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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1197586
審判番号 不服2007-21239  
総通号数 115 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-07-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-08-01 
確定日 2009-05-14 
事件の表示 平成11年特許願第 5251号「電子部品及び電子回路」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 7月28日出願公開、特開2000-208673〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 [1]手続の経緯
本願は、平成11年1月12日の出願であって、平成19年4月20日付拒絶理由通知に対し、同年6月12日付で意見書及び手続補正書が提出されたが、平成19年4月20日付拒絶理由通知書に記載した理由によって、同年6月29日付で拒絶査定がなされ、これを不服として、同年8月1日に審判請求がなされるとともに、同年8月30日付で手続補正書が提出されたものである。

[2]平成19年8月30日付手続補正についての補正却下の決定

<補正却下の決定の結論>
平成19年8月30日付手続補正を却下する。

<理由>
[2-1]補正の内容
平成19年8月30日付手続補正により、特許請求の範囲の請求項1は次のとおりに補正された。
「【請求項1】導通部を樹脂部により被覆して形成した電子部品を搭載した電子回路であって、導通部と導通部を覆う中空層と中空層の外側を被覆する樹脂部よりなる表面実装部品を基板に搭載した電子回路。」

[2-2]補正の目的
上記請求項1の補正は、補正前の請求項1に係る発明の発明特定事項である「・・・電子部品において、導通部を覆う中空層を介して樹脂部により被覆した表面実装部品」について、「・・・電子部品・・・であって、導通部と・・・中空層と・・・樹脂部よりなる表面実装部品」と限定し、その実装部品が「導通部」、「中空層」、「樹脂部」よりなる構成を有していると、したものである。
したがって、上記請求項1の補正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

[2-3]独立特許要件
次いで、特許請求の範囲の減縮を目的とする補正後の請求項1に係る発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて検討する。

(1)補正後の本願発明
上記補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明1」という。)は、平成19年8月30日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、上記[2-1]に記載したとおりのものと認める。

(2)引用刊行物とその記載事項
これに対して、本願出願前に頒布された刊行物である特開昭62-185342号公報(原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2、以下、「引用刊行物1」という。)には、以下の事項が記載されている。

引用刊行物1:特開昭62-185342号公報
(1a)「(1)樹脂封止形半導体装置において、ダイパッドに固定されボンディングワイヤに接続されたチップの一部あるいは全周囲に、中空の熱可塑性樹脂の発泡体を付着し、全体を熱硬化性樹脂で封止し、その後これを発泡体の軟化温度以上で加熱し、上記熱硬化性樹脂の内部に空洞を形成してなる・・・樹脂封止形半導体装置。」(特許請求の範囲第1項)、
(1b)「この発明は、樹脂封止形半導体装置、特に集積回路,ダイオード,トランジスタ,混成集積回路,コンデンサー,抵抗体等を外的環境から保護するために、全体を樹脂で封止した樹脂封止形半導体装置に関する」(第1頁右下欄1?5行)、
(1c)「この発明は・・・チップやボンディングワイヤ等の変形,断線を防止でき、信頼性の高い樹脂封止形半導体装置を得ることを目的とする。」(第2頁左上欄9?12行)、
(1d)「まず第1図(a)のごとくチップ4をダイパッド3に半田等を用いて固定し、ボンディングワイヤ2をチップ4とリード1に配線し、必要な全ての組立を完了した後、発泡体6を任意の割合で混入した流動性のあるシリコンゴム5をチップ4等に付着させ、発泡体6が軟化しない温度以下でシリコンゴム5を硬化させて発泡体6を固定する。次に第1図(b)のごとく・・・全体をエポキシ樹脂などの封止樹脂7で封止する。・・・次にチップ4への低応力化を図るため、発泡体6をその軟化点温度以上に加熱して溶解する。このとき微粒子状の発泡体6は熱で外壁が収縮破壊して、シリコンゴム5中に均一分散していた発泡体6は互いに融着凝集し、これにより第1図(c)に示すごとく、チップ4等の周囲に空洞ができる。」(第2頁左下欄11行?右下欄9行)、
(1e)「内部に空洞を形成したので、チップやボンディングワイヤ等が封止樹脂の硬化収縮や熱膨張差による応力を受けて破損するのを防止でき、この結果信頼性の高い樹脂封止形半導体装置を得ることができる。」(第3頁左上欄16?20行)が記載されている。
(1f)第1図(a)?(c)には、上記(1d)に記載された各工程における樹脂封止形半導体装置の断面図が示されている。また、同第1図(c)には、チップ4、ダイパッド3、及びボンディングワイヤ2を覆って空洞8ができており、空洞8の外側に封止樹脂7が被覆されており、封止樹脂7内からリード1が外部に延びている点が明示されている。

(3)当審の判断
(3-1)引用刊行物1に記載された発明
(ア)引用刊行物1には、摘記事項(1a)に記載された樹脂封止形半導体装置が記載されている。
(イ)摘記事項(1d)の「第1図(a)のごとくチップ4をダイパッド3に半田等を用いて固定し、ボンディングワイヤ2をチップ4とリード1に配線し、・・・第1図(b)のごとく全体をエポキシ樹脂などの封止樹脂7で封止する・・・これにより第1図(c)に示すごとく、チップ4等の周囲に空洞ができる」との記載、及び第1図(a)?(c)(摘記事項(1f)参照)によれば、上記樹脂封止形半導体装置では、ダイパッドに固定されボンディングワイヤに接続されたチップの一部あるいは全周囲に空洞が形成され、該空洞の外側に熱硬化性樹脂の封止樹脂が被覆されており、該封止樹脂内からリードが外部に延びている。
(ウ)上記リードは、上記樹脂封止形半導体装置を外部回路と接続するための端子であり、該樹脂封止形半導体装置は、該リードによって外部回路である電子回路に接続され、該電子回路に搭載される態様を有することが明らかであるから、引用刊行物1には、該樹脂封止形半導体装置を搭載した電子回路も記載されているといえる。

上記(ア)?(ウ)の各事項、及び摘記事項(1a)?(1f)を整理すると、引用刊行物1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

「樹脂封止形半導体装置を搭載した電子回路であって、ダイパッドに固定されボンディングワイヤに接続されたチップの一部あるいは全周囲に空洞が形成され、該空洞の外側に熱硬化性樹脂の封止樹脂が被覆され、電子回路に接続するためのリードが該封止樹脂内から外部に延びた樹脂封止形半導体装置を搭載した電子回路。」

(3-2)対比・判断
本願補正発明1と引用発明1とを対比すると、
(エ)引用発明1における「ダイパッドに固定されボンディングワイヤに接続されたチップ」は、樹脂封止形半導体装置の電気が導通する部分であるから導通部に該当し、また、「ボンディングワイヤ」を介して「チップ」と導通する「リード」も同じく導通部に該当する。
(オ)引用発明1における「空洞」は、導通部である「ダイパッドに固定されボンディングワイヤに接続されたチップの一部あるいは全周囲に・・・形成され」ているので、本願補正発明1における「導通部を覆う中空層」に相当する。
(カ)引用発明1における「熱硬化性樹脂の封止樹脂」は、「空洞の外側に・・・被覆され」ているので、本願補正発明1における「中空層の外側を被覆する樹脂部」に相当する。
(キ)引用発明1における「樹脂封止形半導体装置」は、「ダイパッドに固定されボンディングワイヤに接続されたチップの一部あるいは全周囲に空洞が形成され、該空洞の外側に該熱硬化性樹脂の封止樹脂が被覆され」ており、実質的に「ダイパッドに固定されボンディングワイヤに接続されたチップ」、「空洞」、「熱硬化性樹脂の封止樹脂」、「リード」よりなるので、上記(エ)?(カ)の各事項から、本願補正発明1における「導通部を樹脂部により被覆して形成した電子部品・・・導通部と導通部を覆う中空層と中空層の外側を被覆する樹脂部よりなる・・・部品」に相当する。

そうすると、両発明は、
「導通部を樹脂部により被覆して形成した電子部品を搭載した電子回路であって、導通部と導通部を覆う中空層と中空層の外側を被覆する樹脂部よりなる部品を搭載した電子回路。」の点で一致し、次の点で相違する。

相違点A:本願補正発明1では、電子部品が表面実装部品であり、それを基板に搭載しているのに対し、引用発明1では、樹脂封止形半導体装置が表面実装部品であること、及び基板に搭載することが明らかでない点。

次いで、相違点Aについて検討する。
各種電子部品を表面実装部品又は挿入部品として電子回路基板に搭載することは、従来から普通に行われているものであり、本願明細書にも、「【従来の技術】従来から、電子機器には電子回路が搭載され、その電子回路は図3に示すように、電子回路基板7と挿入部品9及び表面実装部品10等の各種電子部品から構成されている。各種電子部品9、10は電子回路基板7に固定されるが、その固定方法としては、例えば部品搭載装置にて挿入部品9を電子回路基板7に挿入した後、挿入部分を半田付けする固定方法が用いられている。また、電子回路基板7上に導電性接着剤を塗布し、さらにその上部の所定位置に部品搭載装置にて表面実装部品10を載せ、導電性接着剤を介して、表面実装部品10と電子回路基板7を接着し固定する方法が用いられている。」(段落【0002】)と記載されている。
他方、引用発明1では、集積回路,ダイオード,トランジスタ,混成集積回路,コンデンサー,抵抗体等を外的環境から保護するために、全体を樹脂で封止した樹脂封止形半導体装置において、その内部に空洞を形成することにより、チップやボンディングワイヤ等の変形,断線を防止することを目的としており(摘記事項(1b)(1c)参照)、該内部の構造により、その目的を達成し得るものと理解できる(摘記事項(1e)参照)。そして、引用刊行物1には、基板への実装形態が記載されていないが、当業者であれば引用発明1の樹脂封止形半導体装置では、電子回路と接続するためのリードが外部に延び、該リードにより挿入部品或いは表面実装部品のいずれとしても該電子回路に搭載し得ることは明らかであり、また、該樹脂封止形半導体装置において、挿入部品と表面実装部品のどちらであれ、その内部の構造に変わりはないので、該樹脂封止形半導体装置を実装部品として基板の電子回路に搭載しても上記の目的を達成し得ることは明らかである。
そうすると、引用発明1における樹脂封止形半導体装置を、従来の電子部品と同様、表面実装部品として基板の電子回路に搭載することは、当業者が容易に想到し得たものと認められる。

そして、本願補正発明1の、表面実装部品として基板に搭載することによる効果も、格別なものとは認められない。

なお、請求人は、審判請求書の補正書において、本願の特許請求の範囲の補正は、図2に記載されている導通部、中空部及び樹脂部からなる構成に限定し、拒絶理由通知に示されたものとの構成上の相違を明確にするものである旨、また、本願の補正された特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、導通部を中空層を介して樹脂部にて被覆して封止し、ダイパッド等を介さずに導通部を直接実装するものであり、ダイパッド等を介して電子部品を封止するようにした引用刊行物1から、容易に想到できない旨主張している。
しかしながら、前記補正された特許請求の範囲の請求項1には、「導通部」が、どの様な構造から構成されているのか、また、導通部を中空層を介して樹脂部の内部に配置する際に、どの様にして導通部を固定するのか、また、導通部、中空層、樹脂部よりなる電子部品の「導通部」と、電子部品が実装される外部の回路基板との電気的導通をどの様にして行っているのか特定されておらず、さらに、「導通部」が、ダイパッド、リード、ボンディングワイヤを有していないことについても限定されていない。
また、図2には、本願の電子部品の断面図が示されているが、導通部自体の構造が明示されておらず、また、導通部、中空層、樹脂部を電子部品として一定の配置関係で固定・保持するための構造が明示されておらず、特に、その3者の下面の具体的な構造も明示されておらず、請求人が、「ダイパッド等を介さずに導通部を直接実装する」と主張する、電子部品と外部の回路基板との電気的接続構造が明示されていない図面となっている。
そして、本願明細書の発明の詳細な説明のいずれにも、電子部品を搭載する基板に、電子部品の導通部を直接実装する具体的な説明は、記載されておらず、本願明細書の【0015】には、実施の形態3として、「図3は、本発明の電子部品を搭載した電子回路の構成図を示し、図3において、・・・10は表面実装部品である。・・・回路8が形成された電子回路基板7上に本発明による・・・表面実装部品10等の各種電子部品が搭載される。」と記載されており、図3を参酌すれば、表面実装部品10としてリードを封止樹脂から突き出した電子部品が具体的な事例として説明されているのみであり、当該表面実装部品10は、ダイパッド、リード等を導通部ではないとして、且つ、「導通部を中空層を介して樹脂部にて被覆して封止し、導通部を直接実装するものである」とする主張と相違するものである。
してみると、「導通部」自体が、明細書及び図面のいずれにも具体的な構成或いは定義が明示されておらず、表面実装部品としての電子部品と回路基板との実装は、リードを用いた図3の表面実装部品10しか例示されていないこと、また、本願の特許請求の範囲の請求項1に「導通部」の構成及び導通部と電子部品外部の回路基板との電気的導通を図る構造も特定されていないことから、上記請求人の主張は、本願の特許請求の範囲請求項1の記載に基づいたものとは認められず、当該主張を採用することはできない。

したがって、本願補正発明1は、引用刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。

[2-4]むすび
以上のとおり、本願補正発明1が特許出願の際独立して特許を受けることができないため、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

[3]本願発明について
(1)本願発明
平成19年8月30日付手続補正は上記のとおり却下されたので、本願請求項1?3に係る発明は、平成19年6月12日付手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に記載された発明(以下、「本願発明1」という。)は、次のとおりのものと認める。

「【請求項1】導通部を樹脂部により被覆して形成した電子部品において、導通部を覆う中空層を介して樹脂部により被覆した表面実装部品を基板に搭載した電子回路。」

(2)引用刊行物とその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用刊行物1には、上記[2-3](2
)に摘記した事項が記載されている。

(3)引用刊行物1に記載された発明
引用刊行物1には、上記[2-3](3-1)で認定した引用発明1が記載されている。

(4)対比・判断
本願発明1は、上記[3](1)で認定したとおり、本願補正発明1における「導通部と導通部を覆う中空層と中空層の外側を被覆する樹脂部よりなる表面実装部品」の「導通部と・・・中空層と・・・樹脂部よりなる」点を削除し、該「導通部」、「中空層」、「樹脂部」を含むばかりか、他の部分も任意に含み得る上位概念の構成としたものに相当する。
そうすると、本願発明1に包含される下位概念の発明に相当する本願補正発明1が、上記[2-3](3-2)で述べたとおり、引用刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明1についても、同様の理由により、引用刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

[4]むすび
以上のとおりであるから、本願発明1は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-03-11 
結審通知日 2009-03-17 
審決日 2009-03-30 
出願番号 特願平11-5251
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H01L)
P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 酒井 英夫  
特許庁審判長 藤原 敬士
特許庁審判官 國方 康伸
市川 裕司
発明の名称 電子部品及び電子回路  
代理人 岡崎 謙秀  

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