【重要】サービス終了について

  • ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 E04B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 E04B
管理番号 1198041
審判番号 不服2007-27083  
総通号数 115 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-07-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-10-04 
確定日 2009-05-28 
事件の表示 特願2005- 12005「建築物」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 8月 3日出願公開、特開2006-200191〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成17年1月19日の出願であって、平成19年8月23日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成19年10月4日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、平成19年11月2日付けで手続補正がなされたものである。
その後、当審にて、平成20年12月22日付けで審査官による前置報告書の内容を提示して審判請求人に意見を求めるために審尋をしたところ、平成20年2月20日受付けで回答書が提出されたものである。

2.平成19年11月2日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成19年11月2日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
(1)補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲は以下のように補正された。
「【請求項1】
柱と梁からなる構造の建築物において、バルコニーに面する開口部の梁の幅が、該開口部の梁が取り付く柱の該開口部の梁と直交する方向の柱幅より大きくかつ該開口部の梁の梁成より大きく、前記開口部の梁に交差する梁の幅が、該梁が取り付く柱の該梁と直交する方向の柱幅以下でかつ該梁の梁成より小さく、前記開口部の梁の軸芯が該開口部の梁が取り付く前記柱の軸芯に対し偏心しており、該開口部の梁の上部にスラブを設けることなく、該開口部の梁の上面をバルコニーの床面としたことを特徴とする建築物。
【請求項2】?【請求項3】(記載を省略する。)」

上記補正は、補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「バルコニーに面する開口部の梁の幅」を「開口部の梁の梁成より大きく」するとの限定を付加し、「開口部の梁に交差する梁の幅」を「該梁の梁成より小さく」するとの限定を付加し、「開口部の梁の上部にスラブを設けることなく」との限定を付加するものであって、特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の上記請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて、以下に検討する。

(2)刊行物に記載された発明
原査定の拒絶の理由に引用され、本願出願前に頒布された刊行物である特開2003-227242号公報(以下、「引用文献」という。)には、「集合住宅」に関して、図面とともに以下の記載がある。
(ア)
「【0008】次に、集合住宅1の骨組構造体2を説明する。図1,図2(a),(b)に示すように、骨組構造体2は、桁行方向(B方向)に配置された第1ラーメン構造体2aおよび第2ラーメン構造体2bと、はり間方向(C方向)に少なくとも一つ配置された独立連層耐震壁体9と、第1ラーメン構造体2aと第2ラーメン構造体2bとの間の平面視中間部(本実施形態では、ほぼ中央部)に少なくとも一つ配置された合成耐震壁体10とからなっている。ここで、「骨組構造体」とは、柱や梁などの線材,耐震壁や壁ブレースなどの面部材を組み合わせた架構、およびそれに一体化した二次的構造部材で構成され、地震力などの外力に対して構造設計上抵抗し得る構造体をいう。
【0009】骨組構造体2は、桁行方向(B方向)では、対向して配置された二つのラーメン構造体2a,2bを有し、第1ラーメン構造体2aが共用廊下7の外側に配置され、第2ラーメン構造体2bがバルコニー8の外側に配置されたいわゆるアウトフレームの構成になっている。第1ラーメン構造体2aにおいて、桁行方向のラーメン骨組は、複数の独立柱3aと、水平方向に架設された梁4aとによって構成されている。複数の独立柱3aは、共用廊下7の外縁部に沿って、桁行方向に任意のスパン長さで配置されている。第2ラーメン構造体2bにおいて、桁行方向のラーメン骨組は、複数の独立柱3bと、水平方向に架設された梁4bとによって構成されている。複数の独立柱3bは、バルコニー8の外縁部に沿って、桁行方向に任意のスパン長さで配置されている。なお、第1ラーメン構造体2aを共用廊下7と住戸領域11,11a,11bとの間に配置し、第2ラーメン構造体2bをバルコニー8と住戸領域11,11a,11bとの間に配置した構成であってもよい。」
(イ)
「【0031】次に、図8(a)?(c)を参照して、集合住宅1において耐震壁が配置されていないはり間方向の架構面13(図2(a))の構造を説明する。はり間方向の架構面13の構造は、床荷重など常時鉛直荷重を負担すればよく、地震力は合成耐震壁体10および独立連層耐震壁体9で負担する。図8(a)は、第1ラーメン構造体2aの独立柱3aと第2ラーメン構造体2bの独立柱3bとの間に梁12を架設したものである。・・・」
(ウ)
上記(ア)および(イ)によると、【図8】(a)には、共用廊下7の外縁部に沿って配置される複数の独立柱3aと、独立柱3a間に水平方向に架設された梁4aとによって構成される第1ラーメン構造体2aと、バルコニー8の外縁部に沿って配置される複数の独立柱3bと、独立柱3b間に水平方向に架設された梁4bとによって構成される第2ラーメン構造体2bと、第1ラーメン構造体2aの独立柱3aと第2ラーメン構造体2bの独立柱3bとの間に、梁4bに直交する梁12を架設した集合住宅1が記載されている。

これら記載事項および図面からみて、引用文献には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

(引用発明)
「独立柱3bと梁4bを有し、独立連層耐震壁体9と合成耐震壁体10とを有する構造の集合住宅において、バルコニー8の外縁部に沿って配置された独立柱3bに架設された梁4bに直交する梁12を有する集合住宅。」

(3)対比
本願補正発明と引用発明とを比較すると、引用発明の「バルコニー8の外縁部に沿って配置された独立柱3b」とその「独立柱3bに架設された梁4b」により形成される開口部が、全体として、本願補正発明の「バルコニーに面する開口部」に相当する。
そして、引用発明の「(バルコニー8の外縁部に沿って配置された独立柱3bに架設された)梁4b」は、本願補正発明の「(バルコニーに面する開口部の)梁」に、以下同様に、「(バルコニー8の外縁部に沿って配置された)独立柱3b」は「(開口部の梁が取り付く)柱」に、「(梁4bに)直交する梁12」は「(開口部の梁に)交差する梁」に、「集合住宅」は「建築物」に、それぞれ相当する。

また、引用発明の「独立柱3bと梁4bを有し、独立連層耐震壁体9と合成耐震壁体10とを有する構造」と、本願補正発明の「柱と梁からなる構造」とは、「柱と梁を有する構造」で共通する。

そうすると、引用発明と本願補正発明とは、
「柱と梁を有する構造の建築物において、バルコニーに面する開口部の梁に交差する梁を有する建築物。」
である点で一致し、以下の点で相違している。

[相違点1]
建築物の構造が、本願補正発明が、柱と梁からなる構造であるのに対し、引用発明が、柱と梁を有し、独立連層耐震壁体9と合成耐震壁体10とを有する構造である点。

[相違点2]
バルコニーに面する開口部の梁に交差する梁の幅について、本願補正発明では、該梁が取り付く柱の該梁と直交する方向の柱幅以下でかつ該梁の梁成より小さく形成されるのに対し、引用発明ではその幅が不明な点。

[相違点3]
バルコニーに面する開口部の梁について、本願補正発明では、梁の幅が、該梁が取り付く柱の該梁と直交する方向の柱幅より大きくかつ該梁の梁成より大きく、軸芯が、該梁が取り付く柱の軸芯に対し偏心し、該梁の上部にスラブを設けることなく、該梁の上面をバルコニーの床面としたのに対し、引用発明では、そのようなものか不明な点。

(4)当審の判断
前記相違点について検討する。

[相違点1]について
建築物において、柱と梁からなる構造、いわゆるラーメン構造は慣用技術(例えば、特開2003-82869号公報,特開2004-238930号公報参照。)であり、引用発明の柱および梁により建築物の強度を確保することにより、独立連層耐震壁体9と合成耐震壁体10とを省き、柱と梁からなる構造とすることは当業者が適宜なし得ることである。
よって、当該[相違点1]に係る本願補正発明の構成は、引用発明および慣用技術に基づいて、当業者が容易になし得るものである。

[相違点2]について
柱と梁を有する構造の建築物において、柱に取り付く梁の幅が、扁平梁等の特殊な梁を除き、梁が取り付く柱の該梁と直交する方向の柱幅以下でかつ該梁の梁成より小さく形成されることが当業者の技術常識であることに鑑みれば、引用発明のバルコニーに面する開口部の梁に交差する梁の幅を、該梁が取り付く柱の該梁と直交する方向の柱幅以下でかつ該梁の梁成より小さく形成することは当業者が適宜なし得る程度のことである。
よって、当該[相違点2]に係る本願補正発明の構成は、引用発明に基づいて、当業者が容易になし得るものである。

[相違点3]について
ラーメン構造の建築物において、階高を高くすること無く開口部の大きな居室を得るために、バルコニーに面する開口部の梁の幅を該梁の梁成より大きくする、いわゆる扁平梁として、建築物としての必要強度が得られるようにすることは周知技術(例えば、上記特開2003-82869号公報(段落【0010】,【図2】),上記特開2004-238930号公報(段落【0014】),特開2003-278267号公報(段落【0005】,【0013】,【0027】,【図2】)参照。)であり、さらに、そのような扁平梁の上部にスラブを設けることなく、該梁の上面をバルコニーの床面とすることについても同様に周知技術(例えば、上記特開2003-82869号公報(【図2】),上記特開2003-278267号公報(【請求項1】,段落【0027】)参照。)である。
また、本願補正発明における、バルコニーに面する開口部の梁の幅を、該梁が取り付く柱の該梁と直交する方向の柱幅より大きくすること、および、該梁の軸芯が、該梁が取り付く柱の軸芯に対し偏心していることの技術的意義についてみても、請求項1の記載からは明らかではなく、また、明細書を参照しても、明らかであるとはいえない。そうすると、ラーメン構造の建築物において、梁の断面形状および柱と梁の軸心の位置関係は、建築物としての必要強度が得られる範囲で、当業者が設定し得る設計的事項であるから、引用発明において、そのような構成とすることは当業者が適宜なし得る程度のことであり、その構成を採用することによる格別の効果も認められない。
よって、当該[相違点3]に係る本願補正発明の構成は、引用発明の構成として、周知技術を採用したものであり、当業者が容易になし得るものである。

そして、本願補正発明が奏する効果についてみても、その効果は全体として、引用発明および周知、慣用技術からみて当業者が予測しうる範囲のものであって、格別なものとみることはできない。

なお、審判請求人は、平成19年1月25日付け意見書において、梁の上部にスラブを設けることなく、該梁の上面をバルコニーの床面とすることが当該技術分野における周知技術であることを示す文献として例示した上記特開2003-82869号公報には、開口部の梁の幅が開口部の梁が取り付く柱の開口部の梁と直交する方向の幅より大きい「扁平梁」が記載されているが、開口部の梁の上面をバルコニーの床面としたことを示唆する記載はない旨主張する。
しかしながら、上記特開2003-82869号公報の【図2】をみると、扁平梁21の上面がバルコニー5の床面を形成していることは明らかである。
さらに、審判請求人は、審判請求書および回答書において、梁の上部にスラブを設けることなく、該梁の上面をバルコニーの床面とすることが当該技術分野における周知技術であることを示す文献として例示した上記特開2003-278267号公報には、その図2において、バルコニー部分を見ると、床スラブに対し、符号「6」と 符号「6a」が付けられており、「6a」部分は「水切り勾配を有する床面」だが、床スラブ6の一部であり、梁部材3がこれらを支持する構成となっており、本願補正発明の「該開口部の梁の上部にスラブを設けることなく、該開口部の梁の上面をバルコニーの床面とした」という構成のものとは全く異なる旨主張する。
しかしながら、上記特開2003-278267号公報に記載されている床スラブ6と梁部材3とは一体形成されたものであり、この床スラブ6と梁部材3が一体形成された部材が全体として、本願補正発明の開口部の梁に相当するものであるといえるので、その開口部の梁の上面をバルコニーの床面としたものであることについて差異は認められない。
以上より、上記審判請求人の主張は何れも採用できない。

よって、本願補正発明は、引用発明および周知、慣用技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


3.本願発明について
平成19年11月2日付けの手続補正は上記のとおり却下されることとなり、平成19年5月31日付けの手続補正は既に却下されているので、本願の請求項1ないし3に係る発明は、平成19年1月25日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
柱と梁からなる構造の建築物において、バルコニーに面する開口部の梁の幅が該開口部の梁が取り付く柱の該開口部の梁と直交する方向の柱幅より大きく、前記開口部の梁に交差する梁の幅が該梁が取り付く柱の該梁と直交する方向の柱幅以下であり、前記開口部の梁の軸芯が該開口部の梁が取り付く前記柱の軸芯に対し偏心しており、該開口部の梁の上面をバルコニーの床面としたことを特徴とする建築物。
【請求項2】?【請求項3】(記載を省略する。)」(以下、請求項1に係る発明を「本願発明」という。)

(1)刊行物に記載された発明
原査定の拒絶の理由に引用され、本願出願前に頒布された刊行物である引用文献、その記載事項および引用発明は、上記「2.(2)」に記載したとおりである。

(2)対比・判断
本願発明は、上記「2.」で検討した本願補正発明の限定事項である「バルコニーに面する開口部の梁の幅」を「開口部の梁の梁成より大きく」するとの限定、「開口部の梁に交差する梁の幅」を「該梁の梁成より小さく」するとの限定、および「開口部の梁の上部にスラブを設けることなく」との限定を省いたものである。
そうすると、本願発明の構成要件をすべて含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「2.(4)」に記載したとおり、引用発明および周知、慣用技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、引用発明および周知、慣用技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明および周知、慣用技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は、特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-03-27 
結審通知日 2009-03-31 
審決日 2009-04-14 
出願番号 特願2005-12005(P2005-12005)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (E04B)
P 1 8・ 575- Z (E04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 新田 亮二  
特許庁審判長 伊波 猛
特許庁審判官 家田 政明
宮崎 恭
発明の名称 建築物  
代理人 久門 知  
代理人 久門 保子  
代理人 久門 享  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ