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審決分類 |
審判 査定不服 特29条の2 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G01S |
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管理番号 | 1198461 |
審判番号 | 不服2006-3119 |
総通号数 | 115 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2009-07-31 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2006-02-20 |
確定日 | 2009-06-11 |
事件の表示 | 特願2003-306144「通信システム」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 3月24日出願公開、特開2005- 77179〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1 手続の経緯 本願は、平成15年8月29日の出願であって、平成18年1月19日付けで拒絶査定がなされ、これに対して平成18年2月20日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、その後、当審により平成20年7月16日付けで拒絶理由が通知されたところ、平成20年9月17日付けで手続補正がなされたものである。 2 当審の拒絶理由 当審が通知した拒絶理由の概要は、 (理由2)本件出願の下記の請求項に係る発明は、その出願の日前の特許出願であって、その出願後に出願公開がされた下記の特許出願の願書に最初に添付された明細書又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない。 記 (請求項1-6に対して) 他の出願:特願2003-145778号出願(特開2004-350088号。出願人;日本電気株式会社、発明者;石井健一) というものである。 3 本願発明 請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成20年9月17日付け手続補正によって補正された本願明細書及び図面の記載からみて、請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものと認める。 「 【請求項1】 無線通信空間に配置される2つの通信端末間の通信距離を測定可能な通信システムであって、 前記無線通信空間の空き期間の始端に同期して前記無線通信空間を介したデータの送信を完了する送信機と、 前記送信機からのデータを前記無線通信空間を介して受信し、その受信したデータに対する応答のためのデータを前記無線通信空間を介して前記送信機へ送信する受信機とを備え、 前記送信機及び前記受信機は、基準クロックに同期して前記データを送受信し、前記受信機は、前記送信機からの前記データの受信完了後、一定時間経過後に前記データを前記送信機へ送信し、 前記送信機は、前記受信機への前記データの送信を完了する第1のタイミングと前記受信機からの前記データの受信を開始する第2のタイミングとの間のトータル時間を計測し、その計測したトータル時間から前記一定時間を減算して前記データが前記受信機との間で往復する往復時間を演算し、その演算した往復時間に基づいて前記受信機までの通信距離を決定する、通信システム。」 4 引用刊行物に記載された発明 (1)当審での拒絶理由に引用され、本願の出願の日前の平成15年5月23日に出願された他の特許出願(以下「先願」という。)であって、その出願後の平成16年12月9日に出願公開がされた特許出願の願書に最初に添付された明細書又は図面(以下「先願明細書」という。)には、「無線局の位置推定システム」の発明に関して、以下の事項が記載されている。 <記載事項1> 「【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は、複数の無線局によって構成される無線パケット通信システム及びそれに関連する技術に関し、特にIEEE802.11標準仕様で規定される無線通信方式を用いて通信する無線端末の位置を特定する機能を有するに無線LANシステム及びそれに関連する技術関する。」 <記載事項2> 「【発明の実施の形態】 本発明における第一の実施の形態について図面を参照して説明する。 【0053】 第一の実施の形態では、IEEE802.11規格に従い、互いに同期していない複数の無線局が同一無線チャネルを共有して通信し、他の無線局が通信していないと判断した時にデータを送信する、無線LANシステムにおける基地局と端末との間で送受信されるデータの伝播時間を測定し、この測定結果に基づいて距離を推定し、端末の位置を推定する方法について説明する。尚、本実施の形態では、基地局と端末との間を測定する方法について説明するが、基地局間を測定する場合にも用いても良い。 【0054】 図1は、無線LANシステムを示す構成図である。図2?図6は、基地局と端末との間の距離を推定するのに必要な、基地局間、若しくは基地局と端末との間のデータの伝播時間を測定する方法を説明するための図である。 【0055】 図1において、101,102及び103は基地局であり、104,105,106及び107は端末であり、108はスイッチであり、109は測位サーバーである。尚、基地局、及び端末は、図示した以外にも複数あるものとする。 【0056】 測位サーバー109は、端末104?107の現在位置を特定する機能を有する制御装置である。 【0057】 スイッチ108は、基地局101?103の各々と、測位サーバー109と、他のネットワーク機器とを有線ネットワークで接続するためのものである。」 <記載事項3> 「【0058】 上述の構成における、無線LAN基地局と無線LAN端末との間で送受信されるデータの伝播時間を推定する方法について説明する。尚、本実施形態において、無線LAN基地局101?103と無線LAN端末104?107とは、IEEE802.11規格に従って通信を行うものとする。又、本実施形態では、測位サーバー109が各基地局、もしくは端末からの距離推定結果を収集して端末の位置を特定するものとする。 【0059】 尚、各無線局の送受信制御(アクセスコントロール)の方式として、現在、IEEE802.11規格では、DCF(Distributed Coordinate Function)とPCF(Point Coordinate Function)とが標準化されているが、まず、図2?図5を用いて、DCFを用いて通信している無線LANシステムにおける、無線局間の伝搬時間を推定して距離を推定する方法を説明する。 【0060】 尚、DCFによる通信において、送信側の無線局が特定の無線局宛(UNICAST)のパケット(Frame)を送信した場合、受信側の無線局は無線伝送路で生じる誤りが受信したデータパケットに含まれていないかどうかを確認する。誤りが含まれてない場合、応答パケットACKを送信元の無線局に対して返信する。ここで送信されるパケットは、データパケット若しくは、制御パケットである。」 <記載事項4> 【0061】 図2は、データパケットの送信側である無線局1とデータパケットの受信側である無線局2との間でのデータパケットの送受関係を示している。尚、DCFによる通信において基地局と端末との間の距離を推定する場合、基地局を送信側の無線局とする方法と基地局を受信側の無線局とする方法の2通りの場合を考えることができる。そのため、本実施例では、基地局と端末とを区別せずに、無線局1と無線局2として説明する。」 【0062】 図2において、T1は、無線局1から送信されたデータパケットが無線局2に到達するのに必要な伝搬遅延の時間である。T2は、無線局2から送信されたACKが無線局1まで到達するのに必要な伝搬遅延の時間である。T3は、無線局2がデータパケットの受信を終了してからACKを送信するまでに必要な時間である。これは、IEEE802.11規格においては、受信側のACK応答までの時間としてSIFS(Short Inter Frame Space)と定義されている。T4は、データパケットの送信に必要とされる時間であり、これはデータパケット長と伝送レートとに依存される。T5は、送信側の無線局1でデータパケット送信開始からACK受信開始までの時間であり、T1,T2,T3,及びT4を合わせた時間となる。 【0063】 ここで、T4はデータパケット長と伝送レートによって決まる時間であり、送信側の無線局1では容易に算出できる時間である。T3で示されるSIFSは、IEEE802.11規格では物理層に用いる規格で決まる値とされており、例えばIEEE802.11a規格ではSIFS時間として16μs(マイクロ秒)という値が規定されている。同様にIEEE802.11B規格ではSIFS時間として10μs(マイクロ秒)という値が規定されている。よって、IEEE802.11規格に従って通信する無線LANシステムにおいては、用いられる物理層の規格の違いによりSIFSの値が変わるものの、同一の物理層の規格に従って通信する無線局においてはSIFSの値は固定値である。よって、T5を構成する時間要素のうちT3,T4は、送信側の無線局1において容易に推定することができるので、時間(T1+T2)を導出することができる。 【0064】 更に、無線LANを用いる場合、無線局1から無線局2への伝搬遅延T1と、無線局2から無線局1への伝搬遅延T2とは同一であると考えることができるので、送信側の無線局1においてはT5を測定することで無線局2との間の伝搬遅延(T1=T2)を求めることができる。無線信号の伝搬速度は光速であるため、伝搬時間に光速を乗じることで伝搬距離を求めることができる。このことから、無線局1は、データパケット送信開始からACK受信開始までの時間T5を測定し、無線局1と無線局2との間の伝搬遅延(T1=T2)を求めることで、無線局1と無線局2との間の伝搬時間を推定し、伝搬距離を推定することができる。 【0065】 尚、IEEE802.11規格では、DCFにおいては上述のデータパケット送信-ACK受信というアクセス手順の他に、RTS(Request To Send)-CTS(Clear To Send)-データパケット-ACKというアクセス手順が規定されている。このRTS-CTS-データパケット-ACK手順においても、各パケットの送信間隔はSIFSで規定されている。よって、図2のデータパケットをRTSに、ACKをCTSに置き換えて、RTS送信からCTS受信開始までの時間を計測することでも無線局1と無線局2との間の距離を推定することができる。また、同様に図2のデータパケットをCTS、ACKをデータパケットに置き換えて、CTS送信からデータパケット受信開始までの時間を計測することで無線局1と無線局2との間の距離を推定することも可能である。これらの場合、T4のデータパケット送信時間をそれぞれRTS送信時間、若しくはCTS送信時間に置き換えればよい。」 <記載事項5> 「【0066】 次に、DCFを用いて通信する無線LANシステムにおける基地局と端末との間のデータの伝播時間を測定する別な方法を説明する。 【0067】 図3は、無線局1をデータパケットの送信側とし、無線局2を受信側として、無線局1と無線局2との間でのパケットの送受信関係を示している。尚、ここでも、基地局と端末との間の距離を推定する場合には、基地局を送信側の無線局とする方法と受信側の無線局とする方法の2通りの場合を考えることができる。そのため、上述した方法と同様に、基地局と端末とを区別せずに、無線局1と無線局2として説明する。また、図3に示す方法は図2に示した方法とほぼ同一であるが、図2では測定時間がデータパケット送信開始からACK受信開始までの時間T5であったが、図3では測定する時間がデータパケットの送信終了時点からACKの受信開始までの時間T6である点が異なる。 【0068】 送信側である無線局1は、データパケットの送信終了時点からACKの受信開始までの時間T6を測定し、SIFSであるT3をT6から減ずることで、無線局2との間の伝搬遅延(T1=T2)を求めることができる。無線信号の伝搬速度は光速であるため、伝搬時間に光速を乗じることで伝搬距離を求めることができる。また、本方法を用いると、送信するデータパケット長や伝送レートの影響を考慮しなくてよいというメリットがある。」 そこで、記載事項5に「図3に示す方法は図2に示した方法とほぼ同一であるが、図2では測定時間がデータパケット送信開始からACK受信開始までの時間T5であったが、図3では測定する時間がデータパケットの送信終了時点からACKの受信開始までの時間T6である点が異なる。」と記載されているから、図3に示す方法について、図2に示した方法を説明する記載事項4の記載を参照してもよいことは明らかである。 記載事項1?5から、以下の点を読み取ることができる。 ア DCFを用いて通信している無線LANシステムにおける基地局(無線 局1)と端末(無線局2)との間の距離を推定可能な無線LANシステ ム(記載事項2、3) イ データパケットの送信側である無線局1(記載事項4) 所定の時間後にデータパケットの送信を終了する無線局1(図3) ウ 無線局1から送信されたデータパケットの受信をした後、応答パケット ACKを無線局1に送信する無線局2(記載事項3,4,図3) エ 無線局1と無線局2との間でデータパケットを送受する点(記載事項4 ) オ 無線局2は、データパケットの受信を終了してから、SIFSである時 間T3後に応答パケットACKを無線局1に送信する点(記載事項4) カ 送信側である無線局1は、データパケットの送信終了時点からACKの 受信開始までの時間T6を測定し、前記時間T6からSIFSである時 間T3を減ずることで、無線局1から無線局2への伝搬遅延T1と、無 線局2から無線局1への伝搬遅延T2との和である伝搬時間(T1=T 2)を求め、前記伝搬時間に光速を乗じることで無線局間の伝搬距離を 求める点(記載事項3,4) したがって、上記記載事項1?5、及び図面に基づけば、引用刊行物1には、 「DCFを用いて通信している無線LANシステムにおける基地局(無線局1)と端末(無線局2)との間の距離を推定可能な無線LANシステムであって、 所定の時間後にデータパケットの送信を終了する無線局1と、 無線局1から送信されたデータパケットの受信をした後、応答パケットACKを無線局1に送信する無線局2とを備え、 前記無線局1と無線局2との間でデータパケットを送受し、 前記無線局2は、データパケットの受信を終了してから、SIFSである時間T3後に応答パケットACKを無線局1に送信し、 前記送信側である無線局1は、データパケットの送信終了時点から応答パケットACKの受信開始までの時間T6を測定し、前記時間T6からSIFSである時間T3を減ずることで、無線局1から無線局2への伝搬遅延T1と、無線局2から無線局1への伝搬遅延T2との和である伝搬時間(T1=T2)を求め、前記伝搬時間に光速を乗じることで無線局間の伝搬距離を求める、無線LANシステム。」の発明(以下「先願発明」という。)が記載されている。 5 対比 本願発明と先願発明とを比較する。 (1)先願発明において、基地局(無線局1)と端末(無線局2)とは、DCFを用いて通信しているから、先願発明の「基地局(無線局1)」及び「端末(無線局2)」は、本願発明でいう「無線通信空間に配置され」ていることは明らかである。また、先願発明の「基地局(無線局1)と端末(無線局2)」、「無線LANシステム」は、本願発明の「2つの通信端末」、「通信システム」に相当する。 したがって、先願発明の「DCFを用いて通信している無線LANシステムにおける基地局(無線局1)と端末(無線局2)との間の距離を推定可能な無線LANシステム」は、本願発明の「無線通信空間に配置される2つの通信端末間の通信距離を測定可能な通信システム」に相当する。 (2)「(1)」で述べたように、先願発明の「基地局(無線局1)」及び「端末(無線局2)」は、本願発明でいう「無線通信空間に配置され」ているから、先願発明における無線局1と無線局2間のデータパケット等の送受信は、本願発明でいう「無線通信空間を介した」データの送信である。 したがって、先願発明の「所定の時間後にデータパケットの送信を終了する無線局1」と本願発明の「前記無線通信空間の空き期間の始端に同期して前記無線通信空間を介したデータの送信を完了する送信機」とは、前記無線通信空間を介したデータの送信を完了する送信機の点で共通する。 また、先願発明の「無線局1から送信されたデータパケット」、「応答パケットACK」、「無線局2」は、本願発明の「前記送信機からのデータ」、「その受信したデータに対する応答のためのデータ」、「受信機」に、それぞれ相当する。 したがって、先願発明の「無線局1から送信されたデータパケットの受信をした後、応答パケットACKを無線局1に送信する無線局2」は、本願発明の「前記送信機からのデータを前記無線通信空間を介して受信し、その受信したデータに対する応答のためのデータを前記無線通信空間を介して前記送信機へ送信する受信機」に相当する。 (3)先願発明の「データパケットを送受し」は、本願発明の「データを送受信し」に相当する。 したがって、先願発明の「前記無線局1と無線局2との間でデータパケットを送受し」と本願発明の「前記送信機及び前記受信機は、基準クロックに同期して前記データを送受信し」とは、前記送信機及び前記受信機は、前記データを送受信しという点で共通する。 (4)先願発明の「受信を終了してから」、「応答パケットACK」は、本願発明の「前記データの受信完了後」、「前記データ」に、それぞれ相当する。また、先願発明の「SIFSである時間T3後」と本願発明の「一定時間経過後」とは、所定時間経過後の点で共通する。 したがって、先願発明の「前記無線局2は、データパケットの受信を終了してから、SIFSである時間T3後に応答パケットACKを無線局1に送信し」と本願発明の「前記受信機は、前記送信機からの前記データの受信完了後、一定時間経過後に前記データを前記送信機へ送信し」とは、前記受信機は、前記送信機からの前記データの受信完了後、所定時間経過後に前記データを前記送信機へ送信しという点で共通する。 (5)先願発明の「前記送信側である無線局1」は本願発明の「前記送信機」に相当し、以下同様に、「データパケットの送信終了時点」は「前記受信機への前記データの送信を完了する第1のタイミング」に、「応答パケットACKの受信開始」は「前記受信機からの前記データの受信を開始する第2のタイミング」に、「時間T6」は「トータル時間」に、「測定し」は「計測し」に、「無線局1から無線局2への伝搬遅延T1と、無線局2から無線局1への伝搬遅延T2との和である伝搬時間(T1=T2)を求め」は「前記データが前記受信機との間で往復する往復時間を演算し」に、「前記伝搬時間に光速を乗じることで無線局間の伝搬距離を求める」は「その演算した往復時間に基づいて前記受信機までの通信距離を決定する」に、それぞれ相当する。 また、先願発明の「前記時間T6からSIFSである時間T3を減ずることで」と本願発明の「その計測したトータル時間から前記一定時間を減算して」とは、その計測したトータル時間から前記所定時間を減算してという点で共通する。 したがって、先願発明の「前記送信側である無線局1は、データパケットの送信終了時点から応答パケットACKの受信開始までの時間T6を測定し、前記時間T6からSIFSである時間T3を減ずることで、無線局1から無線局2への伝搬遅延T1と、無線局2から無線局1への伝搬遅延T2との和である伝搬時間(T1=T2)を求め、前記伝搬時間に光速を乗じることで無線局間の伝搬距離を求める」と本願発明の「前記送信機は、前記受信機への前記データの送信を完了する第1のタイミングと前記受信機からの前記データの受信を開始する第2のタイミングとの間のトータル時間を計測し、その計測したトータル時間から前記一定時間を減算して前記データが前記受信機との間で往復する往復時間を演算し、その演算した往復時間に基づいて前記受信機までの通信距離を決定する」とは、前記送信機は、前記受信機への前記データの送信を完了する第1のタイミングと前記受信機からの前記データの受信を開始する第2のタイミングとの間のトータル時間を計測し、その計測したトータル時間から前記所定時間を減算して前記データが前記受信機との間で往復する往復時間を演算し、その演算した往復時間に基づいて前記受信機までの通信距離を決定する点で共通する。 したがって、本願発明と先願発明の両者は、 「無線通信空間に配置される2つの通信端末間の通信距離を測定可能な通信システムであって、 前記無線通信空間を介したデータの送信を完了する送信機と、 前記送信機からのデータを前記無線通信空間を介して受信し、その受信したデータに対する応答のためのデータを前記無線通信空間を介して前記送信機へ送信する受信機とを備え、 前記送信機及び前記受信機は、前記データを送受信し、 前記受信機は、前記送信機からの前記データの受信完了後、所定時間経過後に前記データを前記送信機へ送信し、 前記送信機は、前記受信機への前記データの送信を完了する第1のタイミングと前記受信機からの前記データの受信を開始する第2のタイミングとの間のトータル時間を計測し、その計測したトータル時間から前記所定時間を減算して前記データが前記受信機との間で往復する往復時間を演算し、その演算した往復時間に基づいて前記受信機までの通信距離を決定する、通信システム。」の点で一致し、以下の点で一応相違する。 相違点1 無線通信空間を介したデータの送信を完了する送信機が、本願発明は、無線通信空間の空き期間の始端に同期して送信を完了するのに対して、先願発明は、そのように限定されていない点。 相違点2 送信機及び受信機が、データを送受信することに関し、本願発明は、基準クロックに同期してデータを送受信しているのに対して、先願発明は、そのことが明らかでない点。 相違点3 受信機は、送信機からのデータの受信完了後、所定時間経過後に前記データを前記送信機へ送信することにおける前記所定時間、及びトータル時間から減算する所定時間が、本願発明は、一定時間であるのに対して、先願発明は、SIFSである時間T3の点。 6 当審の判断 上記相違点について検討する。 (1) 相違点1 平成21年3月4日付け当審からのFAXによる審尋に対する平成21年3月13日付けの「送付書」において、請求人は、相違点1に係る本願発明の発明特定事項である「前記無線通信空間の空き期間の始端に同期して前記無線通信空間を介したデータの送信を完了する」点に関して、請求人は、『データの送信を完了すれば、無線通信空間の空き期間が開始される、また「データの送信を完了した時刻」を「無線通信空間の空き期間の始端」に同期させるためには、データの送信を完了すればよく、発明の詳細な説明に記載されているとおり、データを送信する手段を用いることになります。』と説明している。 そこで、先願明細書の記載を検討するに、先願明細書には、図3に示される無線機1と無線機2との通信において、他の無線機との通信がなされている旨の記載がないことから、引用発明も、無線局1が、データパケットの送信を終了した時刻が、本願発明でいう「無線通信空間の空き期間の始端」になるといえる。 また、「データの送信を完了した時刻」を「無線通信空間の空き期間の始端」に同期させるためには、データの送信を完了すればよい、との上記請求人の説明も考慮すると、相違点1に係る本願発明の発明特定事項は、先願発明も有している事項といえる。 したがって、相違点1は、実質的な相違点ではない。 (2) 相違点2 通信において、データの送受信を基準クロックに同期して行うことは技術常識であるから、相違点2は実質的な相違点ではない。 (3) 相違点3 先願明細書には、SIFSである時間T3の値について以下の記載がある。 「【0063】 ・・・T3で示されるSIFSは、IEEE802.11規格では物理層に用いる規格で決まる値とされており、例えばIEEE802.11a規格ではSIFS時間として16μs(マイクロ秒)という値が規定されている。同様にIEEE802.11B規格ではSIFS時間として10μs(マイクロ秒)という値が規定されている。よって、IEEE802.11規格に従って通信する無線LANシステムにおいては、用いられる物理層の規格の違いによりSIFSの値が変わるものの、同一の物理層の規格に従って通信する無線局においてはSIFSの値は固定値である。」 この記載によれば、先願発明における「SIFSである時間T3の値」は固定値であり、本願発明の「一定時間」と相違しない。 したがって、相違点3は、実質的な相違点ではない。 よって、本願発明と先願発明との実質的な相違点はないから、本願発明は先願発明と同一である。 また、先願に係る先願発明を発明した者が本願に係る本願発明の発明者と同一の者ではなく、また、本願の特許出願の時にその出願人と上記先願の特許出願の出願人とが同一の者でもない。 7 まとめ 以上のとおり、本願発明は、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2009-03-31 |
結審通知日 | 2009-04-07 |
審決日 | 2009-04-21 |
出願番号 | 特願2003-306144(P2003-306144) |
審決分類 |
P
1
8・
16-
WZ
(G01S)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 宮川 哲伸 |
特許庁審判長 |
江塚 政弘 |
特許庁審判官 |
山下 雅人 下中 義之 |
発明の名称 | 通信システム |
代理人 | 松山 隆夫 |