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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G03G
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G03G
管理番号 1198025
審判番号 不服2007-12024  
総通号数 115 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-07-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-04-26 
確定日 2009-05-28 
事件の表示 特願2000- 7223「静電荷潜像現像方法」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 7月27日出願公開、特開2001-201936〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯・本願発明
本願は、平成12年1月14日の出願であって、原審における拒絶査定に対して、平成19年4月26日付けで審判請求されたもので、当審において、平成20年11月27日付けで通知した拒絶理由に対して、平成21年2月2日付けで意見書及び手続補正書が提出されたもので、「静電荷潜像現像方法」に関するものと認める。


第2 当審の拒絶理由通知の概要
平成20年11月27日付けで通知した拒絶理由には次の指摘事項が含まれている。
『2.この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

請求項1に係る発明は、L(現像剤と潜像担持体の接触幅)が1mm以下において、キャリアの重量平均粒子径が35μm以上50μm以下で、式(1)(2)の関係を満たすと、ソリッド画像端部の画像濃度異常(ハーフトーン画像の端部での画像ヌケ等)などが生じないことを規定するものである。
まず、指摘しておかなければならないことは、請求項1の数値の規定は、理論的に導き出されるものではなくて、実際に特定の条件のもとで実験をして、最適範囲として見出されたはずのものである。数式の意味については、ある程度理論的に説明ができたとしても、数値範囲までは理論又は技術常識だけで説明がつかないのが通常であり、本件の場合は特にそうである(なお仮に理論のみで一応の説明がついたとしても現実離れしており実用に適さないことも多い)。
したがって、発明の詳細な説明において、その数値範囲を導き出した根拠を実験値を示して実証的に説明されている必要がある。特に、発明の根幹である事項の数値範囲については、そのような説明がなされていないと、出願人はともかく、他者は、その発明に出願人主張の効果があるのかどうかを理解することができない(なお発明の根幹部分でない枝葉末節についてはこの限りでないこともある)。
そこで、請求項1に係る発明が、発明の詳細な説明に実質的に意味あるものとして開示されているかどうか検討する。
明細書には次の記載がある(下線は当審で付した)。
「【0008】実施の形態1
本実施の形態では下式(1)の条件において現像を行う。
【数3】 k=L・〔(Vr/Vp)-1〕〔mm〕
0.1〔mm〕≦k≦2〔mm〕 ……(1)
〔Vp:潜像担持体表面の移動速度(mm/sec)、
Vr:現像剤担持体表面の移動速度(mm/sec)、
L:現像剤と潜像担持体の接触幅(mm)〕
前式(1)において、k値が2mmを超えて大きくなると、画像不良が目立ち好ましくない。2mm以下とすることで画像不良の発生を目立たなくすることができる。あわせてキャリアの重量平均粒子径を35μm?50μmの範囲とすることにより、画像濃度と細線再現性、ドット再現性を向上させることができる。
キャリア粒径が35?50μmではキャリアに対するトナーの被覆率を高くせず、現像剤中のトナー量を増加させられるため、先の現像電界の応答性を低下させること無く、潜像に対して十分なトナー量を供給することが可能となる。
キャリア粒径が50μmより大きいときには、キャリアに対するトナーの被覆率が上昇し、キャリアに比べて低誘電率であるトナーがキャリア表面を覆い、現像剤の電気抵抗が上昇するため潜像電位変化に対する現像電界の応答性が悪化して、画像不良が発生しやすくなる。また、潜像に接触する現像剤の緻密さが低下するため、ハーフトーン画像のムラが目立つようになる。また、キャリア粒径が35μmより小さくなると、キャリアの磁気モーメントが小さくなるため、磁気ブラシからキャリアが脱離しやすくなる。
トナーは任意の粒径のものが用いられるが、高い解像力を得るためには粒径が 小さいことが好ましく、重量平均粒径を4μm?10μm、より好ましくは4μm?8μmが用いられる。
【0009】また、前記k値が0.1mmより小さくなると画像濃度が十分に得られない。現像装置におけるL値の測定は、たとえば、現像装置のニップ部を覆う現像器の一部をとりはずし、現像剤と潜像担持体の接触幅を実測することが容易だが、正確には、潜像担持体と同一形状の透明円筒、ベルトなどを現像装置に装着し、現像ニップを潜像担持体側から観察して計測する。潜像担持体と現像剤との接触部は潜像担持体移動方向と直交する帯状の部分として観察される。その帯状部分の幅(潜像担持体の移動方向と平行な長さ)を装置のL値とする。
また、Vpは潜像担持体外周の周方向の移動速度であり、Vrは現像剤担持体外周の周方向の移動速度である。」
ここには、キャリア粒径について、「キャリア粒径が35?50μmではキャリアに対するトナーの被覆率を高くせず、現像剤中のトナー量を増加させられるため」「キャリア粒径が50μmより大きいときには、キャリアに対するトナーの被覆率が上昇し、現像剤の電気抵抗が上昇するため潜像電位変化に対する現像電界の応答性が悪化して」との記載があるが、トナーの被覆率は、キャリア粒径だけでなく、トナー量、トナーとキャリアの混合比、その他が影響するものである。また、「キャリア粒径が35μmより小さくなると、キャリアの磁気モーメントが小さくなるため」との記載があるが、キャリア自体の磁気特性を抜きにして、磁気モーメントを決められないはずである。したがって、この説明から、他の重要条件が特定されない中でのキャリア粒径35?50μmの技術的意義は十分に理解できないし、また、その数値範囲の臨界的意義も特にないといわざるを得ない。ただし、キャリア粒径35?50μmというのは、通常よく使用されている程度の粒径であるから、そのような範囲のものが好ましいという程度のことは一般的にいえよう。
次に、k値について、上記【0008】【0009】では、「k値が2mmを超えて大きくなると、画像不良が目立ち好ましくない。2mm以下とすることで画像不良の発生を目立たなくすることができる。」「k値が0.1mmより小さくなると画像濃度が十分に得られない。」と結論をいうだけであり、その根拠は示されていない。
そこで、実施例を参照して、k値の数値範囲の意味を検討すると、そこで用いられているL、Vp、Vr、k、Vr/Vpの値は、以下のとおりである。
L Vp Vr k Vr/Vp
実施例1、4?7:0.4 230 575 0.6 2.5
実施例2 :0.2 230 414 0.16 1.8
実施例3 :1.0 230 575 1.5 2.5
比較例1 :2.0 230 575 3 2.5
比較例2、3 :0.4 230 575 0.6 2.5
比較例4、5 :0.1 230 414 0.08 1.8
これによると、Vr/Vpについては、「2.5」と「1.8」の2種類が実験されているに過ぎないことがわかる。
これに対し、請求項1に係る発明の式(1)(2)について、Vr/Vpの範囲を計算してみると、以下のように、実施例、比較例の数値を超えて遙かに広い範囲を請求していることがわかる。
k=L・〔(Vr/Vp)-1〕〔mm〕 ……(1)
0.1〔mm〕≦k≦2〔mm〕 ……(2)
(a)L=1.0のとき 1.1≦Vr/Vp≦3
(b)L=0.2のとき 1.5≦Vr/Vp≦11
(c)L=0.4のとき 1.25≦Vr/Vp≦6
ここで、Vr/Vpの上限として、10を超えるような数値が出てくるが、Vpを230mm/sec(同400mm/sec)とすると、Vrは2530mm/sec(同4400mm/sec)という途方もない速さになるが、そのようなものが実際に意味あるものかは不明である。
したがって、技術常識に照らしても、請求項1に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に記載された内容を拡張又は一般化することはできない。
請求項1を引用する他の請求項に係る発明についても同様である。
よって、請求項1?5に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。

3.この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

請求人は、平成19年2月26日付けの意見書において、「各文献に開示されている現像ニップ(現像剤と潜像担持体の接触幅)と、補正後の本願発明の「現像剤と潜像担持体の接触幅」及び実施例に開示した「現像剤と潜像担持体の接触幅」の範囲では、明らかに相違し、本願請求項1の発明が現像剤と潜像担持体の接触幅すなわち現像領域を狭めることを前提とした発明であることは明らかである。現像ニップが開示された、引用文献1の〔0031〕には、「現像剤ニップが3mmより小さいと小点再現性を保ちつつ、画像濃度を高くすることが難しくなる。」と記載があり、また、引用文献7の〔0133〕には、「十分な画像濃度を出し、ドット再現性に優れ、かつキャリア付着のない現像を行うために現像スリーブ121上の磁気ブラシの感光体ドラム119との接触幅(現像ニップC)を好ましくは3?8mmにすることである。現像ニップCが3mmより狭いと十分な画像濃度とドット再現性を良好に満足することが困難」であるとの記載があるように、現像領域を1mm以下の領域まで狭めることは全く示唆されておらず、それどころか、好ましくない範囲として排除されているのである。」と主張している。
その点は一応理解できるとしても、上記の引用文献1(特開平7-271194号公報)、引用文献7(特開平11-65234号公報)や、特開平8-227225号公報(これは初めて示す。【0116】【表1】【表2】など参照。)には、キャリア粒径、周速比Vr/Vpについては、本願の請求項1に係る発明の範囲に含まれるものが示されており、本願との違いは、現像ニップLの大きさのみである。そうすると、上記文献では「現像ニップCが3mmより狭いと十分な画像濃度とドット再現性を良好に満足することが困難」とされていたが、本願の請求項1に係る発明では、3mmより狭いどころか、1mm以下にしても(しかも下限なく)、ニップ3?8mmの場合と同様の条件(キャリア粒径、周速比Vr/Vp)がそのまま好適であることを見つけたということになる。
しかし、本願の1mm以下というのは、従来、不適とされていた範囲に入るから、普通は、何らかの特別な条件を付加する等の工夫がないと、良好な結果を得ることはできないと思われるが、本願の特許請求の範囲には、そのような特別な工夫に該当する事項は認められない。
また、ニップのL(現像剤と潜像担持体の接触幅)を1mm以下にしたとしても、磁気ブラシによる現像であるから、磁気ブラシの状態(潜像担持体との接触部での穂の密度など)、現像スリーブ内の磁石の状態や特性(磁束密度)、磁気ブラシを構成するキャリア、トナーの特性や帯電状態、混合比など、磁気ブラシの条件により、良好な結果を得ることができる場合とできない場合があると思われる。
(平成20年9月19日付けの意見書で、請求項1に記載された事項が「本質」であり、それ以上の特別な工夫は必要でないと請求人はいうが、上記のような条件や先の拒絶理由通知であげた条件等についての前提があった上での「本質」ではないか。なお、下記4.の刊行物4には、本願以上の事項が採用されているようである。)
したがって、請求項1に係る発明は、従来、不適とされた条件でも良好な現像を可能とするために、実質的にどのような工夫を加えた発明であるのかが不明確である。
請求項1を引用する他の請求項も同様である。
よって、請求項1?5に係る発明は明確でない。

4.この出願の請求項1?5に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(審決注:提示された刊行物1?6の文献名等はここでは省略する。)』


第3 手続補正書、意見書の内容
これに対し、請求人より、平成21年2月2日付けで手続補正書及び意見書が提出されたところ、それには以下の内容が含まれる。

(ア)補正された請求項1
請求項1は、補正により、次のとおりの記載になった。
「【請求項1】少なくとも静電荷潜像担持体(A)と磁性を有するキャリア成分とトナー成分からなる現像剤を担持する現像剤担持体(B)を対向して設け、該現像剤担持体(B)表面と潜像担持体(A)表面とを異なる速度で相対的に移動させながら、トナー成分を潜像担持体(A)上に現像する現像方法において、現像剤中のトナー含有量が5?10重量%であり、下式(1)で得られる値をkとしたとき、kの値が下記式(2)の要件を満足し、L(現像剤と潜像担持体の接触幅)が0.2?1.0mm、Vr/Vp=1.8?2.5であり、かつ、現像剤に含まれるキャリアの重量平均粒子径が35μm以上50μm以下であって、前記キャリアが、(Si-O)を主たる繰り返し単位とするシリコーンポリマーで被覆されているものであることを特徴とする静電荷潜像現像方法。
【数1】
k=L・〔(Vr/Vp)-1〕〔mm〕 ……(1)
0.1〔mm〕≦k≦2〔mm〕 ……(2)
〔Vp:潜像担持体表面の移動速度(mm/sec)、
Vr:現像剤担持体表面の移動速度(mm/sec)、
L:現像剤と潜像担持体の接触幅(mm)〕」

(イ)また、請求人は、意見書にて、次のように反論している。
『(1)36条6項1号
キャリアの粒径については、実施例:37,48μm、比較例:34,90μmであり、「35μm」という下限については、上記データよりそれなりの意義があると考えます。
一方、上限「50μm」については、その前後のデータがないことは確かであるが、明細書〔0008〕には、キャリア粒径が50μmより大きいときには、キャリアに対するトナー被覆率が上昇し、キャリアに比べて低誘電率であるトナーがキャリアを覆い、現像剤の電気抵抗が上昇するため潜像電位変化に対する現像電界の応答性が悪化して、画像不良が発生しやすくなる
。また、潜像に接触する現像剤の緻密さが低下するため、ハーフトーン画像のムラが目立つようになる。」とあり、このような現象は、本願発明〔0003〕に記載の原因により、特に、ニップ幅Lを本願のように小さくした場合に生じ易くなります。
したがって、本願発明においてキャリア上限を「50μm」と設けることには十分な意義が存在することは明らかです。なお、本願出願当時において通常よく使用されているキャリア粒径の範囲は、50?100μmであり、そのような慣用範囲を選択しなかったという意味でも、本願キャリアの粒径範囲35?50μmは、十分に意義を有するものであると思料いたします。
また、k値については、実施例:0.16、0.6、1.5、比較例:0.08、3であること、さらには、L値やVr/Vpを実施例範囲に限定したことにより、「0.1?2」と定めることについてのサポート要件違反は解消されるものと思料致します。

(2)36条6項2号
本願発明は、従来、不適とされていたニップ幅である1mm以下においても良好な画像形成ができることを見出し、なされたものである。
この点、審判官殿は、ニップ幅1mm以下は従来不適とされていたのだから、普通は、何らかの特別な条件を付加する等の工夫がないと良好な結果を得ることはできないのではないか、とご指摘されております。
しかし、上記審判官殿のご指摘は、上記従来の技術常識が正しい、という前提に立つものであり、これに対し、本願発明は、その技術常識が完全に正しいわけではなく、ある条件においては良好な現像が可能ということを実証したものになります。
また、本願発明では、「ニップ幅1mm以下」以外の他の現像条件として、出願当時に周知ではあるが慣用されていなかった粒径範囲を有するキャリアを使用し、なおかつ、その皮膜組成やトナーとの混合率を規定することで、前述のとおり、ニップ幅を狭くした場合に生じやすくなる電気抵抗の上昇を抑制し、さらには、周知のVr/Vpの中でも特定範囲(すなわちkが0.1?2の範囲)であれば、当業者が不適と考えていたニップ幅でも画像形成ができることを実証しております。
そして、上記以外の現像条件については、何ら影響がないということはできないが、本願発明において規定された条件と比べれば、本願発明の効果に与える大きさは無視できる程度であり、一般的な技術常識の範囲内の条件でよいという認識です。要するに、本願発明の課題を解決する上で重要な要素は現請求項に全て反映されており、本願発明の技術的思想を保護する上で、適切な範囲であると確信しております。しかし、その点を疑われるとすると、それこそ多種多様なファクターが影響する現像条件についてどこまで記載すべきか全く不明であり、出願人に過度の負担を強いることになり、ひいては、発明の適切な保護を阻害する結果になると思料致します。
以上、本願発明の技術的思想が具体的に把握でき、なおかつ当業者がそれを実施できる程度に記載がなされている状況において、発明が不明確という判断は全く納得できません。

(3)29条2項(引例1?4+引例5,6)
審判官殿は、刊行物1?4を同列の主引例とし、これらと本願を対比したときの相違点を「ニップ幅1mm以下」と認定した上、当該相違点については、周知もしくは刊行物5の知見を適用し、本願構成を想到することは容易である、と判断しております。
しかし、刊行物1?4は、明細書中に本願範囲のキャリア粒径や線速比が記載されているものの、それら技術的思想は本願発明と全く異なるものであり、主引例としては不適切であると思料致します。また、刊行物1?4においてニップを1mm以下とすることには全く動機がありません(当時の技術常識を考慮すれば刊行物1?4におけるニップ幅を1mm以下にすることはむしろ不自然なことと思います)。一方、刊行物5には、確かに、ニップ幅を狭くする方向で、本願発明と同様の課題を解決しうるという知見が記載されております。しかし、本出願当時の、ニップ幅が1mm以下は不適という技術常識の下では、当業者が当該刊行物5を参照して、刊行物1?4におけるニップ幅を5?10mmではなく、1mm?3mm程度にしようとすることまでは容易に想到するかもしれませんが、1mm以下にまで狭くしようとすることまで容易に想到するとは思えません。この点については、審判官殿の「3mmより狭いどころか、1mm以下にしても・・・」という記載不備におけるご指摘にも現れていると思料します。なお、本願発明の実施例では、ニップ幅が2mmの場合が比較例となっており、単純に刊行物5の知見を採用し、ニップ幅を狭くすればよいというものでもないこともご理解頂けると思料します(要するに、L値やk値には臨界的意義が存在するということです)。
また、刊行物5には、ニップ幅を狭くした場合に、本願発明のような特定のキャリアを採用することが有用であるといった記載や示唆は全くなされておりません。
本願発明は、単に従来の技術常識外の範囲にニップ幅を狭めればなし得るというものではなく、本願課題の原因を突き止め、それを解消しうる手段として、ニップ幅を0.2?1mmとした上、k値(Vr/Vp)を特定範囲とし、なおかつ特定の粒径、皮膜を有するキャリアを用いることで初めてなしえたものであり、その効果についても、ニップ幅1mm以下で優れた画像形成を行なうことができるという予測し得ないものであるから、進歩性を有するものであると確信いたしております。なお、審判官殿は、本願について、ニップ幅を小さくしただけで、驚くべき効果はない、と指摘しておられますが、ニップ幅以外は周知の条件範囲で、これまでと同様の効果が得られることは、ある意味驚くべきことであり、そのようなことが可能になった理由は、特に、特定のk値(線速比)とキャリア(粒径、皮膜)との組み合わせを見出したことの影響が大きいと考えております。
したがって、刊行物1?4に刊行物5、6や周知技術を組み合わせて本願発明の進歩性を否定する合議体の判断は、本願発明における各構成を各刊行物から都合よく採用し、組み合わせたものに過ぎず、何ら組み合わせるべき動機がないものと思料致します。
なお、本願発明においては、キャリア粒径や線速比は周知技術の範囲内かもしれないが、特にキャリア粒径については実際に使用されていなかった範囲であり、また技術的、臨界的な意義を有する範囲でもあり、また、各種構成を組み合わせることについての動機や示唆が公知文献に記載も示唆もなされておらず、さらには、従来の技術常識では予期し得ない効果が確認されている以上、効果発現のメカニズムに不明な点があったとしても、その進歩性を認めないことは問題であると考えます。』


第4 当審の判断
1.特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について
補正された請求項1に記載された発明特定事項の一つは、L=0.2?1.0mm、Vr/Vp=1.8?2.5であって、下記式(1)(2)を満たすことである。
k=L・〔(Vr/Vp)-1〕〔mm〕 ……(1)
0.1〔mm〕≦k≦2〔mm〕 ……(2)
〔Vp:潜像担持体表面の移動速度(mm/sec)、
Vr:現像剤担持体表面の移動速度(mm/sec)、
L:現像剤と潜像担持体の接触幅(mm)〕

ここで、次に示す、L及びVr/Vpの上下限値での計算結果からすると、L=0.2?1.0mm、Vr/Vp=1.8?2.5の範囲であれば、上記式(1)(2)の条件は満たすものである。
(a)L=1.0、Vr/Vp=2.5のとき(実施例3)は、k=1.5
(b)L=1.0、Vr/Vp=1.8のとき(実施例なし)は、k=0.8
(c)L=0.2、Vr/Vp=1.8のとき(実施例2)は、k=0.16
(d)L=0.2、Vr/Vp=2.5のとき(実施例なし)は、k=0.3

そこで検討すると、上記(a)(c)のケースは、実施例でその効果が確認されているが、上記(b)(d)のケースは、実施例がなく、例えば、L=1.0のとき、Vr/Vp=2.5(上記(a))では良好であるが、Vr/Vpが小さい、Vr/Vp=1.8(上記(b))では良好かどうかはわからず、また、L=0.2のとき、Vr/Vp=1.8(上記(c))では良好であるが、Vr/Vpが大きい、Vr/Vp=2.5(上記(d))では良好かどうかはわからない。
そして、L=0.4で、Vr/Vp=2.5の場合(実施例1,4?7、比較例2,3)には効果が確認されているが、だからといって、上記(b)(d)のケースでも効果が推認されるということはいえない。
また、他にある比較例も、L=2.0の場合(比較例1)、L=0.1の場合(比較例4,5)に留まるから、上記(b)(d)のケースの効果を推認させるものではない。
したがって、本願の実施例、比較例において、L=0.2?1.0mm、Vr/Vp=1.8?2.5の範囲について効果のあることが、実証されていない。
さらに、発明の詳細な説明の他の箇所にも、L=0.2?1.0mm、Vr/Vp=1.8?2.5の範囲について効果を推認することができるような記載はみあたらない。
また、技術常識からみても、L=0.2?1.0mm、Vr/Vp=1.8?2.5の範囲における効果を推認することはできない。

したがって、技術常識に照らしても、請求項1に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に記載された内容を拡張又は一般化することはできない。
よって、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでないので、本願の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。


2.特許法第29条第2項(進歩性)
本願の請求項1に係る発明は、上記「1.」のように、記載不備(サポート要件不適合)があるが、ここでは、一応、平成21年2月2日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1(上記「第3(ア)」を参照)に記載された事項により特定されるとおりのものと認めることにして(以下、「本願発明1という」。)、次に、進歩性の判断を示す。

(1)引用刊行物の記載事項
平成20年11月27日付けの拒絶理由通知で引用した、本願出願前に頒布された刊行物1?6の記載事項は以下のとおりである。なお、下線は当審で付した。

(1-1)刊行物1:特開平7-261540号公報
(1-1a)「【請求項1】 重量平均粒径が20?100μmの磁性キャリアと体積平均粒径が5?10μmの非磁性トナーを有する2成分現像剤を用い、静電荷像担持体に対向して相対移動し、前記現像剤を支持して現像位置へ搬送する現像剤担持体と、該現像剤担持体内部にあって固定された複数の磁極とを具備し、さらに前記現像位置に交番電界を形成する現像装置を用いる画像形成方法において、該現像剤担持体内部に具備された現像磁極の磁束密度を800?1200ガウスとし、さらに該現像磁極の傾き角度が、該静電荷像担持体と現像剤担持体との中心点を結ぶ線に対し2?15゜であるとともに、前記磁性キャリアの重量平均粒径をD(μm)とし、静電荷像担持体と現像剤担持体の周速比(A)を下記式1のように定めたとき、下記式2を満足する現像装置を用いることを特徴とする画像形成方法。
式1
周速比(A)=(現像剤担持体の移動速度/静電荷像担持体の移動速度)×100(%)
式2
(2D+540)/5≦A≦(2D+1340)/5 」

(1-1b)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は電子写真複写機、静電記録機、静電印刷機などの画像形成方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来、電子写真複写機、静電記録機、静電印刷機などの画像形成方法としては、非磁性トナーと磁性キャリアとを混合した2成分現像剤を使用する磁気ブラシ現像装置が広く用いられている。
【0003】(略)
【0004】さらに、高画質・高精細画像の要求が高まっていることから、トナー及びキャリアの双方を小粒径化することにより、トナーの供給能力を安定化し高解像層の画像を得ようとしたものが知られている。しかしこの場合には、キャリアを小粒径化したためにキャリアが静電荷像担持体に付着し、それにより画像の欠陥を生じる場合があった。また、中間調画像の再現性が悪く、「ガサツキ」のある貧弱な画像となる場合があった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】トナー及びキャリアの双方を小径化した2成分現像剤を用いた現像装置において、キャリア付着や画像のガサツキ、トナー飛散を防止し、細線や中間調画像の再現性に優れた高画質・高精細の画像を得ることを目的とする。」

(1-1c)「【0015】現像磁極S1の磁束密度の半値巾は40゜以内であるのが好ましく、さらに半値巾が35゜以内であるのが特に好ましい。現像磁極の磁束密度の半値巾が40゜以内の場合には、画像が鮮明となり細線再現性が良好となる。」

(1-1d)「【0017】θは現像スリーブ3の中心に対する現像磁極と一点鎖線Lとの角度であり、現像磁極の傾き角度を表すものである。なお、現像磁極が現像スリーブの移動方向に対して一点鎖線Lよりも上流にある場合を+とし、また下流にある場合を-とする。
【0018】θは、+2?+15゜の範囲または-2?-15゜の範囲であるのが好ましい。この範囲にθを設定することでキャリア付着の発生を防止することができる。θを、この範囲外に設定するとキャリア付着を生じてしまう。」

(1-1e)「【0023】現像磁極の磁速密度(Bγ)は、800?1200ガウスの範囲にあるのが好ましい。Bγが800ガウス未満の場合には、キャリアを現像剤担持体上に充分に保持できずにキャリアが飛散してしまい、その結果キャリア付着を生じてしまう。また、Bγが1200ガウスより大きい場合には、現像剤の穂立ち硬さが大きくなり過ぎてしまい、その結果静電荷像担持体の擦過力が増大し、ガサツキのある画像しか得られない。」

(1-1f)「【0027】c)現像剤
現像剤8は、非磁性トナー81および磁性キャリア82とからなる2成分現像剤である。
【0028】非磁性トナー81は、体積平均粒径が5?10μmのものを使用する。体積平均粒径の測定は、100μmのアパーチャーを使用しコールターカウンタTA-II型(コールター社製)により行った。
【0029】一方、82は磁性キャリアであり重量平均粒径が20?100μm好ましくは30?80μmで、抵抗値が10^(7)?10^(15)Ω・cmの範囲で、好ましくは10^(8)?10^(14)Ω・cmの範囲であり、具体的には、フェライト粒子へ、スチレン樹脂やアクリル樹脂並びにそれらの共重合体(スチレン-アクリル樹脂)、フッ素樹脂、シリコーン樹脂などの樹脂をコーティングしたものが用いられる。」

(1-1g)「【0033】d)キャリア重量平均粒径(D)と周速比(A)の関係式(式2)について
静電荷像担持体と現像剤担持体の周速比Aは、キャリアの重量平均粒径をD(μm)としたとき、(2D+540)/5以上(2D+1340)/5以下であることが好ましい。周速比Aが(2D+540)/5よりも小さい場合には、現像ニップ部への非磁性トナーの供給が十分とならないためにベタ画像がガサついてしまい、安定した良好な画像が得られない。また、周速比Aが(2D+1340)/5よりも大きい場合には、トナー飛散を生じてしまい、同様に安定して良好な画像が得られない。」

(1-1h)「【0039】【実施例】以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明の態様はこれに限定されない。
【0040】実施例1
静電荷像担持体としての感光ドラム1の外径が80mm、現像剤担持体としての現像スリーブ3の外径が32mmであり、該スリーブ内部に半値巾が35゜である現像磁極と現像剤を搬送する4つの磁極とを備え、感光ドラム1と現像スリーブ3との間隔が800μm、現像スリーブ3とアルミニウム素材からなる穂立ち規制ブレードとの間隔が500μmであって、該感光ドラムの周速を160mm/secとし、感光ドラムの帯電電位を-650V、露光電位を-200Vとし、現像スリーブ3に交番電圧(周波数2kHz、ピーク・トゥ・ピーク電圧2kVの交流電圧に、直流電圧-350Vを重畳した)を引加して現像位置に交番電界を形成し、現像剤を振動させて潜像を現像する現像装置を用いた。また現像剤としては、スチレン-アクリル樹脂をコートしたキャリアであって、樹脂のコーティング膜厚を変化させて、抵抗値がそれぞれ2×10^(9)Ω・cm(キャリアA)、1×10^(10)Ω・cm(キャリアB)、4×10^(13)Ω・cm(キャリアC)である磁性キャリアと体積平均粒径が8.0μmの非磁性トナーとの混合物からなる2成分現像剤を用いて、現像磁極の磁束密度(Bγ)、現像磁極と一点鎖線Lとの角度θ、さらに磁性粒子82の重量平均粒径D(μm)および周速比A(%)を種々変化させて実写評価を行い、キャリア付着、トナー飛散、ベタ画像のガサツキについて評価した。
【0041】尚、キャリアA,B,C間で性能差は小さかったため本実施例は主にはキャリアBを用いた結果のみを示したが、代表的なもののみキャリアA,Cを用いた結果も示した。
【0042】すなわち本発明内の実験No.A-1?A-18まではキャリアBを用い、A-19はA-1のキャリアをキャリアAに代えたもの、A-20は同じくA-1のキャリアをキャリアCに代えたものである。一方、本発明外の実験No.B-1?B-9もキャリアBを用いた結果であるが、B-10はB-5のキャリアをキャリアAに、又、B-11はB-5のキャリアをキャリアCに代えて実験を行った結果である。
【0043】キャリア付着およびトナー飛散の評価方法は、複写物上および複写機内を目視により判断したもので、記号○はトナー飛散やキャリア付着が全く無く良好、記号×はトナー飛散およびキャリア付着が目視で確認された不可を示す。また、ベタ画像のガサツキの評価方法は、サクラデンシトメータ(コニカ(株)社製)を用いて透過濃度のバラツキを測定することにより評価した。透過濃度のバラツキが0.30以下の場合を記号○で表し、0.30より大きい場合を記号×で表した。
【0044】その結果を表1に示す。
【0045】【表1】

(審決注:表1の摘記は抜粋である。)


これら記載によれば、刊行物1には次の発明(以下、「刊行物1記載の発明」という。)が記載されているものと認められる。

「重量平均粒径が20?100μmの磁性キャリアと非磁性トナーを有する2成分現像剤を用い、静電荷像担持体に対向して相対移動し、前記現像剤を支持して現像位置へ搬送する現像剤担持体と、該現像剤担持体内部にあって固定された複数の磁極とを具備し、さらに前記現像位置に交番電界を形成する現像装置を用いる画像形成方法において、該現像剤担持体内部に具備された現像磁極の磁束密度を800?1200ガウスとし、さらに該現像磁極の傾き角度が、該静電荷像担持体と現像剤担持体との中心点を結ぶ線に対し2?15゜であるとともに、前記磁性キャリアの重量平均粒径をD(μm)とし、静電荷像担持体と現像剤担持体の周速比(A)を下記式1のように定めたとき、下記式2を満足する現像装置を用いる、画像形成方法。
式1
周速比(A)=(現像剤担持体の移動速度/静電荷像担持体の移動速度)×100(%)
式2
(2D+540)/5≦A≦(2D+1340)/5 」

(1-2)刊行物2:特開平6-250527号公報
【0017】に、キャリアの平均粒度が35μmという記載、【0018】に、現像ニップ幅が5?7mm前後という記載がある。

(1-3)刊行物3:特開平6-337551号公報
【0030】【0031】に、周速比が1.5?5.0倍という記載、【0036】に、キャリアの平均粒径50μm、キャリアの被覆樹脂がシリコーン樹脂であるという記載がある。

(1-4)刊行物4:特開平3-67286号公報
(1-4a)「【特許請求の範囲】
(1)磁性キャリヤとトナーとを含有する二成分系現像剤の磁気ブラシを現像スリーブ上に形成し、この磁気ブラシを電荷像を有する感光体と摺擦させてトナー像を形成させる現像方法において、
磁気ブラシと感光体との摺擦を、下記式、
k=L・n
式中、nはコロジオン固定磁気ブラシについて走査型電子顕微鏡写真か ら求めた感光体面積当りのキャリヤ接触個数(個/mm^(2))であり、L は式
L=(Nip/V_(d))・(V_(s)-V_(d))
(Nipは感光体表面における現像剤のニップ幅(mm)であり、V_(s)は 現像スリーブの移動速度(mm/sec)であり、V_(d)は感光体表面の移 動速度(mm/sec)である)で規定される現像長さを示す、
で定義される頻度(k)が100乃至700となるように設定することを特徴とする画像の再現性に優れた現像方法。」
(審決注:上記「L」の式は、転記の都合上、記載形式を多少変更しているが、内容に変更はない。以下、同様。)

(1-4b)「本発明の目的は、多重細線の再現に際して、各線毎の線幅が一定で先端欠けや後端欠けが防止され、しかも高濃度及び高品質の画像を形成させ得る現像方法を提供するにある。」(第3頁右上欄第5?11行)

(1-4c)「潜像一点のニップ通過時間tは下記式
t=Nip/V_(d)で表わされるが、潜像一点上を通過するトナーの長さLは、上記tに、両者の速度差をかけたもの、即ち式
L=(Nip/V_(d))・(V_(s)-V_(d))
で表わされることになる。この現像長さは、長さの次元をもち、現像トナー量に比例する値である。かくして、ニップ幅(Nip)、ドラム周速(V_(d))及び現像スリーブ周速(V_(s))を選択することによっても、キャリヤ接触頻度(k)の設定を行い得ることがわかる。」(第5頁左上欄第1?12行)

(1-4d)「磁性キャリアは、上記条件を満足するフェライトキャリヤ、特に球状のフェライトキャリヤが好適なものであり、その粒径は20乃至140μm、特に50乃至100μmの範囲にあることが望ましい。」(第6頁左上欄下から2行目?右上欄第3行)

(1-4e)「トナーと磁性キャリアとの混合比率は、上記トナー及び磁性キャリアの物性によっても相違するが重量比で一般に1:99乃至10:90、特に2:98乃至5:95の範囲内にあることが望ましい。」(第7頁左下欄第2?6行)

(1-4f)「現像条件
前記式(2)で表わされる現像長さLは、接触頻度kに関係すると共に、画像濃度にも関係する。本発明において、現像長さLは、4乃至35μm。特に4乃至20mmとなるように、ニップ幅(NIp)及び現像スリーブ周速(V_(s))、並びにドラム周速(V_(d))を定めるのがよい。
この内でも現像ニップ幅(Nip)は一般に1乃至15μm、特に2乃至8mmの範囲とするのがよい。」(第7頁左下欄第14行?右下欄第2行)

(1-5)刊行物5:特開平10-133479号公報
(1-5a)「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、二成分系現像剤を収容する現像ケースと、回転駆動されながら、その表面に汲み上げられた二成分系現像剤を担持する現像スリーブと、該現像スリーブ内に配置されていて、潜像担持体に形成された静電潜像の可視像化に供せられる二成分系現像剤の磁気ブラシを現像スリーブ表面上に形成する主極と、同じく現像スリーブ内に配置されていて、潜像担持体の移動方向に対して前記主極よりも下流側に位置する現像スリーブ表面上の二成分系現像剤を、現像スリーブの回転と協働して搬送し、該二成分系現像剤を現像ケースの側に戻す搬送極とを有する画像形成装置の乾式現像装置に関する。」

(1-5b)「【0034】一方、「ベタ部」のところを現像する場合、現像スリーブ上の現像剤が移動するときの線速が、感光体のそれよりも速く、かつ、両者の移動方向が同じである所謂、ウィズモードの場合に、図9に示すように、ベタ画像の後端部(感光体移動方向にみた可視像の後端部)がギザギザ状に白抜け状態となったり、図10に示すように、白抜け画像(ネガ像)の端部がギザギザ状態になったりする。以下、このようなことを「ラジィド」になるという。
【0035】これに対し、感光体の移動方向と現像スリーブ上の現像剤の移動方向とが互いに逆になる、所謂カウンタモードの場合、画像先端側がラジィドになる。結局、このようなラジィドを生じることで、画質を著しく低下させることになる。
【0036】図3に示した実施形態例では、上述した欠点をも除去すべく、次のように構成されている。
【0037】図4は、図3に示した各マグネットP1,P2,P3,P4,P5の磁束密度分布を示す。すなわち、非磁性体より成る現像スリーブ11の法線方向の磁界の強さ(エルステッド)を現像スリーブ11の表面(周面)で測定し、その値を現像スリーブ11の法線方向の外方にとって示した分布を示すものである。その際、本例においては主極(以下、この主極に対して符号P1を付す)による磁束密度分布を次のように設定している。
【0038】今、線Lが現像スリーブ11の周方向における、主極P1の中心であるとして、その磁束密度分布は、主極中心Lに向けて磁界の強さが一気に立ち上がり、主極中心Lのところで最大値をもつものとなっている。
【0039】ここで、現像スリーブ11の回転中心がO1であるとして、現像スリーブ表面において、主極P1による現像スリーブ法線方向の磁界の強さを、現像スリーブ法線方向の外方にとって示した磁束密度分布の最大値の略1/2のところを、その磁束密度分布の両側の線E,Fを横切るようにして通る、現像スリーブの周方向上の線(すなわち、E,Fを通る、現像スリーブ中心O1をセンターとした円弧)Gと、磁束密度分布の両側の線E,Fとの両交点H,Iのうち、一方の交点Hと現像スリーブ11の中心O1とを結ぶ直線L1、並びに他方の交点Iと、現像スリーブ11の中心O1とを結ぶ直線L2との成す角度αが30度以下となるように主極が構成されている。
【0040】かかる角度αが大きくなると、磁束密度分布の幅は広くなり、角度αが小さくなると、磁束密度分布の幅は狭くなる。磁束密度分布における現像スリーブ周方向上の、点I,H間の長さを今、便宜上、半値幅と称し、かつ、角度αを半値角と称するとして、従来は図8に示すように半値角αが39度程度となっていて、半値幅が広くなっている。
【0041】これに対し、本例においては、半値角αが30度以下、例えば、27度に設定され、従来より半値幅が狭くなっている。
【0042】磁束密度分布の半値幅が広いと、前述したようなラジィド(図9、図10)を生じる傾向が強くなるが、本発明者らの行った実験によると、半値幅はかかるラジィドの発生に重大な影響を及ぼし、半値角αを30度以下に設定すると、そのラジィドの発生を極力、抑え得ることが判明したのである。
【0043】これについて、詳しく説明するに、その一例として、現像スリーブ11の表面が、現像部において感光体12の表面と同じ方向に移動し、かつ、現像スリーブ上の現像剤が移動するときの線速の方が感光体のそれよりも大きい条件で現像スリーブが回転するような現像条件の場合を考える。ここで、現像スリーブ11からのトナーの飛散をでき得る限り抑えて、地肌汚れなどを起こさないようにするために、従来より、主極P1(図3参照)を、現像スリーブと感光体との最近接部から、現像スリーブ11の回転方向上の上流側に、例えば現像スリーブの径が40mmの場合、1乃至4mm程度、ずらしている。このずらし量については、先の半値幅が広くなる程、大きく設定せざるを得ない。
【0044】ところで、現像電界が最も強くなるのは、既に知られているように、キャリアチェーンが立つ主極上の部位であり、この部位で現像は殆んど終了する。現像剤が感光体12に接触する、現像スリーブ周方向の幅(所謂、現像ニップ部)の、キャリアチェーンが立つ部位を除いた残りの現像領域については、感光体に付着したトナーをむしろ掻き取ってしまうという、所謂スキャベンジング作用が行われる所であると考えられる。
【0045】半値幅が広いということは、結局、このような現像に実質的に寄与しないスキャベンシングが行われる領域が広くなるということになり、キャリアチェーンが立つところから、現像ニップ部の終端(現像スリーブ上の現像剤が感光体から離れる所)までの距離が長くなればなる程、感光体に形成された画像の、例えば後端側が現像ニップ部を抜け出る寸前に、その後端側にラジィドを生じ易くなる。
【0046】主極P1上で、感光体の地肌部と相対したスリーブ上のキャリアは、一部トナーを失ない、高ポテンシャルになる。すなわち、今までよりも帯電電位が上昇するようになる。そのキャリアが、ゆっくり進む感光体表面を追い越して、画像後端側(感光体上の潜像後端側)に相対したとき、当該キャリアは感光体からトナーを引き付け回収するような働きをし、これが、画像の端部にラジィドを生ぜしめたり、感光体表面の移動方向と直交する方向の横線の可視像が良好にコピーとして出ず、前述の縦横線画比が1から大きく外れる要因の一つとなるのである。
【0047】このような点から、主極の磁束密度分布の半値幅を狭くすれば良いのであるが、このようにするためには、例えば主極P1の幅、すなわち、スリーブ周方向上の幅を磁束密度分布の半値角が30度以下となるように決定すればよく、これにより、現像電界が最も強くなるところから、現像ニップ部の終了点までの距離をより短くすることができ、もって、先のスキャベンジング作用をでき得る限り抑えることができるようになり、ラジィドを発生しにくくすることができる。」

(1-6)刊行物6:特開平7-168448号公報
(1-6a)「【0001】【産業上の利用分野】本発明は、被記録画像信号に対応して像担持体に形成されたドット分布静電潜像を、トナーと磁性キャリアとを有する現像剤の磁気ブラシにより現像する現像装置を備えた画像形成装置に関する。」

(1-6b)「【0085】このトナー粒子の、現像流域上流部での滞留現象が画像濃度減衰の主要因であり、トナー粒子の滞留を搬送方向に搬送することにより画像濃度減衰を解消することができる。本実施例では、接触ニップの減少を防止するために、磁気ブラシの穂立ち領域を拡げることを目的として、現像磁極における垂直方向の磁界の強さのピーク値に対する半値幅を拡げた。尚、半値幅とは、現像磁極の現像剤スリーブ表面上での垂直磁界のピーク値の磁界に対して、その磁界の強さが50%になる上流部と下流部間の角度のことであり、図1中において、Wで示す幅である。
【0086】この半値幅Wを図1のように変化させて接触ニップ及び画像濃度を調べた。尚、磁性キャリアとして磁化の強さが64emu/cm^(3) のものを用い、電子写真感光ドラムが直径80mm、現像スリーブが直径32mmのものを用いた場合の半値幅と接触ニップの関係は図8のグラフに示すようになることがわかった。尚、感光ドラム及び現像スリーブ間の距離を最近接位置において500μmになるように設定した。
【0087】図8からわかるように現像極の半値幅を拡げると接触ニップが拡がることがわかる。又、半値幅35度以上においてはほぼ飽和していることがわかる。今回の検討条件は、もらし量を約50mg/cm^(2) で一定にした。
【0088】尚、半値幅を拡げると接触ニップが拡がるのは以下の理由からである。磁気ブラシの穂の長さは、磁化の強さによるため半値幅には殆ど依存しない。穂長は同等であるが図2に示すように半値幅を拡げると、穂がスリーブ面に対して垂直方向に立つ領域が広くなる。このため、感光ドラムに接触するニップが拡大される。但し、接触ニップはスリーブ面に垂直な穂立ち状態で感光ドラムに接触する場合で飽和する。」

(1-6c)「【0110】例えば、磁化の強さが64emu/cm3 の磁性キャリアを用いたところ、現像スリーブの直径が25mm以下の場合には、現像コントラストを500Vとった場合においても十分な画像濃度が得られなかった。
【0111】そこで第1及び第2実施例と同様に現像磁極の半値幅を変化させて接触ニップ及び画像濃度を、現像コントラスト500Vとして、測定した。半値幅に対する接触ニップ及び画像濃度はそれぞれ図9及び図12のグラフに示す通りである。」

(1-6d)図8、図9、図10は以下のとおり。
図8

図9

図10


(2)対比・判断
そこで、本願発明1と刊行物1記載の発明とを対比する。

まず、刊行物1記載の発明の「磁性キャリア」「非磁性トナー」「2成分現像剤」「静電荷像担持体」「現像剤担持体」は、それぞれ、本願発明1の「磁性を有するキャリア」「トナー」「現像剤」「静電荷潜像担持体(A)」「現像剤担持体(B)」に相当し、
刊行物1記載の発明の「現像装置を用いる画像形成方法」は、本願発明1の「現像方法」や末尾の「静電荷潜像現像方法」に相当し、
また、刊行物1記載の発明では、静電荷像担持体と現像剤担持体の周速比(A)は、「式2」により、必ず1を超えるものであるから、刊行物1記載の発明も、本願発明1と同様に、「該現像剤担持体(B)表面と潜像担持体(A)表面とを異なる速度で相対的に移動させながら、トナー成分を潜像担持体(A)上に現像する」ものである。
したがって、刊行物1記載の発明の「磁性キャリアと非磁性トナーを有する2成分現像剤を用い、静電荷像担持体に対向して相対移動し、前記現像剤を支持して現像位置へ搬送する現像剤担持体と、該現像剤担持体内部にあって固定された複数の磁極とを具備し、さらに前記現像位置に交番電界を形成する現像装置を用いる画像形成方法」は、
本願発明1の「少なくとも静電荷潜像担持体(A)と磁性を有するキャリア成分とトナー成分からなる現像剤を担持する現像剤担持体(B)を対向して設け、該現像剤担持体(B)表面と潜像担持体(A)表面とを異なる速度で相対的に移動させながら、トナー成分を潜像担持体(A)上に現像する現像方法」に相当するということができる。

次に、刊行物1記載の発明の「重量平均粒径」(D(μm))は、本願発明1の「重量平均粒子径」に相当し、
刊行物1記載の発明の磁性キャリアの「重量平均粒径が20?100μm」と、本願発明1の「キャリアの重量平均粒子径が35μm以上50μm以下」とは、「キャリアの重量平均粒子径が所定の範囲」である点で共通する。
刊行物1記載の発明の「現像剤担持体の移動速度」「静電荷像担持体の移動速度」は、それぞれ、本願発明1の「Vr:現像剤担持体表面の移動速度(mm/sec)」「Vp:潜像担持体表面の移動速度(mm/sec)」に相当し、
刊行物1記載の発明の「周速比(A)=(現像剤担持体の移動速度/静電荷像担持体の移動速度)×100(%)」は、本願発明1の「Vr/Vp」をパーセンテージで表現したものであり、実質的に同じ内容である。
そして、刊行物1記載の発明の「前記磁性キャリアの重量平均粒径をD(μm)とし、静電荷像担持体と現像剤担持体の周速比(A)を下記式1のように定めたとき、下記式2を満足する。式1:周速比(A)=(現像剤担持体の移動速度/静電荷像担持体の移動速度)×100(%)、式2:(2D+540)/5≦A≦(2D+1340)/5」と、
本願発明1の「下式(1)で得られる値をkとしたとき、kの値が下記式(2)の要件を満足し、L(現像剤と潜像担持体の接触幅)が0.2?1.0mm、Vr/Vp=1.8?2.5であり、かつ、現像剤に含まれるキャリアの重量平均粒子径が35μm以上50μm以下であって」及び「k=L・〔(Vr/Vp)-1〕〔mm〕……(1)、0.1〔mm〕≦k≦2〔mm〕……(2)〔Vp:潜像担持体表面の移動速度(mm/sec)、Vr:現像剤担持体表面の移動速度(mm/sec)、L:現像剤と潜像担持体の接触幅(mm)〕」とは、
「周速比Vr/Vpの範囲が、L(現像剤と潜像担持体の接触幅)又はキャリアの重量平均粒子径との関係において規定されている」点では共通するということができる。

そうすると、両発明の一致点、相違点は以下のとおりと認められる。

[一致点]
「少なくとも静電荷潜像担持体(A)と磁性を有するキャリア成分とトナー成分からなる現像剤を担持する現像剤担持体(B)を対向して設け、該現像剤担持体(B)表面と潜像担持体(A)表面とを異なる速度で相対的に移動させながら、トナー成分を潜像担持体(A)上に現像する現像方法において、
キャリアの重量平均粒子径が所定の範囲にあり、
周速比Vr/Vpの範囲が、L(現像剤と潜像担持体の接触幅)又はキャリアの重量平均粒子径との関係において規定されている、
静電荷潜像現像方法。」

[相違点]
本願発明1では、
現像剤中のトナー含有量が5?10重量%で、
現像剤に含まれるキャリアの重量平均粒子径が35μm以上50μm以下で、キャリアが(Si-O)を主たる繰り返し単位とするシリコーンポリマーで被覆されているもので、
L(現像剤と潜像担持体の接触幅(以下「現像ニップ幅L」という。))が0.2?1.0mm、周速比Vr/Vp=1.8?2.5で、LとVr/Vpが、k=L・〔(Vr/Vp)-1〕〔mm〕、0.1〔mm〕≦k≦2〔mm〕を満足するのに対し、
刊行物1記載の発明では、
現像剤中のトナー含有量の明記がなく、
現像剤に含まれるキャリアの重量平均粒子径が20?100μmで、キャリア被覆に関する明記がなく、
現像ニップ幅Lの明記がなく、
キャリアの重量平均粒子径D(μm)、周速比(A)が、(2D+540)/5≦A≦(2D+1340)/5を満足するものであり、
さらに、現像剤担持体内部に具備された現像磁極の磁束密度を800?1200ガウスとし、現像磁極の傾き角度が、静電荷像担持体と現像剤担持体との中心点を結ぶ線に対し2?15゜であるという限定がある点。

そこで、相違点について検討する。
検討の順序は、先に、現像ニップ幅L以外の点の検討を主に行い、その後、現像ニップ幅L等の検討、全体的な検討へと進む。

(a)キャリアの重量平均粒子径、キャリア被覆
刊行物1記載の発明のキャリアの重量平均粒子径は、20?100μmであるが、刊行物1の詳細な説明には、「好ましくは30?80μm」(上記(1-1f)参照)とあり、また、刊行物1の実施例(上記(1-1h)の表1参照)でも、30μmの例、60μmの例がある。
また、本願発明1の「35μm以上50μm以下」程度のキャリア粒子径は、文献をあげるまでもなく、本願出願前に周知である(慣用されてはいないとしても、周知ではある。)
さらに、本願出願当時において、キャリアを小径化する傾向が一般に始まっていたといえるから、当業者が、刊行物1(平成7年公開)記載の粒径範囲のうち、小径のものを採用しようとすることは、あり得ることである。
そうすると、刊行物1記載の発明において、キャリアの重量平均粒子径を、本願発明1の「35μm以上50μm以下」にすることは、当業者ならば簡単になし得る程度のことである。

キャリア被覆については、刊行物1記載の発明には明記がないが、刊行物1の詳細な説明には、「フェライト粒子へ、スチレン樹脂やアクリル樹脂並びにそれらの共重合体(スチレン-アクリル樹脂)、フッ素樹脂、シリコーン樹脂などの樹脂をコーティングしたものが用いられる」(上記(1-1f)参照)と、例えばシリコーン樹脂で被覆する旨の記載があり、また、一般に、シリコーン樹脂として、(Si-O)を主たる繰り返し単位とするものが普通であるから、刊行物1記載の発明において、本願発明1のごとく、キャリアが(Si-O)を主たる繰り返し単位とするシリコーンポリマーで被覆されているものとすることに、困難はない。

(b)周速比Vr/Vp
周速比Vr/Vpについては、刊行物1の実施例(上記(1-1h)の表1参照)には、キャリアの重量平均粒子径30μmのときに周速比(A)200%という例、キャリアの重量平均粒子径60μmのときに周速比(A)200%という例があり、これらの周速比(A)200%は、本願発明1の周速比Vr/Vp=1.8?2.5(すなわち、180%?250%)の範囲に入るものである。
また、刊行物1記載の発明において、キャリアの重量平均粒子径Dを、本願発明1の「35μm以上50μm以下」として、(2D+540)/5≦A≦(2D+1340)/5の式に当てはめると、周速比(A)は次のようになり、本願発明1の周速比Vr/Vp=1.8?2.5(すなわち、180%?250%)の範囲とかなりの部分で重なるものである。
キャリア径D D(2D+540)/5 (2D+1340)/5
35 122 282
40 124 284
45 126 286
50 128 288
さらに、本願発明1の周速比Vr/Vp=1.8?2.5程度の数値というのは、文献を示すまでもなく、本願出願前に周知の周速比であり、当業者にとって何ら特別な数値ではない。
そうすると、刊行物1記載の発明において、周速比(A)を、本願発明1の周速比Vr/Vp=1.8?2.5(すなわち、180%?250%)の程度とすることは、当業者が普通になし得ることである。

(c)現像剤中のトナー含有量
刊行物1記載の発明には、2成分現像剤中のトナー含有量(トナー濃度又は混合比)については、明記がない。
しかしながら、2成分現像剤においてトナー含有量が、本願発明1の「5?10重量%」程度というのは、周知のトナー含有量(トナー濃度又は混合比)である。例えば、特開平3-231781号公報の第1頁右下欄第2段落には、トナーとキャリアの適度なトナー混合比として「キャリアの粒径や比重にもよるが、普通3wt%ないし10wt%程度」と記載されており、特開平8-123190号公報の【0021】には、本願発明1に含まれるキャリア粒径約50μmを用い、トナー混合比5wt%とした実施例があり、また、特開平8-292633号公報の【0013】には、「トナーとキャリアの混合比率は、通常、1.5?5.0トナー重量%のものが用いられている」と記載されており、特開平10-63100号公報の【0043】には、「トナーとキャリアの混合比は、現像剤中のトナーの重量比で7.9%とした」と記載されている。
そうすると、刊行物1記載の発明において、現像剤中のトナー含有量(トナー濃度又は混合比)を、本願発明1のごとく「5?10重量%」の程度とすることは、当業者が普通になし得ることである。

(d)現像ニップ幅L
次に、現像ニップ幅Lについて検討する。
本願の主要な課題は、いわゆるベタ画像の後端白抜けを防止することである。
ところで、刊行物5には、トナーとキャリアを有する2成分現像剤を用いた画像形成において、現像装置の磁束密度分布における、いわゆる「半値幅」(又は半値角)を狭くすることにより、「ベタ画像の後端白抜け」を防止できることが記載されている。
そして、同じく、トナーとキャリアを有する2成分現像剤を用いた画像形成である、刊行物1記載の発明においても、ベタ画像の後端白抜けを防止することは当然に望ましいことであるから、当業者であれば、刊行物5記載の上記技術を適用しようと考えるものである。そして、このことは、トナーとキャリアを有する2成分現像剤を用いた画像形成において、画像の後端白抜けが発生する課題は、刊行物5で初めて認識されたものではなく、本願出願前に周知の課題であった(例えば、特開平3-7971号公報の第2頁右下欄最終段落?第3頁左上欄第1段落、実願平2-87333号(実開平4-44653号)のマイクロフィルムの従来技術の説明、特開平4-362979号公報の【0006】【0007】、特開平10-171252号公報の【0003】を参照)から、なおさらである。
また、刊行物1記載の発明で規定されるキャリア粒径と周速比は、上記のとおり、周知の程度のものであることも考慮すると、刊行物5記載の技術を、周知の程度のものに適用することは、当業者であれば難なく考えることともいえる。
しかも、刊行物1には、「半値幅は40°以内(特に35°以内。)が好ましい」(上記(1-1c)参照)とも記載されているから、刊行物1記載の発明に刊行物5記載の上記技術を適用しても、技術の方向性に矛盾はないどころか、一致している。

ここで、刊行物6をみると、トナーとキャリアを有する2成分現像剤を用いた画像形成において、現像ニップ幅と半値幅との関係として、半値幅が狭くなると、現像ニップ幅も小さくなるという知見が記載されており、特にその図9をみれば、小径の現像スリーブでは、半値幅20°程度で、現像ニップ幅は1.5mm程度にまでなることも示されている。したがって、刊行物5に記載された、半値幅を狭くすることというのは、現像ニップ幅を小さくすることにつながることが理解される。
従来、一般的であった現像ニップ幅は、数ミリ程度であり(例えば、刊行物2では、5?7mm、刊行物4では、1?15mm(好ましくは2?8mm)という記載がある)、本願発明1のように、1mm程度まで小さくすることは、公知文献としては発見されない。
しかし、刊行物1記載の発明において、トナーとキャリアを有する2成分現像剤を用いた画像形成で望ましい課題である、ベタ画像の後端白抜け防止のを実現するために、刊行物5及び刊行物6に記載の知見に沿って、半値幅を狭くしてゆき、後端白抜け防止の効果がより得られる可能性があるところまで、現像ニップ幅を小さくしてゆくこととし、1mm以下程度まで小さくすることは、当業者であれば、容易に想到し得ることであるし、また、試してみようとするものである。

なお、刊行物1?6とは別文献である特開平7-271194号公報(原査定の引用文献1。以下、「参考文献」という)の【0031】には、「ニップ幅が3mmより小さいと、小点再現性を保ちつつ、画像濃度を高くすることが難しくなる」との知見が記載されている。また、刊行物6(参考文献と同じ出願人のものである)にも、同様に、半値幅を狭くする(ニップ幅も狭くなる)と、画像濃度が低下する図、例えば、図10が示されている。
しかし、その図10では、現像コントラスト(Vcont)の値によって画像濃度は上下することも示されていることを考慮すると、半値幅を狭く(ニップ幅も狭く)しつつも、画像濃度を上げることに寄与する要素(現像コントラスト、等)を適宜調整して、画像濃度をそれなりに保つことは、当業者であれば可能であると考えられる。そして、上記のとおり本願発明1の構成は現像ニップ幅を除けば周知といえる程度のものであることを考慮すると、後端白抜け防止を図る観点から、現像ニップ幅を小さくしてゆき、1mm以下程度まで小さくすることは、当業者ならば十分に発想可能であり、参考文献の知見がその阻害要因になることは特にないというべきである。

(e)現像磁極の磁束密度、現像磁極の傾き角度
そのほか、刊行物1記載の発明には、現像磁極の磁束密度と、現像磁極の位置についての限定もあるが、現像磁極の磁束密度の数値は、低過ぎもせず(低過ぎるとキャリア飛散が生じる)、高過ぎもせず(高過ぎると穂立ちが堅くなり過ぎる)、適度にするということであり、そのような適度な範囲を考慮しつつも、特に明示しない程度のことは、当業者が適宜なし得ることである。また、現像磁極の位置の限定も、キャリア付着を防止する微調整であり、限定しない程度のことは、当業者が適宜なし得ることである。

(f)全体的な検討
上記のとおり、本願発明1の(a)キャリアの重量平均粒子径、キャリア被覆、(b)周速比Vr/Vp、(c)現像剤中のトナー含有量についての数値範囲等は、いずれも周知のものであり、また、(d)現像ニップ幅Lについては、後端白抜け防止を図る観点から、1mm以下程度まで小さくすることは、当業者が容易に想到し得ることである。
ここでは、さらに、他の事項を含め、全体的な検討を行う。

(ア)式『k=L・〔(Vr/Vp)-1〕〔mm〕』について
本願発明1は、現像ニップ幅Lが0.2?1.0mm、周速比Vr/Vp=1.8?2.5と規定するだけでなく、LとVr/Vpが、式(1)(2)、すなわち、k=L・〔(Vr/Vp)-1〕〔mm〕、及び0.1〔mm〕≦k≦2〔mm〕を満足することも規定するものである。
しかしながら、現像ニップ幅Lが0.2?1.0mm、周速比Vr/Vp=1.8?2.5の範囲であれば、同時に、『k=L・〔(Vr/Vp)-1〕〔mm〕、0.1〔mm〕≦k≦2〔mm〕』を満たすものである。このことは、現像ニップ幅L=0.2、周速比Vr/Vp=1.8のときに、k値は最小の0.16となり、また、現像ニップ幅L=1.0、周速比Vr/Vp=2.5のときに、k値は最大の1.5となるが、これらは「0.1〔mm〕≦k≦2〔mm〕」の範囲内にあることからもわかる。
したがって、現像ニップ幅Lが0.2?1.0mm、周速比Vr/Vp=1.8?2.5の範囲について検討するだけでよく、『k=L・〔(Vr/Vp)-1〕〔mm〕、0.1〔mm〕≦k≦2〔mm〕』については特に検討する必要がない。
なお、それでも、本願発明1の式『k=L・〔(Vr/Vp)-1〕〔mm〕』に言及しておくと、刊行物4には、潜像一点上を通過するトナーの長さLとして、同様の式(L=(Nip/V_(d))・(V_(s)-V_(d)))が示されており、本願発明1の『k=L・〔(Vr/Vp)-1〕〔mm〕』の視点に立つこと自体は、公知である。

(イ)数値範囲の臨界的意義について
本願発明1で規定される数値範囲については、上記「1.特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について」で示したように、いわゆるサポート要件を満たしていないものであるが、仮にサポート要件を満たしていたとしても、以下の点で、数値範囲の臨界的意義は明確でない。
まず、比較例4,比較例5を比べると、両者は、比較例4が「先の実施例5で作成したトナーDの5重量部と、キャリアA95重量部と混合した現像剤」を用いた(つまり、トナー含有量5wt%)のに対し、比較例5は「先の実施例5で作成したトナーDの7重量部と、キャリアA93重量部と混合した現像剤」を用いた(つまり、トナー含有量7wt%)点だけが異なり、他は一致する(なお、両者ともに、kが0.08と小さいので、比較例となっている。)にもかかわらず、飽和ID、画像不良などで評価に差が出ており(トナー含有量が多い方が、特に飽和IDが悪くなる原因はよくわからないが、少なくとも、トナー含有量が多い方が画像不良は少ない。)、トナー含有量の差が評価にかなり影響をしていることがうかがわれる。
次に、実施例4と比較例3を比べると、異なる点は、キャリア粒径(【0029】によると、実施例4のキャリアBは37μm、比較例3のキャリアDは34μm。なお、ここでは、シリコーン被膜の膜厚約0.5μmは一応無視しておく。)及びトナー含有量(実施例4は10wt%、比較例3は7wt%。)の点であり、L値、k値は一致する。そして、実施例4、比較例3は、本願発明1のキャリア平均粒径の下限値35μmの臨界的意義を示そうとするものと思われるが、実際は、キャリア粒径だけでなく、トナー含有量も異なっており、上記のとおり、比較例4と比較例5の対比からは、トナー含有量の差が評価にかなり影響をしているようであるから、実施例4と比較例3の評価の差(かなり大きな差がある)が、キャリア粒径の差を反映しているのか、トナー含有量の差を反映しているのか、明確でないといわざるを得ない。さらに、【0029】を子細にみると、実施例4のキャリアBと比較例3のキャリアDは、平均粒径で差があるだけでなく、本願発明1で規定していない飽和磁気モーメントでも差があり(前者が65esu/g、後者が48esu/gと、かなりの差がある。)、この飽和磁気モーメントの差が評価結果に影響している可能性も否定できない。そうすると、本願発明1のキャリア平均粒径「35μm以上50μm以下」の下限について、臨界的意義は明確でないということになる。
また、本願発明1のキャリア粒径の上限については、実施例、比較例の多くで使用されているキャリアAの粒径が48μmであるが、それよりも大きいものは、比較例2のキャリアCの90μmだけであるから、本願発明1の上限「50μm」に正確な臨界的意義があるかどうかも実際には確認されていないということになる。
さらに、実施例1,実施例3,比較例1を比べると、異なるのは、現像ニップ幅L(順に、0.4mm、1.0mm、2.0mm。なお本願発明1は0.2?1.0mm。)及びトナー含有量(順に、7wt%、7wt%、5wt%。なお本願発明1は5?10wt%。)の点であり、他は一致する。この実施例1,実施例3,比較例1は、現像ニップ幅Lの臨界的意義を示そうとするものと思われるが、実際は、現像ニップ幅Lだけでなく、トナー含有量も異なっており、上記のとおり、比較例4と比較例5の対比からは、トナー含有量の差が評価にかなり影響をしているようであるから、実施例1,実施例3に対する比較例1の評価の差(かなり大きな差がある)が、現像ニップ幅Lの差を反映しているのか、トナー含有量の差を反映しているのか、明確でないといわざるを得ない。そうすると、本願発明1の現像ニップ幅Lの上限について、臨界的意義は明確でないということになる。

(ウ)効果について
そして、全体として、上記の周知といえるキャリア平均粒子径と周速比のもとにおいて、現像ニップ幅Lを小さくして1mm以下程度にすると、後端白抜け防止が図られることは、上記刊行物5,6に記載された事項や周知技術から、当業者が予測し得る程度のことであり、したがって、本願発明1によってもたらされる効果も、格別なものとはいえない。

(エ)まとめ
以上のことを勘案すると、全体として、刊行物1記載の発明において、刊行物4?6の記載事項や周知技術を適用して、上記相違点に係る本願発明1のようにすることは、当業者が容易に想到し得ることというべきである。

したがって、本願発明1は、当業者が刊行物1,4?6記載の発明、及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものである。


第5 むすび
以上のとおりであるから、本願の特許請求の範囲の請求項1の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、また、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-03-27 
結審通知日 2009-03-31 
審決日 2009-04-13 
出願番号 特願2000-7223(P2000-7223)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G03G)
P 1 8・ 537- WZ (G03G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 伏見 隆夫  
特許庁審判長 木村 史郎
特許庁審判官 淺野 美奈
赤木 啓二
発明の名称 静電荷潜像現像方法  
代理人 友松 英爾  

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