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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A63F
管理番号 1198016
審判番号 不服2006-28611  
総通号数 115 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-07-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-12-25 
確定日 2009-05-28 
事件の表示 平成11年特許願第335305号「遊技機」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 6月 5日出願公開、特開2001-149558〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成11年11月26日に出願された特願平11-335305号であり、平成18年11月22日付けで拒絶の査定がなされ、これに対し、同年12月25日に拒絶査定不服の審判請求がなされたものである。
請求人は、審判請求後の平成19年1月23日付で手続補正をしたが、当審では平成20年12月18日付で同手続補正を却下するとともに、同日付で拒絶理由を通知して、それに対して平成21年2月12日付で手続補正がなされるとともに意見書が提出されたものである。

2.本願発明について
【1】本願発明
本願の請求項1に係る発明は、平成21年2月12日付の手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

「【請求項1】
複数の表示領域を有し、該複数の表示領域のそれぞれにおいて図柄の変動表示と停止表示とが可能な表示手段を備え、
始動口への遊技球の入賞に応答して前記複数の表示領域のそれぞれにおいて前記図柄の変動表示が行われた後、前記図柄の停止表示が行われ、前記複数の表示領域の図柄停止位置に停止表示された図柄が所定表示パターンとなると大入賞口が開閉制御される大当り状態となるように構成された遊技機において、
前記大当り状態の生起確率を向上する確率変動制御手段と、前記表示手段における表示を制御する表示制御手段と、を備え、
前記確率変動制御手段は、前記所定表示パターンが予め定められた確率変動図柄で揃った場合に、前記大当り状態終了後に確率変動状態に移行する動作制御を行うように構成され、
前記表示制御手段は、
前記複数の表示領域のうち少なくとも一の表示領域において、前記変動表示の開始時に前記図柄停止位置に停止表示されている図柄を前記確率変動図柄に差し替えて、該確率変動図柄を停止表示させる差替変動表示を行うとともに、
前記複数の表示領域のうち他の表示領域において、前記図柄停止位置において二以上の図柄を入れ替わり表示した後に図柄の停止表示を行う通常変動表示を行い、前記少なくとも一の表示領域において前記確率変動図柄への差し替えが行われた後に前記図柄の停止表示を行うことを特徴とする遊技機。」(以下、「本願発明」という。)

【2】特許法第29条第2項の適用
[1]引用発明
当審で通知した平成20年12月18日付の拒絶の理由(以下、「当審拒絶理由」という。)に引用され、本願の出願日前に日本国内で頒布された刊行物である引用文献1(特開平11-313939号公報)には、図面とともに、以下の事項が記載されている。
(1-1)「【要約】
・・・【構成】パチンコ機1は、遊技球が普通電動役物4に入賞すると特別図柄表示部3に表示された3つの特別図柄が変動を開始し、変動後に表示された特別図柄の組み合わせが「大当たり図柄」である場合には、遊技者にとって有利な「大当たり状態」が生起するようになっている。また、「大当たり図柄」として予め「特定図柄」と「非特定図柄」とが設定されており、表示された「大当たり図柄」が「特定図柄」である場合には、「大当たり状態」終了後に、遊技者にとって有利な「高確率状態」が生起するようになっている。・・・」
(1-2)「【0011】さらに、普通電動役物4に遊技球が入賞した場合には、普通電動役物4に付設された入賞検出装置(図示せず)から特別図柄表示部3に図柄変動開始信号が送信され、特別図柄表示部3に表示された左図柄10、右図柄11、中図柄12の各特別図柄が変動を開始するようになっている。図柄の変動は、特別図柄表示部3の液晶画面中の左図柄表示部位、右図柄表示部位、中図柄表示部位の各表示部位において、図5に示した15図柄、すなわち「一段」、「二段」、「三段」、「四段」、「五段」、「六段」、「七段」、「八段」、「九段」、「名人」、「銀将」、「金将」、「角行」、「飛車」、「王将」の図柄が上から下へ移動する動画を表示することによって行われる。そして、所定時間後に停止表示となった各特別図柄が特定の組み合わせである場合には、遊技者にとって有利な「大当たり状態」が生起し、大入賞口7がきわめて高い確率で断続的に開成するように構成されている(なお、後述するように、各特別図柄の変動時においては、各特別図柄が一旦、ほぼ停止したように表示される場合もあるが、以下、かかる特別図柄の停止表示を「一旦停止表示」といい、変動から所定時間後の最終的な停止表示を「確定停止表示」ということもある)。また、大入賞口7は「大当たり状態」以外では開成しないようになっており、閉成状態である場合には遊技球が入賞しないようになっている。・・・
(1-3)「【0015】なお、パチンコ機1においては、左図柄10、右図柄11、中図柄12として、図5に示した14通りの図柄の内の何れかが表示されるようになっており、左図柄10、右図柄11、中図柄12の全て同一な図柄の組み合わせ、すなわち、「一段,一段,一段」、「二段,二段,二段」、「三段,三段,三段」、「四段,四段,四段」、「五段,五段,五段」、「六段,六段,六段」、「七段,七段,七段」、「八段,八段,八段」、「九段,九段,九段」、「名人,名人,名人」、「銀将,銀将,銀将」、「金将,金将,金将」、「角行,角行,角行」、「飛車,飛車,飛車」、「王将,王将,王将」の15通りの図柄の組み合わせが「大当たり図柄」として設定されている。
【0016】また、パチンコ機1は、特別図柄表示部3に「三段,三段,三段」、「七段,七段,七段」、「名人,名人,名人」、「王将,王将,王将」の何れかの「大当たり図柄」(以下、「特定図柄」といい、「特定図柄」以外の「大当たり図柄」を「非特定図柄」という)が・・・」
(1-4)「【0035】さらに、特別図柄表示部3に「特定図柄」が表示(「確定停止表示」)されて「大当たり」が生起した場合には、「大当たり」終了後に、遊技者にとって有利な「高確率状態」が生起する。・・・
【0036】「高確率状態」においては、・・・また、これに加えて、大当たり判定で、記憶されているTRANの値が「73,103,137,179,251」の場合に「大当たり」と判定される。このため、「大当たり」の生起確率は5/330に増大する。」
(1-5)「【0039】[実施例2]実施例2のパチンコ機の構成は、実施例1のパチンコ機1とほぼ同一であるが、「リーチ動作」をする場合(すなわち、大当たり判定において「大当たり」と判定された場合、および、大当たり判定において「はずれ」と判定された場合であってHZAC、HZBCの両カウンタに記憶された値が同一である場合)における特別図柄の変動の態様が、実施例1のパチンコ機1と異なっている(なお、実施例2のパチンコ機の外観は実施例1のパチンコ機1と同様である)。
【0040】実施例2のパチンコ機1は、下記の(1)?(6)の「図柄変動パターン」の如く、「リーチ動作」をする際の図柄変動中に、特別図柄表示部3の左図柄表示部位および右図柄表示部位に、何れかの「リーチ図柄」(場合によっては「リーチ図柄」以外の図柄)を左図柄表示部位および右図柄表示部位に一旦停止表示した後、その「リーチ図柄」を再度変動させ、所定時間後に、その「リーチ図柄」と同一、あるいは異なる「リーチ図柄」を左図柄表示部位および右図柄表示部位に確定停止表示あるいは一旦停止表示することができるように構成されている(以下、先の「リーチ図柄」の一旦停止表示を「第1段階表示」といい、後の「リーチ図柄」の確定停止表示および一旦停止表示を「第2段階表示」という)。
【0041】なお、大当たり判定において「大当たり」と判定された場合には、後述する(1)?(6)の内の何れかの「図柄変動パターン」を実行するが、すなわち、大当たり判定において「はずれ」と判定された場合であってHZAC、HZBCの両カウンタに記憶された値が同一である場合には、(1)、(2)、(4)の内の何れかの「図柄変動パターン」を実行するようになっている。
【0042】[図柄変動パターン(1)]各特別図柄の変動開始から2秒後に、「第1段階表示」として、「特定図柄」に含まれる「リーチ図柄」(すなわち、「左図柄,右図柄」=「三段,三段」、「七段,七段」、「名人,名人」、「王将,王将」、以下、「特定リーチ図柄」という)を一旦停止表示する。そして、再度図柄を変動させた後に、「第2段階表示」として、「第1段階表示」の「特定リーチ図柄」と同一、あるいは異なる「特定リーチ図柄」を確定停止表示する。
・・・
【0048】なお、上記したように、実施例2のパチンコ機1は、一旦、「特定リーチ図柄」が表示されたにも拘らず図柄の再変動の後に「非特定リーチ図柄」が表示されることによって遊技者が不愉快な思いをする、という事態を回避するため、「第1段階表示」において「特定リーチ図柄」が表示された場合には、「第2段階表示」において必ず「特定リーチ図柄」が表示されるように構成されている。・・・
【0049】上記の如く構成された実施例2のパチンコ機1においては、図柄変動時に、変動開始からきわめて短い時間(約2秒)が経過した後に、一旦、「リーチ図柄」が表示され、しかる後、図柄の再変動後に再度「リーチ図柄」が表示される。したがって、遊技者は、図柄の変動開始後、直ちに「リーチ図柄」が表示されることを認識でき、従来のパチンコ機では退屈な時間であった図柄変動中においても、特別図柄表示部3にきわめて高い関心を示し、いつまでも興味を持って遊技をし続けることができる。・・・」

上記の記載(1-1)?(1-5)及び図面によれば、引用文献1には、以下の発明が記載されていると認められる。
「液晶画面中の左図柄表示部位、右図柄表示部位、中図柄表示部位の各表示部位において、図柄が上から下へ移動する動画を表示することによって行われる図柄の変動の表示と所定時間後に確定停止表示とがなされる特別図柄表示部3を備え、
普通電動役物4へ遊技球が入賞すると特別図柄表示部3の各表示部位に表示された3つの特別図柄が変動を開始し、変動後に確定停止表示された特別図柄の組み合わせが全て同一な図柄の組み合わせ、すなわち、「一段,一段,一段」、「二段,二段,二段」、「三段,三段,三段」、「四段,四段,四段」、「五段,五段,五段」、「六段,六段,六段」、「七段,七段,七段」、「八段,八段,八段」、「九段,九段,九段」、「名人,名人,名人」、「銀将,銀将,銀将」、「金将,金将,金将」、「角行,角行,角行」、「飛車,飛車,飛車」、「王将,王将,王将」の15通りの図柄の組み合わせである大当たり図柄である場合には、大当たり状態が生起して大入賞口7がきわめて高い確率で断続的に開成するように構成されたパチンコ機1において、
大当たり図柄として予め特定図柄と非特定図柄とが設定されており、特定図柄は「三段,三段,三段」、「七段,七段,七段」、「名人,名人,名人」、「王将,王将,王将」の何れかの大当たり図柄であるとともに特定図柄以外の大当たり図柄を非特定図柄として、変動後に大当たり図柄として確定停止表示された特別図柄の組み合わせが特定図柄である場合には、大当たり状態終了後に、大当たりの生起確率が増大する高確率状態が生起するように構成され、
特別図柄表示部3の左図柄表示部位および右図柄表示部位に、各特別図柄の変動開始からきわめて短い時間である2秒後に、第1段階表示として、特定図柄に含まれるリーチ図柄である特定リーチ図柄、すなわち、「左図柄,右図柄」=「三段,三段」、「七段,七段」、「名人,名人」、「王将,王将」を一旦停止表示させ、そして、再度図柄を変動させた後に、第2段階表示として、第1段階表示の特定リーチ図柄と同一、あるいは異なる特定リーチ図柄を確定停止表示するとともに、
所定時間後に大当たりとなる特別図柄の組み合わせ又ははずれとなる特別図柄の組合せが確定停止表示される、パチンコ機。」(以下、「引用発明」という。)

[2]対比
引用発明は、上記[1]に示した如くのものである。
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「(液晶画面中の)左図柄表示部位、右図柄表示部位、中図柄表示部位」は本願発明の「複数の表示領域」に相当し、同様に、「各表示部位」は「複数の表示領域のそれぞれ」に、「図柄が上から下へ移動する動画を表示することによって行われる図柄の変動の表示」又は「図柄の変動の表示」のいずれも「図柄の変動表示」に、「確定停止表示」は「停止表示」に、「なされる」は「可能な」に、「特別図柄表示部3」は「表示手段」に、「普通電動役物4」は「始動口」に、「入賞すると」は「入賞に応答して」に、「図柄」又は「特別図柄」のいずれも「図柄」に、「表示された3つの特別図柄が変動を開始し、変動後に」は「図柄の変動表示が行われた後」に、「特別図柄の組み合わせが全て同一な図柄の組み合わせ、・・・である大当たり図柄である場合には」は「図柄が所定表示パターンとなると」に、「大入賞口7」は「大入賞口」に、「きわめて高い確率で断続的に開成する」は「開閉制御される」に、「大当たり状態が生起して」は「大当り状態となる」に、「パチンコ機1」は「遊技機」に、「大当たりの生起確率が増大する高確率状態が生起する」は「大当り状態の生起確率を向上する」及び「確率変動状態に移行する動作制御を行う」のいずれにも、「高確率状態」は「確率変動状態」に、「変動後に大当たり図柄として確定停止表示された特別図柄の組み合わせが特定図柄である場合」は「所定表示パターンが予め定められた確率変動図柄で揃った場合」に、「大当たり状態」は「大当り状態」にそれぞれ相当し、さらに引用発明について以下のことがいえる。

(1)引用発明は、「表示手段(特別図柄表示部3)」の「複数の表示領域(左図柄表示部位、右図柄表示部位、中図柄表示部位)」に表示された「3つの特別図柄が変動を開始し、変動後に確定停止表示され」るものであるから、「複数の表示領域(左図柄表示部位、右図柄表示部位、中図柄表示部位)」の各々において図柄(特別図柄)が停止されることにより表示が行われる位置が存在するといえ、これを、「(表示領域の)図柄停止位置」と称することができる。

(2)引用発明は、「大当り状態の生起確率を向上する(大当たりの生起確率が増大する高確率状態が生起する)」ものであって、その生起確率の向上を確率変動と称することができる。また、確率変動を行うパチンコ機は、確率変動を行うための制御手段を当然備えている。したがって、引用発明は、本願発明を特定する「大当り状態の生起確率を向上する」手段である「確率変動制御手段」の事項に対応する構成を実質的に備えるということができる。

(3)引用発明の「表示手段(特別図柄表示部3)」は、「図柄の変動表示(図柄の変動)」及び「停止表示(確定停止表示)」を行うものであって、そのような表示の制御を行うための制御手段を当然備えているから、引用発明は、本願発明を特定する「表示手段における表示を制御する表示制御手段」の事項に対応する構成を実質的に備えるということができる。

(4)引用発明においては、大当たり状態終了後に、大当たりの生起確率が増大する高確率状態が生起する特別図柄の組み合わせとして、「三段,三段,三段」、「七段,七段,七段」、「名人,名人,名人」、「王将,王将,王将」という3つの図柄の組み合わせを指して「特定図柄」と呼ぶとともに、特定図柄に含まれるリーチ図柄として、「左図柄,右図柄」=「三段,三段」、「七段,七段」、「名人,名人」、「王将,王将」という左図柄と右図柄の図柄の組み合わせを指して「特定リーチ図柄」と呼ぶものである。
一方、本願発明においては、大当り状態終了後に確率変動状態に移行するのは、「所定表示パターンが予め定められた確率変動図柄で揃った場合」であると特定され、また、「複数の表示領域のうち少なくとも一の表示領域において、前記変動表示の開始時に前記図柄停止位置に停止表示されている図柄を前記確率変動図柄に差し替えて」と特定されることから、「確率変動図柄」とは、複数の表示領域のそれぞれにおいて停止表示される個々の図柄を意味し、それら確率変動図柄が複数の表示領域で揃うことを所定表示パターンと呼ぶものである。
すなわち、引用発明において、高確率状態が生起するときの特別図柄の組み合わせである「特定図柄」を構成する個々の図柄、すなわち、「三段」、「七段」、「名人」、「王将」という各図柄が、本願発明の「確率変動図柄」に相当する。

(5)引用発明は、「特別図柄表示部3の左図柄表示部位および右図柄表示部位に、各特別図柄の変動開始からきわめて短い時間である2秒後に、第1段階表示として、特定図柄に含まれるリーチ図柄である特定リーチ図柄、すなわち、「左図柄,右図柄」=「三段,三段」、「七段,七段」、「名人,名人」、「王将,王将」を一旦停止表示させ、そして、再度図柄を変動させた後に、第2段階表示として、第1段階表示の特定リーチ図柄と同一、あるいは異なる特定リーチ図柄を確定停止表示する」ものである。
引用発明の「特定リーチ図柄」とは、「特定図柄(確率変動図柄)に含まれるリーチ図柄」であって、「確率変動図柄(三段、七段、名人、王将の各図柄)」が、「特別図柄表示部3の左図柄表示部位および右図柄表示部位」という2つの表示領域に停止している状態を指している。「特定リーチ図柄」が表示されるのは、(i)第1段階表示(各特別図柄の変動開始からきわめて短い時間である2秒後に行われる一旦停止表示)と(ii)第2段階表示(第1段階表示の一旦停止後、再度図柄を変動させた後に行われる確定停止表示)の2回である。前記(i)及び(ii)のいずれの場合も、「表示手段(特別図柄表示部3)」の「複数の表示領域(左図柄表示部位、右図柄表示部位、中図柄表示部位)」という3個の表示部位の内の2個の表示領域(左図柄表示部位および右図柄表示部位)に「確率変動図柄(三段、七段、名人、王将という各図柄)」が揃って表示され、その余の表示領域(中図柄表示部位)の図柄が変動している状態であるリーチ状態であることは明らかであるから、特定リーチ図柄が表示される2個の表示領域である「(特別図柄表示部3の)左図柄表示部位および右図柄表示部位」を、「複数の表示領域のうち少なくとも一の表示領域」と言い換えることができる。
上記(1)に示したとおり、引用発明は、「表示手段(特別図柄表示部3)」の「複数の表示領域(左図柄表示部位、右図柄表示部位、中図柄表示部位)」の各々において図柄(特別図柄)が停止される「(表示領域の)図柄停止位置」が存在するものであるから、「特別図柄表示部3の左図柄表示部位および右図柄表示部位に、各特別図柄の変動開始からきわめて短い時間である2秒後に、第1段階表示として、・・・特定リーチ図柄・・・を一旦停止表示させ」ることは、すなわち、「変動表示の開始時に(前記)図柄停止位置に停止表示されている図柄」を「きわめて短い時間である2秒後」に「確率変動図柄(三段、七段、名人、王将という各図柄)」が揃って表示させるように変化させることを意味する。
次に、引用発明が「複数の表示領域のうち少なくとも一の表示領域(左図柄表示部位および右図柄表示部位)」に特定リーチ図柄を表示(ここでいう「表示」とは、第1段階表示としての一旦停止表示である。)させる時期は、「各特別図柄の変動開始からきわめて短い時間である2秒後」であるから、この時期を、「変動表示が開始してから後に」と称することができる。これに対し、本願発明が、複数の表示領域のうち少なくとも一の表示領域に確率変動図柄を停止表示する時期は「変動表示の開始時に(前記)図柄停止位置に停止表示されている図柄を(前記)確率変動図柄に差し替えて、該確率変動図柄を停止表示させる差替変動表示を行う」ことにより、図柄が差し替えられた時点である。すなわち、図柄停止位置に停止表示されている図柄を確率変動図柄に差し替えて、該確率変動図柄を停止表示させる差替変動表示を行うための時間を要するので、本願発明が確率変動図柄を停止表示する時期は「変動表示の開始時」より後であって、この時期を、「変動表示が開始してから後に」ということができる。
また、前記(3)に示したとおり、引用発明は、「表示手段(特別図柄表示部3)」の表示を行うための制御手段である「表示制御手段」を当然備えている。
したがって、引用発明は、表示制御手段は、(前記)複数の表示領域のうち少なくとも一の表示領域において、(前記)変動表示の開始時に前記図柄停止位置に停止表示されている図柄を変動表示が開始してから後に、(前記)確率変動図柄を表示させるように変化させるという限度で、本願発明の「表示制御手段は、前記複数の表示領域のうち少なくとも一の表示領域において、前記変動表示の開始時に前記図柄停止位置に停止表示されている図柄を前記確率変動図柄に差し替えて、該確率変動図柄を停止表示させる差替変動表示を行う」に共通する。

(6)上記(5)に示したとおり、引用発明において、「表示手段(特別図柄表示部3)」の「複数の表示領域(左図柄表示部位、右図柄表示部位、中図柄表示部位)」という3個の表示部位の内の2個の表示領域(左図柄表示部位および右図柄表示部位)に同じ「確率変動図柄(三段、七段、名人、王将の各図柄)」が揃って表示され、「特定リーチ図柄」が表示されるのは、(i)第1段階表示(一旦停止表示)と(ii)第2段階表示(確定停止表示)の2回である。そして、前記(i)及び(ii)のいずれの場合も、いわゆるリーチ状態であるから、「特定リーチ図柄」が表示される「複数の表示領域のうち少なくとも一の表示領域(左図柄表示部位および右図柄表示部位)」とは異なるその余の表示領域(中図柄表示部位)の図柄が変動していることは明らかであり、当該図柄が変動しているその余の表示領域(中図柄表示部位)を「複数の表示領域のうち他の表示領域」と言い換えることができる。
引用発明の「表示手段(特別図柄表示部3)」で行われる図柄の変動表示は、「図柄が上から下へ移動する動画を表示する」ものである。とりわけ「中図柄表示部位」においては、前記の如く左図柄表示部位および右図柄表示部位で特定リーチ図柄が表示されるリーチ状態のときも図柄の変動が行われていることが明らかであり、「所定時間後に確定停止表示」がなされるまでの間に、二以上の図柄が変動して表示されることは当然である。したがって、引用発明は、本願発明を特定する「図柄停止位置において二以上の図柄を入れ替わり表示した後に図柄の停止表示を行う通常変動表示を行い」の事項に対応する構成を備えているということができる。

(7)引用発明は、「所定時間後に大当たりとなる特別図柄の組み合わせ又ははずれとなる特別図柄の組合せが確定停止表示される」が、引用発明の「複数の表示領域のうち他の表示領域(中図柄表示部位)」で図柄が確定停止表示されるのは、上記(6)に示したとおり、「複数の表示領域のうち少なくとも一の表示領域(左図柄表示部位および右図柄表示部位)」に特定リーチ図柄を確定停止表示(ここでいう「確定停止表示」とは、第2段階表示としての確定停止表示である。)した後である。
引用発明が、同じ「確率変動図柄(三段、七段、名人、王将の各図柄)」が揃って表示され、「特定リーチ図柄を表示」することと、本願発明が「確率変動図柄への差し替えが行われ」ることとは、いずれも、「確率変動図柄(特定図柄)」が表示されるという点で共通する。したがって、引用発明は、少なくとも一の表示領域において(前記)確率変動図柄の表示が行われた後に(前記)図柄の停止表示を行うという限度で、本願発明の「少なくとも一の表示領域において前記確率変動図柄への差し替えが行われた後に前記図柄の停止表示を行う」に共通する。

[3]一致点・相違点
したがって、本願発明と引用発明とは、
「複数の表示領域を有し、該複数の表示領域のそれぞれにおいて図柄の変動表示と停止表示とが可能な表示手段を備え、
始動口への遊技球の入賞に応答して前記複数の表示領域のそれぞれにおいて前記図柄の変動表示が行われた後、前記図柄の停止表示が行われ、前記複数の表示領域の図柄停止位置に停止表示された図柄が所定表示パターンとなると大入賞口が開閉制御される大当り状態となるように構成された遊技機において、
前記大当り状態の生起確率を向上する確率変動制御手段と、前記表示手段における表示を制御する表示制御手段と、を備え、
前記確率変動制御手段は、前記所定表示パターンが予め定められた確率変動図柄で揃った場合に、前記大当り状態終了後に確率変動状態に移行する動作制御を行うように構成され、
前記表示制御手段は、
前記複数の表示領域のうち少なくとも一の表示領域において、前記変動表示の開始時に前記図柄停止位置に停止表示されている図柄を変動表示が開始してから後に、前記確率変動図柄を表示させるように変化させるとともに、
前記複数の表示領域のうち他の表示領域において、前記図柄停止位置において二以上の図柄を入れ替わり表示した後に図柄の停止表示を行う通常変動表示を行い、前記少なくとも一の表示領域において前記確率変動図柄の表示が行われた後に前記図柄の停止表示を行う、遊技機。」である点で一致し、以下の各点で相違する。

相違点;
相違点(A)
複数の表示領域のうち少なくとも一の表示領域における、確率変動図柄の表示について、本願発明は、「変動表示の開始時に前記図柄停止位置に停止表示されている図柄を前記確率変動図柄に差し替えて、該確率変動図柄を停止表示させる差替変動表示を行う」のに対し、引用発明は、「特別図柄表示部3の左図柄表示部位および右図柄表示部位に、各特別図柄の変動開始からきわめて短い時間である2秒後に、第1段階表示として、特定図柄に含まれるリーチ図柄である特定リーチ図柄、すなわち、「左図柄,右図柄」=「三段,三段」、「七段,七段」、「名人,名人」、「王将,王将」を一旦停止表示させ」るものであって、変動を伴うことなく停止している図柄を差し替える「確率変動図柄に差し替えて、該確率変動図柄を停止表示させる差替変動表示を行う」という動作を行うものではない点。

相違点(B)
複数の表示領域のうち他の表示領域において、図柄の停止表示を行う時期について、本願発明が「少なくとも一の表示領域において前記確率変動図柄への差し替えが行われた後に」、他の表示領域の図柄の停止表示を行うのに対し、引用発明は、「複数の表示領域のうち少なくとも一の表示領域(左図柄表示部位および右図柄表示部位)」において同じ「確率変動図柄(三段、七段、名人、王将の各図柄)」が揃って表示されるのは、(i)第1段階表示(各特別図柄の変動開始からきわめて短い時間である2秒後に行われる一旦停止表示)と(ii)第2段階表示(第1段階表示の一旦停止後、再度図柄を変動させた後に行われる確定停止表示)の2回であって、前記第2段階表示が行われた後に、他の表示領域の図柄の停止表示を行うものである点。

[4]相違点の判断
(1)相違点(A)について。
引用発明において、複数の表示領域のうち少なくとも一の表示領域における、確率変動図柄の表示について、変動を伴うことなく停止している図柄を差し替える「確率変動図柄に差し替えて、該確率変動図柄を停止表示させる差替変動表示を行う」という構成とすることが想到容易であるか否かについて以下に検討を行う。
引用発明は、図柄停止位置に停止表示されている図柄を変動表示が開始してから後に、確率変動図柄を表示させるように変化させる表示を、変動開始から「きわめて短い時間である2秒後」に行っている。
これに対し、当審拒絶理由に引用され、本願の出願日前に日本国内で頒布された刊行物である引用文献2(特開平7-185081号公報)には、【請求項3】に「・・・前記可変表示装置は、複数個の表示器により構成され、・・・前記可変遊技時間変化手段は、可変遊技開始から該複数の表示器のうちの最初の停止表示器が停止するまでの時間を短縮する・・・」と、また、【請求項5】に「・・・前記可変表示時間変化手段は、前記複数の表示器の内少なくとも2個の表示器を同時に停止させる・・・」と記載され、さらに、段落【0044】に「・・・いわゆる「即止め制御」とは、特別図柄表示装置63の図柄が変動を開始してから第1停止図柄が停止するまでの時間を最小値に短縮するものである。・・・」と記載され、その具体例として、段落【0045】に「A.第1のパターン・・・即止め制御のときは最小値の2秒を基準にして短縮される・・・B.第2のパターン・・・あるいは、始動入賞があった後、いきなり直ちに図柄変動を停止する(つまり第1停止図柄を停止する)処理を行ってもよい。」と記載されている。引用文献2には、変動を開始してから停止させるまでの時間を、引用発明と同様に「2秒」とする例に加え、「いきなり直ちに図柄変動を停止する」例が記載されているから、引用文献2には、図柄の変動を伴いつつも変動表示の開始時に直ちに図柄を停止表示する技術が開示されているといえる。
一方、遊技機における図柄の表示について、図柄の配列順序が固定され、所定の順序で図柄が流れるように表示されるスクロール表示のような図柄の変動を伴う表示ではなく、配列順序を複数図柄分進めた図柄を表示させる表示態様は、例えば、当審拒絶理由に引用され、本願の出願日前に日本国内で頒布された刊行物である引用文献3(特開平11-47372号公報)〔図13、段落【0105】?【0111】等参照。図13に、中図柄5bの図柄として、「8」の次に「2」が表示されるものが記載されている。〕、当審拒絶理由に引用され、本願の出願日前に日本国内で頒布された刊行物である引用文献4(特開平10-192497号公報)〔図4、段落【0030】を特に参照。従来の図柄順序のように、上下方向へ移動するものではなく、図柄を非順列的変化により変換させることが記載されている。〕にみられるように従来周知の技術であって、このような表示の態様を、「スクロール表示のような変動を伴うことなく停止表示されている図柄を他の図柄に差し替えて、該他の図柄を停止表示させる差替変動表示を行う」と言い換えることができる。

停止表示されている図柄を変化させるに際し、スクロール表示のような変動を伴う表示を行うか、あるいは、スクロール表示のような変動を伴うことのない差替変動表示を行うかは、いずれの態様も上記のとおり公知の手段であって、そのいずれを選択するかは設計事項である。したがって、図柄停止位置に停止表示されている図柄を変動表示が開始してから後に、確率変動図柄を表示させるように変化させる表示を行う引用発明において、引用文献2に開示の技術の如く、変動表示の開始時に直ちに図柄を停止表示するという思想の下、その具体的な変化の態様として、前記従来周知の技術の如く、「変動を伴うことなく停止表示されている図柄を他の図柄に差し替えて、該他の図柄を停止表示させる差替変動表示を行う」手段を採用することは、すなわち、「変動表示の開始時に前記図柄停止位置に停止表示されている図柄を確率変動図柄に差し替えて、該確率変動図柄を停止表示させる差替変動表示を行う」という構成を採用するに等しい。
したがって、上記相違点(A)に係る本願発明の構成を採用することは当業者が想到容易である。

(2)相違点(B)について。
引用発明は、(i)第1段階表示(各特別図柄の変動開始からきわめて短い時間である2秒後に行われる一旦停止表示)と(ii)第2段階表示(第1段階表示の一旦停止後、再度図柄を変動させた後に行われる確定停止表示)のいずれにおいても、「複数の表示領域のうち少なくとも一の表示領域(左図柄表示部位および右図柄表示部位)」において同じ「確率変動図柄(三段、七段、名人、王将の各図柄)」が揃って表示される「特定リーチ図柄を表示」するものである。
引用発明は、このように、第1段階表示の後、再度図柄を変動させた後に第2段階表示として確定停止表示を行うことにより、2回にわたって、「確率変動図柄(三段、七段、名人、王将の各図柄)」が揃って表示される「特定リーチ図柄を表示」するが、これは、上記[1](1-5)に摘記したとおり、「【0048】なお、上記したように、実施例2のパチンコ機1は、一旦、「特定リーチ図柄」が表示されたにも拘らず図柄の再変動の後に「非特定リーチ図柄」が表示されることによって遊技者が不愉快な思いをする、という事態を回避するため、「第1段階表示」において「特定リーチ図柄」が表示された場合には、「第2段階表示」において必ず「特定リーチ図柄」が表示されるように構成されている。・・・」という理由による。すなわち、「特定リーチ図柄」が一旦停止表示した後、再度図柄を変動させた結果、大当たりの生起確率が増大する高確率状態が生起することがない「非特定リーチ図柄」が確定停止表示されると、遊技者にとって高確率状態という特典を得ることのできる可能性が消滅し、あたかも特典が降格されたかのように感じることによって、不愉快な思いをするからである。このように、遊技機の分野において、図柄を一旦停止表示した後、再度図柄を変動させる場合、その表示を、あたかも特典が降格するかのような表示を行うことは、上記の理由により、通常採用しない構成である。すなわち、引用発明において、「特定リーチ図柄」が一旦停止表示すれば、その時点で、遊技者は、再度図柄が変動しても、再び「特定リーチ図柄」が確定停止表示され、高確率状態という特典を得ることのできる可能性が継続するものと確信することができる。その上、遊技機の分野では、一旦停止した図柄が再び変動を行って停止する、いわゆる再変動という演出をすることが多いが、図柄が3個表示される場合、リーチ図柄以外の残りの1個の図柄を一旦停止後、再び図柄が変動を行って停止するパターンや、あるいは、全ての図柄が一旦停止した後、再び全ての図柄が変動を行って停止するというパターンの演出が通常である。再変動においては、一旦リーチが成立してリーチ図柄で停止した場合、再び、そのリーチ図柄を変動させないことが、本願出願時点における技術常識である。
そうすると、第1段階表示として「特定リーチ図柄」が表示された時点で、遊技者の関心は、最終的な確定停止表示の結果が、特定図柄で大当たりとなるか、あるいは、はずれとなるかといういずれの結果となるかに絞られてしまうから、上記技術常識を採用しリーチ図柄の再変動を行わない構成とすること、すなわち、引用発明において、第2段階表示である「再度図柄を変動させた後に、第2段階表示として、第1段階表示の特定リーチ図柄と同一、あるいは異なる特定リーチ図柄を確定停止表示する」という構成を省くことに格別の困難性はなく、第1段階表示の「一旦停止表示」を、「確定停止表示」として取り扱うことは、設計事項に留まる。
引用発明において、上記の如く、第2段階表示に係る構成を省くことはすなわち、「少なくとも一の表示領域において前記確率変動図柄への差し替えが行われた後に」、他の表示領域の図柄の停止表示を行うという構成を採用するに等しい。
したがって、上記相違点(B)に係る本願発明の構成を採用することは当業者が想到容易である。

[5]むすび
相違点(A)及び(B)に係る本願発明の構成を採用することは当業者にとって想到容易であり、これら構成を採用したことによる格別の作用効果を認めることもできない。
したがって、本願発明は、引用発明、引用文献2記載の技術、引用文献3記載の技術及び引用文献4記載の技術並びに周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-03-30 
結審通知日 2009-03-31 
審決日 2009-04-13 
出願番号 特願平11-335305
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A63F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 澤田 真治  
特許庁審判長 伊藤 陽
特許庁審判官 川島 陵司
▲吉▼川 康史
発明の名称 遊技機  
代理人 崔 秀▲てつ▼  
代理人 内藤 嘉昭  
代理人 森 哲也  

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