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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1197609
審判番号 不服2008-20974  
総通号数 115 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-07-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-08-14 
確定日 2009-05-14 
事件の表示 特願2006-182566「オートフォーカス装置、撮像装置及びオートフォーカス方法」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 1月17日出願公開、特開2008- 9340〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成18年6月30日の出願であって、平成20年4月7日付けで拒絶理由が通知され、同年6月16日付けで手続補正がなされたものの、同年7月8日付けで拒絶査定がなされた。
本件は、前記拒絶査定を不服として平成20年8月14日に請求された拒絶査定不服審判事件である。

2.本願発明
本願の請求項1ないし14に係る発明は、平成20年6月16日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし14に記載された技術的事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。
「撮像部で撮像された画像信号の特定領域の高周波成分を用いて定期的に評価値を算出する評価値算出部と、
前記評価値に応じてレンズを駆動するレンズ駆動部に与える指令値を出力するとともに、前記評価値によりジャストピン判定を行う制御部とを備え、
前記制御部は、前記フォーカス位置を移動させながら評価値ピーク探索動作を行い、前記評価値の極大値を検出すると、当該極大値を通過した時点のフォーカス位置に前記レンズを戻して静止させて前記評価値算出部で算出される評価値を取得するものであって、
前記評価値の極大値を第1評価値とし、前記評価値が極大値となるフォーカス位置に前記レンズを戻した際の前記評価値を第2評価値とするとき、前記第2評価値を前記第1評価値で除算した値が所定の閾値より大きいというジャストピンの条件を満たしているか否かを判定し、判定の結果を出力する
オートフォーカス装置。」

3.本願出願前に頒布された刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開昭63-203065号公報(以下、「引用例」という。)には、図面とともに以下の技術的事項の記載がある。
(3-a)第1頁左下欄第5行?同右下欄第8行(「2.特許請求の範囲」の欄)
「(1)撮像素子から得られる映像信号の高域成分レベルを焦点評価値として検出する評価値検出手段と、
レンズを変位せしめるフォーカスモータを一方向に回転せしめる時に、焦点評価値の最大値を保持する最大値メモリと、
焦点評価値が最大値となる時の前記フォーカスモータの回転位置を記憶するモータ位置メモリと、
前記焦点評価値が前記最大値メモリの値より所定量減少した時点で前記フォーカスモータを反転せしめ、前記モータ位置メモリに保持される位置まで逆行せしめて停止させるフォーカスモータ制御手段と、
前記モータ位置メモリにて保持される位置に前記フォーカスモータが停止している時の焦点評価値と前記最大値メモリの値とを比較し、両者の差が所定値に達するか否かを検出する比較手段とから成り、
前記比較手段にて所定値に達したことが検出された時に前記最大値メモリ及び前記モータ位置メモリをクリアし、前記フォーカスモータ制御手段による制御を再開することを特徴とするオートフォーカス回路。」
(3-b)第1頁右下欄第10?13行
「(イ)産業上の利用分野
本発明は、撮像素子から得られる映像信号を基に、焦点の自動整合を行うビデオカメラのオートフォーカス回路に関する。」
(3-c)第2頁左上欄第3行?同左下欄第8行
「 従来、このオートフォーカスの方法の一例が、……いわゆる山登りサーボ制御が知られている。この山登りサーボ制御について第2図を参考に説明する。
レンズ(1)によって結像した画像は、撮像回路(4)によって映像信号となり、焦点評価値発生回路(5)に入力される。焦点評価値発生回路(5)の構成は、例えば第3図に示す様に構成される。……
ゲート回路(5c)によってサンプリングエリアの範囲内に対応する輝度信号のみが、H.P.F(5d)を通過して高域成分のみが分離され、次段の検波回路(5e)で振幅検波される。この検波出力は積分回路(5f)でフィールド毎に積分されて、A/D変換回路(5g)にてディジタル値に変換されて現フィールドの焦点評価値が得られる。前述の如く構成された焦点評価値発生回路(5)から出力される焦点評価値は、まず第1メモリ(6)に蓄えられ、次の焦点評価値が入力されると、第2メモリ(7)に転送される。即ち、第1メモリ(6)には最新の評価値が、第2メモリ(7)には1フィールド前の評価値が常に更新されて蓄えられる。この2つのメモリの内容は比較器(8)にて比較され、この比較出力はフォーカスモータ制御回路(9)に入力される。
フォーカスモータ制御回路(9)では、比較器(8)出力によって、第1メモリの評価値>第2メモリの評価値の場合には、フォーカスモータ(3)の現在の回転方向を維持し、第1メモリの評価値<第2メモリの評価値の場合には、評価値は減少傾向にあるから、フォーカスモータ(3)は逆転する。このフォーカスモータ(3)の動きによりレンズ(1)を支持するフォーカスリング(2)は常に焦点評価値を大きくする方向に動きつづけて合焦し、合焦した後は、評価値の極大点付近で振動する。」
(3-d)第3頁左上欄第8行?同右上欄第10行
「即ち、出登り動作中に被写体が激しく動いた場合などの様にレンズの変位によって生じる合焦の良否による焦点評価値の増減と、手ブレや被写体の動きによる焦点評価値の増減が重なった形となって焦点評価値が増減する。
ここで、手ブレや被写体の動きがあまりに激しいと、後者による焦点評価値の増減に対する影響が支配的となって、合焦の良否に拘らずに、手ブレや被写体の動きによって焦点評価値が、増加から減少に転じた点を極大点として認識し停止してしまう場合がある。この手ブレや被写体の動きが継続される場合には、再び山登りAF動作が再開されるので、合焦状態に達するまでに余分な時間が必要となるだけにとどまるが、誤った極大点で停止した時点で手ブレや被写体の動きが停止すると、以後焦点評価値は変化しないため、山登りAF動作は再開されずにレンズはピントがボケた位置で停止し続けることになる。
(ハ)発明が解決しようとする問題点
上述の如く、前記従来技術によると、合焦してもレンズが振動しつづけて見苦しい画面になったり、これを防止した場合にはピントがボケたままでレンズが停止してしまう誤動作が生じた。」
(3-e)第3頁右上欄第11行?同左下欄第8行
「 (ニ)問題点を解決するための手段
本発明は、山登り動作中の焦点評価値の最大値を保持するメモリと、焦点評価値が最大に達した時のフォーカスレンズ位置を保持するメモリを有し、前者のメモリに保持された最大値に比べて焦点評価値が予め設定されている閾値以上に小さくなった時に前記両メモリの更新を禁止し、フォーカスモータを逆転して最終的に保持されているフォーカスレンズ位置までフォーカスレンズを戻して停止させた後、保持されている最大値と現在の焦点評価値を比較し、その差が所定値より小さい場合にそのレンズ位置を合焦点としてレンズを静止せしめ、その差が所定値より大きい場合に山登り動作を再開することを特徴とする。
(ホ)作用
本発明は上述の如く構成したので、手ブレや被写体の激しい動きが生じても、フォーカスレンズが偽の極大点にて停止することが防止される。」

これらの記載および図面の内容からして、引用例には以下の発明が記載されている。
「撮像素子から得られる映像信号のサンプリングエリアの高域成分レベルをフィールド毎に積分して焦点評価値として検出する評価値検出手段と、
前記焦点評価値をフィールド毎に比較して焦点評価値を大きくする方向にレンズを支持するフォーカスリングを動かせつづけて合焦させるフォーカスモータ制御回路と、
レンズを変位せしめるフォーカスモータを一方向に回転せしめる時に、焦点評価値の最大値を保持する最大値メモリと、
焦点評価値が最大値となる時の前記フォーカスモータの回転位置を記憶するモータ位置メモリと、
前記焦点評価値が前記最大値メモリの値より所定量減少した時点で前記フォーカスモータを反転せしめ、前記モータ位置メモリに保持される位置まで逆行せしめて停止させるフォーカスモータ制御手段と、
前記モータ位置メモリにて保持される位置に前記フォーカスモータが停止している時の焦点評価値と前記最大値メモリの値とを比較し、両者の差が所定値に達するか否かを検出する比較手段とから成り、
その差が所定値より小さい場合にそのレンズ位置を合焦点としてレンズを静止せしめ、その差が所定値より大きい場合に山登り動作を再開する
オートフォーカス回路。」(以下、「引用発明」という。)

4.対比(一致点・相違点)
本願発明と上記引用発明とを対比する。
引用発明の「撮像素子から得られる映像信号のサンプリングエリアの高域成分レベルをフィールド毎に積分して焦点評価値として検出する評価値検出手段」が、本願発明の「撮像部で撮像された画像信号の特定領域の高周波成分を用いて定期的に評価値を算出する評価値算出部」に相当することは明らかである。
また、引用発明の「前記焦点評価値をフィールド毎に比較して焦点評価値を大きくする方向にレンズを支持するフォーカスリングを動かせつづけて合焦させるフォーカスモータ制御回路」は、焦点評価値に応じてフォーカスモータに指令を与えて制御し、焦点評価値によって合焦させるものであるので、引用発明の前記制御回路は、本願発明の「前記評価値に応じてレンズを駆動するレンズ駆動部に与える指令値を出力するとともに、前記評価値によりジャストピン判定を行う制御部」に相当する。
そして、引用発明の「レンズを変位せしめるフォーカスモータを一方向に回転せしめる時に、焦点評価値の最大値を保持する最大値メモリと、
焦点評価値が最大値となる時の前記フォーカスモータの回転位置を記憶するモータ位置メモリと、
前記焦点評価値が前記最大値メモリの値より所定量減少した時点で前記フォーカスモータを反転せしめ、前記モータ位置メモリに保持される位置まで逆行せしめて停止させるフォーカスモータ制御手段」は、フォーカスモータを回転させつつ最大の焦点評価値が得られる位置を探し、その位置にレンズを戻して停止させる機能を果たすものであるので、本願発明の「前記フォーカス位置を移動させながら評価値ピーク探索動作を行い、前記評価値の極大値を検出すると、当該極大値を通過した時点のフォーカス位置に前記レンズを戻して静止させ」る構成に相当するといえる。さらに、引用発明の「前記モータ位置メモリにて保持される位置に前記フォーカスモータが停止している時の焦点評価値と前記最大値メモリの値とを比較」する構成からして、引用発明も、最大の焦点評価値が得られた位置にレンズを戻して停止させた際、焦点評価値を取得していることは明らかであるので、本願発明の「前記レンズを戻して静止させて前記評価値算出部で算出される評価値を取得する」構成に相当する構成を具備していることも明らかである。
ここで、引用発明の「前記モータ位置メモリにて保持される位置に前記フォーカスモータが停止している時の焦点評価値と前記最大値メモリの値とを比較し、両者の差が所定値に達するか否かを検出する比較手段とから成り、
その差が所定値より小さい場合にそのレンズ位置を合焦点としてレンズを静止せしめ、その差が所定値より大きい場合に山登り動作を再開する」構成と、本願発明の「前記評価値の極大値を第1評価値とし、前記評価値が極大値となるフォーカス位置に前記レンズを戻した際の前記評価値を第2評価値とするとき、前記第2評価値を前記第1評価値で除算した値が所定の閾値より大きいというジャストピンの条件を満たしているか否かを判定し、判定の結果を出力する」構成について検討すると、引用発明の「モータ位置メモリにて保持される位置に前記フォーカスモータが停止している時の焦点評価値」、「前記最大値メモリの値」が、それぞれ本願発明の「第2評価値」、「第1評価値」に相当することは明らかであるので、引用発明の「両者の差が所定値に達するか否かを検出する比較手段」と、本願発明の「前記第2評価値を前記第1評価値で除算した値が所定の閾値より大きい」「か否かを判定」する構成とは、「前記第2評価値と前記第1評価値を比較した値を所定の値と対比」する点で共通する。また、引用発明の「合焦点」が本願発明の「ジャストピン」に相当することも明らかであり、さらに引用発明の「所定値より小さい場合にそのレンズ位置を合焦点としてレンズを静止せしめ」「所定値より大きい場合に山登り動作を再開する」という構成を達成するためには、条件判定の結果が出力される必要があることは明らかであるので、引用発明と本願発明とは「ジャストピンの条件を満たしているか否かの、判定の結果を出力する」点でも一致する。
したがって、両者の前記構成は、互いに「前記評価値の極大値を第1評価値とし、前記評価値が極大値となるフォーカス位置に前記レンズを戻した際の前記評価値を第2評価値とするとき、前記第2評価値と前記第1評価値を比較した値を所定の値と対比してジャストピンの条件を満たしているか否かを判定し、判定の結果を出力する」点で一致する。
なお、引用発明の「オートフォーカス回路」が本願発明の「オートフォーカス装置」に相当する装置を意味することは明らかである。

そうすると、本願発明と引用発明とは、
(一致点)
「撮像部で撮像された画像信号の特定領域の高周波成分を用いて定期的に評価値を算出する評価値算出部と、
前記評価値に応じてレンズを駆動するレンズ駆動部に与える指令値を出力するとともに、前記評価値によりジャストピン判定を行う制御部とを備え、
前記制御部は、前記フォーカス位置を移動させながら評価値ピーク探索動作を行い、前記評価値の極大値を検出すると、当該極大値を通過した時点のフォーカス位置に前記レンズを戻して静止させて前記評価値算出部で算出される評価値を取得するものであって、
前記評価値の極大値を第1評価値とし、前記評価値が極大値となるフォーカス位置に前記レンズを戻した際の前記評価値を第2評価値とするとき、前記第2評価値と前記第1評価値を比較した値を所定の値と対比してジャストピンの条件を満たしているか否かを判定し、判定の結果を出力する
オートフォーカス装置。」である点で一致し、次の点で相違する。
(相違点)
「前記第2評価値と前記第1評価値を比較した値を所定の値と対比してジャストピンの条件を満たしているか否かを判定」するに際し、
本願発明は、「第2評価値を第1評価値で除算した値が所定の閾値より大きい」ことを条件とするのに対し、引用発明は「第2評価値と第1評価値の差が所定値より小さい」ことを条件としている点。

5.検討・判断
上記相違点について検討する。
請求人も従来技術として自認するとおり(例えば、本願明細書の段落【0008】で従来技術として提示されている特開平10-213736号公報の段落【0019】参照)、焦点評価値を算出してジャストピン判定を行うオートフォーカス装置において、判定に際して焦点評価値の差を用いたり比を用いたりすることは従来から慣用されている手法にすぎない。そして、被測定物のコントラスト等の光学的特性や撮影環境の影響を受けにくくするため、輝度値によって焦点評価値や輝度値を除算し、焦点評価値や輝度値の正規化を行うことは周知の事項(例えば、特開昭57-78008号公報の第2頁右下欄第9行?第3頁左上欄第16行、特開平3-268585号公報の第4頁左上欄第16行?第5頁左上欄第20行、特開平5-344406号公報の段落【0007】?【0009】、特開2005-156597号公報の段落【0002】?【0011】参照)にすぎず、さらに、焦点評価値同士の除算をすることにより焦点評価値の正規化を行い、正規化された商の値を用いてピント具合を評価することも、例えば特開2003-15020号公報の段落【0033】?【0034】に記載されているように、周知の事項にすぎない。
してみると、2つの評価値を比較した値を所定の値と対比してジャストピンの条件を満たしているか否かを判定するに際し、引用発明で用いている「第2評価値と第1評価値の差」を用いる構成に代え、「第2評価値を第1評価値で除算した値」を用いることは当業者が容易に想到し得る事項である。
ここで、引用発明の「第2評価値と第1評価値の差が所定値より小さい」という条件を満たすならば、「第2評価値を第1評価値で除算した値」は、第2評価値が第1評価値以上の場合には「1以上」であり、また、第2評価値が第1評価値未満の場合には「所定の値より大きい1未満の値」となることは数学的に明らかであるので、引用発明の前記条件は、本願発明の「第2評価値を第1評価値で除算した値が所定の閾値より大きい」という条件と均等の条件であるといえる。
したがって、2つの評価値を比較した値を所定の値と対比してジャストピンの条件を満たしているか否かを判定するに際し、引用発明で用いている「第2評価値と第1評価値の差が所定値より小さい」という条件に代えて、「第2評価値を第1評価値で除算した値が所定の閾値より大きい」という条件を用いるよう構成することは当業者が容易に想到し得る事項である。
また、本願発明が奏する作用効果も、引用発明ならびに周知の事項から当業者が想定できる範囲のものにすぎない

よって、本願発明は、引用発明ならびに周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。

6.むすび
上記のとおり、本願の請求項1に係る発明は、本願出願前に頒布された刊行物である引用例に記載された発明ならびに周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-03-05 
結審通知日 2009-03-10 
審決日 2009-03-30 
出願番号 特願2006-182566(P2006-182566)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 吉川 陽吾  
特許庁審判長 村田 尚英
特許庁審判官 越河 勉
小松 徹三
発明の名称 オートフォーカス装置、撮像装置及びオートフォーカス方法  
代理人 伊藤 仁恭  
代理人 角田 芳末  

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