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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16N |
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管理番号 | 1197918 |
審判番号 | 不服2008-1852 |
総通号数 | 115 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2009-07-31 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2008-01-24 |
確定日 | 2009-05-20 |
事件の表示 | 特願2002-50708「成形機用直動装置の潤滑装置」拒絶査定不服審判事件〔平成15年2月7日出願公開、特開2003-35397〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯・本願発明 本願は、平成14年2月27日(優先権主張平成13年5月16日)の出願であって、平成19年12月18日付けで拒絶査定がされたところ、平成20年1月24日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。 そして、本願の請求項1?11に係る発明は、平成17年8月11日付け、及び平成19年8月3日付けの手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?11に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりのものである。 「【請求項1】 (a)螺旋状の溝を備えるねじ軸と、該ねじ軸の螺旋状の溝と同ピッチの螺旋状の溝を備えるねじナットと、前記ねじ軸の螺旋状の溝とねじナットの螺旋状の溝との間に介在し、前記ねじ軸とねじナットとの間で動力を伝達する動力伝達部材とから成り、回転運動を直線運動へ、又は、直線運動を回転運動へ変換する変換機構と、 (b)供給した潤滑油を回収するタンクと、前記変換機構にタンクから潤滑油を供給する供給路とを含む潤滑油循環管と、 (c)前記ねじナットを取り付けるナット支持部材に取り付けられ、前記ねじナットの外方に配設されたナットカバー部材と、 (d)前記ねじ軸を支持するねじ軸支持部材と、 (e)該ねじ軸支持部材に取り付けられ、前記ナットカバー部材の下方にまで延在するオイルパンとを有し、 (f)該オイルパンは、前記ナットカバー部材に対し、軸方向に相対的に移動可能であることを特徴とする成形機用直動装置の潤滑装置。」 2.原査定の拒絶の理由に引用された本願の優先日前に日本国内において頒布された刊行物に記載された発明及び記載事項 (1)刊行物1:実願昭56-179508号(実開昭58-84452号)のマイクロフィルム (2)刊行物2:特開2001-27299号公報 (3)刊行物3:実願昭59-54543号(実開昭60-166524号)のマイクロフィルム (刊行物1) 刊行物1には、「送りねじ装置」に関して、図面とともに、下記の技術的事項が記載されている。 (a)「この考案は、高精度の位置決めを可能とした防塵カバー付の送りねじ装置に関する。」(第2頁第1及び2行) (b)「ねじ軸1は、断面円弧状の螺旋溝2を外面に形成した軸で両端を側板3,4に固定された軸受5,6により回転自在に支承されている。 このねじ軸の螺旋溝2に対応する螺旋溝7を内面に有し一方の端部に取付用のフランジ8を有するナット9は、多数のボール10を介してねじ軸1に螺合されている。 このナット9には、図示は省略したがボール10を循環させる公知の内部循環部が設けられている。 この構成により、ボール8の転動を介してねじ軸1とナット9が相対螺旋運動可能とされボールねじが形成されている。 ボールナットのフランジ8に設けた孔11は、使用にあたってナット9を他の部材に取付けるためのボルト孔である。 カバー12、13は、蛇腹状の筒状体で、ナット9と側板3の間又はナット9と側板4の間のねじ軸1の露出部分を夫々密閉的に覆うもので、カバー12,13の端面は、ナット9の端面と側板3又は4に密着され小ねじ14によって夫々固定されており、ナット9の軸方向の移動に伴なって伸縮自在となっている。 ナット9に近接したカバー12の上端部には、流体流入口15がカバー12の下端部には流体流出口16が対向するように設けられている。流体流入口15には流体供給用のホース17の一方の端部が接続され、他の一方の端部には潤滑性の流体18を供給するポンプ19に接続されている。流体流出口16には流体流出用のホース20の一方の端部が接続され、他の一方の端部には潤滑性の流体18を回収するタンク21に接がれている。 潤滑性の流体18はポンプ19により加圧され、ホース17を通って流体流入口15よりカバー12内のねじ軸1にそそがれ、下方に流れて流体流出口16よりホース20を通ってタンク20に回収され循環可能となっている。」(第3頁第11行?第5頁第7行) したがって、刊行物1には、下記の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 【引用発明】 螺旋溝2を備えるねじ軸1と、該ねじ軸1の螺旋溝2と同ピッチの螺旋溝7を備えるナット9と、前記ねじ軸1の螺旋溝2とナット9の螺旋溝7との間に介在し、前記ねじ軸1とナット9との間で動力を伝達する多数のボール10とから成り、ねじ軸1とナット9を相対螺旋運動可能とする送りねじ装置と、 供給した潤滑性の流体18を回収するタンク21と、前記送りねじ装置にタンク21から潤滑性の流体18を供給する供給路とを含むホース17,20と、 前記ナット9を取り付ける他の部材と、前記ナット9に取り付けられ、前記ナット9と側板4の間に配設された伸縮自在なカバー13と、 前記ねじ軸1を支持する側板4と、 からなる送りねじ装置の潤滑装置。 (刊行物2) 刊行物2には、「ボールねじ装置」に関して、図面とともに、下記の技術的事項が記載されている。 (c)「本発明は、工作機械、搬送機械、測定機器などの高精度位置決め送りに使用されるボールねじ装置に関する。」(第2頁第1欄第14?16行、段落【0001】参照) (d)「連通路及びねじ軸の外周面に供給された潤滑剤は、ナットの回転により、ねじ軸全体に潤滑剤の膜を形成し、ボールねじ装置の作動に伴う発熱を取り除く。また、これと同時に、ねじ軸の外周面に存在する異物を洗浄する。さらに、余剰となった潤滑剤は、ねじ軸より滴下、もしくは流出する。 また、同時にねじ軸の外周面から噴出した潤滑剤は、ナットの内周面に供給され、ナットの内周面の潤滑及び冷却と、ボール循環部の洗浄を行い、ナットの端部から排出される。 また、本発明に係るボールねじ装置は、前記ねじ軸表面から流出する潤滑剤やナットの両端から流出する潤滑剤を回収可能な回収装置をさらに備えることができる。 そしてまた、この回収装置は、前記回収された潤滑剤を貯蔵する潤滑剤タンクを備えることができる。」(第2頁第2欄第28?45行、段落【0012】?【0015】参照) (e)「ボールねじ装置1は、ねじ軸2の表面(外周面)から流出する潤滑剤やナット3の両端から流出する潤滑剤を回収可能な図示しない回収装置が接続されている。」(第3頁第4欄第19?22行、段落【0030】参照) (f)「ねじ軸2の回転と、ナット3の移動により、連通路14及び16から供給された(噴出された)潤滑剤は、ナット3の内周面に供給され、ナット3の潤滑及び冷却と、ボール循環部の洗浄を行い、ナット3の端部から排出される。 この排出された余剰の潤滑剤は、図示しない回収装置に回収され、濾過装置によって濾過されて再び、中空部12に供給される。」(第4頁第5欄第2?9行、段落【0036】及び【0037】参照) 3.対比・判断 本願発明と引用発明とを対比すると、それぞれの有する機能からみて、引用発明の「螺旋溝2」は本願発明の「螺旋状の溝」に相当し、以下同様に、「ねじ軸1」は「ねじ軸」に、「螺旋溝7」は「螺旋状の溝」に、「ナット9」は「ねじナット」に、「多数のボール10」は「動力伝達部材」に、「ねじ軸1とナット9を相対螺旋運動可能とする」は「回転運動を直線運動へ、又は、直線運動を回転運動へ変換する」に、「送りねじ装置」は「変換機構」又は「直動装置」に、「潤滑性の流体18」は「潤滑油」に、「タンク21」は「タンク」に、「ホース17,20」は「潤滑油循環管」に、「他の部材」は「ナット支持部材」に、「側板4」は「ねじ軸支持部材」に、それぞれ相当する。また、引用発明の「ナット9に取り付けられ、ナット9と側板4の間に配設された伸縮自在なカバー13」は、「ナット支持部材又はねじナットに取り付けられ、ねじナットの周辺に配設されたカバー部材」である限りにおいて、本願発明の「ナット支持部材に取り付けられ、ねじナットの外方に配設されたナットカバー部材」に、ひとまず相当するので、両者は、下記の一致点、及び相違点1?3を有する。 <一致点> 螺旋状の溝を備えるねじ軸と、該ねじ軸の螺旋状の溝と同ピッチの螺旋状の溝を備えるねじナットと、前記ねじ軸の螺旋状の溝とねじナットの螺旋状の溝との間に介在し、前記ねじ軸とねじナットとの間で動力を伝達する動力伝達部材とから成り、回転運動を直線運動へ、又は、直線運動を回転運動へ変換する変換機構と、 供給した潤滑油を回収するタンクと、前記変換機構にタンクから潤滑油を供給する供給路と 前記ねじナットを取り付けるナット支持部材と、前記ナット支持部材又は前記ねじナットに取り付けられ、前記ねじナットの周辺に配設されたカバー部材と、 前記ねじ軸を支持するねじ軸支持部材と、 からなる直動装置の潤滑装置。 (相違点1) 前記ナット支持部材又は前記ねじナットに取り付けられ、前記ねじナットの周辺に配設されたカバー部材に関し、本願発明は、前記「ナット支持部材に取り付けられ、前記ねじナットの外方に配設されたナットカバー部材」であるのに対し、引用発明は、ナット9に取り付けられ、ナット9と側板9の間に配設された伸縮自在なカバー13である点。 (相違点2) 本願発明は、「該ねじ軸支持部材に取り付けられ、前記ナットカバー部材の下方にまで延在するオイルパンとを有し、該オイルパンは、前記ナットカバー部材に対し、軸方向に相対的に移動可能である」のに対し、引用発明は、そのようなオイルパンの構成を具備していない点。 (相違点3) 前記直動装置に関し、本願発明は、「成形機用直動装置」であるのに対し、引用発明は、直動装置ではあるものの成形機用であるかどうか不明である点。 そこで、上記相違点1?3について検討する。 (相違点1について) 引用発明及び刊行物2に記載された技術事項は、ともに直動装置の潤滑装置に関する技術分野に属するものであって、刊行物2には、「ねじ軸の外周面から噴出した潤滑剤は、ナットの内周面に供給され、ナットの内周面の潤滑及び冷却と、ボール循環部の洗浄を行い、ナットの端部から排出される。 また、本発明に係るボールねじ装置は、前記ねじ軸表面から流出する潤滑剤やナットの両端から流出する潤滑剤を回収可能な回収装置をさらに備えることができる。」(上記摘記事項(d)参照)、「ボールねじ装置1は、ねじ軸2の表面(外周面)から流出する潤滑剤やナット3の両端から流出する潤滑剤を回収可能な図示しない回収装置が接続されている。」(上記摘記事項(e)参照)、「ねじ軸2の回転と、ナット3の移動により、連通路14及び16から供給された(噴出された)潤滑剤は、ナット3の内周面に供給され、ナット3の潤滑及び冷却と、ボール循環部の洗浄を行い、ナット3の端部から排出される。この排出された余剰の潤滑剤は、図示しない回収装置に回収され」(上記摘記事項(f)参照)と記載されている。 したがって、刊行物2には、直動装置の潤滑装置において潤滑剤がナットの端部からも流出すること、そして、その流出した潤滑剤を回収する回収装置が設けられていることが記載又は示唆されている。 上記刊行物2に記載又は示唆された事項に鑑みれば、引用発明の、ナット9に取り付けられ、ナット9と側板4の間に配設された伸縮自在なカバー13の形状や取り付け位置を変更して、ナット3の端部から流出する潤滑剤を良好に回収できるように、カバー13を他の部材(本願発明の「ナット支持部材」に相当)に取り付けるとともに、ナット9の外方に配設することは、当業者が適宜採用し得る設計変更の範囲内に事項にすぎない。 (相違点2について) 射出成形機等の成形機において、オイルパンを備えることは、従来周知の技術手段(例えば、刊行物3には、射出成形機に関し、「可動盤2の下部には給油箇所より滴下ないし流下する廃油を受けるオイルパン12が取り付けられ、ベッド18の上部にも廃油を受ける傾斜面をもった油受け13が設けられている。」(第8頁第16?19行)と記載されている。また、実願昭55-79030号(実開昭57-4317号)のマイクロフィルムには、射出成形機に関し、「各給油箇所で使用した後の潤滑油を可動盤24の下部に取付けられたオイルパン4やベッド18の上部に設置された傾斜面をもつ油受け部15に滴下または流下し」(第4頁第2?6行)と記載されている。なお、大文字を小文字で表記した個所がある。)にすぎない。 また、引用発明の側板4(本願発明の「ねじ軸支持部材」に相当)と、他の部材(本願発明の「ナット支持部材」に相当)及びカバー13(本願発明の「ナットカバー部材」に対応)は、軸方向に相対的に移動可能であることは技術的に自明である。 してみれば、上記(相違点1について)において述べた判断の前提下において、引用発明の側板4(本願発明の「ねじ軸支持部材」に相当)に、ナット3の端部から流出する潤滑剤を良好に回収できるように、従来周知の技術手段である射出成形機等の成形機に備えられるオイルパンを取り付け、カバー13の下方にまで延在させるとともに、カバー13に対し軸方向に相対的に移動可能であるようにして、上記相違点2に係る本願発明の構成とすることは、当業者が技術的に格別の困難性を有することなく容易に想到し得たものであって、これを妨げる格別の事情は見出せない。 (相違点3について) 引用発明及び刊行物2に記載された技術事項は、ともに直動装置の潤滑装置に関する技術分野に属するものであって、刊行物2には、「本発明は、工作機械、搬送機械、測定機器などの高精度位置決め送りに使用されるボールねじ装置に関する。」(上記摘記事項(c)参照)と記載されている。 また、成形機の型締装置にトグル機構を用いることは、従来周知の技術手段(例えば、刊行物3には、射出成形機の可動盤2を進退させるトグル機構が記載され、また、実願昭55-79030号(実開昭57-4317号)のマイクロフィルムには、射出成形機の可動盤24を進退させるトグル機構が記載されている。)にすぎない。 上記刊行物2の記載事項に鑑みれば、引用発明の送りねじ装置を、従来周知の技術手段である成形機の型締装置のトグル機構に用いることにより、成形機用直動装置とし、上記相違点3に係る本願発明の構成とすることは、当業者が技術的に格別の困難性を有することなく容易に想到し得たものである。 また、本願発明の奏する効果についてみても、引用発明、及び刊行物2に記載された発明、並びに従来周知の技術手段の奏するそれぞれの効果の総和以上の格別顕著な効果を奏するものとは認められない。 したがって、本願発明は、刊行物1及び2に記載された発明、並びに従来周知の技術手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 4.むすび 結局、本願の請求項1に係る発明(本願発明)は、その優先日前日本国内において頒布された刊行物1及び2に記載された発明、並びに従来周知の技術手段に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 そして、本願の請求項1に係る発明が特許を受けることができないものである以上、本願の請求項2?11に係る発明について検討をするまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2009-02-25 |
結審通知日 | 2009-03-03 |
審決日 | 2009-03-30 |
出願番号 | 特願2002-50708(P2002-50708) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(F16N)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 大熊 雄治、▲高▼辻 将人 |
特許庁審判長 |
溝渕 良一 |
特許庁審判官 |
常盤 務 藤村 聖子 |
発明の名称 | 成形機用直動装置の潤滑装置 |
代理人 | 羽片 和夫 |