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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41J
管理番号 1197782
審判番号 不服2006-18942  
総通号数 115 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-07-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-08-30 
確定日 2009-05-21 
事件の表示 特願2005- 12600「インクジェット式記録装置のフラッシング方法及びインクジェット式記録装置」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 4月21日出願公開、特開2005-104162〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成11年3月29日に出願した特願平11-86921号の一部を平成17年1月20日に新たな特許出願としたものであって、拒絶理由に対応して平成18年7月5日付けで手続補正がなされたが、平成18年7月26日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年8月30日付けで拒絶査定に対する審判請求がなされたものである。

2.本願発明
本願請求項1?7に係る発明は、平成18年7月5日付け手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定されるものであり、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりである。
「記録用紙の幅方向に移動するキャリッジ上に装填され、ノズル開口からインク滴を吐出して記録媒体に画像を形成するインクジェット式記録ヘッドを備えたインクジェット式記録装置であって、前記記録ヘッドには固化しやすいインク滴を吐出するノズル列と固化しにくいインク滴を吐出するノズル列を記録用紙の幅方向に並列に具備し、非記録領域にてインク滴を吐出するフラッシング時において、
一方のインク滴を吐出した領域またはその周辺に他方のインク滴を吐出するフラッシング制御手段を備え、前記固化しやすいインク滴の固化を防止するように前記一方のインク滴と前記他方のインク滴を混ざり合わせることを特徴とするインクジェット式記録装置。」

3.引用刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開平10-226090号公報(以下、「刊行物」という。)には、以下の記載が図示とともにある。
ア.【請求項1】 記録媒体にインクを吐出する記録ヘッドを搭載して該記録ヘッドを往復移動をさせるためのキャリッジと、
該キャリッジに搭載される前記記録ヘッドに対して記録には用いられないインクを予備吐出させる制御を行う制御手段と、
前記キャリッジの移動領域であって、前記記録媒体が搬送される搬送領域の外部に設けられ、かつ、前記記録ヘッドにより吐出される記録には用いられないインクを受ける予備吐出受け手段とを含み、
前記制御手段は、前記記録ヘッドによる予備吐出後に前記キャリッジを前記予備吐出受け手段よりも前記搬送領域から遠い領域に移動させた後に、前記予備吐出受け手段に前記キャリッジを復帰させるミスト回避動作を実行するものであることを特徴とする記録装置。
・・・
【請求項6】 前記記録ヘッドは前記主走査方向に配列された3列のインク吐出部から構成され、該1列のインク吐出部はブラックインク吐出部であり、前記他の1列のインク吐出部は前記主走査方向に直交する副走査方向に配列されたシアン、マゼンタ、イエローの3色一体化型のカラーインク吐出部であり、前記他の残りの1列のインク吐出部は前記副走査方向に配列された淡シアン、淡マゼンタ、淡イエローの3色一体化型のカラー淡インク吐出部であることを特徴とする請求項1記載の記録装置。
イ.【0022】(実施形態1)図1は、本発明の実施形態としてのカートリッジ交換式のインクジェット記録装置の機械的構成を示す斜視図であり、図1では、このインクジェット記録装置のフロントカバーを取り外して装置の内部構造を示している。
【0023】図1において、符号1は交換式のヘッドカートリッジ、2はヘッドカートリッジ1を着脱自在に取り付けるためのキャリッジユニットである。3はヘッドカートリッジ1をキャリッジユニット2に固定するためのホルダであり、カートリッジ固定レバー4に連動して作動する。すなわち、ヘッドカートリッジ1をキャリッジユニット2内に装着してからカートリッジ固定レバー4を作動させてヘッドカートリッジ1をキャリッジユニット2に圧着させることにより、ヘッドカートリッジ1の位置決めと、カートリッジ1とキャリッジユニット2との電気的なコンタクトを得ることができる。5は電気信号をキャリッジユニット2に伝えるフレキシブルケーブルである。6はキャリッジユニット2を主走査方向に往復運動させるためのキャリッジモータである。7はキャリッジモータ6によって駆動され、キャリッジユニット2を移動させるためのキャリッジベルトである。8はキャリッジユニット2を支えるガイドシャフトである。9はホームポジションセンサで、キャリッジユニット2のホームポジションを決めるためのフォトカプラ等を備えている。10は遮光板で、キャリッジユニット2がホームポジションに到達したことが検出される。12はヘッドの回復系を含むホームポジション・ユニットである。このヘッドの回復系には、ヘッドのインク吐出口の乾燥を防止するキャッピングユニット、インク吐出口の汚れや記録ヘッド内部の汚れを取り除く吸引回復を行うポンプユニット、インク吐出口の汚れを取り除くワイピングユニットが含まれる。14は、記録中または吸引後またはワイピング後に予備吐出を行うための予備吐出口(予備吐出受け手段)である。予備吐出口14の直下には、廃インクを貯留するための廃インクタンク吸収体(不図示)が設けられている。記録媒体を排紙するための排紙ローラ13は、拍車ユニット(不図示)との間に記録媒体を挾み込み、記録媒体を記録装置外へ排出する。
【0024】なお、本実施形態では、キャリッジユニット2に搭載されたヘッドカートリッジ1のヘッド部に対し記録に用いられないインク等を予備吐出させる制御を行う制御手段(不図示)が設けられている。
【0025】ここで、記録媒体の搬送領域および記録領域に対する予備吐出口14の配設位置を説明する。記録媒体はガイドシャフト8等の下側に設けられた搬送経路を通って排紙ローラ13により記録装置の外部に排出される。このように排出される記録媒体の幅と上述の搬送経路とから搬送領域が形成されるが、この搬送領域の外側であるが、キャリッジユニット2の移動領域内に、ガイドシャフト8の一端部の下側に上述の予備吐出口14が設けられている。本実施形態では、この予備吐出口14のさらに外側、すなわち搬送領域からさらに遠い位置にキャリッジユニット2に搭載されたヘッドカートリッジ1の待機ポジションが確保されている。
ウ.【0026】図2は、本実施形態で用いられるヘッドカートリッジ1を示す分解斜視図である。15は交換式の黒(Bk)インクを収容し貯留しているインク容器としてのインクタンクである。16はシアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)およびこれらのインクよりも染料濃度の低い淡シアン(c)、淡マゼンタ(m)、淡イエロー(y)の各色剤のインクを収容している交換式のインクタンクである。17はインクタンク16の連結口で、ヘッドカートリッジ1と連結してインクを供給する部分である。18はインクタンク15のインク供給口である。これらのインク供給口17および18は、供給管20に連結されて、Bkインクを吐出する記録ヘッド部(黒インク吐出部)21とインクC,M,Yのインクを吐出する記録ヘッド部(カラー濃インク吐出部)22と淡インクc,m,yのインクを吐出する記録ヘッド部(カラー淡インク吐出部)23にインクを供給するように構成されている。これら記録ヘッド部21,22および23は、ヘッドカートリッジ1が図1に示した記録装置のキャリッジユニット2に装着され固定される際に、キャリッジユニット2が往復移動するガイドシャフト8の軸方向に沿って順に配列される。すなわち、記録媒体の同一記録位置には、記録ヘッド部21,22および23がこの順序で通過し、逆方向の移動の際には、記録ヘッド部23,22および21の順序で通過する。この関係は、予備吐出受け手段としての予備吐出口14等に対しても同様である。
エ.【0032】これに対し、本実施形態では図4に示すように、不図示の制御手段により、キャリッジユニット2を矢印F方向に移動させながら予備吐出口14上を通過させて、記録ヘッド部21,22および23の順で予備吐出を行った後に、キャリッジユニット2をさらに矢印F方向の回復ユニットRのホームポジション側に向けて、予備吐出口14と記録ヘッド部23とが完全にずれて、記録ヘッド部23が予備吐出口14の開口部分を塞がなくなる位置まで移動させる。すなわち、記録ヘッド部21が図4内破線αで示す位置に到達するまで図面右側にキャリッジユニット2を移動させる。この後、キャリッジユニット2を矢印B方向の記録媒体P側に移動させる。この動作中、矢印B方向に、キャリッジユニット2がホームポジション側から記録媒体Pに予備吐出口14上を通過するとき、予備吐出口14内に周辺の空気が入り込み、予備吐出口14内に下向きの気流が発生し、予備吐出口14内を浮遊中の予備吐出ミストが廃インクタンクAに到達し、キャリッジユニット2が予備吐出口14上を通過するとき予備吐出口14内に上向きの負圧が発生しても、予備吐出ミストの舞い上がりを極力軽減することができる。
オ.【0046】記録中に使用頻度の低いノズルの吐出性能を維持するための予備吐出は、通常数発?十数発の吐出で効果を発揮する。実験では数発程度の予備吐出であれば、予備吐出直後にキャリッジが予備吐出口を通過しても予備吐出ミストの舞い上がりは僅かで予備吐出ミストが付着することによる記録媒体の画像品位低下はほとんど無視できる程度である。そこで、ステップS7において予備吐出の発数をカウントし、その数が所定発数n以上であれば、実施形態1または実施形態2で示された予備吐出後のキャリッジ動作としてステップS8を実行する。ステップS8は、図5におけるステップS4およびS5を実行するか、あるいは図6におけるステップS6を実行するものである。これによりキャリッジユニットを不要に停止させることなく、また、記録と無関係な方向へキャリッジユニットを移動させることもないので、記録速度の低下を招かない。
カ.【0053】
Y1
C.I.ダイレクトイエロー142 2部
チオジグリコール 10部
商品名;アセチレノールEH 0.05部
(川研ファインケミカル株式会社製)
水 残部
M1
染料をC.I.アシッドレッド289;2.5部に代えた以外はY1と
同じ組成
C1
染料をC.I.アシッドブルー9;2.5部に代えた以外はY1と同じ
組成
K1
染料をC.I.フードブラック2;3部に代えた以外はY1と同じ組成
以上示したそれぞれ処理液(液体組成物)とインクとの混合において、本発明では、上述した処理液とインクが被プリント材上あるいは被プリント材に浸透した位置で混合する結果、反応の第1段階として処理液中に含まれているカチオン性物質の内、低分子量の成分またはカチオン性オリゴマーとインクに使用しているアニオン性基を有する水溶性染料とがイオン的相互作用により会合を起こし、瞬間的に溶液相から分離を起こす。

上記ウ.の「Bkインクを吐出する記録ヘッド部(黒インク吐出部)21とインクC,M,Yのインクを吐出する記録ヘッド部(カラー濃インク吐出部)22と淡インクc,m,yのインクを吐出する記録ヘッド部(カラー淡インク吐出部)23」が、それぞれノズル開口を有し、該ノズル開口からインク滴を吐出して記録媒体に画像を形成すること、黒インク吐出部21とカラー濃インク吐出部22とカラー淡インク吐出部23の各ノズル列が記録媒体の幅方向に並列に配置されていることは技術常識である。
上記イ.の段落【0025】、エ.の記載から、予備吐出は、非記録領域にてインク滴が吐出されるものと認められる。
よって、上記記載及び図面を含む刊行物全体の記載から、刊行物には、以下の発明が開示されていると認められる。
「記録媒体の幅方向に移動するキャリッジユニット2上に装填され、ノズル開口からインク滴を吐出して記録媒体に画像を形成するヘッド部を有するヘッドカートリッジ1を備えたインクジェット式記録装置であって、前記ヘッド部には黒インク吐出部21とカラー濃インク吐出部22とカラー淡インク吐出部23の各ノズル列を記録媒体の幅方向に並列に具備し、非記録領域にてインク滴を吐出する予備吐出時において、
キャリッジユニット2を移動させながら予備吐出口14上を通過させて、黒インク吐出部21、カラー濃インク吐出部22およびカラー淡インク吐出部23の順で予備吐出を行った後に、カラー淡インク吐出部23が予備吐出口14の開口部分を塞がなくなる位置までキャリッジユニット2を移動させる予備吐出制御手段を備えるインクジェット式記録装置。」(以下、「引用発明」という。)

4.対比
本願発明と引用発明とを比較すると、引用発明の「記録媒体」、「キャリッジユニット2」、「ヘッドカートリッジ1」及び「予備吐出」は、それぞれ本願発明の「記録用紙」、「キャリッジ」、「インクジェット式記録ヘッド」及び「フラッシング」に相当する。
刊行物の段落【0053】に「C.I.フードブラック2」が3部混入されるのに対し、「C.I.ダイレクトイエロー142」は2部、「C.I.アシッドレッド289」及び「C.I.アシッドブルー9」は2.5部混入されること、即ち、ブラックインクはカラーインクに比べ固形分濃度が高いことが記載されている。また、本願明細書の段落【0016】に「特に、ブラックインクは印字濃度を上げるべく、固形分濃度が高いため、溶剤が蒸発した際に粘度増加、固化しやすいという性質を有している。」と記載され、特開平10-278304号公報の段落【0011】、特開平11-78038号公報の段落【0030】に記載のように、通常、黒インクは、カラーインクに比べ固化しやすい性質を有しているものである。そうすると、引用発明の「黒インク吐出部21」のノズル列は、本願発明の「固化しやすいインク滴を吐出するノズル列」に相当し、引用発明の「カラー濃インク吐出部22」或いは「カラー淡インク吐出部23」のノズル列は、本願発明の「固化しにくいインク滴を吐出するノズル列」に相当する。
引用発明の「キャリッジユニット2を移動させながら予備吐出口14上を通過させて、黒インク吐出部21、カラー濃インク吐出部22およびカラー淡インク吐出部23の順で予備吐出を行った後に、カラー淡インク吐出部23が予備吐出口14の開口部分を塞がなくなる位置までキャリッジユニット2を移動させる予備吐出制御手段」と、本願発明の「一方のインク滴を吐出した領域またはその周辺に他方のインク滴を吐出するフラッシング制御手段」とは、「一方のインク滴と他方のインク滴の吐出を制御するフラッシング制御手段」の点で共通する。
よって、両者は、
「記録用紙の幅方向に移動するキャリッジ上に装填され、ノズル開口からインク滴を吐出して記録媒体に画像を形成するインクジェット式記録ヘッドを備えたインクジェット式記録装置であって、前記記録ヘッドには固化しやすいインク滴を吐出するノズル列と固化しにくいインク滴を吐出するノズル列を記録用紙の幅方向に並列に具備し、非記録領域にてインク滴を吐出するフラッシング時において、
一方のインク滴と他方のインク滴の吐出を制御するフラッシング制御手段を備えるインクジェット式記録装置。」
の点で一致し、以下の点で相違している。
[相違点]本願発明は、「一方のインク滴を吐出した領域またはその周辺に他方のインク滴を吐出するフラッシング制御手段を備え、前記固化しやすいインク滴の固化を防止するように前記一方のインク滴と前記他方のインク滴を混ざり合わせる」と特定されているのに対し、引用発明は、「キャリッジユニット2を移動させながら予備吐出口14上を通過させて、黒インク吐出部21、カラー濃インク吐出部22およびカラー淡インク吐出部23の順で予備吐出を行った後に、カラー淡インク吐出部23が予備吐出口14の開口部分を塞がなくなる位置まで移動させる予備吐出制御手段を備える」ものの、本願発明のような特定がなされていない点。

5.判断
上記相違点について検討する。
「一方のインク滴を吐出した領域またはその周辺に他方のインク滴を吐出するフラッシング制御手段を備え、前記固化しやすいインク滴の固化を防止するように前記一方のインク滴と前記他方のインク滴を混ざり合わせる」という特定で、インクジェット式記録装置の構成がどのように限定されるのか必ずしも明らかではないが、本願明細書には以下の記載がある。
「【0021】
このように、固化しやすいインクと固化しにくいインクを互いに周辺に吐出することでインクを混ざり合わせるため、固化しやすいインクが堆積することを抑制できる。
【0022】
ここで、フラッシング制御手段は、前記一方のインク滴として前記他方のインク滴より固化しやすいインクを吐出し、前記他方のインク滴として前記一方のインク滴より固化しにくいインクを吐出することが望ましい。
【0023】
また、フラッシング制御手段は、前記一方のインク滴として前記他方のインク滴より固化しにくいインクを吐出し、前記他方のインク滴として前記一方のインク滴より固化しやすいインクを吐出してもよい。
【0024】
このように、固化しやすいインクと固化しにくいインクの吐出する順番に限らずインクを混ざり合わせることで、固化しやすいインクが堆積することを抑制できる。
【0025】
前記フラッシング領域には、紙案内部材に形成された開口穴と、前記開口穴の先方に配置されたインク吸収材とを有することを特徴としている。ここで、前記開口穴と前記インク吸収材との間に、記録ヘッドから吐出されたインク滴をインク吸収材に導く斜面部材を形成することが望ましい。また、前記開口穴の寸法、形状が、記録ヘッドのノズルプレ-トより、小さく形成されていることが望ましい。」
「【0058】
すなわち、図6(a)に示すように、2列のノズル開口列を3組有する記録ヘッドの夫々のノズル列をa?fとし、ノズル開口a、cの間、ノズル開口c、eの間のノズル列の組間距離をL1とし、ノズル開口a、bの間、ノズル開口c、dの間ノズル開口e、fの間のノズル列間距離をL2としたとき、ポジションA(第1のポジション)とポジションB(第2のポジション)との距離Xは、
L1-L2≦X≦L1+L2
または、
2(L1-L2)≦X≦2(L1+L2)
の範囲内であれば、ポジションB(第2のポジション)において吐出されたイエロー、シアン、マゼンタが斜面部20に付着したブラックインクと十分混じり合い、ブラックインクの固化が抑制される。
【0059】
したがって、ポジションA(第1のポジション)とポジションB(第2のポジション)との距離Xは、L1-L2≦X≦L1+L2または、2(L1-L2)≦X≦2(L1+L2)の範囲内であれば良い。
【0060】
上記実施形態にあっては、ポジションA(第1のポジション)、ポジションB(第2のポジション)にキャリッジが停止後、所定のインクを吐出するように構成されている。
【0061】
しかし、特にこれに限定されるものではなく、ポジションB(第2のポジション)においてなされるイエロー、シアン、マゼンタインクの吐出はキャリッジが移動状態において行ってもよい。すなわち、キャリッジポジションB(第2のポジション)を到達した際、キャリッジを停止することなく、移動状態を維持しつつ、イエロー、シアン、マゼンタインクの吐出を行ってもよい。
【0062】
このように構成することによって、ポジションA(第1のポジション)において吐出されたブラックインクが斜面部20aに広範囲に飛散しても、前記飛散したブラックインクの固化を抑制し、斜面部20aの下方向に落下し、インク吸収材14によって吸収される。なお、このフラッシュング方法にあっても、ブラックインクの広範囲な飛散を防止するため、ポジションA(第1のポジション)におけるブラックインクの吐出は、キャリッジを停止した状態においてなされる。
【0063】
また、上記実施形態にあっては、ポジションA(第1のポジション)、Bは、予め設定された固定位置におかれるが、特にこれに限定されることはなく、ポジションB(第2のポジション)を設定した固定位置とし、ポジションA(第1のポジション)とポジションB(第2のポジション)との距離Xが、L1-L2≦X≦L1+L2または、2(L1-L2)≦X≦2(L1+L2)の範囲内となるように、ポジションA(第1のポジション)を随時可変してもよい。また、これとは逆にポジションB(第1のポジション)を随時可変してもよい。
【0064】
特に、ポジションA(第1のポジション)を随時可変とする場合には、ポジションA(第1のポジション)で吐出を行うごとにその位置を変化させ、連続して同一位置をポジションA(第1のポジション)としないように構成するのが良い。この場合、ポジションA(第1のポジション)で吐出を行うブラックインクが固化しても、ポジションA(第1のポジション)が移動するため、斜面部20aの同一部分にブラックインクが堆積することはない。」

上記記載、特に、段落【0058】?【0064】によると、フラッシング制御手段は、固化しやすいインク滴を吐出するノズル列と固化しにくいインク滴を吐出するノズル列の吐出時の吐出位置のヘッド移動方向の差がある程度の範囲内となるよう制御することは記載されているが、段落【0062】には、ブラックインクが広範囲に飛散することが記載され、段落【0061】には、移動状態を維持しつつ吐出することが記載されているが、吐出時のキャリッジのスピード、移動状態を維持しつつ吐出されたインク滴がどのような飛行をするかついての明記はないから、吐出されたインクの到達位置については明示するものではない。また、フラッシング時に何滴吐出するか、一滴の大きさ等についても何等記載されておらず、段落【0025】の記載によると、吐出先の構造は、斜面部材に限定されるものではないから、吐出先でインク滴がどのように広がるかは、何等限定されていないものである。さらに、段落【0064】には、ポジションAを移動させない場合は、ブラックインクが固化する可能性を想定し、即ち、一部混ざり合わないインクが生じることも想定しているものである。
そうすると、本願発明の相違点に係る構成は、固化しやすいインク滴を吐出するノズル列と固化しにくいインク滴を吐出するノズル列の吐出時の吐出位置のヘッド移動方向の差がある程度の範囲内となるよう制御するフラッシング制御手段を備え、吐出された両者のインクが到達先で結果として混ざり合う可能性を有するものを含んでいるものといえる。
引用発明の黒インク吐出部21、カラー濃インク吐出部22およびカラー淡インク吐出部23からの予備吐出は、確実に予備吐出口14に吐出しなくてはならないことは明らかである。また、刊行物のオ.に、予備吐出は、通常数発?十数発吐出する旨記載されているから、数発?十数発の吐出を確実に予備吐出口14に吐出できるように、引用発明の予備吐出制御手段を、各吐出部から予備吐出口14の中央部分を中心に吐出時の吐出位置のヘッド移動方向の差がある程度の範囲内となるよう制御するようなものにすることは当業者が容易になし得る程度のことである。
また、刊行物のエ.、オ.に記載のように予備吐出においてミストが発生することが記載され、前述のように、予備吐出は、通常数発?十数発吐出するものであるから、引用発明の各突出部から吐出された各インクは、吐出先で相当広い領域に広がるものといえ、吐出された各インクが到達先で結果として混ざり合う蓋然性の高いものであるといえる。
よって、上記相違点に係る本願発明のような構成とすることは当業者が容易になし得る程度のことである。

以上のように、引用発明に本願発明の相違点に係る構成を備えることは、刊行物の記載及び周知技術に基づいて当業者が容易に想到できたことであり、係る発明特定事項を採用することによる本願発明の効果も当業者が予測できる範囲のものである。

6.むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物記載の発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、他の請求項に係る発明を検討するまでもなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、本願は、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-03-19 
結審通知日 2009-03-24 
審決日 2009-04-06 
出願番号 特願2005-12600(P2005-12600)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 名取 乾治  
特許庁審判長 長島 和子
特許庁審判官 菅藤 政明
江成 克己
発明の名称 インクジェット式記録装置のフラッシング方法及びインクジェット式記録装置  
代理人 上柳 雅誉  
代理人 宮坂 一彦  

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