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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F22G
管理番号 1197804
審判番号 不服2007-10569  
総通号数 115 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-07-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-04-12 
確定日 2009-05-21 
事件の表示 特願2002-359674号「余剰水蒸気の動力回収方法及びその装置」拒絶査定不服審判事件〔平成16年7月8日出願公開、特開2004-190949号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本件に係る出願(以下「本願」という。)は、平成14年12月11日の特許出願であって、平成19年3月7日付けで拒絶査定がなされ(発送日:同年3月13日)、これに対し、同年4月12日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。
本願の請求項2に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成19年1月29日付け手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項2に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「余剰の飽和水蒸気から動力を回収する余剰水蒸気の動力回収装置において、余剰水蒸気供給源からの飽和水蒸気を供給するための飽和水蒸気供給経路と、前記飽和水蒸気供給経路の途中から分岐し、前記飽和水蒸気の一部を抜き出し飽和水蒸気として導出するための抜き出し飽和水蒸気導出経路と、前記抜き出し飽和水蒸気を断熱圧縮し、抜き出し過熱蒸気にする圧縮機と、前記抜き出し飽和水蒸気が抜き出された後の前記飽和水蒸気供給経路からの過熱化対象飽和水蒸気と前記圧縮機からの前記抜き出し過熱蒸気とを熱交換して、前記抜き出し過熱蒸気を凝縮させることにより、前記過熱化対象飽和水蒸気を加熱して過熱蒸気にする凝縮器と、前記凝縮器からの前記過熱蒸気によって回転駆動させて動力回収を行うための動力回収用水蒸気タービンとを備えていることを特徴とする余剰水蒸気の動力回収装置。」

2.刊行物
(2-1)原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2002-89208号公報(以下「刊行物1」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。

ア.「ところで、中圧の余剰蒸気は、通常、飽和蒸気の状態で供給されることが殆どである。そのために、中圧用蒸気タービンの蒸気出口における排出蒸気は、気体と液体の蒸気が混在した湿り飽和蒸気の状態になっており、飽和気体と飽和液との割合の指標である乾き度が1.0以下になっている。」(段落【0007】)

イ.「従って、本発明の目的は、蒸気タービンを用いて余剰蒸気の圧力エネルギーを動力としてより効果的に回収することを可能ならしめる余剰蒸気のエネルギー回収装置を提供することである。」(段落【0008】、下線は当審にて付与、以下同様。)

ウ.「即ち、符号5は中圧用蒸気タービンである前記蒸気タービン4で駆動される3段遠心式圧縮機(以下、圧縮機という。)であり、この圧縮機5の前記蒸気タービン4に、図示しない中圧ヘッダからこの蒸気タービン4を駆動する中圧の余剰蒸気を供給する前記余剰蒸気供給ライン2が連通している。そして、この余剰蒸気供給ライン2には、この余剰蒸気供給ライン2内を流れる中圧の余剰蒸気を加熱する、後述する構成になる蓄熱燃焼式間接加熱装置3が介装されている。」(段落【0017】)

エ.「ところで、前記蓄熱式ラジアントチューブ燃焼装置32は、ラジアントチューブ32b内で燃料を燃焼させて、このラジアントチューブ32bを赤熱させ、輻射熱により固体を加熱するものである。従って、この蓄熱式ラジアントチューブ燃焼装置32だけでは、ガス体である蒸気への伝熱量が大きくないので、余剰蒸気を効果的に加熱することができない。
そこで、本実施の形態1に係る余剰蒸気のエネルギー回収装置1では、上記のとおり、前記伝熱体33を設けて、ラジアントチューブ32bの輻射熱によりこの伝熱体33を加熱し、そしてこの伝熱体33の伝熱筒体33aと、内外側伝熱フィン33b,33cの熱を、対流伝熱作用により余剰蒸気に伝達する構成としたものである。従って、伝熱体33から対流伝熱作用により伝達される熱により余剰蒸気を効果的に加熱することができる。なお、前記伝熱筒体33a、および内外側伝熱フィン33b,33cの材質としては、例えば構造用炭素鋼またはステンレス系鋼材等を採用すれば良い。
以下、本実施の形態1に係る余剰蒸気のエネルギー回収装置1の作用態様を説明すると、従来例2と異なり、前記蓄熱燃焼式間接加熱装置3の蓄熱式ラジアントチューブ燃焼装置32と伝熱体33とにより、対流伝熱作用を活用して余剰蒸気を効果的に加熱し、この余剰蒸気の乾き度を自由自在にコントロールして高くすることができる。
従って、本実施の形態1に係る余剰蒸気のエネルギー回収装置1によれば、エロージョンによるタービン材の損傷を恐れることなく、蒸気タービン4の蒸気入口と蒸気出口との余剰蒸気圧力の圧力差を大きくすることができるから、余剰蒸気の圧力エネルギーを動力として効率良く回収することができる。また、余剰蒸気は蓄熱燃焼式間接加熱装置3により間接的に加熱され、汚染されるようなことがないから、蒸気タービン4から排出された排出蒸気を、後工程の給湯器やヒーターに供給しても問題が生じるような恐れもない。」(段落【0020】乃至【0023】)

オ.「以上述べたように、本発明に係る余剰蒸気のエネルギー回収装置によれば、蓄熱燃焼式間接加熱装置により余剰蒸気を効果的に加熱し、この余剰蒸気の乾き度を自由自在にコントロールして高くすることができ、エロージョンによるタービン材の損傷を恐れることなく、蒸気タービンの蒸気入口と蒸気出口との余剰蒸気圧力の圧力差を大きくすることができるから、従来例2に係る余剰蒸気のエネルギー回収装置よりも、余剰蒸気の圧力エネルギーを動力として効率良く回収することができるという優れた効果がある。」(段落【0033】)

上記記載事項及び図面の記載内容からみて、刊行物1には、次の発明が記載されている。

「飽和蒸気である余剰蒸気の圧力エネルギーを動力として回収する余剰蒸気のエネルギー回収装置において、
中圧ヘッダから中圧の余剰蒸気を供給する余剰蒸気供給ライン2と、
余剰蒸気供給ライン2に介装された中圧の余剰蒸気を間接的に加熱し、乾き度を高くされた加熱された蒸気にする蓄熱燃焼式間接加熱装置3と、
加熱された蒸気である余剰蒸気の圧力エネルギーを動力として回収するための蒸気タービン4とを備えている余剰蒸気のエネルギー回収装置。」

(2-2)同じく、特開昭53-56756号公報(以下「刊行物2」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。

ア.「この発明では発生蒸気の一部を圧縮機で圧縮して昇圧して飽和温度を上昇せしめ、その昇圧した高圧蒸気が凝縮するときの熱量によつて発生蒸気の残部を加熱して過熱蒸気として繰返し被濃縮物に接触させるようにしてある。」(第2頁左上欄第1乃至5行)

イ.「この第2の管路9の中途には圧縮機10が設けられている。圧縮機10は排出口5側の蒸気を圧縮して熱交換器8へ供給するようになつている。11は熱交換器8の加熱側流体の出口に接続された排出管路であり、別の熱交換器12の加熱側を通るように接続されて適所に導びかれている。・・・ このように構成された廃液濃縮装置は、始動時にタンク1内に適量の廃液2を収容し、タンク1の上部空間に別の蒸気供給源からの蒸気を供給しながら、ブロワ7、圧縮機10を動作させる。廃液2の温度が上昇してくると安定した状態で次のように動作する。排出口5から出る蒸気はその一部が第2の管路9に流入し、残りの蒸気が第1の管路6を通つて循環せしめられる。第2の管路9に流入した蒸気は圧縮機10によつて圧縮されて昇温し熱交換器8へ供給される。そしてその凝縮するときの熱量が第1の管路を通る循環蒸気に与えられ、循環蒸気は過熱蒸気となつて散気管3へ供給され廃液2内に噴出せしめられる。したがつて第2の管路9を通つて排出される蒸気の熱量が再利用される。」(第2頁右上欄第1行乃至同左下欄第4行)

ウ.第1図には、第2の管路9が第1の管路6から分岐することが示されている。

上記記載事項及び図面の記載内容からみて、刊行物2には、次の発明が記載されている。

「第1の管路6と第1の管路6の途中から分岐し蒸気の一部が流入する第2の管路9とを備え、
第2の管路9に流入した蒸気を圧縮して昇温された蒸気にする圧縮機10と、
第1の管路6の循環蒸気と第2の管路9の圧縮機10によって昇温された蒸気とを熱交換して、昇温された蒸気を凝縮するときの熱量を第2の管路6を通る循環蒸気に与え、過熱蒸気にする熱交換器8とを備えた
蒸気の加熱手段。」

3.対比
本願発明と刊行物1に記載された発明を対比する。
刊行物1に記載された発明の「飽和蒸気である余剰蒸気」は、本願発明の「余剰の飽和水蒸気」に相当し、以下同様に、
「中圧ヘッダ」は「余剰水蒸気供給源」に、
「余剰蒸気供給ライン2」は「飽和水蒸気供給経路」に、
「乾き度を高くされた加熱された蒸気」は「過熱蒸気」に、
「圧力エネルギーを動力として回収するための蒸気タービン4」は「回転駆動させて動力回収を行うために動力回収用水蒸気タービン」に、
「飽和蒸気である余剰蒸気の圧力エネルギーを動力として回収する余剰蒸気のエネルギー回収装置」は「余剰の飽和水蒸気から動力を回収する余剰水蒸気の動力回収装置」に、
それぞれ相当する。
そして、刊行物1に記載された発明の「余剰蒸気を間接的に加熱し、乾き度を高くされた加熱された蒸気にする蓄熱燃焼式間接加熱装置3」について、該装置に入る余剰蒸気は、本願発明の「過熱化対象飽和水蒸気」に相当するといえるから、本願発明の「過熱化対象飽和水蒸気を加熱して過熱蒸気にする凝縮器」とは、過熱化対象飽和水蒸気を加熱して過熱蒸気にする手段である点で共通する。

したがって、上記両者の一致点及び相違点は、次のとおりである。
[一致点]
「余剰の飽和水蒸気から動力を回収する余剰水蒸気の動力回収装置において、余剰水蒸気供給源からの飽和水蒸気を供給するための飽和水蒸気供給経路と、飽和水蒸気供給経路の過熱化対象飽和水蒸気を加熱して過熱蒸気にする手段と、前記過熱蒸気にする手段からの過熱蒸気によって回転駆動させて動力回収を行うための動力回収用水蒸気タービンとを備えている余剰水蒸気の動力回収装置。」

[相違点]
過熱化対象飽和水蒸気を加熱して過熱蒸気にする手段が、
本願発明では、飽和水蒸気供給経路の途中から分岐し、飽和水蒸気の一部を抜き出し飽和水蒸気として導出するための抜き出し飽和水蒸気導出経路と、抜き出し飽和水蒸気を断熱圧縮し、抜き出し過熱蒸気にする圧縮機と、抜き出し飽和水蒸気が抜き出された後の飽和水蒸気供給経路からの過熱化対象飽和水蒸気と圧縮機からの抜き出し過熱蒸気とを熱交換して、抜き出し過熱蒸気を凝縮させることにより、過熱化対象飽和水蒸気を加熱して過熱蒸気にする凝縮器からなるのに対して、
刊行物1に記載された発明では、余剰蒸気供給ライン2(「飽和水蒸気供給経路」)に介装された蓄熱燃焼式加熱装置からなる点。

4.当審の判断
以下、上記相違点について検討する。
刊行物2に記載された発明は、蒸気を加熱して過熱蒸気にする手段に関するものである。
そして、刊行物1に記載された発明と刊行物2に記載された発明とは、蒸気を加熱して過熱蒸気にする手段を備える点で共通するものである。
したがって、刊行物1に記載された発明の過熱化対象飽和水蒸気を加熱して過熱蒸気にする手段に、刊行物2に記載された発明の蒸気を過熱蒸気にする加熱手段を適用して、上記相違点に係る本願発明の発明特定事項とすることは当業者が容易になし得たものである。

また、本願発明の奏する効果についてみても、刊行物1及び2に記載された発明から当業者が予測できる範囲内である。

よって、本願発明は、刊行物1及び2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるといえる。

5.むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、刊行物1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

したがって、本願のその他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-03-17 
結審通知日 2009-03-24 
審決日 2009-04-06 
出願番号 特願2002-359674(P2002-359674)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F22G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大屋 静男  
特許庁審判長 平上 悦司
特許庁審判官 佐野 遵
長崎 洋一
発明の名称 余剰水蒸気の動力回収方法及びその装置  
代理人 梶 良之  
代理人 竹中 芳通  

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