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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 A01N
管理番号 1198151
審判番号 不服2007-19296  
総通号数 115 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-07-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-07-10 
確定日 2009-06-17 
事件の表示 特願2000-228972「薬剤揮散方法」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 9月11日出願公開、特開2001-247406、請求項の数(10)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 【1】手続の経緯
本願は、特許法第41条に基づく優先権主張を伴う平成12年7月28日(優先日:平成11年12月27日、出願番号:特願平11-371102号)の出願であって、平成19年6月6日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年7月10日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同日付けで手続補正がなされたものである。
また、当審において、平成21年3月2日付けで審査官による前置報告書に基づく審尋がなされたところ、同年5月11日付けで回答書が提出されたものである。

【2】平成19年7月10日付け手続補正についての補正の適否
平成19年7月10日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、以下に理由を示すとおり適法である。

[理由]
1.補正の内容・目的
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1について、補正前(平成19年1月19日付け手続補正書参照。)に、
「【請求項1】
粒状若しくは略粒状の薬剤含浸体を、側面に通気部を有するカートリッジに収納し、該カートリッジの回転により前記薬剤含浸体に遠心力が作用する状況下で前記薬剤含浸体に含浸させた薬剤を揮散させる薬剤揮散方法であって、前記粒状若しくは略粒状の薬剤含浸体の平均外径を3mm?10mmとし、前記薬剤含浸体が、前記カートリッジ内に空隙率20%?70%で充填されており、前記薬剤として、前記薬剤含浸体から薬剤を1時間当たり0.01?0.5mgの揮散量で且つ180時間以上にわたり揮散可能である薬剤を使用することを特徴とする薬剤揮散方法(但し、前記薬剤は、4-メトキシメチル-2,3,5,6-テトラフルオロベンジル-2,2,3,3-テトラメチルシクロプロパンカルボキシレート、4-プロパルギル-2,3,5,6-テトラフルオロベンジル-2,2,3,3-テトラメチルシクロプロパンカルボキシレート又は2,3,5,6-テトラフルオロベンジル-2,2,3,3-テトラメチルシクロプロパンカルボキシレートを除く)。」
とあったものを、

「【請求項1】
粒状若しくは略粒状の薬剤含浸体を、側面に通気部を有するカートリッジに収納し、該カートリッジの回転により前記薬剤含浸体に遠心力が作用する状況下で前記薬剤含浸体に含浸させた薬剤を揮散させる薬剤揮散方法であって、前記粒状若しくは略粒状の薬剤含浸体の平均外径を3mm?10mmとし、前記薬剤含浸体が、前記カートリッジ内に空隙率20%?70%で充填されており、前記遠心力の大きさが、9.8×10^(-1)cm/s^(2)?9.8×10^(4)cm/s^(2)であり、前記薬剤として、前記薬剤含浸体から薬剤を1時間当たり0.01?0.5mgの揮散量で且つ180時間以上にわたり揮散可能である、以下の群:2,3,5,6-テトラフルオロベンジル-クリサンテマート(化合物A)、2,3,5,6-テトラフルオロベンジル-2,2-ジメチル-3-(1-プロペニル)シクロプロパンカルボキシレート(化合物B)、2,3,5,6-テトラフルオロベンジル-2,2-ジメチル-3-(2,2-ジクロロビニル)シクロプロパンカルボキシレート(化合物C)、4-メチル-2,3,5,6-テトラフルオロベンジル-クリサンテマート(化合物D)、4-メチル-2,3,5,6-テトラフルオロベンジル-2,2-ジメチル-3-(1-プロペニル)シクロプロパンカルボキシレート(化合物E)、4-メチル-2,3,5,6-テトラフルオロベンジル-2,2-ジメチル-3-(2,2-ジフルオロビニル)シクロプロパンカルボキシレート(化合物F)、4-メトキシメチル-2,3,5,6-テトラフルオロベンジル-クリサンテマート(化合物G)、4-メトキシメチル-2,3,5,6-テトラフルオロベンジル-2,2-ジメチル-3-(1-プロペニル)シクロプロパンカルボキシレート(化合物H)、2,3,4,5,6-ペンタフルオロベンジル-2,2-ジメチル-3-(2-クロロ-2-トリフルオロメチルビニル)シクロプロパンカルボキシレート(化合物I)、4-プロパルギル-2,3,5,6-テトラフルオロベンジル-3-(1-プロペニル)-2,2-ジメチルシクロプロパンカルボキシレート(化合物J)から選択された少なくとも一種の化合物からなる薬剤を使用することを特徴とする薬剤揮散方法。」
と補正しようとする補正事項を含むものである。

上記補正は、本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である遠心力について、「遠心力の大きさが、9.8×10^(-1)cm/s^(2)?9.8×10^(4)cm/s^(2)」である点を付加し、また、使用される薬剤について「4-メトキシメチル-2,3,5,6-テトラフルオロベンジル-2,2,3,3-テトラメチルシクロプロパンカルボキシレート、4-プロパルギル-2,3,5,6-テトラフルオロベンジル-2,2,3,3-テトラメチルシクロプロパンカルボキシレート又は2,3,5,6-テトラフルオロベンジル-2,2,3,3-テトラメチルシクロプロパンカルボキシレートを除く」ものから、化合物A乃至Jから選択された少なくとも一種の化合物に限定したものと認められるから、本件補正は、少なくとも、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とする補正事項を含むものである。

そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか、すなわち、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項に規定する要件を満たしているか、について以下に検討する。

2.審査官による前置報告書に基づく平成21年3月2日付け審尋の内容
平成21年3月2日付け審尋の、本件補正発明に関する説示の概略は以下の通りである。

「・請求項1乃至3に対して
引用文献2【0026】、【0027】、【図1】には、薬剤袋7をブレード2の内周側に沿って設ける技術が開示されており、この薬剤袋7はブレード2とともにモーターで回転駆動されるものであるから、当然遠心力が作用する状態下で薬剤が揮散することになる。
また、そもそも、薬剤の種類は駆除対象生物の種類や、即効性を求めるのか緩効性を求めるのか等用途に応じて当業者が選択し得るものであり、化合物Cは、一般に『ベンフルスリン(ベンフルトリン)』と呼ばれるピレスロイド系化合物であり、引用文献2(特開平05-068459号公報)【0013】に例示されており、さらに、このような徐放性の殺虫剤(トランスフルスリン等)は例えば特開昭63-203649号公報、特開平05-043412号公報(こちらは主に加熱蒸散用)にも列挙されており、徐放性の殺虫剤を選択する際に、同様の基本構造を有する化合物E乃至Jを選択することに特段の困難性はない。
なお、引用文献2【0050】には『ファンを乾電池で動かす400?800rpmのような微速モータにより駆動させれば・・・』と記載されており、この条件を考慮すれば、引用文献2記載の発明においても、揮散時の遠心力(正確には遠心加速度ではないか。)9.8×10^(-1)cm/s^(2) ?9.8×10^(4) cm/s^(2)程度であると考えられる。」

3.引用刊行物に記載された発明
刊行物1:特開平10-191862号公報
刊行物2:特開平5-68459号公報

(1)刊行物1
原査定の拒絶の理由に引用され、本願優先日前に頒布された上記刊行物1には、図面とともに、以下の記載がある。
(1a)「粒状にした薬剤含浸体を含浸体容器に入れ、これにファンからの風を当てて、この薬剤含浸体を風力により撹拌しながら、この薬剤含浸体に含浸した薬剤を揮散するようにしたことを特徴とする薬剤揮散方法。」(【請求項1】)

(1b)「これら従来の技術における薬剤含浸体は、いずれも一体状に固化された形状となっており、そのため、これに含浸された薬剤が、蒸気圧の高い揮散しやすい薬剤である場合には有効な手段であるが、蒸気圧の低い難揮発性の薬剤を揮散させる場合や、一度に多量の薬剤を揮散させる場合などには、次のような工夫が必要となる。
すなわち、(1)薬剤含浸体の揮散面積を大きくする。(2)薬剤含浸体内の空隙を大きくし、風の通過を促進する。(3)ファンの出力を強化する、等である。
・・・上記各工夫を実施した場合、薬剤含浸体の全体の体積が大きくなり、またファンが大型化してエネルギー効率が悪くなる。そして特に薬剤含浸体の体積の増加は、以下のような問題を引き起こす。
すなわち(1)薬剤含浸体の各部、特に風の吹き出し口からの距離が遠くなるに従って、薬剤含浸体の空気抵抗により、単位時間当たりの風量が小さくなることから、薬剤含浸体が風の流れ方向に大きい場合、薬剤含浸体が瞬間的に受ける風力に部分的に差が生じてしまい、これが薬剤含浸体各部からの揮散量の偏りにつながり、安定的な薬剤揮散の妨げとなる。
(2)上記(1)の状況が生じた場合でも、含浸された薬剤が素早く均一化されれば、固化された形状の薬剤含浸体であっても、安定的な揮散が可能であるが、薬剤含浸体が大きくなると薬剤の移動距離が長くなり、均一化に長い時間を要することになる。
・・・
すなわち、上記(1)の問題点を解決するため手段として、薬剤含浸体を粒状にして、この薬剤含浸体自身を撹拌させることにより、各薬剤含浸体への受風量を均一化することで、薬剤含浸体の風の流れ方向の部位によるばらつきを解消することが可能となった。・・・」(段落【0003】?【0009】)

(1c)「また、上記した(2)の問題点を解決する手段として次のような研究を行った。すなわち、薬剤含浸体を粒状にし、その数を殖やすことで個々の薬剤含浸体は小型になり、薬剤の移行距離は短くなる。その結果、薬剤含浸体の表面からの薬剤の揮散に伴って中心部からの薬剤の補充(薬剤濃度の均一化)が速やかに行われ、薬剤の安定揮散が可能となった。さらに、個々の含浸体内での薬剤の均一化を促す手段として各種溶剤を添加する方法も考えられる。これは粘度が高く移行速度が遅い薬剤を用いる場合有効な手段である。
・・・
その結果、一体型固定式の薬剤含浸体が駆動開始から略比例的に揮散量が落ち込む傾向を示しているのに対し、粒状にした薬剤含浸体の場合は、安定した揮散量を保っている。これは、薬剤含浸体を粒状にし、これを撹拌することで、薬剤含浸体全体の薬剤濃度が均一になると共に、個々の薬剤含浸体内での薬剤の移行が行われると共に、薬剤が揮散して重量が減少することによって薬剤含浸体及び薬剤の比重が小さくなり、薬剤含浸体の運動量が増えた結果、薬剤濃度が低くなった場合でも一定の揮散量が得られることが、長期間の揮散量の安定性に起因していると考えられる。また、表2に示した薬剤の仕込み量に対する15日目の残存量の割合である有効揮散率を見ても、一体型固定式の薬剤含浸体が72.58%であるのに対して、粒状の薬剤含浸体の場合は89.46%と非常に効率よく薬剤を揮散していることが分かる。」(段落【0015】?【0018】)

(1d)「例えば、殺虫を目的として使用する場合、従来より用いられている各種の揮散性殺虫剤を用いることができ、ピレスロイド系殺虫剤、カーバメート系殺虫剤、有機リン系殺虫剤等をあげることができる。一般に安全性が高いことからピレスロイド系殺虫剤が好適に用いられており、・・・」(段落【0033】)

(1e)「【実施例1】8cm角の株式会社シコー技研製DCブラシレス軸流ファンモータの吹き出し口側に、内径8cm高さ10cmの筒の上下をネットで覆った薬剤カートリッジを設け、その中にプラレスリンを300mg含浸させた直径2mmの粒状の薬剤含浸体(発泡セルロースビーズ)2gを投入した。そしてこの装置を12時間駆動、12時間休止させるインターバルで30回繰り返したときの経時的な揮散量の推移について図2に、そのときのアカイエカに対するノックダウン効力について表4に示した。なおこのときの揮散量は、一定時間毎に薬剤含浸体から抽出し定量した薬剤残量より単位時間あたりの値を計算して示し、効力は8畳の閉鎖空間において25℃の恒温条件で試験した結果を示した。
上記〔実施例1〕を実施するための装置としては図3に示すように、ファンモータを内装すると共に、これの図示しない吹き出し口を上方へ向けて開口した本体1上に、上下をネット2a,2bで覆った含浸体容器3を一体状に設けた構成になっている。この構成において、ファンが回転することにより収納容器3の底側のネット2bより風が吹き上がり、この含浸体容器3内に入れた粒状の薬剤含浸体4が流動され、この間に薬剤含浸体4に含浸されている薬剤が揮散して上側のネット2aより外部へ上記風と共に揮散されていく。」(段落【0039】?【0040】)

(1f)実施例3及び4(段落【0042】、【0043】、表4参照)は、直径が4mmの薬剤含浸体が使用された点が記載されている。

(1g)表2と図1には、粒状の薬剤含浸体を使用した場合、15日間に渡って2.33?2.64mg/hr薬剤を揮散可能である点が記載されている。

以上の記載事項(1a)?(1g)から見て、刊行物1には、以下の発明が記載されているものと認められる。(以下、「刊行物1記載の発明」という。)

「粒状の薬剤含浸体を、上下をネットで覆った薬剤カートリッジに収納し、これにファンからの風を当てて、この薬剤含浸体を風力により撹拌しながら、この薬剤含浸体に含浸した薬剤を揮散する薬剤揮散方法であって、前記粒状の薬剤含浸体の直径を4mmとし、前記薬剤として、前記薬剤含浸体から薬剤を1時間当たり2.33?2.64mgの揮散量で且つ15日以上にわたり揮散可能である、ピレスロイド系殺虫剤等の化合物からなる薬剤を使用する薬剤揮散方法。」

(2)刊行物2
原査定の拒絶の理由に引用され、本願優先日前に頒布された上記刊行物2には、図面とともに、以下の記載がある。
(2a)「揮散性薬剤を保持した拡散用材を駆動手段により駆動させることにより、揮散性薬剤を気中に拡散させることを特徴とする揮散性薬剤の拡散方法。」(【請求項1】)

(2b)「・・・本発明において用いる揮散性薬剤としては、従来より害虫駆除剤(殺虫剤、殺ダニ剤)、殺菌剤、忌避剤、芳香剤(香水、ハーブ等)、医薬品(メントール、ユーカリオイル等、気管、カゼ等吸入用薬剤)等の目的で使用されている各種の薬剤を使用できる。代表的な薬剤としては次のものが挙げられる。
・・・
・d-トランス-2,3,5,6-テトラフルオロベンジル-3-(2,2-ジクロロビニル)-2,2-ジメチル-1-シクロプロパンカルボキシラート(一般名ベンフルスリン)・・・」(段落【0006】?【0019】)

(2c)「図1のファンの本体は、図3からわかるようにブレード部2と駆動装着部3とからなり、ブレード部2は多数の垂直なブレード5を有し、各ブレード5の間は開いていて開口部6を形成している。駆動装着部3は、図3に示すように中央に台部8を有し、また下部にはモーター(図示せず)に連結する軸部4を有しており、前記台部8はその直径がブレード部2の内径と僅かに小さいものとされ、それにブレード部2を嵌合して支持されるように構成されている。しかも、その両者の間隙は、図1に示すようにブレード部2の内周側に薄い薬剤袋7を添設して、そのブレード部2を台部8に嵌合したときに、薬剤袋7の下端が両者の間隙で挟持されることにより支持できるようにする。その支持された状態の薬剤拡散用ファンは、図2の平面図に示すとおりであって、薬剤袋7はブレード2の内周側に沿って設けられている。このため、薬剤袋7の大きさはブレード部2の内周の長さ及び高さとほぼ等しいものであることが好ましい。薬剤袋の材質は、内部の揮散性薬剤がその袋を通して容易に揮散するようなものとする。」(段落【0026】)

(2d)「図1?2に示す薬剤拡散用ファン1を、モーターの回転を軸部4に伝えることにより回転させると、ブレード部2のブレード5によって風が生じ、薬剤袋7の表面に出てきた揮散性薬剤をよく拡散させる。ブレード部2におけるブレード5の形状及び配置はその拡散をよくするために種々の形状を取ることができる。ここで説明した図1?4の薬剤拡散用ファンはあくまでも1例であって、薬剤を収納した袋ではなく、薬剤を含有するシートでもよく、薬剤を容器内に納めたものでもよいし、またもっと簡単に薬剤を含有する合成樹脂でブレードを形成したものでもよいが、取扱上の危険性を減らすために取付け時に、薬剤を含有する部分に直接手を触れないですむ形状あるいは構造のものであることが望ましい。
実際の使用についてみると、通常の家屋の居室程度の空間に対してはかなり小型の送風機を使用すれば十分足りるものであって、ファンの回転数としては300rpm以上好ましくは、500?10,000rpm程度で用いるのがよい。前記ファンの駆動手段としてはモーター、ゼンマイなどを用いることができる。上記の居室程度の空間に対しては乾電池などで動く小型モーターにより駆動する程度のファンを使用しても十分効果を奏する。
揮散性薬剤をファンに保持させる手段としては、種々の手段があり、大別して(1)ファンに直接保持させる方式、(2)ファンに間接的に保持させる方式がある。・・・」(段落【0028】?【0030】)

以上の記載事項(2a)?(2d)から見て、刊行物2には、以下の発明が記載されているものと認められる。(以下、「刊行物2記載の発明」という。)
「薬剤を収納した袋、又は薬剤を含有するシート、薬剤を容器内に納めたもの、薬剤を含有する合成樹脂でブレードを形成したもの等の揮散性薬剤を保持した拡散用材を、ファン回転数500?10,000rpm程度で回転するファンに直接又は間接的に保持させ、モーターにより駆動させることにより、揮散性薬剤を気中に拡散させる揮散性薬剤の拡散方法。」

4.対比・判断
本件補正発明と刊行物1記載の発明とを対比すると、刊行物1記載の発明の「薬剤カートリッジ」が、本願発明の「カートリッジ」に相当する。
また、刊行物1記載の発明の粒状の薬剤含浸体は直径4mmであり、また、薬剤含浸体から薬剤を15日(360時間)以上にわたり揮散可能であるから、刊行物1記載の発明の「粒状の薬剤含浸体を直径4mmとし」た点、及び「薬剤含浸体から薬剤を15日以上にわたり揮散可能である」点は、本願発明の「薬剤含浸体の平均外径を3mm?10mmとし」た点、及び「薬剤含浸体から薬剤を1時間当たり0.01?0.5mgの揮散量で且つ180時間以上にわたり揮散可能である」点にそれぞれ相当している。

よって、両者は、
「粒状の薬剤含浸体を、カートリッジに収納し、前記薬剤含浸体に含浸させた薬剤を揮散させる薬剤揮散方法であって、前記粒状の薬剤含浸体の平均外径を3mm?10mmとし、前記薬剤含浸体が、前記薬剤として、前記薬剤含浸体から薬剤を180時間以上にわたり揮散可能である、薬剤揮散方法。」
である点で一致し、以下の点で相違している。

(相違点)
本件補正発明は、側面に通気部を有するカートリッジの回転により薬剤含浸体に遠心力が作用する状況下で薬剤を揮散させる薬剤揮散方法であって、薬剤含浸体が、前記カートリッジ内に空隙率20%?70%で充填されており、前記遠心力の大きさが、9.8×10^(-1)cm/s^(2)?9.8×10^(4)cm/s^(2)であり、薬剤含浸体から薬剤を1時間当たり0.01?0.5mgの揮散量で揮散可能であり、かつ使用される薬剤は、以下の群:2,3,5,6-テトラフルオロベンジル-クリサンテマート(化合物A)、2,3,5,6-テトラフルオロベンジル-2,2-ジメチル-3-(1-プロペニル)シクロプロパンカルボキシレート(化合物B)、2,3,5,6-テトラフルオロベンジル-2,2-ジメチル-3-(2,2-ジクロロビニル)シクロプロパンカルボキシレート(化合物C)、4-メチル-2,3,5,6-テトラフルオロベンジル-クリサンテマート(化合物D)、4-メチル-2,3,5,6-テトラフルオロベンジル-2,2-ジメチル-3-(1-プロペニル)シクロプロパンカルボキシレート(化合物E)、4-メチル-2,3,5,6-テトラフルオロベンジル-2,2-ジメチル-3-(2,2-ジフルオロビニル)シクロプロパンカルボキシレート(化合物F)、4-メトキシメチル-2,3,5,6-テトラフルオロベンジル-クリサンテマート(化合物G)、4-メトキシメチル-2,3,5,6-テトラフルオロベンジル-2,2-ジメチル-3-(1-プロペニル)シクロプロパンカルボキシレート(化合物H)、2,3,4,5,6-ペンタフルオロベンジル-2,2-ジメチル-3-(2-クロロ-2-トリフルオロメチルビニル)シクロプロパンカルボキシレート(化合物I)、4-プロパルギル-2,3,5,6-テトラフルオロベンジル-3-(1-プロペニル)-2,2-ジメチルシクロプロパンカルボキシレート(化合物J)から選択された少なくとも一種の化合物からなるのに対し、刊行物1記載の発明は、カートリッジの上下がネットで覆われており、通気が可能であるものの、側面に通気部が設けられておらず、また、カートリッジは回転せず、さらに、カートリッジの空隙率、遠心力の大きさが限定されておらず、1時間あたりの薬剤揮散量は2.33?2.64mgであり、さらに、化合物も本件補正発明で示された10種類でない点。

相違点について検討する。
刊行物2記載の発明は、薬剤を収納した袋等の揮散性薬剤を保持した拡散用材をファン回転数500?10,000rpm程度で回転するファンに保持させて回転させ、揮散性薬剤を気中に拡散させる方法である。
一方、本願の発明の詳細な説明には、粒状若しくは略粒状の薬剤含浸体に遠心力を作用させた場合の効果について、
1)粒状若しくは略粒状の薬剤含浸体は、予めカートリッジ内に好適な状態(例えば、最密充填に近い状態)で充填されているが、個々の粒は固定されていないので、カートリッジに衝撃が加わったりカートリッジを動かした場合には、個々の粒が動くので前記薬剤含浸体の充填状態が変化する。しかし、使用に際して前記薬剤含浸体に遠心力が作用すると、遠心力によって粒状物が所定方向に押圧され、初期の好適な充填状態又はそれに近い充填状態が自動的に再現される。
2)カートリッジへの遠心力の作用を解除すると、カートリッジ内の個々の粒状若しくは略粒状の薬剤含浸体はある程度自由に動き得る状態となり、回転又は移動によりその位置を変化させる。つまり、カートリッジへの遠心力の作用及び解除に伴って、粒状の薬剤含浸体は個々が動き、全体として攪拌される場合と同様の効果を奏する。
3)粒状若しくは略粒状の薬剤含浸体に遠心力を作用させると、前記薬剤含浸体がある程度の柔軟性を有する場合には、前記薬剤含浸体は押圧されて収縮し、遠心力の付与を解除すると前記薬剤含浸体は膨張してもとの大きさに戻る。それ故、カートリッジの回転(使用)及びカートリッジの回転停止(不使用)の繰り返しにて前記薬剤含浸体は収縮と膨張を繰り返すこととなり、このポンプ作用により前記薬剤含浸体内部の薬剤も表面に押し出され、その結果、薬剤が有効に利用される。
4)粒状若しくは略粒状の薬剤含浸体があまり柔軟性を有しない場合でも、前記薬剤含浸体に遠心力を作用させると、前記薬剤含浸体の内部の薬剤が遠心力により表面に押し出され、且つ遠心力を作用させる際に生じる風力によって搬送されるので、薬剤含浸体の内部の薬剤を有効に利用することができる。
と記載され、本件補正発明は、当該記載どおりの効果を有するものと認める。
ここで、刊行物1記載の発明について、刊行物1には「薬剤含浸体を粒状にして、この薬剤含浸体自身を撹拌させることにより、各薬剤含浸体への受風量を均一化することで、薬剤含浸体の風の流れ方向の部位によるばらつきを解消することが可能となった。」、「薬剤含浸体を粒状にし、その数を殖やすことで個々の薬剤含浸体は小型になり、薬剤の移行距離は短くなる。その結果、薬剤含浸体の表面からの薬剤の揮散に伴って中心部からの薬剤の補充(薬剤濃度の均一化)が速やかに行われ、薬剤の安定揮散が可能となった。」と記載されていることから、ファンからの風の作用により、粒状の薬剤含浸体はある程度自由に動き得る状態となり、回転又は移動によりその位置を変化させ、全体として攪拌される場合と同様の効果を奏するとみられ、これは上記2)と同様の効果であるとみられるが、その他1)、3)、4)に示されるような、遠心力が粒状の薬剤含浸体に作用することによる特有の効果は、刊行物1記載の発明では奏することはできない。この点に関して、刊行物2記載の発明において、拡散用材に遠心力が作用することが自明であるとしても、拡散用材は粒状で個々の粒が動く状態の薬剤含浸体でないため、上記のような効果を奏することはできない。
そして、刊行物1記載の発明は風力により薬剤含浸体を撹拌することにより課題を解決しており、それ自体が完結しているものであるから、刊行物2記載の発明と組み合わせる動機付けが無く、仮に両発明を足し合わせたとしても、上記で示した、特に1)、3)、4)の効果は、両発明の効果の総和を超える格別のものであり、また、これらの効果を十分引き出すための、カートリッジ内の空隙率や遠心力の大きさ、薬剤の1時間あたりの揮散量、化合物の種類を本件補正発明のように限定する技術思想は両発明から生まれるものではない。
また、粒状若しくは略粒状の薬剤含浸体を収納したカートリッジを回転させて薬剤含浸体に遠心力を作用させる技術思想については、前置審尋時に提示した化合物E乃至Jに関する文献(特開昭63-203649号公報、特開平5-43412号公報)にも記載されていない。
よって、本件補正発明は、刊行物1乃至2記載の発明、及びその他提示された文献による発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとは言えない。
また、他に本件補正発明を拒絶すべき理由を発見しない。

5.むすび
したがって、本件補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであり、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項に規定する要件を満たしている。

【3】本願発明
1.平成19年7月10日付けの手続補正は、上記の通り適法なものであるので、本願の請求項1乃至10に係る発明は、平成19年7月10日付けの手続補正により補正された明細書の特許請求の範囲1乃至10に記載された事項により特定される次のとおりのものであると認める。
「【請求項1】
粒状若しくは略粒状の薬剤含浸体を、側面に通気部を有するカートリッジに収納し、該カートリッジの回転により前記薬剤含浸体に遠心力が作用する状況下で前記薬剤含浸体に含浸させた薬剤を揮散させる薬剤揮散方法であって、前記粒状若しくは略粒状の薬剤含浸体の平均外径を3mm?10mmとし、前記薬剤含浸体が、前記カートリッジ内に空隙率20%?70%で充填されており、前記遠心力の大きさが、9.8×10^(-1)cm/s^(2)?9.8×10^(4)cm/s^(2)であり、前記薬剤として、前記薬剤含浸体から薬剤を1時間当たり0.01?0.5mgの揮散量で且つ180時間以上にわたり揮散可能である、以下の群:2,3,5,6-テトラフルオロベンジル-クリサンテマート(化合物A)、2,3,5,6-テトラフルオロベンジル-2,2-ジメチル-3-(1-プロペニル)シクロプロパンカルボキシレート(化合物B)、2,3,5,6-テトラフルオロベンジル-2,2-ジメチル-3-(2,2-ジクロロビニル)シクロプロパンカルボキシレート(化合物C)、4-メチル-2,3,5,6-テトラフルオロベンジル-クリサンテマート(化合物D)、4-メチル-2,3,5,6-テトラフルオロベンジル-2,2-ジメチル-3-(1-プロペニル)シクロプロパンカルボキシレート(化合物E)、4-メチル-2,3,5,6-テトラフルオロベンジル-2,2-ジメチル-3-(2,2-ジフルオロビニル)シクロプロパンカルボキシレート(化合物F)、4-メトキシメチル-2,3,5,6-テトラフルオロベンジル-クリサンテマート(化合物G)、4-メトキシメチル-2,3,5,6-テトラフルオロベンジル-2,2-ジメチル-3-(1-プロペニル)シクロプロパンカルボキシレート(化合物H)、2,3,4,5,6-ペンタフルオロベンジル-2,2-ジメチル-3-(2-クロロ-2-トリフルオロメチルビニル)シクロプロパンカルボキシレート(化合物I)、4-プロパルギル-2,3,5,6-テトラフルオロベンジル-3-(1-プロペニル)-2,2-ジメチルシクロプロパンカルボキシレート(化合物J)から選択された少なくとも一種の化合物からなる薬剤を使用することを特徴とする薬剤揮散方法。
【請求項2】
前記カートリッジの回転を、モーターで行うことを特徴とする請求項1記載の薬剤揮散方法。
【請求項3】
前記モーターの回転数が、100?2000rpmであることを特徴とする請求項2記載の薬剤揮散方法。
【請求項4】
前記カートリッジを、シロッコファンの空気流出側及び/又は空気流入側に装着することを特徴とする請求項1記載の薬剤揮散方法。
【請求項5】
前記カートリッジの形状が環状であり、且つ前記カートリッジを前記シロッコファンの空気流出側に装着することを特徴とする請求項4記載の薬剤揮散方法。
【請求項6】
前記カートリッジの形状が円板状であり、且つ前記カートリッジを前記シロッコファンの空気流入側に装着することを特徴とする請求項4記載の薬剤揮散方法。
【請求項7】
前記カートリッジの側面に設けられた通気部が、多数並設された開口スリットからなり、開口スリット幅が1mm以上で且つ前記薬剤含浸体の平均外径の0.7倍以下であることを特徴とする請求項1記載の薬剤揮散方法。
【請求項8】
前記薬剤含浸体に薬剤を全体で100mg以上含浸させることを特徴とする、請求項1記載の揮散方法。
【請求項9】
前記粒状若しくは略粒状の薬剤含浸体の平均外径が3mm?10mmであり、且つ前記薬剤含浸体が、前記カートリッジ内に空隙率30%?60%で充填されていることを特徴とする請求項1記載の薬剤揮散方法。
【請求項10】
前記粒状若しくは略粒状の薬剤含浸体が、紙、パルプ、セルロース系担体及び合成樹脂担体から選択された少なくとも一種からなることを特徴とする請求項1記載の薬剤揮散方法。」
(以下、「本願発明1」乃至「本願発明10」という。)

2.本願発明1と刊行物1記載の発明との対比・判断
(1)引用刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物、および、その記載事項は、前記「【2】3.」に記載した通りである。

(2)対比・判断
本願発明1は上記本件補正発明であるから、本願発明1と刊行物1記載の発明との対比・判断は【2】4.のとおりであり、刊行物1乃至2記載の発明、及びその他提示された文献による発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとは言えない。

3.本願発明2乃至10について
本願発明2乃至10は、いずれも本願発明1を引用しているから、少なくとも本願発明2乃至10と上記各刊行物記載の発明とには上記相違点が存在するが、上記【3】2.(2)で述べたように(詳細は【2】4.参照。)、当該相違点は、刊行物1乃至2記載の発明、及びその他提示された文献による発明から導き出されるものではなく、本願発明2乃至10も、刊行物1乃至2記載の発明、及びその他提示された文献による発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとは言えない。

4.むすび
よって、本願発明1乃至10は、原査定の拒絶の理由によって拒絶すべきものとすることはできない。
また、他に本願発明1乃至10を拒絶すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2009-06-01 
出願番号 特願2000-228972(P2000-228972)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (A01N)
最終処分 成立  
前審関与審査官 関根 裕  
特許庁審判長 山口 由木
特許庁審判官 神 悦彦
草野 顕子
発明の名称 薬剤揮散方法  
代理人 宮崎 嘉夫  
代理人 萼 経夫  
代理人 加藤 勉  
代理人 中村 壽夫  

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