュールを含む)は、小型、軽量であって、高画質の超音波データを収集でき、かつ低価格であることが望まれる。この要求を満足する唯一の実現手段は、この図14に示すような、端末装置側(コンピュータシステム40側)には操作者が患者から超音波データを取得するに必要な機能のみを搭載し、その他の画像処理機能、画像構築機能等は拠点のシステム(コンピュータシステム60側)に任せる分離構成の超音波診断システムである。この方式の特徴は拠点のコンピュータシステム60側には、高画質の画像を構築し、また診断に有効なあらゆる機能を盛り込むことが可能である。
【0071】本発明の超音波診断システムによれば、超音波診断を受ける機会を、医用施設の整っていない地域の患者にも提供することができる。」

第3 対比・判断
1 一致点および相違点
本願発明と引用発明とを対比すると,引用発明の「自動車車体」,「採血検尿による検査、血圧測定、眼底血圧測定、肺機能測定、身長体重測定、・・・、心電図作成等成人病検診」のための「検診設備」,および「地域に年2回程度定期的に出向して,短時間に,多項目同時に検診を行い,疾病の予防と早期発見による健康指導を行う成人病移動検診システム」が,それぞれ,本願発明の「移動検診車本体」,「他の検査手段」,および「移動検診車を用いて検診者のための定期に健康状態を診断する巡回移動式検診システム」に相当することは明らかである。また,引用発明の「胸部X線透視,胃部X線テレビ透視及び撮影」のための「検診設備」と本願発明の「X線直接撮影検査手段」とは,「X線撮影検査手段」である点にて共通する。
そうすると,両者は,
(一致点)「移動検診車を用いて検診者のための定期に健康状態を診断する巡回移動式検診システムにおいて、X線撮影検査手段と他の検査手段を移動検診車本体に装備し、これらの検査手段を用いて現場で検診者の検診を行うようにした巡回移動式検診システム。」
である点で一致し,次の点で相違する。

(相違点1)
「X線撮影検査手段」が,本願発明では「X線直接撮影検査手段」であるのに対し,引用発明では「胸部X線透視,胃部X線テレビ透視及び撮影」のための「検診設備」が直接のものであるか否か不明である点。

(相違点2)
本願発明では「超音波検査手段」も装備されているのに対し,引用発明では「超音波検査手段」が装備されていない点。

(相違点3)
「他の検査手段」について,本願発明では「他の検査手段を現地の車外に設置し、これらの検査手段を用いて現場で検診者の検診を行うようにした」ものであるのに対し,引用発明ではそのような構成ではない点。

2 判断
(1)相違点1について
「胸部X線透視」検診設備には,X線での撮像寸法が実物寸法より縮小された像となる「X線間接撮影検査手段」だけでなく,実物大の像が写る「X線直接撮影検査手段」が存在し,移動検診車にも,実物大の像が写る「X線直接撮影検査手段」を装備することが可能なことは,本願明細書の段落【0005】に先行技術として記載された特開平3-15449号公報あるいは実願平2-10068号(実開平3-100535号)のマイクロフィルムに記載されているように,本願出願前周知の事項であるといえる。
そして,実物より縮小された像が得られる撮影検査手段によるよりも実物大の撮像が得られる撮影検査手段がより精度の高い診断に資することは当業者の熟知するところである。
してみると,引用発明の移動検診車本体に装備する「X線撮影検査手段」として,「X線直接撮影検査手段」を装備し,相違点1における本願発明の構成とすることは,当業者が必要に応じて適宜採用し得る設計的事項に過ぎない。

(2)相違点2について
前記記載事項(2-ア)および(2-イ)によれば,引用例2には,「超音波検査手段が成人病診断において普通に診断対象部位とされる循環器,腹部を中心に広範囲に使用されている検査手段である」ことが記載されており,また,「超音波検査手段を移動検診車本体に装備する」ことも,実願昭48-129993号(実開昭50-74008号)のマイクロフィルムに記載されているように,本願出願前周知の事項であるといえる。そして,一般的には「超音波検査手段」が「他の検査手段」と比べて大きな電力を必要とするとともに重量もあることからみて,「X線撮影検査手段」と同様に設置するのが技術常識であるといえる。なお,特開昭64-1639号公報に記載されているように,検診対象が大動物であるものの,超音波検査手段とX線撮影検査手段の両方を装備した移動検診車も本願出願前周知である。
してみると,引用発明の「成人病検診に必要最少限の多項目検診設備」として,引用例2の上記記載事項および上記周知の事項を適用して「超音波検査手段」を装備すること,すなわち,相違点2における本願発明の構成とすることは,当業者ならば容易に想到し得る事項であるといえる。

(3)相違点3について
そもそも,車本体に装備して利用する設備に加えて,車が移動して現地に到着した際に,現場の車外に取り出し設置して利用する物品を,車内の空きスペースを利用して移送・保管を行うことも,キャンピングカーなどの車両技術分野において一般に広く知られた技術常識であるといえる(例えば,実公昭62-11511号公報あるいは実願昭55-48574号(実開昭57-161933号)のマイクロフィルムの記載参照。)。
そうすると,必要な検査手段を全て移動検診車に固定的に装備し,検査項目を多くしようとすれば,車両スペースを大きくせざるをえず,一般的検診車とは異なる多種類の装備を行うために車両製造コストの上昇等も当然予測される引用発明において,超音波検査手段及びX線撮影検査手段としてのX線直接撮影検査手段を移動検診車に固定的に装備し,他の検査手段を現場の車外に設置し,これらの検査手段を用いて検診車の検診を行うように設計変更することに,格別の困難性があるとはいえない。
また,検診車の技術分野においても,例えば,実願昭59-70768号(実開昭60-182253号)のマイクロフィルムに記載されているように,積載スペース大型化の回避する等の課題も本願出願前に一般的知られているものであり,当業者において常に考慮すべき事項であるといえる。
してみると,引用発明において,上記周知の事項を適用することにより,相違点3における本願発明の構成とすることは,当業者ならば容易に想到し得る事項であるというべきである。

そして,本願明細書に記載された本願発明の効果も,当業者ならば引用例1および2の記載ならびに上記周知の事項から予測し得る範囲のものであって,格別顕著なものとは認められない。

したがって,本願発明は、本願出願前に頒布された上記刊行物1および2に記載された発明ならびに周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり,本願発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから,その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-03-12 
結審通知日 2009-03-17 
審決日 2009-03-30 
出願番号 特願2001-112818(P2001-112818)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 本郷 徹  
特許庁審判長 岡田 孝博
特許庁審判官 福田 聡
信田 昌男
発明の名称 巡回移動式検診システム  
代理人 児玉 喜博  

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