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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C08J
管理番号 1198250
審判番号 不服2006-4044  
総通号数 115 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-07-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-03-06 
確定日 2009-06-03 
事件の表示 特願2002-18644「ポリマーを発泡させるためのHFC-134a及びシクロペンタンを基材とする発泡剤」拒絶査定不服審判事件〔平成14年10月18日出願公開、特開2002-302566〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成14年1月28日(パリ条約による優先権主張、平成13年2月2日、フランス国)を出願日とする外国語書面出願であって、同年3月27日に外国語書面の翻訳文が提出され、平成17年4月27日付けで拒絶理由が通知され、同年11月9日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年12月1日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成18年3月6日に審判請求がなされ、同年4月5日に手続補正書が提出され、同年4月21日に審判請求書の手続補正書(方式)が提出され、同年5月19日付けで前置報告がなされ、当審において、平成19年10月12日付けで審尋がなされ、平成20年4月15日に回答書が提出され、平成18年4月5日提出の手続補正書による明細書についての補正が平成20年5月23日付けの決定をもって却下されるとともに、同日付けで拒絶理由が通知され、同年11月26日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2.本願発明の認定
本願の請求項1?11に係る発明は、平成20年11月26日提出の手続補正書により補正された明細書及び図面(以下、「本願明細書等」という。)の記載からみて、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?11に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「 【請求項1】 60-98%の1,1,1,2-テトラフルオロエタン(HFC-134a)と2-40%のシクロペンタンとを含む、熱可塑性ポリマーの発泡剤として使用される組成物であって、熱可塑性ポリマーがポリスチレンである該組成物。」

第3.当審で通知した拒絶の理由の概要
当審で通知した平成20年5月23日付け拒絶理由通知書に記載した拒絶の理由の概要は、以下のとおりである。
「この出願の請求項1?13に係る発明は、その出願前に日本国内において頒布された下記の刊行物1?2に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
引 用 文 献 等 一 覧
1.特開平9-104780号公報
2.特開平10-292063号公報」
なお、上記拒絶理由通知書に記載された請求項の項番号は、平成17年11月9日提出の手続補正書により補正された明細書のものである。

第4.当審で通知した拒絶の理由の妥当性についての検討
1.刊行物の記載事項
平成20年5月23日付け拒絶理由通知書で引用した刊行物である引用文献1及び2には、以下の事項が記載されている。

1-1.引用文献1の記載事項
(摘示1-1)
「【請求項6】 (a)アルケニル芳香族合成樹脂を熱可塑化する工程、
(b)前記熱可塑化された樹脂と、1,1,1,2-テトラフルオロエタンを含む発泡剤組成物とを混合する工程、及び(c)前記混合物をダイを通して高圧力側より低圧力側へ押出して発泡体を得る工程を含むことを特徴とするアルケニル芳香族合成樹脂押出発泡体の製造方法。
【請求項7】 前記発泡剤組成物が下記発泡剤(1)塩化エチル、(2)塩化メチル、(3)CO_(2)、(4)プロパン、(5)ブタン、(6)イソブタン、(7)ペンタン、(8)ネオペンタン、(9)イソペンタン、(10)シクロペンタン、(11)H_(2)Oの1または2以上を更に含む請求項6記載の製造方法。」(特許請求の範囲)
(摘示1-2)
「【従来の技術と発明が解決しようとする課題】スチレンポリマー発泡体の主要な用途の一つは、建築用の断熱材の分野である。断熱材 用のスチレンポリマー発泡体は、比較的小さな気泡及び優れた寸法安定性を有することが望ましい。また、発泡体の断熱値ができるだけ長く維持されることが非常に望ましい。本発明の範囲内に包含されるスチレンポリマー発泡体の種類は、云わゆる押出発泡体である。」(段落【0002】)
(摘示1-3)
「(実施例)図1(A)図示された装置を用いて、約200,000の重量平均分子量を有するポリスチレンと、より一層環境にやさしい1,1,1,2-テトラフルオロエタンを用いた異なる発泡剤組成から、発泡体を製造した。特に、実質的に、2.5インチ(6.35cm)の押出機を回転ピン型のミキサー、平板冷却器及び調節可能なギャップを有するスリット押出ダイと組み合わせて使用した。ポリマーの押出速度は毎時200ポンド(91kg)であった。表VIは、プロセス条件及び発泡体の物性、並びに臨界圧力低下ΔP_(C )の経験的に決められた値を示す。また、表VIは押出ダイ開度を変更することによりミキサー及びダイでの臨界圧力より上及び下で製造された良好な品質及び不良の品質のポリスチレン発泡体の例を示す。


(段落【0053】?【0054】)

1-2.引用文献2の記載事項
(摘示2-1)
「【請求項1】 アルケニル芳香族樹脂を加熱して溶融させ、これに発泡剤を配合して発泡可能なゲル状物質となし、該ゲル状物質を発泡に適する温度に冷却し、該ゲル状物質をダイを通して、より低圧の領域に押し出して発泡体を形成する、各工程を含む合成樹脂発泡体の製造方法において、前記発泡剤が、(A)分子中に塩素原子を含まないフッ素化炭化水素が発泡剤全体中で30重量%以上、70重量%未満、(B)炭化水素及び(C)塩化アルキルとの少なくとも一方が発泡剤全体中で70重量%未満、30重量%以上、からなる混合物を主成分とする合成樹脂発泡体の製造方法。」(特許請求の範囲)
(摘示2-2)
「そこで、前記HCFCに代わり、分子中に塩素原子を含まないフッ素化炭化水素(以下、HFCと略す。)を使用することが提案されている。このHFCは、通常、オゾン破壊係数が0であり、HCFCに比して環境保護の観点からより好ましい。例えば、1,1,1,2-テトラフルオロエタン(以下、HFC134aと略す。)を使用して発泡体を製造しようという試みが開示されている。例えば、発泡剤としてHFC134aを使用することが特開平1-98683号公報に、また、発泡体気泡中に70重量%以上のHFC134aを残す発泡体が特開平3-188137号公報に、それぞれ開示されている。しかし、特開平4-363340号公報、あるいは特許第2537426号公報において開示されているように、スチレン樹脂に対するHFC134aの溶解・分散能力は高いものではなく、また、ゲル状態樹脂から生成された発泡体気泡を大気に開放(破泡)せずに閉鎖気泡として固定する効果も高いものではない。従って、HFC134aを使用する場合には、適した配合量、特殊な製造条件、あるいは他の物質との適切な組み合わせ条件を設定しなければ、気泡は大気に対して開放してしまい、製造された発泡体の気泡個々の独立性が低くなり、結果として気泡中のガスは大気に散逸し、発泡体中の発泡剤ガス量が相当量減少する。HFC134aを使用する目的の1つは断熱性が期待されるからであるが、この様な状況のため逆に断熱性は低下しやすくなる。また、樹脂に対する溶解・分散不良により部分的な過大気泡(ボイド)が生じやすくなり、これにより機械物性の低下を引き起こしやすい。
このように、前者(特開平1-98683号公報に開示された方法)では、安定的な生産方法と、好ましい物性の両立のために適切なHFC134aの量が明らかにされていないうえ、その具体的実施は、現在においては既に使用が好ましくないとされているCFC類との組み合わせに関するものであり、実施に当たっての課題解決が十分ではない。また、後者(特開平3-188137号公報に開示された方法)にあっては、アルケニル芳香族樹脂に対しては難溶解性のHFC134aを70重量%以上と大量に使用することを前提としているにもかかわらず、安定製造と良好な機械物性、断熱物性確保のための条件が明らかにされておらず、発泡体は製造可能であったとしても、良好な発泡体を得るという観点からは、尚、検討を要する。更にHFC134aはオゾン破壊係数は0であるが、地球温暖化の傾向があることが知られており、その使用量は極力少なくすることが肝要である。従って、発泡体製造、及び製造された発泡体物性の観点から好ましく、なおかつHFC134aの使用量を削減できる、他の発泡剤との組み合わせを見いだすことが望まれている。
これに対して、HFC134aと、塩化メチル及び/または塩化エチルとを組み合わせた発泡剤を用いることが特開平1-289839号公報に開示されている。しかし、ここでも、やはりHFC134aの使用量の範囲が明らかではなく、HFC134aや、塩化メチル及び/または塩化エチルの使用量によっては、前述のような気泡の独立性、製造安定性、更に環境に対する負荷、労働衛生など課題解決が十分であるとはいえない。また、HFC134aと、アルコール及び/又はケトン、二酸化炭素、及び特定の炭化水素とを組み合わせた発泡剤を用いることが特開平4-226547号公報、特開平6-200068号公報に開示されている。前者(特開平4-226547号公報に開示された方法)では、HFC134aの使用量は0?90重量%とされており、また、後者(特開平6-200068号公報に開示された方法)では、HFC134aは2?90重量%とされている。しかし、いずれの場合にも、HFC134aが少量の場合には、断熱性の面で、必ずしも産業上の要望に応えられず、また、HFC134aが90重量%と極めて大量の場合には、アルケニル芳香族樹脂への溶解・分散性の低さに起因する課題が残る。従って、これらの方法においては、発泡体の断熱性を確保するために、発泡剤中の各成分の配合比率を特定することが必要である。」(段落【0005】?【0007】)

2.引用発明の認定
引用文献1の特許請求の範囲の請求項6には、「1,1,1,2-テトラフルオロエタンを含む、アルケニル芳香族合成樹脂押出発泡体の製造に用いられる発泡剤組成物」が記載されているものと認められる(摘示1-1)。
また、同請求項7には、「発泡剤組成物」が「下記発泡剤(1)塩化エチル、(2)塩化メチル、(3)CO_(2)、(4)プロパン、(5)ブタン、(6)イソブタン、(7)ペンタン、(8)ネオペンタン、(9)イソペンタン、(10)シクロペンタン、(11)H_(2)Oの1または2以上を更に含む」ことが記載されている(摘示1-1)。
さらに、引用文献1には、「アルケニル芳香族合成樹脂」として「ポリスチレン」を用いた押出発泡体の製造実験例が記載されている(摘示1-3)。

してみると、引用文献1には、
「1,1,1,2-テトラフルオロエタンと下記発泡剤(1)塩化エチル、(2)塩化メチル、(3)CO_(2)、(4)プロパン、(5)ブタン、(6)イソブタン、(7)ペンタン、(8)ネオペンタン、(9)イソペンタン、(10)シクロペンタン、(11)H_(2)Oの1または2以上とを含む、ポリスチレン押出発泡体の製造に用いられる発泡剤組成物」
の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

3.本願発明と引用発明との対比
引用文献1の(摘示1-1)の記載からみて、本願発明の「シクロペンタン」も「発泡剤」としての機能を有するものと認められる。
また、引用発明の「ポリスチレン」は、発泡剤組成物と混合される工程において熱可塑化されるものであるから(摘示1-1)、本願発明の「熱可塑性ポリマー」に相当するものと認められる。
さらに、引用発明の「押出発泡体の製造に用いられる発泡剤組成物」が、本願発明の「発泡剤として使用される組成物」に相当するものであることは明らかである。

したがって、本願発明と引用発明とは、
「1,1,1,2-テトラフルオロエタン(HFC-134a)と他の発泡剤とを含む、熱可塑性ポリマーの発泡剤として使用される組成物であって、熱可塑性ポリマーがポリスチレンである該組成物」
の発明である点で一致し、以下の相違点(A)及び(B)で相違する。
(A)本願発明においては、他の発泡剤がシクロペンタンであるのに対して、引用発明においては、他の発泡剤が(1)塩化エチル、(2)塩化メチル、(3)CO_(2)、(4)プロパン、(5)ブタン、(6)イソブタン、(7)ペンタン、(8)ネオペンタン、(9)イソペンタン、(10)シクロペンタン、(11)H_(2)Oの1または2以上である点。
(B)本願発明においては、組成物中の1,1,1,2-テトラフルオロエタン(HFC-134a)とシクロペンタンの含有量が、それぞれ、60-98%と2-40%に規定されているのに対して、引用発明においては、このような規定がされていない点。

4.相違点についての検討
4-1.相違点(A)について
(摘示1-2)の記載からみて、引用発明は、比較的小さな気泡、優れた寸法安定性及び断熱性を有する発泡体を製造するための発泡剤組成物を提供することを目的とするものと認められる。
一方、(摘示2-1)及び(摘示2-2)の記載からみて、引用文献2には、アルケニル芳香族樹脂の発泡体の製造において、1,1,1,2-テトラフルオロエタンを発泡剤として用いた場合には、発泡剤のアルケニル芳香族樹脂に対する溶解性が低いために、部分的に過大な気泡が生じ、発泡体の機械物性及び断熱性が低下するという課題があること、かかる課題の解決のために、1,1,1,2-テトラフルオロエタンと他の発泡剤との適切な組み合わせを見いだすことが望まれることが記載されているものと認められる。
してみると、引用発明において、比較的小さな気泡、優れた寸法安定性及び断熱性を有する発泡体を製造するための発泡剤組成物を提供することを目的として、1,1,1,2-テトラフルオロエタンとともに用いる他の発泡剤として、発泡剤組成物のアルケニル芳香族合成樹脂に対する溶解性をより向上させるものを探索し、(1)?(11)の11種の発泡剤の中から実験によりシクロペンタンを選択することは、当業者が容易になし得ることである。
そして、本願明細書等の記載を参酌しても、相違点(A)により奏せられる効果が、当業者の予測の域を超えるものとはいえない。

4-2.相違点(B)について
(摘示2-1)及び(摘示2-2)の記載からみて、引用文献2には、上記「4-1.相違点(A)について」で述べた課題の解決のために、発泡剤中の各成分の配合比率を特定することが必要であることも記載されているものと認められる。
してみると、引用発明において、発泡剤中の1,1,1,2-テトラフルオロエタンと上記「4-1.相違点(A)について」において他の発泡剤として選択したシクロペンタンの含有量を実験により最適化し、本願発明に規定された範囲のものとすることは、当業者が適宜なし得ることである。
そして、本願明細書等の記載を参酌しても、相違点(B)により奏せられる効果が、当業者の予測の域を超えるものとはいえない。

5.請求人の主張についての検討
請求人は、平成20年11月26日提出の意見書において、概略以下のように主張している。
(主張1)
「引用文献2は、発泡剤の組み合わせとして、(i)分子中に塩素原子を含まないフッ素化炭化水素と炭化水素、(ii)分子中に塩素原子を含まないフッ素化炭化水素と塩化アルキル、(iii)分子中に塩素原子を含まないフッ素化炭化水素及び塩化アルキルと炭化水素を開示し、炭化水素としては、プロパン、n-ブタン、i-ブタン、n-ペンタン、i-ペンタン、2,2-ジメチルプロパンよりなる群より選ばれた少なくとも1種である脂肪族炭化水素が好適に使用されることを教示していると言えます。
かかる引用文献2の教示内容に接した当業者は、引用発明1において、比較的小さな気泡、優れた寸法安定性及び断熱性を有する発泡体を製造するための発泡剤組成物を提供することを目的として、1,1,1,2-テトラフルオロエタンとともに用いる他の発泡剤を(1)?(11)の11種の発泡剤の中から選択するとしても、塩化エチル、塩化メチル、プロパン、ブタン、イソブタン、ペンタン、ネオペンタンを採用すると考えるのが自然であり、シクロペンタンを特定的に選択することには至り得ないものと思料します。」
(主張2)
「引用文献1には、他の発泡剤として、(1)塩化エチル、(2)塩化メチル、(3)CO_(2)、(4)プロパン、(5)ブタン、(6)イソブタン、(7)ペンタン、(8)ネオペンタン、(9)イソペンタン、(10)シクロペンタン、(11)H_(2)Oが同列に記載されていることからして、引用文献1においては、比較的小さな気泡、優れた寸法安定性及び断熱性を有する発泡体を製造するための発泡剤組成物を提供するという同文献の目的を達成する上でこれら他の発泡剤は同じ程度のレベルで寄与するものと考えられていると言えます。
これに対して、本願発明においては、シクロペンタンが他の同類の有機化合物と違って溶融ポリスチレン中で特別に高い溶解度を有しており、シクロペンタンとHFC-134aとの混合物は押出による発泡ポリマーの製造、特に発泡ポリスチレンパネルの製造に極めて好適であることを意外にも知見したのであり(本願明細書段落【0014】)、HFC-134aと組み合わせる発泡剤としてシクロペンタンを選択的に用いることに本発明の大きな特徴の一つがあります。上記したことから、かかる本発明の特徴は引用文献1と2からは想到し得ないはずであります。
そして、シクロペンタンが溶融ポリスチレン中で特別高い溶解度を有していることは、本願明細書の実施例に具体的に記載されています。即ち、押出室における発泡剤/熱可塑性樹脂ブレンドの典型的な加熱温度である140、160及び180℃におけるポリスチレン中への種々の有機化合物の溶解度が図1に示されています。このデータは、ポリマー相(ポリスチレン)と移動相(ヘリウム)との間の無限希釈溶質の分配係数(K)を逆相ガスクロマトグラフィーによって測定して得られたものであり、このパラメータ(K)は、S(溶解度係数)=K/RT(R:理想気体定数、T:絶対温度)の式から溶解度に比例するものです(本願明細書段落【0027】?【0032】)。図1から明らかなように、シクロプロパンは、引用文献2でも例示されている塩化エチル、n-ブタン、イソペンタンに比較してポリスチレンに対して極めて高い溶解度を示します。具体的には、140℃においてシクロペンタンはn-ブタンに対して4倍以上の溶解度を有します。そして、この事実により、HFC-134aとの混合物としてシクロペンタンを選択すると、発泡ポリスチレンの製造に好適な発泡剤が容易に得られるのであり(【0035】)、このことは、本願明細書の実施例3で示すように、HFC-134aとシクロペンタンの混合物を発泡剤としてポリスチレンを押出し成形した結果、均質な発泡ポリスチレンパネルが得られ、このパネルは、同じ押出機で従前から汎用されているHCFC-142bを発泡剤として使用したときに得られたパネルと同様の物理的及び機械的特性を有していたことからも支持されます(【0043】?【0044】)。
してみれば、HFC-134aと組み合わせる発泡剤としてシクロペンタンを選択的に用いることにより奏される顕著な効果は引用文献1及び2から当業者が予測し得たものとは言えません。」

上記(主張1)及び(主張2)について検討する。
(主張1について)
引用文献2の(摘示2-1)及び(摘示2-2)の記載からみて、アルケニル芳香族樹脂の発泡体の製造において、1,1,1,2-テトラフルオロエタンを発泡剤として用いた場合に、発泡剤のアルケニル芳香族樹脂に対する溶解性が低いために、部分的に過大な気泡が生じ、発泡体の機械物性及び断熱性が低下するという課題は、引用文献2の頒布時前から認識されていた一般的な課題であり、また、かかる課題の解決のために、1,1,1,2-テトラフルオロエタンと他の発泡剤との適切な組み合わせを見いだすことは、同引用文献の頒布時前から一般的に採用されている解決手段であるものと認められる。
してみると、引用発明において、1,1,1,2-テトラフルオロエタンとともに用いる他の発泡剤を選択するに際して、その選択肢を(1)?(11)の11種の発泡剤のうち、引用文献2に記載された塩化エチル、塩化メチル、プロパン、ブタン、イソブタン、ペンタン、ネオペンタンに限定する特段の理由も認められないから、上記他の発泡剤として、(1)?(11)の11種の発泡剤の1つであるシクロペンタンを選択することは、当業者が容易になし得ることである。
(主張2について)
本願明細書等においては、1,1,1,2-テトラフルオロエタンとともに用いる他の発泡剤としてシクロペンタンを選択した組成物と、前記他の発泡剤として引用発明におけるシクロペンタン以外の10種の発泡剤を選択した組成物について、熱可塑性ポリマーの発泡剤としての特性に関する具体的な比較試験結果が示されていないから、前記他の発泡剤としてシクロペンタンを選択することにより、引用発明におけるシクロペンタン以外の10種の発泡剤を選択したものに比して、熱可塑性ポリマーの発泡剤としての特性に関するどのような有利な効果が奏されるのかが明らかでない。
また、上記他の発泡剤としてシクロペンタンを選択することにより奏される効果を示す間接的な根拠として、本願明細書等の図1に示されたシクロペンタンと他の発泡剤とのポリスチレンに対する溶解度に関する比較試験結果を参酌したとしても、一般に、化合物が異なることによって、他の化合物に対する溶解度がある程度異なることは技術常識であり、そして、前記図1の比較試験結果におけるシクロペンタンのポリスチレンに対する溶解度は、引用発明におけるシクロペンタン以外の10種の発泡剤の1つである塩化エチルの溶解度の高々2倍弱にすぎず、かかる溶解度の差異は、上述の化合物が異なることによって生じるある程度の差異の範囲内のものと認められるから、このようなポリスチレンに対する溶解度の差異をもって、上記他の発泡剤としてシクロペンタンを選択することにより奏される効果が、本願発明が引用発明に対して進歩性を有するとするだけの当業者が予測し得ない効果であるとはいえない。

したがって、上記(主張1)及び(主張2)は、いずれも採用することができないものである。

6.まとめ
よって、本願発明は、引用文献1及び2に記載された発明に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

第5.むすび
以上のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明についての当審で通知した平成20年5月23日付け拒絶理由通知書に記載した拒絶の理由は妥当なものであり、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願はこの理由によって拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-12-18 
結審通知日 2009-01-06 
審決日 2009-01-19 
出願番号 特願2002-18644(P2002-18644)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C08J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小野寺 務  
特許庁審判長 宮坂 初男
特許庁審判官 一色 由美子
山本 昌広
発明の名称 ポリマーを発泡させるためのHFC-134a及びシクロペンタンを基材とする発泡剤  
代理人 渡邉 千尋  
代理人 金山 賢教  
代理人 大崎 勝真  
代理人 坪倉 道明  
代理人 川口 義雄  
代理人 小野 誠  

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