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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  A61B
管理番号 1198234
審判番号 無効2007-800256  
総通号数 115 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-07-31 
種別 無効の審決 
審判請求日 2007-11-15 
確定日 2009-05-27 
事件の表示 上記当事者間の特許第2760471号「平衡障害評価装置」の特許無効審判事件についてされた平成20年 5月20日付け審決に対し、東京高等裁判所において審決取消の判決(平成20年(行ケ)第10238号平成21年 2月18日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 特許第2760471号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯・本件発明
本件特許第2760471号は、平成6年3月11日に特許出願され、平成10年3月20日に特許権の設定登録が行われた。その後、平成19年11月15日付けで無効審判請求人株式会社ユニメックにより請求項1に係る特許について本件無効審判の請求がなされたものである。そして、本件無効審判における経緯は、以下のとおりである。

平成19年11月15日 本件無効審判の請求
12月21日 補正書提出
平成20年 2月 6日 答弁書提出
5月20日 第1審決(「本件審判の請求は成り立たない。
」)
6月25日 出訴(平成20年(行ケ)第10238号)
平成21年 2月18日 判決言渡(「審決取消」)

本件特許の請求項1に係る発明は、本件特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める(以下、請求項1に係る発明を「本件発明」という。)。

「検出板に乗せられた被検体の各足にかかる荷重中心を連続的に検出して前記被検体の重心位置を算出し、この重心位置を予め設定されたX-Y座標上の位置に変換して重心位置の時間の経過に伴う軌跡を求め、この軌跡の全長である総軌跡長を算出するとともに、当該軌跡によって形成された軌跡図形の最外周線の内側の面積である外周面積を算出し、前記総軌跡長をL、外周面積をDとすると、
L/D値を算出することを特徴とする平衡障害評価装置。」

なお、特許法第134条の3第1項に規定された申立ては、被請求人からなかった。

第2 請求の趣旨
請求人は、本件特許第2760471号を無効とする、審判請求費用は被請求人の負担とする趣旨の無効審判を請求し、証拠方法として下記甲第1号証?甲第3号証を提出し、審判請求書(平成19年12月21日付け手続補正書で補正)で、以下の無効理由を主張している。

(無効理由)
本件発明は、甲第1号証に記載された発明である、若しくは前記発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第1項第3号若しくは特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、特許法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきものである。

(証拠方法)
甲第1号証:長山郁生ほか6名「重心動揺検査における距離と面積の関係
について」 Equilibrium Research Vol.46 No.3 日本平衡神
経科学会(昭和62年9月発行)221?227頁
甲第2号証:稲村欣作「One Foot Test と重心図分析方法の再検討」姿勢
研究第2巻第1号、財団法人姿勢研究所(昭和57年4月発行
)49?57頁
甲第3号証:内山靖ほか1名「平衡機能の運動生理と解析」理学療法のた
めの運動生理第5巻第3号、運動生理研究会編集発行(平成
2年8月20日発行)127?137頁

第3 被請求人(アニマ株式会社)の主張
被請求人は、平成20年2月6日付けで答弁書を提出し、以下の主張をしている。

甲第1号証には、構成要件(ロ)「総軌跡長をL、外周面積をDとすると、L/D値を算出することを特徴とする平衡障害評価装置」に相当する思想は記載されていないから、本件発明と同一の発明も、実質的に同一の発明も記載されていない。したがって、本件発明は、特許法第29条第1項第3号に規定される発明に該当しない。
甲第1?3号証に記載される事項は、本件発明の利用可能性を裏付ける証拠であるものの、本件発明特有の構成要件(ロ)を有さない。本件発明は構成要件(イ)(ロ)を有することにより、平衡障害評価の分野においてL/D値を算出する平衡障害評価装置という技術革新を成し遂げたものであり、このような技術手段を有さない甲第1?3号証に記載される本件出願時の技術水準とは一線を画するものである。したがって、本件発明は、甲第1?3号証に記載の事項に基づいて本件出願時に当業者が容易に発明することができたとは認められず、特許法第29条第2項に該当しない。


第4 無効理由の検討
以下に、請求人が主張する特許法第29条第1項第3号及び第29条第2項の無効理由について併せて検討する。

1 各甲号証に記載された事項
(1)甲第1号証
甲第1号証には、「重心動揺検査」に関して、図とともに次の事項が記載されている。

(1-ア)「はじめに
重心動揺検査はめまい患者の訴える「めまい感」や「フラフラ感」を身体の揺れとして捉え、客観的に記録することができ、他の神経耳科学的検査において所見がみられない場合などに、説明の根拠となりうる点で有用である。一方、神経耳科領域において、前庭脊髄路系の評価法には、重心動揺検査のほかに筋電図検査などがあるが、あまり一般的ではなく、重心動揺検査は前庭脊髄路系の病態を記録する方法として、広く認められつつあるように思われる。また、めまい患者の治癒過程において、前庭動眼系と前庭脊髄路系の代償過程は同一ではないといわれており、重心動揺検査は前庭脊髄路系の代償過程について、新たな情報を提供するのではないかと期待される。
重心動揺検査の分析にあたっては、コンピューターの使用が不可欠であり、分析項目も多岐にわたっているが、検査項目としては、動揺面積と軌跡長とによって評価する方法が最も一般的に行なわれている。ところで著者らは、重心動揺軌跡図において、動揺範囲が大きいにも関わらず軌跡長の小さい場合や、その反対に動揺範囲が小さいにも関わらず軌跡長の大きい場合があることに気づき、疑問を持った。そこで動揺面積(以下面積と略す)と軌跡長(以下距離と略す)との関係について検討したところ、前者が大きい場合は「めまい感」を訴える患者に多いという結果を得、後者が大きい場合は立ち直り機構が亢進しているのではないかと推察したので報告する。」(第221頁左欄第1行?同頁右欄第11行)
(1-イ)「検査方法
重心動揺計の検査台上に被検者を直立させ身体動揺を測定した。検査条件は、直立閉足位とし、開眼、閉眼について測定を行ない、測定時間は各々、60秒間とした。重心動揺検査機器は三栄測器社製である。データ処理は金沢大学耳鼻咽喉科で考案したオンラインシステム(図1)で行ない1)、サンプリング時間は0.05秒、分解能は12bitである。面積の計算は矩形法に準じ、X軸とY軸の最大振幅を掛け合わせることにより算出した。」(第222頁左欄第5行?同頁右欄第1行)
(1-ウ)「結 果
正常者群の測定結果を図2、図3に示す。開眼時の距離は、59.6±9.8cm、面積は3.5±1.1cm2、閉眼時の距離は71.6±12.2cm、面積は4.2±1.1cm2である。開眼時における距離と面積の相関係数は0.311(p<0.10)であり、閉眼時の場合は0.451(p<0.05)であった。したがって、距離と面積の間には相関関係があると推察される。閉眼開眼差の結果を図4に示した。距離と面積の値は各々、12.0±6.7cm、0.7±1.2cm2である。閉眼によって全ての被験者において距離の増大がみられるが、面積の減少をきたす場合が6例にみられた。相関係数は0.224であり有意差はみられない。すなわち、各被験者によって、距離と面積が増大する割合はまちまちであることがわかる。
めまい患者群における開眼時の結果を図5に示す。開眼時の距離は67.7±14.8cm、面積は7.1±3.6cm2であった。閉眼時の結果を図6に示す。閉眼時の距離は112.3±40.6cm、面積は11.4±7.3cm2であった。点線の楕円はいずれの場合も、正常者群の棄却楕円を示している。開眼(図5)において、正常者群と比べた場合、距離と面積の増大するもの2例、面積のみ増大するもの12例、距離のみ増大するもの3例である。閉眼(図6)において、距離と面積の増大するもの15例、面積のみ増大するもの6例、距離のみ増大するもの2例である。閉眼開眼差の結果を図7に示す。距離は44.5±34.3cm、面積は4.3±7.4cm2であった。距離と面積の増大するもの10例、面積のみ増大するもの1例、距離のみ増大するもの11例であり、閉眼によって距離の増大をきたしやすいことを示している。」(第222頁右欄第2行?第223頁左欄第18行)
(1-エ)「考 察
重心動揺検査における軌跡長は、検査時間とともに増大すると考えられるが、動揺面積については、時間とともに指数関数的に増大し、約60秒間で一定量の大きさに達した後は、わずかしか増大がみられない2)といわれる。したがって、60秒間の検査時間内においては、距離と面積は比例的な関係にあり、両者はよく相関すると考えられる。正常者においては、とくに閉眼の場合、両者はよく相関するということができるが、末梢性めまい患者群においては必ずしもこの関係はあてはまらない。図10にこのような症例を呈示した。図10において、上図は、距離はほぼ同じであるが面積が異なる場合であり、下図は、面積はほぼ同じであるが距離の異なる場合を示している。今回の検討では、めまい(又はめまい感)を有する患者群の閉眼時に、面積の増大をきたしやすいという結果が得られた。10図にみるような面積が解離する場合は、被検者がめまい(又はめまい感)を有することによって生じたものと考えられる。つぎに、10図の下図にみられる、距離の解離について考えてみたい。図の左方は右方に比べて距離が延長している例であるが、この図からは一見して支持足の踏み換えが頻繁に起こっているのではないかと推察される。つまり、支持足を右、左と頻繁に踏み換えたことによって、細かな揺れが数多く記録された結果、距離が増大するのではないかと考えられる。めまい患者群の閉眼の成績(図8)をみると、正常者群の棄却楕円に比較して、面積は正常範囲内にありながら距離の増大する症例が2例みられるが、この2例は距離の解離を示す代表的な例ということができる。(第224頁右欄第7行?第225頁右欄3行)。」
(1-オ)「距離と面積については、別々に報告されることが多く3)4)5)、両者の関連性についての報告は少ない。Norre'(注:ここでは、「e」にアキュート・アクセントを付けたものを「e'」と表記した。)6)らは、距離と面積の解離について例示したが、その成因については言及していない。近年、RMS(root mean square)を用いて表示する場合が多くみられるが、この表示は面積の考え方に近く、これのみで重心動揺検査全体の成績を代表することは困難であり、距離と面積は独立した指標であると思われるので、Black7)8)らの表示するように、距離の考え方を何らかの方法で併記することが妥当であると考える。
めまい患者の臨床経過を重心動揺検査所見でみた場合、1.距離と面積が大きい場合、2.面積が大きい場合(距離は正常範囲か、わずかに増大している)、3.距離が大きい場合(面積は正常範囲か、わずかに増大している)4.距離と面積が正常の場合、の4つの段階が考えられる。Koga9)らはlabyrinthectomy後に重心動揺検査を行ない、面積の増大は早期に消失するため、長期観察の場合は距離を指標とするほうが適当であると述べているが、この報告は1、2の段階は早期に出現し、その後は3の段階が長く続くことを示しており、著者らの分類に合致している。」(第225頁右欄第9行?第226頁左欄第3行)
(1-カ)「まとめ
1.面積の増大は、めまい(又はめまい感)を反映していると考えられた。
2.距離の増大は、足の踏み換えの増加がその一因であると推察された。
3.重心動揺検査成績を、距離と面積の大きさによって4段階に分類し、面積の解離は2、距離の解離は3の段階に生ずるものと考えた。
4.距離と面積の指標は互いに独立したものであると考えられるので、重心動揺検査の評価には両者を併記する必要があると思われた。」(第226頁左欄第7?17行)
1g)ブロックダイアグラムを示した図1から、重心動揺計(NEC三栄)の出力がプリアンプ(NEC三栄)、A-Dコンバーターネオローグ(PCN-2098A)を介してパーソナルコンピューター(PC9801E)に入力されるものであることが分かる。

これらの記載によると、甲第1号証には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「重心動揺計の検査台上に被検者を直立させ測定した身体動揺の出力をパーソナルコンピュータに入力し、距離(軌跡長)と矩形法に準じた面積(動揺面積)を算出する重心動揺検査装置。」

(2)甲第2号証
甲第2号証には、「One Foot Testと重心図分析方法」に関して、図とともに次の事項が記載されている。

(2-ア)「本研究では、One Foot Testにおける重心図解析値の性質とその情報内容を明らかにしようとした。健康な男子学生100名の直立位体重心動揺面積と動揺軌跡長の分布型は、対数正規またはポアソン分布であった。その散布度は大であったが、対数変換により著しく減少した。また、両足立ち面積と軌跡長については身長補正、右足立ち面積については体重補正が妥当と思われた。」(第49頁要約第1?4行)
(2-イ)「平沢(1970、1973)は、直立能力の定量評価のために、重心動揺計のフォースプレート上で、直立両足立ちと左右の片足立ちを行なうOne Foot Testを提案した。この検査は、身体の重心動揺測定による静的平衡能検査としても使用できるが、その結果はパフォーマンスであり、統合的な意味合をもっている。その後、One Foot Testは、体育学、平衡神経科学、整形外科学などの分野で使われるようになり、両足立ち分析値の日本人標準値(平沢、1979)も求められた。しかし、この検査に関しては、測定記録である重心図(electrogravitiograph)の分析方法や統計処理などにいくつかの基礎的な問題が残されている。
そこで本研究では、健康な男子学生100名について、One Foot Testを開眼で実施し、その重心図解析値について(1)分布型の検討、(2)散布度の検討、(3)単相関係数による検討、(4)因子分析による検討、(5)日内リズムを加えた検討を行ったところ、いくつかの重要な知見を得たので、ここに報告する。」(第49頁左欄第10行?同頁右欄第9行)
(2-ウ)「2) 測定方法
昭和53年5月と6月に実験室内で、特に固視標を与えず開眼時のOne Foot Testを行なった。すなわち、Rombergの足位で直立両足立ちを20秒間行い、次に腰に手をあて、片足を膝の裏側にあてた直立片足立ちを左右の順で各10秒間行った。この方法は平沢(1970)の方法に基づいている。使用した重心動揺計は3点式フォースプレートのグラビコーダ(gravicorder;アニマ4301)である。この測定器で得られる重心動揺軌跡は、フォースプレートに対する上方からの圧力中心点の動揺軌跡であるが、直立時においては一般に身体の重心動揺軌跡とみなされている。なお付属のアナライザーにより重心動揺軌跡長も同時に測定した。また重心動揺に関連すると思われる被検者の身長と体重、および足長と足幅もあわせて測定した。」(第49頁右欄第16行?第50頁左欄第10行)
(2-エ)「3. 結果と考察
表2は形態計測値とEGG解析値の算術平均と標準偏差および変異係数を示したものである。同条件で測定した平沢(1979)の標準値;固視標2mに比べ、平均値ではGNYについてほぼ一致し、SNRAはやや大であった。測定条件が多少異なるが、TSNについては田口と依田(1976);身長と体重で補正、および山本と飯田(1979);固視標1mの測定した1分間値の1/3よりやや大であった。しかし石坂と横山(1979)の測定した同条件固視標なしの結果とはほぼ一致した。重心動揺がやや大きめであったのは、固視標を与えなかったためと思われる。またSIの分布は値が大きい方に偏りがみられ、やせ型の被検者がやや多かった。
1) 分布型の検討
・・・・・・。
2) 散布度の検討
・・・・・・。
3) 単相関係数による検討
(1) 補正の問題
これまで、体格との関連またはEGG解析値の分散が大きいことなどから、EGG解析値の補正方法が論じられてきた(平沢、1970;田口と依田;坂口と角田、1977)。平沢(1970)はEGG解析値を足長と足幅で補正している。これは身体をささえる基底面が大きいほど、その重心を制御するには有利であるという考え方に基づいている。一方、坂口と角田は、身長が大きくなればその重心動揺は大きくなるとして、身長により補正を行なっている。
そこで本研究では、形態計測値とEGG解析値(形態計測値と位置解析値およびTSL以外は対数変換)の相関係数を求めてみた。その結果、形態計測値と位置解析値の相関はすべて有意ではなかった。また片足立ち増減率ではSIとIRSB(-(-0.310)およびIRT(-0.221)に低い負相関がみられた。表4は形態計測値と重心動揺面積および重心動揺軌跡長との相関を示したものである。
表4におけるHとWの結果は、身長が高ければ両足立ちの動揺面積と軌跡長が大きく、体重が重ければ右片足立ち動揺面積が大きくなることを示している。一方、基底面関係でみると、lとmにおいては低い正相関がみられ、平沢(1970)の考え方とは逆の結果であった。このことは、正常成人におけるひとつの定められた足位での基底面の変化は形態的変化であり、身長および体重の変化と同様であること(Hとlの相関は0.672、Wとlの相関は0.518)、またその程度の基底面の変化では、身体の重心制御に全く影響を及ぼさないことを示している。したがって被検者の足位を一定にした場合には、身長で両足立ち動揺面積と軌跡長を、また体重で右足立ち動揺面積を補正することが適当と思われる。しかしこれらの相関を回帰としてみると、独立変数(HとW)の関与率は10%以下であった。したがって本研究のように独立変数の分散が正常成人で示される程度に小さければ、補正を行う必要はあまりないと考えられる。
・・・・・・。
4) 因子分析による検討
両足立ちと片足立ちのEGG解析値は同じ機能を測定しているのであろうか。また重心動揺面積と軌跡長は異なった機能を測定しているのであろうか。これらの答をEGG解析値の因子分析によって数値の面から求めた。その方法はバリマックス(Varimax)法で、データのうちで必要なものについては、身長、体重補正および対数変換を施した。重心動揺面積についてはB方式を使用した。また位置解析値は直立能力の定性的なデータであり、直接平衡能を示すものとは考えにくい。そこで測定項目すべてにひとつの共通因子を考える主因子分析を行なわず、バリマックス基準(Varimax criterion)により直接回転後の因子行列を求めた(芝、1970;松浦、1972)。
表5は得られた因子行列である。各項目の共通性(communality)は第5因子までで求めた。なおとりあげた各因子は、貢献量がほぼ1.0以上のものであり、その解釈のため使用した因子負荷量は、因子に対する貢献度が30%以上、すなわち0.547以上のものである。第1因子から第5因子までで全分散の71.5%を説明し、第7、8、10因子を加えると87.2%を説明していることになる。また、12回転以後のバリマックス基準はほとんどゼロ(≦0.001)に収束した。
表5をみると、第1因子ではSLRBとTSLの因子負荷量が高く、左片足立ち因子とみることができる。第2因子は、∠Bでは正、∠Aと∠Cでは負の因子負荷量が高く、両足立ちと片足立ち動揺位置がなす角度を示す位置因子といえる。第3因子はSNRBとTSNに因子負荷量が高く両足立ち因子とみることができる。第4因子はGLY、GNY、GRYに高い因子負荷量を示すので、Y方向位置因子といえる。また第5因子はSRRB、TSRで高い因子負荷量を示し、右片足立ち因子とみることができる。ここで共通性についてみると、GLXとGNXおよびGRXの項目は共通性が1桁低く独自性が強い項目と考えられる。これらは第7、8、10因子として単独項目因子が抽出された。またGLYとGNYおよびGRYの共通性が他の平衡機能を示す項目と同じ程度の値を示しているので、Y方向の位置因子は、ある程度能力的な意味合をもつものと考えられる。
ここでは、動揺面積と軌跡長および片足立ち増減率の因子は抽出されず、互いに独立ではなかった。したがって直立能力を定量評価する場合には、いずれかひとつですますことができる。これまでの結果からみれば、軌跡長を使用する方がよいと考えられる。ただし、山内(1977)のパーキンソン氏病例のように、動揺面積が正常値より小なるにもかかわらず、軌跡長が非常に長いというような特性を検出するためには、動揺面積と軌跡長が必要である。片足立ち増減率についてみれば、両足立ちと左右片足立ち因子それぞれが独立し、異なった情報であるにもかかわらず、それらの因子に対して比較的高い因子負荷量を示している。それは異なった情報を混合したためで、片足立ち増減率は回帰評価としても独立したパフォーマンスとしても意味をもたないことを示している。片足立ち増減率は使用しない方がよいと考えられる。
5) 日内リズムを加えた検討
・・・・・・・。本研究では、単相関係数と因子分析および日内リズムによる検討結果から、両足立ち時における脚の左右の役割と、両足立ち時と片足立ち時に関与する生理的機能の差異をみい出した。
まず第一に、本研究では重心動揺面積と軌跡長における両足立ちと右片足立ちとの相関(0.198と0.422)が高く、両足立ちと左片足立ちとの相関(0.024と0.242)が低かった。これは両足立ち時には右足の制御の結果が、両足立ち重心動揺に反映してくることを示唆している。また重心動揺面積と軌跡長における身長および体重への相関が、両足立ちと右片足立ちで有意であり、左片足立ちでは有意ではなかった(表4)。それは身長(表面的にはRombergの足位)と体重の負荷条件が、右足の制御に影響を及ぼすこと、左足は支持作用が主であり、制御にはあまり関与していないことを示唆している。
・・・・・・。したがって、両足立ちと左右片足立ちそれぞれのEGGの解析値が独立であった結果とあわせみれば、片足立ちEGG解析値は、姿勢制御系のなかでも筋機能の働きを多く反映し、両足立ちのそれは筋機能以外、主として神経系における中枢性制御の働きを多く反映しているものと推察できる。」(第50頁右欄第4行?第56頁左欄第12行)
(2-オ)「4. 結論
特に平衡能のトレーニングをしていないと思われる健康な男子学生100名についてOne Foot Testを開眼で実施し、その重心動揺解析値を検討したところ、次の結論を得た。
One Foot Testは、両足立ちと左右の片足立ちにより、それぞれ異なった直立能力の機能を測定することができ、直立能力の定量評価、特に正常人に対して有用な検査である。その両足立ちの結果は、主として姿勢制御系における中枢神経制御の働きを多く反映し、片足立ちの結果は筋機能の働きを多く反映する。直立能力定量評価のためには、重心動揺軌跡長と動揺位置を主として使用することが望ましい。また、特にトレーニングをしていない正常成人の直立両足立ち時には、左脚が身体の支持作用、右脚が直立姿勢の制御作用をしているものと考えられる。」(第56頁左欄第13?29行)

(3)甲第3号証
甲第3号証には、「平衡機能の運動生理と解析」に関して、図とともに次の事項が記載されている。

(3-ア)「III 体平衡の運動生理
定性的な体平衡検査は、ロンベルグ・マン・片脚立位の保持や継ぎ足歩行が代表的である6)。一方、定量的な検査法には、重心動揺・動的体平衡測定および歩行分析などがあげられる。
1)重心動揺の基本概念
身体動揺とは従来3次元で表現されるべきであるが、静止立位時の足圧中心点を解析する方法が普及しており、日本平衡神経科学会で標準化された基準が広く用いられている7)。
重心動揺計stabilogram(Posturography)は図2に示すとおり、前後・左右の2次元に展開された圧中心点の移動軌跡を、体重補正の後軌跡長と動揺面積を算出して比較するものである。その結果は、測定時間・サンプリング周期・肢位・指標の有無などによって異なり、五島ら9)が表3に示した項目の検討を行なっている。ここで得られた軌跡は、平衡能に直接かかわる偏奇と立ち直り成分の要素が混在しているほかに、図3に示すような呼吸9)や下腿血流10)などの不随意な要因の影響も無視できない。
健常人においてその軌跡は、各方向とも一定範囲に留まる中心域が密なパターンを示すが、患者では異なる波形が観察される。患者の波形特徴や軌跡増加の程度は、病変部位や破綻状態の程度を反映した機能的な指標であり、代表的な疾患を時田11)によって図4のようにまとめられている。」(第128頁右欄第28行?第129頁右欄第11行)
(3-イ)「3)坐位重心動揺
躯幹協調能の定量的な検索を行なう目的で、坐位重心動揺の検討を追加した14)。
肢位別動揺値の比較は図6に示すとおりであり、端坐位と躯幹坐位とではその検出率に有意な差異があることが明かとなった(p<0.001)15)。その際前述のとおり、重心動揺計はトルクを軌跡長に積分するため、坐位での測定では椅子を考慮に入れた体重補正が必要となる。これらを考慮すれば、軌跡長と動揺面積には図7のように高い相関が観察される。ただし、軌跡の算出過程はある程度機器特性にも依存しており、小島らは機種の違いを表2のようにまとめている16)(ちなみに筆者らの結果はサンプリング周期50ミリ秒、測定時間は30秒間でアニマ社製の機器を使用している)。」(第129頁右欄第36行?第132頁左欄第11行)

2 本件発明と引用発明との対比・判断
(1)重心動揺計及び重心動揺検査における技術常識の参酌
本件発明と引用発明との対比・判断を行うに際し、重心動揺計及び重心動揺検査における技術常識として、JIS T1190(1987)「重心動揺計」(1987年2月15日制定)(以下、「参考資料1」という。)、及び、日本平衡神経科学会の「重心動揺検査の基準」(Equilibrium Research、日本平衡神経科学会、1983年12月、Vol.42 No.2、pp.367?369)(以下、「参考資料2」という。)を参酌することとした。
なお、参考資料1及び2の抜粋を、それぞれ[参考試料1の抜粋]及び[参考資料2の抜粋]として付記した。

(2)本件発明と引用発明との対比
本件発明と引用発明とを対比する。
引用発明の(a)「検査台」が、本件発明の(a')「検出板」に相当することは明らかである。そして、重心動揺計は、JIS T1190(1987)「重心動揺計」で規定されているように、患者の直立姿勢時における足底圧の垂直作用力を変換器で検出し、足圧中心動揺を電気信号変化として出力するものであって、その出力は、足圧検出装置の中心位置を原点とし、患者の左右方向をX軸、患者の前後方向をY軸とした場合の、X軸出力及びY軸出力であるから(付記[参考資料1の抜粋]参照。)、引用発明の(b)「重心動揺計の検査台上に被検者を直立させ測定した身体動揺の出力」は、本件発明の(b')「検出板に乗せられた被検体の各足にかかる荷重中心を連続的に検出して前記被検体の重心位置を算出し、この重心位置を予め設定されたX-Y座標上の位置に変換」した構成に対応する。
また、引用発明は(c)「距離(軌跡長)」と「面積(動揺面積)を算出」しているのであるから、本件発明と同様(c')「重心位置の時間の経過に伴う軌跡を求め」ていることは明らかであって、引用発明の(d)「軌跡長」が本件発明の(d')「軌跡の全長である総軌跡長」に相当することも明らかである。
そして、引用発明の(e)「面積(動揺面積)」は「矩形法に準じた」ものであるが、本件発明の(e')「軌跡によって形成された軌跡図形の最外周線の内側の面積である外周面積」と、(e'')「動揺面積」である点では共通する。
さらに、引用発明において算出する「距離(軌跡長)」及び「面積(動揺面積)」も患者の平衡障害の評価パラメータであり、引用発明の(f)「重心動揺検査装置」は、患者の平衡障害の評価に用いるものであるので、本件発明の(f')「平衡障害評価装置」に相当する。
してみると、本件発明と引用発明とは、
(一致点)
「検出板に乗せられた被検体の各足にかかる荷重中心を連続的に検出して前記被検体の重心位置を算出し、この重心位置を予め設定されたX-Y座標上の位置に変換して重心位置の時間の経過に伴う軌跡を求め、この軌跡の全長である総軌跡長を算出するとともに、動揺面積を算出する平衡障害評価装置。」
である点で一致し、次の相違点1、2で相違する。

(相違点1)
「面積(動揺面積)」が、本件発明は「軌跡によって形成された軌跡図形の最外周線の内側の面積である外周面積」であるのに対し、引用発明は「矩形法に準じた面積(動揺面積)」である点。
(相違点2)
本件発明は、算出した総軌跡長L、外周面積Dから、L/D値を算出するのに対し、引用発明は、L/D値を算出するものではない点。

(3)相違点の判断
上記相違点1、2について検討する。
(3-1)相違点1について
本件発明の「軌跡によって形成された軌跡図形の最外周線の内側の面積である外周面積」と、引用発明の「矩形法に準じた面積(動揺面積)」とは、面積の求め方が異なるので、当該相違点1は実質的な相違点である。
しかしながら、重心動揺検査において、重心軌跡の動揺面積として、重心軌跡図形の最外周線の内側の面積の算出に代えて、簡便に算出が可能な、重心軌跡図形の前後径と左右径の積である矩形面積が用いられていることは技術常識である(付記[参考資料2の抜粋]参照。)。
よって、引用発明において、「面積(動揺面積)」として、矩形法に準じた動揺面積、すなわち矩形面積に代えて、重心軌跡図形の最外周線の内側の面積である外周面積を求めるように構成することは、当業者が容易になし得たことである。

(3-2)相違点2について
甲第1号証の記載内容、殊に上記(1-エ)「考察」欄及び図3等を参照すると、正常者群については、距離と面積が比例的な関係にあることが記載されていると認められる。そして、これは 数学的には「L(距離)≒k(定数)×D(面積)」と表されることになるところ、「k≒L/D」であるから、すなわち、「距離と面積の比(L/D値)がほぼ一定」ということが、実質的に記載されていると認められる。
また、甲第1号証の記載内容、殊に上記(1-エ)「考察」欄及び図6等を参照すると、めまい患者群については、距離と面積が必ずしも比例的な関係にないことが記載されていると認められ、すなわち、「距離と面積の比(L/D値)が一定でない」ということが、実質的に記載されていると認められる。
そして、甲第1号証には、距離と面積との関係を診断の指標として用いることまでは記載されていないが、上記のとおり、正常者群とめまい患者群とでは、距離と面積についての比例的な違いがあるという情報が記載されている場合、この記載に基づいて、この「L/D値」を診断に使うことに想到することは、当業者においては容易であると認めることができる。
なお、上記(1-カ)のとおり、甲第1号証の「まとめ」欄には、「4.距離と面積の指標は、互いに独立したものであると考えられるので、重心動揺検査の評価には両者を併記する必要があると思われた。」との記載があるが、これは、距離と面積の2つの指標を用いることにし、2つの指標が互いに独立していることから、片方だけではなく、両方の指標を併記する必要があることを記載したものであって、2つの指標から求めた「L/D値」については、直接言及するものではない。しかしながら、このような直接の言及がないとしても、上記のとおり、甲第1号証に接した当業者であれば、甲第1号証の記載に基づき、算出した軌跡長L、動揺面積Dから、「L/D値」を算出する構成を付加することは、容易に想到できることと認められる。
(以上の認定・判断は、判決書20頁19行?21頁16行の判示のとおりである。)

したがって、本件発明は、引用発明と同一でないものの、引用発明および甲第1号証の記載内容に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第5 むすび
以上のとおり、本件特許は、特許法第29条第1項第3号に該当しないものの、同法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。


- 付 記 -
以下の抜粋中の下線は当審で付したものである。

[参考資料1の抜粋]
「重心動揺計
Stabilometers
1. 適用範囲 この規格は、患者の直立姿勢時における足底圧の垂直作用力を変換器で検出し、足圧中心動揺を電気信号変化として出力する重心動揺計について規定する。
・・・・・・
2. 用語の意味 この規格で用いる主な用語の意味は、JIS T1001(医用電気機器の安全通則)の用語の意味によるほか、次による。
(1)足圧中心 患者の直立姿勢時における足底圧の垂直作用力中心位置。
(2)足圧検出装置 足底に接する板が変換器によって水平に支えられ、患者の直立姿勢時における足底圧の垂直作用力を検出する装置。
(3)X軸・Y軸 水平面内の足圧中心を表す座標軸で、直立姿勢時における患者の左右方向がX軸、前後方向がY軸。
(4)規定重心位置 足圧検出装置の足底に接する板の中心位置を原点とし、その原点を中心とした半径50mmの円周を3等分した各点。
・・・・・・
6. 構成及び構造
6.1 構成 重心動揺計は、本体及び足圧検出装置で構成する。
・・・・・・
6.2 構造
6.2.1 構造一般 重心動揺計は、安全で取扱いが容易であり、その特性が温度、湿度、振動、衝撃、電気的及び化学的影響を受けにくい構造とする。
6.2.2 本体の構造 本体の構造は、次による。
(1)足圧中心動揺出力端子(X軸出力及びY軸出力)を備えること。
(2)足圧中心動揺出力は、足圧検出装置の中心位置を原点とし、患者からみてX軸右方を+X、左方を-X、Y軸前方を+Y、後方を-Yと出力される構造とする。
6.2.3 足圧検出装置の構造 足圧検出装置の構造は、次による。
・・・・・・
(2)足圧検出装置の足底に接する板の大きさは350×350mm以上とする。
・・・・・・
(5)足圧検出装置の足底に接する板は、測定可能範囲の荷重に対し測定に影響するようなたわみを生じない構造であること。
・・・・・・」


[参考資料2の抜粋]
「重心動揺検査の基準
日本平衡神経科学会は重心動揺検査(Stabilometry)として下記の方法を標準的方法として推薦する。
日本平衡神経科学会規格で定められた体重による割算回路を有し、重心位置が出力される重心動揺計(Stabilomeer)を使用し、重心位置の移動をX-Y記録計または前後・左右動揺の経時的記録を用いて記録する検査を基本検査、コンピュータを用いた自動計測を精密検査とする。
A.検査方法
・・・・・・
B.重心動揺記録の評価
a.基本検査
a)X-Y記録図(Statokinesigram、Skg)において
1.動揺の大きさ:前後径、左右径、できれば面積を計測する。〈註9〉
・・・・・・
4.開閉眼差:前後径、左右径、面積において閉眼/開眼の比をみる。
・・・・・・
〈註〉1.不適当な・・・・・・。
・・・・・・
9.「面積」はプラニメータの測定を標準とする。「前後径」×「 左右径」で代用する場合はそれを付記する。・・・・・・」
 
審理終結日 2008-05-01 
結審通知日 2009-04-03 
審決日 2009-04-15 
出願番号 特願平6-41592
審決分類 P 1 113・ 121- Z (A61B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 江成 克己  
特許庁審判長 岡田 孝博
特許庁審判官 福田 聡
信田 昌男
登録日 1998-03-20 
登録番号 特許第2760471号(P2760471)
発明の名称 平衡障害評価装置  
代理人 佐藤 文男  
代理人 大城 重信  
代理人 荒船 博司  
代理人 山田 益男  
代理人 上原 考幸  
代理人 荒船 良男  

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