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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16C
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16C
管理番号 1197607
審判番号 不服2008-11750  
総通号数 115 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-07-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-05-08 
確定日 2009-05-14 
事件の表示 特願2005-335412「転がり軸受」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 5月25日出願公開、特開2006-132778〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯の概要
本願は、平成9年7月7日に出願した特願平9-195263号の一部を平成17年11月21日に新たな特許出願としたものであって、平成20年4月4日(起案日)付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成20年5月8日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同年6月9日に明細書及び特許請求の範囲についての手続補正がなされたものである。

2.平成20年6月9日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成20年6月9日付けの手続補正を却下する。

[理由]
(1)本願補正発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「【請求項1】
40℃における動粘度が80mm^(2)/s以上の基油と、増稠剤とを含む潤滑剤が封入され、自動車用電装品又は自動車用エンジン補機に適用される転がり軸受であって、
40℃における動粘度が11.5mm^(2)/s以上48mm^(2)/s以下であるエステル油、合成炭化水素油のいずれか一つ又はこれらの混合物から成る基油に、防錆剤を含ませて成り且つ流動点が-45℃以下の防錆潤滑油を、前記潤滑剤が封入される前に軸受の内部に、当該潤滑剤の封入量に対する塗布量を2?20重量%に設定して塗布したことを特徴とする転がり軸受。」
と補正された。(なお、下線は、請求人が付与した本件補正による補正箇所を示す。)

上記特許請求の範囲の請求項1に係る補正は、出願当初の明細書、特許請求の範囲又は図面の記載に基づき、「防錆潤滑油の基油」の40℃における動粘度を「11.5mm^(2)/s以上48mm^(2)/s以下」(下線部)に限定するとともに、「防錆潤滑油の基油」から「エーテル油」を省いて「エステル油、合成炭化水素油のいずれか一つ又はこれらの混合物」(下線部)と構成を限定するものであって、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(2)引用刊行物の記載事項
<刊行物1>
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の原出願日前に頒布された刊行物である特開平7-179879号公報(以下、「刊行物1」という。)には、「防錆潤滑油及びその防錆潤滑油が塗布された玉軸受」に関して、下記の事項ア?オが記載されている。
ア;「【産業上の利用分野】本発明は、特に軸受のさび発生を防止すると共に、軸受のトルク、音響、寿命等の諸特性に対して悪影響を及ぼすことがない防錆潤滑油及びその防錆潤滑油が塗布された玉軸受に関する。
【従来の技術】従来の防錆潤滑油は、潤滑性に主眼がおかれているため、鉱物油、さび止め剤および酸化防止剤からなる混合物が使用されており、粘度が120?500mm^(2)・S^(-1)/40℃程度のものが一般的である。この種の防錆潤滑油は、その使用目的によって使い分けられているが、通常の場合、圧延された鋼板等に塗布して次工程までの中間防錆油として使用するか、あるいはさび止めと潤滑を兼ねて内燃機関などに注油して使用することが多い。」(第2頁1欄12行?25行;段落【0001】及び【0002】参照)

イ;「【課題を解決するための手段】本発明は、石油系のスルホン酸塩及び合成スルホン酸塩からなる群から選ばれた少なくとも1種のスルホン酸塩を2?20重量%さび止め剤として含有し、粘度10?100mm^(2)・S^(-1)/40℃のエーテル油を20重量%以上基油として含有してなる防錆潤滑油である。
また、本発明は、外輪と、外輪の内方に配設した内輪と、外輪と内輪との間に配設された玉と、玉を保持する保持器とに前記防錆潤滑油が塗布された玉軸受である。本発明の防錆潤滑油は、さらに油性向上剤、アルコール溶剤および酸化防止剤などの添加剤を含有していてもよい。
なお、本発明において、各成分の含有率は、特に断らない限り「防錆潤滑油全体」の含有率として表示されている。」(第2頁2欄3行?17行;段落【0006】?【0008】参照)

ウ;「【作用】本発明の防錆潤滑油を密封玉軸受のような軸受に対して使用した場合、軸受のトルク、音響及び寿命等の諸特性を損なうことなく良好なさび止め作用を発揮する。例えば、密封玉軸受にナトリウム系グリースを封入して運転した場合に、グリースの吸水性のために初期あるいは経時的にグリースが硬化して流動性が悪化し、そのため軸受の保持器音が大きくなって音響性能に悪影響を及ぼすことがある。その対策として、予め密封玉軸受の内輪軌道、外輪軌道、保持器及び玉にそれぞれこの発明の防錆潤滑油を塗布することにより、上記のような軸受運転後の保持器音が増大する現象を防止することができる。
また、本発明の防錆潤滑油を塗布した玉軸受は、耐久性能、耐久試験後の保持器音、グリースとの相性、回転トルク、初期保持器音、さび止め性等優れた性能が得られる。以下、本発明の防錆潤滑油についてさらに詳細に説明する。本発明で使用されるさび止め剤としては、さび止め性が良好な合成または石油系のスルホン酸塩が好ましい。」(第2頁2欄19行?37行;段落【0009】及び【0010】参照)

エ;「本発明の防錆潤滑油におけるさび止め剤の防錆潤滑油全体中の含有率は2?20重量%である。さび止め剤の含有率が、2重量%未満の場合には防錆作用を低下させ、20重量%を越えた場合には、さび止め剤が玉軸受に充填されているグリースに多量に混合してグリースを軟化させ、その結果、グリースの寿命を低下させることになる。」(第2頁2欄47行?第3頁3欄3行;段落【0011】参照)

オ;「また、基油として、エーテル油と鉱油、合成油及びエステル油からなる群から選ばれた少なくも1種の油との混合物(以下、エーテル油含有混合物と記すこともある)も使用することができる。鉱油としては、各種の鉱油を使用することができる。合成油としては、例えばポリ-α-オレフィン、エチレン-α-オレフィンオリゴマー及び芳香族合成炭化水素油などが好適に使用される。」(第3頁3欄20行?27行;段落【0014】参照)

刊行物1に記載された上記記載事項ア?オの記載からみて、刊行物1には下記の発明が記載されているものと認めることができるものである。

【刊行物1に記載された発明】
「グリースが封入され、内燃機関などに使用される玉軸受であって、
40℃における動粘度が10mm^(2)/s以上100mm^(2)/s以下(10?100mm^(2)・S^(-1)/40℃)であるエーテル油を20重量%含みエステル油、合成炭化水素油のいずれか一つ又はこれらの混合物からなる基油にさび止め剤を含有する防錆潤滑油を外輪と、外輪の内方に配設した内輪と、外輪と内輪との間に配設された玉と、玉を保持する保持器とに塗布した玉軸受。」

<刊行物2>
同じく引用された、本願の原出願日前に頒布された刊行物である特開平2-62418号公報(以下、「刊行物2」という。)には、「軸受のきしり音防止方法」に関して、下記の事項カ?ケが図面とともに記載されている。
カ;「(産業上の利用分野)
本発明は軸受のきしり音防止方法、特に円筒コロ軸受から発する軸受きしり音防止方法に関する。」(第1頁右下欄4行?6行)

キ;「(課題を解決するための手段)
本発明者らは鋭意研究した結果、潤滑用グリースに用いられているオイルもしくはそれに近い性状のオイルを、軸受内輪の円筒コロ転動面に塗布すれば、きしり音の発生がなくなることを知得した。
即ち、構成としては軸受内輪の周縁又は円筒コロ周縁に前記オイルの層を設け、更にその外縁には従来同様、円筒コロと隙間に充填された潤滑用グリースとが存在している。要するに内輪と円筒コロとの間又は円筒コロ周縁に油膜を形成されたものである。
(作用)
上記構成において、きしり音の発生のないことの理由についての解明はなされていない。しかしながら以下の推論がなされている。先ず、内輪の円筒コロ転動面に塗布するオイルには限定がある。前記した通り潤滑グリースに用いられているオイルもしくは、それに近い性状のオイルであることを要することからして、この油膜が消滅することなく内輪と円筒コロとの間に存在し、しかも本来のグリースの性状を変化させずにコロの滑りを阻止していると考えられる。」(第2頁右上欄17行?左下欄19行)

ク;「第1図は本発明による軸受のきしり音防止方法を説明するための一実施例の構成図であり、第1図(a)は平面図、第1図(b)は内輪の全体斜視図である。第1図において第2図と同一部分については同一符号を付して説明を省略する。
第1図において、5は油膜であり、周縁に充填した潤滑グリース(・・・略・・・)と同種のオイル(・・・略・・・)であり、このオイルを軸受内輪の円筒コロ転動面6(原文は6の下に下線有り)全周及び円筒コロ周縁に塗布した。塗布油量は潤滑用グリース量の0.14?5.5%(容積割合)又、は軸受内輪の円筒コロ転動面全周に油膜厚さ0.003?0.095mmになるオイル量である。
そして塗布方法としては軸受組立前に塗布する方法、又は軸受を組立てた後に内輪と円筒コロの間をねらってオイルを注入し、その後グリースを封入してもよい。更に、最も簡単な方法としては、グリースを封入した後、円筒コロと内輪との間をねらってオイルを注入してもよい。いずれの場合もオイルの注入量は前記した通りである。
このように処理した軸受をエンジンのスーパーチャージャーのロータの軸受として実装し、負荷試験又は無負荷試験を長時間行なったが、いずれの運転状態にてもきしり音は発生しなかった。」(第2頁右下欄3行?第3頁左上欄7行)

ケ;「[発明の効果]
以上説明した如く、本発明によればグリース潤滑タイプの円筒コロと内輪との間に、グリースに用いられるオイルもしくはそれに近い性状のオイルを塗布するようにしたので、以下に列挙する効果を奏し、実用上有益であることがわかった。
(1)(原文は丸付き数字;以下同様)ラジアル隙間を小さくしなくてもきしり音がなくなるので、軸受の寿命は低下しない。
(2)ラジアル隙間の管理幅を狭める必要がないため、管理が容易である。
(3)耐熱性の劣る低粘度のグリースにしなくてもよいため、高温、高回転、高負荷の過酷な条件下でも軸受寿命を低下させることはない。」(第3頁左上欄12行?右上欄4行)

刊行物2に記載された上記記載事項カ?ケ及び図面の記載からみて、刊行物2には、下記の発明が記載されているものと認めることができるものである。

【刊行物2に記載された発明】
「エンジンのスーパーチャージャーのロータの軸受に適用されるコロ軸受であって、潤滑用グリースが封入される前に軸受内輪の周縁及び円筒コロ周縁に潤滑用グリース量の0.14?5.5%(容積割合)のグリースの性状に近いオイルを塗布したコロ軸受。」

(3)対比・判断
刊行物1に記載された発明の「玉軸受」を構成する各部材の奏する機能からみて、刊行物1に記載された発明の「グリース」は本願補正発明の「(基油と増稠剤を含む)潤滑油」に相当し、また、「玉軸受」は「転がり軸受」に相当するものと認めることができるものである。
また、刊行物1に記載された発明の「防錆潤滑油」は、40℃の動粘度が10?100mm^(2)/s(10?100mm^(2)・S^(-1)/40℃)であれば格別限定されるものでないはないものであるから、本願補正発明の「防錆潤滑油」の40℃の動粘度が「11.5mm^(2)/s以上48mm^(2)/s以下」の範囲のものを含むものである。
さらに、刊行物1に記載された発明の「玉軸受」も「内燃機関」等に使用されるものであるから、本願補正発明の「転がり軸受」が適用される「自動車用電装品又は自動車用エンジン補機」に適用(使用)できることは当業者であれば自明の事項といい得るものである。

そこで、本願補正発明の用語を使用して、本願補正発明と刊行物1に記載された発明とを対比すると、両者は、
「潤滑剤が封入され、自動車用電装品又は自動車用エンジン補機に適用される転がり軸受であって、40℃における動粘度が11.5mm^(2)/s以上48mm^(2)/s以下である基油に、防錆剤を含ませて成る防錆潤滑油を、前記軸受の内部に塗布した転がり軸受。」で一致しており、下記の点で一応相違している。

相違点1;本願補正発明では、「潤滑剤」が「40℃における動粘度が80mm^(2)/s以上の基油と、増稠剤とを含む」ものであるのに対して、刊行物1に記載された発明では、玉軸受に封入される「グリース」の動粘度及び増稠剤を含むかどうか不明である点。

相違点2;本願補正発明では、「防錆潤滑油」の「基油」が「エステル油、合成炭化水素油のいずれか一つ又はこれらの混合物から成る」ものであり、且つ「流動点が-45℃以下」であり、「潤滑剤が封入される前に軸受の内部に、当該潤滑剤の封入量に対する塗布量を2?20重量%に設定して塗布した」ものであるのに対して、刊行物1に記載された発明では、「防錆潤滑油」の「基油」が、「エーテル油を20重量%を含み、エステル油、合成炭化水素油のいずれか一つ又はこれらの混合物から成る」ものであり、「流動点」は不明であり、グリースを封入される前に軸受の内部に封入されるかどうか、及び、グリースの封入量に対する塗布量も不明である点。

上記相違点1及び相違点2について検討した結果は次のとおりである。
《相違点1について》
自動車用のオルタネータ等の用途に使用される転がり軸受に40℃での動粘度が90?160cSt(90mm^(2)/s以上160mm^(2)/s以下)のエーテル油または合成炭化水素油またはその混合物を基油とし、ウレア化合物からなる増ちょう剤を(増稠剤)含む潤滑剤(グリース)を封入することは本願出願前当業者に周知の事項(例えば、原査定の拒絶の理由で周知例として引用された特開平5-196047号公報の【特許請求の範囲】、段落【0001】、【0011】、【0020】等参照)にすぎないものである。
そして、上記周知の潤滑剤を刊行物1に記載された発明の「グリース」として採用することを妨げる格別の事情は認めることができないものである。
してみると、当業者であれば、上記周知の潤滑油を刊行物1に記載された発明の「グリース」に採用することにより、上記相違点1に係る本願補正発明の構成とすることは、必要に応じて適宜採用することができる程度の事項にすぎないものであって、格別創意を要することではない。

《相違点2について》
軸受のきしり音の発生を防止するために、軸受に封入される「グリース」に近い性状のオイルをグリースを封入する前に潤滑用グリース量の0.14?5.5%(容積割合)の割合で軸受の内部に塗布することは、上記刊行物2にも記載されているように本願出願前当業者に知られた事項にすぎないものである。
そして、上記刊行物2に知られた事項を刊行物1に記載された発明の「防錆潤滑油」に採用することを妨げる格別の事情は認めることができないものである。
ところで、本願補正発明において、「基油」成分から「エーテル油」を除いたことの技術的意義について検討しても、「潤滑油」の「基油」成分として、各種の周知の潤滑油の「基油」の中から、「エステル油または合成炭化水素油」又は「その混合物」に限定したにすぎないものであって、格別な技術的意義を認めることができないものである。
また、「潤滑油」の「流動点」については、所望の流動点に調整することができるもの(原査定の拒絶の理由で周知例として例示された特開平6-299184号公報等参照)であり、本願補正発明において「流動点が-45℃以下」と規定した技術的意義について検討しても、「自動車用電装品又は自動車用エンジン補機」が使用される環境等を考慮して所望の流動点を規定したにすぎないものであって、格別な臨界的意義を認めることができないものである。
さらに、潤滑剤の封入量に対する塗布量を「2?20重量%」に設定したことの技術的意義について検討しても、2重量%以下にすると少なすぎて異常音の発生を抑制できず、20重量%以上であればグリースが軟化して転がり軸受の外部に漏出するという不具合を考慮したものであって、その設定した数値範囲には格別な臨界的意義を認めることができず、当業者であれば通常行う実験等により適宜採用することができる程度の事項と認めることができるものである。
してみると、刊行物1及び刊行物2に記載された発明並びに上記周知の潤滑油に採用する基油成分並びに潤滑油の流動点を調整できる手段を知り得た当業者であれば、「防錆潤滑油」の「基油」として、「エーテル油」を除いた所望の周知の「エステル油、合成炭化水素油のいずれか一つ又はこれらの混合物」を採用し、その流動点を軸受の使用環境を考慮して-45℃以下に調整し、さらに、その塗布量について適宜実験等により検証することにより所望の塗布量(例えば、本願補正発明のような潤滑剤の封入量に対して「2?20重量%」)に設定して、上記相違点2に係る本願補正発明の構成とすることは、必要に応じて容易に想到することができる程度の事項であって、格別創意を要することではない。

また、本願補正発明の効果について検討しても、刊行物1及び刊行物2に記載された事項並びに本願出願前当業者に周知の事項から予測することができる程度のものであって、格別のものとはいえない。

したがって、本願補正発明は、刊行物1及び刊行物2に記載された発明並びに本願出願前当業者に周知の事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

ところで、請求人は、審判請求書中において、
「しかしながら、本願の請求項1(上記本願補正発明)及び請求項2に係る転がり軸受は、共に、所定値以上の動粘度を有する基油、具体的には40℃における動粘度が80mm^(2)/s以上の基油を含む潤滑剤が封入される転がり軸受であって、潤滑剤が封入される前に、上記潤滑油に適用される基油とは、その動粘度が著しく異なる基油を含む防錆潤滑油、具体的には、40℃における動粘度が11.5mm^(2)/s以上48mm^(2)/s以下である基油を含む防錆潤滑剤を予め塗布するようにしたものであり、これによって、低温環境下における潤滑剤の流動性を確保し、低温起動時における異常音の発生を確実に抑制することができるという上記引用文献1乃至8(上記刊行物1及び刊行物2並びに周知事項として例示した周知の文献を含む。)からは予測できない格別な効果を奏するものであります。このような比較的高い動粘度の基油を含む潤滑油と、この潤滑油の基油に比べて著しく低い動粘度の基油を含む防錆潤滑油とを組み合わせるという本発明の特徴的な構成及び作用効果は、上記引用文献1?8には、全く記載又は示唆されておらず、本発明は、引用文献1?8に基づいて決して当業者が容易に想到できたものではないと思料致します。」(平成20年6月9日付けの手続補正書(方式)の【請求の理由】の6.「本発明と引用文献との対比」の(3)参照)旨主張している。

しかしながら、自動車用オルタネータ(自動車用エンジン補機)に有効に用い得る転がり軸受に封入する潤滑剤の基油として40℃における動粘度が90?160cSt(90mm^(2)/s以上160mm^(2)/s以下)の所望の合成油を使用することが本願出願前当業者に周知の事項であることは、上記《相違点1について》の項で判断したとおりであって、刊行物1に記載された発明の「グリース」として上記本願出願前周知の基油を採用することは当業者であれば普通に採用することができる程度の事項にすぎないものである。
そして、刊行物1に記載された発明でも、防錆潤滑油としては40℃における動粘度が10?100mm^(2)/s(10?100mm^(2)・S^(-1)/40℃)であれば、格別限定されるものでなく当該範囲の所望の動粘度を潤滑油を採用することができるものである。
また、本願補正発明において、「40℃における動粘度が11.5mm^(2)/s以上48mm^(2)/s以下である」と限定したことには格別な臨界的意義を認めることができないものである。
そうすると、本願補正発明の潤滑油(グリース)と防錆潤滑油は、潤滑油として上記周知の40℃における動粘度が80mm^(2)/s以上(上記周知例では90?160cSt)の基油と、増稠剤とを含む潤滑油を採用し、防錆潤滑油としては、刊行物1に記載された発明の「防錆潤滑油」の基油と同様の40℃における動粘度である所望の合成油(エステル油、合成炭化水素油又はこれらの混合油)を採用したにすぎないものであって、格別のものでないことも上記のとおりである。
よって、請求人の上記審判請求書中での主張は採用することができない。

(4)むすび
以上のとおり、本願補正発明(本件補正後の請求項1に係る発明)が特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明
(1)本願発明
平成20年6月9日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし請求項3に係る発明は、平成20年2月4日付けの手続補正により補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし請求項3に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「【請求項1】
40℃における動粘度が80mm^(2)/s以上の基油と、増稠剤とを含む潤滑剤が封入され、自動車用電装品又は自動車用エンジン補機に適用される転がり軸受であって、
40℃における動粘度が5mm^(2)/s以上50mm^(2)/s以下であるエステル油、合成炭化水素油、エーテル油のいずれか一つ又はこれらの混合物から成る基油に、防錆剤を含ませて成り且つ流動点が-45℃以下の防錆潤滑油を、前記潤滑剤が封入される前に軸受の内部に、当該潤滑剤の封入量に対する塗布量を2?20重量%に設定して塗布したことを特徴とする転がり軸受。」

(2)引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の原出願前に頒布された刊行物である特開平7-179879号公報(上記刊行物1)及び特開平2-62418号公報(上記刊行物2)の記載事項は、前記「2.(2)引用刊行物の記載事項」に記載したとおりである。

(3)対比・判断
本願発明は、前記2.で検討した事項から「防錆潤滑油の基油」の40℃における動粘度を「5mm^(2)/s以上50mm^(2)/s以下」に拡張するとともに、「防錆潤滑油の基油」に「エーテル油」を加えて「エステル油、合成炭化水素油、エーテル油のいずれか一つ又はこれらの混合物」としたものである。
しかしながら、「防錆潤滑油の基油」の40℃における動粘度の下限を「5mm^(2)/s以上」、上限を「50mm^(2)/s以下」とした点には格別な臨界的意義を認めることができないものであって、格別創意を要することでないことは上記本願補正発明の「防錆潤滑油」について判断したとおりである。
また、刊行物1に記載された発明の「防錆潤滑油」もエーテル油を含む混合油(混合物)であり、エーテル油は潤滑油の基油としては普通に採用されている一つの基油材料にすぎないものである。
そうすると、本願発明も、本願補正発明について判断したのと実質的に同様の理由により、刊行物1及び刊行物2に記載された発明並びに本願出願前周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

(4)むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明(本願発明)は、刊行物1及び刊行物2に記載された発明並びに本願出願前周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
そして、本願の請求項1に係る発明が特許を受けることができないものである以上、本願の請求項2及び請求項3に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-03-10 
結審通知日 2009-03-17 
審決日 2009-03-30 
出願番号 特願2005-335412(P2005-335412)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F16C)
P 1 8・ 575- Z (F16C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 上谷 公治島田 信一  
特許庁審判長 村本 佳史
特許庁審判官 岩谷 一臣
常盤 務
発明の名称 転がり軸受  
代理人 別役 重尚  
代理人 村松 聡  

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